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大阪地方裁判所 平成2年(ヨ)1497号 決定 1990年10月15日

申請人

株式会社眞壁組

右代表者代表取締役

眞壁明

右代理人弁護士

坂井良和

吉岡一彦

岸本淳彦

菅原英博

被申請人

全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部

右代表者執行委員長

武建一

右代理人弁護士

永嶋靖久

森博行

主文

一  申請人が被申請人に対し金一〇〇万円の保証を立てることを条件として、

1  被申請人は、その所属する組合員又は第三者をして、申請人の取引先に対し、申請人との取引を行わないこと又は申請人との既存の取引に係る契約を解除することを要請する旨を記載した書面を送付又は持参させるなどして、申請人の営業を妨害してはならない。

2  被申請人は、その所属する組合員又は第三者をして、申請人との契約により生コン会社が申請人の取引先工事現場へ生コンクリート及びその材料を搬入するのを実力をもって妨害させてはならない。

二  申請人のその余の申請を却下する。

三  申請費用は被申請人の負担とする。

理由

第一当事者の求めた裁判

一  申請人

1  被申請人は、その所属する組合員又は第三者をして、申請人の取引先に対して別紙記載の要請書又はこれに類する書面を送付、持参させるなどして申請人の営業を妨害してはならない。

2  被申請人は、その所属する組合員又は第三者をして、申請人との契約により生コン会社が申請人の取引先工事現場へ生コンクリート及びその材料を搬入するのを妨害させてはならない。

3  申請費用は被申請人の負担とする。

二  被申請人

1  本件申請を却下する。

2  申請費用は申請人の負担とする。

第二当裁判所の判断

一  当事者間に争いのない事実、本件疎明及び審尋の全趣旨によれば、次の事実が一応認められる。

1  申請人は、肩書住所地に本店を置き、大阪府泉大津市臨海町一丁目三三に実質的な事務所を置く、建築材料製造販売、砂利採集、倉庫業、生コンクリート製造販売、生コンクリート設備の賃貸業等を目的とする資本金三五〇〇万円の株式会社である。

被申請人は、セメント、生コン産業及び運輸、一般産業で働く労働者の一部によって組織された労働組合である。

2  申請人は、生コンクリート(以下「生コン」という。)に関連する事業については現在製造事業を行っておらず、専ら、申請人の取引先である建設業者及びゼネコン(大手総合建設業者)の依頼を受けた各商社からの注文に応じて、別会社である生コンメーカーから購入した生コンを販売することをその業務内容としている。

申請人の生コンの購入先は、主として日本一生コンクリート株式会社(以下「日本一生コン」という。)、国土一生コンクリート株式会社(以下「国土一生コン」という。)及び五洋一生コンクリート株式会社(以下「五洋一生コン」という。)の三社である。申請人は、自社を広告するパンフレットの「会社概要」の中でこれらの三社を「子会社」として紹介しているが、申請人は、これら三社の株主ではなく、日本一生コンについては申請人の役員中その株主になっている者もいない。また、平成元年六月一〇日以降、申請人の役員が日本一生コンの役員を兼務することもない。

また、日本一生コンは、その製造にかかる生コンを工事現場等に輸送する業務を主として株式会社成進(以下「成進」という。)に委託しており、自らは生コンを輸送する人的、物的設備を有しない。

3  成進は、日本一生コンが設立された昭和六〇年九月頃、その代表取締役である吉川六郎の誘いにより、日本一生コンの製造する生コンの輸送を担当する会社として辻畑秋成(以下「辻畑」という。)の全額出資によって設立された。辻畑は成進を設立するに当たり、現実の輸送業務を担当するミキサー車運転手を、主として従来から自らダンプカーなどを所有して独立して運送業等を営んでいた者から募り、各運転手と形式上は一種の請負契約とみられる運送委託契約を締結した。

