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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)5004号 判決 1996年11月25日

原告

中島たま子

ほか三名

被告

日新火災海上保険株式会社

主文

被告は、原告中島たま子に対し、金三三三一万八六九七円及びこれに対する平成六年一二月二二日から支払い済みまで年六分の割合による金員を支払え。

被告は、原告中島康允及び同中島祐美に対し、各金一六六五万九三四八円及びこれらに対する平成六年一二月二二日から支払い済みまで年六分の割合による金員を支払え。

被告は、原告中島すずゑに対し、金二〇〇万円並びにこれに対する平成六年一二月二二日から支払い済みまで年六分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、これを五分し、その四を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

この判決は、第一項ないし第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

1  被告は、原告中島たま子に対し、金四五二四万八八九〇円及びこれに対する平成六年一一月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告中島康允、原告中島祐美に対し、各金二二六二万四四四五円及びこれらに対する平成六年一一月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  被告は、原告中島すずゑに対し、金三三〇万円及びこれに対する平成六年一一月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、パトカーに追跡されて一方通行道路を高速で逆走し、交差点に進入してきた普通乗用自動車と軽四輪貨物自動車とが出会い頭に衝突し、軽四輪貨物自動車の運転手が死亡した事故において、その遺族らが、運転手が被告と締結していた自動車総合保険契約に基づき無保険車傷害保険金を請求した事案である。

一  争いのない事実等(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含み、( )内に認定に供した証拠に摘示する。)

1  事故の発生

(一) 日時 平成六年一〇月三〇日午後一〇時一四分ごろ

(二) 場所 大阪市西区新町一丁目一番一九号先

(三) 加害車両 重富秀春(以下「重富」という。)が所有し、運転する普通乗用自動車(大阪七九す八六二八、以下「重富車」という。)

(四) 被害車両 中島義隆(昭和二七年五月一七日生まれ、以下「義隆」という。)運転の軽四輪自家用貨物車(なにわ四〇ゆ七四一二、以下「義隆車」という。)(甲第五、第六)

(五) 事故態様 重富車は、パトカーに追跡されて一方通行道路を猛スピードで北から南へ逆走し、交差点に差しかかり、南北道路の信号が赤であつたのに、そのまま交差点内に進入し、折から対面信号の青色表示に従つて西から東へ向かつて交差点に入つてきた義隆車と出会い頭に衝突し、義隆は傷害を負い、平成六年一一月三日に死亡した(甲第二、第六、原告中島たま子、弁論の全趣旨)。

2  責任

(一) 重富は、重富車を運転し、一方通行道路を猛スピードで逆走した上、赤信号無視によつて本件事故を起こした過失があるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条、民法七〇九条により、原告らが被つた損害を賠償する義務がある。

(二) 損害保険業等を目的とする株式会社である被告と義隆は、平成六年五月二七日、義隆車を被保険自動車とする左記の内容の保険契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(1) 被保険自動車

用途・車種 自家用貨物車 軽四輪

車台番号 DE五一V―六一二九〇二

(2) 保険契約の内容

保険種類 自動車総合保険

保険期間 平成六年五月二九日午後四時から平成七年五月二九日午後四時まで

担保種目と保険金額

対人賠償 一名 無制限

自損事故 一名 一五〇〇万円

無保険傷害 一名 二億円

対物賠償 一事故 五〇〇万円

搭乗者障害 一名 五〇〇万円

(3) 重富車は自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)のみには入つていたが、その他一切の対人賠償保険等には加入していない無保険自動車であつた。そのため、原告らは自賠責保険金三〇〇〇万円の他には誰からも損害の補てんを受けていないし今後も受ける可能性はない。

本件契約によれば、無保険自動車に起因する事故によつて原告らが被つた損害額が自賠責保険等によつて支払われる額を超える場合に、保険金額を限度としてその超過額について、被告が原告らに対し保険金を支払う義務を負うとしているが、原告らが平成六年一一月二〇付日けをもつて本件契約の無保険車傷害条項に基づく保険金の請求手続きをした。

