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大阪地方裁判所 平成3年(ワ)9723号 判決 1993年10月13日

原告

島津義雄

ほか二名

被告

主文

一  被告は、原告島津義雄に対し金四〇三万六三八三円、原告島津節子及び同島津浩子に対し各金二〇一万八一九一円並びに右各金員に対する平成三年一二月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを九分し、その一を原告らの負担として、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告島津義雄に対し金四四九万八一〇九円、原告島津節子及び同島津浩子に対し各金二二四万九〇五四円並びに右各金員に対する平成三年一二月六日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交通死亡事故の被害者の遺族が、被告に対し、自賠法七二条一項に基づき損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実など(書証及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含む。)

1  事故の発生

(1) 発生日時 平成二年一二月一九日午後二時ころ

(2) 発生場所 大阪市平野区平野南一丁目二番九号先府道大阪羽曳野線路上(以下「本件事故現場」という。)

(3) 加害車両 ライトバン、車種等不明

(4) 右運転者 不明(ひき逃げ)

(5) 被害者 原動機付自転車(以下「被害車両」という。)を運転していた島津サチエ(以下「亡サチエ」という。)

(6) 事故態様 亡サチエが被害車両を運転し、府道大阪羽曳野線を大阪府八尾市竹淵方面から大阪市東住吉区中野方面に進行して本件事故現場の丁字型交差点にさしかかつたところ、左方交差道路から前記府道に左折進行してきた加害車に衝突されて転倒した。

2  亡サチエの死亡

亡サチエは、右事故より第一腰椎椎体圧迫骨折の傷害を受け、松本外科病院に入院したが、平成二年一二月二七日、右病院で死亡した。

3  責任原因(弁論の全趣旨)

亡サチエは右事故により死亡したが、加害車両の保有者が明らかでないため、原告らは、自賠法三条により本件事故によつて生じた損害賠償を請求することができない場合であるから、被告は、原告らに対し、自賠法七二条一項により政令で定ある金額の限度においてその損害を填補する責任がある。

4  相続

原告島津義雄(以下「原告義雄」という。)は、亡サチエの夫であり、原告島津節子(以下「原告節子」という。)、同島津浩子(以下「原告浩子」という。)は亡サチエの子であり、亡サチエの死亡により、同人の損害賠償請求権を法定相続分に従い、原告義雄は二分の一、原告節子、同浩子は各四分の一の割合で相続した。

5  損害の填補

原告らは、被告から自賠法七二条一項前段に基づく亡サチエの死亡による損害の填補として一七二〇万三七八三円(傷害による損害分一〇万七四五四円、死亡による損害分一七〇九万六三二九円)の支払を受けた。

二  (争点)

1  過失相殺

2  事故と亡サチエの死亡との相当因果関係

3  損害額

第三争点に対する判断

一  過失相殺

1  争いのない事実、証拠(甲二、一五の2、10、検甲一の1ないし11、二の1ないし7、四、原告節子本人)によれば、以下の事実が認められる。

(1) 本件事故現場は、東西に延びる中央分離帯(鉄柵が設置され、対向車線への進入はできない。)のある片側各二車線の直線道路とこれに南からの道路(以下「交差道路」という。)が突き当たる信号機による交通整理のされていない丁字型交差点上であり、亡サチエが原動機付自転車を運転し、直進道路を東から西へ進行中、左方交差道路から自車の進路上に左折した加害車両と衝突し、転倒して尻餅をついたこと

(2) 被害車両には、左前泥除け部分が一部欠損し、左後部エンジンカバーの風抜け部分が一部欠損していたこと

(3) 本件事故後、亡サチエは本件事故現場から被害車両を押して原告ら肩書住所地である自宅まで帰宅したが、翌日背腰部に激痛を訴え、松本外科病院で受診したところ、第一腰椎椎体圧迫骨折と診断されたものであるが、事故の届出をしたのは四日後の平成二年一二月二三日であつたこと

以上の事実が認められる。

2  右事実によれば、本件事故において明らかなのは、信号機のない交差点で亡サチエが優先道路を直進中に、左折進入してきた加害車両と衝突したこと、事故後警察にも報告せず自宅まで徒歩で帰宅したことからすると事故態様が軽微であつたことが推認される程度である。

