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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)7712号 判決 1995年1月31日

原告

八幡元久

ほか一名

本田真也

ほか一名

主文

一  被告らは連帯して、原告八幡元久、同八幡豊子に対し、各一二一五万八八四七円及びこれらに対する平成五年九月二六日から支払済みに至るまで年五分の割台による金員をそれぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  本判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは連帯して、原告八幡元久(以下「原告元久」という。)、同八幡豊子(以下「原告豊子」という。)に対し、各五二五〇万〇三二五円及びこれらに対する平成五年九月二六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

第二事案の概要

本件は、普通乗用自動車の運転者が、速度違反及びハンドル操作の誤りにより、道路右側のガードレールに衝突し、これを飛び越えて川に転落し、同乗者を死亡させた事故に関し、右被害者の遺族らが普通乗用自動車の所有者に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、運転者に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償を求めた事案である。

一  事実(証拠摘示のない事実は争いのない事実である。)

1  事故の発生及び責任原因

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成五年九月二六日午後九時五分ころ

(二) 場所 名古屋市名東区猪高町大字高針字荒田二二番地先路上(以下「本件事故現場」ないし「本件道路」という。)

(三) 事故車 被告本田智哉(以下「被告智哉」という。)が所有し、同本田真也(以下「被告真也」という。)が運転していた普通乗用自動車(所沢五七さ五〇九九、以下「被告車」という。)

(四) 被害者 被告車の右後部座席に同乗していた亡八幡久太郎(以下「久太郎」という。)

(五) 事故態様 被告真也が、速度違反及びハンドル操作の誤りにより、被告車の運転を誤り、道路右側のガードレールに同車を衝突させ、右ガードレールを飛び越えて川に転落し、久太郎を死亡させた。

2  責任原因

(一) 被告真也は、被告車を運転し、速度違反とハンドル操作を誤つた過失があり、民法七〇九条に基づき、本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。

(二) 被告智哉は、被告車の保有者であり、自己のため同車を運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づき、本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。

3  治療費

久太郎は、本件事故により、治療費として一五四万四五七〇円を負担した。

4  相続

久太郎の死亡により、その父母である原告らが、本件事故により久太郎に生じた損害賠償請求権を法定相続分に従い、各二分の一ずつ相続した。

5  損益相殺

原告らは、被告らから治療費として一五四万四五七〇円、任意保険会社から搭乗者保険として五〇〇万円、自賠責保険会社から三〇〇〇万円の支払を受けた。

二  争点

1  好意同乗減額、過失相殺

(被告らの主張)

本件事故は、単なる無償同乗としての好意同乗ではなく、共に食事に行くところであつたのであり、しかも、夜九時過ぎで暗い幅員約三・八メートルの非舗装道路を制限速度を二〇キロメートル超過する時速約六〇キロメートルの速度で走行していたのであり、久太郎は、被告車真也に対し、慎重に運転するよう注意すべきところ、これを怠り、かつ、雑談をして注意力を減退させたのであり、さらに、久太郎はシートベルトをしていなかつたところ、同ベルトをしていれば、死亡の原因となつた肝破裂の受傷をしなかつたことが明らかであり、本件については、過失相殺の法理を類推し、生じた全損害につき、三〇パーセントの減額をすべきである。

(原告らの主張)

久太郎は、被告車に同乗することにより、危険を楽しもうとしたり、速度を上げさせようとしたり、危険なハンドル操作をさせようとした事実は認められず、本件事故は、被告真也の一方的過失により生じたものである。

2  慰謝料額

(被告らの主張)

久太郎と被告真也とは、大学の先輩と後輩の関係であり、グループで行動していた。自賠法では、親族間は通常の慰謝料の二分の一と規定しているが、かかる友人、学友等の身分関係のある者の間の交通事故の慰謝料についても、減額がされるべきであり、本件については、任意保険会社の査定どおり一一五〇万円とするのが相当である。

3  その他損害額全般(当事者の主張の概要は、後記損害の認定の冒頭で述べる。)

第三争点に対する判断

一  好意同乗減額

1  事故態様等

前記(第二、一、1)争いのない事実に証拠(甲一ないし四、五の1、2、六ないし八、一三の1ないし15)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

本件事故現場は、別紙図面のとおり、ほぼ南北に通じる一車線(幅員約三・八メートル)の北に向かいやや西方に弯曲した道路上にある。同道路の車道の東側には、高さ約〇・五メートルのガードレール、幅約三・五メートルの堤防法面、さらに水深約〇・七メートルの植田川があり、車道の西側は雑草が高さ約一メートル以上に茂つている。

被告真也は、本件道路を時速約六〇キロメートルの速度で北進するに当たり、前方を注視するとともに、速度を調節し、ハンドル・ブレーキを的確に操作して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、同乗者との雑談に気を取られ、前方注視不十分のまま、自車が道路右寄りに進行していたのに気付き、ガードレールに衝突するのを避けようと左転把したものの、左に寄り過ぎていたため慌てて右転把したが、自車を道路右側のガードレールに衝突させ、さらに約六メートル下の植田川に転落させ、平成五年一〇月二日、シートベルトはせずに被告車後部座席に同乗中の久太郎を外傷性肝破裂により死亡させた。