右運転手らが生コン輸送という労務(役務)提供として受け取る金銭は、原則的には一立方メートル当たりの運送単価に現実の輸送立米数を乗じて算出され、運転手らは、生コンの輸送に必要なミキサー車を購入し(ただし、一旦は成進が立て替え、月々の運転手に支払われるべき運送賃から月々の割賦代金が差し引かれている。)、その燃料費、修理費及び車検料等車両の維持管理費用も負担している。そして、成進は、運転手らに支払われる運送賃につき給与所得として所得税の源泉徴収を行っておらず、運転手ら自らが右運送賃を事業所得の収入金額とし、右燃料費等を必要経費として納税申告をしている。

成進は、辻畑の自宅を本店所在地とし、日本一生コンの事務所の一角を無償で借り受けて実質上の事務所とし、成進役員の土井正美(以下「土井」という。)を配車係として同事務所に置いている。運転手らは、日本一生コンが休業する日曜日以外のほぼ毎日、早朝に日本一生コンに赴き、配車係である土井の指示した順番で自己のミキサー車に生コンを入れて貰い、これを指示された工事現場等に輸送している。なお、その際、運転手らは、「成進」のネーム入りの制服を着用し、また、日本一生コンと成進との契約により、一部のミキサー車には「日本一生コン」の表示がなされ、また、時折、辻畑らから、納入先に対しきちんと挨拶をするようになどの指示を受けていた。土井は、日本一生コンの担当部長から受け取った翌日の生コンの運送目的地、運送立米数及び運送時刻を記載した出荷表に基づき、当日の夕刻に、翌日各運転手らが日本一生コンへ集合すべき時刻を紙片に書き入れ、これをタイムレコーダーに張り出して運転手らに周知徹底させていた。各運転手らは、おおむね土井から指示された出勤時刻から夕刻土井により終業を告げられるまで、日本一生コンの構内の控え室等で待機して自己の順番を待っていた。もっとも、各運転手らは、その間日本一生コンの他の労務に就くわけではなく、比較的自由に暇つぶしをしていた。そして、日本一生コンの構内付近で待機せず、したがって、土井から順番である旨告げられたときにその場にいなかった者も、当日及び翌日の順番が最後になるという制裁が科されるほか、特に成進あるいは日本一生コンから懲戒処分等の不利益処分を受けることがなかった。

4  被申請人は、平成元年六月一二日、申請人、日本一生コン及び成進に対し、成進と運送委託契約を締結しているミキサー車運転手の一部(以下「本件分会員」という。)が被申請人に加入した旨及び被申請人が右三社内に日常の活動単位として被申請人日本一生コン分会を結成した旨を文書により通知するとともに、同日、右三社に対し、成進に雇用されているミキサー運転手が本採用とされること、申請人及び日本一生コンが成進に雇用されている労働者の実質使用者としてその雇用を保障することなどを求めて、団体交渉を申し入れた。なお、申請人と雇用契約を締結している従業員の中で被申請人に加入している者はいない。

これに対し、成進役員の辻畑は、同月一七日、被申請人事務所に訪れて団体交渉に応じられない旨を伝え、申請人及び日本一生コンも、同月一九日、文書により、被申請人の組合員とは雇用契約関係がなく、使用者としての立場にないことを理由として団体交渉に応じられない旨回答した(なお、被申請人は、同月二一日、再度申請人らに対し団体交渉を申し入れたが、いずれも間もなく右同様の理由により申請人らに拒否された。)。

そこで、被申請人は、同月二六日、大阪府地方労働委員会(以下「大阪地労委」という。)に右三社との間の団体交渉のあっせんを申請し、更に同月三〇日、日本一生コン及び成進を相手取り、被申請人との団体交渉に応ずることを求めて大阪地労委に救済を申し立てた(このうち、団体交渉のあっせん申請については右三社はいずれも被申請人の組合員との間に雇用契約関係がないことを理由に大阪地労委によるあっせんを辞退する旨を申し出たため、同年七月二四日、これを取り下げた。)。

なお、被申請人は、同年七月四日、更に国土一生コンに被申請人国土一分会を結成したとして、申請人、国土一生コン及び成進に対し、文書により、組合加入の通知及び団体交渉の申入れを行ったが、いずれも間もなく前記同様の理由により、団体交渉を拒否された。

