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大阪地方裁判所 平成2年(ワ)2950号 判決 1993年9月27日

原告

長岡りえ子

ほか四名

被告

上田泉

ほか一名

主文

一  被告らは各自、原告長岡りえ子に対し金二三一二万九四九〇円、同長岡晴菜に対し金一〇四六万四七四五円、同長岡直哉に対し金一〇四六万四七四五円、同長岡博里に対し金七五万円、同長岡湯美子に対し金七五万円及びこれらに対する平成元年八月二八日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一原告らの請求

一  被告らは各自、原告長岡りえ子に対し金四〇二五万六四〇〇円、同長岡晴菜に対し金一七一二万八二〇〇円、同長岡直哉に対し金一七一二万八二〇〇円、同長岡博里に対し金一一〇万円、同長岡湯美子に対し金一一〇万円及び右各金員に対する平成元年八月二八日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故(以下「本件事故」という。)の発生

(一) 日時 平成元年八月二七日午前〇時一〇分ころ

(二) 場所 大阪市天王寺区逢坂二丁目八番五二号先国道二五号線上の信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 加害車両 普通乗用自動車(神戸五五わ三九〇五号)、(以下「被告車」という。)

右運転者 被告上田泉(以下「被告上田」という。)

(四) 被害車両 自動二輪車(なにわめ一六五二号)、(以下「原告車」という。)

右運転者 亡長岡敦(以下「敦」という。)

2  責任原因

(一) 被告上田は、被告車を運転して本件交差点を右折しようとする際、一時停止又は徐行して対向直進車の有無及び動静を確認し、その進行を妨害してはならない注意義務があるにもかかわらず、本件交差点に進入し一時停止したものの、青信号に従い対向直進してきた原告車が前方約二四・八メートルの地点にまで接近していることを認識したにもかかわらず、突然急発進して右折したため、被告車を原告車に衝突させ、敦を平成元年八月二七日午前〇時一〇分ころ死亡させた。

よつて、被告上田は、民法七〇九条により敦及び原告ら(以下「被害者ら」という。)に生じた損害を賠償する義務がある。

(二) 被告株式会社マツダレンタリース(以下「被告会社」という。)は、自動車の賃貸等を業とする会社であるが、その所有する被告車を平成元年四月一三日、得能郁世(以下「得能」という。)及び上中正道(以下「上中」という。)に対し、返還期を翌一四日の約定で貸し渡した。

右契約時に作成された自動車貸渡契約書の借受人署名欄には「上中」の署名があり、右契約書の欄外には「豊中市庄内幸町二丁目一五―一、ニユー庄内マンシヨン上中」の記載がある。右契約当時、上中は、得能と右マンシヨンで同棲していた。

被告会社は、被告車の返還期が経過しても、得能や上中に対し右車両の返還を求めておらず、得能や上中の使用を容認していた。さらに本件のようなレンタカーによる事故発生を予見して対人保険をかけており、レンタカーの料金の中には、当然その保険料も含まれている。

そして、本件事故は、被告上田が上中の指示により被告車を運転中に発生した。

よつて、被告会社は自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条により、被害者らに生じた人的損害を賠償する義務がある。

3  敦に生じた損害

(一) 逸失利益 七一五一万二八二九円

敦(昭和三四年九月一〇日生、当時二九才)は、本件事故当時、日本ハム株式会社で勤務していた。同人の平成元年一月一日から同年八月二八日まで二四〇日間の給与所得は金三二〇万三三六一円であつたから、これを年収に換算すると四八七万一七七八円となる。そして同人は本件事故に遭わなければ六七歳までは就労可能であり、その間に一年当たり右金額程度の収入を得ることができたものというべきところ、生活費として三〇パーセントを控除し(同人は妻である原告りえ子、原告春菜・同直哉の二人の子を扶養していた。)、六七歳までの逸失利益をホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、次の算式のとおり、右金額七一五一万二八二九円となる。

(計算式)

320万3361円÷240日×365日×07×20.97(29歳のホフマン係数)=7151万2829円

(二) 死亡慰謝料 一〇〇〇円万

本件事故は、いわゆる轢き逃げであるので、その点をも考慮すると、死亡慰謝料は右金額を下回らない。

4  相続

敦死亡当時、原告りえ子は敦の妻であり、原告晴菜・同直哉はそれぞれ敦の子であつたので、敦の損害賠償請求権は、原告りえ子がその二分の一を、原告晴菜及び同直哉が各四分の一を、それぞれ相続により承継取得した。