2  当裁判所の判断

以上の認定事実によれば、本件事故は、専ら、被告車を運転していた被告真也の前方注視不十分、ハンドル操作の不適切等の過失によるものであり、右過失は、暴走運転等の危険運転によるものではなく、偶発的過失によるものであり、同乗していた久太郎が危険な運転を認識ないし、助長していたことを認めるに足りる証拠はない。また、久太郎がシートベルトをしていなかつたものの、同乗位置は後部座席であり、同ベルトをしていなかつたことが社会通念上特に非難に値するとはいえないばかりでなく、同ベルトをしていれば、肝破裂を免れたとも断じ得ないと解される。したがつて、本件は、いわゆる好意同乗等として、過失相殺の規定を適用ないし類推することは相当ではなく、被告真也と久太郎との人的関係及び無償同乗の経緯は、後記慰謝料算定の一事情として斟酌することとする。

二  損害

1  久太郎に生じた損害

(一) 治療費(主張額一五四万四五七〇円)

右損害が生じたことは当事者間に争いがない。

(二) 付添看護費(主張額八万四〇〇〇円)

原告らは、久太郎の入院直後から死亡までの七日間、父母その他の親族が最低二名付添いしていたので、一日一人当り六〇〇〇円として右額の損害が生じたと主張する。

しかし、右付添が看護のために必要であつたことを認めるに足る証拠はなく、肉親としての情愛に基づき、見舞のため駆けつけた蓋然性が高いと解されるので、右主張は採用できない。

(三) 通院費(主張額三〇万七六一〇円)

証拠(甲一〇)によれば、本件事故による久太郎の見舞のため、父母である原告ら及び久太郎の兄弟が姫路、熊本から駆けつけた際の交通費(新幹線代、寝台車代、高速、駐車料金)として右額を要したことが認められる。

(四) 入院雑費(主張額九一〇〇円)

証拠(甲六)によれば、原告は、平成五年九月二六日から同年一〇月二日までの七日間、名古屋第二赤十字病院に入院していたことが認められ、弁論の全趣旨によれば、右期間中一日当り一三〇〇円と認めるのが相当である。したかつて、入院雑費は右額となる。

(五) 逸失利益(主張額七八一九万九九四〇円)

久太郎(昭和四八年八月二四日生)は、本件事故当時、二〇歳の独身の男性であり、中京大学法学部の二回生であつたところ、平成五年の賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・旧大新大卒・男子労働者の二〇歳から二四歳までの平均貨金が三二二万七一〇〇円であることは当裁判所にとつて顕著な事実である。

久太郎の年齢、地位、家族環境その他を考慮すると、生活費として五〇パーセントを控除するのか相当であり、また、弁論の全趣旨によれば、本件事故から二年余の後、大学を卒業し、以後六七歳まで稼働することが可能であつたと認められる。

したがつて、ホフマン方式(四七年の係数から二年の係数を差し引いた数値)を用いて中間利息を控除し、本件事故当時の現価を求めると、久太郎の逸失利益は、次のとおりとなる。

3227100×(1-0.5)=(23.8322-1.8614)=35450984

なお、原告らは、右久太郎の基礎収入として全年齢平均の賃金センサスを用いるべきと主張するが、同人の終生の収入の平均額が同額となることを認めるに足る証拠はなく、前記ホフマン方式を採用しつつかかる方式をとることは相当ではないので、右主張は採用できない。

(六) 慰謝料(傷害慰謝料二〇万円、死亡慰謝料二〇〇〇万円)

(1) 本件事故の態様(特に、被告真也との人的関係、無償同乗であること等)、久太郎の受傷内容と死亡に至る経過、地位、年齢及び家庭環境、前記(第二、一、5)搭乗者保険金を受領していること等、本件に現れた諸事情を考慮すると、傷害慰謝料は一五万円、死亡慰謝料は一五〇〇万円が相当と認める。

(2) なお、右に関し、被告らは、保険会社の基準によれば、本件における慰謝料は一一五〇万円となるとして、同額をもつて慰謝料とすべきと主張するが、本件のような損害賠償請求訴訟において、保険会社の基準が何らかの法規範性を有し、裁判所を拘束すべきいわれはないから、かかる主張は失当である。

(七) 小計及び相続

以上の損害を合計すると、五二四六万二二六四円となる。前記のとおり、原告らは、父母として久太郎に生じた損害を法定相続分に従い相続したものと認められるから、原告らの相続による取得額は二六二三万一一三二円となる。

2  葬儀費用(主張額一三〇万円)

本件に現れた諸事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用としては、一二〇万円が相当と認める。

弁論の全趣旨によれば、原告らは、法定相続分に応じ、葬儀費用を負担したものと認められるから、各原告の葬儀費用としての損害は、原告両名が各六〇万円となる。

3  損益相殺

原告らは、被告らから治療費として一五四万四五七〇円、自賠責保険会社から三〇〇〇万円の支払を受けた。弁論の全趣旨によれば、右金員は法定相続分に応じ、二分の一ずつ、各原告の損害に充当されたものと認められる。

したがつて、別紙計算書のとおり、前記損害合計から、右額を控除すると、残額は、各原告につき、各一一〇五万八八四七円となる。

なお、右以外に任意保険会社から搭乗者保険として五〇〇万円を受けたことが認められるが、右保険の保険料負担者等も明らかではない本件においては、損益相殺の対象とするのは相当ではないので、前記慰謝料の算定における斟酌事情として考慮することとする。

三  弁護士費用

本件の事案の内容、本件事故後弁護士を依頼するまでの時間的経過、認容額等一切の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、各一一〇万円と認められる。

四  まとめ

以上の次第で、原告らの請求は、別紙計算書のとおり、各一二一五万八八四七円及びこれらに対する本件不法行為の日である平成五年九月二六日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 大沼洋一)

計算書

<省略>

別紙図面

<省略>

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