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大阪地方裁判所 平成2年(ヨ)1758号 決定 1990年10月01日

申請人

武田唯善

被申請人

日本タクシー株式会社

右代表者代表取締役

坂本克己

右訴訟代理人弁護士

鎌倉利行

大石和夫

檜垣誠次

鎌倉利光

主文

一  本件申請を却下する。

二  申請費用は申請人の負担とする。

理由

(当事者の求めた裁判及び当事者の主張)

別紙2記載のとおり

(当裁判所の判断)

一  申請の理由1、2の事実、被申請人の主張1の事実、竹村主任が昭和六二年九月二八日誤って二重配車したこと、申請人が同日竹村主任に指示伝言板を投げたこと、申請人が昭和六二年一〇月一七日から昭和六三年三月三一日までの間欠勤したこと、申請人の報告書が同年四月六日作成されたこと、申請人が昭和六三年四月二〇日から平成二年三月三一日までの間交通事故により欠勤したこと、被申請人が同年五月二日申請人に対し同年四月一日付けで職員(得意先室勤務)を命じ、申請人が得意先室で勤務したこと、被申請人が申請人の欠勤中に乗務員の勤務時間を午前七時から翌日午前二時までの間と変更したこと、被申請人会社ではこれまで従業員を普通解雇した例がないこと、被申請人は、本件解雇をなすにあたって、労働協約所定の賞罰委員会の審議及び経営協議会の協議決定を経なかったこと、以上のことは当事者間に争いがない。

二  右争いがない事実、疎明資料及び審尋の全趣旨によると、次の事実が一応認められる。

1  申請人は、被申請人会社の寝屋川総合営業所にタクシー運転手として勤務していた者であるが、昭和六二年九月二八日午前九時ころ、タクシーに乗務していたところ、営業所の得意先室竹村主任が申請人に対し誤って無線で二重配車をしてしまった。そこで、申請人は、竹村主任に対して代わりの配車を要求したが、配車を受けられなかったことから、これに立腹して営業所へ帰庫し、当時竹村主任がオペレーターとして移動局と交信中であるのに、大声を出しながら得意先室のガラスを叩き出した。そのため、福島係長と久木係長がこれを制止した。申請人は、その後、得意先室から出てきた竹村主任と激しく口論し、同日午前九時二〇分ころ、営業所カウンター上に常設してある指示伝言板を同人の顔面に向かって投げつけ、同人に通院加療約七日間を要する下顎部下口唇部挫傷の傷害を負わせた。

被申請人は、翌二九日、右の件に関し、申請人に報告書を提出させ、由渕班長が、同日、申請人に対し、言動等を注意し、今後そのようなことがあれば進退問題とする旨の厳しい指導を行った。

2  申請人は、昭和六二年一〇月一五日午後一〇時二〇分ころ、営業所内において、労働条件等について不満を述べたことから、黒沢班長と口論となり、同人の顔面を二回殴打し、同人に三日間又はそれ以上の期間の通院加療を要する両頬部打撲傷及び頸部捻挫の傷害を負わせた。

3  被申請人は、前記1の事件につき、昭和六二年一一月一六日開催の賞罰委員会で審議する予定であったが、申請人が同年一〇月一七日から頭蓋骨骨折の私傷病(昭和六一年八月一四日、自宅において家庭用冷蔵庫を移動中、玄関階段で転倒し、頭部を強打して受傷したもの)の後遺症を理由に欠勤し、昭和六三年三月三一日まで復職しなかったため、組合側委員による事情聴取ができず、審議することができなかった。また、前記2の事件では、申請人は、所長から事情説明を求められたにもかかわらず、これを拒否したまま右欠勤をしたため、賞罰委員会への上申ができなくなった。

4  申請人は、右欠勤中の昭和六三年一月二六日、営業所へ就労可能診断書及び就労許可願書を持参してきたので、所長が運行管理面から医師の判断を仰ぐ旨を伝えるとともに、就労に先立って前記2の事件について報告書を提出するよう指示したところ、「法律的にも乗務させるのが正しい。」と大声で反論してそのまま帰ってしまった。その後、申請人が被申請人会社社長あてで就労許可願書及び診断書を送付してきたので、被申請人において医師に確認しようとしていたところ、今度は別の私傷病(腰痛症、右座骨神経痛及び第五腰椎分離症)を理由に前記のとおり同年三月三一日まで欠勤した。

5  申請人は、昭和六三年三月末ころ、被申請人に対し、就労許可願書及び同年四月一日から就労可能である旨の医師の診断書を送付した。そこで、申請人と被申請人が、同年四月六日、協議した結果、申請人は前記2の事件の報告書を作成提出し、一方、被申請人は申請人に翌日からの就労を許可した。そして、同月七日、前記1、2の事件の懲戒事案の上申が同月三〇日に開催予定の賞罰委員会に対してなされた。

6  ところが、申請人は、乗務再開後間もない昭和六三年四月一九日、乗客輸送中に交通事故を起こし、翌日より平成二年三月三一日まで欠勤したため、再び賞罰委員会での審議が不可能になった。

