大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成5年(ワ)7573号 判決

大阪市天王寺区逢阪二丁目四番四号

原告

株式会社ロイヤルコレクション

右代表者代表取締役

安本芳正

右訴訟代理人弁護士

石田好孝

右輔佐人弁理士

折寄武士

神戸市中央区二宮町一丁目四番一五号

被告

森真珠株式会社

右代表者代表取締役

森隆

右訴訟代理人弁護士

滝澤功治

友廣隆宣

小越芳保

右輔佐人弁理士

鳥巣實

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告は原告に対し金一億円及びこれに対する平成五年八月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

第二  事案の概要

一  原告の商標権

原告は左記商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件登録商標」という。)を有する(争いがない。)。

出願日 昭和五九年一一月一二日

出願公告日 平成三年八月二一日

登録日 平成四年七月三一日

登録番号 第二四三六八八七号

指定商品 出願当時の第二一類 宝玉、その他本類に属する商品

登録商標 別紙商標公報のとおり

二  被告の行為

被告は、別紙標章目録記載の標章(以下「被告標章」という。)を、本件登録商標の指定商品に該当する真珠製品の宣伝広告及び包装に付し使用している(争いがない。)。

三  請求の概要

原告は、被告標章が本件登録商標に類似すること、被告が被告標章を使用して真珠を販売して本件商標権を侵害したことにより、原告は四億二〇〇〇万円の損害を被っていることを理由に、その内金一億円(一部請求)の支払を請求。

四  争点

1  本件登録商標と被告標章が類似しているか。

2  被告に被告標章のいわゆる先使用権が認められるか。

3  被告が損害賠償責任を負う場合、原告に生じた損害金額

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(本件登録商標と被告標章が類似しているか)

1  原告の主張

(一) 本件登録商標は、「ROYALCOLLECTION」と英大文字で一連に横書きしてなり、これからは「ロイヤルコレクション」との称呼が生じる。

(二) 被告標章は、「森真珠ロイヤルコレクション」と漢字及び片仮名で記された標章と、「Royal Collection」と英文字で記された標章を結合してなるものとみるべきである。そして、この結合標章において、需要者の注意をひく部分すなわち要部がどこにあるかを検討するに、通常人の目を引きつけるのは、英文字であれ、片仮名であれ、「ロイヤルコレクション」の部分であることは明らかである。すなわち、「ロイヤル」「コレクション」の英語の本来の意味からくる「高価、高貴な商品」というイメージは、使用される商品が通常人では容易に購入することができない宝石貴金属類であることとあいまって、一般消費者特に需要者に強烈な印象を与えるものである。被告標章が使用されたのは時あたかも皇太子妃の御婚約が成った時期ころであり、その時代的背景からしてもその感は一層強くなる。

(三) 被告は、被告標章の要部は、「森真珠ロイヤルコレクション」と漢字及び片仮名で記された部分であると主張する。しかし、「森」が商標法四条一項八号に規定する「ありふれた氏」の代表であり、「真珠」が商品名称そのものであること、「ロイヤルコレクション」の部分が前記のとおり通常人の目を引きつける部分であることからすると、需要者にとって、「森真珠」なる部分は、眼中に入らない付随的な部分である。また、被告標章のうち「森真珠」は被告の商号の要部であり、企業標(ハウスマーク)であってペットネーム(個別名称)として特定の商品を指称するものではなく、「ロイヤルコレクション」の部分のみが特定の商品群を指称するペットネーム、つまり商標そのものである。さらに、「森真珠ロイヤルコレクション」なる称呼はあまりに冗長であり、現実の取引現場においてそのように常に一体不可分に称呼されているとは到底考えられない。ちなみに、特許庁における類否判断の審査基準によると、結合商標の場合は、「森真珠」のような形容詞的文字(自他商品の識別機能を有しない文字)を有する結合商標は、原則としてそれが付加結合されていない商標(本件での「ロイヤルコレクション」)と類似するとされ、また、長い称呼を有するため、又は結合商標の一部が特に顕著であるため、その一部分によって簡略化される可能性がある商標は、原則として簡略化される可能性がある部分のみからなる商標(本件での「ロイヤルコレクション」)と類似するものとされている。