5  原告らに生じた損害

(一) 原告りえ子の損害

(1) 慰謝料 八〇〇万円

原告りえ子は、昭和五七年四月、敦と結婚、一男一女を得て幸せな結婚生活を送つていたところ、理不尽にも夫を本件事故によつて奪われてしまつた。突然、夫を失つた寂しさ、幼き子供二人(本件事故当時三歳と〇歳)を抱えて将来の責任の重さと不安に苦しむ毎日であることを考慮すると右金額が相当である。

(2) 葬祭費 一〇〇万円

(二) 原告晴菜、同直哉の損害

慰謝料 各二〇〇万円

原告晴菜(昭和六一年二月生)、同直哉(平成元年四月生)は、未だ幼くして突然愛する父を失つた。これから長い将来、父の愛に接することなく育つことを考慮すると右金額が相当である。

(三) 原告博里、同湯美子の損害

慰謝料 各一〇〇万円

原告博里は敦の父であり、同湯美子は敦の母であり、敦は同人らの長男であることを考慮すると右金額が相当である。

(四) 弁護士費用

原告らは、本訴の提起、追行を原告ら訴訟代理人に委任し、その報酬として判決認容額の一〇パーセントを支払う旨約した。それは左記金額を下らない。

原告りえ子 三〇〇万円

原告晴菜、同直哉 各一〇〇万円

原告博里、同湯美子 各一〇万円

6  損害の填補

原告らは自動車損害賠償責任保険から二五〇〇万円の支払を受け、原告らの損害に左記のとおり充当した。

(一) 原告りえ子 一二五〇万円

(二) 原告晴菜及び同直哉 各六二五万円

二  請求原因に対する認否

1  被告上田

(一) 請求原因1(事故の発生)の事実は認める。

(二) 同2(一)(責任原因)の事実は否認し、主張は争う。

(三) 同3(敦に生じた損害)の事実は不知。

(四) 同4(相続)の事実は認める。

(五) 同5(原告らに生じた損害)の事実は不知。

(六) 同6(損害の填補)の事実のうち、充当関係は不知、その余の事実は認める。

2  被告会社

(一) 請求原因1(事故の発生)の事実は不知。

(二) 同2(二)(責任原因)の事実中、被告会社が自動車の賃貸を業とする会社であること、平成元年四月一三日、被告会社から得能に対し、その期間等を制限して、被告車を賃貸したことは認め、その余は不知ないし争う。

(三) 同3(敦に生じた損害)の事実は不知。

(四) 同4(相続)の事実は認める。

(五) 同5(原告らに生じた損害)の事実は不知。

(六) 同6(損害の填補)の事実のうち、充当関係は不知、その余の事実は認める。

三  抗弁

1  被告上田(無過失)

事故当夜の天候は強い雨であり、事故の態様は原告車が被告車の左側部に衝突したものであり、被告車が原告車に衝突したものではない。

また、敦が、職場で一リツトルを超えるビールを短時間のうちに飲み、その酔いが覚めないうちに帰宅を急ぎ、深夜、強い雨が降つて見通しが十分でない道路であつたにもかかわらず、制限速度五〇キロメートルのところを時速約一〇〇キロメートルで原告車を運転進行して、そのまま本件交差点に進入したため被告車の動静に対応した運転ができず、被告上田が一時停止をして安全を確認した後、通常に発進させた被告車に激突したというものである。

なお、被告上田は、本件事故当時無免許ではあつたが、運転そのものは経験者であつた。また、被告上田も多少の飲酒をしていた事実はあるが、右の事故態様を考慮すると、その量および時刻からして、本件事故との因果関係はない。

したがつて、本件事故は、敦の重大な過失に基づくものであり、被告上田にとつては不可避であつた。

2  被告会社(被告車に対する運行支配の喪失)

本件事故は、賃貸借期間を過ぎても被告車の返却がなく、被告会社からの再三の督促にも応じることなく、右賃貸期間経過後、転貸を禁じているにもかかわらず、第三者に無断転貸され、第三者が自由に運転している最中に起こしたものである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(無過失)の事実は否認ないし不知。