5  被申請人は、かかる状況を打開するため、同月一八日及び同月二二日の二回にわたり、申請人の取引先に対し、申請人及び日本一生コンとの紛争の早期解決を図るよう同社に対し適切な影響力を行使されたい旨などを記載した「要請書」を持参し、あるいは郵送して交付した。

6  その後、右紛争に関連して申請人代表者をも交えて被申請人との間において非公式な話し合いが続いていたため、しばらく小康状態を保っていたが、被申請人は、平成二年四月三日付及び同年五月一日付で、再び申請人の取引先数十社に対し、別紙記載(略)のとおり、労使紛争が解決するまで、右三社との取引を見合わせること、及び現在契約中の場合には残契約分を解除するよう要請する旨を記載した「要請書」と題する書面(以下「本件要請書」という。)を持参または郵送して交付した。

これにより、前回の平成元年七月一八日付及び同月二二日付「要請書」の交付の際にはこれを重視していなかった取引先の一部において、これを黙過できないとして申請人の担当者に説明を求めたり、現に紛争解決に至るまで申請人との取引を見合わせるとする取引先が続出した。

7  更に、被申請人は、本件要請書の配付と平行して、申請人の営業に対する次のとおりの妨害行為を行うに至った。

(1) 被申請人は、平成二年四月二五日午後二時一〇分頃、その組合員又は第三者約一五〇人ないし一六〇人をして、申請人の大手取引先である熊谷組の施工する(仮称)シャルマン、フジ熊取新築工事作業現場に赴かせ、同組合員らにおいて、同作業所の統括工事責任者である石橋所長に面談を申し入れ、「明日の生コンが眞壁組から納入されるはずや。生コンのミキサーがくればピケを張り納入させない。」などと申し向け、警察官が駆け付ける騒ぎになった。そこで、熊谷組の現場責任者である角谷正樹が納入元である国土一生コン工場長に確認をとったところ、「連帯のストのため、明日は生コンは出せないかも知れない。」との返事を受けたため、申請人の担当者に連絡を取り、急遽代わりのプラントである山口建材生コン株式会社(以下「山口建材生コン」という。)から出荷を受けられるよう手配させた。このような事態が生じたため、熊谷組は、同月二七日、申請人との同作業所にかかる生コンクリートの残契約分(約三九〇〇立方メートル)を解除した。

(2) 被申請人は、同日午後二時三〇分頃、山口建材生コンに約一〇名の組合員又は第三者をマイクロバスにより赴かせた上、武洋一らが同社社長に面談を強要し、「眞壁組よりの出荷依頼に一切応じないように」と迫り、申請人からの発注を受けないように圧力を加えた。

(3) 被申請人は、同月二七日、矢倉ヒューム菅工業株式会社に組合員約一〇名を赴かせ、同組合員らが面談に出た矢倉常務取締役に対し、「眞壁組に対して一切出荷しないよう」と要請し、よって、これに畏怖した同社をして申請人への出荷をさせないようにした。

(4) 被申請人は、同年五月一四日午前一〇時頃、組合員約七名をして申請人の大手取引先である村本建設株式会社の施工する大阪府泉北郡忠岡町先の最上配送センター新築工事作業現場に宣伝カーで赴かせた。同作業現場には、これに先立ち日本一生コンのミキサー車が既に到着しており、同日午前八時三〇分頃から生コンクリートの打設を開始し、三台分の打設を終了させたところであったが、右組合員は、村本建設の工事責任者である中筋所長に生コンクリート打設の中止を申し入れた。同所長が申請人の担当課長と相談の上、引き続き打設工事を続行する旨を右組合員に告げたところ、組合員らから連絡を受けた組合員又は第三者約五〇人ないし六〇人が現場に駆け付け、仮設塀の門の両側から門を取り囲むように宣伝カーを駐車し、工事現場へのミキサー車の進入が不可能になった。右組合員らは、右工事現場から退去しようとしなかったので、同日午前一〇時三〇分頃、中筋所長は警察に機動隊の導入を要請するとともに、もはや日本一生コンからの生コンクリートの供給は不可能であると判断し、申請人に他のプラントからの生コンクリートの調達を指示し、これにより、山口建材生コンに生コンクリートを納入させた。このような事態を招いたため、村本建設の当日の作業予定が大幅に遅れるとともに、翌同月一五日、申請人は、村本建設株式会社から残契約分を解除された。

