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大阪地方裁判所 平成3年(行ウ)28号 判決 1993年12月21日

大阪府吹田市豊津町九番一五号

原告

日本興業株式会社

右代表者代表取締役

東原捷凱

右訴訟代理人弁護士

中西清一

小林俊康

佐藤裕己

松田俊明

大阪府吹田市片山町三丁目一六番二二号

被告

吹田税務署長 小坂均

右指定代理人

野中百合子

金政真人

大田保広

小山雅之

主文

一  被告がいずれも昭和六三年三月三一日付で原告に対してなした

1  原告の昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日まで及び昭和六〇年四月一日から昭和六一年三月三一日までの各事業年度の法人税についての更正のうち、別表12「認定」欄記載の金額を超える部分

2  昭和六〇年三月から昭和六一年三月までの源泉所得税に係る所得税の納税告知及び重加算税の賦課決定のうち、別表11「支払額」欄記載の支払額を超える部分

をそれぞれ取消す。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告がいずれも昭和六三年三月三一日付で原告に対してなした

1  原告の昭和五八年四月一日から昭和五九年三月三一日まで、昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日まで及び昭和六〇年四月一日から昭和六一年三月三一日までの各事業年度の法人税についての各更正

2  昭和六〇年四月一日から昭和六一年三月三一日までの事業年度の重加算税及び過少申告加算税の賦課決定

3  昭和六〇年四月一日から昭和六一年三月三一日までの事業年度以降の青色申告の承認の取消し

4  昭和五八年一一月及び昭和五九年一月から昭和六一年三月までの源泉所得税に係る所得税の納税告知並びに重加算税及び不納付加算税の賦課決定

の各処分をいずれも取消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、主としてパチンコ業を営む資本金三〇〇〇万円の株式会社であり、「ニツコー江坂店」、「江坂娯楽センター店」(以下「娯楽センター店」という。)等数店のパチンコ店を経営している。

2  本件の課税処分等の経緯は次のとおりである。

(一) 原告は、昭和五八年四月一日から昭和五九年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五九年三月期」という。)、昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日までの事業年度(以下「昭和六〇年三月期」という。)及び昭和六〇年四月一日から昭和六一年三月三一日までの事業年度(以下「昭和六一年三月期」という。)(以上の各事業年度を併せて、以下「本件事業年度」という。)の法人税につき、青色申告により、別表1「確定申告」欄記載のとおり、それぞれ、法定申告期限内に確定申告をした。

(二) 被告は、昭和六三年三月三一日付けで、原告に対し、昭和六一年三月期以降の青色申告の承認の取消し(以下「本件青色申告取消」という。)をするとともに、本件事業年度の各確定申告につき、別表1「更正及び賦課決定」欄記載のとおり各更正(以下「本件各更正」という。)並びに重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定(以下「本件加算税賦課決定」という。)をした。

(三) 被告は、右各更正処分に関連して、昭和六三年三月三一日付けで、原告に対し、昭和五八年一一月及び昭和五九年一月から昭和六一年三月までの源泉所得税に係る所得税について、別表2記載のとおり納税告知をするとともに重加算税及び不納付加算税の各賦課決定(以下右納税告知並びに重加算税及び不納付加算税の各賦課決定を併せて「本件納税告知等」という。)をした。

(四) 原告は、本件各更正、本件加算税賦課決定、本件青色申告取消及び本件納税告知等につき、昭和六三年五月二三日に異議申立てをし、被告は同年一一月二九日付けで異議棄却の決定をし、原告は昭和六三年一二月二九日審査請求をし、国税不服審判所長は平成二年一二月二五日付けで審査請求棄却の裁決をした。

二  主張

1  被告は、次のとおり本件各更正、本件加算税賦課決定、本件青色申告取消及び本件納税告知等の適法性を主張する。

(一) 法人税関係

(1) 本件各更正

原告の本件事業年度の所得金額等は、別表1「更正及び賦課決定」欄記載のとおりであり、その内訳は次のとおりである。

<1> 昭和五九年三月期

原告の所得金額は、別表3「昭和59年3月期」欄記載のとおり、原告の申告所得金額(同表項目番号1)に「加算」欄記載の金額(同表項目番号6及び7)を加算した金額(同表項目番号15)である。

右加算の理由は以下とおりである。

イ 駐車料金の売上除外(同表項目番号6)

原告は、「ニツコー江坂店」の駐車場の利用客から車両一台につき一〇〇〇円を受領するのと引換えに一〇〇〇円分のパチンコ玉引換券を交付し、「ニツコー江坂店」又は「娯楽センター店」でパチンコ玉と交換していた。

この駐車場利用客から受領する料金は、原告の売上として益金に算入するべきであるが、原告は右売上を帳簿等に計上せずにいた。

昭和五九年三月期における右売上除外金額は、一八五六万四八〇〇円である。

ロ 交際費の損金過算入(同表項目番号7)

原告は、昭和五九年三月期の確定申告において、接待交際費として六七一万〇七二九円を計上している。

しかし、租税特別措置法六二条による原告の交際費の損金算入限度額は三〇〇万円であるから、これを超える三七一万〇七二九円は損金に算入することができない。

<2> 昭和六〇年三月期

原告の所得金額は、別表3「昭和60年3月期」欄記載のとおり、原告の申告所得金額(同表項目番号1)に「加算」の欄記載の金額(同表項目番号6及び7)を加算した金額(同表項目番号15)である。

右加算の理由は以下とおりである。

イ 駐車料金売上除外(同表項目番号6)

昭和六〇年三月期における前記<1>イ記載の駐車料金の売上除外金額は三九七九万七六一〇円である。

ロ 交際費の損金過算入(同表項目番号7)

