大判例

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大阪地方裁判所 平成6年(わ)2002号

本店所在地

大阪市淀川区西中島四丁目六番二九号

株式会社

トラモンド

右代表者代表取締役

植村剛

本籍

京都府宇治市槇島町大幡一番地

住居

大阪府枚方市楠葉野田三丁目五〇番二号

会社役員

植村猛

昭和六年一月二日生

主文

被告人株式会社トラモンドを罰金二四〇〇万円に、被告人植村猛を懲役一年二月に処する。

被告人植村猛に対し、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人株式会社トラモンド(平成三年九月三〇日、商号を株式会社交通界から変更。以下被告会社という。)は大阪市淀川区西中島四丁目六番二九号に本店を置く資本金二〇〇〇万円の株式会社であり、印刷出版業等を営むもの、被告人植村猛(以下、被告人という。)は、被告会社の代表取締役として同社の業務全般を統括しているものであるが、右被告人は、右被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、

第一  平成元年八月一日から同二年七月三一日までの事業年度における右被告会社の実際の所得金額が二億三九六三万九七二二円(別紙一の1修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が九四九四万八五〇〇円(別紙一の2税額計算書参照)であるにもかかわらず、雑収入の一部を収入から除外する行為により、その所得を秘匿した上、同年一〇月一日に大阪市淀川区木川東二丁目三番一号所在の東淀川税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一四五四万八四二二円で、これに対する法人税額が四九一万二一〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙一の2税額計算書記載のとおり、右事業年度の法人税九〇〇三万六四〇〇円を免れ

第二  平成二年八月一日から同三年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が五六四七万五〇三二円(別紙二の1修正損益計算書参照)で、これに対する法人税額が二〇〇一万二五〇〇円(別紙二の2税額計算書参照)であるのに、前同様の行為により、その所得を秘匿した上、同年九月三〇日、前記東淀川税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が二三六九万八二三二円で、これに対する法人税額が七七二万一一〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の申告期限を徒過させ、もって、不正の行為により、別紙二の2税額計算書記載のとおり、右事業年度の法人税一二二九万一四〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

かっこ内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求分証拠番号を示す。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  第二回公判調書中の被告人の供述部分

一  第四回ないし第九回公判調書中の植村剛の供述部分

一  植村剛の検察官調書(一二、但し、同意部分のみ)

一  被告人(一〇通、二九ないし三二、三四ないし三九)及び植村剛(三通、四〇、四一、四三)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  収税官吏作成の報告書(五)

一  大蔵事務官作成の証明書(六)、査察官調査書(八)

一  法人登記簿謄本(一四)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(一)、証明書(三)及び査察官調査書三通(七、九、一一、但し、九、一一は同意部分のみ)

判示第二の事実について

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書(三三)

一  検察官作成の報告書(四五)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(二)、証明書(四)及び査察官調査書(一〇)

(事実認定の補足説明)

弁護人は、判示第一の事実について、被告会社が扇興交通株式会社及び萬国交通株式会社(以下、扇興・萬国交通という。)の株式譲渡に関する仲介手数料(以下、扇興・萬国交通に関する仲介手数料という。)として六翔起業株式会社(以下、六翔起業という。)から三〇〇〇万円を受け取ったとされているが、実際に受け取った金額は二〇〇〇万円に過ぎず、親和タクシー株式会社(以下、親和タクシーという。)の株式譲渡に関する仲介手数料(以下、親和タクシーに関する仲介手数料という。)として六翔起業から二〇〇〇万円受け取ったとされているが、実際に受け取った金額は一〇〇〇万円に過ぎないとそれぞれ主張し、被告人及び被告人の実弟であり、被告会社の当時の専務取締役である植村剛は右主張に沿う供述をするのに対し、六翔起業の代表者であり右仲介手数料を受け渡した伊藤政信はそれぞれ三〇〇〇万円と二〇〇〇万円であると供述するので検討する。

一  伊藤政信(以下、単に伊藤という場合は伊藤政信をいう。)の供述

1  伊藤の当公判廷における供述の要旨は次のとおりである。

(1) 伊藤は、関連会社を通じて所有する扇興・萬国交通の株式を樋本偉光及び神野政一を通して薬師寺薫(以下、薬師寺という。)に譲渡するに際して、被告会社に仲介をしてもらった。

(2) 被告会社に対する仲介手数料は、決済の数日前に、伊藤と植村剛の間から話し合いで三〇〇〇万円と決まったが、三〇〇〇万円という金額が植村剛から出たかどうかは記憶が薄れている。