3  損害てん補

原告中島たま子(以下「原告たま子」という。)、原告中島康允(以下「原告康允」という。)及び同中島祐美(以下「原告祐美」という。)は自賠責保険から合計三〇〇〇万円を受領した。

4  相続

原告たま子は義隆の妻、原告康允及び同祐美は義隆の子である(甲第五、第六、原告たま子)。

二  争点

1  無保険車傷害保険契約により支払われる保険金額

(原告らの主張)

無保険車傷害保険金は、実質的には、被害者の加害者に対する損害賠償金であり、一般の不法行為による損害賠償金と同じ法理、計算によつて算出されるべきである。

(被告の反論)

本件契約によつて支払われる保険金額は、限度額、各損害に対する保険金額、過失相殺の点を除き自賠責保険に準じるものであり、支払われる保険金額に関し保険限度額、保険金額は本件契約により内容金額が定まつている。

2  損害

(一) 義隆の損害

(1) 逸失利益

(原告らの主張) 八六〇九万七七八一円

義隆は、妻である原告たま子及び同康允及び同祐美ら子供二人の四人家族で、本件事故当時、職人を数人使つて寿司屋を営業していた。義隆の平成五年度の売上高は五〇四四万六三一三円で、確定申告の所得額は五二一万四三〇二円であつたが、これは、原告たま子を専従者としての専従者控除二四〇万円及び青色申告特別控除額一〇万円を控除したものであり、これらを控除しない年収七七一万四三〇二円が義隆の実質的な収入であつた。これに基づき義隆の逸失利益を算出すると八六〇九万七七一八円となる。

(算式)7,714,302×(1-0.3)×15.944

(被告の反論)

原告たま子は、義隆の生前は、義隆と共に寿司屋を経営し、給与を受け取り、義隆の死亡後は、自らが経営しているのであるから、専従者控除分を義隆の所得に加算すべきではない。

(2) 葬儀費用 一二〇万〇〇〇〇円

(3) 慰藉料 二五〇〇万〇〇〇〇円

義隆が一家の大黒柱であつたこと、残された子女が若年であること等を考慮すると、慰謝料は二五〇〇万円が相当である。

(二) 原告中島すずゑ(以下「原告すずゑ」という。)の慰謝料 三〇〇万〇〇〇〇円

原告すずゑは、義隆の実母であり、息子に先立たれた精神的痛苦を慰謝するには右金額が相当である。

(三) 弁護士費用

(原告らの主張)

本件は無保険車傷害保険に基づく請求であるが、実質的には損害賠償請求であるから、弁護士費用が認められない理由はない。

(1) 原告たま子、同康允及び同祐美の弁護士費用 八二〇万〇〇〇〇円

(2) 原告すずゑの弁護士費用 三〇万〇〇〇〇円

(被告の反論)

本件は保険契約に基づく請求であるから、弁護士費用は損害として認め られるべきではない。

3  過失相殺

(被告の主張)

本件事故は、義隆が赤信号を無視して交差点に進入したため発生したものであり、原告側七〇パーセント以上の過失割合による過失相殺減額を行うべきである。

(原告らの反論)

義隆には過失はない。被告の主張には何らの裏付けもない。

4  遺族年金の控除

(被告の主張)

原告たま子は遺族厚生年金を平成六年及び平成七年に合計二四六万六三〇〇円支給を受けているからこれを控除すべきである。

(原告らの反論)

原告たま子は、厚生年金ではなく国民年金の遺族基礎年金を平成七年二月一五日から、これまでに二〇五万九六〇〇円受領しているが、これを損害額から控除すべきではない。

(算式)822,100+206,250×6=2,059,600

5  遅延損害金

(原告らの主張)

本件保険金債務は期限の定めがないから、請求の日から遅滞に陥り、遅延損害金が発生する。

(被告の反論)