原告は、昭和六〇年三月期の確定申告において、接待交際費として六九二万二二一六円を計上している。

しかし、前記<1>ロ同様、三〇〇万円を超える三九二万二二一六円は損金に算入することができない。

<3> 昭和六一年三月期

原告の所得金額は、別表3「昭和61年3月期」欄記載のとおり、原告の申告所得金額(同表項目番号1)に、「加算」欄記載の金額(同表項目番号6、8及び9)の合計額(同表項目番号10)と「減算」欄の金額(同表項目番号11)との差額を加算し、これを前記からの繰越欠損金(同表「昭和60年3月期」欄項目番号19)に充当して零円となるが(同表項目番号15)、原告には租税特別措置法(昭和六二年法九六号改正以前のもの。以下同じ。)六三条に定める短期所有に係る土地の譲渡があるから、その譲渡利益金額(同表項目番号16)に、一〇〇分の二を乗じた金額(同表項目番号17)が法人税額となる。

右所得金額の加減及び法人税額の加算の理由は以下とおりである。

イ 駐車料金の売上除外(同表項目番号6)

昭和六一年三月期における前記<1>イ記載の駐車料金の売上除外金額は二二四三万九二〇〇円である。

ロ 架空の雑損失の計上(同表項目番号8)

原告は、昭和六一年三月期の確定申告において、大阪市北区曽根崎二丁目二一番一、同番六、同番七、同番九、同番一〇及び同番一一の土地(合計四六三・七二平方メートル)並びに同所二一番地所在家屋番号三二番の三木造瓦葺二階建店舗、同番地一所在家屋番号二一番一の一土蔵造瓦葺二階建居宅及び同番地一、同番地七、同番地九所在家屋番号二一番一の三鉄骨造亜鉛メツキ鋼板葺二階建遊技場の各建物(以下右各土地建物を併せて「当該土地建物」という。)の売却に要した費用(以下「雑損失」という。)として八億円を損金に計上している。

しかしながら、右売却費用は虚偽の売却委任契約に基づくものであり、損金として計上することはできない。

ハ 受取利息及び役員報酬(同表項目番号9及び11)

前記ロ記載の雑損失八億円の昭和六一年三月期末における留保形態は、原告の役員中山保二こと朴永洙(以下「中山」という。)に対する貸付金二億五〇〇〇万円と、架空の支払手形五億五〇〇〇万円であるが、右中山に対する貸付金二億五〇〇〇万円の利息相当額一二五〇万円は、同人への経済的利益の供与に当たるから、右利息相当額を、一方において、受取利息として益金に算入するとともに、他方において、中山に対する役員報酬として損金に算入するべきことになる。

ニ 土地譲渡利益金額及びその税額(同表項目番号16及び17)

原告は、昭和六一年三月期において、大阪市北区曽根崎二丁目二一番一、同番六、同番七、同番九、及び同番一〇の各土地(以下「二一番一等の土地」という。)、同番一一の土地(以下「二一番一一の土地という。)及び大阪市城東区鴨野西一丁目一八番二の土地(以下「鴨野西の土地」という。)を売却し、同事業年度の確定申告において、二一番一等の土地につき別表4「原告申告額」記載のとおり、右二一番一一の土地及び鴨野西の土地につき別表5記載のとおり租税特別措置法六三条に定める土地譲渡利益金額を申告したが、右二一番一等の土地の譲渡利益金額の計算は、正しくは別表4「原処分」欄記載のとおりであり、二一番一等の土地と、二一番一一の土地及び鴨野西の土地の各土地譲渡利益金額の合計額は別表5「課税土地譲渡利益金額の合計額」欄記載のとおりである。

右別表4「原処分」欄の土地の譲渡利益金額の計算の詳細は次のとおりである。

a 原価の欄(別表4項目番号7)

原告は原価の額を一六億七七九二万五〇〇〇円と計算しているが、これには昭和六〇年三月期に山本廸夫に支払つた立退料一九五〇万円が算入漏れとなつており、正しくは、一六億九七四二万五〇〇〇円である。

b 直接又は間接に要した経費の額の計算(同表項目番号8ないし12)

直接又は間接に要した経費の額の計算は、租税特別措置法施行令(以下「措置令」という。)三八条の四第六項に規定するいわゆる概算法により、別表六「原処分額」欄記載の二一番一等の土地の保有期間内に終了した各事業年度末の帳簿価格累計額三〇億三七七七万二九一六円に「負債利子」として六パーセントを乗じた額(別表4項目番号8)、「販売費及び一般管理費」として四パーセントを乗じた額(同表項目番号10)の合計三億〇三七七万七二九〇円となる。

なお、原告は、措置令三八条の四第八項に規定するいわゆる実額配賦法により、別表4「原告申告額」欄記載のとおり申告しているのであるが、同法施行令三八条の四第六項及び第八項によれば、直接又は間接に要した経費の額の計算は、「負債利子」、「販売費及び一般管理費」の区分ごとにすべての土地に共通して、概算法か実額配賦法のいずれか一方を用いて計算すべきものとされているところ、原告は二一番一一の土地及び鴨野西の土地につき概算法を用いており、原告の二一番の一等の土地の実額配賦法による計算には、「負債利子」の計算につき総資産に占める土地の割合によつて案分する方法によるべきであるのに、韓一銀行及びフクトクリースに係る利息のみを直接配賦している点、「販売費及び一般管理費」の計算に前記ロ記載の虚偽の売却委任契約に基づく売却費用八億円を配賦している点で合理性を欠くため、原告の二一番の一等の土地についても概算法を用いるべきこととなる。

したがって、原告の昭和六一年三月期の土地譲渡利益金額は、九億一四四八万四〇〇〇円となり(別表3項目番号16)、これに対する税額は一億八二八九万六八〇〇円となる(同表項目番号17)。

(2) 本件加算税賦課決定

<1> 重加算税

原告の、前記(1)<3>のイ及びロ記載の原告の売上除外及び架空の雑損失の計上は、国税通則法(昭和六二年法律九六号による改正前のもの、以下同じ。)六八条一項に該当するから、同項に基づき、原告に対し、別表1「重加算税」欄記載の重加算税が課されることになる。

