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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)11996号 判決

原告

総評全国一般労働組合大阪地方連合会

右代表者執行委員長

竹内勝

原告

総評全国一般労働組合大阪地方連合会誠光社労働組合

右代表者執行委員長

水迫隆宏

原告

水迫隆宏

(ほか一六名)

右原告ら訴訟代理人弁護士

丸山哲男

井上英昭

被告

徳中三春

被告

徳中陽子

被告

徳中卓司

右被告三名訴訟代理人弁護士

曽我乙彦

中澤洋央兒

安元義博

被告

穴井正義

(ほか六名)

右被告七名訴訟代理人弁護士

金坂喜好

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、連帯して、原告総評全国一般労働組合大阪地方連合会に対し、四八九万三一〇〇円、原告総評全国一般労働組合大阪地方連合会誠光社労働組合に対し、九三七万五九九〇円、原告水迫隆宏、原告長島健治、原告大黒英治、原告高沢周二、原告前田富久、原告大河政夫、原告行田誠、原告豊岡大資、原告牛込勝憲、原告荒牧達矢、原告田渕健康、原告三浦浩、原告新井英守、原告松本和巳、原告河野勝、原告屋鋪雅彦及び原告富永裕治に対し、各三〇〇万円並びにこれらに対する被告久保芳信、被告諸喜田修、被告嶋澤順三及び被告穴井正義については平成六年一二月一八日から、被告近藤幸男及び被告秋山泰一については同月一九日から、被告徳中三春、被告徳中陽子及び被告徳中卓司については同月二〇日から、被告高崎建二については同月二一日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告らが、被告徳中三春(以下「被告三春」という。)が代表者を務める株式会社誠光社(以下「会社」又は「誠光社」という。)は事業継続が可能であり、何ら破産原因がなかったにもかかわらず、被告らが、共謀して、原告総評全国一般労働組合大阪地方連合会誠光社労働組合(以下「原告組合」という。)を壊滅させるため、誠光社の自己破産の申立を行い、破産宣告を得て原告組合員らを解雇したこと等が、不法行為を構成するとして、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償請求をした事案である。

一  当事者間に争いのない事実

1  当事者等

(一) 原告組合は、誠光社の従業員により、昭和五八年七月一〇日に結成された労働組合であり、原告総評全国一般労働組合大阪地方連合会(以下「原告地連」という。)に加盟している。原告水迫隆宏(以下「原告水迫」という。)、原告長島健治、原告大黒英治(以下「原告大黒」という。)、原告高沢周二、原告前田富久、原告大河政夫(以下「原告大河」という。)、原告行田誠、原告豊岡大資、原告牛込勝憲、原告荒牧達矢、原告田渕健康、原告三浦浩、原告新井英守、原告松本和巳、原告河野勝、原告屋鋪雅彦及び原告富永裕治(以下「原告富永」という。)(以下、これら個人の原告を「組合員原告ら」という。)は、いずれも誠光社の従業員であった者で、原告組合の組合員であり、原告水迫は原告組合の代表者執行委員長である。

(二) 誠光社は、昭和四九年八月二〇日に設立された写真製版業を目的とする株式会社であり、被告三春はその代表取締役、被告徳中陽子(以下「被告陽子」という。)はその監査役、被告徳中卓司(以下「被告卓司」という。)はその取締役であった。

被告穴井正義(以下「被告穴井」という。)、被告近藤幸男(以下「被告近藤」という。)、被告久保芳信(以下「被告久保」という。)、被告秋山泰一(以下「被告秋山」という。)、被告諸喜田修(以下「被告諸喜田」という。)及び被告高崎建二(以下「被告高崎」という。)は、いずれも誠光社の従業員であるが、被告近藤は平成四年九月二六日から平成六年四月二五日まで、被告穴井は右同日(平成六年四月二五日)から、いずれも同社の取締役の地位にあった。

なお、被告嶋澤順三(以下「被告嶋澤」という。)は誠光社の従業員ではないが、同社とどのような関係にあったのかについては、争いがある。

2  本件破産申立

誠光社は、平成六年五月二五日、大阪地裁に自己破産の申立をし(以下「本件破産申立」という。)、同年八月四日、同裁判所より破産宣告を受けた(以下「本件破産宣告」という。)。同社の破産管財人に就任した松葉知幸弁護士(以下「松葉管財人」という。)は、同月八日、組合員原告らに対し、解雇通知を行った。

二  原告らの主張

1  被告らによる原告組合の弱体化工作及び本件破産申立に至る経緯

(一) 平成三年夏頃まで(事情)

(1) 昭和五八年七月一〇日、原告組合が結成されると、同月一九日、原告組合と会社との間で団体交渉が開催され、同日労使間の基本的ルールに関する議事録確認書が作成された。右確認書には、「組合員の賃金、労働条件の変更をはじめ、配転、解雇などについては組合と事前協議し、双方納得のうえで行う。」旨の条項(以下「事前協議約款」という。)がある。さらに、同年八月一八日に開催された団体交渉では、原告組合結成時の要求内容のほとんどが解決するに至った。

(2) しかしながら、被告三春ら誠光社の役員は、その後、原告組合を壊滅させようと企て、昭和五八年九月、島村弘三(以下「島村」という。)を労務担当者として採用し、原告組合対策に当たらせるとともに、昭和五九年二月三日には株式会社エースカラー(以下「エースカラー」という。)を設立して誠光社のレタッチ部門の一部を同社に外注させた。エースカラーは、被告らの原告組合弱体化工作に伴う紛争が発生しても、レタッチ業務などに支障が出ないようにするために設立された会社である。また、被告三春ら誠光社の役員は、昭和六〇年一二月、管理職を中心に非組合員のみの親睦会「翔の会」を結成するとともに、原告組合員に対し賃金差別を行うなどして、原告組合員を分断、孤立化させようとした。

(3) 被告三春ら誠光社の役員は、昭和六二年一一月一〇日、島村に代わり、大沢高明(以下「大沢」という。)を労務担当者として採用し、原告組合対策に当たらせるとともに、平成元年一月一三日、株式会社南州プロセス(以下「南州プロセス」という。)を密かに設立した。南州プロセスは、エースカラーと同様、原告組合弱体化工作に伴う紛争が発生しても業務上の障害を最低限にとどめるために設立された会社である。また、同年二月、被告三春ら会社役員と当時工務課長であった被告穴井らは、非組合員中心の職場体制の確立と就業規則の罰則条項の整備強化を図るため、被告穴井を従業員代表にして就業規則を改訂しようとしたが、原告組合によりこれを阻止された。

(二) 平成三年夏頃以降(不法行為を構成する事実)

(1) 被告三春ら誠光社の役員は、平成三年八月頃、もと関西日本電気労働組合の委員長であり、中小労働組合友愛会議の常任顧問である被告嶋澤を労務対策顧問として迎え入れ、同被告に毎月二〇万円の労務対策顧問料を支払うようになり、同被告の紹介により、同年一〇月二一日付けで、被告嶋澤の後輩であり、もと関西日本電気労働組合の書記長であった被告近藤を同社の労務部長として、同年一一月一日付けで、高槻電気(ママ)労働組合の委員長であった被告久保を第二組合要員として、それぞれ採用した。

