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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)7753号 判決

大阪府〈以下省略〉

原告

右訴訟代理人弁護士

国府泰道

右同

佐井孝和

東京都千代田区〈以下省略〉

被告

株式会社大和証券グループ本社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

桃井弘視

主文

一  被告は、原告に対し、金四二二九万三一四六円及びこれに対する平成四年六月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その三を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一億六九三七万二五八五円及びこれに対する平成元年一〇月一七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、知人である訴外B(以下「B」という。)の同級生が被告の幹部であることから有利な取扱いを受けることを期待して、原告の資金を用いてB名義で被告との間で取引をさせたものの、被告には、一任勘定取引の受託に関する違法、過当取引等の一任勘定取引における注意義務違反、一任勘定取引を継続させた違法及び適合性の原則違反があり、原告は、これらの違法行為によって最終的に約一億五三九七万八〇〇〇円の投資をさせられ、その結果、残金五四一五円を差し引いた一億五三九七万二五八五円の損害を被ったとして、その損害金に弁護士費用一五四〇万円を加算した一億六九三七万二五八五円について、被告に対して不法行為(使用者責任)及び債務不履行に基づく損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等

1  当事者

(一) 原告は、昭和一三年○月○日生で、現在は警備員として警備会社に勤務している(甲A七)。

(二) 被告は、大蔵大臣の免許を得て有価証券の売買取引等を業とする証券会社である。

(三) Bは、昭和一〇年○月○日生で、現在は建築塗装職人である(証人B)。

2  取引開始に至る経緯

(一) Bは、昭和六三年ころ、○○市立a中学校の同窓会で、同級生であった訴外C(以下「C」という。)と再会し、Cが被告の副社長の地位にあることを聞いた(証人B)。

(二) Bは、平成元年九月ころ、その当時訴外大和投資顧問株式会社(以下「大和投資顧問」という。)の代表取締役になっていたCを訪問し、自己資金運用のために被告と取引したい旨相談した。

(三) Bは、数日後、被告東京支店を訪れて、同支店の支店長の訴外D(以下「D」という。)及び営業部長の訴外E(以下「E」という。)と面談し、自己資金を運用のため、被告と取引したい旨の申し出を行った。

3  取引経過

(一) 原告は、いずれもB名義で、平成元年一〇月三日に一億円、同月九日に四〇〇〇万円、同月一一日に四〇〇〇万円、そして、同月一七日に三〇〇〇万円の総額二億一〇〇〇万円を被告口座へ振込んだ。

(二) 右取引口座においては、別紙取引一覧表一記載の各銘柄の買付及び売付が、同記載の日付にそれぞれなされた(甲A一、弁論の全趣旨。以下「本件取引」という。)。なお、同表「種別」欄のコードが示す取引種別は、1が現物取引、2が信用取引、6が転換社債、そして、9が現引である。

(三) 被告は、原告に対し、売買報告書及び月次報告書を毎月送付していた。

二  原告の主張

1  違法行為

(一) 一任勘定取引の受託自体の違法

一任勘定取引は顧客の利益を害する危険が大きいのであるから、証券会社としては、株式取引の知識や経験のない顧客が有利な取引ができると誤認してこれを希望してきた場合、必ずしも利益が上がるものではないこと及び通常の証券取引と同様にリスクがあることを説明すべきであり、顧客が右リスクを理解した場合でないと一任勘定取引を受託してはならず、ましてや取引を一任すれば確実に利益が上がるかのような不実の説明をしてはならない。これは、証券取引受託契約上の忠実義務から生じる注意義務又は不法行為における注意義務である。

(1) 原告らは、DやEのような大証券会社の幹部に一任を受けてもらえれば、必ず儲かり、損することなどあり得ないと信じていたところ、一任勘定取引であっても損失が発生するリスクが存する以上、D及びEは、B及びその背後の原告(以下「原告ら」という。)に対し、そのことをはっきりと告げるべきであった。ところが、D及びEは、原告らの誤解を解こうとせず、一任勘定取引の危険性を原告らに説明しなかったのであるから、この点において前記注意義務に違反している。

(2) 一任勘定取引についての不実表示の違法

D及びEは、原告らの誤解をそのままにしておいたのみならず、任せておけば絶対儲かり、決して損することはないとの不実の表示をして、原告に一任勘定取引を申し込ませたのである。そもそも、平成元年当時の証券取引法五〇条一項五号(現在の同条同項六号)と証券会社の健全性の準則等に関する省令(昭和四〇年一一月五日大令六〇)二条一号は、「証券会社又はその役員若しくは使用人は」、「有価証券の売買その他の取引」等に関し、「虚偽の表示をし又は重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為」をしてはならないと定めているところ、D及びEの言動は、前記注意義務に違反している。

(3) 適合しない顧客からの一任勘定取引受託の違法

顧客から売買の一任を受けた者は、顧客が被ることを覚悟している危険の度合いに応じ、顧客の財産状態、家族関係、投資資金の性質などから推測される顧客の利益に最もよくかなうように、この勘定を運用しなければならない。ところが、原告の投資資金は、ビルを売り、喫茶店をたたんで作ったものであり、当時五一歳であった原告とその家族の長い老後の生活を支えなければならない金だったにもかかわらず、D及びEは、その資金の性質等について全く無頓着に、軽率に資金の運用を引き受けたのである。