<2> 過少申告加算税

前記一2(一)記載のとおり、原告の昭和六一年三月期の法人税につき、期限内申告書が提出され、これに対し更正がなされているところ、原告が、更正において納付すべき税額の計算の基礎となつた事実を、確定申告の税額の計算の基礎にしなかつたことに、国税通則法六五条四項に定められた正当な理由はないから、同条一項及び二項の各規定に基づき、原告に対し、別表1「過少申告加算税」欄記載の過少申告加算税が課されることになる。

(3) 本件青色申告取消

前記(1)<3>イ及びロ記載の原告の売上除外及び架空の雑損失の計上は、法人税法一二七条一項三号に該当するから、同項に基づき、原告の昭和六一年三月期以降の青色申告の承認は取消すことができる。

(二) 源泉所得税関係(本件納税告知等)

(1) 納税告知処分

原告は、前記(一)(1)<1>ないし<3>の各イ記載の売上除外に係る現金を、中山に渡し切りにしており、同人が最終的にこれを個人的用途に費消しているから、右売上除外金は、金額が中山に対する臨時的な給与に該当し、役員賞与となる。

また、前記(一)(1)<3>ハ記載の中山に対する経済的利益の供与に当たる同人への貸付金二億五〇〇〇万円の利息相当額一二五〇万円は、毎月定期的に発生するから、同人に対する役員報酬となる。

したがつて、所得税法一八三条一項により、原告には、中山の右役員賞与及び役員報酬につき、別表2記載のとおり源泉所得税を徴収し、納付する義務があるところ、右源泉所得税は法定納期限までに納付されていない。

(2) 加算税賦課決定

<1> 重加算税

右役員賞与は、各事業年度において、中山が売上除外を指示して個人的費消に充てたものであり、この行為は国税通則法六八条三項に該当するから、同項に基づき、別表2記載のとおり重加算税が課される。

<2> 不納付加算税

前記(1)記載のとおり、右源泉所得税は法定納期限までに納付されておらず、これにつき国税通則法六七条一項に定める正当な理由はないから、同項に基づき、別表2記載のとおり不納付加算税が課される。

2  これに対し、原告は次のとおり主張する。

(一) 駐車料の売上除外について

(1) 原告は、原告のパチンコ店の駐車場の駐車料金を徴収しないこととしており、「ニツコー江坂店」で駐車料金を徴収し、引換えにパチンコ玉引換券を発行し、パチンコ玉と交換していたのは、同店の現場責任者井手靖雄(以下「井手」という。)が、原告に無断でしたことである。

(2) 仮に、これが原告の売上に当たるとしても、右駐車料金の中から、パチンコ店につきものの暴力団等に用心棒代が支払われており、右暴力団等に支払われた金額はパチンコ店経営に必要な支出であるから、損金に計上されるべきである。

(二) 当該土地建物の売却委任契約に基づく八億円の支払について

原告は、当該土地建物の売却を大原光太郎こと金永乾(以下「大原」という。)に依頼し、当該土地建物が二二億二〇〇〇万を超える額で売却できれば、超過金額を大原に支払うこととし、原告が大原と無関係に当該土地建物を売却したときも、売却金額が二二億二〇〇〇万円を超えるときには、ペナルティーとして超過金額を大原に支払うこととした。

売却委任契約の有効期間内である昭和六〇年五月三〇日、原告は、大原の仲介によらず、当該土地建物を三〇億円で山友商事株式会社に売却した。そこで、大原から差額金八億円をペナルティーとして請求されたため、原告はこれを支払つた。

三  争点

本件の争点は、次のとおりである。

1  原告に駐車料金の売上除外はあるか、あるとすれば、その金額如何。

2  原告が大原に当該土地建物の売却を依頼し、右売却委任契約に基づき八億円を支払つた事実があるか。

第三争点に対する判断

一  駐車料金の売上場外について

1  乙第一四号証の一、二、第一六、第一七号証、第一九、二一ないし第二四号証によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告では、昭和五八年九月から昭和六〇年三月まで、「ニツコー江坂店」のビルのニ階から八階までの各階を「ニツコー江坂店」及び「娯楽センター店」の駐車場にし、客に車両一台につき一〇〇〇円で利用させ、右料金の支払と引換えに一〇〇〇円分のパチンコ玉引換券を交付し、「ニツコー江坂店」及び「娯楽センター店」で右引換券をパチンコ玉と交換しており、昭和六〇年三月「娯楽センター店」を廃業してからも、昭和六一年四月中旬までの間、右駐車場を引き続き「ニツコー江坂店」の駐車場にして、同様にパチンコ玉引換券を交付して、同店でパチンコ玉と交換していた。

(二) 右駐車料金は、当初、引換えられた引換券の枚数に応じて両店に配分され、両店から、駐車料金を含む売上金が、それぞれの店の仕入代、経費、釣銭等を控除して、当日中に夜間金庫を通して福徳相互銀行(現福徳銀行)江坂支店の原告名義の普通預金口座に入金されていたが、昭和五八年一〇月中旬ころから、右駐車料金は、両店を経ずに直接本社に現金で届けられるようになり、両店からは、各店での売上金のみが、仕入代、経費、釣銭等を控除して、入金されるようになった。

(三) ところで、原告では、各パチンコ店で日々の出入金をまとめた日計表を作成し、営業日の翌日に本社に提出していたのであるが、前記駐車料金も、当初「ニツコー江坂店」及び「娯楽センター店」の両店に配分されていたときには、両店の日計表の売上金額に含めて計上されていた。

しかし、右駐車料金が直接本社に届けられるようになった後、原告の実質的経営者である中山の指示により、「ニツコー江坂店」(乙第一四号証の一)及び「娯楽センター店」(同号証の二)の日計表の売上金額には、駐車料金額を除外した金額が計上されるようになり、原告の総勘定元帳にも、右日計表に記載された売上金額がそのまま両店の売上金額として記帳されるようになった。ところが、このような日計表の売上金額は、交換した玉数から算出されるコンピューターの集計表の売上金額と合わなくなることから、「ニツコー江坂店」では、本社に提出する日計表の欄外等に控除した駐車場料金額をメモしていた。