7  申請人は、平成二年三月末ころ、被申請人に対し、就労可能である旨の医師の診断書と防犯ガラスを車両に取り付けて欲しい旨の要望書を提出した。右要望の理由は、申請人には頭蓋骨骨折の後遺症があり、乗客から暴行を受けた場合生命に危険があるというものであった。被申請人は、右要望を検討した結果、申請人をタクシーに乗務させることは乗務員の健康管理及び乗客の安全輸送の面から不適当と判断し、申請人の同意を得た上、同年五月二日、申請人に対し、同年四月一日付けで職種を職員(得意先室勤務)に変更する旨を命じた。申請人は、先ず電話の応対等について実地教育を受け、同年五月上旬から得意先室で配車予約の電話を受けるようになったところ、当初から顧客の配車申込みを勝手に断ってしまうことがあり、所長から厳しく注意、指導されていたが、これを一向に聞き入れなかった。被申請人会社では乗務員の時差出勤により二四時間営業体制をとっているのに、申請人は、同年六月四日午前一〇時ころ、顧客からの翌日午前六時四五分の配車予約の申込みに対し、「当社は朝七時に出勤し、七時三〇分に出庫するのでお受けできません。」と言って断ってしまい、顧客から「いつも引き受けてくれているのに、いつからシステムが変わったのか。」という苦情が寄せられた。所長がこのときもタクシーの公共性等について指導をしたのに対し、申請人は、「営業員にメリットのない配車は引き受けられない。」「営業員の就業時間の時間差はおかしい。」などと大声で怒鳴り散らして指導に従おうとはしなかった。

8  申請人は、顧客からの電話予約に対する応対も悪く、平成二年六月七日ころ、顧客に対し、「警察に行きましょうか。」などという言葉で応対しているので、所長が慌てて指導をしたことがあり、その前後にもたびたび指導を受けていたにもかかわらず、応対の仕方を改めようとはせず、同月二一日ころにも、顧客からの電話に荒々しい態度で応対していたので、所長から「サービス業としてのマナーに欠けている。」と注意されたが、「相手の言葉が悪いため当然だ。」と言って従わなかった。申請人は、同月二三日、顧客からの電話に対し、挑発的な言い方で、かつ要領を得ない応対をしたため、顧客から別の従業員に電話を替わるよう言われたことに立腹し、「あなたは暴力団ですか。」「お客様の言ったことは録音してある。」などと言い返した。この件に関して、同月二六日、近畿運輸局自動車部及び大阪陸運支局より「日本タクシーに車を呼ぶため電話をしたが、暴力団呼ばわりされたという市民からの苦情が入っている。調査の上、報告するように。」との要請が被申請人会社にあった。

9  所長が平成二年六月二八日昼ころ、申請人に対し、同月二三日の案件について指導、注意を行うとともに、同日からは配車予約以外の社内電話と一般電話のみを取り扱うよう指示した。しかし、申請人は、これを無視し、たまたま同月二三日の案件の相手方である顧客からかかった電話に出たところ、「高木に替われ。」と言われたのに、一方的に電話を切ってしまった。その後すぐに、再度その顧客から電話がかかって申請人と口論となり、申請人が、「あなたの言葉使いはまるで暴力団と一緒だ。暴力団風の言葉使いの人には受付しない。日本タクシーに電話をかけてもらわなくても結構。」などと数分にわたってやりとりをした上、「わたしは、二三年勤務している。経営権もあり、株主です。」などと事実に反することを言っているうちに顧客が電話を切ってしまった。

このときも所長が申請人に対して厳重に注意、指導を行ったが、申請人は、「自分が電話に出て恐ろしいと感じたときは今後も配車しない。また、このことは法律的にも正しい。気に入らねば首にせよ。」などと言うだけであった。

10  申請人は、平成二年六月二九日午前七時ころ、所長から、同日より得意先室には入らず、事務所内で事務所用電話だけを受けるよう指示されたが、「そんなことは聞けません。」と言ってこれを無視し、得意先室に入って仕事をしようとしたので、所長から再度注意された。しかし、申請人は、「聞けません。」と勤務中の他の職員の前で大声で怒鳴り、そのまま得意先室に入ってしまった。

11  申請人のこのような一連の言動のため、平成二年四月中旬以降、営業所内の他の従業員の間から申請人について「所長はこんな人にいつまで事務所で仕事をさせるつもりだ。会社の秩序、風紀を乱すもとであり、早く処分して欲しい。」との話が多く出るようになった。そこで、所長が、同年六月二九日、申請人の処遇について相談するため本社に赴き、再度顧客とのもめごとが起こる可能性が大きいこと、職場内の秩序が大きく乱れることなどを改めて説明したところ、同日、緊急の取締役会(取締役総数一一名のうち七名出席)が開催され、審議の結果、就業規則第四八条による解雇(普通解雇)をなすことが異議なく可決された。しかし、申請人も加入する全国交通運輸労働組合総連合関西地方総支部日本タクシー労働組合の執行委員の大半がそれぞれ各地区の営業所でタクシー乗務に就いており、直ちにその場に全員が集合して経営協議会を開催することは不可能であったため、被申請人会社は、組合に対して取締役会の結論及びその理由を説明した上で、執行委員会をできるだけ早期に開催してもらうよう要請し、その席で組合の同意が得られるのを待って解雇を行うこととした。組合は、会社の前記要請を了承し、同月三〇日組合の執行委員一八名全員が出席して緊急の執行委員会を開催した。その席では申請人の所属する営業所選出の執行委員から申請人の日常の言動や勤務態度についての説明がなされ、これ以上申請人を支援することは組合員全体の利益に反することとなり、組合としては被申請人会社の措置はやむをえないとの結論に達し、執行委員全員の一致により、申請人を普通解雇にしたい旨の会社の申入れに同意することを決定した。被申請人会社は、同日、組合から右執行委員会における決定につき連絡を受けたので、就業規則第四八条に基づき申請人に対し本件解雇をなした。そして、同年七月一一日に開催された定例経営協議会において、本件解雇が議事に上り、会社側及び組合側の構成員に再度確認された。

