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大阪地方裁判所 平成2年(ワ)7418号 判決 1993年12月17日

原告

銀山克爾

被告

夜久野運送こと足立土男

ほか二名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金五三六万八七四五円及びこれに対する平成元年九月六日から支払済みまでの年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その二を被告らの、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金一三八七万八四六〇円及びこれに対する平成元年九月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、二台の対向車両による交通事故の結果、その一方車両である二トントラツクに衝突され、その所有建物を損壊された原告から、交通事故を惹起した一方車両運転者の使用者である被告足立土男、同足立弘に対し民法七一五条に基づき、他方車両の運転者である被告粟野恵美子に対し民法七〇九条に基づき、修復費用等の損害賠償をそれぞれ請求(一部請求)した事案である。

一  争いのない事実など

1  原告所有建物(争いのない事実、甲六、七)

原告は、左記建物(以下「本件建物」という。)を所有し、これを事務所兼住居として使用している。

所在地 兵庫県多紀郡篠山町二ノ坪字片田一九一番地七

構造 鉄骨造亜鉛メツキ鋼板葺三階建

用途 事務所兼居宅

床面積 一階 三七・〇七平方メートル

二階 三七・〇七平方メートル

三階 四〇・三一平方メートル

2  事故の発生

(1) 発生日時 平成元年九月五日午前五時五五分ころ

(2) 発生場所 兵庫県多紀郡篠山町二之坪片田一九一―七(国道一七三号線)

(3) 関係車両

<1> 訴外田中吉信(以下「田中」という。)運転の普通貨物自動車(二トントラツク、以下「田中車」という。)

<2> 被告粟野恵美子運転の軽四貨物自動車(以下「粟野車」という。)

(4) 事故態様 田中車と粟野車が接触事故を起こし、その結果、本件建物に田中車が衝突し、同建物を損壊したもの

3  被告らの責任

本件事故は、田中及び被告粟野の前方不注視の過失により惹起されたものであり、また、田中は被告足立土男、同足立弘の営む夜久野運送の従業員であり、その業務中惹起されたものであるから、被告粟野は民法七〇九条により、被告足立土男、同足立弘は民法七一五条により原告の損害を賠償する責任を負うことになる。右責任を明らかにするため、平成元年九月五日、被告らは原告に対し、<1>本件交通事故については被告らに過失があること、<2>本件建物を被告らの責任と負担で事故前の状態に修復すること、<3>本件事故によつて生じたその余の損害についても全面的に賠償に応じることを確約した(右合意は、その文言に照らすと、本件不法行為による損害賠償義務を確認したに止まるものと認めるのが相当で、原状回復義務を認めるものではない。)。

二  争点

1  本件事故による本件建物の損壊の程度

2  損害額、とくに本件建物の修復費用

第三争点に対する判断

一  本件事故による本件建物の損壊の程度

1  証拠(甲四、鑑定の結果、証人岡本泰行、原告本人)によれば、以下の事実が認められる。

(1) 昭和六二年五月ころ、本件建物が完成し、二階、三階部分を原告が事務所兼自宅として使用し、一階部分は完成以来空室でテナントを募集していた。

本件建物の内外仕上げの大部分は木造軸組の上にボード類の張り付け、左官仕上げの上にペイント塗装、クロス貼りであり、下地は木造軸組でボードは胴縁に釘打ち止め、左官仕上げはバラ板張りである。

(2) 本件事故後の平成元年一〇月二日から五日まで、構造総合技術研究所により本件建物の、<1>基礎調査、<2>内外装及び外周回りの損傷調査、<3>浸透探傷試験及び超音波探傷試験による接合部の調査、<4>ボルトのゆるみ調査、<5>柱及び建物の傾斜量測定、<6>大梁間のスパン測定、<7>木造柱の損傷調査、<8>木造柱補強後の振動測定の各調査がなされた。その結果は以下のとおりであつた。

<1> 基礎の調査において、地面より露出している基礎(柱脚部)四本について目視調査を行つたが、ひび割れ等の損傷は認められず、また、田中車が衝突した北西の鉄骨柱(以下「B通り<1>柱」という。なお、北東の鉄骨柱を「B通り<2>柱」、南西の鉄骨柱を「A通り<1>柱」、南東角の鉄骨柱を「A通り<2>柱」という。)について地中梁まで掘り起こしたが、この部分についても損傷が認められなかつた。