また、日本証券業協会発行の「投資勧誘に関する法令・諸規則」の一三条一項は、取引一任勘定取引の開始基準の第一に、「当該顧客に証券投資について相当の知識と経験があること。」を挙げている。これは、顧客は証券会社や外務員に取引を一任する場合、顧客は証券会社や外務員の判断の合理性やその結果の善し悪しを自ら判断する能力を持たなければならないから、「証券投資について相当の知識と経験」を有しない者は証券会社等に取引を一任する適合性を欠くというものである。ところが、前記一任勘定取引受託の経緯のとおり、D及びEは、一任勘定取引のリスクを理解しない原告らから一任勘定取引を受託している。

これらの点も、前記注意義務に違反するものである。

(二) 一任勘定取引における違法

仮に、一任勘定取引の受託自体は違法とまでいえないとしても、

(1) 被告は、取引を一任されていることを利用して、過当取引(チャーニング)を行った違法がある。すなわち、信用取引は、わずかの保証金で多額の証券取引を行うものであって、極めて投機的な性質を有するものである。信用取引では買入れ代金の利息を支払わなければならず、いわば借金をして株式投資をするものであって、利息、手数料以上の利益を挙げることが必要であり、また、信用取引は決済時期が六か月又は三か月と定められており短期間に反対売買を行わなければならないことからも、極めて投機性の強い取引である。

そして、本件取引は、過当売買(チャーニング)の要件とされている①証券会社が顧客の口座に対して支配的影響力を有していること(口座支配要件)、②証券会社による口座運用が客の投資目的に照らし過当であること(過当取引要件)、③証券会社が自己の手数料稼ぎなどの悪意を有していたこと(悪意もしくは故意要件)をいずれも充たすものである。

(2) さらに、D及びEは、原告らに対し、本件取引により大きな損失が出る危険が高まった後も、一億円以上の資金が確保されているので心配ない、自分たちに任せておけば損はさせないなどと不実の表示をし、被告が損失補填のような特別の扱いをしてくれるものと誤解させ、一任勘定取引を継続させたのであって、この点でも違法である。

(三) 適合性の原則に違反する違法

原告らの属性、投資経験、投資指向、投資資金の性格に照らすと、本件においてなされた規模と態様の取引は、原告らにとって適合しない取引であることは明らかである。

2  損害の発生及び数額

原告は、被告の右1の違法行為により、次のとおり損害を被った。

(一) 実損害 一億五三九七万二五八五円

原告の最終的な投資資金合計は約一億五三九七万八〇〇〇円であり、被告口座の預金残金五四一五円を差し引いた一億五三九七万二五八五円が、被告の違法行為によって原告が被った損失額である。

(二) 弁護士費用 一五四〇万円

本件訴訟の内容に照らして法律専門家たる弁護士に訴訟委任することが不可欠であり、その額は、実損害額の約一割が相当である。

合計 一億六九三七万二五八五円

よって、原告は、被告に対し、債務不履行及び不法行為(使用者責任)による損害賠償請求として、一億六九三七万二五八五円及びこれに対する原告が被告に対して本件取引の資金を最後に振込んだ日である平成元年一〇月一七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

三  被告の主張

1  違法行為について

(一) 一任勘定取引の主張について

そもそも、一任勘定取引は、自ら証券取引を行う知識や時間的余裕のない人、あるいは時間的余裕はあるが賢明な投資決定を自ら行うだけの充分な知識、経験を持っていない人で、かつ証券取引から生ずる利益にあずかりたいという人が、一定の資金を他人に託し、その者に銘柄、数量及び価格の決定を一任して、そこから生ずる利益を享受しようとする場合に行われる。このように、顧客が自らの口座に一定資金を入金し、その運用を他人に任せるものである以上、計画に基づく運用を可能とするため、他人がその口座を支配し、かつ入金された資金は、一定期間、顧客の判断や都合で出金することができない状況に置かれることになる。したがって、一任勘定取引があったとされるためには、まず、顧客と証券会社との間で一任勘定に関する合意があり、次に、運用資金が口座に預けられ、証券会社がその口座を支配していることが必要となる。

ところが、本件においては、まず、原告と被告との間で一任勘定取引に関する合意はなされていない。次に、原告は、口座を開設して二億円あまりの現金を入金しているものの、その後、入金月から毎月ATMカードで一〇〇万円単位の金の出金を繰り返しており、その出金額は多額に上っている。このように顧客がATMカードを保持し、自己の都合で毎月のように出金している口座では、計画的な資金運用ができる訳がなく、したがって、証券会社によって口座支配がなされているとみることはできない。

さらに、個々の取引について見ても、頻繁になされた平成二年九月末までの取引は、原告らが最終的に決定して行ったものであり、その後の手仕舞い中心の取引は、原告らが金が必要だとして強引に行わせたものである。

なお、原告は、被告と取引する以前の平成元年三月二七日から訴外ナショナル証券株式会社(以下「ナショナル証券」という。)と既に取引を開始し、その口座で仕手株を売買していたこと、本件取引においては、わざわざ上京して東京に居を構えてマンションの名義までBの名義にして、東京支店に口座を開設していること(右行動は、証券会社内で禁止されている遠隔地取引の禁止を潜脱しようと意図してのものと考えられる。)からして証券取引の経験は十分あったといえ、本件取引においても自ら積極的に取引を行ったものである。

(二) 過当取引(チャーニング)の主張について

(1) 口座支配要件について

一任勘定についての前記事情に鑑みれば、口座支配要件についても認められない。

(2) 過当売買要件について

原告の主張する回転率は、アメリカでの証券取引の内容、実態について論ぜられるものであって、我が国とは前提事情が異なる。特に、我が国の信用取引は、頻繁に取引を繰り返すことが前提であり、その担保として入金された資金はあくまで担保であって買付額ではないのであるから、回転率は問題にならない。