12  被申請人会社の就業規則及び被申請人会社と前記労働組合との間の労働協約の各内容(いずれも抜粋)は、別紙3(略)記載のとおりである。

三  そこで、以上の事実に基づいて当事者双方の主張を検討する。

1  申請人は、前記のとおり、職場において二度にわたり暴行事件を起こしたり、顧客からの配車申込みを勝手に断ったり、電話での不適切な応対により顧客に不快感を与えたりするなどの行動を繰り返して被申請人の業務を妨げ、顧客に対する被申請人の信用を失墜させた上、上司の注意、命令や報告書提出の指示にも従わず、反抗的な態度をとり続けて、職場の秩序を著しく乱したものであって(就業規則第三条、第四条第一号、第六条第二号にも違反する。)、これらのことにかんがみると、申請人は被申請人会社の従業員として不適格であり、就業規則第四八条第一号、第三号及び第五号に該当するといわなければならない。しかも、前記二の事実経過や、これら一連の行為が就業規則第六八条第四号、第一三号、第一五号及び第一六号の懲戒解雇事由にも該当すると解されることなどに照らすと、本件解雇は、合理的な理由があり、相当な解雇権の行使であるといえる。

なお、申請人の行為は右のとおり就業規則所定の懲戒解雇事由にも該当するわけであるが、就業規則所定の普通解雇事由に該当する事実が存在する以上、被申請人において申請人を普通解雇することは妨げないというべきである。

2  申請人の主張について

(一) 申請人は、暴行の事実やその経緯、顧客との電話の応対について前記二の事実に反する主張をしているが、これらの主張は、被申請人提出の疎明資料(被申請人会社従業員ら作成の各報告書など)の記載内容にことごとく反するばかりか、暴行の点に関しては、申請人自身の作成にかかる報告書(<証拠略>)の記載内容にも副わないものであって、到底採用することができない。

(二) 申請人は、被申請人が本件解雇をしたのは申請人との約束違反などの違法行為の発覚をおそれたためである旨を主張している。

しかし、本件において、被申請人が申請人主張のように職種変更の約束をしたことや、その他被申請人において違法行為をしたことを疎明するに足りる資料はなく、本件解雇は、前記の理由によりなされたものということができる。

また、申請人は、被申請人が申請人を解雇する目的で職種の変更をした旨を主張しているが、被申請人がそのような目的を有していたことの疎明はないし、申請人が職種変更を命ぜられた平成二年五月二日又はそれ以前に申請人から難聴であるという話が出たことを疎明するに足りる資料も存しない。したがって、右主張も理由がない。

(三) 被申請人会社において過去に普通解雇を行った例がないことは前記のとおり当事者間に争いがない。

しかし、申請人の行為が懲戒解雇事由にも該当することなどにかんがみると、普通解雇の例がないからといって、本件解雇を無効とすることはできない。そして、疎明資料によると、被申請人会社におけるこれまでの事例として、車庫内での車両の駐車場所のことで同僚と口論して同僚の顔面を一回殴打して加療約一週間の傷害を負わせた営業員を懲戒解雇したこと、酒に酔って上司の顔面を三回程度殴打して負傷させた営業員を懲戒解雇したこと、乗客に対して返事をしなかった、乗客に電車の方が早いと言った、こわい感じであったなどの苦情を三回受けた営業員を接客態度不良を理由に懲戒解雇したこと、近距離客のため降車の際差し出されたタクシーチケットをひったくるように受け取り、礼の言葉も言わなかったとの苦情があった営業員を懲戒解雇したこと、以上の事実が一応認められる。これらの事例をも勘案すると、本件解雇が不当な措置であるということはできない。

そうすると、前記理由による解雇権濫用の主張も採用することができない。

(四) 申請人は、二度の暴行事件については、賞罰委員会において、別のところで審議することが決定されたと主張しており、その意味するところは必ずしも明確ではないが、いずれにしても、そのような事実を疎明するに足りる資料はない。

(五) 申請人は、本件解雇につき賞罰委員会の審議を経なかったことを問題にしているが、本件解雇は、普通解雇事由に基づく解雇であるから、懲戒解雇に要求される賞罰委員会の審議を経る必要はないといわなければならない。

(六) もっとも、労働協約第二五条第二項によれば、普通解雇をなすには、経営協議会における会社と組合の協議決定を要するところ、本件解雇にあたって、労働協約の規定に従った経営協議会が開催されなかったことは、前記のとおり当事者間に争いがない。そこで、この点が本件解雇の効力に影響を及ぼすかどうかが問題となる。

