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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)4991号 判決

原告

株式会社甲野印刷

右代表者代表取締役

甲野一郎

右訴訟代理人弁護士

松井隆雄

被告

菱光証券株式会社

右代表者代表取締役

星野稔

右訴訟代理人弁護士

松下照雄

川戸淳一郎

竹越健二

白石康広

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は原告に対し、金三三四四万六八七四円及びこれに対する平成五年六月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告の営業担当者の勧誘を受けて被告からワラント(新株引受権証券)を購入した原告が、被告営業担当者の違法な勧誘行為によってワラントを購入させられ、うち二銘柄のワラントについて合計三三四四万六八七四円の損害を被ったとして、被告に対し民法七〇九条または同法七一五条に基づき右損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  被告は証券業を営む株式会社であるが、原告は、平成元年九月二二日、被告大阪支店に原告名義取引口座を設定して被告との証券取引を開始した。被告大阪支店の当時の営業担当者は訴外神野志周(以下「神野志」という。)であった。

2  原告は、平成元年九月二一日、以前から保有していた関西電力の株式一万株を被告大阪支店に設定した原告名義口座に持ち込んで売却し、翌二二日、右売得金でスペインファンド九〇〇〇口を購入した。さらに原告は、同月二二日、以前から保有していたNTTの株式一〇株を被告大阪支店の口座に持ち込んで売却し、スペインファンドを同月二五日に六〇〇〇口、同月二七日に一〇〇〇口購入した。

3  平成二年七月初め頃、神野志は、原告代表者甲野一郎(以下「甲野」という。)に対し、外貨建てワラントの購入を勧誘した。

4  神野志は、甲野に十条製紙の外貨建てワラント(以下「十条製紙ワラント」という。)五〇ワラントの購入を勧め、甲野はこれに応じて七月一八日、原告名義で右ワラントを購入し、被告に対し代金五九二万四八七五円を支払った。

右ワラントの権利行使期間は平成五年四月一五日までであった。

5  さらに神野志は、甲野に大京の外貨建てワラント(以下「大京ワラント」という。)一五〇ワラントの購入を勧めた。甲野は右勧誘に応じて七月二七日、原告名義で右ワラントを購入し、被告に対し代金二七五二万一九九九円を支払った。

右ワラントの権利行使期間は平成六年七月二六日までであった。

6  原告は十条製紙ワラント及び大京ワラントをそのまま保有していたが、右両ワラントは権利行使期間が経過したため無価値となった。

二  争点

1  神野志が甲野に対しワラントの購入を勧誘した際、違法な勧誘を行ったか。

(原告の主張)

ワラントはハイリスク・ハイリターンの性質を有する商品であり、権利行使期間が経過すると無価値になるなど危険性の高いものであるから、証券会社の担当者は、ワラントの購入を勧誘する際には、顧客に対し、ワラントの仕組み、特にワラント取引に伴う危険性について顧客が正当な認識を形成するに足りる説明を行うべき義務がある。ところが、神野志は甲野に外貨建てワラントの購入を勧誘した際、ワラントの仕組み、特に一定の行使期間内に権利行使しなければ無価値になること等その危険性について十分な説明をせず、かえって「ワラントは少ない資金で株より儲かる。一〇〇円値上がりしたら倍儲かる。社債であるから損をすることはない。」等とワラントが安全で有利な商品であるかのように述べた。

甲野は神野志からワラントの内容を説明したパンフレットを受け取ったことはないし、ワラントの取引説明書の交付を受けたこともない。

従って、神野志の右勧誘は説明義務に違反したものであり、違法な勧誘である。

(被告の主張)

神野志は、原告とのワラント取引に先立って、甲野に対し、被告作成のパンフレットを交付しながら、ワラントは新株引受権、即ち一定の価格(権利行使価格)で新規発行の株式を買い付ける権利であること、右権利には一定の行使期間が定められており、右期間が経過するとワラントは無価値となること、ワラントの価格は株価に連動して上下するがその価格変動の幅は株価の動きより大きくなること等ワラントの性質及び危険性について十分説明しており、説明義務違反はない。

2  原告が被った損害の額

(原告の主張)