<2> 内外装及び外周回りの損傷調査は目視により行われたが、その結果は(なお、本件事故と因果関係があるかは一先ず置く。)、

ⅰ 建物内部の損傷

一階

車両が衝突した木造柱 折れ

車両が衝突した鉄骨 傷

B通り<1>柱北面天井と柱仕切り部 裂け

B通り<1>柱東面柱脚部床コンクリート 割れ

玄関天井見切り部 裂け

A通り<1>柱南面内装材 裂け

B通り<1>―<2>間梁下端内装材 隙間

南側内壁下部内装材 裂け

A通り<2>柱南面内装材 裂け

A通り<1>柱左横天井材 たるみ

三階

B通り<1>柱北面上端内装材 裂け

A通り<1>柱南面内装材 裂け

南側内壁上部内装材 裂け

ⅱ 建物外部の損傷

玄関入口コンクリート 割れ

玄関入口右横木造柱外壁 割れ

犬走り北西角部コンクリート 断面欠損

建物西側犬走りと土間コンの境界部 割れ

建物西側犬走り 割れ

建物西側土間コンクリート 割れ

建物西側外壁下部 割れ

建物南側外壁 割れ

といつたものであつた。

<3> 接合部の調査は、前記四本の鉄骨柱等に対し、その表面の割れなどの欠陥を検出するために浸透探傷試験を行つたが、割れによる指示模様は認められなかつた。また、接合部の内部の割れなどの欠陥を検出するために超音波探傷試験を行つたが、これも欠陥エコーは認められなかつた。

<4> ボルトのゆるみ調査は、各部材の接合ボルトについてトルクレンチを使用して検査トルク値を負荷することによつて、一階及び二階の接合ボルトに対し行つたところ、ボルトのゆるみは認められなかつた。

<5> 柱及び建物の傾斜量測定は、衝突したA通り<1>柱については糸を柱横に吊りさげて、柱上端及び柱下端(約一・八メートル)点を測定し、その他の柱については内装材があるため糸をワイヤーに変えて内装材の内部をX線によつて透過させ、鉄骨とワイヤーをX線フイルムに同時撮影を行う方法によつて測定し、建物については外装材端部をトランシツトを使用して一階と三階の任意点を測定することにより行つたところ、柱については、変形量が設計基準の許容値五〇〇分の一を越えている箇所が二か所あり、一階のA通り<1>柱が五〇〇分の一・六、二階のB通り<1>柱が五〇〇分の一・五であつた。また、建物の傾斜は認められなかつた。

<6> 大梁間のスパン測定は、一階及び二階の東西及び南北の大梁間スパンをメジヤーによつて測定したが、変形は認められなかつた。

<7> 木造柱の損傷調査

車両が衝突した木造柱近傍の二本の柱にX線を透過させて調べたところ、柱の折れ等の損傷は認められなかつたが、外壁モルタル部にひび割れが認められた。

<8> 木造柱補強後の振動測定は、車両が折つた木造柱を支保工で補強したうえで、行つたところ、三階床中央、A通り<1>柱の基礎での振動レベルは補強前後を通じて変動が認められなかつた。

また、三階のA通り<1>柱横、B通り<1>柱横で同時測定を実施したところ補強前後において大きな差位は認められなかつた。

(3) 右調査に先立つ平成元年九月二一日午前一〇時から同月二二日午後一二時までの間、本件建物の道路境界、犬走り、地中梁、三階床中央、三階柱横の五地点で振動レベルの測定が構造総合技術研究所によりなされた。

右の調査のうち、三階床中央と道路境界、犬走り、地中梁の各地点との振動レベル差の測定では、本件建物前道路のトラツク通過時の振動は、<1>道路境界で平均五二デシベル、三階床中央で六〇デシベルで、八デシベル三階床中央が大きく、<2>犬走りで平均四三デシベル、三階床中央で五八デシベルで、一五デシベル三階床中央が大きく、<3>地中梁で四四デシベル、三階床中央で五九デシベルで、一五デシベル三階床中央が大きいものであつた。また、三階柱横と三階床中央部での振動レベル差は九ないし一〇デシベル三階中央部が大きいものであつた。三階柱横の連続測定では九月二二日午前四時から午後一二時までの間振動レベルは殆ど五五デシベルを越え、最大六一デシベルであつた。