8  被申請人は、かねてより、生コン会社に対する争議手段として、被申請人の所属組合員以外の従業員等による出入荷作業を阻止する方法を多用し、かつ、いずれも平和的説得により生コン会社の出入荷業務の遂行を一時停止させたり断念させたりするにとどまらず、実力をもって右業務運営を阻止するところがあった。このため、裁判所により、これらの業務妨害行為を禁止する旨の仮処分決定が度重なりなされている(大津地裁昭和六二年ヨ第一六九号・昭和六三年一月二五日決定、大阪地裁平成元年ヨ第一一八号・平成二年二月二日決定、京都地裁平成二年ヨ第二八号・同年一月二六日決定)。

9  被申請人による前記6及び7に記載の行為により、申請人は、取引先から既存の契約が中途で解除され、これに直接起因する売上高の減少が、別紙生コン契約解除明細に記載のとおり、合計一億七一五八万円に達した。

また、右行為により、生コンクリートの受注が著しく減少し、売上高が前年対比で大幅に減少するとともに、契約どおりに生コンクリートを納入できないことによる取引上の損害も被った。

二  以上、一応認められる事実関係の下において、各当事者は、要旨次のとおり主張する。

1  申請人の主張

申請人は、生コン部門に関しては、生産設備も所有せず、生コンのメーカーに発注して生コンを購入し、これを建設業者やゼネコンから依頼を受けた商社に販売することのみを営業内容とし、申請人の従業員には被申請人組合に加入している者は一名もいない。また日本一生コンは、申請人が発注する生コンメーカーのうちの一社にすぎず、成進に至っては申請人との法律関係は全く存在しないのであって、申請人は被申請人に加入している組合員の労働条件について被申請人と話し合う関係にないことは明らかである。

しかるに、被申請人は、前記のとおり、組合員等を申請人の取引先へ押しかけさせ、または本件要請書を郵送することにより取引先を脅迫して申請人との契約解除を迫り、また、申請人の生コン搬入先であるゼネコンの工事現場へ押しかけさせ、申請人の納入債務の履行を実力で阻止し、よって、申請人の営業を妨害している。よって、申請人は、被申請人に対し、営業権に基づき、かかる被申請人の行為を差し止める権利を有する。

なお、被申請人は、過去において実力をもって生コンの搬出、搬入の阻止を争議行為の名の下に繰り返し行ってきたものであり、このことは本件要請書の配付を受けた申請人の取引先も十分に知り、かつ、被申請人自身、本件要請書配付に際し、もしくはその後に実力による生コンクリート搬入阻止を明言し、もしくは実行しているのであるから、本件要請書の文言は実力による搬入阻止による業務阻害の予告であったことは明らかである。したがって、かかる言辞が、本件要請書を配付された申請人の取引先を極度に困惑させるもの、すなわち脅迫的なものであることは明らかであり、かかる行為をもって市民的な言論の自由の範囲内ということはできない。

2  被申請人の主張

申請人は、建築基礎材料の「トータル・プランナー」を自称し、「仕入れから営業・配送までの一貫体制」を謳い文句にしながら、自社固有の生コン製造プラントを保有しておらず、生コンの製造、運送のすべてを子会社である日本一生コン、国土一生コン及び五洋一生コンに行わせているのであり、業務の実態からみるとき、右三社は、いずれも申請人における生コンの一製造・運送部門にすぎない。更に、日本一生コンは、「確実な輸送システムと三六五日二四時間体制」をキャッチフレーズにしていながら、自社が直接生コンを運送する形態をとらず、その製造にかかる生コンのすべてを別会社である成進に運送させる形態をとっているが、成進は、日本一生コンの工場事務所内に机一台、電話一台を設けているのみで、配車係一名が日本一生コンの作成する出荷予定表に従い、ミキサー車を配車することのみをその業務としているのであって、実態は、日本一生コンの生コン運送部門にすぎない。したがって、日本一生コンの製造する生コン輸送に専従する本件分会員は、法人格否認の法理に基づき、日本一生コンとの間においても労働契約関係を成立させているというべきであり、また、申請人、日本一生コン等の密接な関連性、一体性より、申請人も本件分会員の使用者としての立場にあることは明らかである。したがって、申請人は、被申請人の団体交渉要求に応ずべき法的義務を免れない。