普通解雇をなす場合に、経営協議会において会社と組合が協議決定するものと労働協約で規定されている趣旨は、組合をその手続に関与させ、その意思を反映させることにより、被申請人会社が従業員(組合員)に対して違法又は不当な解雇を行うことを抑止することにあると解される。本件においては、被申請人会社の要請により会社側の決定の翌日経営協議会の組合側の構成員である執行委員が全員集まり、審議した結果、全員一致の意見をもって申請人を普通解雇することを承認したものであり、本件解雇後の定例経営協議会でもそのことが改めて確認された(なお、組合が経営協議会の手続上の瑕疵を問題にしたとの疎明も全く存しない。)ことに徴すると、実質的には経営協議会を開催したに等しいものということができる。もとより労働協約の規定(第八〇条など)に従って経営協議会を開催し、その中で審議するのが本来のあるべき姿であることは多言を要しないところであるが、右事情にかんがみると、労働協約所定の手続に則った経営協議会を経なかったという瑕疵は、本件解雇を無効とするほどのものではないというべきである。

申請人は、この点に関し、執行委員会は決議機関ではないと主張しているが、執行委員会の決議そのものではなく、経営協議会の構成員である執行委員全員が本件解雇を承認したことが重要な点であるから、右主張は当を得ないものといわなければならない。

また、本件において、申請人主張のような裏約束あるいは買収などという事実を疎明する資料は全く見当たらない。

(七) 申請人は、被申請人が本件解雇をなすにあたって申請人に事前に弁解の機会を与えなかった旨を主張しているが、上司から個々の注意、指導を受けた際に弁解の機会はあったとみられるし(現に、申請人は、多くの場合、上司に反論している。)、そのほかに普通解雇に際して本人に対し特に弁解の機会を与えるべきものとする規定も見当たらないから(疎明資料中の労働協約及び就業規則にその規定はない。)、これを理由に本件解雇を無効とすることもできない。

申請人は、被申請人が本件解雇の通知書を交付した際、申請人に解雇理由を説明しなかったと主張している。疎明資料及び審尋の全趣旨によると、被申請人会社の竹村営業部長が平成二年六月三〇日本件解雇の通知書交付の際、申請人から解雇の理由を尋ねられたので、「理由は自分の胸に聞いてみなさい。」と答えたこと、これに対し、申請人は、格別異議を唱えず、右通知書等を受け取って帰ったこと、右通知書には、申請人が就業規則第三条、第四条第一号及び第六条第二号の服務規律に違反したので、就業規則第四八条に基づき解雇する旨が記載されていることが一応認められ、これらのことや、前記二のとおり申請人が再三問題を起こし、その都度注意、指導を受けていた経緯に照らすと、それが承服しうる解雇理由であるかどうかは別として、申請人としても本件解雇の理由を認識していたものと推認される。

したがって、申請人主張の点は、本件解雇の効力を左右するものではない。

3  以上の次第で、申請人の主張はいずれも理由がなく、本件解雇は、有効である。

四  よって、申請人の本件仮処分申請は、その余の点について触れるまでもなく理由がなく、また、保証を立てさせてこれを認容することも相当でないので却下することとし、申請費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 小佐田潔)

(別紙2)

第一 当事者の求めた裁判

一 申請の趣旨

1 被申請人は、申請人を被申請人の従業員として処遇しなければならない。

2 申請費用は被申請人の負担とする。

二 申請の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二 当事者の主張

一 申請の理由

1 被申請人は、肩書地に本店を置き、タクシーによる輸送業務を主たる営業目的とする会社であり、申請人は、昭和四二年二月一六日、被申請人会社にタクシー運転手として雇用され、平成二年四月一日からは事務系統の職種(得意先室で顧客からタクシーの電話注文を受ける業務)に従事していたものである。

2 被申請人は、申請人を解雇したと主張して申請人が被申請人の従業員の地位にあることを争っている。

3 申請人は、申請人が被申請人の従業員としての地位を有することの確認を求める訴えを提起すべく準備中であるが、労働者である申請人が今日の経済情勢において本案判決確定に至るまで相当の期間従業員としての取扱いを受けられないことは重大な損害である。

4 よって、申請人は、申請の趣旨記載の裁判を求める。

二 申請の理由に対する認否及び被申請人の主張

(認否)

1 申請の理由1、2の事実は認める。

2 同3の事実は否認し、その主張は争う。

(主張)

1 被申請人は、平成二年六月三〇日、申請人に対し、就業規則第四八条(就業規則の内容は別紙3(略)記載のとおり。以下同様である。)に基づき、申請人を普通解雇する旨の意思表示(以下「本件解雇」という。)をし、その際、解雇予告手当として三〇日分の平均賃金を支払った。

2 本件解雇に至る経緯

(一) 申請人は、昭和六二年九月二八日のタクシー乗務中、無線配車の手違いに激昂して営業所へ帰庫し、係長二名の制止を無視して大声を出しながら得意先室のガラスを叩きだしたので、交信中の得意先室の竹村主任がやむなく室外へ出てきたところ、同人の顔面に指示伝言板を投げつけ、同人に通院加療約七日間を要する下顎部下口唇部挫傷の傷害を負わせた。