2  損害の発生について

原告の本件取引における出金合計は六三四二万円であり、この出金をするため、原告は、特に平成二年一〇月以降の手仕舞期間において、強引な売却処理を行い、大きな損失を出した。これに同年一月末から始まった株価の歴史的大暴落とがあいまって、一億九三七万一八九七円の損失が発生したのであり、この損失が全体の七割を占めるに至っているのである。

四  争点

1  被告による違法行為の存否

(一) 一任勘定取引に関して、(1)受託自体の違法、(2)同取引における違法が認められるか。

(二) 適合性の原則に違反が認められるか。

2  被告の違法行為による損害の発生及びその金額

第三争点に対する判断

一  争点1(一)について

1(一)  本件で問題となっている一任勘定取引については、従来から、大蔵省証券局長通達等により、これを自粛すべきものとされてきており、更に、平成三年法律第九六号による証券取引法改正により、証券会社が一般投資者と一任勘定取引契約を締結することが禁止された(証券取引法五〇条一項三号参照)。このように法が一任勘定取引契約の締結を原則的に禁止した趣旨としては、(1)顧客の自己責任意識の希薄化をもたらし、損失が生じた場合に顧客と証券会社との間で紛争が生じやすいこと、(2)証券会社が売買委託手数料を稼ぐ目的で過度の売買を行うなど、顧客に対する背任的あるいは利益相反的取引が行われる温床となったり、また、相場操縦的な行為が行われて、証券市場における公正な価格形成が阻害される等の弊害を伴うことが考えられる。

右(1)については、「自己責任意識の希薄化の防止」や「紛争の防止」は証券市場の健全化という行政目的に資するものではあるが、個々の顧客の個人的利益の保護とは直接関係がない。法五〇条が一定の例外を認めていることからも推知されるように、一任勘定取引は、投資の素人である顧客が資産運用をその玄人である証券会社に委任するものであるから、一面において合理性を有しており、それ自体が公序に反するということはできない。したがって、顧客が証券投資に伴う危険性を認識し、一任勘定の意味を理解した上で一任勘定取引契約を締結した場合に、直ちに私法上違法となるわけではない。もっとも、右の認識、理解がないままに一任勘定取引を勧められ、それによって損失が生じた場合には、顧客に損害賠償請求が認められることがあり得るが、これは適合性原則違反ないし詐欺的手法による投資勧誘(説明義務違反、断定的判断の提供等)を理由とするものであり、一任勘定取引契約の締結が証券取引法上禁止されていることを直接の理由とするものではない。そして、右(2)の点から観ても、断定的判断の提供の禁止や適合性原則などの公法的又は自主的規制がもともと顧客の保護を目的とするものであって私法上の違法性判断の参考基準となりうるのに対し、一任勘定取引自体については、顧客に対する背任的、利益相反的取引を引き起こす可能性があるために、これを原則禁止して、間接的に顧客の保護をはかっているものであり、しかも、念頭に置かれているのが顧客の保護だけではないことから、同様の参考基準とはなりにくい。したがって、一任勘定取引の実行がそれだけで私法上違法になると解することはできない。

(二)  しかしながら、一任勘定取引又は一任勘定的な取引には、背任的、利益相反的取引が行われる温床となって、投資の合理性を害するおそれがあるという弊害があり、顧客保護の上で潜在的な問題があることは否定できないから、事後承認の押し付け等の形で右弊害が顕在化し、その結果、現実に被害が発生したとみられるような場合は、そのこと故に私法上違法となり、損害賠償請求が認められる余地があるものと解すべきである。

また、証券会社にとっては、株式取引等の売買委託手数料が主要な収入源であるから、顧客がなるべく大量、頻回の取引をするのが望ましく、勢い、強力な投資勧誘が行われ、あるいは相当数の取引が実行されることになりがちである。そして、このような証券会社による頻回の売買が合理性のないものであれば、不必要な行為によって余分な支出をさせた点で違法視され、また、手数料稼ぎを目的として行動すると、ともすると、不合理な売買を敢えて行ってしまい、結果として顧客に過大なリスクを負わせることにもなりかねない。このような過当売買は、顧客からの個々の委託に伴うチェックを受けない一任勘定の下において現実化する可能性が高いことから、このような過当売買については、一任勘定(的)取引と一体のものとして違法性の有無を検討すべきである。

そして、証券会社が顧客の取引口座について支配を及ぼし(なお、一任勘定取引契約が認められれば、当然この要件も充たされる。)、顧客の信頼を濫用して、手数料稼ぎ等の自己の利益を図るために、顧客の資産、経験、知識や当該口座の性格に照らして社会的相当性を逸脱した過当な頻度・数量の取引を行うことは、顧客に対する誠実義務に違反する行為として私法上違法と評価されるというべきである。

以上の視点から、本件取引の違法性を検討する。

2  証拠(甲A二ないし四、七、八、一五の1、一七ないし二〇、二一の15、乙七の2、3、5、一二、証人B、原告本人)によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、昭和一三年○月○日生で、中学校を卒業した後、紙器メーカーに就職して約六年間勤め、二一歳の時に独立して紙器工場を始めた。これを二一年間継続していたが、営業が困難となったため廃業し、しばらくはいくつかの職を転々としていたが、昭和五〇年に喫茶店を開業し、さらに昭和五五年には国道沿いに土地を買ってラーメン店を営んできた。その後、昭和六一年にラーメン店を廃業して店舗建物を取り毀し、その土地に三階建ビルを建築して、居室を賃貸すると共に、ビルの一角で喫茶店を始めた。