なお、被申請人が申請人の取引先に配付した本件要請書は、一定の要求を貫徹するため、使用者の製品の不買を求めるいわゆるボイコットであるが、かかる行為は、そもそも争議行為の正当性を論ずるまでもなく、憲法二一条によって保障された市民的自由の一内容である言論の自由の範囲内の行為であって、単に本件要請書を持参し、あるいは郵送してなされた平穏な第三者に対する要請行動が違法な業務妨害になることはありえない。

三  そこで、まず、申請人が被申請人に加入する本件分会員の使用者としての地位に立ち、被申請人の団体交渉要求に応ずべき義務があるか否かについて検討する。

前記一応認められる事実によれば、本件分会員は、いずれも成進との間で少なくとも形式上は一種の請負契約とみられる運送委託契約を締結しているものであり、前記一応認められる事実の中にはこれが実質上も一種の請負契約であることを裏付ける事実もかなりあるといわなければならない。しかし、本件分会員らは、日本一生コン内に事務所を置く成進の配車係が指定した時刻に、毎日早朝集められ(被申請人日本一生コン分会が結成されるまでは、日本一生コンのその他の従業員と同様タイムカードも打刻していた。)、当日の出荷がなくなると配車係から告げられるまで、原則として日本一生コンの構内に順番待ちのための待機を事実上余儀なくされ、しかも、本件分会員らは、いずれも「成進」のネームの入った制服を着用させられた上、自らの所有するミキサー車に「日本一生コン」の文字が書き入れられ、更に、運送業務を行うに際し、辻畑らから、取引先に挨拶をせよなどといった業務上の指示を受けることがあったというのである。このような諸事情をも考慮すると、本件分会員と成進との前記運送委託契約に基づく法律関係は、実質的には労働契約関係とみるべき余地があることを否定できない。

そして、本件分会員と日本一生コンとの間においては、私法上、雇用契約その他何らの契約関係にもないことが明らかであるが、審尋の全趣旨によると、生コン製造事業は、生コンという製品の性質上、迅速かつ確実な輸送体制を併せ持つことがその成立の上で不可欠な条件であることが一応認められるところ、日本一生コンは設立当初から生コン輸送のための物的及び人的設備を保有せず、辻畑に依頼して日本一生コンの製造する生コンの運送を担当することを主たる目的とする成進を設立させたものであって、しかも、成進は、その実質的な事務所を日本一生コン事務所内に置き、成進の配車係は、専ら日本一生コンの担当部長の作成する出荷表に基づき配車をするのみであったという事情にかんがみると、別会社とはいえ、成進は、実質的には日本一生コンの会社内における一輸送部門との評価ができない訳ではなく、したがって、日本一生コンと本件分会員との間においても、実質的には労働契約関係が成立しているとみうる余地が全くないとはいえない。

しかしながら、申請人と本件分会員との関係についてみると、申請人は、日本一生コンを「子会社」と宣伝するなど、同社とはかなり密接な業務提携関係があり、申請人の発注先として重要な地位を占めるものではあるが、本件分会員との間に私法上雇用契約を締結しているわけでないことはもちろん、日本一生コンの従業員の労働条件その他同社の経営を支配し得る資本的、人的関係が存在しないことは前記認定のとおりであって、他に申請人が雇用契約上の使用者に準じて、本件分会員の労働条件に対し直接かつ具体的に影響を及ぼしうるような地位にあると一応認めるに足りる疎明資料もない。したがって、日本一生コンは、基本的には申請人が商社等の注文に応じて発注する生コンの購入先の一つにすぎないというほかなく、仮に本件分会員と日本一生コンとの間に実質上の労働契約関係が肯認できる余地があるとしても、申請人と本件分会員との間においては、実質的な労働契約関係を認めることはできない。

