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大阪地方裁判所 平成2年(ヨ)2928号 決定 1991年5月09日

申請人

山内康正

申請人

山内敏宏

右両名代理人弁護士

竹林節治

畑守人

中川克己

福島正

松下守男

被申請人

全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部

右代表者執行委員長

武建一

右代理人弁護士

高野嘉雄

後藤貞人

西川雅偉

主文

一  申請人らが被申請人に対し各金五〇万円ずつの保証を立てることを条件として、被申請人は、その所属する組合員または第三者をして、申請人らの肩書住所に存する各居宅の、申請人山内康正については南側出入口の門を閉門したときの両門扉の接点を起点として、申請人山内敏弘については南東側出入口のインターフォンの存する位置を起点としていずれも半径五〇メートル以内において、申請人らまたはその家族に面会を強要したり、居宅の塀に横断幕をかけたり、横断幕を掲げたり、滞留する行為をさせてはならない。

二  申請人らのその余の申請をいずれも却下する。

三  申請費用はこれを二分し、その一を申請人らの、その余を被申請人の各負担とする。

理由

第一申請

一  被申請人は、その所属する組合員または第三者をして、申請人らの肩書住所に存する居宅の、申請人山内康正については南側出入口の門から、申請人山内敏弘については南東側出入口の門からいずれも半径二〇〇メートル以内において、次のような行為をさせてはならない。

1  申請人らまたはその家族に面会を強要すること。

2  申請人らの居宅のインターフォンを連打すること。

3  居宅の塀等に横断幕等をかけたり、横断幕等を掲げたりすること。

4  座り込んだり、滞留したりすること。

5  その他これらに類する行為で、申請人らの私的生活の平穏及び行動の自由を害するような一切の行為(但し、演説を除く)。

二  申請費用は被申請人の負担とする。

第二当裁判所の判断

一  本件疎明資料及び審尋の経過によれば、以下の事実が疎明される。

1  申請人山内敏宏は灰孝小野田レミコン株式会社(以下「会社」という。)の代表取締役、申請人山内康正は同社の取締役である。

会社と被申請人とは、昭和六二年春闘以降深刻な労使紛争のさなかにある。現在、被申請人は会社側が交渉の前面に立てた役職者には円滑な労使関係の回復のための誠意がみられず、事態を打開するには労使のトップ交渉の再開しか道はないと主張するが、会社側はこれに応じない。

2  このような状況で、窮地に陥った被申請人は、会社の最高決定権者たる申請人山内敏宏、多大な影響力をもつ申請人山内康正に面会して直接窮状を訴え理解を求めたいと考えたが、同人らの仕事先において面会を実現することは不可能な状態にあった。

そこで、被申請人は、その組合員数名をして、平成二年一〇月七日以降ほぼ毎日曜日のように、申請人らのいずれかまたは双方の居宅の門前付近で「灰孝社長山内敏宏は四人の不当解雇を撤回し労使の正常化を図れ!!」と書いた横断幕(約八〇cm×約三m)を掲げるなどして数時間にわたって滞留し申請人らとの面会を強要し、家人らの退去要求にも応じなかった。

二  申請の趣旨一1(面会強要)、同3(横断幕)、同4(滞留)について

右状況下における被申請人組合員の行為は、あながち理解できないではないが、申請人らの居宅は職場と切り離された純然たる私宅であり、申請人らには同所において被申請人組合員と面会する義務はない。被申請人組合員の右認定の行為は、平穏な要請の範囲を逸脱したもので、申請人ら及びその家族の私的生活の平穏を害する違法なものといわざるをえない。

労使紛争は依然解決されておらず、かえって本件審理中にも新たな解雇・処分がなされるなど、会社と被申請人の関係はさらに深刻化しており、被申請人による面会強要行為は今後とも続く可能性が高いと考えられる。

そこで、申請人らはその人格権に基づき、被申請人がその所属の組合員または第三者をして行わせる申請人らまたはその家族に面会を強要したり、居宅の塀に横断幕をかけたり、横断幕を掲げたり、滞留する行為(座りこむ行為を含む。)の差止めを求めることができると考えられるが、申請人らの各居宅周囲の状況等を考慮すると、申請人山内康正については南側出入口の門を閉門したときの両門扉の接点を起点として、申請人山内敏弘については南東側出入口のインターフォンの存する位置を起点としていずれも半径五〇メートル以内の限度において右申請は理由があるといえる。

二  申請の趣旨一2(インターフォンの連打)について

申請人らは被申請人組合員が申請人らの居宅のインターフォンを約一〇分間にわたり連打し続ける等インターフォンをみだりに連打するいやがらせをなしたと主張するが、本件全疎明資料によっても右事実は疎明されず、今後被申請人が右のような行為をするおそれを認めることもできないから、この部分の申請は理由がない。

三  申請の趣旨一5について

申請人らは、申請の趣旨一1ないし4に類する行為で、申請人らの私的生活の平穏及び行動の自由を害するような一切の(演説を除く)行為の差止めを求めている。

本件疎明によれば、被申請人は、以前その組合員をして街宣車で申請人らの各居宅周辺において同人ら個人や会社等を誹謗する演説をさせたことにつき、昭和六二年一二月八日京都地方裁判所において申請人ら他一名との間で、演説の内容・方法・音量等につき和解した(証拠略)にもかかわらず、右和解条項に違反して申請人らの居宅周辺でシュプレヒコールを繰り返すなどしたため、間接強制の申立てにより、平成二年二月二一日京都地方裁判所は被申請人に対し、前記和解条項第一項の不作為義務(被申請人は、その所属する組合員または第三者をして、申請人らの肩書住所に存する居宅附近において、宣伝車を停車させたり立ち止まったりして、拡声装置を用いるなどして演説させてはならない。)に違反したときは一日につき金三万円の割合による金員の支払を命じる旨の決定をした(証拠略)事実が認められる。

被申請人が今回の面会強要行為の際、右の和解条項に抵触しない行為を選んだという経緯をふまえれば、申請人らがこの際被申請人の次の新たな面会強要行為についても差止めを求めたいと考えること自体は理解できないではない。

しかし、本件における申請の趣旨一5は、あまりにも漠然とした不明確なものであり、本件における全ての疎明資料を総合しても右のような抽象的な行為の禁止を仮処分の方法によって緊急に命じなければならない具体的な理由があることを認めることはできないから、この部分の申請も理由がない。

四  結論

以上、本件仮処分申請は主文第一項の限度で理由があるから、本件申請に至るまでの労使間の紛争の経緯等一切の事情を考慮し、申請人らに各金五〇万円の保証を立てさせることを条件としてこれを認容し、その余は理由がなくかつ保証をもって疎明に代えさせることも相当でないからこれを却下し、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 水谷美穂子)

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