(二) 原告は、昭和五〇年に喫茶店の内装工事をしてもらったことがきっかけでBと知り合い、以後、Bが原告の喫茶店に客として来るようになったことから、同人と親しくなった。同人は、かつて建築塗装業を営んでいたが、昭和六三年ころに商売がうまく回らなくなって廃業し、それ以来一職人として働いてきたものであり、株式取引の経験は全くなかった。

(三) 原告は、平成元年九月ころ、右ビル及びその敷地を代金三億五七〇〇万円で売却し、喫茶店も廃業した。そして、原告は、右売却代金からそれまでの借入金の返済資金と譲渡所得税の支払資金を除いた約二億円について、その金利によって五年程生活した後、当時酒屋に見習で勤めていた長男の商売資金にしようと考えていた。その話を聞いたBは、原告に対し、自分の娘婿の叔母にあたる人が株式取引で利益を上げているらしいので右資金を株式取引で運用したらよいのではないかと提案した。これに対し、原告は、株式取引の経験がなかったことから、当初は必ずしも乗り気でなかったが、Bから、同窓会で再会したCに相談して資金を有利に運用してもらえばよいのではないかと提案され、その話に乗ることにした。

(四) 原告は、平成元年三月二七日、前記資金運用の手始めとして、とりあえず、ナショナル証券との間で、訴外福徳相互銀行からの融資金を用いて、自己名義による取引を開始した。そして、同日、Bの娘婿の叔母の情報により、青木建設三〇〇〇株を購入し、同月三一日、さらに同株を二〇〇〇株追加購入して、これらを同年四月二〇日に売却した。さらに、同月六日に新日鐵一万株、同月二一日に富士重工八〇〇〇株を購入して、後者については、平成元年一二月二八日に売却し、前者については、平成二年六月一五日、後に開設した妻名義のナショナル証券の口座で売却した(別紙取引一覧表二)。これらの株式の購入資金は、買付約定が成立したこと及び買付代金額が確定したことを待って、逐次口座に入金された。

(五) 原告らは、平成元年九月中旬か下旬ころ、上京して被告東京支店を訪れ、Cに連絡を取ろうとしたが、Cは、大和投資顧問の代表取締役社長に就任していた。そこで、原告らは、大和投資顧問を訪れ、BのみがCと会って資金運用の相談をした。原告らは、Cに便宜をはかってもらうにはBが自分の資金を運用する形をとった方がよいと考えて、Cには原告のことは一切説明せず、B自身のこととして相談をもちかけることにした。これに対し、Cは、自分の以前の部下で大阪の支店長をしているFという人物がいるので、それに任せたらどうかと述べたが、BがC自身に運用してもらいたい旨申し出ると、どれくらいの資金を運用するのか尋ねた。そこで、Bが二、三億くらいを予定している旨答えると、Cは、自分ところは投資顧問で損保とか大手の投資家を対象にしているので、部下であった被告東京支店のEを紹介するからそちらに任せてはどうかと提案し、被告東京支店には自分から電話をしておくと述べた。

(六) 原告らは、数日後、被告東京支店に出向き、Bが一階の受付でBが来た旨告げたところ、D及びEが出迎えに下りて来て、Cから聞いている旨述べた。その後、Bは二階へ案内され、支店長室において面談し、BがD及びEに対し、株取引のことは分からないので被告に任せたい旨話したところ、D及びEは、Cの友人ということで丁重に扱わせてもらう、任せてもらったら責任をもって資金を運用するなどと述べた。そこで、Bは、原告との打合せどおり、取引をD及びEに依頼することにした。

(七) 原告らは、平成元年九月末ころ、今後の東京での株式取引に備え、東京においてマンションを借りて生活を始めた。

(八) 原告らは、平成元年一〇月に本件取引を開始したところ、最初の一、二回は原告らに事前に購入銘柄について相談がなされたものの、その後はほとんど事前に連絡なくEの一存で株式が購入され、事後的に電話で報告がなされた。

なお、原告らは、売買報告書や月次報告書に記載されている用語について、初めて見るものであったため、その意味をあまり理解できず、例えば、そこに記載のあった「現引」の意味について、Bを通じてEに尋ねたものの、結局、株式の値が下がっている場合にも最初に購入した値のまま証券会社が取扱ってくれるものと誤って理解したほどであった。

(九) 本件取引の特徴としては、まず、特に頻繁に取引がなされた平成元年一〇月から平成二年九月までの年次売買回転率(現引き分を除いた買付金額を毎月末投資残高で除して、一二を乗じたもの)が、一一・九三回であった。また、株式の保有期間の分布についてみると、現物取引では、一〇日以下が四三・六パーセント、一五日以下が五一・三パーセント、三〇日以下が六四・一パーセント、六〇日以下が七六・九パーセント、九〇日以下が八九・七パーセント、一八〇日以下が九二・三パーセント、一年以下が一〇〇パーセントであり、信用取引では、一〇日以下が四二・九パーセント、一五日以下が四七・六パーセント、三〇日以下が五八・七パーセント、六〇日以下が七一・四パーセント、九〇日以下が七六・二パーセント、一八〇日以下が九二・三パーセントというものであった。そして、売買手数料及び信用取引の利息の合計は、四五六三万七二八五円であり、その月末平均投資残高一億〇四三二万七五九六円に占める割合は、四三・七パーセントであった。

(一〇) 原告は、平成元年一〇月に被告との取引を始めた際、不動産売却資金から所得税の納税資金を別に取り分けていたが、納税時期は平成二年三月であったため、それまでの間、納税資金を自ら運用してみようと考えた。そこで、原告は、右資金をもってナショナル証券で取引することにし、口座の名義を自己名義から妻名義に変更した上で、別紙取引一覧表二のとおり取引を継続した。原告は、この取引において、東大阪市在住の妻に指示し、買付、売付ごとに入出金の手続をさせた。