(3) 伊藤は薬師寺に、右樋本が受け取る分として二億一五〇〇万円、右神野が受け取る分として一億円、六翔起業が受け取る分として一億三五〇〇万円を小切手で、被告会社に支払う仲介手数料として三〇〇〇万円を現金で用意するように指示した。

(4) 右株式譲渡の決済は、平成二年四月一〇日ころ、大阪市西成区にある六翔ビルにある六翔起業の事務所で行われた。まず、同ビル二階にある会議室に、伊藤、薬師寺、樋本、神野及び植村剛が集まり、伊藤が薬師寺から小切手四枚と紙袋に入った現金を受け取った後、植村剛は薬師寺を見送るため一階に降りて行き、その間に伊藤は現金の入った紙袋をもって自分の部屋に移動して、引き返してきた植村剛に袋ごと現金を渡した。この際に、袋の中の現金には手を付けていないし、金額も確認していない。

(5) 六翔起業が所有する親和タクシーの株式についても、中間一を通して薬師寺に譲渡することとし、被告会社に仲介をしてもらい、仲介手数料は伊藤が植村剛に聞き、植村剛が二〇〇〇万円と答えて決まったと思う。

(6) 伊藤が薬師寺に、一億円と一億一〇〇〇万円の小切手及び二〇〇〇万円の現金を用意するように指示し、平成二年九月一一日ころ、前記六翔ビル二階の六翔起業の会議室に、伊藤、薬師寺及び植村剛が参集し、伊藤が右小切手二通と紙袋に入った現金を受け取り、伊藤は植村剛が薬師寺を見送るため一階に降りている間に自室に移動し、引き返してきた植村剛にそのまま渡した。この際、右紙袋から現金を抜き取ったり金額を確認をすることはしていない。

(7) 六翔起業が所有するオーケータクシーの株式についても、同社の役員三人及び伊藤の関連会社朝日自動車の役員二人を通して薬師寺に譲渡することとし、被告会社に仲介してもらい、仲介手数料は伊藤が幾らにするかと植村剛に聞き、植村剛から六〇〇〇万円と言ってきたので、六〇〇〇万円に決まった。

(8) 伊藤が薬師寺に、一三億三五〇〇万円分の小切手と七五〇〇万円の現金を用意するように指示し、平成三年五月二〇日ころ、前記六翔起業の会議室に伊藤、薬師寺及び植村剛が集まり、伊藤が薬師寺から小切手及び現金を受け取り、伊藤は植村剛が薬師寺の見送りのために一階に行っている間に自室に移動し、現金の中から一五〇〇万円を抜き取り、残りを引き返してきた植村剛に渡した。この際に残りの金額を確認していない。

(9) 右抜き取った一五〇〇万円のうち五〇〇万円を交通論壇社の伊藤武雄と陸運新報社の山下行雄にあいさつ料として、八〇〇万円強をオーケータクシーの管理職の手当てとして支給するように指示してオーケータクシーの方に渡した。残りについては思い出せない。

2  伊藤供述の信用性

右伊藤供述は、扇興・萬国交通に関する仲介手数料として被告会社に支払った金額が三〇〇〇万円、親和タクシーに関する仲介手数料として被告会社に支払った金額が二〇〇〇万円になることについて明確に述べているが、金額については薬師寺が紙袋に入れてきたので、そのまま渡したとして確認はしていないと述べている。しかし、現金の用意を指示した伊藤が薬師寺の用意した現金の額を確認しないで植村剛に渡すというのは、金額に不足があった場合に責任を問われかねないことに照らすといかにも不自然であるし、現に、オーケータクシーの仲介手数料について伊藤は、自室に移動したあと一五〇〇万円を抜き取っているのであるから、扇興・萬国交通の件及び親和タクシーの件についても自室に移動した後同様に現金を抜き取った可能性は否定できないというべきである。