この事件については、被申請人としては、申請人から報告書を提出させ、同年一〇月五日付けで賞罰委員会に懲戒上申書が提出されたので、同年一一月一六日の賞罰委員会で審議する予定であったが、層申請人が同年一〇月一七日から私傷病(頭蓋骨骨折)の後遺症を理由に突然長期欠勤に入ってしまい、昭和六三年三月三一日まで復職しなかったため、組合側委員による事情聴取ができず、結局審議されなかった。

(二) 申請人は、昭和六二年一〇月一五日、営業所内において、勤務条件について黒沢班長と口論をして、同人の顔面を数回殴打し、同人に三日間又はそれ以上の通院加療を要する両頬部打撲傷及び頸部捻挫の傷害を負わせた。

この事件では、申請人は、所長から事情説明を求められたにもかかわらず、これを拒否したまま前記長期欠勤に入ってしまったため、賞罰委員会への上申さえできなかった。

(三) 申請人は、前記の欠勤中の昭和六三年一月二六日、営業所へ就労許可願を持参してきたので、所長が、医師に確認した上で就労を認めるが、それに先立って前記の暴行事件について報告書を提出するよう指示した。ところが、申請人は、「法律的にも乗務させるのが正しい。」などと大声で反論してこれに従わず、そのまま帰ってしまい、別の私傷病(腰痛症、右座骨神経痛及び第五腰椎分離症)を理由に前記のとおり欠勤を続けた。

(四) 被申請人と申請人との話合いの結果、右(二)の暴行事件に関する申請人の報告書が昭和六三年四月六日ようやく作成され、被申請人は、翌日からの申請人の就労を認めるとともに、同月三〇日開催予定の賞罰委員会に対し、右(一)、(二)の各暴行事件の懲戒事案の上申を再度行った。しかし、申請人は、乗務を再開してわずか一二日目の同月一九日、乗務中に交通事故を起こし、翌日から平成二年三月三一日まで欠勤したため、またもや賞罰委員会での審議が不可能になった。

(五) 申請人は、平成二年四月一日付けで得意先室勤務となり、最初の一か月間は所長の指導の下で電話の応対等について実地教育を受け、同年五月上旬から得意先室で配車予約の電話を受けるようになったが、当初から顧客の配車申込みを勝手に断ってしまうなどの問題行動が目立ち、これをやめるようにとの指導にも一向に理解を示さなかった。例えば、被申請人会社では乗務員の時差出勤により二四時間営業体制をとっているにもかかわらず、平成二年六月四日には、顧客からの翌日午前六時四五分の配車予約を、「当社は朝七時に出勤し、七時三〇分に出庫するのでお受けできません。」と言って断ってしまい、顧客から「いつも引き受けてくれているのに、いつからシステムが変わったのか。」という苦情が寄せられた。所長がこのときも予約は必ず受け付けるようにとの指導をしたのに、申請人は、「営業員にメリットのない配車は引き受けられない。」「営業員の就業時間の時間差はおかしい。」などと大声で怒鳴り散らし、指示に従おうとはしなかった。

(六) 申請人は、顧客からの電話予約に対する応対についてサービス業として最低限要求されるマナーも守ろうとはせず、「警察に行きましょうか。」といった乱暴な言葉で応対しているので、所長が驚いて指導したこともあり、その前後にも再三指導を受けていたにもかかわらず、応対の仕方を改めようとはせず、所長に対し、「相手の言葉が悪いため当然だ。」などと反論するありさまであった。

申請人は、平成二年六月二三日、女性の顧客からの電話に、乱暴な言葉で要領を得ない応対をしたため、顧客から「○○に電話を替われ。」と言われたことに立腹し、「何ですか。おたく暴力団ですか。」「全部録音とってあるんですからね。」などと取り返しのつかない暴言を吐き、顧客から苦情を受けた。

被申請人は、顧客から苦情を受けた段階で、心当たりのある者は申し出るよう求めたが、申請人も含め職員全員がそのようなトラブルは知らないと言うので、そのままにしておいたところ、同月二六日になって近畿運輸局自動車部及び大阪陸運支局から「日本タクシーに車を呼ぶため電話をしたが、暴力団呼ばわりされたという苦情が入っている。調査の上、報告するように。」との要請があり、配車予約電話の録音テープを再生したところ、申請人がトラブルの当事者であることが判明した。

(七) 所長は、平成二年六月二八日昼ころ、申請人に対し、同月二三日のトラブルも含めて再度指導、注意を行うと同時に、以後配車予約以外の電話のみを取り扱うよう命じた。しかし、申請人は、これを無視し、配車予約の電話についてもそのまま応対していたところ、同月二三日のトラブルの相手方である顧客から電話がかかり、偶然その電話を取ったが、一方的にこれを切ってしまった。そのため、再度その顧客から電話がかかって、申請人と口論となり、申請人は、「あんた暴力団と同じような声をしたんでないですか。」「日本タクシーに電話をかけてもらわんでいいんです。日本タクシーに乗りたかったら拾って。」「わたしは、(被申請人の)株主です。経営権も持ってます。」などと暴言を吐いているうちに顧客の方から電話を切ってしまった。