(一一) 原告は、本件取引の当初においては売買報告書や月次報告書の読み方がわからなかったものの、頻繁に送付されてくるのを見慣れてくるうちにその記載の意味が徐々にわかるようになってきた。そして、平成二年四月ころ、株価が暴落したことを新聞等で知り、売買報告書の内容を集計してみると、保有する株式の残高が七、八〇〇〇万円くらいしかなかった。不安になった原告は、Bを通じてDに現状を問い合わせさせたところ、Dの話では、一億円以上の金は確保しているから大丈夫であり、今はあまり良くないがいずれ良くなるので心配しないで任せておいて欲しいとのことであった。そこで、原告は、書類上は資金が減っているように見えても、相手が内々に資金を確保してくれており、見かけ上の金額とは別に一億円以上の金員が確保されていると思って安心していた。そして、原告らは、Dから今はあまり動けないということを聞き、それなら東京に滞在して経費をかけても意味がないと考えて、東京のマンションを引き払って大阪に戻った。原告らは、大阪に戻ってからも、何度かEに電話を入れ、状況を尋ねたり、送金を依頼したりしたが、その際、特に、取引を止めたらどうかといったアドバイスなどはなかった。

(一二) 原告は、平成二年一一月ころ、二一〇〇万円の納税資金が必要だったため、Bを通じてEに送金を依頼したところ、被告は、二一五六万円を送金してきた。さらに、同年一二月にも、国税に約二四〇〇万円納税しなければならなかったため、同様に送金してくれるよう依頼したが、この時はできないと言って断られた。原告らは、Eから、今は株式を動かすことができないという説明を聞いて、とりあえず国税の支払を三か月延期してもらうことにした。原告は、平成三年三月ころ、いよいよ税金を納めなければならなくなったため、Bを通じてEに送金をしてくれるよう依頼したが、この時も、今は動けないと断られた。そこで、原告は、同年七月、その所有していたマンションを売却して納税資金を作らざるを得なかった。

(一三) 原告は、Bを通じ、Eに対して、生活費や銀行の借入金の返済のために毎月八〇万円くらいは必要なので、その資金を口座に残しておいてほしい旨要望していた。本件取引開始当初はこれがほぼ守られていたので、原告は、必要に応じて金員を引き出していたが、平成三年の終わりころからは、口座に資金が残っていないこともあり、Eに何度も催促していた。しかし、資金を動かせないということで、生活費を口座から引き出すこともできなくなった。

(一四) 原告は、Bに対し、平成四年一二月ころ、このままでは年が越せないので、少々損をしても構わないから持っている株を売って金を作ってもらおうと提案した。そこで、Bは、同月三〇日、現状がどうなっているのか、今株式を売るとどれくらいの損になるのかについて詳しく聞いてみようと考え、Eに会うため東京に行った。しかし、Eからは詳しい説明がなされなかったため、Bが、平成五年一月五日、Cに会いに行ったが、Cからは、もうどうしようもないから諦めてくれと言われた。

3  前記争いのない事実等及び右認定事実によれば、原告は、本件取引開始の半年ほど前に、若干ナショナル証券と間で株式取引を行った程度の経験しかなく、また、Bについては、本件取引以前に全く株式取引の経験がなかったこと、本件取引においては、原告が自ら取引するのではなく、敢えて、被告の幹部であったCとつながりのあるBの名義で資金運用を申込んでいること、Bは、D及びEに対して、本件取引を任せたい旨表明し、D及びEは、これに対して悪いようにはしない旨返答していること、原告らは、本件取引のために、大阪からわざわざ上京してマンションまで借りており、D及びEはそのことを認識していたこと、原告は、B名義にて、本件取引口座開設時である平成元年一〇月三日に一億円を振り込み、その後も、同月九日に四〇〇〇万円、同月一一日に四〇〇〇万円、そして、同月一七日に三〇〇〇万円と短期間に総額二億一〇〇〇万円もの多額の金員を、取引開始時及びその直後の時点で、振り込んでいること、原告の口座においては、別紙取引一覧表一のとおり、頻繁かつ多数の取引注文がなされ、かつ、それらが原告らの具体的指示に基づいていないことといった事情が窺われる。

かかる事情を総合すれば、原告らが、特別な人間関係のある被告の幹部を信頼して、被告に多額の資金をまとめて預託し、その資金運用を委ねたものといえ、Bと被告との間に明確に一任勘定取引契約が締結されたものとまでは認められないまでも(この点を認めるに足りる証拠はない。)、少なくとも、結果として、被告が原告の資金を一任勘定的に運用したものということができ、したがって、被告(証券会社)が顧客の取引口座について支配を及ぼしていたものと評価することができる。

さらに、本件においては、年次売買回転率については、一一・九三回、株式保有については、現物取引で四三・六パーセント、信用取引で四二・九パーセントが一〇日以下という非常に頻繁な売買が繰り返されており、また、売買手数料及び信用取引の利息の合計が四五六三万七二八五円という多額であって、月末平均投資残高一億〇四三二万七五九六円に占める割合でみても四三・七パーセントという非常に高い数字を示ししているのであるから、D及びEが過当な売買を行うことによる手数料稼ぎを企図していたことを強く推認させる事情が存する。しかも、原告は、事業を閉鎖して作った資産を被告に委ねていたのであり、また、本件取引開始当初においては、Bは全く証券取引の経験及び知識がなく、原告もナショナル証券での少々の取引経験を有したにすぎないのであって、そして、本件取引口座は、資金運用によって原告らの生活費分及び原告の税金分の金員を捻出するためのものであったのであるから、本件取引においては、顧客及び口座の性質上、頻繁かつ大量に売買を繰返す必要性のみならず許容性もないといえる。したがって、D及びEは、前記のとおり原告らが被告を強く信頼しているのを奇貨として、手数料稼ぎ等の自己の利益を図るために、原告らの資産、経験、知識や当該口座の性格に照らして社会的相当性を逸脱した過当な頻度・数量の取引を行ったものと評価できる。