(四) 被告が、あえて右のように「森真珠ロイヤルコレクション」を被告標章の要部であると主張するのは、被告標章の「ロイヤルコレクション」の部分、ひいては本件登録商標が自他商品の識別機能を有しないと考えることによる。

たとえば、被告は、本件登録商標を「ROYAL」と「COLLECTION」に分離し、各々と同様の語(英小文字や、片仮名を使用した場合を含む。)を含んだ商標登録出願が特許庁で拒絶されている例をあげ、いずれも自他商品の識別機能を有しないと主張する。しかし、本件登録商標は、右の二つの語を組み合わせ、これが自他商品の識別機能があるとして登録されたものであるから、被告の主張は、本件登録商標について自他商品の識別機能がないとする根拠にはならない。かえって、最近でも、この二語を組み合わせた商標が登録された例として、平成元年一〇月三一日登録の「ROYAL COLLECTION」(登録第二一七七五四七号、指定商品は当時の第二八類・酒類。甲一四の1、2)がある。

英語教育が普及した今日、仮に「ROYAL」と「COLLECTION」とがそれぞれ単独では自他商品の識別機能を有しないものになっているとしても、「ROYAL」と「COLLECTION」を結合した商標が自他商品の識別機能を有しないとはいえないことは、たとえば次の例からも明らかである。「マイルド」は「MILD」に通じる品質表示であり、「スーパー」は「SUPER」に通じる等級表示であって、現在の日本人の英語の理解能力を前提とすれば、いずれも個々では自他商品の識別機能を有しないといえるが、これらを結合してなる「マイルドスーパー」は平成四年六月三〇日商標登録を受けている(登録第二四二四五二三号、指定商品は昭和五四年出願当時の第二五類・紙類、文房具類。甲一五の1、2)。

さらに、被告は、本件登録商標が自他商品の識別機能を有しないとする理由に、本件登録商標の出願経過書類から、本件登録商標は、いったん拒絶査定を受けたところ(登録第七二八一七六号の登録商標と類似することがその理由。以下登録第七二八一七六号の登録商標を「引用商標」という。)、右査定に対する不服審判において、右査定が取り消され、本願商標を登録すべきものとする審決がされたものであるが、右査定が取り消された理由は、引用商標の存続期間の満了であるから、引用商標との類似の点については特許庁の判断は示されていないことをあげる。しかし、審査過程において、特許庁の審査官は、「ROYAL」の文字部分に識別力を認めた上で、拒絶理由を発している。また、拒絶査定不服審判の審決の理由は、確かに引用商標の存続期間の満了であるが、これは直接の拒絶理由が失われたことを意味するにとどまり、このことから本件登録商標に自他商品の識別機能がないという結論を導けるものではない。

(五) 結局、被告標章の要部が「ロイヤルコレクション」の部分にある以上、本件登録商標と、被告標章は、称呼及び観念において類似する。なお、原告は、本件登録商標と被告標章の外観の類似を主張するものではないから、被告が本件登録商標と被告標章の外観が類似しないとして縷々述べる点は、意味をなさないものである。特に、本件登録商標及び被告標章のような文字商標の場合には、もっぱら称呼上の類似が問題となり、外観上の類似が問題になるのは特殊な場合である。

2  被告の主張

(一) 本件登録商標は自他商品の識別機能が極めて弱い

(1) 本件登録商標を構成する語の意味

本件登録商標のうち、「ROYAL」の部分は、本来は「国王の」とか「王の」を意味する英語の形容詞であるが、口語としては、「すばらしい」、「堂々たる」「りっぱな」「この上ない」等の意味を有する単語である(研究社版新英和辞典)。したがって、他の商品類ではともかく、出願時の第二一類に属する宝玉等の商品を扱う業界においては、商品の属性を表現する用語として、一般的かつ日常的に用いられている。

次に、「COLLECTION」なる部分は、「集合」を意味する英語の名詞であり、ひいては、「収集物」とか「収蔵物」の意味をも有するものであって(前同新英和辞典)、これまた、宝玉その他出願時の第二一類に属する商品を扱う業界においては、一連の商品のシリーズとして、一般的、かつ、日常的に使用されている用語である。

