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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)11287号 判決 1995年7月11日

主文

一1  被告は、被服、はき物、かさの販売に当たつて、別紙第二物件目録記載の各標章を使用してはならない。

2  被告は、かばん類の販売に当たつて、別紙第二物件目録(1)及び(2)記載の各標章を使用してはならない。

二  被告は、原告に対し、金六一万四六五一円及びこれに対する平成五年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを二分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

五  この判決の第二項は、仮に執行することができる。

理由

第一  請求の趣旨

一  被告は、被服、はき物、かばん類、かさの販売に当たつて、別紙第二物件目録記載の各標章を使用してはならない。

二  被告は、前項の標章を付した被服、はき物、かばん類、かさを廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金一四三〇万円及びこれに対する平成五年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  仮執行の宣言

第二  事案の概要

本件は、別紙第一物件目録記載の各登録商標(以下「原告登録商標」と総称する。)に係る商標権を有している原告が、別紙第二物件目録記載の各標章(以下「被告使用標章」と総称する。)を付した被服(ネクタイを含む)を販売した被告に対し、被告使用標章の使用の差止め、被告使用標章を付した商品の廃棄及び一四三〇万円の損害賠償(商標使用料相当の損害金一〇〇〇万円、信用毀損による損害三〇〇万円及び弁護士費用一三〇万円の合計)を請求した事案である。

一  基礎となる事実

1  原告は、著名なデザイナー山本耀司を代表者とし、婦人・紳士服及び服飾雑貨についての企画の販売等を業とする会社であり、原告登録商標に係る商標権を有している。関連会社としては、株式会社ワイズ、株式会社ワイズフォーメン・ヤマモト、株式会社スーパーポジション、株式会社ヨウジヤマモトがあり(原告及び右各関連会社を総称して、以下「ワイズグループ」という。)、ワイズグループが原告登録商標を付した被服、はき物、かばん類及びかさを製造・販売している。原告は、原告登録商標を含むワイズグループの登録商標を保有し、これを一元管理している。

2  被告は、衣料品の輸出入及び販売等を業とする会社であり(争いがない)、いわゆる安売り専門の業者であるが(被告代表者、弁論の全趣旨)、ブローカーである訴え取り下げ前の共同被告水原浩行(以下「水原」という。)から、被告使用標章が織りネーム又は値札に付された被服(ネクタイを含む。以下「被告商品」という。)約二〇〇〇点を代金一三三〇万円で買い、これを訴外ゼンモール株式会社(以下「ゼンモール」という。)その他に販売した(争いがない。但し、被告商品の点数は被告代表者の供述によつて認められる。)。

3  被告使用標章のうち別紙第二物件目録(1)記載の標章は原告登録商標のうち別紙第一物件目録一及び二記載の商標と同一であり、同様に(2)記載の標章は三ないし五記載の商標と、(3)記載の標章は六及び七記載の商標とそれぞれ同一であり、また、被告商品は、原告登録商標のうち別紙第一物件目録一、三及び六記載の商標の指定商品に属することが明らかである。

第三  争点

一  被告が被告商品を販売した行為は適法か

(被告の主張)

被告が被告商品を販売した行為は、以下のとおり適法である。

1 原告は、原告によつて確認された被告商品の一部がいずれも商標権者である原告その他ワイズグループが製造し、かつ商標も自らの手で付したもの(いわゆる真正商品)であることを認めており、その他の被告商品も、これに付されている商品番号の様式等においてワイズグループが付すそれと一致しており、偽物と疑わせる要素は全くなく、原告が被告商品は偽物である旨の積極的な主張はしていないことからすると、被告商品はすべて真正商品というべきである。

2 ところで、商標権者が自ら商標を付した商品を頒布したときは、第三者のその後の頒布は商標権侵害とはならない(いわゆる商標権の消尽理論等)。ここにいう頒布は、もちろん商標権者の意思に基づいて頒布されたことを意味するが、これらの真正商品が現に流通過程に置かれているときは、商標権者の意思に基づいて頒布されたものと推定されるべきであり、これらの真正商品が商標権者の意思に基づかずに流通過程に置かれたということは商標権者が主張立証すべきである。

なぜなら、まず、真正商品の流通は、登録商標の持つ自他商品識別機能を何ら害するものではないので、特別の事情のない限り、商標法上排除すべき行為とはいえないからである。また、今日における商品の流通、とりわけ安売りの商品の流通については、複雑な過程を経るものが多いばかりでなく、こうした安価での販売はメーカーにとつて好ましい事態ではないので、放出する業者としてはそのことをメーカーに知られたくないため、放出先に対して仕入先を秘匿することを求めることも多くあり、その結果、流通過程のすべてを明らかにできない場合もある。そうすると、転々流通している安売りの商品について、その購入者において、その商品が商標権者によつて頒布されてから自己へ到達するまでの過程をすべて立証できなければ商標権を侵害したとみなされるというのでは、商品の購入者にとつて極めて酷であり、また、商品の流通、とりわけ消費者が安価に商品を入手することを阻害するという反社会的な結果をもたらすといわざるを得ない。

