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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)5524号 判決 1998年10月30日

反訴原告

平田満興

反訴被告

山﨑博司

ほか一名

主文

一  反訴原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は反訴原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  反訴被告らは、反訴原告に対し、連帯して、金六二四万八一五七円及びこれに対する平成八年三月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は反訴被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1(本件事故)

(一)  日時 平成八年三月二三日午前一一時五〇分ころ

(二)  場所 大阪府池田市空港一丁目七番一四号先路上

(三)  加害車両 反訴被告山﨑博司(以下「反訴被告山﨑」という。)運転、反訴被告株式会社巴商事(以下「反訴被告巴商事」という。)保有の普通乗用自動車(大阪七九た五五五五)

(四)  被害車両 反訴原告運転の足踏式自転車

(五)  態様 加害車両を運転する反訴被告山﨑が後方確認を怠り後退したところ、被害車両を運転中の反訴原告に衝突し、反訴原告は転倒し、負傷した。

2(責任)

(一)  反訴被告山﨑は、車両の後退を始める前に後方安全をよく確認すべきであったにもかかわらず、これを怠り後退を開始した過失により反訴原告に損害を与えたのであるから、民法七〇九条に基づく損害賠償責任を負う。

(二)  反訴被告巴商事は、加害車両の保有者であるから、自動車損害賠償保障法三条に基づく損害賠償責任を負う。

3(受傷、治療経過、後遺障害)

(一)  受傷

反訴原告は、本件事故により、腰臀部・左股部挫傷、頭部外傷、後頭部挫傷、全身打撲、左胸部挫傷、右下腿挫傷擦過創、頸椎捻挫の傷害を負った。

(二)  治療経過

反訴原告は、右傷害の治療のため、医療法人辺見外科胃腸科医院(以下「辺見外科」という。)に、平成八年三月二三日から平成九年三月三日(症状固定日)まで通院した(実通院日数一五六日)。

なお、反訴原告は、症状固定後も痛みが取れないため、通院を続けた。

(三)  後遺障害

反訴原告は、平成九年三月三日、辺見外科において症状固定と診断されたが、後遺障害の主な内容は次のとおりである。

(1) 腰椎、頸椎のX線検査にて、変形性関節症の所見がみられる。

(2) 腰部、臀部、頸部から肩にかけて圧痛がある。

(3) 腰痛が続き、ときに痛みはひどくなることがある。特に曇天、雨天時は特に痛みが増している。

(4) 階段を上るときには手すりを持たないと上ることができない。寝返りを打った際にも腰痛がひどくなる。

(5) 三〇〇メートルほど歩行すると、腰がひどく重くなり、痛みが強くなり、五分から一〇分の休みを取らないと歩行することができない。

(6) 曇天、雨天の際には、頸部から背部、左上腕部から肘部にかけて痛みを覚える。

反訴原告は、右のとおり痛みが続き、歩行、立ち作業が極めて困難であるため、就労することが困難な状況にある。

なお、反訴原告の後遺障害は、自動車保険料率算定会による認定においては、等級非該当とされたが、非該当であるにしても、次のような症状が残っていることは事実である。

4(損害)

(一)  治療費 六五万五三三八円

(二)  休業損害 三九八万一〇七六円

反訴原告は、本件事故により就労不可能な状態となったが、本件事故の日である平成八年三月二三日当時は就労していなかった。

しかし、本件事故当時、同年四月から就労の予定であった。

具体的には、造園業を営む仲程造園土木こと仲程通栄方で平成八年四月から勤務する予定であった。

この仕事は、反訴原告が造園管理技士の資格を有しているところ、この免許資格を生かした仕事で、日給一万四〇〇〇円で、月間二五日程度の勤務が予定されていた。

したがって、形式的に無職者として捉えることは妥当ではなく、右日給一万四〇〇〇円を基礎として、その休業損害を算定すべきである。すると、反訴原告の休業損害は、三九八万五三三八円となる。

平均日額 一万一五〇六円

1万4000円×25日×12か月÷365日

休業期間 平成八年三月二三日から平成九年三月三日までの三四六日間

(三)  慰謝料

(1) 通院慰謝料 一九〇万円

通院約一一か月半(実通院日数一五六日)

(2) 後遺障害慰謝料 五〇万円

(四)  弁護士費用 五六万八〇一四円

よって、反訴原告は反訴被告らに対し、民法七〇九条、自動車損害賠償保障法三条に基づき、連帯して、金六二四万八一五七円及びこれに対する本件事故の日である平成八年三月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2は認める。

2  同3のうち、反訴原告の通院の事実は認めるが、その必要性及び本件事故との因果関係は知らない。

反訴原告が本件事故で負った傷害の程度は極めて軽微なものであり、したがって反訴原告が主張している症状は、本件事故以前に反訴原告が有していた既往症によるものである。

(一) 反訴原告は、平成三年一一月当時、パチンコ店に勤務していたが、パチンコ玉が入った箱を持ち上げた際、腰に痛みを覚え、辺見外科で治療を受けた。

その際の傷病名は、根性腰痛症であった。

その後、右腰痛は軽快しなかったため、同年一二月二日、行岡病院に入院した。

当時の腰痛の程度は、相当重篤であり、歩行すると痛みが強くなるほどであった。

なお、右腰痛がいつころから発生したものとは必ずしも明らかではないが、反訴原告の前身は自衛隊員であり、更に、反訴原告は、造園施工管理の免許を有しており、右経歴が腰痛と関係を有するかもしれない。