このときも得意先室内でやりとりを聞いていた係長からの連絡で、所長が申請人に対して種々注意、指導を行ったが、申請人は、「自分が電話に出て恐ろしいと感じたときは今後も配車しない。このことは法律的にも正しい。気に入らねば首にせよ。」などと言うだけで一向に反省している様子は窺われなかった。

(八) 申請人は、平成二年六月二九日午前七時ころ、所長から、同日より得意先室には入らず、事務所内で一般電話だけを受けるよう指示されたが、「そんなことは聞けません。」と大声で怒鳴ってこれを無視し、そのまま得意先室に入ってしまった。

3 本件解雇の理由

前記のとおり、申請人は、同僚に対する暴行事件を連続して起こしたことに始まり、顧客からの配車予約をその職権を越えて勝手に断ったり、電話での応対で最低限必要なマナーさえ守らず、顧客に不快感を与えるなどの行動を繰り返すことにより被申請人の業務を妨害し、顧客に対する被申請人の信用を著しく失墜させた上、顧客との間でトラブルを起こすたびに行われた上司からの注意、命令のほか、配車予約以外の電話のみを取り扱うこと、同僚に対する暴行事件の報告書を提出することなどの指示、命令にもことごとく従おうとせず、かえって上司に向かって暴言を吐くという態度をとり続けることによって職場の秩序を著しく破壊させたのであり、このような申請人の言動は、就業規則第四八条第一号、第三号及び第五号に該当するものである(就業規則第六八条第四号、第一三号、第一五号及び第一六号の懲戒解雇事由にも該当する。)。

4 本件解雇の手続

申請人の言動がこのようなものであったことから、営業所内の他の職員の間からも申請人について「会社は何も処置できないのか。こんな人に事務所で仕事をさせるのは会社の秩序、風紀を乱すものであり、早く処分すべきである。」との声が多く聞かれるようになった。そこで、それまでも申請人の言動についてたびたび本社と連絡を取ってきた所長が、平成二年六月二九日、申請人の処遇について再度相談するため本社に赴き、それまでの経緯、営業所内の雰囲気等を改めて報告したところ、同日、緊急の役員会が開催され、顧客の被申請人会社に対する信用及び職場秩序を回復し、営業所の従業員が効率的に、かつ気持ち良く業務を遂行できる状態を取り戻すためには、一刻も早く申請人を解雇(就業規則第四八条)するほかなく、これは申請人のそれまでの勤務態度に照らせば、相当かつやむをえない処分であるとの結論に達した。

ところが、被申請人会社ではタクシー会社の性質上、全従業員の大半を営業員が占め、組合執行委員についても一八名中一三名が営業員であって、それらの者はそれぞれ各地区の営業所に散らばって乗務に就いていることから、直ちに全員が集合することは不可能であった。そこで、被申請人会社は、組合に対して役員会の結論及びその理由を説明した上で、執行委員会をできるだけ早期に開催してもらうよう要請し、その席で組合の同意が得られるのを待って解雇を行うこととした。

組合は、会社の前記要請を了承し、翌三〇日に執行委員全員が出席して緊急の執行委員会を開催した。その席では申請人の所属する営業所選出の執行委員から申請人の勤務態度や人間性についての説明がなされ、これ以上申請人を支援することは組合員全体の利益を損なうことになり、組合としては今回の処分をやむをえないものと認めざるをえないとの結論に達し、執行委員全員の一致により、申請人を普通解雇にしたい旨の会社の申入れに同意することを決定した。

被申請人会社は、前同日、組合から右執行委員会での決定について連絡を受け、直ちに申請人に対し本件解雇をなした。

ところで、労働協約(その内容は別紙3記載(略)のとおり。以下同様である。)では、普通解雇をする場合、経営協議会において会社と組合が協議決定する旨定められているが、本件解雇を決定するにあたっては、右のとおり緊急を要する事情があったため、経営協議会については、役員会と執行委員会が別々に開催されることになった。しかし、右役員会及び執行委員会のそれぞれの構成員を合わせた者がそのまま経営協議会の構成員なのであり、結局経営協議会の構成員全体が役員会又は執行委員会を通して十分事情を把握し、審議を尽くした上で本件解雇に賛成したのであるし、また、両会議の間にはわずか一日の時間的なずれが存したに過ぎないのであるから、組合員を解雇する場合に経営協議会での審議、決定が要求される理由である組合側のチェックによる処分の妥当性の確保は、本件解雇を決定するにあたっても十分図られているのであって、実質的にみて経営協議会が開催されたのと同様の手続的保障がなされている。さらに、平成二年七月一一日に開催された定例経営協議会でも本件解雇が議事に上り、労使ともこれに異議のないことが再度確認されている。したがって、本件解雇には手続上何らの瑕疵も存しない。

5 本件解雇についての申請人の承認

申請人は、平成二年六月三〇日、本件解雇の通知書の交付を受けた際、当日までの未払賃金八万一九九〇円及び解雇予告手当三一万九四七〇円を何らの異議なく受領した。さらに、申請人は、同年七月六日、本社を訪れ、退職時支払われる共済会積立金四三万一一五八円、同餞別金二万五〇〇〇円を受領したほか、署名捺印など退職金の受給その他退職に関する一切の手続を完了した。その結果、退職金六五四万一〇七八円は、同月九日、申請人の銀行口座に振り込まれた。