本件事故現場と同様な交差点における車両事故については、直進車にも前方不注視の過失を伴うことが多いため一割程度の過失相殺がなされる類型であることは当裁判所にも顕著ではあるが、本件事故においては亡サチエに前方不注視等の過失が存したかについては何ら明らかでなく、本件事故類型によつて亡サチエに過失があつたとして、過失相殺をすることはできない。

二  本件事故と亡サチエの死亡との相当因果関係

証拠(甲三、一五の1ないし17、一六、原告節子本人)によれば、亡サチエは、昭和五九年八月二〇日から甲状腺機能亢進症による高血圧、心房細動、心電図上の心筋傷害を伴う症状で、細川医院に通院し、抗甲状腺薬の持続的服用による治療を受けていたところ、本件事故にあつたものであること、本件事故当時、右疾患による症状は安定し、ほぼ正常の日常生活を送つていたこと、本件事故による第一腰椎椎体圧迫骨折のため、平成二年一二月二〇日松本外科病院で受診したが、医師の入院指示を一旦拒否し、帰宅したものの腰背部の疼痛が増強したため、同日、同病院に入院したこと、入院中の症状は重篤とされ、付添看護を要したこと、同日の心電図検査で洞不整脈、冠不全等の所見も認められ、本件事故による受傷の治療とともに強心剤等を併用加療していたところ、同日二七日容態が急変し、医師が診察したときには心肺停止し、心マツサージ等を施行するも効果なく死亡したことが認められる。

右事実によると、亡サチエには本件事故前から既往症が認められるが、本件事故当時は通院治療のみで症状が安定し、ほぼ正常の日常生活を送つていたにもかかわらず、事故後一週間後に心不全で死亡したのは、本件事故による受傷の程度、事故から死亡までの期間を考慮すると、本件事故によるものと認めざるを得ない。

三  損害(各費目の括弧内は原告主張額)

1  亡サチエの傷害による損害

(1) 付添看護費として二万八八〇〇円、入院雑費として三五〇〇円、文書料として三六〇〇円を要したこと、右損害が本件事故と相当因果関係を有することは当事者間に争いがない。

(2) 治療費(四万七七四〇円) 三万八四九〇円

証拠(甲四ないし六)によれば、亡サチエは平成二年一二月二〇日から同月二七日まで松本外科病院において国民健康保険により治療を受けた後死亡したこと、治療費として本人負担部分の三万五四九〇円、死後処置料として三〇〇〇円を要したことが認められる。

(3) 通院費(二一六〇円) 二一六〇円

証拠(甲三、七、原告節子)及び弁論の全趣旨によれば、亡サチエは平成二年一二月二〇日に松本外科病院に通院した後、同日夜、同病院に入院したこと、その際、病院との往復にタクシーを利用したが、同女の受傷部位、程度に照らし、タクシーの利用は止むを得なかつたこと、右代金として二一六〇円を要したことが認められる。

(4) 入通院慰謝料(一二〇万円) 二〇万円

亡サチエが、本件事故により第一腰椎椎体圧迫骨折等の傷害を受け、八日間入院治療後死亡したことは前記認定のとおりであること、本件事故がいわゆる引き逃げであること、その他諸般の事情に照らすと、入通院慰謝料としては二〇万円が相当である。

(5) 小計

右によると、亡サチエの傷害による損害は二七万六五五〇円となるが、前記のとおり被告から一〇万七四五四円の支払を受けているから、これを控除すると一六万九〇九六円となり、これを原告らが法定相続分に応じて相続することになる。

2  亡サチエの死亡による損害

(1) 逸失利益(一一八一万八三四六円) 一一八一万八三四六円

証拠(原告節子本人)及び弁論の全趣旨によれば、亡サチエは心臓病に罹患していたものの、概ね健康で、夫と娘二人家族の主婦として家事労働をしていた五七歳の女性であること、本件事故に遇わなければ六七歳まで稼働しえたことが認められるところ、逸失利益算定にあたり原告の収入については年間二四七万九二〇〇円(自賠責保険損害査定要綱の年齢別平均給与額表の五七歳女子による)とすることに当事者間に争いがなく、生活費控除は家庭状況に照らし四割とするのが相当であるから、これらを基礎にホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、逸失利益の現価を算定すると、一一八一万八三四六円となる。