そして、被告らは、その後、毎年八月に大津市内の旅館等において、原告組合弱体化工作を目的とした研修会を開催したのを始め、平成四年二月一四日、被告近藤に就業規則、賃金規定の改悪を行わせ、さらに、平成五年二月一二日に新入社員と社長との食事会、同年四月九日に部課長を中心にした非組合員のみの花見会を開催し、被告久保を第二組合作りのために活動しやすい部門に配置転換するなどしたうえで、同月一一日、被告久保を委員長、被告秋山及び被告諸喜田を副委員長、被告高崎を書記長とする第二組合「誠光ユニオン」を結成した。

なお、被告諸喜田は、誠光ユニオンが結成される前、寿印刷の元労働組合委員長であった岩崎某氏に対し、「被告三春が原告組合をつぶすために第二組合を作る。その委員長は第二組合を作るために入社した被告久保がやる。」旨の話をしており、誠光ユニオンが原告組合弱体化のために結成されることを知っていた。被告秋山、被告高崎も同様であった。

(2) 被告らは、誠光ユニオンの結成後、誠光ユニオンの組合員を増やして多数派を形成することにより、労使一体となって原告組合の切り崩しを図ろうと画策するとともに、原告組合と交渉中であった春闘について誠光ユニオンと妥結し、これを理由に原告組合の要求を押さえ込もうとしたり、誠光ユニオンを脱退して原告組合に加入した原告富永に対する配置転換通告、原告組合の執行委員であった原告大河に対する降格・配置換え及び仕事の取り上げ等の組合攻撃を行った。

また、平成六年二月二二日、被告三春は「非常事態宣言」(同月二一日付け)を発表し、一方的に賃上げ・一時金を凍結する方針を打ち出す一方で、主任制度と主任手当を新設し、誠光ユニオンの幹部を主任に昇格させ、原告組合員に対する締め付けを強化した。しかし、これによっても原告組合から脱退者が出ることはなかった。

また、被告三春らは、同年三月一八日付けで、原告大河を一方的に配転しようとしたが、原告組合は、同年四月七日、これを不当労働行為として大阪府地方労働委員会(以下「大阪地労委」という。)に対し救済申立を行った。なお、右救済申立については、平成七年八月四日、原告組合の主張が認められ、原告大河の配転をなかったものとして取り扱うよう命ずる等の救済命令が出された。

(3) 原告組合は、平成六年三月二五日以降、会社との団体交渉において、南州プロセスと被告三春らとの関係、被告嶋澤と会社との関係等を追及した。また、右のような会社と被告嶋澤や被告久保の動きに対して嫌気がさした誠光ユニオンの組合員の退社が相次ぎ、誠光ユニオンの組合員による過半数維持が不可能となった。これに対し、被告三春らは、同年四月二五日被告近藤を労務担当取締役からはずし、被告穴井を取締役に就任させるとともに、同年五月七日、大津市内において、被告三春、被告嶋澤、被告近藤及び会社の坂口一美営業部長(以下「坂口営業部長」という。)が四者会談を開き、会社を破産させることによって原告組合を壊滅させることを申し合わせ、同月九日及び同月一〇日、被告三春が重要取引先である株式会社コロナクリエイト(以下「コロナクリエイト」という。)に赴いて自ら今後の取引を断ったうえで、同月二五日、会社は、債務超過の状態に至っていないにもかかわらず、本件破産申立を行い、同年六月一五日付け内容証明郵便により、破産申立を理由とする解雇通知を全従業員に対し送付した。会社と原告組合との間には、前記事前協議約款があったが、被告三春らは、本件破産申立に先立ち、原告組合と全く協議しなかったばかりか、本件破産申立後、原告組合が再三団体交渉を申し入れてもこれを無視し、企業再開のための努力を一切することもなく、事業継続を完全に不可能ならしめ、その結果、裁判所も本件破産宣告をせざるを得なくなった。

(4) 原告組合は、平成六年七月一四日、大阪地労委に対し、本件破産申立及び右解雇が不当労働行為であるとして、救済申立を行った。右救済申立について、大阪地労委は、平成七年二月二三日、本件破産申立が不当労働行為であると認め、右解雇をなかったものとして取り扱うとともに、バックペイ及びポストノーティスを命ずる旨の救済命令を発した。

2  被告らの不法行為

(一) 被告らは、平成三年夏頃から、共謀のうえ、原告組合の切り崩し、弱体化工作を繰り返し、いまだ企業の存続維持が十分可能であるにもかかわらず、専ら原告組合の壊滅を図るため、積極的に企業を閉鎖しようと行動し、自ら主要取引先に赴いて取引を断ったうえで、破産原因もないのに本件破産申立に及び、その後も誠光社の営業を完全に停止させて事業継続を不可能にさせて強引に誠光社の破産状態を招来させ、もって裁判所の破産手続を通じて原告組合員の全員解雇、原告組合の解体を実現し、その結果原告地連の弱体化をも図ったのであって、これら、平成三年夏頃以降の被告らの一連の原告組合に対する攻撃は、不当労働行為を構成するばかりでなく、憲法及び労組法によって保障された団結権や生存権を違法に侵害するもので、不法行為に該当する。

なお、経営者に企業廃止の自由があるとしても、全く無制約なものではなく、憲法によって保障された労働者の団結権との関係で一定の制約に服するのは当然であり、本件のように、未だ企業の維持存続が可能であるにもかかわらず、労働組合の壊滅を図るために企業を廃止することは、企業廃止の名の下に経済的弱者である労働者の労働基本権を一方的に抑圧するもので、権利の濫用として許されず、また、公序良俗に反し、違法というべきである。

(二) 本件破産申立が、経済的に行き詰まった結果やむを得ず行われたものではなく、原告組合を壊滅させるための最後の手段として行われたものであることは、次の事実から明らかである。

(1) 破産裁判所が竹山明宏公認会計士に命じて行わせた鑑定結果(以下「竹山鑑定」という。)によれば、平成六年五月二五日現在の貸借対照表における会社の資産合計は三億四七五八万〇六一四円であるのに対し、負債合計は三億一八〇五万五四二六円であって、純資産は二九五二万五一八八円存在し、右鑑定も、「継続企業を前提とした企業会計処理基準により作成した財務諸表では、申立会社(誠光社)は平成六年五月二五日現在、いまだ債務超過の状態に至っていない。」と結論付けている。また、会社の経常収支についても、右鑑定は、「経常収支で見る限りは、経常損益が大幅な赤字を出している平成六年五月二五日の進行期においても、経常収入超過の状態にあり、資金的に見れば、それほど逼迫した状態にあるとは判断できない。」と述べている。このように、本件破産申立時には、会社は、支払不能状態にも債務超過状態にもなかったことが明らかである。