したがって、申請人を本件分会員の使用者としての地位にある者であるとの前提の下に団体交渉を要求し、これが拒否されたことなどを理由に申請人に対し争議行為に及んだ被申請人の行為は、既にその目的において正当なものとの評価を受ける余地がないものといわなければならない。したがって、申請人は、営業権に基づき、被申請人が組合員又は第三者をして行わせる営業妨害行為を差し止める権利を有するというべきであり、また、前記認定の諸事情を考慮すると、その保全の必要性も高いというべきである。

もっとも、本件において、被申請人が争議行為として行った行為とりわけ前記一7(4)の行為は、一面において、日本一生コンないし成進に対する争議行為とも評価でき、仮にこれが日本一生コンらに対する争議行為として正当性を有するとすれば、申請人においても、かかる行為を差し止める権利を有しないものというべきであるが、前記認定の態様による日本一生コンの製造し、成進の輸送する生コンの搬入を実力をもって阻止する行為は、日本一生コン及び成進との関係において(右両社と本件分会員との間に労働契約関係が肯認できるとしても)、ピケッティングとして許される平和的説得の限度を著しく逸脱した違法なものというほかないから、申請人は、被申請人の組合員らがかかる違法な争議行為に及ぶ限りにおいて、申請人に対する違法な営業妨害行為として、これを差し止める権利を有するというべきである。

四  次に、被申請人は、申請人の取引先に対し、文書をもって申請人との取引をしないように要請することは争議行為としての正当性の有無を論ずるまでもなく、憲法二一条によって保障された市民的自由としての言論の自由の範囲内の行為であり、何ら違法視されるものではない旨主張する。

しかし、憲法によって保障された言論の自由といえども、無制約なものではなく、他人の正当な権利、利益を具体的に侵害するような言論その他の表現行為が許されないことは当然であるところ、本件要請書そのものは、申請人の取引先に対し申請人との取引を見合わせられたいとの趣旨及び申請人との既存の契約を解除されたいとの趣旨が記載されているのにすぎず、その持参又は郵送そのものは平穏になされているとはいえ、前記認定のとおり、被申請人は、かねてより生コン会社に対する争議手段として、その所属組合員以外の従業員等による出入荷作業を阻止する方法を多用し、かつ、そのいずれも平和的説得の範囲を逸脱し実力をもって出入荷業務を阻止するところがあったため、裁判所によりこれらの業務妨害行為を禁止する旨の仮処分決定が度重なりなされており、このことは申請人の取引先にもほぼ知れ渡っていたことが一応推認され、取引先の中には本件要請書を受け取ったというだけで申請人との取引を見合わせる者が続出している。また、被申請人は、本件においても、村本建設株式会社の工事現場において、実力による生コンクリートの入荷阻止行為に出ており、更に、前記一7(1)のとおり、申請人の発注にかかる国土一生コンの搬入を妨害された申請人が入荷を要請した申請人の取引先である山口建材生コンが、その当日、同(2)のとおり、被申請人の組合員ら多数により本社に押しかけられ、申請人の出荷要請には応じないようにと迫られていることからすると、本件要請書の配付は、これに従わないときは、実力による搬入阻止または取引先に対する面談強要という実力行使がありうることを示唆し、専ら、配布先である申請人の取引先に対しかかる心理的な圧迫を加え、もって申請人との取引を断念させることを狙ったものといわざるを得ず、もとより不特定多数の者を対象にして特定の企業の製品の不買を呼びかけるような態様のボイコットとは異質のものというほかない。

したがって、右の趣旨を記載した文書を申請人の取引先に配付することは、それ自体として、申請人の営業に対する重大な妨害行為となることが明らかであるから、申請人は、被申請人に対し、営業権に基づき、かかる行為を差し止める権利を有するというべきであり、かつ、前記認定の諸事情に照らすと、その保全の必要性も高いというべきである。

五  よって、本件申請は、主文の限度で理由があるので、諸般の事情を考慮し、申請人に主文掲記の保証を立てることを条件としてこれを認容し、その余は理由がないからこれを却下し、申請費用の負担につき民訴法八九条、九二条に従い、主文のとおり決定する。

(裁判官 田中俊次)

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