本件建物の環境は夜間平均二七デシベル以下、昼間で四〇デシベル以下で全体的に静かであるがトラツク等大型車両が道路を通過するときに五五デシベル以上の大きな振動が発生する状況である。

右によると三階床中央の振動レベルは道路境界より一〇デシベル大きく、最大七〇デシベル程度に達し、一日中六〇デシベル以上の振動レベルがあることになり、人が体感する五五デシベルを超えている。また、夜間においては七一パーセント以上覚醒するような振動レベル(六五デシベル)が存在し、午前四時から午前七時までの間、顕著に発生する状況にある。

以上の事実が認められる(なお、右(2)、(3)の各調査によつて認められる事実は、その調査方法には疑問もなく、データーを捏造していると疑う事実も認められず、一級建築士である鑑定人中川秀夫も鑑定の結果において、その専門的見地からその調査の信頼性を認めるところでもあり、他に右事実を覆すに足る事情は認められない。)。

2  本件建物の基礎、地中梁に損傷はなく、鉄骨接合部の溶接部に割れ目等の欠陥がなく、鉄骨柱、梁の接合ボルトに緩みがなく、梁・梁間の変形がなく、田中車が衝突した鉄骨柱の一階部分の傾斜量は許容値の範囲内であつたこと、本件建物全体に傾斜も認められないなどの前記認定事実によると、本件建物の鉄骨骨組に損傷はなかつたと認めることができる。

ちなみに、鑑定の結果及び証人中川秀夫の証言(以下「中川鑑定」という。)によれば、田中車は本件建物の西北隅の木造柱に衝突したが、その柱を折損させたに止まり、鉄骨部材にはスリ傷程度の損傷しかなく、鉄骨部分には亀裂・変形は認められないから、鉄骨骨組には木造柱の破壊時の応力により大きな力が加わることはなかつたと考えられるとして、本件木造柱が米つがであるから、その剪断強度である八〇キログラム/平方メートルを基礎として、衝突の際のその剪断力を算定すると五・三トンに止まるとしたうえ、これは本件建物の構造計算における地震・暴風時の水平荷重より小さいから、田中車衝突の外力による鉄骨骨組の応力は弾性範囲内に止まるから歪みの残存はないとする。また、中川鑑定によれば、本件建物の鉄骨柱の傾斜について、本件事故により傾斜が増加し現在のようになつたとすれば、一階A通り<1>柱は西に少なくとも二・三ミリメートル(傾斜値五・九から許容値の限界三・六ミリメートルを控除したもの)以上変位し、二階B通り<1>柱は少なくとも一・七ミリメートル(傾斜値五・五ミリから許容値の限界三・八ミリメートルを控除したもの)以上変位していることになり、これらの変位により仕上げにズレが生じているはずであるが、それが認められないから、本件事故により傾斜が増加したと認めることは疑問とされており、この見解に照らしても、本件事故と一部鉄骨柱の傾斜量の増加との因果関係を認めることはできない。

3  さらに、本件建物の振動については、前記認定のとおりであり、原告も本件事故により振動が増大した旨本人尋問において供述するところであるが、鉄骨骨組に損傷がないこと、事故により折れた木造柱を支保工で補強した後も振動に変動がなかつたことに照らすと、本件事故により、振動が増大したと認めるには至らない。

4  以上によると、本件事故による本件建物の損傷は、鉄骨骨組の弾性範囲の変位によるものに止まるが、前記認定の仕上げがなされており、ボード張り仕上げにおいては鉄骨骨組とそれに取り付けている木造下地に比べてボードは剛性が明らかに高く弾力性が乏しく、鉄骨骨組が外力を受けて変形を起こすと、ボードはその変形についていけないため止め釘が折れ曲がり、脱着・破断し、下地から浮いて目地ズレをおこし、また、左官仕上げにおいてはラスは下地の変位に対して柔軟に対応できるが、モルタル等の左官塗り部分は弾力性がないので下地の僅かの変形に対しても亀裂を生じるものであること(中川鑑定)に照らすと、車両衝突による衝撃力が直接加わつた一階部分の内外装に限られるとみるのが相当である。そうすると、前記認定の損傷のうち、建物内部の損傷は三階内部の損傷を除き全てが、建物外部の損傷は、玄関入口コンクリート、建物西側犬走り、建物西側土間コンクリートを除く損傷がそれぞれ本件事故と因果関係を有する損傷となる。