(2) 会社は、平成三年八月以降、売上が減少していたにもかかわらず、多額の人件費、交際接待費、雑費を支出している。人件費については、労務対策要員である被告嶋澤、被告近藤及び被告久保に支払う費用だけでも年間二〇〇〇万円以上に上っている。また、交際接待費については、平成三年七月期に七九九万円であったものが、売上が大幅に減少した平成五年七月期に一二四六万円を支出し、平成六年度は、本件破産申立に至るまでの一〇ヶ月の間に八二七万円を支出している。雑費については、平成五年七月期に一〇九一万も支出している。これらの交際接待費及び雑費は、大部分が原告組合対策のために使用された疑いが強い。

(3) 被告三春及び被告陽子は、平成五年七月期にも一九二〇万円もの役員報酬を受け取っていたばかりでなく、本件破産申立の前月まで、毎月一三〇万円もの役員報酬を受け取っていた。また、被告三春の自宅の火災保険料を、本件破産申立の前月まで会社に負担させていた。真に自己破産を余儀なくされた会社が、このような出費を続けるとは、到底考えられない。

(三) 各被告らの責任

(1) 被告三春、被告陽子、被告卓司

右被告らは、会社の中心的経営者として、原告組合結成以来、一貫して原告組合弱体化工作を企画、実行してきた者であり、本件破産申立の最終決定をした。

(2) 被告穴井

被告穴井は、原告組合の結成以来、被告三春と一体となって原告組合弱体化工作に加担してきた者である。特に、平成二年頃の組合対策用の就業規則改悪に関し従業員代表に立候補するなど、大沢の下で積極的に組合対策に協力し、平成三年夏頃以降は、他の被告らと一体となって組合対策に当たり、誠光社の団体交渉委員にもなり、最後には被告近藤に代わり取締役に就任し、本件破産申立を決定した取締役会議においても、破産申立に賛成した。

(3) 被告嶋澤

被告嶋澤は、平成三年八月、誠光社の労務対策顧問に就任し、誠光社から月二〇万円もの顧問料を取得するとともに、誠光ユニオンの結成、運営を指導するなどして、原告組合弱体化工作を指揮してきた。そして、平成六年五月七日、被告三春、被告近藤及び坂口営業部長とともに、大津市内で四者会談を開き、本件破産申立を決定するに至った。

(4) 被告近藤、被告久保

右被告らは、被告嶋澤の手引きで誠光社に労務対策要員として採用され、同被告の指揮、指導の下に、第二組合である誠光ユニオンの結成を始めとする様々な原告組合の弱体化工作を実行してきた。被告近藤は、本件破産申立を決定した大津市内における四者会談に参加しており、被告久保は、会社経営陣が原告組合を壊滅させるために本件破産申立をすることを了解していた。

(5) 被告秋山、被告諸喜田、被告高崎

右被告らは、非組合員であったが、被告嶋澤の指導の下、原告組合員を排除する体制づくりに協力し、第二組合である誠光ユニオンが結成されるとその三役に就任するなど、原告組合弱体化工作に積極的に加担してきた者であり、本件破産申立にも賛意を表明し、破産裁判所の調査期日において積極的に早期の破産宣告の決定を要求した。

3  損害

(一) 原告地連

(1) 原告地連は、本件破産申立により原告組合の正常な活動が不可能になったことで、原告組合が原告地連に納入すべき組合費を今後少なくとも一〇年間は失うこととなった。その合計額は二四二万七六〇〇円である。

(2) 原告地連は、本件破産申立により、次のとおり合計一四六万五五〇〇円の闘争資金の負担を余儀なくされた。

〈1〉 泊まり込み動員費用 三六万八〇〇〇円

〈2〉 日帰り動員費用 九〇〇〇円

〈3〉 地労委、地裁動員費用 三八(ママ)五〇〇円

〈4〉 税理士の調査費用 五〇〇〇円

〈5〉 弁護士費用 一〇〇万円

(3) 原告地連は、本件破産申立により原告組合の活動が不可能になったことにより、原告地連自身の団結活動も侵害され、その社会的評価を低下させられた。これによる無形の損害は一〇〇万円を下らない。

(二) 原告組合

(1) 原告組合は、平成六年五月二五日現在、組合員から、毎月合計五万四一〇〇円(年二回のボーナス時は別途徴収)の組合費を徴収していたが、本件破産申立により、正常な組合活動が不可能になり、今後少なくとも一〇年間は、各組合員からの組合費の徴収が不可能になった。これにより原告組合が被った損害は、七五七万四〇〇〇円である。

(計算式 五四一〇〇(円)×一四(ヶ月)×一〇(年))

(2) 原告組合は、本件破産申立により正常な組合活動が不可能になったことで、その社会的評価を著しく低下させられた。これによる無形の損害は一〇〇万円を下らない。

(3) 原告組合は、本件破産申立により、次のとおり合計八〇万一九九〇円の闘争資金の負担を余儀なくされた。

〈1〉 泊まり込み動員費用 一六万五九〇〇円

〈2〉 日曜、第一及び第三土曜日の日帰り動員費用 一万三五〇〇円

〈3〉 地労委参加費用 一万一五二〇円

〈4〉 地労委に対する申立書、書証、審問調書のコピー代 三万一三七〇円

〈5〉 破産裁判所への意見書、上申書等のコピー代 六七〇〇円

〈7〉(ママ) ビラ作成費用 七万三〇〇〇円

〈8〉(ママ) 弁護士費用 五〇万円

(三) 組合員原告ら

(1) 組合員原告らは、本件破産申立により、再就職に至るまでの期間(再就職先が未定の者は平成六年一一月分まで。)収入を得られなかった。その各原告の内訳は、別紙(一)〈略〉「再就職までの未収入金一覧表」記載のとおりである。

(2) 誠光社は、従業員に対する年金制度(住友生命保険相互会社と締結している適格退職年金制度に関する企業年金保険契約による。)を定めていたが、本件破産申立により、組合員原告らは、定年時に支払われるはずであった定年時一時金の支給を受けられなくなり、平成六年八月九日時点の一時金の支給しか受けられなかった。その結果、組合員原告らは、再就職後に再び同様の適格年金制度の下で定年まで稼働したと仮定しても、別紙(二)〈略〉「適格年金損害一覧表」の差額欄(〈4〉)記載の各損害を免れない(なお、組合員原告らの再就職先における適格年金一時金の額の計算式は、別紙(三)〈略〉のとおり。)。

(3) 組合員原告らは、本件破産申立により、破産管財人に解雇され、かつ原告地連及び原告組合を通じた団結活動を不可能にされたほか、再就職まで雇用保険での生活を余儀なくされ、再就職後も一からやり直さなければならないなどの著しい精神的苦痛を被った。その慰謝料は、二〇〇万円を下らない。

(4) 組合員原告らは、右(1)ないし(3)の損害の合計額のうち、その内金として、各組合員原告につき三〇〇万円を請求する。

三  被告らの主張

(全被告)

