大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成6年(ワ)3509号 判決 1994年6月28日

甲・乙両事件原告

松浦米子

安達松之助

蒲田隆史

柏原明子

山県ハツ子

笹岡益喜

甲事件原告

山下幸利

蒲田誠子

佐藤根ミチ子

両事件原告訴訟代理人弁護士

辻公雄

秋田仁志

井上元

江野尻正明

岸本寛成

三嶋周治

甲事件原告訴訟代理人弁護士

岩城裕

坂本団

甲・乙両事件被告

大阪市

右代表者市長

西尾正也

右訴訟代理人弁護士

布施裕

主文

一  甲・乙両事件被告は、甲事件原告らの各自に対し、金五〇万円と、うち金三五万円に対する平成五年三月二六日から、うち金一五万円に対する平成六年三月一五日から各支払済みまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。

二  甲・乙両事件被告は、乙事件原告らの各自に対し、金一五万円とこれに対する平成六年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  甲事件原告及び乙事件原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、いずれも被告の負担とする。

五  この判決は、主文第一、二項に限り仮に執行することができる。

但し、甲・乙両事件被告が、甲事件原告らに対し、金二五万円の担保を供するときは主文第一項の、乙事件原告らに対し、金七万五〇〇〇円の担保を供するときは主文第二項の各仮執行宣言を免れることができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(甲事件)

1 甲・乙両事件被告(以下、被告といい、他も同様に省記する。)は、甲事件原告らの各自に対し、金五四万六八〇〇円と、うち金四二万円一二〇〇円に対する平成五年三月二六日から、うち金一二万五六〇〇円に対する平成六年三月一五日から各支払済みまで、それぞれ年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は、被告の負担とする。

3 仮執行宣言。

(乙事件)

1 被告は、乙事件原告らの各自に対し、金一七万円とこれに対する平成六年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

(甲事件)

1 住民訴訟と認諾(その一)

(一) 甲事件原告らは、辻公雄ほか二〇名の弁護士に委任して、地方自治法二四二条の二第一項四号にもとづき、平成三年一月二三日、床田建三(以下、床田という。)ほか三〇名を被告として、別紙請求債権目録記載の金員とこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払うように求め、住民訴訟を提起した(当庁平成三年(行ウ)第六号。以下、住民訴訟Aともいう。)。

右住民訴訟は、公金による市会議員の接待や市職員の私的飲食を違法と指摘して、その填補を求めたものである。

(二) しかるに、床田は、平成四年七月二一日、同人に対する請求中、別紙3の(6)、(9)、(10)、(18)、(23)及び別紙6の(1)ないし(3)、(9)、(10)の各飲食代金合計一一八万九四一六円とこれに対する右遅延損害金の支払請求を認諾し、同年八月三日には、被告に対し、右支払義務の履行として約一二七万を支払った。

(三) また、床田は、平成六年一月一三日、同人に対する請求中、別紙2の旅行費用、別紙3の(7)、(8)、(14)、別紙6の(4)の各飲食代金合計四八万三五一〇円とこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払うように求めた請求部分を認諾した。

2 弁護士費用の請求

(一) 右認諾とその一部履行にともなって、甲事件原告らが弁護士に支払うべき報酬は、日本弁護士連合会報酬等基準規定の標準額の三〇パーセント増しである五四万六八〇〇円とするのが相当である。

なぜなら、住民訴訟Aは、事案が複雑で、市の公金支出手続の仕組みや各担当者の権限関係を理解するだけでも困難のみならず、被告からの情報開示がまったく得られなかったことからして、事実の調査、分析が著しく困難であり、訴訟の準備・遂行には、膨大な時間と労力を費やさざるをえなかったからである。

(二) 甲事件原告らは、平成五年三月二五日に到達した書面をもって、被告に対し、右報酬中四二万一二〇〇円を支払うように求めたが、その支払いをしない。

3 まとめ

よって、甲事件原告らは、被告に対し、地方自治法二四二条の二第七項にもとづいて右報酬金五四万六八〇〇円と、うち四二万一二〇〇円に対する当初の請求の日の翌日から、うち一二万五六〇〇円に対する請求の趣旨変更申立書の到達日の翌日である平成六年三月一五日から各支払済みまで、それぞれ年五分の割合による遅延損害金を、甲事件原告らの各自に対して支払うように求める。

(乙事件)

1 住民訴訟と認諾(その二)