(計算式)206,600×12×(1-0.4)×7.945=11,818,346(小数点以下切捨て、以下同様)

(2) 慰謝料(一八〇〇万円) 一八〇〇万円

本件事故状況、亡サチエの家庭状況等諸般の事情を総合すると、一八〇〇万円が相当である。

(3) 小計

右によると、亡サチエの死亡による損害は二九八一万八三四六円となるが、前記のとおり被告から一七〇九万六三二九円の支払を受けているから、これを控除すると一二七二万二〇一七円となり、原告らは法定相続分に応じて相続取得した。

3  原告らの損害

(1) 葬儀費(一一六万五五三八円) 一〇〇万円

証拠(甲一〇ないし一三)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故と相当因果関係の認められる亡サチエの葬儀費は一〇〇万円が相当であり、原告らは法定相続分に応じて負担したことが認められる。

(2) 弁護士費用(一五〇万円) 一二〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は原告義雄につき六〇万円、原告節子、同浩子につき各三〇万円と認めるのが相当である。

4  小計

ところで、本件事故当時の政令で定める自賠法七二条一項による填補額は傷害による損害につき一二〇万円、死亡による損害につき二五〇〇万円であることは公知の事実であるところ、傷害による損害については、既に支払われた一〇万七四五四円を控除しても、なお原告ら請求額である一六万九〇九六円の支払は可能であるが、死亡による損害については、亡サチエの死亡による葬儀費、弁護士費用を加えた損害額は一四九二万二〇一七円であるが、前記填補額二五〇〇万円から既に支払われた一七〇九万六三二九円を控除すると、七九〇万三六七一円となるから、原告らはこの限度で被告に対し損害の填補を請求できることになる。

以上によると、原告らの被告に対する損害額は、原告義雄につき四〇三万六三八三円、原告節子、同浩子につき各二〇一万八一九一円となる。

5  遅延損害金について

被告は、自賠法七二条一項の損害填補請求権は交通事故の被害者が本来有している私法上の請求権とは性質を異にする、同法条により新たに創設された保障請求権であつて、公法上の請求権と解されるべきであり、しかも自賠法及び関係法令中に右請求権に基づいて支払われる保障金の支払期日を徒過した場合に損害金を付して支払う旨定めた規定は何ら存在しないので遅延損害金を付して支払うことは予定されていないとして、同法条に基づき遅延損害金を請求することはできないと主張する。

そこで、検討すると、被告は、公法上の金銭債権には民法の規定が適用されないことを前提として主張しているものと解されるところ、国に対する右損害填補請求権が公法上の債権であるとしても、それだけの理由で直ちに民法の規定が適用されないとするのは相当ではない。むしろ、国を当事者とする金銭債権について、会計法で時効についてのみ民法の特則を定め(会計法三〇条ないし三二条参照)、他の事項については何ら規定がないのは、公法上の金銭債権でも時効以外の点については、原則として民法の規定を準用する法意によるものと解するのが相当である。

自賠法七二条一項の損害填補債務について、自賠法及び関係法令中に民法四一九条の規定の趣旨を排除するものと解される規定は存しないから、私法上の金銭債務に準じ、その支払期日について別段の規定が存しない以上期限の定めのない債務として民法四一二条三項により請求を受けた時から遅滞に陥り、同法四一九条により遅延損害金が発生するものと解するのが相当である。

四  まとめ

以上によると、原告らの本訴請求は、被告に対し、原告義雄が金四〇三万六三八三円、原告節子、同浩子が各金二〇一万八一九一円及びこれらに対する記録上明らかな本訴状送達の日の翌日である平成三年一二月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由がある。なお、被告の仮執行免脱宣言の申立については相当でないから却下する。

(裁判官 高野裕)

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