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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)2255号 判決

原告

衛藤貴弘

被告

瀬戸山一夫

ほか一名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、連帯して、原告に対し、金五四七万九八八五円及び右に対する平成四年六月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、自動二輪車と普通乗用自動車の事故で、普通乗用自動車がUターンしようとしたところ、直進してきた自動二輪車と衝突し、自動二輪車を運転していた原告が傷害を受けたとして、普通乗用自動車の運転者と所有者を相手として損害賠償請求した事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

(1) 発生日時 平成四年六月二九日午前二時二五分頃

(2) 発生場所 大阪市生野区舎利寺二丁目一五番二三号先路上(大阪環状線)

(3) 関係車両 原告運転の自動二輪車(なにわや一七五八、以下「原告車」という。)

被告瀬戸山一夫(以下「被告瀬戸山」という。)運転の普通乗用自動車(なにわ五五う一五三五、以下「被告車」という。)

2  被告大生交通株式会社(以下「被告会社」という。)の地位

被告会社は、被告車の所有者であり、被告瀬戸山の使用者である。

3  損害の填補

原告は自動車損害賠償責任保険金から後遺症分として四六一万円、損害金として一一三万八三八〇円、及び被告らから治療費として一六万四二五〇円のそれぞれ支払いを受け、その既払金の合計額は五九一万二六三〇円である。

二  争点

1  過失、過失割合

(1) 原告の主張

本件事故は、原告が原告車を運転して本件道路を南から北に進行したところ、同路上を北から南に進行した被告車が転回(Uターン)して原告車線に進入したため、原告はこれを避けられず衝突したものである。

当時、本件道路は、原告車の進行方向に停車車両があり、道路幅からすれば、一回で速やかにUターンできる場所ではなく、原告の進路を塞いでしまうことになり、Uターンするには危険なところである。被告瀬戸山は、Uターン開始のとき原告車の確認をしていないか、確認したとしても、原告車より先にUターンできると軽信した過失がある。原告車のスピードが制限速度である時速六〇キロメートルより一〇キロメートル越えているとしても、この程度のスピードでは類型的危険性は認められないので過失割合の加算要素とはならない。原告が時速一五〇キロメートルで進行したことはない。

(2) 被告らの主張

本件事故は、被告瀬戸山が原告車を見て充分にUターンできると思い被告車の転回を開始したところ、原告が法定速度を上廻る速度で進行して来たため発生したものである。原告車の速度について、原告後方追従者は、時速一五〇キロメートルは出ていたと述べており、原告車がかなりの高速度であつたことは前記距離関係、被告車後部の楔型の深い凹型損傷からして裏付けられ、原告の過失割合は三割を下回るものでない。

2  原告の損害、特に歯牙欠損、外貌醜状について

(1) 原告の主張

原告の後遺障害として自賠責の認定は、一一級一〇号(一〇歯以上に対し歯科補綴を加えたもの)、一二級一三号(男子の外貌に著しい醜状を残すもの)に該当し併合一〇級であつた。原告は、歯を一一本喪失したもので、義歯を入れたが固いものを噛めず、食べ物を食いちぎることができなく、発音が不明瞭になり、奥歯に力が入らないため重いものが持てないので従前の職場で働けなくなつた。また、下唇に醜い裂傷が残つたため営業の職に就きにくいし、異性に自信が持てず結婚にも不安があり、下顎、唇にしびれ感がある等の後遺障害がある。ところが、裁判の実務では、男の醜状障害や歯牙障害については、労働能力の喪失による逸失利益を認めない傾向にあるので、右障害の部分は後遺障害慰謝料として考慮され、自賠責の一〇級の後遺障害慰謝料である四六一万円を上回つた金額として認定されるべきである。

(2) 被告の主張

原告の歯科補綴、外貌醜状はいずれも逸失利益の対象にならないことは判例上明らかであり、逸失利益が発生しない後遺障害であることを理由に慰謝料に於いて増額するという判例はなく、原告の主張は理由がない。