1 訴え変更の不許

原告らは、訴状において、本件破産申立のみを不法行為を構成する事実として掲げていたにもかかわらず、訴え提起(平成六年一一月二二日)から三年近くが経過した平成九年七月二五日になって、平成三年夏頃以降本件破産申立に至るまでの被告らの一連の原告組合弱体化工作を不法行為とする旨訴えを追加的に変更したものであり、右訴えの変更は、(旧)民訴法二三二条二項にいう「著しく訴訟手続を遅延せしむべき場合」に該当するから、許されない。また、仮にこれが攻撃防御方法の追加であるとしても、時期に遅れた攻撃防御方法として、却下されるべきである。

2 消滅時効

仮に、原告らによる訴えの変更が許されるとしても、本件破産申立以前の被告らの不法行為については、右訴えの変更時において、既に三年が経過しているから、消滅時効を援用する。

(被告三春、被告陽子、被告卓司)

1 誠光社における労使関係の推移及び本件破産申立に至る経緯

(一) 原告組合は、昭和五八年七月一〇日の結成当初から対立的労使関係を基本路線とすることを公言し、同月一九日には、被告三春を会社の応接室に軟禁して原告組合の差し出す労使協定書に強制的に署名させたのを始め、春の賃上げ、夏季一時金、年末一時金の各季節には、団体交渉において原告組合の要求が通らなければ争議行為を行い、一方で、労使協調と共存共栄のために誠光社が申し入れた労使協議会の定期開催については、これをかたくなに拒否し続けた。

(二) 会社は、このような原告組合の諸要求に対処するため、昭和五八年九月中旬、島村を労務担当非常勤顧問として採用して団体交渉に対応してきたが、その後、就業規則その他の諸規定を整備するため、昭和六一年一一月一日、大沢を労務担当非常勤顧問に採用した。

一方、原告組合の要求については、会社は、これらをほとんど要求通り妥結させられてきた。

(三) 原告組合は、昭和六三年頃から会社との対決姿勢を強め、原告組合の要求を同社が呑むまで全面的な残業拒否を行うようになり、また、非組合員に対し、加入強制、カンパの強要を行うようになった。

そして、右のような強硬姿勢は、平成二年に入り一層激しさを増し、原告組合は、要求が通るまで何日も連続して残業拒否や怠業等の実力行使を続けるようになった。一方、順調に伸びていた会社の業績は、平成三年頃からは下降線をたどるようになり、特に平成五年頃からは折からのバブル崩壊による不況も重なって業績が悪化するようになったが、原告組合の残業拒否や怠業等の実力行使は常態化しており、そのため非組合員の作業負担が増大するとともに、作業を外注に依存する割合が高くなるざるを得ず、このことが誠光社の生産性を阻害する大きな原因となった。このような状況は、本件破産申立時まで継続し、誠光社の経営を圧迫し続けることとなった。

(四) 平成六年二月二二日、会社は、全従業員を食堂に集め、業績悪化による非常事態宣言を行い、同年度の賃上げの見送り、賞与の不支給について協力を求めるとともに、コスト削減等の改善策に会社も全力を尽くすことを宣言したが、原告組合は、何ら協力を示さず、なおも抗議ビラの配布や残業非協力という闘争を続けた。また、このような原告組合に対しなすすべのない会社に絶望して退職する非組合員も続出し、会社業務に重大な支障が生じた。

(五) 以上のような経緯で、会社の売上は年々悪化し、平成五年七月の決算期(第一八期)には、約一三五〇万円の赤字を計上したが、平成六年七月の決算期(第一九期)においても、同年四月時点での予想売上高によれば、赤字計上が必至の状況にあった。

加えて、そのころには、銀行からの借入れは既に融資限度を超えており、国民金融公庫等の公的融資も含めもはや新たな運転資金の調達は不可能であり、社会保険料等の滞納も五ヶ月分に及んでおり、会社の負債総額は約二億三〇〇〇万円に達していたが、返済の目処は立たない状況であった。

(六) 平成六年五月九日、被告三春は、以前より製品の瑕疵についてクレームを受けていた重要取引先であるコロナクリエイトに赴き、右クレームについて弁明したが、この際、同社から詰め寄られ、会社の実情を話したうえで、「仕事を正常にこなしていく自信がない。」旨告白した。そして、翌五月一〇日にも同社に呼び出され、仕事の継続が難しい旨述べたところ、同社は、その判断により、発注した仕事を全部引き上げる旨決定した。さらに、その二日後の同月一二日頃から、会社の得意先を始めとする近畿一円の印刷関連業界及び金融業界において、誠光社倒産の噂が広がり、注文のキャンセルが相次ぎ、事業の経営が到底不可能な状況に立ち至った。

その結果、会社は、同月二五日、やむなく本件破産申立を行った。

2 破産原因の存在

破産法一二七条一項にいう「その財産を以て債務を完済すること能はざる場合」とは、企業継続を前提とした企業会計処理基準によって作成された財務諸表上の債務超過をいうのではなく、企業の正味資産を示す非常貸借対照表上の債務超過をいうものであるところ、本件鑑定結果において、「平成六年五月二五日現在で作成した非常貸借対照表によれば、差引正味資本はマイナス一億〇二一〇万九二五六円となり、債務超過状態にあります。」とされているのであるから、誠光社は、本件破産申立当時破産法上の債務超過状態にあったことは明らかである。

そして、破産原因が存在する場合に自己破産の申立を行うことは、権利であると同時に、取締役ないしは監査役である被告三春、被告陽子及び被告卓司にとっては義務でもあり、本件破産申立が不法行為を構成することはあり得ない。

3 原告らの主張に対する反論

(一) エースカラーの設立は、原告組合の残業拒否闘争等により、生産性が低下するとともに非組合員に過大な負担がかかるため、業務の円滑化のためにやむを得ず行ったものである。南州プロセスの設立も同様である。

「翔の会」の結成には、被告三春は何ら関与しておらず、昭和六一年三月中旬頃、原告組合三役と原告地連から、「社長は何も知らないかもしれないが、翔の会ができている。これを解消して欲しい。」旨依頼され、その後被告三春が同会の構成員を説得し、同年六月末、同会を解散させた。

(二) 平成元年一月に、会社が従業員に対し申入れた就業規則の改訂は、創業当時のままの諸規定を整備するためのものであったが、原告組合は残業拒否、ビラ配布等による抗議を繰り返し、同年二月二五日、従業員代表を選出するために会社が全社員を召集した際にも、原告組合員が被告三春に詰め寄るなどして騒然となったが、被告三春の説得で全従業員による投票を行い、原告組合委員長であった原告大黒が従業員代表に選出された。

(三) 被告嶋澤は、誠光社の経営コンサルタントとして経営全般にわたる指導を行っていたものであり、労務対策顧問ではない。また、大津市内の旅館等で研修会が行われたことがあるが、それは通常の管理者研修である。

誠光ユニオンは、非組合員従業員のうち、かねてより原告組合による法外な要求と執拗な残業拒否、怠業等の行動に疑問を持ち、会社経営に理解を示していた従業員らが危機感を募らせ、一七名の従業員で結成された労働組合である。

(被告穴井、被告近藤、被告嶋澤、被告久保、被告秋山、被告諸喜田、被告高崎―以下「被告穴井ら」という。)