被告商品は前記1のとおりすべて真正商品であり、これが現に流通過程に置かれていたものであるから、原告の意思に基づいて頒布されたものと推定されるべきであり、したがつて、被告商品が原告の意思に基づかずに流通過程に置かれたということは原告が主張立証すべきものである。確かに、真正商品であつても、不良品などについては右のような推定を働かせるのは相当でないが、不良品の割合はごく少ないであろうから、そのような事情は特別の事情として商標権者たる原告が主張立証すべきものといわなければならない。

3 仮に、被告商品が真正商品であつても商標権者によつて頒布されたものであることについての立証責任が被告側にあるとの考え方に立つたとしても、本件においては、被告商品の大半がシーズン終了後に売れ残つた旧品(いわゆるキャリー物)であつたのであり、こうした旧品はいつたんは消費者に販売するためにワイズグループの手によつて流通過程に置かれた商品なのであるから、その後何らかの事情で商標権者の手元に回収されたものが商標権者の意思に反して他へ流出してしまつたというような後発的な事情は、商標権者の側で主張立証すべき事柄というべきであり、その立証がなされない限り商標権の侵害を認めるべきではない。

すなわち、被告がゼンモールに販売した被告商品の明細書記載の商品二三二点の中には、旧品リストという甲第一五号証の1ないし4に商品番号が記載されている商品が多数(八八点)含まれており、これらはいつたんワイズグループの手によつて流通に置かれた商品である。甲第一五号証の1ないし4に商品番号が記載されていない商品も、すべて正式の商品番号が付いているから、やはりいつたんはワイズグループの手によつて流通に置かれたものとみるべきである。また、ワイズグループでは、同一の商品番号で多数の商品を製造・販売しているとのことであるので、乙第二号証の明細書に甲第一五号証の1ないし4の旧品リストと同じ商品番号が記載されているからといつて、その商品番号の商品が廃棄処分される予定だつた商品であるということはできず、現に販売されて返品されなかつた商品である可能性も多分にあるといわなければならない。

何よりも、原告が廃棄処分を依頼したという訴外株式会社全公研(以下「全公研」という。)は、弁護士法二三条の二に基づく照会に対し、原告から平成四年一一月二〇日付で廃棄を依頼された物件は、原告関係者立会いのもとで即日廃棄しており、しかも原告からその件で全公研に対して何らの苦情申出もない旨回答している。そうすると、原告が全公研に廃棄を依頼した商品はすべて現実に焼却されたと考えるべきであり、被告商品は原告の意思に基づかずに流通過程に置かれたとする根拠はない。

(原告の主張)

被告が原告登録商標の使用権原を有することについて主張、立証がないから、被告商品の販売は適法とはいえない。

1 被告が水原から購入した被告商品が、すべて原告が製造し、かつ商標を付したものであるかどうかは知らない。

但し、平成五年三月下旬頃、被告商品をワイズグループの商品として通常の小売価格の半額程度で販売していた被告の店頭において、原告が被告商品のうち二〇点程を確認したところ、それらはすべてワイズグループが平成四年一一月二〇日に産業廃棄物として全公研に廃棄処分を依頼した商品(通常小売価格で合計約二億円相当)の一部であつた。

2 ワイズグループがこのように廃棄する商品の種類は、シーズン終了後の旧品、並びにもともと販売に適さない、縫製等が完璧でないキズ物及び展示会用のサンプル品である。旧品を廃棄する理由は、ワイズグループは春夏物及び秋冬物ごとにコンセプトを定め、これを被服、はき物、かばん類、かさ等の商品に表現して提案を行つていくという事業活動をしており、シーズンごとのデザイン性が極めて強く、ブランドイメージを維持するために必要だからである。ワイズグループの商品はワイズグループの直営店又はワイズグループと直接取引のある小売店で販売されているだけであり、シーズン終了後に売れ残つた商品は直営店又は小売店から回収され、それがある程度の量に達すると不定期に廃棄されるのである。

その際、旧品については、回収後にコンピューターに入力されたうえで(それをプリントアウトしたものが甲一五の1ないし4の旧品リストである)廃棄されるが、キズ物及びサンプル品については、コンピューターに入力されることなく廃棄される。したがつて、被告がゼンモールに販売した被告商品の明細書という乙第二号証に商品番号が記載されていて甲第一五号証に記載されていない商品は、廃棄処分されたはずのキズ物又はサンプル品である蓋然性が高いから、それらがいつたんワイズグループの手によつて流通に置かれた商品であるとの推定が働くものではない。

