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大阪地方裁判所 平成3年(ワ)7016号 判決 1993年4月13日

原告

金本こと金重顕

被告

朝日正雄

主文

一  被告は、原告に対し、一三三万九九一〇円及びうち一二一万九九一〇円に対する平成二年二月一三日から支払済みに至まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対して、三六三万八六八五円及びうち三一六万四〇七四円に対する平成二年二月一三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、普通貨物自動車が交差点で右折のため停止していた普通乗用自動車に追突し、右乗用自動車の助手席に同乗していた者が頸椎捻挫、頭部外傷の傷害を負つた事故に関し、右被害者右貨物自動車の運転者に対し、損害賠償を求め、提訴した事案である。

一  争いのない事実等(証拠摘示のない事実は争いのない事実である。)

1  事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成二年二月一三日午後一〇時五分ころ

(二) 場所 大阪府茨木市太田一丁目六番一号先国道一七一号線路上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 被害車 訴外津田政和(以下「津田」という。)運転の普通乗用自動車(大阪五四ゆ六九七三、以下「被追突車」という。)

(四) 事故車 被告が運転していた普通貨物自動車(大阪四七わ九九六八、以下「追突車」という。)

(五) 事故態様 原告が同乗する被追突車に追突車が追突したもの

2  原告の治療経過

原告は、本件事故後、医療法人祐生会みどりケ丘病院(以下「みどりケ丘病院」という。)に、平成二年二月一四日から同月一八日まで通院し(実通院日数三日)、同月二〇日から同年三月二日まで入院し(一一日間)、同月五日から同年一一月四日まで通院し(実通院日数一六四日)、それぞれ頸椎捻挫、頭部外傷に関し、投薬、リハビリテーション等の治療を受けた。

3  既払額

被告から原告に対し、本件交通事故に関して次の支払いがなされている。

(一) 被告から原告に直接交付された治療費 三万一四〇〇円

(二) 保険会社から支払われた治療費 一〇八万一九〇〇円

(三) その他 一〇万円

合計一二一万三三〇〇円

二  争点

1  要治療期間

(被告の主張)

本件事故による原告の受傷は他覚的所見のまつたくない頸部痛のみの受傷であり、一週間から三週間で治癒に至るのが一般であるにもかかわらず、原告は延々治療を継続して受けているのは、原告の過去の既往歴、心因性等が原因と考えざるを得ない。したがつて、損害の公平な分担という見地に照らし、本件事故による損害に対する相当な賠償範囲は、せいぜい治療期間一か月を前提とすべきであり、仮にそれ以上の治療期間を前提にするとしても、損害について五〇パーセント以上を減ずる割合的認定事実をすべきである。

(原告の主張)

原告は、平成二年二月一三日に受傷し、その後一九日までは通院治療を受けながら電化製品展示会開催のためやむなくダイレクトメール発送の仕事を続けていたが、仕事が落ち着いたため、同月二〇日入院するに至つた。右入院中、原告が胃の検査を求めたところ、医師から退院を求められたため、同年三月二日退院し、以後同年一一月一四日まで通院し治療を受けたものである。右通院中、原告は頸椎捻挫、頭部外傷に起因する肩背上部の硬直及び圧痛、頭痛の症状を覚え、自宅で寝たり起きたりの療養生活を続けながら通院していたものである(通院には、医師の治療を受けたときは約三時間、リハビリだけの時は約一時間三〇分程度要している。)。なお、右通院中の診療録には数箇所に症状固定の時期、保険請求の可否に関する記載があるが、これは津田の車両の搭乗者保険を請求するに際し、津田の勤務先である大阪合同通運株式会社と安田火災との関係上、早期に治療を打ち切るよう津田並びに安田火災から要求されたため、友人たる津田の立場を考慮して症状固定とすべきか医師に相談した内容がメモとして残されたものであり、原告の客観的症状が症状固定にあつたことを示すものではない。

2  労働能力喪失期間及び休業損害

(被告の主張)

本件事故が原告の就労に影響を及ぼしたとしても三週間を限度とみるものである。しかも、原告の就労態様、利益分配の形態からして本件事故に起因する収入の減少は生じておらず、むしろ、平成二年の売上げは前年度を上回つているから、右三週間といえども損害発生を認めるべきではない。

(原告の主張)

原告の経営する北摂天満電器は、電化製品の販売、クーラーの取り付け、宅配便の配達等の仕事をしており、店主たる原告が事業に参加できなかつたため、仕事量が減少し、工事代金、宅配代金の売上が減少したことは明白である。原告は、自宅兼店舗にかかつてくる電話を取り次ぐことは可能であつても、必要な力仕事は不可能であつた。本件では右減少額の立証が困難であるため、平均賃金を基準に休業損害を算定しているにすぎない。なお、原告は、平成二年九月五日ころ、医師の勧めにしたがい、クーラーの取り外しを行つたが、直ちに肩、肺の強直が生じ、症状が悪化し、翌日の診療日にリハビリの担当者から注意を受けており、乙第一二号証の株式会社工事センターの作業日報は、資料の一部に過ぎない。