他方、中山及び東原は、各パチンコ店からの電話での報告やコンピューターの集計表を基に、各店の日々の売上金額を一万円単位の概数で手元のノート、手帳(乙第一一ないし第一三号証)に記録していたが、「ニツコー江坂店」及び「娯楽センター店」については、右駐車場料金額を含むものを右売上金額として記入していた。

(四) 直接本社に届けられるようになった駐車料金は、当時営業本部長であつた現原告代表者東原捷凱(以下「東原」という。)が、本社事務所に勤務する従業員で中山からの信頼が厚い丁某女が受け取って、本社の金庫に保管され、中山個人の生活費等に費消されていた。

2  以上の事実によれば、前記駐車料金は、結局、「ニツコー江坂店」及び「娯楽センター店」での遊技の対価と見るべきものであって、本件事業年度における原告の法人税の確定申告においては、右駐車料金相当金額も売上額として計上すべきである。

なお、原告は、駐車料金を徴収してパチンコ玉引換券を交付し、パチンコ玉と交換していたのは、井手が原告に無断でしたことであると主張する。

しかしながら、乙第一四号証の一、乙第二一ないし第二四号証、証人中山の証言によれば、右駐車料金が徴収され、これと引換えにパチンコ玉引換券が交付され、パチンコ玉と交換されていたことは、その当時から、中山、東野等原告の幹部や本社の経理担当者等が広く承知していたものであることが認められ、しかも、右認定のとおり、右駐車料金の徴収やその後の経理処理は、本社も含めて組織的に行われていたものであり、他方、井手について見れば、乙第二三、第二四号証により、同人は当時原告の専務取締役として、営業の総責任者の地位にあったとはいうものの、右駐車料金が徴収され、これと引換えにパチンコ玉引換券が交付され、パチンコ玉と交換されていたということまでを知つていただけで、これがどのように運用され、また、経理上処理されていたかは殆ど知らなかつたことが認められ、これらの各事実からすれば、前記駐車料金の徴収やその売上除外を、井手が原告に無断でしていたなどとは、到底考えることができない。

3  右駐車場料金の売上除外の金額については、乙第一一ないし第一三号証、第一四号証の一、二、第一五ないし第一七号証、乙第一八号証の一、二により、少なくとも、別表7ないし9記載のとおり、昭和五九年三月期には合計一八五六万四八〇〇円、昭和六〇年三月期には合計三九七二万八五一〇円、昭和六一年三月期には合計二一二二万二七〇〇円あつたことが認められ、これを超える被告の売上除外金額の主張(昭和六〇年三月期につき第二の二1(一)(1)<2>イ、昭和六一年三月期につき同<3>イ各参照)は認めるに足りる証拠がない。

すなわち、乙第一一ないし第一三号証は、前記1(三)記載の中山及び東原記入作成のノート等、乙第一四号証の一、二は同記載の日計表、乙第一五号証は原告の各パチンコ店の売上景品実績表、乙第一六、第一七号証は原告の公表売上金額が記載してある総勘定元帳であるが、右売上除外金額を認定する資料としての右各書類の関係については、以下のとおり判断した。

(1) 乙第一一、第一二号証は、前記認定のとおり、これに記載されている売上額は一万円単位の概数で表されてはいるものの、右認定の作成経緯からしても、これには正当な売上額が記載されているというべきであり、しかも、後記のとおり正当な売上額が記載されている乙第一四号証の一、第一五号証(ただしいずれも一部分)と対比すれば、右乙第一一、第一二号証に記載されている売上額は原則として一万円未満を切り捨てて算出してあるものであることが認められるのであつて、これによれば、右対比する証拠のない部分についても同様に算出しているものと推定できる。

(2) 右乙第一一、第一二号証と同じくパチンコ店からの報告に基づき記載された手帳である乙第一三号証については、それに記載されている売上額を右乙第一一号証、第一四号証の一と対比すると、右記載の売上額の中には、パチンコ及びパチスロの各売上金額につき、それぞれ一万円未満を乙第一一、第一二号証のように切り捨てではなく、四捨五入しているものがかなりの数に上ることが認められるのであり、したがって、他に正当な売上額を認定するための適確な資料がなく、乙第一三号証のみに基づいて売上額を認定しなければならない場合には(「ニツコー江坂店」については昭和六〇年四月一日から同年五月三一日までの期間、「娯楽センター店」については同年三月一日から同月一六日までの期間がこれに当たる。)、右期間の数値も四捨五入したものが記載されている可能性があるため、原告に不当に不利益になるのを防ぐために、パチンコ・パチスロの各売上額からそれぞれ五〇〇〇円ずつを控除した額をもって正当な売上額と認定する。

(3) 乙第一四号証の一、二は、前記乙第一一、第一二号証の売上額の記載と対比すれば、

<1> その売上額欄にパチンコとパチスロの売上額が各別に記載されている営業日のものについては、これらを合計した金額が正当な売上額と認められるのであり、他方、パチンコとパチスロに分けずに一括して売上額が記載されている営業日のものについては(「ニツコー江坂店」の昭和六〇年六月一日以降の期日の分参照)、<2>その欄外に数字が書き込んであるものは(これは駐車料金額を表していると認められる。)、右売上額にこれを加えた額が正当な売上額と認めることができるのであるが、<3>右欄外に数字の書き込みのない期日の分については、右乙第一四号証の一、二においては駐車料金額が判明しないため、これにより正当な売上額を認定することができず、したがって、この営業日の正当な売上額は、前記乙第一一ないし第一三号証、第一五号証により認定するほかはないのである。ちなみに、「娯楽センター店」の日計表である乙第一四号証の二は、すべてがパチンコとパチスロに分けずに一括して売上額が記載されており、しかも、右欄外の数字の書き込みもないため、「娯楽センター店」の売上額は右日計表により認定することはできない。