ちなみに、そもそも「ロイヤルコレクション」とは、英国王室の収蔵にかかる美術品を総体として呼称する名称である。

従って、これらが結合した「ROYALCOLLECTION」もまた、自他商品の識別機能を有しない。

このことは、近時、本件登録商標同様、当時の第二一類に属する商品を指定商品とする商標登録出願において、「ロイヤル」「コレクション」あるいはこれらを英文字で表現したものを使用した商標の出願が拒絶された例が枚挙に暇がないことをみても明らかである。もっとも、昭和四〇年代もしくは昭和五〇年代初頭までの商標出願についてみれば、「ロイヤル」「コレクション」あるいはこれらを英文字で表現したものについて、自他商品の識別機能があるとして、商標登録が認められた例が存在することも事実である。しかしながら、外国語、特に英語を用いた商標については、英語の普及の度合いが審査に密接に影響しているのが実情であり、一般的に普及した結果、用語の意味が英語でそのまま伝達できるような平易な語句については、過去において自他商品の識別機能があるとして登録が認められたことがあっても、近時は、自他商品の識別機能を有しないという理由で拒絶査定されている。このような審査実務の変化は、商標が本来、個性化された一群の商品を他の商品群から識別する機能、すなわち自他商品の識別機能をその本質的機能としていることからすれば、当然のことである。商標を構成する用語が英語で表記されている場合、英語の意味が一般には普及していない時代にあっては、当該用語を使用すること自体が特徴的であり、自他商品の識別機能を有するものといえるが、英語が一般に普及した結果、当該用語の意味が広く認識され、その結果、当該用語を使用することが、単に当該商品の品質や形状を表現するものでしかなくなったと判断されるときは、当該商標登録出願は拒絶されるべきである。このような商標を、特定の個人又は会社に独占的に使用させ、他の個人又は会社の使用を排除することは円滑な経済活動を阻害するからである。

なお、原告は、この二語を組み合わせた商標が登録された例として、平成元年一〇月三一日登録の「ROYAL COLLECTION」(登第二一七七五四七号、指定商品は当時の第二八類・酒類。甲一四の1、2)があることを指摘するが、同一商標であっても、商品区分が異なれば、自他商品の識別機能に差異を生ずることは当然であって、右の商標が登録されたからといって、本件登録商標に自他商品の識別機能があるとはいえない。

(2) 本件登録商標の登録経過

本件登録商標は、昭和五九年一一月一二日、原告代表者により登録出願されたものであるが(以下原告代表者を「出願人」という。本件登録商標に係る出願については、その後平成四年四月二日付譲渡証書に基づき、出願人名義が原告に変更されている。)、昭和六〇年一一月五日付で拒絶理由が通知されている。その理由は、引用商標に類似するというものであった。引用商標は、紋章の図形を中心に配し、その左右に筆記体の英文字で「Royal」と「Cleaning」の単語を配してなる図形と文字の結合商標である。

これに対し、出願人は、本件登録商標は「ROYALCOLLECTION」と同書・同大・同間隔をもって一連に書してなるものであるから、これからは「ロイヤルコレクション」の称呼のみが生ずること、仮に、本件登録商標について「ロイヤル」の称呼が生ずるとしても、「ROYAL」の語及びそれから生ずる称呼はかなり多用されていて、多くの場合この後に別の語が続く可能性が高く、加えて「ROYAL」は「王の」、「王らしい」、「りっぱな」という意味を有し、これ自体が等級的な意味合いを有し、これ自体が自他商品識別力を強く有していないこと、「ROYALCOLLECTION」は出願人の造語であることを指摘した意見書を提出した。