3 以上のように、被告商品のうち少なくとも原告の担当者が確認した商品は、右のとおり廃棄したはずの商品であり、また、その他の被告商品もワイズグループの商品の旧品、キズ物及びサンプル品であるとすれば、廃棄したはずの商品であり、被告において原告登録商標を使用する権原を有するものではない。

二  仮に被告に責任ありとした場合に原告に対し賠償すべき損害額

(原告の主張)

原告は、被告の商標権侵害行為により、次の1ないし3の合計一四三〇万円の損害を被つた。

1 商標使用料相当の損害金 一〇〇〇万円

原告は被告に対し、原告登録商標の使用に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を自己が受けた損害の額としてその賠償を求めることができるところ、原告登録商標が日本国内において極めて著名であること等を考慮すれば、原告登録商標の使用料は少なくとも小売価格の一〇パーセントが相当である。被告は平成四年一二月頃から本訴提起(平成五年一一月二四日)までの間に、水原から購入した通常小売価格にして合計一億円相当の被告商品を譲渡した。よつて、右一億円の一〇パーセントに当たる一〇〇〇万円が使用料相当の損害金となる。

2 信用毀損による損害金 三〇〇万円

原告商品は日本国内において極めて高い信用を得ており、原告登録商標は著名商標の一つとして、大きな顧客吸引力を有し、強い品質保証機能及び宣伝広告機能を有するものであり、ワイズグループはそのブランドイメージを維持するために多年労力及び費用を費やしてきた。他方、被告商品は、廃棄されるべき商品であるのに、安値で大量に販売されたものであり、そのために原告商品の信用が毀損されたから、原告は右1の損害だけでは到底償い得ない損害を被つた。その信用毀損による損害を評価すると、三〇〇万円となる。

3 弁護士費用 一三〇万円

被告の商標権侵害行為により、原告はやむなく本件について原告代理人に委任せざるを得なくなつた。その弁護士費用は、右1、2の合計額の一〇パーセントに当たる一三〇万円が相当である。

(被告の主張)

1 損害額についての原告の主張はすべて争う。

2 被告が水原から購入した被告商品の小売価格が合計で一億円であり、被告はこれらをすべて譲渡した旨の主張は否認する。

被告は、平成五年六月一七日に、水原から購入した約二〇〇〇点の被告商品のうち一八二七点を同人に返品した。

第四  争点に対する判断

一  争点1(被告が被告商品を販売した行為は適法か)について

1  前示のとおり、被告使用標章のうち別紙第二物件目録(1)記載の標章は原告登録商標のうち別紙第一物件目録一及び二記載の商標と同一であり、同様に(2)記載の標章は三ないし五記載の商標と、(3)記載の標章は六及び七記載の商標とそれぞれ同一であり、また、被告商品は、原告登録商標のうち別紙第一物件目録一、三及び六記載の商標の指定商品に属することが明らかであるから、被告が被告使用標章が織りネーム又は値札に付された被告商品を販売した行為は、格別の事由のない限り、原告の別紙第一物件目録一、三及び六記載の商標に係る商標権を侵害する不法行為を構成することになる。しかし、被告商品が、原告を含むワイズグループによつて適法に被告使用標章を付されたものであり、かつ、原告の意思に基づいて流通過程に置かれたものであれば、商標の機能である出所表示機能及び品質保証機能を害するものではなく、一般消費者に損害を及ぼすおそれもないから、商標権侵害としての違法性を欠くものというべきである。

2  《証拠略》によつて認められる事実は次のとおりである。

(一) ワイズグループは、各社ごとに毎年、春夏物、秋冬物につきそれぞれ一、二回ずつ商品の展示会を開催しているが、右各社は、展示会に展示する目的でいわゆるサンプル品を製作する。右サンプル品は、一品目ごとに、通常一点ずつ製作され、商品番号が付され、当該商品番号をスタンプで印字したタグが付けられる。取引先は右サンプル品を見て気に入つた商品をワイズグループに注文し、右注文を受けた各社は、注文数に応じて一品目当たり少ないもので五点、多いもので二〇〇点(通常五〇点から一〇〇点)の販売用商品を製作し、これらの商品に、対応する各サンプル品と同一の商品番号を付して、当該商品番号をスタンプで印字したタグを付ける。但し、サンプル品に付けられたタグは、商品番号(但し、手書きされることもある)及び上代価格がスタンプで印字される外、スタイル(商品名)、材質及び納期が手書きされるのに対し、販売用商品のタグは、スタイル(商品名)、納期の表示がなく、商品番号、材質及び上代価格がいずれもスタンプで印字されているので、右タグの体裁によりサンプル品と販売用商品とを区別することができる。