(4) 乙第一五号証については、<1>それに記載されている売上額が、乙第一一、第一二号証のノートに記載してある額(ただし、前記認定のとおり一万円未満は切り捨ててある。)と同じになっている期日のものは、右ノートの額が一万円単位の概数であるため、一万円未満の額まで記載してある乙第一五号証の売上額をもつて正当な売上額と認めることとするが、<2>右ノートに記載の売上額と食い違つている期日の分については(「娯楽センター店」の昭和五九年一月二日から同年二月五日まで同年一〇月一三日から同月二九日までの各期間の分参照)、ノートに記載された売上額をもつて正当な売上額と認定し、<3>乙第一五号証又は右ノート(乙第一三号証を含む)のいずれかにしか記載されていない期日の分については(「娯楽センター店」の昭和五九年二月四日の分など)、右に記載されている資料に基づいて認定される額をもつて正当な売上額と認めることとする。なお、乙第一三号証については、乙第一五号証に記載されている期日に対応する期日についての記載は全くない。

なお、原告は、右駐車料金が原告の売上に当たるとしても、右駐車料金の中から、用心棒代として暴力団等に支払われた金額はパチンコ店経営に必要な支出であるから、損金に計上されるべきであると主張する。

しかしながら、右主張は、損害として計上すべき金額の主張、立証がない点で、もとより失当というべきであるが、仮に右駐車料金の一部が暴力団等に用心棒代として支払われたという事実があったとしても、このような支出は営業維持のための正当かつ相当な支出とはいえず、損金として計上することのできないものというべきである。

二  大原に対する当該土地建物売却の委任及び八億円の支払について

1  乙第二二ないし第二六号証、によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、昭和五九年六月、その所有に係る当該土地建物のうち、大阪市北区曽根崎二丁目二一番一、同番七及び同番九の土地並びに同所二一番地一、同番地七、同番地九所在家屋番号二一番一の三鉄骨造亜鉛メツキ鋼板葺二階建遊技場の建物において、パチンコ店「ニツコー曽根崎店」を開店した。

(二) しかしながら、同店の営業成績が不振であつたことから、原告は、店舗を拡張し、また、やや離れた所にある景品交換所も近くに移して客の不便を解消して、同店の経営建直しを図り、昭和五九年九月下旬ころ、同店の西裏側にあった大森久雄こと金圭伯(以下「大森」という。)所有の大阪市北区曽根崎二丁目二一番六及び同番一〇の土地を購入することとし、同年一〇月、同人から右両土地及び同地上の家屋番号二一番一の一土蔵造瓦葺二階建居宅を譲り受けるとともに、そのころ釘岡美江子からも同地上にある同人所有の同所二一番地所在家屋番号三二番の三木造瓦葺二階建店舗及び同地借地権を譲り受け、また、同建物の賃貸人山本廸夫から同年一二月二七日までに同建物の明渡しを受ける旨の契約を締結した。

(三) ところで、昭和五九年一二月上旬ころ、たまたま当該土地建物を二五億円で売却してやろうという仲介者が現れたため、同人に売却委任状を渡したことはあったものの、特に原告において当該土地建物の売却先を探すというようなこともなく月日が経過し、昭和六〇年二月か三月ころに至つたところ、依然として「ニツコー曽根崎店」の経営は好転の兆しを見せなかったため、原告は、当該土地建物を売却してその代金で本社ビルを新築することにし、安田信託銀行大阪支店に売却の仲介を依頼した。そして、この話が近畿銀行茨木支店の支店長を介して株式会社山田組(以下「山田組」という。)代表取締役新庄英三(以下「新庄」という。)の耳に入り、中山と新庄の間で話合いがなされた結果、山田組が当該土地建物の買い手を見付けてきてくれたときには、本社ビルの建築は山田組に発注するということとなった。そこで、「ニツコー曽根崎店」は、昭和六〇年五月廃業し、同月三〇日、当該土地建物は、山田組の仲介により、坪当たり二二〇〇万円として代金三〇億八五九四万円で、山友商事株式会社(以下「山友商事」という。)に売却された。

(四) そして、山友商事から原告に、同日、右売却代金のうち当該土地建物中の大阪市所有の二一番一一の土地の代金二二四四万円を除く三〇億六三五〇万円が、現金一億一三五〇万円、保証小切手七枚合計二九億五〇〇〇万円で支払われ、残る右二一番一一の代金二二四四万円は、同地の払下手続き及び所有権移転登記手続が完了した昭和六〇年九月五日に保証手形で支払われた。

2  原告は、当該土地建物を山友商事に売却する以前に、原告から大原に「ニツコー曽根崎店」の売却を依頼していたのであり、昭和五九年八月二一日、乙第四号証の不動産売却委任契約書(以下「本件委任契約書」という。)が作成されたと主張する。

しかしながら、次の各点に照らせば、原告が大原に「ニツコー曽根崎店」の売却を依頼した事実はなく、本件委任契約書は虚偽のものと認められる。

(一) 原告が大原に「ニツコー曽根崎店」の売却を依頼し、本件委任契約書が作成されたとの事実を直接示す証拠は、証人中山の証言及び乙第一九ないし第二一号証(国税査察官の中山に対する質問てん末書)のみであるが、右証人中山の証言には、本件委任契約書の不動産の表示は当時の原告の代表取締役北村雅弘(以下「北村」という。)がメモしたものを記載したものであり、本件委任契約書に署名押印するときには、自分と大原のほか、北村、東原も同席していたとする供述部分があり、右乙第一九ないし第二一号証にも、本件委任契約書を署名する際、北村及び東原も同席していた旨の中山の供述記載がある。

しかしながら、北村は、乙第二五号証(国税査察官の北村に対する質問てん末書)において、中山と大原との間で「ニツコー曽根崎店」の売却の委任があったことも、その文書が作成されたことも知らず、ただ、昭和六〇年九月か一〇月ころ、中山から同店の売却の依頼を大原に口約束したことがあつたと聞いたことがあるだけである旨供述しており、また、東原も、乙第二二号証(国税査察官の東山に対する質問てん末書)において、本件委任契約書は昭和六〇年一月上旬、中山から突然見せられたものであって、その作成経緯は一切知らないと供述しており、前記証人中山の証言及び乙第一九ないし第二一号証の供述記載は極めて信用性が薄いものである。