3  その他損害額全般

第三争点に対する判断

前記争いのない事実に加え、後掲の各証拠及び原告本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

一  要治療期間及び労働能力喪失期間について

1  原告が本件事故後、医療法人祐生会みどりケ丘病院に、平成二年二月一四日から同月一八日まで通院し(実通院日数三日)、同月二〇日から同年三月二日まで入院し(一一日間)、同月五日から同年一一月四日まで通院し(実通院日数一六四日)、それぞれ頸椎捻挫、頭部外傷の治療を受けたことは、当事者間に争いがない。

2  乙第一〇号証によると、この間の原告の治療経過は、次のとおりであつたことが認められる。

原告は、平成二年二月一四日の初診時、頸部痛が認められたが、運動は可能でレントゲン撮影でも骨折・脱臼等の徴候はなく、神経系統にも異常は認められなかつた。同月一九日、点滴をすると、少し楽だとの訴えであつたので、入院することになつたが、同月二〇日の入院時、手指の運動に問題はなく、神経系統その他に異常は認められず、頸部・両肩の若干の硬直が認められるのみであり、せいぜい一〇日間の入院で足りるものと見込まれ、同年三月一日の退院時、痛みは続いているとの訴えであつたが、頸部のコンピューター断層撮影でも異常は認められなかつた。

原告は、同月五日から同病院に通院し、主として運動療法、けん引等のリハビリを受けていたが、主治医は、同年五月二日、同月二一日には、同月末には症状が固定したとして、同年六月上旬には後遺障害診断をする予定であつた。そして、同月一六日、症状固定と認めいつたん後遺障害診断書を作成したが、原告の主訴は続いていたので、治療は継続していた(なお、同年五月二八日の診療録には、「後遺障害診断は、保険会社の用紙がはつきりしてから」との記載がある。)。

原告は、同年六月一八日、同病院の主治医に対し、時折調子が悪いという状態であるが、仕事を開始する旨告げたが、その際、保険の関係で毎日リハビリテーションを受けることが必要ではないかと心配している旨述べた(なお、同日の診療録には、「経過をみての終了の書類作成」との記載がある。)。

同年六月二七日、頸部に圧痛はあるが、レントゲン撮影、コンピューター断層撮影に異常は認められず、主治医は、症状は固定しており、健康保険に切り換えるべきではないかと考えた。同年七月一一日、原告の症状がやや軽減したので、主治医は、さらに経過をみていたところ、同年八月一三日、保険会社と話が進まず、まだ治療を打ち切れないとのことであつたので、治療を継続した。同年九月五日、脳神経に問題はなく、不全麻痺もなく、知覚障害も認められなかつたので主治医は、原告に対し、仕事をするよう勧め、さらに、同年一〇月一日、さらに、仕事をするよう勧めた。

3  甲第一二、一三号証の同病院の主治医であつた浪江和生(以下「浪江医師」という。)による原告訴訟代理人に対し回答している事実が認められる。

原告は、平成二年二月一四日の初診時、レントゲン撮影において骨傷は認められず、運動障害もなかつたが、頭部痛が存在した。原告は、同月二〇日から同年三月二日まで入院した。原告は、入院時、項頭部の筋緊張の亢進を認め、全身倦怠感があつたが、脳波検査、頸椎CT検査に異常は認められず、神経学的な異常は認められなかつた。原告は、退院後、リハビリテーションを中心に加療していたが、同年五月中旬までは著明な変化は認められず、一貫して項頭部の緊張は存在したが頸髄麻痺症状は認められなかつた。同年六月四日ころまでは自覚症状の改善が認められず、事故後の経過、時期より考えて症状は慢性化したものと考え、症状固定を勧めていた。同月一六日、一旦後遺障害の書類を作成したが、自覚症状が存在し、リハビリテーションでその日は多少症状が楽になると思われたので、通院を拒否はしていないが、同月二七日、健康保険に切り換えるよう勧めた。同年九月初旬ころから仕事への復帰を考えるよう指導したが、同年一一月一四日、自覚症状の訴えも減少したため、症状固定と判断した。

4  以上の事実によれば、原告は、平成二年二月一四日の初診時、同月二〇日から同年三月二日まで入院時、レントゲン撮影において骨傷は認められず、脳波検査、頸椎CT検査に異常は認められず、神経学的な異常や運動障害もなかつたが、頭部痛、項頭部の筋緊張の亢進、全身倦怠感が続いていたこと、原告は、退院後、リハビリテーションを中心に治療を受けていたが、同年五月中旬までは著明な変化は認められず、同年六月四日ころまで自覚症状の改善が認められなかつたため、主治医は症状が固定したものと判断していたこと、同月一六日、いつたん後遺障害の書類を作成したが、自覚症状が存在し、リハビリテーションでその日は多少の改善傾向がうかがえたので(なお、同月一八日、原告は就労を開始する旨主治医に告げた形跡がある)、通院を拒否はしなかつたものの、同月二七日、健康保険に切り換えるよう勧めたこと、主治医は、同年九月五日及び同年一〇月一日にそれぞれ原告に対し仕事へ復帰するよう指導していること、そして、同年一一月一四日、原告の自覚症状の訴えも減少したことから、主治医は症状固定と判断したことがそれぞれ認められる。