1 本件破産申立は、経営者である被告三春が、その経営判断により行ったもので、破産裁判所が慎重な審理の結果破産原因があると判断し、破産宣告を行ったのであるから、本件破産申立に何ら違法な点はない。

2 また、仮に本件破産申立が何らかの意味で違法になるとしても、被告穴井らのうち、被告嶋澤を除くその余の被告らは、いずれも会社の従業員に過ぎず(被告近藤及び被告穴井は形式上取締役でもあったが、実質上は従業員であった。)、本件破産申立につき、その決定に関与し得る立場にはなかった。被告穴井が本件破産申立を決定した取締役会議事録に署名捺印したのは、被告三春が本件破産申立をすることを決定した後に、同被告から、破産申立の添付資料として形式上必要であるとして求められて行ったに過ぎない。また、被告嶋澤も、経営コンサルタントとしてアドバイスしていただけであって、やはり本件破産申立の決定に関与し得る立場にはなかった。したがって、被告穴井らがその責任を問題とされる理由はない。

3 原告ら主張の事実関係に対する反論は、次のとおりである。

(一) 誠光ユニオンは、対立的労使関係を基本路線とすることを公言し、会社の経営環境が厳しい状況にあることも顧ず法外な要求と時間外労働拒否の闘争を繰り返していた原告組合の活動方針に疑問を抱いた従業員が、健全な労使関係を築き、生活の安定を図ろうとして結成した労働組合であり、原告組合と異なり、平成六年二月の非常事態宣言以降は、会社の存続を願う立場から、賃上げ要求も控え、残業には積極的に協力するなど、会社再建への協力を惜しみなく行ってきたのであり、会社の倒産を画策するなどということはあり得ないことである。被告久保、被告秋山、被告諸喜田及び被告高崎は、誠光ユニオンの役員として一般的な組合活動を行っていたに過ぎず、被告諸喜田が、岩崎某氏に対し、原告主張のような発言をした事実は一切ない。また、右被告らは、平成六年五月二六日に、被告三春が従業員全員に対し本件破産申立について説明した際、初めて本件破産申立の事実を知った。

(二) 平成三年八月頃以降毎年八月に大津市内の旅館で原告組合弱体化を目的とした研修会が開催されたことはなく、通常の管理職の研修会又は総合的品質管理に関する研修会が行われたことがあるだけである。また、平成六年五月七日に大津市内の旅館において、被告三春、被告嶋澤、被告近藤及び坂口営業部長が参加して会合がもたれたが、そこでは被告三春が資金繰りが苦しい状況等について説明しただけで、自己破産申立が話題に出た事実はない。

(三) 被告久保、被告秋山らは、会社が自己破産申立をしたまま放置されるのでは、身分が不安定になるため、結論を早く出して欲しい旨裁判所に要望しただけであり、積極的に破産宣告の決定を求めたものではない。

四  被告らの訴え変更不許の主張及び消滅時効の主張に対する原告らの反論

原告らは、当初から、平成三年夏頃以降の被告らの原告組合弱体化工作の一連の行為を不法行為であると主張していたのであって、平成九年七月二五日に訴えを変更したものではない。したがって、消滅時効の主張も失当である。

五  主たる争点

1  本件破産申立が不法行為に該当するか否か。

2  平成九年七月二五日の本件口頭弁論期日において、原告が訴えの変更をしたか否か。

第三争点に対する当裁判所の判断

一  認定される事実

当事者間に争いのない事実、証拠(〈証拠略〉、被告徳中三春本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

1  本件破産申立に至る経緯

(一) 誠光社は、昭和四九年八月二〇日に設立された写真製版等を業とする株式会社であり、被告三春がその発行済み株式をすべて保有していた。

(二) 誠光社には、当初労働組合が存在しなかったが、昭和五八年七月一〇日、当時の従業員三五名中一六名により、原告組合が結成され、その執行委員長には原告水迫が就任した。

原告組合は、同月一九日、朝礼の後、上部団体役員一名と共に、会社代表者である被告三春に対し、労働組合結成通知を行い、併せて労働条件に関する要求書を交付した。被告三春は、原告組合に対し、右要求事項について質問をした後、「組合員の賃金、労働条件の変更をはじめ配転、解雇などについては組合と事前協議し、双方納得のうえで行う。」旨(事前協議約款)を含む事項について会社として了解し、さらに、同月二一日、団体交渉を開催することに同意して、その旨の議事録確認書に原告組合と共に署名捺印した。

(三) 会社は、原告組合結成後、同組合と団体交渉を行い、昭和五八年七月二一日及び同年八月一八日にそれぞれ労働協約を締結したが、他方で、同年九月、東大阪自動車教習所で労務対策部長をしていた島村を、会社での労務担当の非常勤職員として採用した(顧問料月額約二〇万円)。また、昭和五九年二月三日、誠光社の管理職らによりエースカラーが設立され、誠光社の業務の外注を受けるようになった(なお、被告三春は、昭和六〇年二月一九日にエースカラーの取締役に就任し、平成二年六月三〇日同社の代表取締役に就任した。)。

社内では、被告三春の関与の下、昭和六〇年一二月四日、「翔の会」と称する従業員親睦団体が結成され、会社の管理職を含む従業員が発起人となったが、右「翔の会」は、原告組合員については参加を認めないという姿勢をとったため原告組合からの反発を招き、結局、「翔の会」は、昭和六一年七月ころ、解散することとなった。

(四) 会社は、昭和六二年七月ころ、島村を解任した後、同年一一月、代わって大沢を労務担当顧問として採用し(顧問料月額約二〇万円)、同人の協力を得て就業規則の改正を検討した結果、平成元年一月二〇日、従業員に対し、罰則規定を新設した就業規則改正案を発表し、これについての意見を求めた。しかし、原告組合は、右就業規則の改正は労働条件の変更についての事前協議約款に反するとしてこれに反発し、会社が同年二月二五日、突如として就業規則改正についての従業員代表を選出する選挙を実施した際には、会社が被告穴井を従業員代表にしようとしたのに対し、当時の執行委員長であった原告大黒が立候補し、全従業員の選挙で原告大黒が従業員代表に選出された。

この結果、会社と原告組合との間で就業規則変更を巡る団体交渉が開催され、その中で、同年三月二二日、両者の間で、労使間の協定書、議事録などは今後とも遵守すること及び就業規則の変更に際しては原告組合と事前に協議することについて書面での確認がなされ、就業規則の変更は実施されなかった。

なお、同年一月一三日、被告三春も出資して南州プロセスが設立され、以後誠光社の業務の外注を受けるようになった。

(五) 会社は、平成三年三月六日、レタッチ部門への新型機械の導入を計画し、これに伴い、当時そのほとんどが原告組合員で占められていたレタッチ課の人員の配置転換を発表したが、原告組合の反対により実現しなかった。