2  抗弁2(被告車に対する運行支配の喪失)の事実は否認する。

理由

一  事故の発生について

請求原因1(事故の発生)の事実は、被告上田との関係では当事者間に争いがなく、被告会社との関係では甲第一号証により認められる。

二  被告上田の責任及びその過失割合(請求原因2(一)及び抗弁1の事実について)

1  証拠(甲五、甲一六、甲一九、甲二二、甲二三、乙一の一及び二、乙三、乙八、乙一〇の一、乙一一の一、乙一三、乙一五、乙一六、乙二〇、丙三)によれば次の事実が認められる。

(一)  本件事故現場は、別紙図面のとおり、東西に通じる道路(以下「本件道路」という。)と南北に通じる道路(以下「南北道路」という。)とが交差し、信号機により交通整理が行われている交差点(以下「本件交差点」という。)上にある。本件道路の制限速度は時速五〇キロメートルに規制され、路面は平坦で、アスフアルトで舗装され、本件事故当時の天候は雨であつたため濡れていた。

(二)  被告上田は、昭和六〇年二月一二日に第一種普通免許を取得したが、昭和六一年四月三〇日に右免許が取消しになつた。しかしその後も同人は、平成元年二月に無免許運転で罰金刑を受けるなど時々自動車を運転しており、自動車運転技術は人並みに有していた。

(三)  被告上田は、本件事故の二時間前ころから一時間前ころにかけてビール中ジヨツキを二杯以上は飲んでいた。

他方、敦も本件事故の二時間前ころから二〇分前ころにかけてビールを約一・二リツトル飲み、本件事故時のアルコール濃度は血液一リツトル中に一・二九ミリグラム(微酔状態)であつた。

(四)  被告上田は、被告車を運転し本件道路の西行車線を走行中本件交差点に差し掛かり、同交差点を東から北に向かい右折しようとして、対面の青信号に従い本件交差点に進入し、別紙図面の<3>とAの中間付近で一時停止したところ、対面信号の青表示に従い本件道路の東行車線を時速約六五ないし七〇キロメートルで走行中の原告車が前方約二四、五メートルの地点まで接近しているのを認めたが、被告車を発進させて右折したため、被告車を原告車に衝突させ、原告車を運転していた敦を即死させた。

(1) なお、被告上田は、本件事故時の原告車の速度を時速約一〇〇キロメートルであつたと主張しているが、右主張は以下の理由により採用できない。

(2) 乙第一号証の一、二(刑事裁判における鑑定人中原輝史の鑑定)によれば、本件事故直前の原告車の速度が時速約一〇〇キロメートルであつたとされている。しかし、右記載も乙第一五号、第一六号証(刑事裁判における鑑定人樋口健治の鑑定)により指摘されているとおり、速度算出の際使用している算式は本件事故と類型を異にする事故(自動車同士の事故)を前提とするものであること、算定の前提となる被告車と原告車の衝突角度が判然としないことなど不確定要素の多いあくまでも概算的なものに過ぎないこと、さらに刑事裁判において被告上田自身が原告車は制限速度を超えた相当なスピードで走つているとは感じていなかつたと供述していること(乙一三の二二丁表ないし裏)に照らすと、右中原鑑定は採用することができない。

また、本件事故直前の原告車(自動二輪車)の速度が時速約一二〇キロメートルであつた旨の被告車の助手席に乗つていた小林清和による刑事裁判における供述(乙一〇の一の二七丁表ないし裏)がある。しかし、右小林の供述は遠くから接近して来る対向車の速度についての直観的印象の域を出るものでなく、原告車を発見した際の同車との距離も不明確であることなどに照らすと右供述もにわかに信用することができない。

以上により、結局、原告車の速度が時速約一〇〇キロメートルであつたとする被告上田の主張は採用することはできず、転倒直前の原告車の速度はせいぜい時速六五ないし七〇キロメートルであつたと認定するのが相当である(乙一五、一六、二〇)。

2  右認定事実によれば、被告上田には、本件交差点を右折するに際し、直進車の動静を注視し、その安全を確認しつつ右折進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、直進中の原告車が前方約二四、五メートルという至近距離に来ていたのを認めながら、右折をしたという過失があること、しかも同人は飲酒後一、二時間であるにもかかわらず被告車を運転していることになり、他方、敦には、アルコール濃度が血液一リツトル中一・二九ミリグラムという微酔状態で、かつ、時速約一五ないし二〇キロメートルの速度違反という状態で原告車を運転していたという過失があつたことになる。両者の過失を対比すると、被告上田と敦との過失割合は、七対三と認めるのが相当である。