しかし、審査官は、昭和六一年四月一五日、前記拒絶理由と同様の理由で拒絶査定をし、「尚、出願人は意見書に於いて種々述べているが、本願商標は、「ROYAL」の文字と、~の作品(集)の意味合で他の文字に付して普通に採択使用されている「COLLECTION」の文字よりなるものであるから、本願商標の自他商品の識別機能を果たすのは「ROYAL」の文字にあり、これより単に「ロイヤル」の称呼をも生ずるものと認める。他方、引用商標は、「Royal」の文字が分離してみられる構成から単に「ロイヤル」の称呼をも生ずるものであるから、本願商標と引用商標はその称呼において相紛らわしい類似の商標である。」と右理由を補足した。

これに対し、出願人は、昭和六一年七月一四日、原査定の取消と本願商標の登録を求めて、審判を請求し、その理由として、「ROYAL」の文字は、これに続く語を修飾するものであり、他方、「COLLECTION」は、「収集」等の意味を有し、他の語が冠されて使用されがちな言葉であるから、「ROYAL」と「COLLECTION」は相互に結合しやすく、その結合が極めて自然な称呼「ロイヤルコレクション」を生みやすいこと、宝石類と「COLLECTION」との間に直截的な関連性を認めがたいから、原査定が「COLLECTION」の部分が自他商品識別機能を有しないとするのは誤りであること、「ROYALCOLLECTION」からは唯一「ロイヤルコレクション」の称呼を生じるだけであることを主張した。

特許庁は、平成四年二月一〇日、原査定を取り消し、本願商標を登録すべきものとする審決をしたが、その理由とするところは、前記引用商標にかかる商標権が、存続期間満了により消滅しているので、本願商標を商標法四条一項一一号に該当するとした原査定の拒絶理由は解消したというものである。

右の経過からすると、本件登録商標については、商標登録出願後、いったんは拒絶され、その理由は、担当審査官の判断によれば、本件登録商標は引用商標と類似するという点にあったものであるところ、結局のところ最終的に登録に至ったのは、引用商標の存続期間が満了したということによるものであって、右類似の点について特許庁としての最終的な判断は示されるには至っていない。

ところで、本件登録商標の登録に至る一連の過程において、「ROYAL」なる文字と「COLLECTION」なる文字が、それぞれ自他商品識別力を有するか否かが問題とされているが、昭和六一年四月一五日の前記拒絶査定によれば、審査官は、「尚、出願人は意見書に於いて種々述べているが、本願商標は、「ROYAL」の文字と、~の作品(集)の意味合で他の文字に付して普通に採択使用されている「COLLECTION」の文字よりなるものであるから、本願商標の自他商品の識別機能を果たすのは「ROYAL」の文字にあり、これより単に「ロイヤル」の称呼をも生ずるものと認める。…」としているので、一見「ROYAL」の文字に自他商品の識別機能があることを認めているかのようでもある。しかし、引用商標は、前記のとおり、「Royal」及び「Cleaning」の各文字のみならず、その間に紋章の図形を配している点が極めて特徴的であり、この点において自他商品の識別機能が認められるとして登録されたものであると考えられるから、右拒絶査定から単純に「ROYAL」の部分に自他商品の識別機能があると解するのは正当でない。したがって、原告の本件登録商標は、いずれも自他商品の識別機能がないか、それが極めて弱い「ROYAL」なる文字と自他商品の識別機能がない「COLLECTION」なる文字を結合したものに過ぎないものであるから、全体としても、商標の本質的機能である自他商品の識別機能が極めて弱いものであることは明らかである。

(二) 本件登録商標と被告標章の類否

(1) 本件登録商標と被告標章の比較

被告標章は、上下二段書きされ、上段には「Royal」と英文字(このうち、先頭のRのみ大文字で、その余は小文字である。)で横書きしてなり、下段には「森真珠ロイヤルコレクション Collection」と漢字、片仮名及び英文字(このうち先頭のCのみ大文字で、その余は小文字である。)を組み合わせて横書きしてなるものであって、上段の「Royal」は、下段の「森真珠ロイヤルコレクション Collection」と比べ、相対的に大きな文字が使用されていることを特徴としている。これに対し、本件登録商標は、「ROYALCOLLECTION」と英文字で一連に横書きしてなり、しかも、同一の大きさの大文字ばかりが使用されている。