このように、申請人は、解雇予告手当や退職金などを既に受領しており、本件解雇を承認しているものである。

6 保全の必要性の不存在

次の事情を考慮すると、本案判決確定に至るまでの間に、申請人に回復しがたい重大な損害を生じるとはいえず、保全の必要性はない。

(一) 申請人が居住している家屋及びその敷地は、いずれも申請人及びその妻の共有である。

(二) 申請人は、妻、長女(二三歳)及び長男(二一歳)と同居しているが、長女、長男とも既に就職しており、申請人の扶養家族ではない。

(三) 平成元年度の申請人の源泉徴収票によると、配偶者特別控除額の欄は〇円と記載されており、申請人の妻も何らかの職に就いて収入を得ているものとみられる。

(四) 申請人らの居住する家屋は鉄筋コンクリート造三階建で、門柱には「中武工務店」という看板が掲げられており、ファックスも設置されている。また、敷地の所有権は昭和四七年七月に取得され、家屋の保存登記は昭和五四年一〇月になされているが、平成元年八月両物件に極度額三〇〇〇万円、債権の範囲銀行取引、手形債権、小切手債権、債務者申請人、根抵当権者株式会社福徳銀行という内容の根抵当権設定登記がなされている。これらのことから、申請人は、何らかの事業を行っているものと認められる。

(五) 申請人は、被申請人から退職金六五四万一〇七八円を受け取っている。

三 被申請人の主張に対する認否及び申請人の主張

(認否)

1 被申請人の主張1の事実は認める。

2 同2について

(一) (一)のうち、申請人が昭和六二年九月二八日竹村主任に対して指示伝言板を投げたこと、被申請人が申請人に報告書を提出させたこと、申請人が昭和六二年一〇月一七日から昭和六三年三月三一日までの間欠勤したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二) (二)のうち、欠勤の事実は認めるが、その余の事実は否認する。

(三) (三)のうち、欠勤の事実は認めるが、その余の事実は否認する。

(四) (四)のうち、申請人の報告書が昭和六三年四月六日作成されたこと、申請人が昭和六三年四月二〇日から平成二年三月三一日までの間交通事故により欠勤したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(五) (五)のうち、申請人が平成二年四月一日付けで得意先室勤務となったことは認めるが、その余の事実は否認する。

(六) (六)ないし(八)の事実は否認する。

3 同3、4の事実は否認し、その主張は争う。

4 同5のうち、未払賃金及び解雇予告手当受領の際、申請人が何ら異議を留めなかったとの点、申請人が本件解雇を承認しているとの点は否認するが、その余の事実は認める。

5 同6の主張は争う。

(主張)

1 申請人には解雇事由に該当するような事実は存しない。

すなわち、

(一) 昭和六二年九月二八日の件については、竹村主任が同日誤って二重配車をしたのに、そのような事実はないと言い張って、申請人の手を払い落とし、申請人の右手をカウンターに強打させた。このように、竹村主任が先に暴力を振るったため、申請人は、竹村主任に指示伝言板を投げたのである。申請人は、竹村主任の暴行による右手打撲の傷害のため車の運転が不可能となり、一週間の欠勤を余儀なくされた。

(二) 昭和六二年一〇月一五日の件については、黒沢班長が事務所(顧客の待合室兼用)内において飲酒した状態で上半身肌着一枚のまま居たため、申請人が実力で黒沢班長を事務所から退去させただけであって、暴力は振るっていない。

(三) 申請人は、得意先室勤務の際、顧客が強迫的な口調で電話をしてきたとき、それなりの強い態度で応対したことはあるが、社会通念上不相応な応対はしていない。

2 本件解雇は、次の理由により解雇権の濫用であり、無効である。

(一) 申請人は交通事故の受傷が回復し、医師からタクシー乗務可能と診断されたので、平成二年四月一日、被申請人にタクシー乗務を願い出た。しかし、被申請人は、これを認めず、同年五月二日、難聴のため得意先室での電話応対の仕事を望まない申請人を同年四月一日付けで職員(得意先室勤務)に命じた。その際、被申請人は、その職務内容が申請人に不向きであることが判明すれば、職種を変更することを約束した。申請人は、それを信用して得意先室で勤務することにしたが、結局、難聴のため顧客からの電話の応対を適切にすることができなかった。そのため、申請人は被申請人にたびたび職種の変更を願い出たけれども、被申請人は、右約束に反し、これに応じなかった。そこで、申請人は、このことや、被申請人が申請人の欠勤中に乗務員の勤務時間を午前七時から翌日午前二時までに変更したのに、これを申請人に通知しなかったことなどにつき、公的機関への申立てをする旨を主張したところ、被申請人は、それにより右約束違反の事実などの違法行為が発覚することをおそれ、本件解雇をなしたものである。

あるいは、被申請人は、従来から被申請人の種々の違法行為を指摘していた申請人を、電話応対の失敗などを理由に解雇することを画策し、申請人に不向きな得意先室勤務を命じたものである。

(二) 被申請人会社ではこれまで従業員を普通解雇した例はなく、すべて当該従業員と話合いの上、円満退職させたにもかかわらず、申請人だけを解雇した。

(三) 昭和六二年九月二八日及び同年一〇月一五日の事案については、平成二年五月二一日に開催された賞罰委員会において、別のところで審議することが決定された。したがって、これらを本件解雇の理由とすることはできない。