十条製紙ワラント及び大京ワラントの購入代金相当の損害を被った。

(被告の主張)

原告は被告から他に二種類のワラントを購入し、利益をあげている。

第三  争点に対する判断

一  争点1(神野志の勧誘行為の違法性の有無)について

1  前記争いのない事実に証拠(乙B一ないし三、五ないし二六、証人神野志周、原告代表者本人)を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一) ワラントの特質

ワラントは、分離型の新株引受権付社債(新株引受権部分と社債部分とを分離して譲渡できるもの)のうち新株引受権を表章する有価証券であり、ワラントが表章する新株引受権は、あらかじめ定められた期間(権利行使期間)内に一定の価格(権利行使価格)で一定数の新株式を買い取ることが出来る権利である。ワラントの価格は株価に連動して上下するが、株価と比較してその変動の幅は大きく、投資金額全額を失う場合もあるなどハイリスク・ハイリターンな性質を有している。また、権利行使期間を経過するとワラントは無価値となる。さらに外貨建てワラントについては為替変動の影響も受ける。

(二) 原告の取引経験等

原告は昭和六二年三月頃、訴外和光証券において取引を開始し、同月約一か月間に約一億円を投資して日本電気等の株式を購入し、同月三一日から信用取引も開始した。その後、原告は数百万円から数千万円単位で現物取引及び信用取引を行い、さらに平成二年一一月にはオプション取引を開始し、平成四年六月まで頻繁に売買を行った。

原告は訴外日興証券においても昭和六二年九月頃に証券取引を開始し、昭和六三年三月には信用取引を開始した。その後、原告は数百万円から数千万円単位で信用取引を行い、平成元年一一月から平成四年六月までワラント取引を、平成二年一一月から平成四年六月までオプション取引を行った。

甲野は日本経済新聞を講読し、株価欄等を読んでいた。

(三) 被告との取引の経緯

平成元年九月頃、甲野は、友人からの情報に基づいて自ら投資判断を行い、原告の保有する株式を売却してスペインファンドを購入しようと決意し、当時三菱銀行今里支店に預けていた関西電力の株式一万株及びNTTの株式一〇株を引き出して売却しようとしたところ、同支店の岩崎から被告及び神野志を紹介され、証券取引を行うのであれば被告と取引して欲しいと勧められた。そこで甲野は、同月二一日、関西電力の株式一万株を被告大阪支店に設定した原告名義口座に持ち込んで売却し、翌二二日、右売得金でスペインファンド九〇〇〇口を購入し、被告との取引を開始した。さらに原告は、同月二二日、NTTの株式一〇株を被告大阪支店の口座に持ち込んで売却し、スペインファンドを同月二五日に六〇〇〇口、同月二七日に一〇〇〇口購入した。

その後神野志は、週に一、二度電話で、また月に二回程度原告の事務所を訪れて、スペインファンドの価格を知らせると共に自己の推奨する株式等の購入を勧誘したが、甲野が右勧誘に応じることはなかった。

(四) ワラントの勧誘状況

(1) 平成二年初め頃から株価が暴落し、スペインファンドの価格が下落したほか、原告が和光証券や日興証券で保有していた証券の価格が下落したため、原告は多大の損害を受けた。

そこで甲野は同年一月頃、神野志に対し、右損失を回復したいと同人の助言を求めたところ、神野志は外貨建てワラントの購入を勧めた。神野志は右勧誘の際、被告作成のパンフレット(乙B三)を示しながら、ワラントは新株引受権証券であり、株価に連動して価格が上下するが、その変動の幅は株価の動きに比べて大きくなること、ワラントにはあらかじめ権利行使期間が定められており、右期間が経過するとワラントは無価値になること、外貨建てワラントの売買は証券会社との間の相対取引であること、ワラントの価格については証券会社間の取引における価格が公表されているので、いつでも価格を知らせることが出来ること等を説明した。

(2) 甲野は右勧誘に対し、興味は示したものの結局購入するまでには至らなかった。神野志はその後も二、三回、甲野にワラントの購入を勧誘していたが、同年六月終わり頃、甲野は神野志の勧誘に応じ、スペインファンドを売却してワラントを購入する旨の意思表示をしたので、神野志はスペインファンドの売り注文を出した。