伊藤は捜査段階当初において、オーケータクシーに関して被告会社に渡した仲介手数料は七五〇〇万円であったと述べながら途中で六〇〇〇万円であることを思い出したとして供述を訂正しているが、抜き取った一五〇〇万円が新聞社やオーケータクシーの役員に種々の配慮のもとで分配されていることに照らすと捜査段階の初期に一五〇〇万円を抜き取ったという記憶が薄れていたとは考えられないこと、右一五〇〇万円は一旦伊藤の手元を経由しており、分配した分が費用として認められるかはともかく、その所得として計上すべき性質のものであることに照らすと伊藤には一五〇〇万円の所得を秘匿する動機が存在するから右のように唐突に思い出したとする供述は信用できない。右の一五〇〇万円を抜き取った件について伊藤が事実を認めたにもかかわらず、扇興・萬国交通及び親和タクシーの件については現金を抜き取ったことを認めない理由は不明であるが、伊藤は平成四年一二月七日の査察官調書において、交通論壇社及び陸運新報社に渡した五〇〇万円を口止め料と明確に述べながら、平成五年一月八日には、仲介手数料であったと変遷させ、当公判廷においてはあいさつ料であるとその趣旨をあいまいなものにしており、抜き取った現金の使途について供述を変遷させ、その変遷の理由が支払先への配慮である可能性がうかがわれ扇興・萬国交通及び親和タクシーの件に関しても同様の配慮から秘匿している可能性や全額を伊藤自身が領得したために抜き取りを裏付けられる心配がないために否定している可能性などを否定できない。(なお、右交通論壇社等に渡した五〇〇万円の目的は、伊藤にとって秘匿したい事実をなんらの誘導なしに伊藤自身が供述していることは後述する井上査察官の供述により明らかであるから口止め料と認めることができるから、この趣旨を秘匿しようとする伊藤の供述態度は、伊藤の供述の信用性を減殺するものと言わざるを得ない。)以上に照らすと、右伊藤の供述のみから扇興・萬国交通に関する仲介手数料が三〇〇〇万円であったこと及び親和タクシーに関する仲介手数料が二〇〇〇万円であったことを認定することはできない。

二  被告人及び植村剛の各供述

1  被告人及び植村剛の当公判廷における扇興・萬国交通、親和タクシー及びオーケータクシーに関する仲介手数料についての供述の要旨は概ね伊藤と同様であるが、主要な点のうち、扇興・萬国交通に関する仲介手数料が二〇〇〇万円であること、親和タクシーに関する仲介手数料が一〇〇〇万円であること、仲介手数料は伊藤の意思で決まったこと及び伊藤が植村剛に右仲介手数料を渡すときに伊藤は紙袋から現金の一部を取り出していたという点が伊藤の供述と異なる。

2  右被告人及び植村剛の供述は、それ自体としては不自然・不合理な点や相互矛盾はない。問題は、捜査段階では、伊藤と同じように扇興・萬国交通に関する仲介手数料は三〇〇〇万円であり、親和タクシーに関する仲介手数料は二〇〇〇万円であると述べており、当公判廷の供述と齟齬する点にある。

この点について、被告人及び植村剛は、扇興・萬国交通に関する仲介手数料が二〇〇〇万円で、親和タクシーの仲介手数料が一〇〇〇万円であるとの主張は捜査段階からしていたが、平成五年一月一八日以降は、当時の被告人らの弁護人黒田修一弁護士(以下、黒田弁護士という。)の指導に従い、右の減額の主張を諦めて国税・検察庁のリードに基づいて供述したものであると述べるので、この点について検討する。

被告人、植村剛、黒田弁護士及び当時大阪国税局の査察部で本件脱税事案の担当者であった井上明彦査察官(以下、井上査察官という。)の供述、茂谷仁司作成のメモ帳の記載を総合すると、

(1) 平成四年一〇月二九日、国税局は本件について被告会社の査察を開始し、翌日、被告人は、知り合いから大阪地検特捜部の経験があり財政事件に明るいとして黒田弁護士を紹介され、本件の相談をするようになった。そのころ、黒田事務所に被告人が植村剛及び茂谷とともに来て今後逮捕されることもあるのかと黒田弁護士に質問し、黒田弁護士は査察部には身柄拘束の権限はないから、査察官が逮捕を匂わす発言をしても気にすることはない旨の助言をした。(黒田証言、被告人供述)

(2) 同年一一月一九日、被告人は国税局の担当者北山和信統括官(以下、北山統括官という。)の事情聴取を受けた。北山統括官は直接に逮捕を示唆するような言葉を発したわけではないが、被告人が非協力的な態度をとっていると身柄拘束もあり得るのではないかと不安を抱いた。この時点での状況を被告会社の役員に報告すると、被告人が逮捕されると従業員の動揺がおこったり、執筆者などの協力を得られなくなるという意見が役員から出てきた。(被告人供述)

(3) 同年一二月七日、伊藤は査察官に対し、オーケータクシーに関する仲介手数料は七五〇〇万円であると述べていたが、被告人及び植村剛は、同月二八日の調査のときには六〇〇〇万円であると主張していた。(井上供述)