3 本件解雇は、その手続に瑕疵があり、無効である。

(一) 被申請人は、本件解雇をなすにあたって、労働協約第二八条第一項に規定された賞罰委員会の審議を経なかった。

(二) 被申請人は、本件解雇をなすにあたって、労働協約第二五条第二項に規定された経営協議会の協議決定を経なかった。

組合規約(その内容は別紙3記載のとおり。)によると、執行委員会は決議機関ではなく、その決議が経営協議会の協議決定に代わるものではない。また、執行委員会が本件解雇に賛成したとすれば、それは、被申請人が組合と裏約束をし、組合を買収したからであると推察される。

(三) 被申請人は、本件解雇をなすにあたって、事前に申請人に対して弁解の機会を与えなかった。また、被申請人は、本件解雇の通知書を申請人に交付する際、何ら解雇理由を説明しなかった。

四 申請人の主張に対する認否及び被申請人の反論

1 申請人の主張1のうち、竹村主任が昭和六二年九月二八日誤って二重配車したこと、申請人が同日竹村主任に指示伝言板を投げたことは認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。

2 同2について

(一) 冒頭の主張は争う。

(二) (一)のうち、被申請人が平成二年五月二日申請人を同年四月一日付けで職員(得意先室勤務)に命じたこと、申請人が得意先室で勤務したこと、被申請人が申請人の欠勤中に乗務員の勤務時間を午前七時から翌日午前二時までに変更したこと、被申請人が本件解雇をなしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

申請人を営業員から職員に職種変更した理由は次のとおりである。すなわち、申請人は、平成二年三月末、被申請人に対し、申請人には頭蓋骨骨折、脳挫傷の私傷病歴があるので、乗務再開に際しては乗客の暴行から申請人を保護するために防犯ガラスを設置して欲しい旨を要望した。そこで、被申請人は、検討の結果、防犯ガラスを設置すれば、乗客から身の安全を守ることはできるとしても、例えば、他車から追突されたような場合にはかえって申請人の身体、生命に危険が生じる可能性があり、ひいては乗客や通行人等にも危険を及ぼしかねず、申請人を営業員として執務させること自体が不適当と認められたため、申請人と職種の変更について協議し、その際、被申請人が、それまでの営業員としての勤続年数(二三年間)を以後に引き継ぐという申請人にとって非常に有利な条件を提示したため、申請人も喜んで職種の変更に応じたのである。また、申請人は、平成二年五月二日当日及びそれ以前には、難聴であるという話は全くしていない。

(三) (二)のうち、被申請人会社ではこれまで従業員を普通解雇した例がないことは認めるが、その余は否認する。

(四) (三)の事実は、否認し、その主張は争う。

(五) 本件解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当な解雇権の行使である。すなわち、申請人は、職員への職種変更後、約一か月間所長の指導のもとで電話の応対等について実地教育を受けたが、そのころから電話の応対が不適切で、その点を注意しても素直に指導に従わないなどの問題点があった。被申請人は、それでも将来改善の余地もあると考えて申請人を得意先室に配属したが、その後も申請人の電話応対は改善されず、顧客から苦情が寄せられているにもかかわらず、上司の度重なる指導を素直に聞かず、自己の非を指摘されると、感情的に反発したり、独善的な主張を繰り返すばかりであった。被申請人会社のようにサービス業を営み、しかも電話注文による配車が営業の中で大きな比重を占めている会社にとって、電話注文に対する応対の不良は致命的であり、上司の指導を受け付けない態度から今後の改善も期待できず、加えて暴行事件を二件も起こしていることや申請人の勤務態度のため同僚との折り合いが悪く、他の従業員らからは申請人に対してのみならず、申請人に就業を続けさせる被申請人会社に対しても不満が出ていたことを勘案すると、本件解雇は被申請人会社の信用を維持し、社内秩序を確保するためのやむをえない措置というべきである。

また、被申請人会社では、職場内における暴力や接客態度不良については厳しく対処してきており、申請人に対する本件解雇が他の事例に比べて特に重いということはない。暴力事件では、酒に酔って上司の顔を三回殴打した事件で懲戒解雇の処分が行われたほか、同僚と口論となり、顔面を一回殴打して一週間の傷害を負わせた事件でも懲戒解雇を行った。接客態度の不良については、営業員の事例しかないが、乗客の言うことにはっきり返事をしない、電車の方が早いと言われた、こわい感じがしたなどの苦情を三回受けた営業員が懲戒解雇となったほか、近距離客であったことから、降車の際にタクシーチケットをひったくるように受け取り、礼の言葉も言わなかったという苦情があった営業員が懲戒解雇とされた。

3 同3について

(一) 冒頭の主張は争う。

(二) (一)の事実は認める。

(三) (二)のうち、前段の事実は認めるが、後段の事実は否認する。

前記のとおり、実質的には経営協議会の協議決定を経たに等しいのであるから、本件解雇が無効となることはない。

(四) (三)の事実は否認する。

申請人は、暴力事件をはじめ各トラブルの直後に上司から指導、注意を受けた際、弁解の機会を与えられていたのであり、そのほかに改めて申請人の弁解を聞くことは必要とされていない。

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