三  被告会社の責任(請求原因2(二)及び抗弁2(一)について)

被告会社が、自動車の賃貸等を業とする会社であることは、当事者間に争いがない。そして、甲第一八号証、乙第一号証の一、乙第一一号証の一及び丙第一、二、三号証並びに証人得能の証言及び被告上田本人尋問の結果によると、得能と上中は当時、同棲していたところ、平成元年四月一三日、二人して神戸に行つた帰途に、被告会社三ノ宮営業所で被告車を借り受けることにしたが、上中に運転免許がなかつたので、得能の名義で借り受け、契約書の欄外に当時二人が居住していた豊中市庄内町のマンシヨンの住所を記載し、借受人署名欄に上中が署名したこと、契約書には、貸渡期間として「四月一三日一九時二〇分から四月一四日一九時二〇分」と、利用区間として「三ノ宮営業所から三ノ宮営業所」と記載されていたが、二人は右住所地まで被告車に乗つて帰つたまま、右期間を過ぎてもこれを返すことなく、その後も、主として上中やその友達が利用していたこと、被告上田も上中の友達の一人であるところ、本件事故の数日前にも、得能から被告車のキーを受け取り、被告車を運転したことがあること、本件事故は、その少し前に被告上田が上中からキーを受け取り、被告上田が被告車を運転し、その後方を上中が別の車で走行していた際に起こつたものであることが認められる。

右認定事実によつて考えるに、被告車は、得能の名義でレンタルされたものではあるけれども、これは上中に運転免許がなかつたからそのようにしたものであつて、実質的には得能と上中の二人が借りたものであること、被告上田はレンタル契約とは関係のない第三者であるが、上中から被告車の運転を許容され、本件事故時には、上中が被告車の後ろを走行していたことからして、被告車の運行についての被告会社の支配は、いまだ失われていなかつたとみるのが相当である。

賃借物を第三者に使用させてはならないことは、契約の法理上当然であつて、かつ被告会社の約款にもそのような記載がある(丙二の貸渡約款第一七条(2))けれども、レンタル車の借受人が友人等にその運転をさせるということは、世上よくあることと考えられるから、たまたまそのような際に起こつた事故について、レンタル会社に保有者責任がないとするのは相当でない。また、本件事故は、返還期日を過ぎて四か月余り後のことではあるけれども、返還期日経過後に、上中と被告会社との間でどのようなやりとりがあつたのかは、証拠上明らかではない(上中が、契約期間延長の手続を取らなかつたという証拠もない。)上、約款上は、契約時間を超過した場合の料金や違約料が定められている(丙二)のであるから、得能と被告会社との間の契約はなお続いていたと言わざるを得ず、そうすると、被告会社の被告車の運行に対する支配は、本件事故当時も、法律上はあつたとみるほかない。したがつて、被告会社は被告車の運行供用者として責任を負うと解される。

そして、理由二で認められた事故態様からして、被告会社は発生した損害の七〇パーセントを負担すると解するのが相当である。

四  損害

1  敦の損害(請求原因3について)

(一)  死亡による逸失利益 七、一五一万二、八二九円

甲第三、第六号証、原告本人・長岡りえ子の尋問結果及び弁論の全趣旨によれば、敦(昭和三四年九月一〇日生、当時二九歳)は、本件事故当時、日本ハム株式会社で勤務しており、同人の昭和六四年一月一日から平成元年八月二八日までの給与所得は三二〇万三、三六一円〔年収に換算すると四八七万一、七七八円(三二〇万三、三六一円÷二四〇日×三六五日)〕であつたことが認められ、更に敦の子である原告晴菜・同直哉を扶養していた事実が認められる。

そうすると敦は本件事故に遭わなければ、同月二九日(満二九歳)以降、六七歳までの三八年間にわたり就労が可能であり、その間に少なくとも平均して右金額程度の年収を得ることができたものと推認されるから、右金額を基礎として生活費として三割を控除し、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、本件事故による敦の死亡による逸失利益の本件事故当時の現価を算出すると、次の算式のとおり七、一五一万二、八二九円(一円未満切り捨て、以下同じ)となる。