(4) 同月二八日午前、黒田事務所で、被告人は黒田弁護士から国税当局は被告会社が売上から除外した金額を約四億円と踏んでおり、告発は避けられないが、この金額ならば執行猶予だから枝葉末節の問題で争っても意味がないこと、ある程度国税局に協力しないと逮捕もあり得ること、逮捕された場合は黒田弁護士は辞任するつもりであること、中川氏から受け取った一億円のことを預かり金と主張するのは得策ではないなどと言われたが、扇興・萬国交通、親和タクシー及びオーケータクシーの仲介手数料の件についてはありのままに主張したらいいというのが黒田弁護士の助言だった。

この日の取調べでは、北山統括官は被告人の扇興・萬国交通、親和タクシー、オーケータクシーに関する仲介手数料に関する言い分を聞き入れ、被告人らの方から伊藤に訂正するように依頼して欲しいと要請した。

その日の夕方、黒田弁護士、被告人、植村剛、茂谷の四人が料亭に集まり、席上、黒田弁護士は、小さなことは争わず国税局に協力するように助言し、逮捕される事態になったら自分は辞任すると言ったので、被告人は、国税当局に対し非協力的だと逮捕もあるのかと不安になるとともに、黒田弁護士に不信感を抱いた。(被告人供述)

(5) 平成五年一月五日午前、被告人は黒田事務所に行き、中川氏から受け取った一億円について預かり金と立証する手段がないので、その主張をしない旨を黒田弁護士に伝えた。

その日の午後、被告会社の会議室で被告人が井上査察官から事情を聞かれたとき、井上査察官はオーケータクシーの仲介手数料について、被告人と伊藤の言い分が食い違っているが、被告人らの言い分が正しいと思うので被告人の方から伊藤に訂正するように要請してくれと言った。(被告人供述)

(6) 同月六日、植村剛が伊藤氏を訪ね、オーケータクシーに関する仲介手数料は六〇〇〇万円であったと訂正するように要請し、伊藤はこれを承知した。後日、伊藤が承知したことを北山統括官に伝えた。

(7) 同月八日、伊藤は井上査察官に対し、オーケータクシーに関する仲介手数料は六〇〇〇万円であると訂正し、差額の一五〇〇万円の差し引き状況及び使途について具体的に供述した。(井上供述及び伊藤の査察官調書)

同日、被告人らは、井上査察官から伊藤が供述を訂正したとの話しを聞き、扇興・萬国交通及び親和タクシーの仲介手数料についても引き続き主張していこうと考えた。(被告人供述)

簿外債務について、黒田弁護士から主張はしても良いが、あまり大きなものを主張するのはタマリ(国税局の把握している被告会社の全収益額の趣旨)との関係で得策ではない旨言われ、簿外債務の一覧表を出すように助言されていたので、同月一〇日茂谷に指示して簿外債務一覧表を作成した。(被告人供述)

(8) 同月一二日、被告人は黒田事務所で、黒田弁護士から「大人の会話として聞いてほしい」として、国税局は平成元年度七月期から平成三年七月期までの三年分を告発対象として調査を進めてきたが、政治決着として平成二年七月期と平成三年七月期の二年分を告発の対象にするということで黒田弁護士と北山統括官との間で話しをつけたと聞かされた。

簿外債務一覧表を黒田弁護士に示すと、交際費の枠の中で使っているはずだから、今更作っても駄目だと一蹴され、扇興・萬国交通に関する仲介手数料が三〇〇〇万円、親和タクシーに関する仲介手数料が二〇〇〇万円であることは認めるように言われ、その後の取調べに対しては、黒田弁護士の指示どおり答えていった。(黒田証言、被告人供述、茂谷メモ)

(9) 同月一三日、伊藤は井上査察官に対し、扇興・萬国交通に関する仲介手数料が三〇〇〇万円であること及び親和タクシーに関する仲介手数料が二〇〇〇万円であることについては間違いないと供述するとともに交通論壇社と陸運新報社に渡した五〇〇万円の趣旨を口止め料から仲介手数料であると供述を変遷させた。(井上供述)

(10) 同月一八日、被告人は取り調べに対し、結論として扇興・萬国交通に関する仲介手数料が三〇〇〇万円、親和タクシーに関する仲介手数料が二〇〇〇万円であると供述したが、同席していた植村剛は「ほんまは違うんやけどな。」というようなことをしきりに言っており、被告人も植村剛の言葉に同調し右金額を認めることに躊躇を示し、同月二〇日、植村剛は取り調べに対し、右金額を認めることに抵抗を示すことはなかったが、最後までほんとうはそうじゃないんだという言い分を口にしており、こだわりがあるなと感じていた。(井上供述)(なお、平成五年一月二〇日付の植村剛の査察官調書には、扇興・萬国交通に関する仲介手数料を三〇〇〇万円、親和の仲介手数料を二〇〇〇万円と認める供述をしているが、受け取った状況について六翔起業の会議室で伊藤と植村剛の二人だけになった時点で紙袋入りの現金をそのまま持ち帰ったとの供述になっているが、伊藤がいったん現金入りの紙袋を会長室に持ち帰り、会長室で受け渡されたことは伊藤及び植村剛の法廷における供述の一致するところであり明らかであることに照らすと、植村剛は現金の受け渡しの状況について捜査段階では具体的状況を語らずに査察官の誘導のままに返答をしていたとうかがわれる。)