4  これに対し、被告は次のとおり反論するが、それらはいずれも採用できない。

(一) 被告は、原告が、本件取引以前にナショナル証券と取引して、既に一七〇〇万円強の投資をしていることや、その後、ナショナル証券において仕手株の売買をしていること等からみて、原告は、株式投資の知識、経験がない顧客とはいえないと主張し、この点を口座支配を否定する根拠として挙げる。そして、証人Dは、原告がナショナル証券のみで取引した兼松株、日本レース株、コニカ株、常陽銀行株及びいすゞ自動車株については、仕手株であること、また、右のうち、特に日本レース株を除いたものについては、価額が何倍にも化けて天井をつけた株式であって、価額が下落する危険が高い株式であることから、自分やEが勧めたものではなく、原告自らが選んで取引したものであると証言する。

しかしながら、前記争いのない事実等及び同認定事実によれば、まず、本件取引開始前に行われた原告名義での取引についてみるに、三銘柄の買付及び一銘柄の売付という少量の取引がなされたのみであり、個別的にも、青木建設株については、株に詳しいBの叔母の情報に基づいて売買注文が出されたものであるから、原告の取引経験を示すものではなく、新日鐵及び富士重工業の株については、前者が約一年二か月、後者が約八か月と、その保有期間が長い点で、保有期間が短い被告との取引とその傾向が異なるのであるから、その経験が被告との取引に生かされたものとみることはできない。次に、本件取引と同時並行的に行われた原告の妻名義での取引についてみるに、そもそも、本件取引開始以降に行われたものである以上、本件取引を始めるに当たって原告が有していた経験とはいえない。また、内容的に見ても、平成元年段階のものについては、兼松株を除いて、全て被告との取引で買い付けられた銘柄に追随して買い付けられ、また、東急百貨店株、マルエツ株、三井不動産株については、同様に追随して売却されているのであり、日本通運株及び藤和不動産株については、本件取引で売却されていないのに追随して、売却しないで持ち続け、信用取引の期限到来により、損が発生するのを覚悟して、やむなく売却している。他方、富士写真フィルム株については、本件取引においては損切りで売却されているのに対し、ナショナル証券との取引においては、損切りをおそれて追随していないのである。このような経緯からすれば、原告は、被告の取引傾向に追随しつつ、他方で損切りをおそれるといった素人的態度をとっているものといえる。

また、前記争いのない事実等、証拠(甲A三四、三五の3、三七)及び弁論の全趣旨によれば、被告大阪支店の株式部長が平成元年四月二六日付日本証券新聞上で仕手株とされるいすゞ自動車を推奨していたこと、本件取引においてBが最初にEから推奨を受けた東急百貨株、その後取引された日本重化学株、本州製紙株、サンテレホン株及び日本軽金属株は、いずれも仕手株であること、そして、ナショナル証券で藤和不動産株、コニカ株及び日本レース株が買い付けられた平成二年七月ころ、本件取引においても、前田道路株、日本鋪道株、日本重化学株及び日産建設株が天井またはその直近の時期に買い付けられていることが認められることからすると、被告も仕手株を推奨し、現に本件取引において仕手株や天井をつけた株の取引を行っているものであるから、証人Dの前記証言部分は直ちに信用できない。

なお、ナショナル証券との取引においては、買付、売付ともに、各取引と入出金が個別に対応しており、原告は、わざわざ東大阪市在住の妻に指示して、逐次入出金の手続をとっているのに対し、本件取引においては、東京に住んでいるにもかかわらず、二億円以上の資金をあらかじめ被告東京支店の口座に入金しているのであって、このような入出金の点の差異に着目すれば、ナショナル証券との取引経緯は、かえって、本件取引が一任勘定的な態様であることを窺わせる事情とみられなくもない。

(二) 被告は、原告らがわざわざ上京し、B名義でマンションまで借り上げたのは、被告東京支店と連絡を取り合って、取引の指示を出すためであり、また、右の事実は、原告らが、遠隔地取引ができないこと等の証券取引の手続を熟知していたこと、財産隠し等特別の意図をもっていたことなどを窺わせると主張する。

たしかに、証拠(乙一〇の1、2、一一)によれば、大阪国税局から被告東京支店に対し、原告らの取引状況等について照会があったことは認められるが、このことから直ちに財産隠し等の事実を推認することはできない。そして、自ら指示して取引注文を出すのなら、大阪支店でもできるのであるから、他にわざわざ東京支店で取引する理由が認められない以上、原告らは、やはり、山中の息のかかった被告幹部に取引を一任するつもりで上京したものと考えるのが自然である。なお、仮に、原告らに遠隔地取引の知識があったとしても、Bの娘婿の叔母の存在等を考慮すれば、そのことから、原告らが証券取引全体についての知識が有していたものと推認することはできない。