また、会社の従業員のうち、原告組合結成時からの組合員(八名)を除く従業員の中に、主任でないにもかかわらず主任手当の支給を昭和六〇年ころから受けている者がいることが判明したため、原告組合は、平成三年四月から、団体交渉の場において会社にその是正を求めた結果、会社は右手当の支給を組合差別と認め、会社は、原告組合との間で、同年八月一三日、右差別賃金の是正と、原告組合への解決金(三二〇万円)を支払い、かつ、今後賃金における組合員差別は行わない旨を確認する労働協約を締結した。

なお、大沢は、平成三年九月五日、会社を退職した。

(六) 会社は、平成三年八月三〇日、中小労働組合友愛会議の顧問で、もと関西日本電気労働組合の委員長であった被告嶋澤を労務対策顧問として採用し、同年一〇月二〇日ころ、同人の紹介で、もと関西日本電気労働組合書記長を務めた被告近藤を会社の労務部長として、同年一一月一日ころ、もと高槻電器労働組合の委員長を務めていた被告久保を会社の従業員として、それぞれ採用し、被告嶋澤には顧問料として月額一八万円ないし二〇万円を、被告近藤と被告久保には給与として各月額約五〇万円を支払うこととなった。

そして、会社は、平成四年二月一四日、再度就業規則及び賃金規定の変更案を発表し、同月二二日には説明会を開催したが、原告組合がこれに反対したため、結局、同年五月一八日、労使間で再度、「今後とも労使間の協定書、確認書、議事録確認書等を誠実に履行し、過去の合意事項、慣行等を尊重する。」との条項を含む確認がなされた。

また、会社は、平成四年一一月、従前組合員を含む従業員に支給されてきた家族手当のうち、子が一八歳以上である場合及び共働きの配偶者に一定額以上の収入がある場合にはこれを支給しない扱いとしたところ、原告組合は、これに反対したばかりでなく、原告組合員以外の従業員に対して労使協定外の賞与支払いがある点を組合員差別として追及した結果、会社は、原告組合との間で、平成五年三月八日、就労している子又は二三歳以上の子がある場合を除くほか家族手当を従前通り支給し、また、賞与差別については原告組合に対して一五〇万円の解決金を支払うことを認めた。

(七) ところで、被告嶋澤は、会社の労務対策顧問として、かねてより会社の費用で会社の管理職従業員らに労務対策研修を行うなどしていたが、平成四年一二月ころには、原告組合を会社内での少数派とする工作の一環として、第二組合の結成について具体的な検討を行うようになり、その結果、平成五年四月一一日、被告久保を委員長として誠光ユニオンが結成され、被告近藤と被告久保は、同月一五日、原告富永を含む新入従業員五名に対し、原告組合を闘争至上主義として批判すると共に、誠光ユニオンへの加入を慫慂した。その結果、右五名は誠光ユニオンに加入することとなり、原告富永は、同年六月、誠光ユニオンの青年部長に就任した。なお、誠光ユニオンは、結成と同時に中小労働組合友愛会議に所属した。

さらに、会社は、同年七月一四日、誠光ユニオンとの団体交渉の後、同組合幹部を淀川会館で饗応したほか、同年八月一二日から同月一三日までの間、滋賀県の旅館「船岩」に被告嶋澤を招いて、会社管理職(被告近藤を含む。)に被告久保を加えたメンバーで管理職研修を行い、主として労務問題について検討を加えた。

ところで、原告富永は、同年一一月一七日、被告久保に対し、誠光ユニオンからの脱退を申し出たところ、被告三春は、翌日(同月一八日)、右原告に対し、スキャナー課から工務課に配置転換する旨を命じた。しかし、原告富永がこの件を原告組合に相談し、同組合に加入したため、原告組合は右配置転換命令に抗議し、結局、会社は、同月二二日、同配置転換命令を撤回した。

さらに、被告三春は、スキャナー課オペレーター係で原告組合執行委員である原告大河に対し、平成六年一月一三日、仕事上のミスがあったとして叱責したところ、原告大河が右ミスが自分の落ち度によるものかどうかわからない旨返答したことに立腹し、即時、原告大河に対してスキャナー課準備係への配置転換を口頭で命じ、翌日には同人に対して残業を禁止する旨言い渡して、以後、原告大河が担当していた業務を、被告三春が実質的に経営している南州プロセス等の下請企業に外注に出すこととした。

(八) 会社は、平成二年八月一日から平成三年七月三一日まで(第一六期)の間に七億六五六〇万六〇〇〇円の売上高を記録して、四六六二万九三六七円の利益を計上したが、以後、景気の悪化と競争の激化のために売上高は減少の一途をたどり、しかも、平成四年四月ころには新しい印刷機器をリースで導入したほか、新入従業員採用等による人件費の増加、接待交際費及び使途不明金の増加、原告組合に対する前記解決金や被告嶋澤に対する顧問料等労務対策費の支払などが収支を圧迫したため、平成三年八月一日から平成四年七月三一日まで(第一七期)の間には二五〇四万三四二〇円、平成四年八月一日から平成五年七月三一日まで(第一八期)の間には一二一一万七八四一円の利益を計上するにとどまるなど、その収益は減少を続け、社会保険料も滞納するようになっていった。

そこで、被告三春は、平成六年度の春闘前である平成六年二月二二日、全従業員が参加した朝礼の場で、「非常事態宣言」と題する書面を交付し、売上高の減少と人件費の増加により会社の経営が危機に瀕していること、そのために売上上昇、コストダウン、賃上げの凍結、賞与の不支給、人員削減等につき全従業員に協力を求めることを訴えかけた。なお、右「非常事態宣言」と題する書面には、「従いましてまことに一方的ではありますがこの「非常事態宣言」を従業員各位にはその主旨についてはご了承いただく他ないのでありまして、不承知の方は残念ながら当社にお止まりいただくわけには参りません。」との記載がなされていた。

しかし、会社は、他方で、誠光ユニオンの副委員長二名を含む同組合員三名を、同日付けで手当の支給される主任に昇格させ、原告組合員の多いレタッチ課を除く各部署に配置するという措置を執った。

なお、誠光ユニオンは、ゼンセン同盟に加入を申請していたところ、同月二八日の機関誌で、右ゼンセン同盟への加入と、会社の「非常事態宣言」への全面協力を呼びかけた。

(九) しかし、原告組合は、右「非常事態宣言」と題する書面記載の人件費等の数字に疑問を抱き、また、原告大河に対する前記平成六年一月一三日付け配置転換命令にも承服していなかったことから、会社に対し、同年二月二五日、各人一律三万円の賃金引き上げ、レタッチ部門への二名の人員補充、接待交際費の半減、誠光ユニオンの解散等を内容とする春闘要求書を提出し、また、原告大河に対する配置転換命令及び残業禁止の指示について質問状を提出した。

これに対して、会社は、原告大河に対し、同年三月一八日、レタッチ課への配置転換を命じたが、原告組合の抗議により、同月二九日、配置転換を留保する旨明らかにしたものの、被告三春は、同月三〇日、原告大河に対して仕事をするなと命じ、翌日の朝礼ではこれを全従業員に対して宣言したことから、原告組合は、同年四月七日、大河に対する同年一月一三日付けの配置転換命令の撤回等を求めて、大阪地労委に対し、救済命令の申立を行った(平成六年(不)第一六号不当労働行為救済命令申立事件)。