(11) 被告人は、検察官の取調べの際に、平成元年七月期のことについて検察官に質問したところ、総勘定元帳がなかったので告発から外したと聞かされ、政治的な決着で外したとして、これと引き換えに簿外債務や仲介手数料の主張を断念するように助言した黒田弁護士に対する不信感を増した。(被告人供述)

(12) 平成六年七月に、黒田弁護士のところから、本件の一件記録が届けられ、これらに目を通した茂谷から伊藤がオーケータクシーに関する仲介手数料を七五〇〇万円から六〇〇〇万円に訂正した際に、抜き取った一五〇〇万円の使途について具体的に供述していると報告を受け、その中身を読み、創刊以来植村剛個人を誹謗するような記事を書いている陸運新報に伊藤から口止め料が支払われていることを知り怒りを感じ、これまで、伊藤の立場を慮ったことと黒田弁護士の助言のために断念していた扇興・萬国交通及び親和タクシーに関する仲介手数料についても真実を言おうと考えるようになった。(被告人供述)

(13) 平成六年九月二一日、黒田事務所で罪状認否に関する打合せをした。このとき被告人は、大筋は認めると述べ一部否認する可能性があるかのような態度を示したので、黒田弁護士と険悪な状態になった。

同年九月三〇日ころ、黒田弁護士から被告会社に電話があり、茂谷がこれを受けた。茂谷から黒田弁護士は打合せのときの被告人の態度を非難し、嫌ならいつでも弁護人を辞める旨言っていると聞き、当初予定されていた本件の第一回公判期日である同年一〇月四日に黒田弁護人を解任した。(被告人供述、黒田証言)

という事実が認められる。

そうすると、被告人及び植村剛は捜査段階においては、黒田弁護士の指導に従い、起訴される年度が減ること及び事件早期決着を期待して、扇興・萬国交通及び親和タクシーに関する仲介手数料についての主張を断念し、伊藤の供述に基づいた査察官の誘導を受け入れたと認められるから、右仲介手数料をそれぞれ三〇〇〇万円、二〇〇〇万円とする被告人及び植村剛の各供述調書は信用性に乏しく、また、捜査段階の供述と当公判廷における供述が異なる故をもって被告人らの当公判廷における供述が信用できないとすることはできない。

三  結論

以上のとおりであるから、被告人及び植村剛は、捜査段階から扇興・萬国交通に関する仲介手数料を二〇〇〇万円とし、親和タクシーに関する仲介手数料を一〇〇〇万円と主張していたと認められ、当公判廷においても右主張を維持したと認められ、これを虚偽として排斥する理由はなく、これに反する両名の捜査段階の各供述は運用できないからいずれも右のとおりの金額であったと認定すべきである。

なお、弁護人は簿外経費について主張し、飲食費及び交通費の一覧表を提出するが、いずれも時期、相手の氏名及び収益との関連性が不明であり、また、これに関して弁護側はなんらの反証もせず、これが存在すると疑うに足りる何らの証拠も存在しない。

以上により、被告会社の平成二年七月期の実際の所得額は、主位的訴因から二〇〇〇万円減額した金額と認められるので、平成二年七月期及び平成三年七月期のいずれについても予備的訴因のとおりの事実が認められる。

(法令の適用)

被告人の判示各行為は、それぞれ法人税法一五九条に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、以上は平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条本文により、同法による改正前の刑法(以下、旧刑法という。)四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文一〇条により重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年二月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

さらに被告人の判示各行為は、被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、判示各行為につきそれぞれ法人税法一六四条一項により同法一五九条一項所定の罰金刑に処すべきところ、情状により同条二項を適用して右の罰金額はその免れた法人税の額に相当する金額以下とし、以上は旧刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告会社を罰金二四〇〇万円に処することとする。

訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して被告会社及び被告人に負担させないこととする。

よって、主文のとおり判決する。

(出席した検察官 宮田誠司、求刑被告会社につき罰金三五〇〇万円、被告人につき懲役一年六月)

(裁判官 伊元啓)

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