(二) ところで、ワイズグループにおいては、春夏物(販売期間はおおよそ一月ないし七月)及び秋冬物(販売期間はおおよそ八月ないし翌年一月)ごとにコンセプトを定め、これを被服、はき物等の原告の商品に表現して提案に行つていくという基本的営業方針をとつているため、当該シーズンに売れ残つた商品は、その時点ですべて販売店から返品を受け、ワイズグループの直営店において小売価格(上代価格)の七〇パーセント引き程度の価格で最終バーゲンセールを行つた後、なおかつ売れ残つた商品(旧品)を数年分まとめて廃棄(焼却)処分に付している。そして、このような旧品で廃棄予定のものは、一括してコンピューターに登録される。これに加え、コンピューターには登録されないキズ物やサンプル品も同様に廃棄対象となる。これら廃棄対象になる商品全体のうち九割以上が旧品であり、残り一割未満がキズ物及びサンプル品である。

今回、平成四年春夏物の販売が同年一〇月末日限り締め切られ、平成二年春夏物から平成四年春夏物までの売れ残りの商品が廃棄すべき旧品としてコンピューターに登録された(以下「本件旧品」という。その一覧表が甲一五の1ないし4の旧品リストである)。ワイズグループは、同年一一月二〇日、従前どおり全公研に対して本件旧品並びにキズ物及びサンプル品(上代価格合計約二億円相当)を廃棄処分するよう依頼した。廃棄処分に当たつては、通常はワイズグループ関係者が立ち会うが、今回は右商品をトラックに積み込む段階までしか立ち会わなかつた。

その後、右依頼日の一か月後である同年一二月二〇日付で四トンコンテナ二台分の繊維クズを廃棄処理した旨の産業廃棄物引受書が株式会社ワイズに送付されてきた。平成五年三月に株式会社ワイズから処理日について全公研に確認したところ、処理日付を廃棄処分依頼日と同日の平成四年一一月二〇日とした産業廃棄物引受書が送付されてきた。

(三) 一方、平成五年三月頃、ゼンモールは、渋谷店及び下北沢店において、DCアウトレットY’sコーナーという特設コーナーを設けて、ワイズグループの商品を全品上代価格の五〇ないし七〇パーセント引きで販売し、その旨のチラシ(甲一八、一九)を配布していた。ワイズグループは、東京地域に関しては直営店及び百貨店にしか商品を卸販売しておらず、ゼンモールはワイズグループの販売先に含まれていなかつた。そこで、ゼンモール渋谷店のチラシを入手した株式会社ワイズの営業部長である平野善明は、右商品が盗品である疑いもあるなどと考えて、同月二五日、ゼンモール渋谷店に赴き商品を確認したところ、販売されていた四〇点以上の商品すべてが間違いなくワイズグループの製造した商品で、本件旧品と製作時期が一致するものであり、販売用商品に付けられる正規のタグが付けられたものがほとんどであつたが、サンプル品に付けられるべき手書き部分のあるタグが付けられている商品が七点あつたので、そのタグのコピーを取つて持ち帰つた。右手書き部分のあるタグに付された商品番号によれば、右サンプル品は、すべて平成四年春物用のものであつた。平野は、ゼンモール渋谷店の者から、右商品の仕入れ先は被告である旨を聞き出した。

そこで、同月二九日、平野が大阪の被告方店舗に赴き調査したところ、被告使用標章を付した商品が二〇点以上置いてあり、いずれもワイズグループの製造した商品であり、本件旧品と製作時期が一致するものであつたが、中にキズ物(以下「本件キズ物」という。)や数点のサンプル品も含まれていた。更に、平野は、ワイズグループの釧路の取引先が業者から購入した被告使用標章を付した商品で、右業者が被告から仕入れたという商品もワイズグループの製造した商品であることを確認した。

(四) 一方、被告は、平成四年末頃、取引先である神戸市所在の株式会社ファッションライフサービスの代表者の紹介で水原を知り、水原から、東京の業者から仕入れた間違いない商品だと聞かされ、現実に商品を見て自己のブローカーとしての知識経験により確かにワイズグループの商品であると判断した上、水原の手持ちの商品のうち約二〇〇〇点(被告商品)を選択して代金合計一三三〇万円で購入した(被告は本件のような安売り商品は上代価格の合計一五パーセントないし二〇パーセントで仕入れるのが通常であり〔被告代表者〕、一方、被告代表者は、平成五年四月一二日の平野との電話による会話の中で、被告商品の上代価格の合計は約一億円である旨述べていたから、右購入代金に照らし、被告商品約二〇〇〇点の上代価格の合計は八八六七万円程度と認められる。)。