右事実からすれば、本件登録商標からは、単に「ロイヤルコレクション」の称呼を生じるのに対し、被告標章からは「モリシンジュロイヤルコレクション」の称呼を生ずるのであって、両者の称呼は類似しない。また、外観についても、本件登録商標は、単に英文字の大文字で横書きしているだけであるが、被告標章は、そもそも二段書きされ、上段部分は英文字のみ、また、下段部分は英文字と漢字、片仮名が混合されており、しかも、前記のとおり、上段の「Royal」は、下段の「森真珠ロイヤルコレクション Collection」と比べ、相対的に大きな文字が使用されているし、「Royal」、「森真珠ロイヤルコレクション」及び「Collection」は、それぞれ分離されており、外観上、明確に識別されるので、本件登録商標と被告標章の間に外観の類似はない。加えて、観念の点においても、本件登録商標は、単に「高級な収集物」という観念を表すものに過ぎないのに対し、被告標章は、森真珠という被告会社の商号の要部が冠されているところから、被告会社における特定の高級な真珠にかかるシリーズ商品を意味するものであって、本件登録商標に表されている観念とは別個の観念を表している。したがって、両者は観念上明確に識別されるものであって、両者に観念の類似はない。

なお、原告は、被告標章について、「森真珠ロイヤルコレクション」と漢字及び片仮名で記された標章と、「Royal Collection」と英文字で記された標章を結合した結合標章であると主張するが、右の両者は常に一体として使用され、一個の標章が単に上下二段書きされているに過ぎないものであるから、原告の主張は誤りである。そもそも原告のいう「結合標章」とは、本来的には、異なる観念の文字と文字、図形と図形、あるいは文字と図形等をそれぞれ組み合わせた標章をいうが、右の両者は別個の観念を有するものではないから、それらが一体になった標章について「結合標章」というのは誤りである。

(2) 被告標章の要部からみた類否

被告標章の要部は、「森真珠ロイヤルコレクション」なる部分である。なぜなら、(一)に詳述したとおり、本件登録商標は自他商品の識別機能がなく(商標法三条一項三号ないし六号のいずれかに該当するものであり、そもそも商標登録の要件を充足しているか極めて疑問である。)、また、被告標章のうち、本件登録商標と共通する(本件登録商標では全て大文字であるという差異があるが)「Royal」なる文字も、「Collection」なる文字も、いずれも自他商品識別能力を有さず、被告標章が被告の商品を表示するものとして広く需要者に認識されているのは、これらの文字に、「森真珠ロイヤルコレクション」なる文字が加わったことによるものだからである。したがって、需要者において、本件登録商標の付された原告の商品と被告標章の付された被告の商品との混同を生じることは絶対にあり得ないことである。なお、原告は、被告標章のうち、「森真珠」について、商標法三条一項四号の商標に該当し、自他商品の識別機能を有しないと主張するが、被告標章から「森真珠」のみをとりあげれば商標法三条一項四号の商標に該当するかもしれないが、被告標章は「森真珠ロイヤルコレクション」なる部分が一体となって要部を形成しているのであるから、原告の主張は失当である。

(三) 本件登録意匠と被告標章の使用状況からみた類否

(1) 原告は「宝石貴金属の販売に当たり、該商品を納める例えばネックレスケース、指輪ケースや商品に添付した値札に本件登録商標を使用している。」と称して、その実例として検甲第一号証ないし第五号証を提出したが、そこに撮影されている標章(以下本件登録商標と区別する意味で「原告標章」という。)は、本件登録商標ではない。すなわち、原告標章では、「Royal」の部分と「collection」の部分が分割されて上下二段書きされてなるのに対し、本件登録商標は一段で連続し区切りもない。また、原告標章では、「Royal」の部分が筆記体の英文字であり(先頭のRのみ大文字であり、その余は小文字である。)、「collection」の部分が全部小文字の活字体の英文字によって横書きしてなるのに対し、本件登録商標は、全部が同一の大きさの大文字のゴチック体の活字体による英文字によって横書きしてなるものである。