原告組合は、賃上げ等について会社と団体交渉を重ねる過程で、被告嶋澤に対する顧問料の支払や、外注先である南州プロセスと会社との関係が不明朗である点について追及を重ねたが、誠光ユニオンからは会社を退職する者が相次ぎ、誠光ユニオンの組合員は「非常事態宣言」当時の二一名から本件破産申立に至るまでに、一七名の組合員を擁する原告組合を下回る一五名にまで減少した。

(一〇) このような中で、被告三春は、収益の悪化、労使関係の悪化及び退職者の続出から会社の経営意欲を喪失し、同年五月七日、大津市内において、被告嶋澤、被告近藤及び坂口一美営業部長と会談のうえ、同月九日、大手の取引先であるコロナクリエイトに赴き、経営に自信を失ったことから今後の取引を断る旨申し出た。コロナクリエイトは、翌日改めて被告三春の意思を確認したが、結局、会社から仕事を引き上げることとした。

しかし、被告三春は、同月一三日の団体交渉では、南州プロセスについては自己が実質的に経営権を握っていることを自認する一方、原告組合に対し、コロナクリエイトから仕事を断られた旨説明し、併せて、次回の団体交渉は同月二六日まで開催できない旨申し渡した。

被告三春は、同月一八日、曽我乙彦弁護士(以下「曽我弁護士」という。)のもとへ赴き、会社は、右曽我弁護士らを代理人として、同月二五日、大阪地方裁判所に対し、負債二億三〇〇〇万円、資産八二三〇万円で債務超過にあり支払不能であるとして、破産宣告を申し立てた(本庁平成六年(フ)第一二五〇号破産宣告申立事件。本件破産申立)。なお、同日南州プロセスも自己破産の申立をした(本庁平成六年(フ)第一二四九号破産宣告申立事件)。

(一一) なお、会社の、本件破産申立当時の財務状況は、継続企業を前提とした企業会計処理基準によって作成した財務諸表によれば、本件破産を申し立てた平成六年五月二五日現在で債務超過の状態には至っていなかったが、同日現在の非常貸借対照表によれば、資産二億〇九九三万三九三六円、負債三億一二〇四万三一九二円で、正味資本はマイナス一億〇二一〇万九二五六円の債務超過の状況にあった。

2  本件破産申立後の経過

(一) 被告三春は、本件破産申立の翌日である平成六年五月二六日朝、会社の全従業員を集めた朝礼で、初めて本件破産申立の件を発表した。

原告組合は、同日午後から会社と継続的に団体交渉を行い、決算報告書をもとに税理士に意見を求めたり、コロナクリエイトにも事情聴取を行うなどしたうえで、破産原因は存在せず、本件破産申立は原告組合を潰すことを目的としたものであると主張して、本件破産申立の取下げと企業の再開を強く求める一方、大阪地労委に対し、同月二七日、本件破産申立は事前協議約款に反し、原告組合の破壊を唯一の目的とした不当労働行為であるとして救済命令の申立を行った(平成六年(不)第三三号不当労働行為救済命令申立事件)。また、原告組合は、破産裁判所に対しても、会社に破産原因が存在しないことを主張したところ、同裁判所は、同年六月七日、破産申立手続の第二回審尋期日において、竹山明宏公認会計士を鑑定人に選任して破産原因の調査をすることとした。

(二) しかし、被告三春ら会社の管理職は、前日の団体交渉で平成六年六月一〇日に開催が予定されていた団体交渉に出席せずに行方をくらまし、さらに、同月一五日ころ、代理人である曽我弁護士を通じて、原告組合員を含む全従業員に対し、本件破産申立のため事業を継続できなくなったとして同月二〇日をもって解雇する旨の解雇通知書を発送した。

右解雇について、原告組合員以外の会社従業員は、いずれもこれを了承したが、原告組合は、会社代理人の曽我弁護士を通じて、会社に対し、同月二〇日及び同月二三日の二回にわたり、本件破産申立の取下げや解雇の撤回を求めて、団体交渉開催を求めた。しかし、会社は右団体交渉開催要求に応じようとしなかった。

そこで、原告組合は、大阪地労委に対し、同年七月一四日、右解雇及び団交拒否等が不当労働行為であるとして救済命令の申立を行った(平成六年(不)第四三号不当労働行為救済命令申立事件)。

(三) 破産裁判所は、会社が債務超過にあるとの竹山鑑定を受けて、会社に対し、平成六年八月四日午後三時、破産を宣告し(本件破産宣告)、併せて破産管財人として松葉管財人を選任した。そして、右松葉管財人は、同月八日、原告組合員に対して改めて解雇通知を行い、原告組合員もこれを了承した。

また、大阪地労委は、前記平成六年(不)第三三号及び同第四三号不当労働行為救済命令申立事件を併合して審理を行う一方、両事件の被申立人として松葉管財人を加えたうえで、会社及び松葉管財人に対し、平成七年二月二三日、平成六年六月二〇日付けで原告組合員に対してされた解雇をなかったものとして取り扱うとともに、同日以降、同年八月八日までの間、原告組合員が受けるはずであった賃金相当額及びこれに年率五分を乗じた額の支払を命じる内容(ポストノーティスを含む。)の救済命令を発した。

なお、松葉管財人が平成八年九月五日破産裁判所に提出した最終配当許可申請書によれば、同日現在の破産財団の総額は六九六万九三八〇円であるのに対し、配当に加えるべき債権の総額は一億五六〇四万五五三六円とされている。

(四) エースカラーは、本件破産申立以降、全く営業を行っておらず、南州プロセスは平成六年六月一三日破産宣告を受けた。被告三春は、平成七年五月以降、個人で運送業を営んでいる。

二  本件破産申立の不法行為性について

1  原告らは、本件破産申立は、原告組合を嫌悪する被告らが、誠光ユニオンの強化を図るなどして原告組合弱体化を企図したものの果たせず、ついには企業活動を放擲することによって原告組合を破壊しようとして行われた行為であるとして、これが不法行為を構成する旨主張する。

2  ところで、憲法二二条一項は職業選択の自由を保障しており、右職業選択の自由は、営業廃止の自由を含むから、営業者は自らの営業を廃止する自由を有すると解される。また、破産法が、破産原因のある者について裁判所の関与の下でその財産を解体・精算することを通じて債権者の公平と債務者の更生を図ることを目的としていることに照らすと、会社は、支払不能に陥り(破産法一二六条一項)、あるいは、債務超過の状況に立ち至った場合(同法一二七条一項)、その営業を廃止して全財産を精算する手段として、自ら破産申立をする(同法一三二条一項)自由を有するのであって、破産原因を有する会社が、たまたま会社内に労働組合が結成されていたことの故をもって破産申立ができなくなり、あるいは、右申立を受理した裁判所が破産宣告を発令できなくなるとする実定法上の根拠はないものといわなければならない。