被告は、被告商品の一部をゼンモールに売却した外、北海道の業者を含む二、三社に売却し、更に被告方店舗で小売りもしたが、間もなく原告からクレームがついたので、右各売却先(ゼンモール外二、三社)から返品を受けた。その結果一八二七点が売れ残つてしまつたため、平成五年六月一七日に右売れ残り分をすべて水原に返品し、同人から残金は後日分割払いをするということでとりあえず三〇〇万円の返金を受けた。

その後、被告が水原に連絡しようとしても連絡がつかなくなり、同人は行方不明になつた。

3  以上の認定事実に基づき、前記1に説示したところに従い、被告商品が原告を含むワイズグループによつて適法に被告使用標章を付されたものであり、かつ、原告の意思に基づいて流通過程に置かれたものであるか否かについて、順次判断する(なお、被告は、真正商品が現に流通過程に置かれているときは、商標権者の意思に基づいて頒布されたものと推定されるべきであると主張するが、採用できない。)。

(一) まず、被告の購入先である水原がいかなる経路で被告商品を入手したかは、被告代表者の供述その他本件全証拠によるも全く不明という外はないが、株式会社ワイズの営業部長である平野は、平成五年三月頃、ゼンモール渋谷店が特設コーナーを設けてワイズグループの商品として販売していた四〇点以上の商品がすべて間違いなくワイズグループの製造した商品で、本件旧品と製作時期が一致するものであり、付けられたタグも販売用の正規のもの(ほとんどの商品)又はサンプル品用のもの(七点)であることを確認し、被告方店舗に置いてあつた二〇点以上の商品もすべてワイズグループの製造した商品であつて、本件旧品と製作時期が一致するものであることを確認し、更に、ワイズグループの釧路の取引先が業者から購入した商品で、右業者が被告から仕入れたという商品も、ワイズグループの製造した商品であることを確認したこと、これらの商品はいずれも、被告が現実に商品を見て自己のブローカーとしての知識経験に基づき確かにワイズグループの商品であると判断した上、水原の手持ちの商品のうち約二〇〇〇点を選択して購入した被告商品の一部であつたこと、そして、被告商品の中にワイズグループ以外の第三者が製造し又は被告使用標章を付したものであるとの意味での偽物が存在することを窺わせるような証拠は全くなく、ワイズグループの商品の偽物が出回つているという噂もなかつたことに徴すると、被告商品は、すべてワイズグループが製造し、適法に被告使用標章を付したものであると認める外はない。

(二) しかしながら、まず、被告商品のうちサンプル品、すなわち、被告がゼンモールに売却した平成四年春物用のサンプル品七点及び被告方店舗で小売りしていた、本件旧品と製作時期が一致するサンプル品数点(以上の合計を控え目に計算して一〇点と認め、以下「本件サンプル品」という。)について検討するに、証人平野善明の証言によれば、ワイズグループにおいては、サンプル品は各社ごとに毎年開催する展示会に展示してこれに基づき取引先から注文を受けることのみを目的として製作するものであつて、これ自体を販売するものではなく、ワイズグループによつて終始保管され、最終日に旧品及びキズ物とともに廃棄処分されるべきものであることが認められ、実際に本件サンプル品がワイズグループによつて販売されたと認めるに足りる証拠はない。のみならず、本件サンプル品は、その製作時期に照らし、いずれも平成四年一一月二〇日にワイズグループが本件旧品とともに全公研に対して廃棄処分を依頼した商品(上代価格合計約二億円相当)の一部であつて、何らかの理由で何者かの手に渡り、これを取得した水原から被告が買い受けたものと認めざるをえない。

被告は、この点について、全公研は、弁護士法二三条の二に基づく照会に対し、原告から平成四年一一月二〇日付で廃棄を依頼された物件は、原告関係者立会いのもとで即日廃棄しており、しかも原告からその件で全公研に対して何らの苦情申出もない旨回答していると主張し、右乙第一号証の2の回答書には、「(1)排出事業所『ワイズ』より平成四年一一月二〇日繊維くずをコンテナー二台分の廃棄を確かに依頼されました。(2)<1>依頼された物件はすべて、『ワイズ』立会いのもと、ダンプに積み込み廃棄しました。<2>株式会社神環保(処分場)に平成四年一一月二〇日に搬入し焼却炉の受入れピットに落とし込み、のち焼却炉に投入した。<3>『ワイズ』よりは、この件に関し何等苦情の申出はありません。」と記載されているが、廃棄処分に当たつては、通常はワイズグループ関係者が立ち会うが、今回は右商品をトラックに積み込む段階までしか立ち会わなかつたことは前認定のとおりであり、何よりも、廃棄されたはずの本件サンプル品が現に水原の手を経て被告に渡つていたのであるから、右回答書の記載をそのまま採用することはできない。