右治療経過に照すと、被告主張のように、本件事故による原告の傷害に関し、治療期間として相当と認められるのが本件事故後一か月であると断ずべき証拠はない。平成二年六月一六日以降の治療経過には、その必要性につき、種々疑問を抱く余地がないではないが、症状固定日とされる平成二年一一月一四日以前の治療につき、その必要性が全くないとまではいいきれず、被告の主張は採用できない。

しかしながら、主治医は一旦同年六月一六日には症状固定と判断している上(なお、同月一八日、原告は就労を開始する旨主治医に告げた形跡がある。)、その後、同月二七日、健康保険への切り換えを勧め、さらに、同年九月五日及び同年一〇月一日にそれぞれ原告に対し仕事へ復帰するよう指導していることなどを考慮すると、原告は同年六月一六日には就労が可能な状態となつていたものと認められる。したがつて、原告は、本件事故後、みどりケ丘病院を退院した同年三月二日までの一七日間は労働能力を一〇〇パーセント喪失していたが、その後、漸次右喪失割合は低減し、同年六月一六日には労働可能な状態になつていた(したがつて、同月三日から同月六月一六日までの間は平均して五〇パーセントの労働能力を喪失した)ものと認めるのが相当である。

二  損害

後掲の各証拠及び原告本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

1  入院雑費(主張額一万四三〇〇円) 一万四三〇〇円

原告がみどりケ丘病院に平成二年二月二〇日から同年三月二日まで一一日間入院したことは当事者間に争いがないところ、右入院中、雑費として一日当たり一三〇〇円が必要であつたものと推認するのが相当である。したがつて、その間の入院雑費は、一万四三〇〇円を要したものと認められる。

2  通院交通費(主張額六万六八〇〇円) 六万六八〇〇円

原告が、平成二年二月一四日から同月一八日まで(実通院日数三日)、同年三月五日から同年一一月四日まで(実通院日数一六四日)、それぞれみどりケ丘病院に通院したことは当事者間に争いがない。

当事者の主張等弁論の全趣旨によれば、原告はこれらの通院に当たりバス代として一回当たり往復四〇〇円を要したことが認められるから、同額に右一六七日を乗ずると、本件事故による交通費は計六万六八〇〇円と認められる。

3  休業損害(主張額二一三万二九七四円) 八三万八八一〇円

原告本人尋問の結果によれば、原告は、昭和八年八月一八日に生まれであり、高校を卒業し、住所地で、妻、長男夫婦、次男と共に、北摂天満電器店を営んでいることが認められる。

原告は、本件事故当時五六歳であつたところ、本件事故の年である平成二年の賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・旧中新高卒・男子労働者の五五歳から五九歳までの平均賃金は、五四二万七四〇〇円であることは当裁判所にとつて顕著な事実であるから、同人の本件事故当時の労働能力を評価すると、原告が主張する月額三五万九五〇〇円(日収一万一九八三円、一円未満切り捨て、以下同じ)を下まわらないものと解するのが相当である。

前記認定のとおり、原告の労働能力割合は、本件事故後、みどりケ丘病院を退院した同年三月二日までの一七日間は一〇〇パーセント喪失していたが、労働可能となつた同年六月一六日までの間、漸次低減し、よつて同年三月三日から同年六月一六日までの一〇六日間の喪失割合は、平均して五〇パーセントとみるべきことになることになるから、この間の休業損害を算定すると、次の算式のとおり、八三万八八一〇円となる。

11,983×17=203,711

11,983×0.5×106=635,099

4  入通院慰謝料(主張額九五万円) 四〇万円

本件事故の態様、原告の受傷内容とその後の前記治療経過、特に、平成二年六月一六日以降の治療経過にはその必要性につき種々の疑問を抱き得る余地があること、その他原告の職業、年齢及び家庭環境等、本件に現れた諸事情を考慮すると、慰謝料としては、四〇万円が相当と認める。

5  小計

以上1ないし4を合計すると、損害小計は一三一万九九一〇円となる。

三  損益相殺及び弁護士費用

原告が前記損害のてん補として、被告から原告に直接交付された治療費として三万一四〇〇円、保険会社から支払われた治療費として一〇八万一九〇〇円、その他一〇万円、合計一二一万三三〇〇円の支払いを受けたことは当事者間に争いがない。右金員中、治療費に対応する支払分は、治療費が原告の請求に含まれていないのみならず、本件では過失相殺が問題とならないから過失相殺対象額にも含まれないので、損益相殺の対象となるのは右治療費に対応する金員以外の一〇万円のみとなる。

前記損害小計一三一万九九一〇円から右一〇万円を差し引くと、残額は一二一万九九一〇円となる。

本件の事案の内容、審理経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としての損害は一二万円が相当と認める。

前記損害合計一二一万九九一〇円に右一二万円を加えると、損害合計は一三三万九九一〇円となる。

四  まとめ

以上の次第で、原告の被告に対する請求は、一三三万九九一〇円及びうち弁護士費用分を除いた一二一万九九一〇円につき本件事故の日である平成二年二月一三日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大沼洋一)

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