第三  争点に対する判断

一  事実の概要

証拠(甲一、二の一ないし三二、三、四の一ないし九、五の一ないし一六、六ないし一一、検甲一の一ないし四、乙一の一ないし四〇、三の一、二、四、五の一ないし八、原告、被告各本人)によれば、以下の事実が認められる。

本件事故現場道路(以下「本件道路」という。)は、別紙交通事故現場見取図(以下「現場見取図」という。)のとおりであり、北から南の方向に向かう道路(南向道路)と南から北に向かう道路(北向道路)があり、路面はアスフアルトで乾燥しており、夜間は照明があり明るく、見通しは、原告被告の各進行方いずれからも良い。速度規制は、最高速度規制が時速六〇キロメートルであり、駐車禁止地帯である。

被告瀬戸山は、タクシーの運転手であり、被告車を運転して南向道路を時速約五〇キロメートルで進行し、被告会社に入庫するために右にUターンしようとして現場見取図〈1〉で減速し、〈2〉でUターンするため停車して対向車線をみたところ、北向道路を進行する原告車を被告車の約七一メートル南に見つけたが、Uターン可能だと考えて時速約一〇キロメートルの速度でそのまま転回したところ、北向道路を時速七〇キロメートルで進行してきた原告車の前部が被告車の後部に衝突し、原告車は〈エ〉地点で転倒し、被告車は更に北向道路の歩道寄り車線に停車していた訴外山本成政こと金成捷の車に衝突した。原告車の速度について、被告は、時速一五〇キロメートルの高速度であつたと主張するが、右主張は、「原告と一緒に走つていた四、五人の仲間もそう言つていた」という被告瀬戸山の供述に基づくものであるが、右被告瀬戸山の供述を裏付ける証拠もなく、また被告車の凹型の損傷の程度から右高速度を認定出来るものでもなく、原告車の速度は前記認定のとおりである。

また、被告瀬戸山は、公判廷で「原告車を最初に見たところは、警察の実況見聞の被疑者供述調書では七一・四メートルとなつているが、これは事実とは違い更に一〇〇メートル南の方向に加えた地点が正しい距離である。」と供述しているが、被告瀬戸山の供述のとおりであるとすると、原告車は前記認定のとおり時速七〇キロメートル進行していたのであるから、時速七〇キロメートルで原告車が一四一・四メートルを進行するのに要する時間は約八・八秒となるので、被告瀬戸山が原告車を見てから転回するのに時間がかかり過ぎであり、被告瀬戸山の供述は信用できない。

仮に、被告瀬戸山が被告車の転回に右の時間を要したとすると、転回に時間がかかり過ぎることになり、被告瀬戸山の転回方法の不適切を窺わせることとなる。

二  過失、過失割合

以上の認定によれば、被告瀬戸山は、本件道路をUターンするについて、北向道路を進行する原告車を認めているのであるから、同車の動向に充分注意しなければならないにもかかわらず、Uターンできるものと軽信して安全を確認しないまま進行した過失があり、他方、原告も、制限速度を越える速度で進行して、前方にUターンする被告車の動向を注意することを怠つた過失がある。

右原告と被告の過失割合は、原告が二割、被告が八割である。

三  損害額(各費目の括弧内は原告の主張額である。)

1  原告は本件事故で転倒したことにより、上下顎歯槽骨骨折、下顎骨骨折、下口唇裂傷、口腔内挫創、頭部挫創、右肩甲骨打撲、頸椎捻挫、左母指挫傷等の傷害を受け、事故日である平成四年六月二九日アエバ外科病院に入院したが同日大阪警察病院に転送され、同病院歯・口腔外科に同年七月二一日まで入院し、そののち同病院同科に平成五年四月二三日まで通院し(実通院日数一七日)、更に、平成五年二月二三日から同年三月六日まで同病院同科に顎を固定したプレートを取り外すために入院した。また、原告は同病院神経外科、形成外科、成形外科にも各通院(実通院日数九日)し、平成五年四月二三日に症状固定したものであるが、右症状固定後も同病院歯・口腔外科に入れ歯が潰れたりしたので通院していた。原告の後遺障害については、自動車保険料率算定会によれば、歯牙損傷については後遺障害別等級表一一級四号(一〇歯以上に対し歯科補綴を加えたもの)に該当し、顔面醜状については同表一二級一三号(男子の外貌に著しい醜状を残すもの)該当し、併合して一〇級であると認定されている。