二  損害額(以下、各費目の括弧内は原告主張額)

1  本件建物修復費(一二八七万八四六〇円) 四三六万八七四五円

本件建物の本件事故による損傷の程度は前記認定のとおりであるところ、その修理にあたつては、中川鑑定によれば、<1>鉄骨骨組には損傷はないものの、接合部の点検は必要であり、場合によつては修理する、<2>外装は一階の亀裂箇所を修理したうえで、修理による色むらがないように建物全面にわたり吹きつけ仕上げをし直す、<3>内装は、検査のため取り外した天井等はボード貼りのうえペイント塗りし、壁は骨組・木造下地より剥離したり、ズレたりしているかを点検し、欠陥があれば修理のうえ、ペイント塗り部分は塗り替え、クロス貼りである部分は貼り替え、床はPタイルを張り替える、<4>外回りポーチ・犬走りの破損箇所は撤去して造り替える、<5>損壊した一階北西部の木造軸組・内外仕上げと窓のサツシ・ガラスを新品に取り替えるという方針で修理にあたる必要があることが認められる。なお、原告提出の岡本泰行作成の見積書(甲一)は、鉄骨骨組の損傷を前提とするもので採用できない。

右鑑定と、日本損害保険協会登録鑑定人川崎正三作成の鑑定書(乙一)による修理見積もりを総合勘案すると、<1>解体工事が四一万五〇〇〇円(中川鑑定では解体部分が不明確であり、乙一によるのが相当である。)、<2>仮設工事が四三万一五〇〇円、<3>コンクリート工事が四二万二〇〇〇円(前記<1>の解体部分に対応するものであるから乙一によるのが相当である。)、<4>鉄骨工事が二〇万円、<5>木工事が三〇万九〇〇〇円、<6>左官工事が一二万八五〇〇円、<7>金属建具工事が六二万三五〇〇円、<8>塗装工事が六五万四〇〇〇円、<9>外装工事が一万五〇〇〇円、<10>内装工事が一四万円、<11>電気工事が五万三〇〇〇円で、その合計は三三九万一五〇〇円となるから、諸経費として八五万円(工事費の二五パーセントが相当である)、消費税一二万七二四五円を加算すると、総額は四三六万八七四五円となる。

2  慰謝料(二〇〇万円) 五〇万円

本件事故は、前記のとおり平穏であるべき住居で原告及び同人の妻が睡眠中、明け方に二トントラツクが衝突したというものであり、その事故状況に加え、その修復等による生活の不便などを勘案すると、その精神的苦痛に対しては慰謝料五〇万円をもつて慰謝するのが相当である。

3  ホテル宿泊費(三万〇七〇〇円) 〇円

原告はホテルの領収書として甲三の1ないし3を提出するが、その宛先は上様であつたり、ササヤマ農協であつたりと明らかでなく、その合計額も二か月の宿泊費としては安価であるなど、右領収書のみでは、必ずしも本件事故による原告の宿泊費であつたか明らかでなく、損害として認定することはできない。

4  賃料相当損害金(九七万五〇〇〇円) 〇円

前記認定事実によれば、原告が本件建物の一階部分を店舗あるいは事務所として賃貸予定であつたことは認められるが、本件建物完成後、本件事故まで二年余りにわたつて全く賃借人がいなかつたことも明らかであり(原告本人)、本件事故がなければ、賃貸できたとの蓋然性を認めることはできない。したがつて、得べかりし利益として賃料収入を認めることはできない。

5  小計

右によれば、原告の弁護士費用を除く損害額は四八六万八七四五円となる。

6  弁護士費用(一五〇万円) 五〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は五〇万円と認めるのが相当である。

三  まとめ

以上によると、原告の本訴請求は、被告らに対し、各自金五三六万八七四五円及びこれに対する不法行為の日の翌日である平成元年九月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合におる遅延損害金を認める限度で理由がある。

(裁判官 高野裕)

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