したがつて、被告商品のうちの本件サンプル品は、原告の意思に基づいて流通過程に置かれたものということはできない。

(三) また、被告商品のうち本件キズ物について検討するに、証人平野善明の証言によれば、ワイズグループにおいては工場で販売用商品を完成した段階でタグを付けるので、その後営業に回されてきた段階でキズ物であると判明しても、タグは付けられたままであり、そのまま保管されて、最終的には旧品及びサンプル品とともに廃棄処分されるべきものであることが認められ、本件キズ物は、その製作時期が本件旧品と一致し、本件サンプル品と同様本件旧品とともに廃棄処分の対象となつたものであるから、やはり、原告の意思に基づいて流通過程に置かれたものということはできない。

(四) 次に、被告商品のうち本件サンプル品及び本件キズ物を除く商品について、これが原告の意思に基づいて流通過程に置かれたものであるか否か検討する。

前認定によれば、ワイズグループは、平成四年一一月二〇日に、上代価格合計約二億円にも相当する本件旧品(すなわち、平成二年春夏物から平成四年春夏物までの売れ残り商品であつて、廃棄すべき旧品としてコンピューターに登録されたもの)並びにコンピューターに登録されないキズ物及びサンプル品の廃棄処分を全公研に依頼したにもかかわらず、本件キズ物及び本件サンプル品が現実には廃棄されることなく、何者かによつて横流しされ、水原の手を経て被告に渡つているところ、右何者かが廃棄処分の対象となつた右のような大量の商品の中から本件キズ物(一点)及び本件サンプル品(一〇点)のみを選択して横流しをし、偶然にも本件キズ物及び本件サンプル品のみが約二〇〇〇点の被告商品に紛れてすべて水原の手を経て被告に渡つたとするのはあまりにも不自然というべきであつて、本件キズ物及び本件サンプル品と一緒に大量の商品が横流しされたと考えるのが自然であり、しかも、被告が水原から被告商品を買い受けたのは、ワイズグループが右廃棄処分を全公研に依頼した平成四年一一月二〇日のわずか一か月ほど後のことであり、その際、水原は、本件キズ物及び本件サンプル品とその他の商品を特に区別することなくまとめて三回に分けて約二〇〇〇点の被告商品(上代価格合計約八八六七万円相当)を引き渡しており(被告代表者の供述)、この被告商品は水原が所持していたワイズグループの商品の一部であるから、水原が所持していたかかる二〇〇〇点を超える大量のワイズグループの商品、したがつて、約二〇〇〇点の被告商品の中には、右廃棄処分の対象となつたキズ物、サンプル品、本件旧品が相当多数含まれていたと推認するのが相当である。

また、被告は、水原から約二〇〇〇点の被告商品を代金一三三〇万円で購入し、その被告商品の一部をゼンモールに売却した外、他の二、三社に売却し、更に被告方店舗で小売りもしたが、間もなく原告からクレームがついたので、右各売却先(ゼンモール外二、三社)から返品を受け、その結果一八二七点が売れ残つてしまつたため、平成五年六月一七日に右売れ残り分をすべて水原に返品したというのであるから、被告は被告商品をゼンモール外二、三社及び消費者に最終的に一七三点販売したと認められる(被告がこれを超えて販売したと認めるに足りる証拠はない)ところ、被告がゼンモール外二、三社にいつたん売却した被告商品の数及び消費者に小売りした被告商品の数については、これを確定する明確な証拠が存しないが、被告代表者の供述によれば、被告がいつたん売却した被告商品の数は最終的に販売した数の二倍以上であつたというのであるから、右売却又は小売りをした被告商品は合計三五〇点程度であると認めるのが相当である(被告がこれを超える数の被告商品を売却又は小売りしたことを認めるに足りる証拠はない。原告は、被告は平成四年一二月頃から本訴提起〔平成五年一一月二四日〕までの間に通常小売価格にして合計一億円相当の被告商品を譲渡したと主張するが、採用できない。)。