(二) 反訴原告は、その後、平成四年二月一〇日まで間、行岡病院に入院したが、退院後は再び辺見外科で治療を続けた。

反訴原告は入院中、腰にコルセットを装着しなければならないほどであった。

更に、反訴原告は、右当時から高血圧症であり、同年一月一〇日時点では最大血圧二一〇、最少血圧一五〇であり、血圧降下剤(アダラート)を服用しなければならないほどであった。

なお、右高血圧症は現在も治癒しておらず、依然として高数値(最大血圧一六〇前後、最少血圧九〇前後)を示しており、平成八年八月八日には最大血圧二〇〇、最少血圧一一〇という高数値である。

(三) 反訴原告の腰痛の原因は、少なくとも、私病である腰部脊柱管狭窄症及び加齢性変化の変形性腰椎症が認められ、右症状が腰痛に大きく寄与していることは明らかである。

(四) 反訴原告は、その後腰痛が悪化して、歩くことも不自由になり、平成七年一月下旬ころ、パチンコ店を退社した。したがって、本件事故当時は無職であり、社会保険から医療給付を受けていた。

しかし、右給付も平成八年二月末日限り打ち切られ、本件事故当時、被告には収入は全く存しなかった。

(五) 本件事故は、反訴被告山﨑が駐車場より低速度で後退した際、被害車両の一部が加害車両のバックミラーに触れて反訴原告が転倒したという、決して重大な事故ではない。

また、反訴原告主張の自覚症状も本件事故の前後を通じ、一貫して腰痛である。

3  同4のうち、反訴原告が本件事故当時無職であったことは認め、その余は知らないないし争う。

三  抗弁

1  (寄与度減額)

請求原因に対する認否2(一)ないし(五)の事実からすると、反訴原告の症状についての訴えは、本件事故以前の症状の延長にすぎないか、あるいは既往症のためその程度が増強されたにすぎない。

よって、その損害のすべてを反訴被告らに負担させることは公平ではなく、既往症の程度を考えると、少なくともその五割を減じることが公平である。

2  (過失相殺)

反訴被告山﨑は、駐車場から時速約五キロメートルの速度でバックで出てこようとしており、バックブザーが鳴っていたから、反訴原告にとっては加害車両が自車の方に後退してくることは容易に想像され、加害車両の動向を注視していれば、本件事故は回避できた。

したがって、反訴原告にも相当程度の過失が存する。

3  (損害填補)

(一) 治療費名目 六〇万四九二五円

(二) 休業損害名目 七五万一三四六円

(三) 健康保険傷病手当金 五〇万四〇〇〇円

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は争う。

2  同2は争う。

3  同3(一)、(二)は認め、(三)は争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(本件事故)、2(責任)は当事者間に争いがない。

二  請求原因3(受傷、治療経過、後遺障害)

証拠(甲二の1ないし5、九ないし一七、乙一、反訴原告本人)によれば、次の事実が認められる。

1  反訴原告は、本件事故により、腰臀部・左股挫傷、左上腕・左胸部挫傷、頭部外傷、後頭部挫傷、右下腿挫傷擦過創、頸椎捻挫の傷害を負い、平成八年三月二三日から平成九年三月三日まで、辺見外科で通院治療(実通院日数一五六日)を受けた(通院の事実については当事者間に争いがない。)。

2  反訴原告は、平成三年一一月、仕事中(パチンコ店)重い物をもったとき、腰に痛みが出現し、辺見外科で治療を受けたが、精査のため、同年一二月二日、行岡病院に入院したが、当初の愁訴は、右腰部痛で、歩行時に痛みが増強し、長時間の立位にて、両下肢から足の尖端にかけてしびれがあるというものであった。

反訴原告は、平成四年二月一〇日、右行岡病院を退院した。右行岡病院での診断名は、根性腰痛症、腰部脊柱管狭窄症であった。

3  反訴原告は、平成四年二月一〇日、再度辺見外科を腰痛が持続すると訴えて受診し、その後通院を継続し、以後本件事故前まで頻回にわたる通院を継続していたが、腰痛については、痛みが軽減することもあったものの、持続しており、平成七年三月一日から同月二二日までの間の通院日についてみれば、一日、七日、八日、一一日、一二日、一三日、一八日、一九日、二一日、二二日(本件事故前日)である。

右辺見外科での診断名は、変形性腰椎症・腰部脊柱管狭窄、変形性膝関節症(両)(平成四年一一月五日診断)、頸肩腕症候群(平成四年一二月二五日診断)であり、他に頸椎の第三ないし第七のそれぞれの間の椎間板に経年性変化による狭小化が認められている。