したがって、破産原因が存在する場合に、営業者が自己破産の申立をすることは、原則として、労働者ないし労働組合に対する不法行為を構成することはないというべきである。

3  もっとも、会社が自ら破産申立をするに際して、従前からの会社の労働組合に対する敵対的行為の継続、当該破産申立行為の背信性、破産原因の不存在ないし会社による破産原因の意図的な作出、非組合員を雇用した別企業による従前の営業の継続といった特設の事情により、右破産申立が労働組合の潰滅を唯一の目的としてなされたことが明らかである場合には、会社による右破産申立は、破産手続に藉口してなされた労働組合の団結権侵害行為であるというほかなく、営業廃止の自由の濫用であり、違法性を帯び、不法行為を構成すると解するのが相当である。

そこで、本件破産申立について右特段の事情の有無を検討するに、前記認定のとおり、会社は、従前から、原告組合対策として労務対策担当の顧問を採用し、高額の顧問料の支払を続けたこと、原告組合員を排除した親睦会である「翔の会」結成に関与したこと、労使間の事前協議を行わずに就業規則改定や家族手当カットを試みたこと、賃金又は賞与の支払について原告組合員を差別したこと、第二組合である誠光ユニオン結成に深く関与しその活動を援助したこと、誠光ユニオンを脱退した原告富永に突如配置転換を命じ、原告組合執行委員である原告大河に配置転換を命じて業務を停止させながら、他方でその業務をより費用のかかる外注に回したこと、平成六年の春闘前に原告組合の機先を制する形で「非常事態宣言」を出しながら、同日付けで誠光ユニオンの組合員三名を主任に昇格させたことなどが認められるのであって、被告三春ら会社経営陣には、原告組合を嫌悪ないし敵視する姿勢が一貫して認められ、また、被告三春は、大手の取引先であるコロナクリエイトに自ら今後の受注を断りながらこれを同社からの仕事を断られた旨原告組合に説明したこと、次回に予定された団体交渉の前日に、従業員に何ら説明なく本件破産申立をいわば抜打ち的に行ったこと、その後団体交渉にも応じず原告組合に対して誠実な対応をしなかったことなどから、本件破産申立には、原告組合に対する関係で、信義に悖る事情も認められる。

しかし他方、本件破産申立当時、会社には債務超過の破産原因が存しており、社会保険料も滞納していたこと、コロナクリエイトとの取引の停止に至る事情や会社の従前からの多額の労務対策費用、使途不明金等を考慮しても、会社の債務超過額(一億〇二一〇万九二五六円)に照らすと、被告三春らが意図的に破産原因を作出したとまでは認め難いこと、会社の営業活動は現在完全に停止しており、被告三春が実質的に支配していたエースカラー及び南州プロセスも営業活動をしておらず、被告三春が個人で運送業を営んでいるに過ぎないことから、被告三春が会社の営業を他の企業で継続しているなどの事情は認められないこと、むしろ、本件破産申立に至る経緯に徴すると、被告三春は、「非常事態宣言」後も、賃上げ交渉や原告大河の処遇を巡って原告組合との間で緊張した労使関係が継続したばかりでなく、原告大河に対する配置転換命令について原告組合が初めて大阪地労委に救済命令を申し立てたこと、その間、不景気から収益好転の見通しが立たなかったこと、原告組合員以外の従業員の退職が相次いだこと等から、平成六年四月ころ、会社の経営意欲を喪失し、併せて、原告組合に対する敵対的な意図から、大手取引先であるコロナクリエイトとの取引を解消したうえで、本件破産申立に及んだものと認めるのが相当である。

以上によれば、本件破産申立は、被告三春の原告組合に対する敵対的な意図をも包含してなされたもので、申立に至る経緯には信義に悖る事情も認められるものの、未だ原告組合の潰滅を唯一の目的としてなされたものとまではいうことができず、したがって、不法行為には該当しないものといわざるを得ない。

4  なお、原告らは、会社は本件破産申立当時、債務超過の状況になかった旨主張し、(証拠略)(竹山鑑定)には継続企業を前提とした財務諸表によれば会社は当時債務超過の状況にはなかったとする記載がある。

しかしながら、破産法一二七条一項にいう債務超過とは、債務者の負担する債務がその資産を上廻る客観的状態をいうものと解されるところ、同じく(証拠略)は、本件破産申立当時の非常貸借対照表によれば会社は一億〇二一〇万九二五六円の債務超過にあった旨述べているから、結局、会社は本件破産申立当時破産法一二七条一項の債務超過の要件を充たしていたものと認められる。このことは、松葉管財人が作成した最終配当許可申請書の内容からも裏付けられるところである。

したがって、原告らの右主張は採用できない。

三  平成三年夏頃以降の被告らの原告組合弱体化工作の不法行為性について

原告らは、平成三年夏頃以降の、被告らの一連の原告組合弱体化工作が不法行為に該当する旨主張する。しかしながら、原告らは、本訴提起時には、「被告らが、破産原因がないのに、それを知りながら本件破産申立をしたこと」のみを不法行為を構成する事実として主張していたことは、訴状及び原告らの平成七年三月一五日付け準備書面の記載並びに第一回及び第二回口頭弁論期日における原告らの陳述から明らかであり、本件訴訟の訴訟物は、本件破産申立が不法行為であることに基づく損害賠償請求権のみであったと解さざるを得ないところ、原告らは、平成九年七月二五日の第一六回口頭弁論期日において、初めて、本件破産申立以前の、平成三年夏頃以降の一連の原告組合弱体化工作を不法行為を構成する事実として主張したのであるから、右は、訴訟物を追加したものであり、訴えの追加的変更に該当するものというほかはない。

そして、右追加された訴訟物である不法行為は、いずれも本件破産申立日である平成六年五月二五日以前の不法行為であるから、平成九年七月二五日の時点では、既に三年を経過していることが、その主張自体から明らかであり、被告らの消滅時効の抗弁は理由がある(なお、原告らの主張には、本件破産申立後の被告らの行為も不法行為として主張するかのように解される部分もあるが、その具体的内容は明らかではない。また、仮に平成六年六月二〇日及び同月二三日の団体交渉拒否を不法行為として主張するものであるとしても、右は、平成九年七月二五日の時点では既に三年を経過していることに変わりはない。)。確かに、原告らは、本訴提起時から、平成三年夏頃以降の一連の原告組合弱体化工作について、詳細に主張していたところであるが、右に述べたところからすれば、これらはあくまで本件破産申立の不法行為性を基礎付ける間接事実ないし事情として主張されていたものと見るほかはないから、本訴の提起により、時効が中断したものと解することはできない。

四  結論

以上の次第であるから、本件破産申立は不法行為に該当するものではなく、平成三年夏頃以降の被告らによる一連の原告組合弱体化工作については、仮に不法行為に該当するとしても、既に時効が成立しているから、その余の点について判断するまでもなく、原告らの主張はいずれも理由がないので、棄却することとする。

(裁判長裁判官 中路義彦 裁判官 谷口安史 裁判官仙波啓孝は転補のため署名押印できない。裁判長裁判官 中路義彦)

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