本件登録商標と原告標章の間の右の相違は極めて重要である。原告は、本件登録商標について「ROYALCOLLECTION」と英文字で一連に横書きしてなるものと主張している。また、原告代表者は出願人として、本件登録商標の出願過程においても、昭和六〇年一一月五日付の拒絶理由の通知に対する意見書で、本件登録商標は「ROYALCOLLECTION」と同書・同大・同間隔をもって一連に書してなるものであるから、これからは「ロイヤルコレクション」の称呼のみが生ずること、仮に本願商標について「ロイヤル」の称呼が生ずるとしても、「ROYAL」の語及びそれから生ずる称呼はかなり多用されていて、多くの場合この後に別の語が続く可能性が高く、加えて「ROYAL」は「王の」、「王らしい」、「りっぱな」という意味を有し、これ自体が等級的な意味合いを有し、これ自体が自他商品識別力を強く有していないこと、「ROYALCOLLECTION」は出願人の造語であることを主張していたことは前記(一)(2)のとおりである。さらに、同人は、拒絶査定に対する審判請求書において、「…本願商標は「ROYALCOLLECTION」と同書・同大・同間隔を以て不可分一連に書してなるものである…」「現に、当出願人は宝石類の卸売業を長年にわたって営んでいるが、「ROYAL」と「COLLECTION」を併記したり、これを一連に書したりした使用の事実があるを知らない。」と述べている。

そうすると、原告標章は「ROYALCOLLECTION」と同書・同大・同間隔を以て不可分一連に書してなるものであるところの本件登録商標とは全く異なり、原告が原告標章を使用していたとしても(その事実関係自体被告は疑念を抱いている。)、原告が本件登録商標を使用していたことにはならない。

(2) 被告は、争点2に関する主張で詳述するとおり、原告が本件登録商標を出願する以前から、著名な宝飾デザイナーである田居克己(以下「田居」という。)のデザインにかかる真珠を主体とした宝飾品のシリーズ名として被告標章を使用してきたところであって、被告標章は、このような被告の小売部門における商品名として、一般の需要家に広く認識されてきたものであるから、本件登録商標と混同を生ずることはあり得ない。

二  争点2(被告に先使用権が認められるか)

1  被告の主張

(一) 被告の本店所在地である神戸市は、山梨県等と並び、日本でも有数の宝飾品業者が集中的に立地している都市であり、中でも真珠を専門とする業者が多く、被告もその一つである。

被告は、昭和四四年に設立された会社であるが、国内外の産地から仕入れた真珠の原珠の加工から、半製品の卸、輸出、再修正品の製品、卸、小売等々広範な分野にわたって真珠を取り扱っている。

被告は、昭和五五年、皇后陛下が御成婚のときに使用されたティアラ(宝冠)のデザインを担当した著名な宝飾デザイナーである田居を御木本真珠店から迎え、田居のデザインにかかる、真珠加工品を主体とした宝飾品をシリーズ化し、「森真珠ロイヤルコレクション」の名称で発売した。

以後、「森真珠ロイヤルコレクション」の名称を冠した一連の宝飾品は、被告の社業の発展とともに、その人気が高まっていったが、遅くとも本件登録商標の商標登録出願時である昭和五九年一一月一二日の時点では、需要者の間では、田居のデザインによる被告の宝飾品シリーズの名称として、広く認識されていた。

よって、被告は、商標法三二条一項に基づき、被告標章を被告商品に使用する権利を有する。

(二) 原告は、卸販売の業者に問い合わせても、被告が本件登録商標の商標登録出願時である昭和五九年一一月一二日の時点で被告標章を使用していた事実を知っている者はなく、特に、被告と密接な取引があったブレイ・ブッシェル・ジャパン株式会社(以下「ブレイ・ブッシェル・ジャパン」という。)ですらそうであるから、被告の先使用の事実は認められないと主張するが、被告標章は小売の場面で使用されるものであり、ブレイ・ブッシェル・ジャパン等、全く業態が異なる卸の業者がこれを知らなくても、何ら不自然ではない。

