大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成6年(レ)140号 判決

控訴人

株式会社レイク

右代表者代表取締役

谷口龍彦

右訴訟代理人弁護士

吉井昭

被控訴人

乙川一郎

右訴訟代理人弁護士

神垣守

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

一  本件は、控訴人が、被控訴人に対する債務名義を取得して被控訴人の給料債権等を差し押えた後に被控訴人が破産宣告を受けたが、同時廃止となったために執行手続は進められ、さらに、被控訴人の他の債権者が、被控訴人の給料債権等を差し押さえたので、第三債務者である控訴人の勤務先会社が供託したところ、右供託金の配当手続が未了の間に、被控訴人に対する免責決定が確定したため、被控訴人が、控訴人に対し、右債務名義に基づく強制執行の不許を求めた事件である。

二  争いのない事実等

1  控訴人の被控訴人に対する債務名義取得

控訴人は、被控訴人を被告として、貸金の返還を求めて大阪簡易裁判所に訴えを提起し(同裁判所平成四年(ハ)第八七一一号貸金請求事件)、平成五年二月一九日、被控訴人に対し、三六万一五八八円及び遅延損害金の支払を命ずる仮執行宣言付判決(以下「本件債務名義」という。)を得た(甲二の一)。

2  控訴人による債権差押

控訴人は、神戸地方裁判所に対し、本件債務名義に基づいて、被控訴人の勤務先である扇港興産株式会社(以下「扇港興産」という。)を第三債務者として、被控訴人の右扇港興産に対する給料、賞与及び退職金債権(以下「給料債権等」という。)の差押えを申し立てた(同裁判所平成五年(ル)第二二二号)(争いがない)。

同裁判所は、平成五年三月二四日、給料債権等の四分の一のうち、四五万四九六一円にみつるまでの範囲で差押える旨の債権差押命令を発した(甲二の二)。

3  被控訴人に対する破産宣告

被控訴人は、神戸地方裁判所に対し、平成四年中に破産宣告の申立てをしていたところ(同裁判所平成四年(フ)第五一三号)、同裁判所は、平成五年四月三〇日午後一時、被控訴人に対し、破産宣告をするとともに(以下「本件破産宣告」という。)、同時廃止の決定をした(争いがない)。

4  扇港興産の供託

扇港興産は、被控訴人の同社に対する給料債権等が、宝産業株式会社及び有限会社アカシローンズからも差し押えられたため、平成六年一月七日及び同月三一日に、別紙供託目録記載のとおり供託した(以下、「本件供託」といい、右供託による供託金合計一八万一七八九円を、「本件供託金」という。)(甲三、四)。

5  被控訴人の免責決定確定

それより先、被控訴人は、神戸地方裁判所に対し免責の申立てをしたところ(同裁判所平成五年(モ)第六二八号)、同裁判所は、平成五年一一月三〇日、被控訴人を免責する旨の決定をし(以下「本件免責決定」という。)、本件免責決定は平成六年二月一五日に確定した(争いがない)。

6  本件供託金の配当手続未終了

本件供託金は、本件免責決定確定時、未だ配当手続が終了していなかった(甲三)。

三  争点及び争点についての当事者の主張

1  控訴人

配当手続は、民事執行法一六六条一項一号に従って供託ごとに実施されるべきものであり、実務上行われている数か月分の供託を留保した後にまとめて配当実施する扱いは、何ら法の定めに従ったものではなく、便宜的な手続に過ぎないから、供託の都度、債権者に対する弁済が有効にされているものというべきである。

そうすると、本件供託により、各供託時において、既に控訴人に対する弁済が有効にされているのであるから、本件免責決定によっても右弁済が無効となるものではなく、本件請求異議の訴えによって、本件供託金の配当実施が妨げられるいわれはない。

なお、本件債務名義の執行力を全て排除することは、本件供託金の配当実施を妨げる結果をもたらすこととなるので許されず、仮に本件請求異議の訴えを認容するとしても、本件債務名義の執行力が排除される範囲は免責決定確定後に過ぎないのであって、その主文は、「本件債務名義に基づく強制執行は、本件免責決定確定の日である平成六年二月一五日以降は、これを許さない。」とするにとどめるべきである。

2  被控訴人

配当手続が未了であって、いまだ強制執行が継続している間に、免責決定が確定した場合には、右強制執行は、免責決定確定の効力による責任免除又は債務免除によって違法となり、免責決定の確定が強制執行障害事由となるものである。

第三  当裁判所の判断

一 破産手続は、破産財団の換価代金をもって破産債権者への公平・平等な配当をすることを目的としているから、破産宣告後は、破産債権の行使も破産手続によってのみ行いうるのであるが、破産手続が同時廃止となった場合には、破産手続は宣告と同時に終了し、破産手続内のみでの破産債権の行使という破産宣告による制約が存続すべき根拠が喪失するから、破産宣告後も破産債権に基づく強制執行の遂行が許される。

他方、破産手続終了後の破産者に対し、債権者からの無制限な追求を遮断して更生の機会を与えるべく、破産債権についての責任を免除する免責の制度が認められており、破産手続終了後に免責決定が確定すると、破産者は、破産債権の全部についてその責任を免れる。

したがって、同時廃止決定確定から免責決定確定までは、破産債権者は、破産債権による強制執行の開始及び遂行が可能であり、強制執行手続により破産債権に対する弁済がされても、右弁済は不当利得とはならないことになる(最判平成二年三月二〇日民集四四巻二号四一六頁参照)。

そして、免責決定確定時になお破産債権に基づく強制執行が継続している場合、免責決定確定による破産者の責任免除という執行債権の実体的理由により右強制執行の継続は許されなくなったのであるから、免責決定確定は請求異議事由となるというべきである。

これを本件についてみるに、本件破産宣告及び同時破産廃止決定後、控訴人による債権差押えにより強制執行が開始し、本件供託がされたものの、本件供託金の配当実施以前に本件免責決定が確定したのであるから、本件債務名義による強制執行の継続は違法となり、本件免責決定は請求異議事由に該当するというべきである。

二 もっとも、控訴人は、本来配当は供託ごとにされるべきものであることを理由に、本件供託によって、控訴人に対する弁済が供託時に有効にされていると解すべきであるとして、本件請求異議の訴えによっても本件供託金の配当実施が妨げられてはならない旨主張する。しかしながら、第三債務者の供託によって弁済の効果が生じると解しうるのは第三債務者の債務であって、破産者の債務について弁済の効果が生じるのはあくまで配当ないし弁済金の交付によってである。したがって、本件供託により、控訴人に対する弁済が有効にされているとはいえない。

なお、控訴人は、本来配当は供託ごとに実施されるべきであるとして(民事執行法一六六条一項一号)、給料債権等について実務上行われている数か月の供託を併合して配当実施する取扱いが違法であるかのように主張するが、給料債権のように一般に少額な継続的債権に対する執行においては、債権者らの手続費用の負担と執行裁判所の事務的な負担を考慮すれば、右のような取扱いも執行裁判所の裁量として法の許容するところと解すべきである。

三  結論

以上によれば、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は全部理由があり、認容すべきものであって、これと同旨の原判決は相当であるから、控訴人の本件控訴は理由がない。

(裁判長裁判官島田清次郎 裁判官佐藤道明 裁判官春名茂)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例