(二) また、本件委任契約書は、委任の条件として、原告の売却代金の手取金額を二二億二〇〇〇万円と定め、委任契約の有効期間を昭和五九年八月一五日から昭和六〇年八月一五日までとし、原告が右有効期間内に大原を介さずに当該土地建物を売却した場合にも、原告は売却代金のうち二二億二〇〇〇万円を超える金額を大原に支払うものと定めており、原告に多大な制約を課すのに対し、大原に強い売却権限と大きな利益を与えるものといえる。ところが、本件委任契約書を作成した理由として中山が述べるところは、同人が「ニツコー曽根崎店」を売却しようかと考えていたところ、大原が買手を探してくれるようになり、同人から頼まれて本件委任状を作成したというにとどまり(証人中山の証言、乙第一九号証)、原告が大原に、このような条件で「ニツコー曽根崎店」の売却を委任しなければならないことを納得させるに足りる事情は見当たらない。

(三) しかも、前記認定のとおり、「ニツコー曽根崎店」は昭和五九年六月に開店したばかりであって、それからわずか二か月後の同店の売却を委任するというのは甚だ不自然なことであるし、もし本件委任契約書に定める委任契約があったとすれば、その有効期間内である同年一〇月に、前記認定のとおり、原告が同店の経営を建て直すため、大森らから大阪市北区曽根崎二丁目二一番六の土地等を譲り受ける等したということも極めて不可解なこととなる。

(四) 更に、本件委任契約書は昭和五九年八月一五日付けであるが、これを実際に作成した日について、中山は、本訴前に作成された乙第二〇及び第二一号証において、昭和五九年八月一五日に本社で作成した旨の供述をしていたところ、被告が、平成四年二月二五日付け準備書面で、乙第七、第八号証に基づき、中山が昭和五九年八月一五日に本社で本件委任契約書を作成することが日程上不可能であることを主張すると、その後、原告は平成四年九月一日付け準備書面で初めて本件委任契約書は昭和五九年八月二一日に作成されたものであると主張し、中山もまた、平成五年二月二三日の証人尋問において、昭和五九年八月一五日の五、六日後に署名押印された旨供述を変更しておりこのような中山の供述の変遷からみても、本件委任契約書の真実性は乏しいものといえる。

3  次に、原告は、当該土地建物の売却委任契約に基づき、大原に対し、昭和六〇年五月三〇日に現金で二億円を、同年一〇月一日に小切手で五〇〇〇万円を、昭和六〇年一〇月二日に五億五〇〇〇万円を約束手形七枚で支払ったと主張する。

しかし、以下の各点を総合すれば、右支払の事実もなかつたものと認めるのが相当である。

(一) まず、昭和六〇年五月三〇日の現金二億円の支払について、中山は、甲第六号証(中山の陳述書)及び乙第一九ないし二一号証において、昭和六〇年五月三〇日夕方四時ころから五時ころまでの間(ただし、乙第一九号証では、当該土地建物売却の日かその翌日としていたのを、乙第二〇号証で右のとおり特定している。)、原告の本社で北村及び東原も同席の上、大原へ二億円の現金を渡し、大原から領収書を受け取った旨供述している。

しかしながら、乙第八号証、第二六、第二七号証によれば、中山は同日、大阪市北区西天満にある渡辺法律事務所で当該土地建物の売却代金を受け取つた後、同法律事務所で会った客を堺筋本町まで送つて午後一時ころ帰宅し、午後六時まで自宅にいたことが認められる。

また、東原は、乙第二二号証で、同日午後五時ころ、大原が原告の本社に来て会長室で北村同席で中山に会った後、会長室から鞄と紙袋を持つて出てきたのを見たとはいうものの、自分は、その後、会長室に呼ばれ、中山から大原に二億円現金で払ったと聞いたのみであると供述し、右二億円の支払われる場には同席していなかったとしており、更に、乙第二五号証の北村の供述にあっては、中山が大原に売却委任代金を払うと聞いたこともなく、払ったところを見たこともないとしている。

(二) 次に、乙第六号証の一には、昭和六〇年一〇月二日、支払期日が昭和六一年四月二日から同月一五日までの支払手形七通額面合計五億五〇〇〇万円を振出したことを示す記載がある。

しかしながら、原告が支払手形決済のために作成している乙第五号証の資金繰表には、右手形七通の決済状況についての記載がない。なお、原告は右資金繰表に右支払手形に関する記載がないのは、中山が大原を説得してこれを取り返すつもりであつたためであると主張するが、中山は、甲第六号証、乙第二〇、第二一号証において、右手形は大原が刃物を持つて要求して来たため交付することにした旨の供述をしており、そうであるならば、大原が右説得に応じることは望むべくもなく、右原告の主張は採用できない。

また、大原に右手形を交付した時刻及び場所につき、中山は、乙第二〇号証において、九月末日か一〇月初めの日の午後の一時間前後、原告の本社会長室で、東原らが同席し、大原に現金五〇〇〇万円と五億五〇〇〇万円の手形を渡した旨供述しており、前記乙第六号証の一によれば、右振出の日は昭和六〇年一〇月二日と認められるのであるが、乙第八号証、第二七号証によれば、同日の午前一一時から午後三時三〇分までの間、中山は大阪市北区西天満にある中西弁護士事務所に行っていたことが認められる。

更に、乙第一〇号証、第三四号証によれば、前記昭和六〇年一〇月二日振出の支払手形七通は、福徳銀行江坂支店の大原名義の口座に振込まれていることが認められるのであるが、乙第九、第一〇号証によれば、右口座は、中山が同支店の次長小西慶一に、税金逃れのために個人名の普通預金口座を開設したいといって開設されたものであることが認められる。