2  原告の主張

原告も宝石の販売業者であり、本件登録商標は原告の商号の要部でもある。それにもかかわらず、原告は、被告によって自社の名称が平然と過去に使用されていた事実を知らなかった。原告が卸販売の業者に問い合わせても、被告が本件登録商標の商標登録出願時である昭和五九年一一月一二日の時点で被告標章を使用していた事実を知っている者はなく、特に、被告と密接な取引があったブレイ・ブッシェル・ジャパンですらそうであるから、被告の先使用の事実は認められないというべきである。

三  争点3(原告に生じた損害金額)

(原告の主張)

被告の平成四年八月から平成五年七月末日までの間の一年間の売上総額は七〇億円以上であるが、そのうち、被告標章を使用した商品(真珠)の販売高は少なく見積もってもその二割である一四億円以上である。真珠等宝石、貴金属品の粗利益は他の業種に比べ非常に高く、六割ないし七割であり、少なくとも販売額に対する三割以上の純利益がある。そうすると、被告標章を使用した商品(真珠)の販売により、被告は右一年間で四億二〇〇〇万円の純利益を得ている。従って、該金額が原告の被った損害と推定される。

七〇億円×〇・二×〇・三=四億二〇〇〇万円

原告は、右損害のうち一億円を内金として請求する。

第四  争点に対する判断

一  争点2(被告の先使用権が認められるか)について判断する。

1  証拠(乙一九、二九、三〇、三二ないし三六、被告代表者本人)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 被告は、昭和四四年に設立され、当初は加工真珠の輸出を中心に営業を行ってきたが、昭和四九年ころから、神戸市の北野坂にあった当時の本店の隣のビルの四階にショールームを開設し、また、大阪を中心とする西日本の三越百貨店の宝飾品売り場にも商品を納めるなど、真珠関係商品の小売にも重点を置くようになった。

(二) 被告は、昭和五五年、真珠業界大手の御木本真珠店で戦後長年にわたりデザイン室長等を歴任し、現皇后陛下の御成婚時にそのティアラ(宝冠)をデザインするなど、皇室関係の宝飾デザイナーとして業界で著名であった田居を真珠加工品のデザイナーとして招聘(現在は被告の取締役)した。これは、国内における真珠加工品の需要が増え、デパートにおける売上が伸びる等の事情から、真珠それ自体や、単にそれをつなげただけのネックレスのような製品だけではなく、多様なデザインの加工品が顧客から要求されるようになったことによる。

被告は、田居のデザインした真珠加工品を当初は「田居克己コレクション」という名称で販売していたが、小売段階の顧客の間では、必ずしも田居の名が知られているとは限らないので、昭和五六年ころから、「森真珠ロイヤルコレクション」という名称で販売するようになった。この名称を選択したのは、田居が皇室関係の宝飾デザイナーであったことに因むものである。被告は、その際、田居に依頼して、被告標章をデザインしてもらった。

(三) 被告は、昭和五六年から、当時の本社ビルに設置されたショールームで、被告商品の展示会を年三回ほど開催し、また、大阪を中心とする西日本の三越百貨店においても随時展示会を開催している。更に、昭和五七年ころからは、東京・青山の森英恵ビルでも、被告商品の展示会を開始した。右の本社ビルにおける展示会は、平成元年に被告の本社が現本店所在地に移転してからも引き続き行われ、また、そのころから各地のホテル等でも展示会が行われるようになった。被告は、右各展示会の開催に際し、顧客にダイレクトメールを送付しているが、展示会を開始したばかりのころは、ダイレクトメールには特に商品の写真を掲載したパンフレット等を同封することはなく(当時は写真技術が拙劣でかえって商品イメージを損ないかねなかったからである。)、単に展示会を開催するのでお越しくださいという程度の「ご案内」にとどまっていた。展示会には、約二〇〇人から三〇〇人、多い時には五〇〇人程度の顧客が集まった。なお、被告は小売店を対象とした展示会は行わず、被告商品を直接末端の消費者に販売している。