2  損害各項目

(1) 治療費(四四万九八八〇円) 四二万四一九〇円

アエバ外科治療費は二四万九三四〇円、大阪警察病院の治療費は一六万四二五〇円であり、右以外に原告が支払つた治療費のうち症状固定日までの治療費は一万六〇〇円であり、右治療費を合計すると四二万四一九〇円となる

(2) 入院雑費(四万五五〇〇円) 四万五五〇〇円

原告は大阪警察病院に三五日間入院したものであるが、右期間に必要な入院雑費は一日一三〇〇円が相当であり、入通雑費として四万五五〇〇円が認められる。

(3) 交通費(五五二〇円) 五五二〇円

原告が通院するのに要した交通費は五五二〇円である。

(4) 医師への謝礼(四万円) 四万円

本件傷害による治療についての医師への謝礼として四万円は社会通念上相当であり、右金額を損害として認定する。

(5) 休業損害(一六三万五七〇九円) 六三万二三一三円

原告は、事故前はハルナ鋼材(以下「ハルナ」という。)に勤務し、事故前三か月間の給与は五八万一三〇三円(甲五の一)であり、右金額を九一日で除すると一日当たりの収入金額は約六三八七円となり、ハルナの特別給与は年二回であるが本件事故により特に減額されたこともなく(甲九)、原告は本件事故により、平成四年六月二九日から同年九月二一日までハルナを欠勤し、更に二回目の入院時の平成五年二月二三日から原告がハルナを退職した四月二〇日まで出勤していない(甲三、原告本人)。原告の本件事故による休業損害としては、平成四年六月二九日から同年九月二一日までと、平成五年二月二一日から退院する同年三月六日までの合計九九日を本件事故を原因とする休業期間とし、前記認定した一日当たり六三八七円に右九九日を乗ずると六三万二三一三円となる。右金額が休業損害である。

(6) 傷害慰謝料(一一〇万円) 九〇万円

本件事故による損傷の程度、治療期間、治療内容から傷害慰謝料は九〇万円を相当と認める。

(7) 後遺障害慰謝料(七〇〇万円) 四六一万円

後遺障害慰謝料は四六一万円が相当である。

原告は、歯牙補綴、外貌醜状の後遺障害について逸失利益を主張しないのであるから、後遺障害慰謝料の金額を増額すべき旨主張するが、逸失利益の算定が困難または不可能な場合に慰謝料で斟酌した事例はあるものの、本件の場合には特に慰謝料を増額する事由はない。

(8) 物損(六五万三五〇〇円) 三三万三三三三円

本件事故により損壊した原告車は、初年度登録が昭和六二年五月であり、原告は平成四年一月三〇日に購入し(甲七)、購入代金はセントラルフアイナンスのローンを組みローン代金は五五万三五〇〇円であるが、右金額にはローン手数料の他自賠責保険料、税金、登録諸経費が含まれており(甲七、原告本人)原告車の価格そのものではなく、原告車の価格は三〇万円であると認められる(乙四)。

その他に原告は、バイクシートカバー、ヘルメツト、ジーンズ、シヤツ及び靴の損害として一〇万円を請求するが、右物品の購入はいずれも平成四年二月に購入したものであり、事故当時は価値が減額しており購入価格の三分の一程度であると推定され、右の損害は三万三三三三円である。

よつて、物損額は三三万三三三三円である。

3  小計

以上損害合計額は六九九万〇八五六円である。

四  過失相殺

右損害額を前記認定した過失割合により二割の過失相殺をすると原告の損害額は五五九万二六八四円となる。

五  損害填補

原告が損害の填補として五九一万二六三〇円の支払いを受けていることは争いがなく、右金額を前記認定した損害額から控除すると残余はなく、原告の請求は理由がない。

第三  よつて、原告の本訴請求を棄却し、訴訟費用は原告の負担とし、主文のとおり判決する。

(裁判官 島川勝)

交通事故現場見取図

〈省略〉

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