そして、被告がゼンモール外二、三社にいつたん売却した被告商品及び消費者に小売りした被告商品合計三五〇点程度の中にも、当然、本件キズ物以外のキズ物、本件サンプル品以外のサンプル品、本件旧品が相当数含まれていたと推認するのが相当である。けだし、水原は被告に対し、前示のとおり、本件キズ物及び本件サンプル品とその他の商品を特に区別することなくまとめて三回に分けて約二〇〇〇点の被告商品(その中には、廃棄処分の対象となつたキズ物、サンプル品、本件旧品が相当多数含まれている)を引き渡しているのであり、被告も特に約二〇〇〇点の被告商品の中から商品を選択してゼンモール外二、三社に売却しあるいは消費者に小売りしたとの事実は本件全証拠によるも認められないし、《証拠略》により被告がゼンモールにいつたん売却したものと認められる商品番号のすべて異なる被告商品二三二点(但し、乙第二号証は、末尾が途中で切れてしまつているので、右二三二点は、被告がゼンモールに売却した商品の大部分であることは窺われるものの、そのすべてであると断定することはできない)のうち、その商品番号が甲第一五号証の1ないし4(《証拠略》によりワイズグループが平成四年一一月二〇日に全公研に対して廃棄処分を依頼した本件旧品のリストであると認められる)記載の商品番号と一致しない約三分の二の被告商品は、本件旧品ではありえないことになるものの、平野が平成五年三月二五日にゼンモール渋谷店で確認した際にタグのコピーを取つて持ち帰つた(本件サンプル品一〇点のうちの)サンプル品七点のすべてを含んでおり、ゼンモールは下北沢店でも渋谷店と同様のコーナーを設けてワイズグループの商品を販売していたにもかかわらず、右二三二点のうちサンプル品は右七点のみであつて、そのすべてが、偶然にも右確認の際にゼンモール渋谷店の、しかも二三二点の中のわずか四〇点程度の商品中のみに存在したとするのは不自然であるからである(右サンプル品七点の商品番号及び上代価格は、YZ-B26-200 ¥19000,YZ-B05-003 ¥16000,YZ-B90-028 ¥24000,YZ-P14-211 ¥36000,YZ-B06-028 ¥23000,YZ-B06-003 ¥16000,YZ-J18-103 ¥36000)。キズ物についても、これと同様にいうことができる。また、右二三二点のうち、その商品番号が右甲第一五号証の1ないし4記載の商品番号と一致する約三分の一の被告商品は、本件旧品と商品番号が同一であり、したがつて、製作時期が同じということになるが、前認定によれば、ワイズグループにおいては注文数に応じて一品目当たり五点ないし二〇〇点(通常五〇点から一〇〇点)の販売用商品を製作し、これらの商品に、対応する各サンプル品と同一の商品番号を付すから、同一商品番号が付された多数の販売用商品が存在することになり、本件旧品と同一の商品番号であるからといつてそのことだけから直ちに当該被告商品が本件旧品に属するものであると即断することはできないものの、平野が実際にゼンモール渋谷店で確認した四〇点以上の商品及び被告方店舗で確認した二〇点以上の商品はすべて本件旧品と製作時期が一致するものであるから、これらがすべて本件旧品に属しない平成二年春夏物から平成四年春夏物までの旧品(各シーズン中に販売店で売れ残つたにもかかわらず、販売店からワイズグループに返品されなかつた商品)とするのは不自然であり、本件旧品を含むものと考えるのが自然であるからである。

(五) 以上によれば、被告商品は、いずれもワイズグループが製造し、適法に被告使用標章を付したものではあるが、被告商品のうち、本件サンプル品を含むサンプル品及び本件キズ物を含むキズ物は、当初から原告の意思に基づいて流通過程に置かれたものとは認められず、その他の相当数の商品は、いつたんは原告の意思に基づいて流通過程に置かれたものの、回収されて本件旧品の一部として廃棄処分の対象となつたものであり、その後再び原告の意思に基づいて流通過程に置かれたものと認めるに足りる証拠はないから、結局、被告が被告商品のうち相当数の本件サンプル品を含むサンプル品、本件キズ物を含むキズ物、本件旧品をゼンモール外二、三社にいつたん売却し消費者に小売りした行為は、適法とはいえず、原告の別紙第一物件目録一、三及び六記載の商標に係る商標権を侵害する不法行為を構成するものといわなければならない(なお、被告の過失については、商標法三九条、特許法一〇三条により推定される。)。

二  争点二(被告が原告に対し賠償すべき損害額)について

1  商標使用料相当の損害金

原告は、商標法三八条一項に基づき被告が侵害行為により受けた利益の額をもつて自己の受けた損害としてその賠償を請求するのではなく、前記のとおり同条二項に基づき原告登録商標に対する通常の使用料相当額を請求するものであるから、被告が被告使用標章を付した被告商品をいつたん売却した以上、被告使用標章すなわち原告登録商標を使用したことになり、したがつて、右使用料相当額の損害の算定に当たつては、後に被告に返品された商品を含め被告が販売した被告商品の数を基礎とするのが相当である。