(一) 乙事件原告らは、辻公雄ほか六〇名の弁護士に委任し、地方自治法二四二条の二第一項四号にもとづいて、平成二年五月、床田ほか二二名を被告に、違法に支出された公金の填補を求める住民訴訟を提起した(当庁平成二年(行ウ)第三五号の一。以下、住民訴訟Bともいう。)。

そのうち、床田に対する請求は、市職員から接待を受けたときの飲食代一〇万円と市会議員同士で私的に飲食した代金三三万五九四〇円の合計四三万五九四〇円とそれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払うように求めたものである。

(二) しかるに、床田は、平成六年一月一三日、同人に対する右請求を認諾した。

2 弁護士報酬の相当額

右認諾とその履行にともなって、乙事件原告らが弁護士に支払うべき報酬は、日本弁護士連合会報酬等基準規定の標準額の三〇パーセント増しである一七万円とするのが相当である。

三〇パーセント増しとする理由は、住民訴訟Aに関して述べた理由と同様である。

3 まとめ

よって、乙事件原告らは、被告に対し、地方自治法二四二条の二第七項にもとづいて右報酬金一七万円とこれに対する訴状送達の日の翌日である平成六年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を、乙事件原告らの各自に対して支払うように求める。

二  請求原因に対する認否

(甲事件の請求原因に対する認否)

1 請求原因1は、住民訴訟Aの請求内容について触れている部分を除き、その余の事実は認める。

被告は、住民訴訟Aの請求につきその詳細な内容は知らない。また、住民訴訟Aの原告は、甲事件原告らのほかに橋口哲児と中辻節子がいた。

2 請求原因2は、(一)について否認ないし争い、(二)は認める。

3 請求原因3は争う。

(一) 地方自治法二四二条の二第七項の「勝訴」には「認諾」は含まれないと解される。弁護士費用は、本来、委任者と受任者間の委任契約によって発生するものであり、右条項によりこれを公金から支出することは例外的な取扱いであるところ、認諾は裁判所の判断を経ていない点で、同条項上の勝訴とはいえない(仮に、実質上勝訴の場合を含むというような解釈をとると、取下げで終了した場合でも同条項による報酬金請求がなされることになり適当でない。)。

(二) 仮に、右(一)の主張が認められないとしても、右認諾によって住民訴訟Aの全部が終了したのではなく、訴訟の一部が終了したにすぎないので、この部分のみを切り離して報酬額を算定することはできない。報酬等基準規定はそのような場合を念頭において作成されたものではないし、他に報酬額を定める合理的な方法もない。

(三) 仮に、右(二)の主張が認められないとしても、報酬算定の基礎となる経済的利益は請求債権額の一一八万円余(遅延損害金を含まない)であるし、時間や労力を云々する点も、床田に対して住民訴訟を提起し、遂行することに関してどのように困難であったのかを個別的に検討し、その増額事由の有無を検討していくべきところ、本件における甲事件原告らの主張はその検討を欠いている点で認められない。

(乙事件の請求原因に対する認否)

1 請求原因1は認める。

2 請求原因2、3は否認ないし争う。その趣旨は、甲事件請求原因に対する認否の中で主張しているところと同様である。

第三  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  地方自治法二四二条の二第七項の「勝訴」と認諾

前記当事者間に争いのない事実関係からすると、原告らの床田に対する訴訟が地方自治法二四二条一項四号の規定による訴訟であることは明らかであるというべきところ、被告は、床田がした認諾は、地方自治法二四二条の二第七項にいう「勝訴」にあたらないと主張し、原告らの本件請求を争っているので、以下、この点につき判断する。

たしかに、同条項の規定によると、弁護士に支払うべき報酬の範囲内で相当と認める額の支払いを請求することができるのは、同法二四二条一項四号により訴訟を提起した者が訴訟に勝訴もしくは一部勝訴した場合である。そして、右勝訴した場合とは、請求認容の判決が確定した場合のほか、被告が請求を認諾したことによって訴訟手続が終了した場合も含まれると解するのが相当である。被告が指摘するとおり、裁判所の公権的判断を示したものではないが、認諾がなされたことで、被告は、勝訴判決を得たのと同等の利益を受けることになる以上、相当な額の費用を支払うべきである。

被告は、かかる解釈を採ると取下げで終了した場合でも報酬金請求がなされることになり適当でないと指摘するが、民事訴訟法二〇三条の規定上からも明らかなように、取下げの場合には確定判決と同一の効力を生ずる余地はなく、かかる場合には報酬金請求が認容されることもないので、被告の右主張も理由がない。