(算式) 487万1,778円×0.7×20.97=7,151万2,829円

(二)  死亡慰謝料 一、二〇〇万円

本件事故の態様、その後の被告上田の行動(特に甲第一一、一二、一三、二〇号証によれば、本件事故は無免許・轢き逃げの事案ではあるが、本件事故の翌日の午後六時ころ、警察署に自首していることが認められる。)、敦の死亡に至る経緯、年齢、家族構成その他弁論に現れた諸事情を総合考慮すれば、本件事故により敦が受けた精神的・肉体的苦痛に対する慰謝料は一、二〇〇万円と認めるのが相当である。

(三)  過失相殺

前記で認定した過失割合からして、次のとおり敦は右で認定した損害額の三〇パーセントを控除した五、八四五万八、九八〇円を賠償請求することができると解する。

2  相続(請求原因4について)

敦死亡当時、原告りえ子は敦の妻であり原告晴菜・同直哉はそれぞれ敦の子であつた(甲三)ので、法定相続分に従い、右五、八四五万八、九八〇円について、原告りえ子がその二分の一である二、九二二万九、四九〇円の損害賠償請求権を、原告晴菜及び同直哉が各その四分の一である一、四六一万四、七四五円の損害賠償請求権を、いずれも相続により承継取得した。

3  原告らの損害(請求原因5について)

(一)  原告りえ子の損害

(1) 固有の慰謝料 六〇〇万円

原告りえ子は敦の妻であることその他弁論に現れた諸事情を総合考慮すれば、本件事故により原告りえ子が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は六〇〇万円と認めるのが相当である。

(2) 葬祭費 一〇〇万円

弁論の全趣旨により原告りえ子が敦の葬祭費を支出したことが認められるところ、本件事故による葬祭費相当の損害として賠償を求め得る金額は、一〇〇万円とするのが相当である。

(二)  原告晴菜・同直哉の損害(固有の慰謝料) 各二〇〇万円

原告晴菜・同直哉は敦の子であることその他弁論に現れた諸事情を総合考慮すれば、本件事故により原告晴菜・同直哉が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は各二〇〇万円と認めるのが相当である。

(三)  原告博里・同湯美子の損害(固有の慰謝料) 各一〇〇万円

原告博里・同湯美子は敦の親であること(甲第三号証及び弁論の全趣旨により認められる。)その他弁論に現れた諸事情を総合考慮すれば、本件事故により原告博里・同湯美子が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は各一〇〇万円と認めるのが相当である。

(四)  過失相殺

前記で認定した過失割合からして、次のとおり原告らは右で認定したそれぞれの損害額の三〇パーセントを控除した額を賠償請求することができると解する。

原告りえ子 四九〇万円

同晴菜・同直哉 各一四〇万円

同博里・同湯美子 各七〇万円

4  原告らが損害賠償請求しうる額は、前記で認定した、相続による承継取得分と原告ら固有の損害額との合計額であり、次ぎのとおりとなる。

原告りえ子 三、四一二万九、四九〇円

同晴菜・同直哉 各一、六〇一万四、七四五円

同博里・同湯美子 各七〇万円

五  損害の填補(請求原因6について)

原告らが、自賠責保険から二、五〇〇万円の支払を受けたことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、右金員を原告りえ子に一、二五〇万円、原告晴菜・同直哉に各六二五万円充当したことが認められる。

よつて、前記認定の原告りえ子・同晴菜・同直哉の各損害額から右各金額を控除すると、各人が賠償請求し得る残損害額は、それぞれ次のとおりとなる。

原告りえ子 二、一六二万九、四九〇円

同晴菜・同直哉 各九七六万四、七四五円

同博里・同湯美子 各七〇万円

六  弁護士費用

原告らが本件訴訟の提起・遂行を原告訴訟代理人に委任したことは本件記録上明らかであるところ、請求額、本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、本件事故と相当因果関係のある損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は、原告らそれぞれについて次のとおりとするのが相当である。

原告りえ子 一五〇万円

同晴菜・同直哉 各七〇万円

同博里・同湯美子 各五万円

七  結論

以上のとおりであるから、原告らの本訴請求は、被告らに対し、原告りえ子が金二、三一二万九、四九〇円、同晴菜・同直哉らが各金一、〇四六万四、七四五円、同博里・同湯美子らが各金七五万円及びこれらに対する本件事故の日の翌日である平成元年八月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、この限度で認容することとし、その余の請求は理由がないのでいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 林泰民 大沼洋一 中島栄)

別紙 <省略>

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