(三) 更に、原告が大原に支払ったとする資金の流れにつき、乙第八ないし第一〇号証、第三〇ないし第六三号証、第六六ないし第六八号証によれば、次の事実が認められる。

(1) 原告が昭和六〇年五月三〇日山友商事から受け取つた小切手のうち住友銀行船場支店振出の一億円の保証小切手は、同年五月三一日三菱銀行梅田支店の大原一二三名義の普通預金口座に入金されているが、その後、同年六月四日同口座から一億円が出金されており、他方、同年六月六日福徳相互銀行江坂支店の曽栄子名義の通知預金として五〇〇〇万円二口合計一億円が預金されており、同口座には、同日、このほかに、同人名義の通知預金として二三〇〇万円の預金がされており、また、同人からの仮受金として、同年五月三一日八五〇万円、同年六月一日四五〇万円、同月三日一〇〇〇万円が原告に受け入れられている。

(2) 原告が昭和六〇年一〇月一日大原に振出したとする五〇〇〇万円の小切手は、同日、現金化されており、他方、同日、福徳銀行江坂支店の東原名義の通知預金に二〇〇〇万円が入金された後、同月一八日これが解約されているほか、同月二六日に一〇〇〇万円、同月三〇日一五〇〇万円が曽栄子からの借受金として、原告に受け入れられている。

(3) 昭和六一年四月二日支払期日の七〇〇〇万円の約束手形は、原告が、同日、近畿相互銀行茨木支店から前記福徳相互銀行江坂支店の大原名義の普通預金口座に振込入金して決済され、翌三日同口座から、同額が右福徳相互銀行の帯封のされた現金で出金されており、他方、同日、住友銀行江坂支店の原告名義の当座預金口座に六五〇〇万円が入金され、また、福徳相互銀行江坂支店の原告名義の当座預金口座に福徳銀行の帯封がされた現金で五〇〇万円が入金されており、右入金は、いずれも曽栄子からの借入金として処理されている。

(4) 昭和六一年四月四日支払期日の六〇〇〇万円の約束手形は、住友銀行江坂支店の原告名義の当座預金口座で決済され、福徳相互銀行江坂支店の大原名義の普通預金口座で取り立てられた後、同月七日、同銀行の帯封のされた現金で出金されており、他方、同日、住友銀行江坂支店の原告名義の当座預金口座に五〇〇〇万円が入金され、翌八日、福徳相互銀行江坂支店の原告名義の当座預金口座に五〇〇万円、同日締後扱いで、同口座へ四〇〇万円が、いずれも同銀行の帯封のされた現金で入金されており、右入金は、曽栄子からの借入金五九〇〇万円として処理されている。

(5) 昭和六一年四月七日支払期日の一億円の約束手形は、同日、住友銀行船場支店から山田組名義で福徳相互銀行江坂支店の大原名義の普通預金口座に振込入金されて決済された後、同月九日、同銀行の帯封のされた現金で出金されており、他方、同日、住友銀行江坂支店の原告名義の当座預金口座に二〇〇〇万円が入金され、中山の指示により、原告の運転手竹林秀二が電信振替依頼書を書いて、相互信用金庫尼崎支店から福徳相互銀行江坂支店の大原名義の普通預金口座に、夏山雅之名義で五〇〇〇万円が入金されており、同日、原告の会計処理において曽栄子及び夏山雅之から各五〇〇〇万円の借入金が計上されている。

(6) 昭和六一年四月九日支払期日の七〇〇〇万円の約束手形は、住友銀行江坂支店の原告名義の当座預金口座で決済され、福徳相互銀行江坂支店の大原名義の普通預金口座で取り立てられており、また、同日支払期日の五〇〇〇万円の約束手形は、前記(5)記載の夏山雅之名義により福徳相互銀行江坂支店の大原名義の普通預金口座への振込入金により決済されており、右合計一億二〇〇〇万円のうち、一億円は翌一〇日、同銀行の帯封のされた現金で出金されており、他方、同日、住友銀行江坂支店の原告名義の当座預金口座に八〇〇〇万円が入金され、また、同日、福徳相互銀行江坂支店の原告名義の当座預金口座に同銀行の帯封のされた現金で八〇〇万円、同日締後扱いで、同口座へ五〇〇万円が入金されており、右入金はいずれも 栄子からの借入金として処理されている。

(7) 昭和六一年四月一一日支払期日の一億円の約束手形は、住友銀行江坂支店の原告名義の当座預金口座で決済され、福徳相互銀行江坂支店の大原名義の普通預金口座で取立てられ、同月一五日、原告の総務部長毎熊保徳(以下「毎熊」という。)が竹林に書かせた出金伝票により、同口座から同銀行の帯封のされた現金で一億二〇〇〇万円が出金しており、他方、同日、住友銀行江坂支店の原告名義の当座預金口座に一億円が入金され、同日締後扱いで、福徳相互銀行江坂支店の原告名義の当座預金口座に三五〇〇万円が入金されており、右入金は曽栄子からの借入金として処理されている。

(8) 昭和六一年四月一五日支払期日の一億円の約束手形は、同月一四に毎熊が福徳相互銀行江坂支店に持込み、翌一五日、住友銀行江坂支店の原告名義の当座預金口座で決済され、福徳相互銀行江坂支店の大原名義の普通預金口座で取り立てられ、同月一九日、毎熊が、竹林に書かせた出金伝票により、同口座から同銀行の帯封のされた現金で一億三〇〇〇万円を出金し、その場で、福徳相互銀行江坂支店の原告名義の当座預金口座に五〇〇〇万円を入金し、近畿相互銀行茨木支店の原告名義の当座預金口座に二〇〇〇万円振込送金し、残金の三〇〇〇万円と三万円を持ち帰つており、原告においては、右一億円を同日付、曽栄子からの借入金として処理している。