同年七月二日、スペインファンドが売却できたので、神野志は甲野にその旨報告するとともに日本鉱業の外貨建てワラントの購入を勧誘し、甲野は原告名義で右ワラント四〇ワラントを購入した。右勧誘の際、神野志は日本鉱業ワラントの価格、権利行使価格、権利行使期間について具体的に説明した。

神野志は同月五日、日本鉱業ワラントの受渡しを行った際、甲野にワラント取引説明書を交付し、甲野はワラント取引に関する確認書(乙B四)に原告の実印を押印のうえ、神野志に右書面を交付した。

(3) その後、神野志は甲野に対し、大京ワラントは新規発行であるから権利行使期間も長い等と述べて大京ワラントの購入を勧誘し、同月九日、甲野が右勧誘に応じたので、右ワラントの買い注文を出した。原告は同月一三日、日本鉱業ワラントを売却し、約一〇〇万円の利益を得た。そして、神野志の勧めにより、右売却代金で中越パルプの外貨建てワラント五〇ワラントを購入した。原告は右ワラントの売却により約一〇〇万円の利益を得た。さらに神野志は、甲野に十条製紙ワラント五〇ワラントの購入を勧め、甲野はこれに応じて同月一八日、原告名義で右ワラントを購入し、被告に対し代金五九二万四八七五円を支払った。

神野志は、右各ワラントについても、勧誘の際、甲野に対して日本鉱業ワラントの購入を勧誘したときと同様の説明を行った。

同月二七日、原告が買い注文を出していた大京ワラント一五〇ワラントの売買が成立し、原告は被告に対し代金二七五二万一九九九円を支払った。

(右認定に対し、甲野は、神野志はワラントの購入を勧誘した際、ワラントを買えば儲かると説明しただけでワラントの性格や危険性、何故ワラントが儲かるのか等について何ら説明していないが、自分は神野志を信頼してワラントを購入した、被告作成のパンフレットは日本鉱業のワラントを購入した後に示されたことはあるが、交付は受けていないと供述する。しかし、甲野は自らの投資判断に基づいてスペインファンドを購入していること、甲野は神野志がワラントの購入を勧誘した際も直ちに勧誘に応じて購入したのではなく、三、四回勧められて購入していること、甲野はワラント購入に至るまでの被告との取引において神野志の推奨した証券を購入したことはなく、甲野が神野志の言葉を無批判に信頼する程の信頼関係が両者の間に存在していたとは認められないこと並びに原告の投資経験に照らし、甲野が神野志の勧誘を鵜呑みにし、神野志に言われるままにワラントを購入したとの甲野の右供述は不自然というほかなく、信用できない。)

2  右1(一)で認定したとおり、ワラントはハイリスク・ハイリターンな性質を有する証券であり、権利行使期間が経過すると無価値になるなど危険性の高い商品であるから、証券会社またはその社員は、ワラントの購入を勧誘するにあたって、投資家に対し、投資家の職業、年齢、財産状態、投資目的、投資経験等に照らして、投資家が右危険性、商品の構造等について正当な認識を形成するに足りる情報を提供すべき義務があるというべきである。

これを本件についてみると、神野志は甲野に対し、平成二年一月頃から三、四回に亘ってワラントの購入を勧誘したが、その際神野志は、被告作成のパンフレットを示しながら、ワラントは新株引受権証券であり、株価に連動して価格が上下するが、その変動の幅は株価の動きに比べて大きくなること、ワラントにはあらかじめ権利行使期間が定められており、右期間が経過するとワラントは無価値になること、外貨建てワラントの売買は証券会社との間の相対取引であること、ワラントの価格については証券会社間の取引における価格が公表されているので、いつでも価格を知らせることが出来ること等を説明し、さらに各ワラントの購入を勧誘する際には個別にその権利行使価格、権利行使期間等を説明しており、甲野がワラントの商品構造、危険性等を正当に認識するに足りる説明は行っていると認められる。従って、神野志の甲野に対するワラント購入の勧誘行為について原告が主張する説明義務違反はない。

二  以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官將積良子 裁判官村上正敏 裁判官中桐圭一)

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