(三) 被告は、本件取引が逐一原告らの指示によって行われたものであると主張し、その一例として、証人Eは、トムソン株について、「この株は私はなじみがなかったので聞きましたら、必ずこれは大もうけできる株だから買ってくれと、自信満々でおっしゃっておられました。」と証言している。しかしながら、証拠(甲A九の37から40、一四の1ないし4、一六、一七、検甲一、二)によれば、原告らは、平成元年一一月一五日から一七日にかけて、湯沢温泉及び水上温泉へ旅行しており、同月一六日の夜は水上温泉のホテルに宿泊し、翌一七日にはホテルのチェックアウト時刻である午前一〇時ころにホテルを出て、タクシーに約二五分間乗って上越新幹線の上毛高原駅へ行き、上毛高原発一〇時二二分(上野着一一時三二分)、一一時〇二分発(上野着一二時一二分)及び一二時〇二分発(上野着一三時一二分)のいずれかの新幹線に乗ったこと、本件取引において、右同日、八時五四分にトムソン三万株の信用建、九時五二分に同株の信用埋、一〇時二七分に第一コーポ二〇〇〇株の場外売、一二時四一分にセコム五〇〇〇株の信用埋という取引注文が執行されたことが認められるところ、チェックアウトして出発するという時に、Eと電話で話し、信用を立てて一時間後に決済するという慌ただしい注文を出したというのは不自然であり、また、チェックアウト締切時刻前に慌ただしく出発しているとしたら、一〇時二二分の列車に乗ることは可能だが、その場合には、九時五二分のトムソン株及び一〇時二七分の第一コーポ株の注文を出すのは困難であり、チェックアウトを一〇時ころに済ませたとしたら、一一時〇二分発の列車に乗っている可能性があるが、その場合は、タクシーで移動中のため、一〇時二七分に第一コーポ株の注文を出すことは困難であり、また、ホテルで第一コーポ株の注文を出して、その後タクシーで出発したとしたら、一一時〇二分発の列車に乗るのは困難であって、この場合、仮に一二時〇二分発の列車に乗ったとすると、一二時四一分にセコム株は新幹線で移動中の注文となって不自然である。さらに、右セコム株の売却は、二〇五万円余りの損害を出しており、前記のとおり証券取引の素人である原告らが、電話でこのような損切りの注文を出すとは考えがたい。

したがって、この点に関する証人Eの証言は疑わしい。

また、証人Dも、その陳述書(乙二二)において、BがDに直接電話をかけてきて、大阪銘柄である泉州電業株を買うと言ったと述べ、直接の担当者であるEが電話を受けないで支店長であるDが電話を受けた理由について、Eがたまたまいなかったからであると証言し、また、泉州電業の件を覚えている理由については、珍しい銘柄であり、あまり聞きなれないような銘柄であったからであると証言している。

しかし、証拠(甲A九の189、一三の5、三三、証人D)及び弁論の全趣旨によれば、泉州電業株の注文は、Eが電話を受けて注文伝票を記載したものであること、泉州電業は平成三年六月二四日に新規上場した会社で、被告はその筆頭副幹事会社なのであり、しかも、その当時、専門家であれば誰もが注目している銘柄であったこと、被告が新規上場銘柄の幹事会社になった場合には、被告東京支店長にその報告書や回覧書が回ってくるため、Dは、泉州電業について被告が筆頭副幹事会社となったことについて知り得る立場であったことが認められる。したがって、この点に関してみれば、証人Dは、十分な記憶喚起及び推敲が可能である陳述書において事実と異なる記載をしているといえ、また、その証言も疑わしいものといわざるを得ない。

その他、証人Eは、陳述書(乙四)及び証言において、Bが、D及びEに対し、本件取引申込時において、全部株式に投資して零になっても文句を言ったり恨んだりしないと言った旨述べ、また、Bに対して、株の取引をするのに仮名を使ったり、架空の住所を使ったりしてはいけないと説明した旨述べているところ、まず、前者については、前記認定事実によれば、本件取引は原告の資金で行われたものであり、Bはいわば使者に過ぎないのであるから、Bから積極的にそのような言葉を発するとは考え難く、また、原告がBにそのように言うように指示した事情も窺われないし、後者についても、前記認定事実によれば、本件取引申込時点では、Eは、Bが原告の資金で取引するということを知らなかったのであるから、あえて仮名等について言及する必要はなく、これらの供述部分はいずれも不自然というべきである。

右各事情に、前記のとおり本件取引が頻繁・過当であって、原告らが一つ一つの注文を具体的に指示するのは困難であったと考えられること、そして、反対趣旨の証人Bの証言及び原告の供述を加味し、これらを総合的に検討すれば、本件取引注文が逐一Bの指示に基づいてなされたという証人E及び同Dの前記証言部分は到底信用できない。

(四) 被告は、原告がATMカードを保有し、これを用いて毎月多額の出金をしており、出金資金がない時には、被告に株式を売却させて出金しているのであるから、被告が口座を支配していたとはいえないとする。

しかしながら、証拠(甲A五の1、乙一二)及び弁論の全趣旨によれば、被告の保管している原告の資金は、信用取引の委託保証金と預り金とに分かれ、ATMカードで引き出せるのは預り金だけであること、本件取引おいては、別紙入出金一覧表のとおり入出金がなされたことが認められる。かかる認定事実並びに前記争いのない事実等及び同認定事実によれば、原告は、平成元年一〇月三日から同月一七日にかけて、合計二億一〇〇〇万円を本件取引口座に入金し、その後、頻繁に売買がなされた平成二年九月末までは、最も多くて三〇〇万円、通常は一〇〇万円未満を引き出していたに過ぎず、残高は未だ一億九一六四万八〇〇〇円も存したのであり、しかも、一回に引き出された額としては納税のために同年一一月三〇日に出金された二一五六万円が最高であったところ、これは、原告がATMカードで引き出したのではなく、被告が振り込んできたものであった。また、原告は、Eに対し、本件取引開始当初から、生活費や銀行の借入金の返済のために毎月八〇万円くらいは必要なので、その資金を口座に残しておいてほしい旨要望していたのであり、ATMカードによる右用途のための出金は、当然予定されたものであり、被告による投資計画を狂わせるものではなかった。したがって、原告によるATMカードによる出金は、被告の資金運用を拘束し、その口座支配を否定するに足りるものとは評価できない。