4  反訴原告は、平成九年三月三日、症状固定との診断を受けたが、その症状は、腰痛が続き、時々増悪する、曇天・雨天時は特に増悪する、階段を上るときは手すりを持たないと上れない、寝返りで腰痛増悪する、三〇〇メートルくらい歩行すると腰が重くなり、五ないし一〇分の休みで軽快する、雨天・曇天のときは頸部から背部、左上腕から肘部に痛みを覚えるというものであり、本件事故以前から訴えていた症状と同様である。

5  反訴原告の前項記載の症状について、自動車保険料率算定会は後遺障害について非該当と認定した。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

右に認定の事実からすると、反訴原告は本件事故以前から腰痛等の既往症を有しており、本件事故時点では未だその治療中であったものであり、本件事故により新たに加わった症状は特に見いだすことができない。

したがって、反訴原告の症状は、本件事故により幾分悪化したものと言うべきではあるが、反訴原告の症状をすべて本件事故の結果と認めることはできない(この点は、後述の寄与度減額で考慮することとする。)ものの、平成八年三月二三日から平成九年三月三日までの通院治療については、本件事故と相当因果関係があるものと言うべきである(治療期間が長期にわたっているのは反訴原告の既往症による影響があるが、右事情は相当因果関係を否定するものではない。)。

三  請求原因4(損害)

1  治療費 六五万五三三八円

証拠(乙四の1ないし3)によれば、平成八年三月二三日から平成九年三月三日までの辺見外科での通院治療に関し、治療費として六五万五三三八円を要したことが認められる。

2  休業損害

証拠(甲四ないし六、甲一八、調査嘱託の結果、反訴原告本人)によれば、次の事実が認められる。

(一)  反訴原告は、加害車両の付保の保険会社(同和火災海上保険会社)に対し、本件事故による休業損害を証明するものとしてみどり塗装店(代表者片岡義博)作成の平成八年五月二日付休業損害証明書(甲四)を提出し、これには、反訴原告を平成八年二月一日から雇用し、本件事故により平成八年三月二三日から同年四月三〇日までの三八日間休業し、同年二月(稼働日数二三日)二三万円、同年三月(稼働日数二三日)二三万円の給与を支給した旨記載されており、これに対し右保険会社は反訴原告に対し、平成八年三月二三日から同年四月三〇日までの分二九万一三四六円、同年五月分二三万円、同年六月分二三万円の合計七五万一三四六円を休業損害名目で支払った。

しかし、反訴原告はみどり塗装に勤務したことも勤務する予定もなく、右休業損害証明書は虚偽の内容ものであった。

(二)  反訴原告は、平成六年八月二四日から健康保険傷病手当金の支給を受けるようになり、平成八年六月一四日まで右支給を受けた。

(三)  反訴原告は、右のとおり平成六年八月二四日から傷病手当金を受給しており、就労不能状態であり、本件事故時においては無職であった。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

なお、反訴原告本人尋問の結果中には、本件事故の日の翌月である平成八年四月から、仲程造園で仕事をする予定であった旨の供述部分もあるが、その内容は具体性に欠ける上、前記認定の反訴原告の本件事故以前からの通院状況及び傷病手当金の受給状況からすると、右供述部分はそのままには採用できず、他に反訴原告に本件事故により休業損害が発生したことを認めるに足りる証拠はない。

3  慰謝料 一二〇万円

前記認定の、反訴原告の通院状況からすると、本件事故による慰謝料は一二〇万円と認めるのが相当である。

なお、症状固定時に反訴原告が訴える症状は本件事故以前からもあったものであり、右を本件事故による後遺障害と認めるに足りる証拠はなく、後遺障害慰謝料の請求は理由がない。

4  以上合計一八五万五三三八円

五  抗弁1(寄与度減額)

前記認定の反訴原告の既往症の部位、程度等からすると、反訴原告の前記認定の治療費及び慰謝料については、反訴原告の既往症が相当程度影響しているものと言うべきであるから、前記認定の損害額合計一八五万五三三八円からその五割を控除するのが公平に資する。

そこで、一八五万五三三八円からその五割を控除すると、九二万七六六九円となる。

六  抗弁2(過失相殺)

証拠(甲八)によれば、反訴被告山﨑は、衝突に至るまで全く反訴原告に気が付いていなかったことが認められ、この点重大な過失があるというべきところ、反訴原告に本件事故について過失相殺をしなければならない事業を認めるに足りる証拠はないから、反訴被告らの過失相殺の主張は採用しない。

七  抗弁3(損害填補)

1  治療費名目 六〇万四九二五円(争いがない。)

2  休業損害名目 七五万一三四六円(争いがない。)

3  健康保険傷病手当金 五〇万四〇〇〇円

証拠(甲一八、調査嘱託の結果)によれば、平成八年四月二三日から同年六月一四日までを支給対象として健康保険傷病手当金合計五〇万四〇〇〇円が反訴原告に対し支給されたことが認められる。

したがって、反訴原告の本件事故による損害賠償請求権は支払済みとなっていることになる。

八  よって、反訴原告の請求はその余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉波佳希)

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