本件は、保険契約に基づく保険金請求事件であるから、被告が保険金支払いについて必要な調査を終えるのに必要な相当の期間を経過した時に遅滞に陥るものであるところ、本件においては、過失相殺や既払金の調査が未了であつて、右相当期間は経過していない。

遅延損害金の利率が年六分であることは争わない。

第三争点に対する判断

一  無保険車傷害保険契約により支払われる保険金額

前記争いのない事実によれば、義隆と被告とが、本件契約を締結し、重富が、本件事故につき、自賠法三条、民法七〇九条により、原告らが被つた損害を賠償する義務があり、重富車は自賠責保険の他一切の対人賠償保険等には加入していない無保険自動車であつたことが認められるから、被告は、本件契約中の、無保険車傷害条項に基づき、原告らに対し、保険金を支払う義務を負うものといわなければならない。

なお、被告は、本件契約によつて支払われる保険金額は、限度額、各損害に対する保険金額、過失相殺の諸点を除き自賠責保険に準じるものであるとか、支払われる保険金額に関し保険限度額、保険金額は本件契約により内容金額が定まつている旨主張し、証拠(乙第七)を提出するけれども、右証拠は、被告が損害を算出するための目安として設けられた内部資料に過ぎないことがうかがえ、他に被告の主張を認めるに足る証拠はなく、却つて、証拠(乙第六)によれば、本件契約の内容となつている約款中には、保険会社が保険金を支払うべき損害の額は、賠償義務者が被保険者またはその父母、配偶者もしくはその子が被つた損害について法律上負担すべきものと認められる損害賠償責任の額によつて定める旨、右額は保険会社と保険金請求権者との間の協議により、協議が成立しないときには所定の手続または保険会社と保険金請求権者との間における訴訟、裁判上の和解もしくは調停によつて決定する旨、そして、右の手続きによつて決定それた損害の額から自賠責保険等によつて支払われる金額等を差し引く旨定められているのであつて、結局、被告の主張は認めることができない。

二  損害

1  義隆の損害

(一) 逸失利益 七二四三万七三九四円

原告らは、原告たま子を事業専従者とした専従者控除二四〇万円及び青色申告特別控除額一〇万円を控除しない年収七七一万四三〇二円が義隆の実質的な収入である旨主張し、原告たま子は、月に一、二回、繁忙時に、店の手伝いをしていたが、給料の支給はなかつた旨供述するけれども、右供述は採用することができず、他に義隆の年収が原告の主張する七七一万四三〇二円であつたことを認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。

しかし、前記争いのない事実及び証拠(甲第四の一及び二、甲第七、原告たま子、弁論の全趣旨)によれば、義隆は、昭和二七年五月一七日生まれで、本件事故当時四二歳で、妻である原告たま子及び子である原告康允及び同祐美らの四人家族であつたこと、原告たま子は生活費として月額四〇万円を受け取つていたこと、義隆は、本件事故当時、職人を四人使い、自らも職人として稼働し、寿司屋を経営していたこと、自宅と一戸建ての店舗は別であること、義隆の平成五年度の確定申告上の売上高は五〇四四万六三一三円、所得額は五二一万四三〇二円であること、申告は税理士に依頼していたこと等の事実を認めることができ、平成六年度賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計の四〇歳から四四歳の平均年収額が六四九万〇三〇〇円であることは当裁判所に顕著な事実であり、右事実によれば、義隆が平均賃金程度の年収があつたことは認めることができるから、これを算定の基礎にして、生活費として三割を控除し、就労可能年数を就労可能上限年齢の六七歳までの二五年間とし、新ホフマン式計算法により、年五分の割合による中間利息を控除して、右期間の義隆の逸失利益の現価を算出すると、七二四三万七三九四円となる(円未満切り捨て。以下同じ)。