(四) また、もともと、前記のとおり、本件委任契約書の不動産の表示欄には当該土地建物のうち、二丁目二一番六の土地等が記載されていないのであるが、当該土地建物は合計四六三・七二平方メートル(約一四〇坪)を坪当たり二二〇〇万円で代金三〇億八五九四万円で山友商事に売却されているものであるから、本件委任契約書に表示された土地の面積三四九・八四平方メートル(約一〇六坪)では、約二三億円となり、前記原告の手取額二二億二〇〇〇万円を超える分を大原が取得するとの約定を前提としても、大原に八億円を支払う理由はないことになる。

三  結論

1  本件更正について

以上の認定によれば、原告の本件事業年度の所得金額等は、別表10「認定」欄記載のとおりであり、その内訳については、昭和六〇年三月期及び昭和六一年三月期の駐車料金売上除外金額が前記一3記載の限度で認められるにとどまる点を除くほかは、被告の前記第二の二1(一)(1)記載の主張を相当と認める。(なお、受取利息及び役員報酬(同表項目番号9及び11)についてであるが、雑損失八億円のうち、原告が昭和六〇年五月三〇日大原に現金で支払つたとする二億円及び同年一〇月一日小切手で支払つたとする五〇〇〇万円合計二億五〇〇〇万円については、甲第一ないし第四号証によれば、原告の大原に対する仮払金として、いずれも昭和六〇年五月三〇日付けで各一億円二通、同年一〇月一日付けで五〇〇〇万円一通の振替伝票が作成されていることが認められるほか、前記二3(三)(1)(2)記載のとおり、金員の動きがあることからすると、右大原に対する仮払金とされた合計二億五〇〇〇万円に相当する金員は、その支出されたとする日以降、原告の実質的経営者たる中山が自由に運用消費できる状況にあったものとみるべきであり、前記二3(三)(1)(2)で認定したとおり、その一部は再び原告に受入れられているのであるから、これを全体として中山に対する貸付金と評価することができる。そして、右貸付金の受取利息は、別表13及び14のとおり、合計一六二八万八九〇一円と認めるのが相当であるが、被告の主張する受取利息相当額一二五〇万円はその範囲内であるから相当と認める。)

そうすると、本件更正は、別表12「認定」欄記載の限度で適法であり、これを超える部分は違法ということになる。

2  本件加算税賦課決定について

前記一1、二1、ないし3で認定した事実によれば、原告の昭和六一年三月期における駐車料金の売上除外及び架空の雑損失の計上は、国税通則法六八条一項に該当するものと認められ、また、同事業年度の更正において納付すべき税額の計算の基礎となつた事実を原告が確定申告の税額の計算の基礎にしなかったことにつき国税通則法六五条四項の定める正当な理由は認められないから、本件加算税賦課決定は相当と認められる(本件加算税賦課決定における重加算税賦課及び過少申告加算税は課税土地譲渡利益に関するものであつて、前記のとおり昭和六〇年三月期及び昭和六一年三月期の駐車料金売上除外金額が前記一3記載の限度で認められるにとどまることは、これに影響しない。)。

3  本件青色申告取消について

右原告の売上除外及び架空の雑損失の計上は、法人税法一二七条一項三号に該当するから、本件青色申告取消も相当と認められる。

4  本件納税告知等について

(一) 納税告知処分

(1) 役員賞与

前記一1(四)に認定した事実によれば、原告の駐車料金売上除外金は、中山に対する臨時的な給与に該当するものとみるべきであるから、中山に対する役員賞与と認められるが、前記のとおり昭和六〇年三月期及び昭和六一年三月期の駐車料金売上除外金額は前記一3記載の限度で認められるにとどまるから、本件納税告知等における右役員賞与についての納税告知処分は、別表11記載の限度で適法であり、これを超える部分は違法ということになる。

(2) 役員報酬

また、前記のとおり雑損失八億円のうち、原告が昭和六〇年五月三〇日大原に現金で支払ったとする二億円及び同年一〇月一日小切手で支払つたとする五〇〇〇万円合計二億五〇〇〇万円は、中山に対する貸付金と認められるところ、二億五〇〇〇万円の経済的利益の供与に当たる同人への利息相当額は、毎月定期的に発生するから、同人に対する役員報酬と認めるのが相当である。そして、その金額については、前記のとおり合計一六二八万八九〇一円と認められるが、被告の主張する受取利息相当額一二五〇万円はその範囲内であるから、右一二五〇万円を月割にした月一〇四万一六六六円を支払給与額とする本件納税告知等における右役員報酬についての納税告知処分は適法である。

(二) 加算税賦課決定

(1) 重加算税

右(一)(1)記載の役員賞与は、前記一1に認定した事実によれば、国税通則法六八条三項に該当するものと認められるところ、右のとおり昭和六〇年三月期及び昭和六一年三月期の駐車料金売上除外金額は前記一3記載の限度で認められるにとどまるから、本件納税告知等における重加算税賦課決定は、別表11記載の限度で適法であり、これを超える部分は違法ということになる。

(2) 不納付加算税

右(一)(2)記載の役員報酬の源泉徴収税の不納付につき、国税通則法六七条一項に定める正当な理由は認められないから、本件納税告知等における不納付加算税賦課決定は適法である。

5  よって、原告の本訴請求を一部認容するが、訴訟費用は原告の負担とする。

(裁判長裁判官 福富昌昭 裁判官 川添利賢 裁判官 安達玄)

別表1

課税の経緯

<省略>

別表2

納税告知等

<省略>

<省略>

別表3

申告及び更正等の内訳

<省略>

別表4 土地の譲渡等に係る譲渡利益金額の計算

<省略>

別表5 土地の譲渡等に係る税額の計算

<省略>

別表6 譲渡した土地等の帳簿価額の累計額の計算

<省略>

別表7 59年3月期

<省略>

別表8 60年3月期

<省略>

別表9 61年3月期

<省略>

別表10

申告及び更正等の内訳

<省略>

別表11

納税告知等

<省略>

<省略>

別表12

<省略>

別表13

「貸付金残高及び日数の計算」

<省略>

別表14

「利息相当額の計算」

<省略>

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