(五) なお、被告は、信用取引について、日本では決済期限が六か月と決まっているため取引回数が多くなるのは当然であり、そもそも信用取引では顧客は委託保証金を支出するのみで買付資金は不要なのであるから、買付代金の回転や取引の頻繁性を論ずるのは筋違いであるとする。

しかしながら、信用取引であっても、いわゆるクロス商いにより同一銘柄についての取引期間を延長しうるのであるから、小刻みに売買しないければタイミングを逸して利益につながらないとまではいえず、必然的に取引回数が多くなるものではない。また、信用取引は、基本的には銀行から資金を借りて現物株を買付ける場合と大きく異なるところはないのであるから、現物取引と同様に買付代金を基礎に回転率を計算することをもって的外れということはできない。

5  以上より、本件取引は、被告による口座支配の下、一連のものとして誠実義務違反の違法性を帯びると解すべきであるから、被告の行為は、原告らに対する誠実義務違反の行為として、一体として不法行為(D及びEの使用者としての責任)を構成するというべきである(ただし、本件取引が明確な一任勘定取引契約の結果なされたものとまで認めるに足りる証拠はない。)。

二  争点2について

1  損害及び因果関係

(一) 証拠(甲A一、五の1、乙一二)によれば、本件全取引終了時点において、原告の最終的な投資資金合計約一億五三九七万八〇〇〇円から口座残金五四一五円を差し引いた一億五三九七万二五八五円の損失が発生したと認められ、これが被告の前記違法行為によって原告の被った損害である。

なお、原告は、被告に対して本件取引の資金を最後に振込んだ日である平成元年一〇月一七日以降の遅延損害金を請求していることから、右支払時に損害が発生したものと主張するようであるが、本件取引についての委託契約自体は有効に成立している以上、全取引終了時の差損を損害と捉えるべきであるので、右主張は採用できない。

(二) この点、被告は、平成二年九月末までの損失は約四四六〇万円であり、同年一〇月以降の損失は約一億九三七万円であると区別し、後者の出金は、原告から何としても金を出してくれとの強い指示に基づいてやむなくこれらの処理が行われたものであるとして、この部分については被告の違法行為と因果関係がないと主張するようである。

しかしながら、甲A第二八号証の1及び弁論の全趣旨によれば、頻繁に取引が行われた平成二年九月末までの間に一億六五〇〇万円の含み損が発生し、同年一〇月末の時点でも、回復してはいるものの未だ一億四〇〇〇万円の損失が存していたと認められ、また、前記のとおり本件取引開始時から被告による口座支配の状態が生じており、これが解消されたという事情も認められないのであるから、被告の違法行為によって発生した損害発生の危険性が、因果の流れを辿って本件取引終了時点までに損害として具現化したものと評価できる。したがって、被告の右主張は採用できない。

2  過失相殺

そもそも、投資家が証券取引を行うのは本来自由であり、他方、一般に証券会社が投資家に提供する情報、助言等は、経済情勢や政治状況等の不確定な要素を含む将来の見通しに依拠せざるを得ないのが実情であるから、証券取引を行う以上、投資家は、原則として、自らの責任において、自己の自由な意思決定により、その適否を判断すべきである(自己責任の原則)。

そして、前記争いのない事実等及び同認定事実によれば、被告において、口座支配の下で過当取引を行ったという業務執行段階での強い違法性が認められるものの、口座支配が形成される過程に着目すれば、原告において、被告から何ら勧誘もされていないにもかかわらず、自ら積極的に一任勘定的な資金運用を欲し、Bと共謀して、その同窓生のつてを巧みに利用してBが取引主体であるかのような形式をとり、わざわざ東京にマンションを借りて居住するなどの手段を用いているのであって、一般通常人には考え難いような取引に対する強い意欲が窺われる。また、本件取引がある程度継続した段階では、本件取引の各種報告書からの知識及び同時並行で行っていたナショナル証券の取引による経験から、本件取引で損失が発生していることを認識し得、被告に対する過信及び誤信から抜け出せる機会があったのであるから、いつまでも被告による特別の扱いを期待し、なんらの措置も講じることなく、結果的に損失につながった出金及び出金要求を繰返していたという点においても、原告にも落度があるものといわざるを得ない。

これらの事情を右自己責任の観点からみれば、原告の前記損害の発生について、原告にも相当大きな過失があったものというべきであり、その過失割合は、既に認定判断した事実等に照らせば、およそ七割五分程度であると解するのが相当である。

そこで、右1の損害額のうち、被告が原告に対し賠償すべき額は、右原告の過失割合額を控除した三八四九万三一四六円(円未満切捨)と認めるのが相当である。

3  弁護士費用

弁護士費用については、本件事案の難易、請求額、認容額等を考慮し、三八〇万円を前記違法行為と相当因果関係にある損害と認める。

4  遅延損害金

遅延損害金については、前記のとおり損害が確定したと解すべき本件全取引終了日の翌日である平成四年六月二六日以降についてのみ認められる。

三  結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告に対し不法行為による損害金及び弁護士費用の合計四二二九万三一四六円及びこれに対する損害確定日の翌日である平成四年六月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとする。

(裁判長裁判官 小野洋一 裁判官片山隆夫及び同國分隆文は、いずれも転補につき、署名捺印することができない。裁判長裁判官 小野洋一)

〈以下省略〉

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