(算式)6,490,300×(1-0.3)×15.9441=72,437,394

(二) 葬儀費用 一二〇万〇〇〇〇円

葬儀費用は右金額をもつて相当と解する。

(三) 慰謝料 二三〇〇万〇〇〇〇円

前記争いのない事実及び証拠(原告たま子)によれば、義隆が寿司屋を経営し、一家の支柱であつたこと、原告たま子は、義隆の手伝いをする時、原告康允及び同祐美らを自宅から自転車で数分の距離に住んでいた自分の両親に預けていたこと等の事実を認めることができ、その他諸般の事情を考慮すると、義隆に対する慰謝料は右額をもつて相当と解する。

2  原告すずゑの慰謝料 二〇〇万〇〇〇〇円

原告すずゑの慰謝料は右額をもつて相当と解する。

三  過失相殺

被告は、義隆には赤信号を無視して交差点に進入した過失がある旨主張するけれども、これを認めるに足りる証拠はなく、却つて、証拠(甲第二、証人重富秀春、原告たま子)によれば、本件事故当時、義隆の対面信号が青色であつたことが認められ、被告の主張は理由がない。

四  前記争いのない事実によれば、原告たま子が二分の一、原告康允及び同祐美が各四分の一ずつ相続し、原告たま子、原告康允及び同祐美は自賠責保険から三〇〇〇〇万円を受領したのであるから、前記二1の義隆の損害額合計九六六三万七三九四円から三〇〇〇万円を控除すると残額は六六六三万七三九四円となり、原告たま子の損害額は、三三三一万八六九七円、原告康允及び同祐美の損害額は各一六六五万九三四八円となる。

五  遺族年金の控除 〇円

被告は、原告たま子が、遺族厚生年金を平成六年及び平成七年に合計二四六万六三〇〇円支給を受けているからこれを控除すべきである旨主張するところ、証拠(乙第三)によれば、原告たま子が、義隆が死亡した翌月である平成六年一二月分から遺族基礎年金の受給を開始したことが認められるけれども、本件において、原告らは、義隆が生存していればその平均余命期間に受給することができた国民年金の現在額を損害として賠償を求めていないから、公平の見地から損益相殺的な調整を図る必要は認められないというべきであり、原告たま子の前記損害額から、遺族基礎年金の受給額を控除しないこととする。

六  弁護士費用 〇円

原告らは、本件につき、実質的には損害賠償請求であつて、弁護士費用も認められるべきである旨主張するけれども、本件は、保険会社である被告に対し、本件契約に基づく保険金の支払を求めるものであるところ、本件契約において、被告が自己に対する訴訟の弁護士費用につき保険給付を予定しているとは解し難いから、原告らの主張は理由がないといわざるを得ない。

七  遅延損害金について

弁論の全趣旨によれば、原告らが平成六年一一月二〇日付けをもつて本件無保険車傷害条項に基づく保険金の支払請求手続きをしたこと、本件契約の約款上、被保険者が死亡した時に、保険金請求権が発生し、これを行使することができ、保険会社は、被保険者が所定の書類を添えて保険金の支払を請求する手続きをした日から三〇日以内に保険金を支払うこととされ、右期間内に必要な調査を終えることができないときは、これを終えた後、遅滞なく保険金を支払うこととされていること等の事実が認められ、原告らの右請求手続による保険金支払請求は被告に到達することにより完了したものと解されるところ、被告は、原告らが右支払請求手続きをした日から三〇日以内に必要な調査を終えることができなかつた旨主張し、証拠(乙第二)によれば、平成七年一〇月四日の時点で重富の刑事事件の捜査が未了である事実は認められるけれども、右事実によつては、被告の右主張の事実を推認するに足りず、他に被告主張の右事実を認めるに足りる証拠はないから、本件保険金支払義務は平成六年一二月二一日に履行期が到来し、その翌日である同月二二日から遅滞に陥つたということができる。

八  以上のとおりであつて、原告たま子の本訴請求は三三三一万八六九七円、同康允及び同祐美の本訴請求は各一六六五万九三四八円、同すずゑの本訴請求は二〇〇万円並びにこれらに対する平成六年一二月二二日から支払い済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を求める限度でそれぞれ理由がある。

(裁判官 石原寿記)

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