二  住民訴訟における代理人の選任

1  甲事件の請求原因1(但し、住民訴訟Aにおける請求内容の詳細を除く。)、2(一)及び乙事件の請求原因1はいずれも当事者間に争いがない。甲事件原告らは、住民訴訟Aを提起、遂行するにつき、また、乙事件原告らは、住民訴訟Bを提起、遂行するにつき、いずれも弁護士にその委任をしていることが明らかである。

2  また、弁論の全趣旨によると、原告らが弁護士に住民訴訟を委任するについては、各報酬に関し、原告らが勝訴したときは、地方自治法二四二条の二第七項によって被告に弁護士報酬額を求め、被告から得ることができたその額をもって右の各報酬額とする旨合意していることが認められる。他に右認定に反する証拠はない。

そうすると、各原告らは、住民訴訟A、Bの提起、遂行を弁護士に委任するにあたり、同条項に定める「相当と認められる額」をもってその報酬とすることを約したというべきである。

三  訴訟の一部終了と本件請求の可否

被告は、訴訟の一部が終了したにすぎない本件の場合には、本件部分のみを切り離して弁護士に対する報酬額を算定することはできないから、本件請求もまた理由がないと主張している。

たしかに、右報酬額を算定するにあたって、弁護士が行った訴訟準備、訴訟遂行活動等を個別に観念することが困難であることは、被告が主張するとおりであるが、しかし、訴訟の全体的な構造、訴訟活動の具体的状況及び勝訴の内容などを総合的に判断し、本件部分のみを切り離して報酬額を決定することはまったく不能とはいえないし、また、そのことが認められないとする根拠もない。むしろ、個別的に切り離してその報酬額を定めることは、本件の原告らと弁護士間の報酬に関する定めに合致するものと解するのが相当である。

被告の主張は採ることができず、他に右認定に反する証拠はない。

四  相当と認められる額の算定

1  甲事件の請求原因1(但し、住民訴訟Aにおける請求内容の詳細は除く。)及び乙事件の請求原因1の各事実は、当事者間に争いがない。右の各認諾によって、被告に経済的利益が帰属したことは明らかであり、それは、原告らの住民訴訟の各提訴とその訴訟遂行の結果であると認められる。

2  証拠(甲第一ないし五八号証、第六一ないし八二号証)及び弁論の全趣旨によると、原告らが各住民訴訟を提起するについて被告からの協力が得られなかったこと、そのため、原告ら及びその委任を受けた弁護士らは、提訴期間が定められている中で刑事記録等の検討などを行うなどして資料蒐集に努めざるをえず、結果として、片岡勝三の検察官に対する供述調書中に床田の不正飲食の事実が述べられていることを発見し、これを住民訴訟の中で書証として提出するなどしているのであるが、いずれにせよ、住民訴訟を提起し、訴訟遂行を行うについて、その資料を蒐集、検討するにつき相当の困難が伴っていたことは十分に推認できるところである。

3  そして、かかる事実のほか、前記の当事者間に争いのない事実(特に、本件がいずれも認諾で終了し、一部の履行を終えていることとその時期、金額など)、その他、前記の各証拠によって認められる諸般の事情を総合、検討したうえ、当裁判所に明らかな大阪弁護士会報酬規定、日本弁護士連合会報酬等基準規定を参照して、原告らが、被告に対して請求できる相当額を、甲事件原告らにおいて総額五〇万円(甲事件の請求原因1(二)の分として三五万円、同1(三)の分として一五万円)、乙事件原告らにおいて総額一五万円と認めるのが相当であって、原告ら、各自、同金額を請求することができるというべきである。

4  なお、甲事件の請求原因2(一)の事実は当事者間に争いがなく、同3の請求の趣旨変更申立書の到達日の翌日が平成六年三月一五日であり、乙事件の訴状送達の日の翌日が同年四月一四日であることは、本件記録上、明らかである。

五  結論

以上によると、甲事件原告らの請求は、各自、五〇万円と、うち三五万円に対する平成五年三月二六日から、うち一五万円に対する平成六年三月一五日から各支払済みまでそれぞれ年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、また、乙事件原告らの請求は、各自、一五万円とこれに対する平成六年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるからその限度で認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項、三項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官上原裕之)

別紙<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例