右の展示会場には田居のデザインした真珠加工品も展示されるが、その数はせいぜい一〇個から二〇個程度であり、展示品全体からするとごくわずかなものである。これは、本来田居のデザインした真珠加工品は顧客からの個別注文に基づき製作されるものがほとんどであり、価格帯もいわゆる小物では二〇万円から三〇万円程度のものもあるが、本格的な製品ともなると数百万円に及ぶ高級品である(田居のデザインは、中子康雄や、有限会社ジュエリーノンによって製品化されるが、一つ一つ手作りで製作されるため、平均して月に二、三個の製作が限度である。)ことによる。したがって、普通は、田居のデザインした真珠加工品は、一つのケースに他の被告商品と共に陳列されるが、被告は、この場合、他の被告商品と区別するため、田居のデザインした真珠加工品の近くに常に被告標章を表示したプレートを置いている。また、田居のデザインした真珠加工品の出品数が多い場合には、右真珠加工品が陳列されたケースの上方に、天井から被告標章を表示した紙を垂らすこともあった。そして、田居のデザインした真珠加工品は、そのデザインの見事さから、展示会に来場した顧客の注目を集め、展示会のいわゆる目玉商品の役割を果たし、それに伴い遅くとも本件登録商標の出願当時においては被告標章は真珠を買い求める顧客の間で広く知られるようになった。

2  なお、証拠(検甲一ないし五〔枝番を含む〕、原告代表者本人)によれば、原告は、昭和六二年に設立された会社であるところ、そのころから、宝石貴金属の販売に当たり、該商品を納めるネックレスケース、指輪ケースや商品に添付した値札に原告標章(本件登録商標とは著しく外観が異なる。)を、伝票に「ロイヤルコレクション」という片仮名の標章を使用し、展示会の案内状など一連に横書きしてなる本件登録商標を印刷できるスペースがあるものにだけ本件登録商標を使用していることを認めることができる。

3  右1認定の事実によれば、仮に被告標章が本件登録商標に類似するとしても、被告標章は、本件登録商標の出願時である昭和五九年一一月一二日より以前である昭和五六年から、日本国内において、不正競争の目的でなく(被告が本件登録商標の存在を知りうるのは、2で認定した事実から、客観的にみて早くても原告標章の使用が開始された昭和六二年である。)、右登録出願に係る指定商品と同一の商品(真珠製品)について、被告により使用された結果、本件登録商標の出願当時、現に被告の販売する商品(真珠製品)を表示するものとして需要者の間に広く認識されるに至っていたこと、被告は、被告標章を、現在に至るまで継続して、被告の商品(真珠製品)について使用していることが認められる。したがって、被告は、商標法三二条一項に基づき、被告の商品(真珠製品)について被告標章を使用する権利を有するものというべきである。なお、商標法三二条一項により商標の使用をする権利が成立する要件としての周知性(当該商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていること)は、同法四条一項一〇号所定の周知性に至らない程度のもので足りると解するべきである。何故ならば、同法四条一項一〇号の適用が認められる場合には、先願主義に対する例外として、「周知」の商標を有する者に対し、先願者の商標権の成立を排除する権利を与えることになるのに対し、商標法三二条一項が適用される場合には、先願者が取得した商標権そのものを排除するのではなく、ただその行使が「周知」の商標を有する者との関係で制限されるに過ぎないからである。

原告は、右事実関係に関する反証として甲第七ないし第一三号証を提出するが、乙第三二ないし第三六号証及び被告代表者本人尋問の結果に照して考えるとき、当裁判所の右認定を変更することはできない。

二  結論

よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。

(裁判官 小澤一郎 裁判官 本吉弘行 裁判長裁判官庵前重和は転補につき署名押印することができない。 裁判官 小澤一郎)

日本国特許庁

商標公報 第21類

商標出願公告 平3-71769

公告 平3(1991)8月21日

審判 昭61-15059

商願 昭59-118744

出願 昭59(1984)11月12日

出願人 安本芳正

大阪府大阪市天王寺区南河堀町9番48号

天王寺スカイハイツ1013号室

代理人 弁理士 折寄武士

審判の合議体 審判長 川又澄雄

審判官 高橋久夫

審判官 須藤祀久

指定商品 21 宝玉、その他本類に属する商品

〔国際分類 3、8、10、14、18、20、21、24、25、26〕

〈省略〉

標章目録

〈省略〉

商標目録

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例