前認定によれば、被告がゼンモール外二、三社にいつたん売却した被告商品及び消費者に小売りした被告商品の合計数は三五〇点程度であるが、そのうち、その販売が不法行為を構成する本件キズ物を含むキズ物、本件サンプル品を含むサンプル品、本件旧品の数は、相当数に上るというだけで、その数を確定するに足りる証拠はないので、この点は、後記信用毀損による損害において考慮することとし、使用料相当の損害金としては、その数が明確な本件サンプル品(一〇点)及び本件キズ物(一点)の合計一一点を基礎として算定する外はない。

ところで、被告商品の小売価格(上代価格)の合計についても、これを確定する明確な証拠は存しないが、被告がゼンモールに売却した被告商品二三二点(但し、被告がゼンモールに売却した商品のすべてであると断定することはできない)の小売価格(上代価格)の合計は六一八万円であり、したがつて、一点当たりの平均は二万六六三八円と認められる。

そして、《証拠略》によれば、原告登録商標を付した商品は、日本国内及び海外において著名なものとなつており、そのブランドイメージが維持されていて、原告登録商標は、相当強い顧客吸引力、品質保証機能及び宣伝広告機能を有していることが認められる。かかる原告登録商標の知名度、信頼性等を勘案すると、原告登録商標の使用料は、小売価格の五パーセントとするのが相当である。

したがつて、原告が原告登録商標の使用に対し通常受けるべき金銭の額は一万四六五一円となり(二万六六三八×〇・〇五×一一=(約)一万四六五一)、被告は原告に対し右と同額の損害賠償をすべき義務があるというべきである。

2  信用毀損による損害

原告において廃棄対象とした本件キズ物を含むキズ物、本件サンプル品を含むサンプル品、本件旧品の相当数が現に被告及び被告の販売先であるゼンモール渋谷店等の店頭に販売目的で陳列され、一部は実際に売却されたことに鑑みると、原告登録商標に係る商標権侵害による原告の営業上の信用の毀損による損害は五〇万円と認めるのが相当である。

3  弁護士費用

原告が本訴の提起及び遂行に弁護士である原告代理人を選任したことは当裁判所に顕著であり、本件事案の内容、認容金額等諸般の事情を考慮すると、原告の負担する弁護士費用のうち一〇万円の限度で、被告の原告登録商標に係る商標権の侵害行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

第五  結論

以上によれば、被告が被告使用標章を付した被告商品すなわち被服(ネクタイを含む)を販売することにより現に侵害した原告の商標権は、前示のとおり別紙第一物件目録一、三及び六記載の商標に係る商標権であるが、被告の応訴態度その他弁論の全趣旨によれば、被告ははき物、かばん類、かさについても、被告使用標章を使用するおそれがあるということができるから、原告の原告登録商標に係る商標権に基づく差止請求はいずれも理由があることになる。但し、被告使用標章のうち別紙第二物件目録(3)記載の標章については、原告が差止請求の根拠とする商標権の指定商品は、被服・布製身回品・寝具類(別紙第一物件目録六記載の登録商標)及びはき物・かさ・つえ・これらの部品及び附属品(同目録七記載の登録商標)であつて、かばん類を含んでおらず、かつ、かばん類が右各指定商品に類似する商品であるともいい難いから、かばん類の販売に当たつて右第二物件目録(3)記載の標章を使用することの差止めを求める請求は、理由がないというべきである。

また、被告使用標章を付した被服、はき物、かばん類、かさの廃棄を求める請求について検討するに、そのうち被服(ネクタイを含む)については、前認定によれば、被告は水原から約二〇〇〇点を購入し、最終的に一七三点を販売し、売却先(ゼンモール外二、三社)から返品された分を含め売れ残つた一八二七点はすべて水原に返品したというのであり、他に被告が被告使用標章を付した被服を現に所持しているとの事実は本件全証拠によるも認められず、また、はき物、かばん類、かさについては、そもそも被告が被告使用標章を付したこれらの商品を購入したとの事実は本件全証拠によるも認められず、他に被告が現に被告使用標章を付したはき物、かばん類、かさを所持しているとの事実は本件全証拠によるも認められないから、前記廃棄を求める請求は、いずれも理由がないというべきである。

損害賠償請求については、前記第四の二の1ないし3の合計六一万四六五一円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成五年一二月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、これを超える請求は理由がない。

よつて、主文のとおり判決する(なお、主文第一項については、相当でないから仮執行の宣言を付さないこととする。)。

(裁判長裁判官 水野 武 裁判官 田中俊次 裁判官 本吉弘行)

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