大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成10年(ワ)1009号 判決 1999年9月27日

原告

株式会社石関開発

被告

アメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニー

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、一億八八六〇万六二〇〇円及びこれに対する平成一〇年二月二〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が被告に対し、保険契約に基づき死亡保険金一億五〇〇〇万円と災害死亡保険金五〇〇〇万円の合計額から返戻金一一三九万三八〇〇円を控除した一億八八六〇万六二〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一〇年二月二〇日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の請求をした事案である。

一  争いのない事実及び証拠により容易に認定される事実

(一)  当事者

原告は、建築設計及び施行等を目的とする株式会社であり、被告は、生命保険業を目的とする会社である。

(二)  保険契約の締結

訴外丸栄住宅株式会社(以下「丸栄住宅」という。)は、平成四年九月一日、被告との間で下記の保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。

<1> 保険証券番号 三A〇二五四九五五八

<2> 保険種類 傷害特約及び災害死亡給付特約付平準定期保険

<3> 保険金額 合計二億一〇〇〇万円

平準定期保険分 一億五〇〇〇万円

傷害特約分 一〇〇〇万円

災害死亡給付特約分 五〇〇〇万円

<4> 被保険者 石関清

<5> 保険金受取人 丸栄住宅

<6> 免責事由

ⅰ 無配当平準定期保険普通保険契約

責任開始(復活が行われた場合の保険契約については、最後の復活の際の責任開始)の日からその日を含めて一年以内の被保険者の自殺(乙一)。

ⅱ 生命保険約款傷害特約及び災害死亡給付特約

被保険者の故意又は重大な過失によって被保険者が死亡した場合(乙一)。

(三)  保険金受取人の変更

丸栄住宅と被告は、平成七年三月二日、上記保険契約のうち、保険契約者及び死亡保険金受取人を裏書きにより原告に変更した(甲一)。

(四)  本件保険契約復活の手続

本件保険契約は、平成九年一月一〇日、復活の手続がなされた。

(五)  被保険者の死亡

石関清は、平成九年三月二七日午後八時二〇分ころ、和歌山県西牟婁郡白浜町二九二六番地先県道路上を普通乗用車(メルセデスベンツ・大阪三五と六二六七、以下「本件車両」という。)を運転して走行中、同車両が炎上し、同時刻ころ、焼死した。

(六)  被告の保険金支払拒絶

原告は、被告に対し、石関清の死亡につき、前記保険契約に基づき保険金の支払を求めたが、被告は、石関清の死亡は自殺によるものであるとして、原告の請求に応じなかった。

そして、平成九年一〇月二二日、原告に対し、契約消滅による返戻金として一一三九万三八〇〇円を支払った。

二  争点

本件の争点は、<1>石関清の死亡原因、<2>保険契約の失効の有無である。

(一)  石関清の死亡原因

(被告の主張)

石関清は自殺により死亡したものである。

(原告の主張)

石関清は事故により死亡したのであって、自殺によって死亡したのではない。

(二)  保険契約の失効の有無

(被告の主張)

本件保険契約は、保険料未納のため、平成八年一二月一日に失効した。したがって、本件保険契約復活の手続は有効になされたものである。それ故、石関清の自殺は、保険契約復活の日から一年以内のものである。

(原告の主張)

原告は、本件保険契約の保険料につき、平成八年一一月末の支払期限を徒過したが、同年一二月一日から同月末日までの払込み猶予期間中に送金したので、本件保険契約が平成八年一二月一日に失効した事実はない。したがって、本件保険契約復活の手続は、その前提を欠く無意味なものである。したがって、石関清の死亡は責任開始の日から一年経過後のものである。

第三  裁判所の判断

一  石関清の死亡原因

(一)  事故の状況等

<1> 証拠(甲二、二〇ないし二六、乙一二、一三の一ないし三、乙一四の一ないし一〇)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

ⅰ 石関清は、本件車両を運転し、東から西に向かって本件事故現場付近の道路を走行し、途中、はまゆうトンネルを通過して、事故現場に至った。はまゆうトンネル東側入口手前(東方約二〇メートル)までは、左方にカーブする緩やかな下り坂が続き、その後、はまゆうトンネル内を含むほぼ直進かつ平坦な道路が約二〇〇メートルほど続き、トンネル西側出口からは、左方にカーブする緩やかな上り坂が本件事故現場付近まで続いている。

石関清以外に本件車両に乗車していた者はおらず、本件事故直前に降車した者もいなかった。

本件車両は、はまゆうトンネル入口から東方約一〇〇メートル先県道上において走行中に出火し、サンルーフから炎を上げ、途中、はまゆうトンネル入口付近の中央部に衝突しそうになりながら走行し、サンルーフの残骸を二カ所にわたって落下させながら(はまゆうトンネル東側入口東方約五〇メートル地点及びはまゆうトンネル内)、約三五〇メートル走行後、ブレーキをかけることなく歩道上の電柱に激突し、これを根元から折損し、同所で車両がほぼ全焼した。そして、運転席において、石関清が死体で発見された。

ⅱ 車両室内は、エンジンルーム及び後部トランクルームよりも焼損しており、室内の焼損状態は、運転席と助手席前方のパネルが他に比べ著しく焼損し、運転席の足下には、パネル内の配線などが落下していた。

運転席足下のマットの残焼物、コンソールボックス付近の残焼物(死体の布片)、助手席シートの残焼物(布片)、助手席シート上の残焼物、助手席側の足下の残焼物(助手席マットの残焼物)のいずれについても、ガソリンの付着が認められた。

本件車両の燃料タンク、ホース、電気配線に異常は認められず、燃料漏れなどの形跡もなく、燃料タンクには約三五リットルの燃料が残っていた。

ⅲ 石関清を解剖した結果、「全身Ⅳ度炭化(身体が強く焼け外表が炭のようになった状態)、焼損、四肢脱落、燃焼血腫あり、気道内に煤片は存在せず、血中Hb―CO六%」と確認された。

<2> 以上認定の事実によれば、本件車両火災は、本件事故現場の電柱に衝突する以前、走行中に車両室内から発生したと認められる。

そして、車両室内からの発火原因として、車両欠陥による発火など、人為的なもの以外の発火原因を窺わせる事情は認められない。この点、原告代表者は、その尋問において、本件車両に問題があることを示唆する供述をしているが、そもそもその供述には具体性がない上、上記認定事実及び本件捜査及び証人田中の調査において本件車両に問題があったことを疑わせる端緒が全く得られていないこと(乙一六、証人田中)に照らし、原告代表者の上記供述は信用できない。

さらに、石関清以外の者が本件車両火災に関与したことを窺わせる事実は認められない。

したがって、本件車両火災は、石関清によって作出されたものであり、石関清の死因は自殺と認められる。

以下、念のため、項を改めて石関清の生活状況等についても検討する。

(二)  石関清の生活状況等

<1> 証拠(甲二七、乙二の一、二、乙三の一ないし四、乙四、五、七、証人石関良治、原告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

ⅰ 石関清は、昭和四二年七月二八日、丸栄住宅を設立して、一戸建て住宅の建て売りなどの宅地開発をてがけた。ところが、大規模宅地開発事業の遂行中、経済情勢の悪化の中、取引銀行である和歌山銀行からの当初予定されていた追加融資が受けられなくなり、事業が遂行途中でとん挫した。このため、丸栄住宅の資金繰りは悪化し、平成六年八月には、和歌山銀行への返済も完全に止まった。

平成六年一一月一日に、和歌山銀行は、丸栄住宅に対する債権回収のため、連帯保証人である石関清所有の不動産に対し、競売の申立てをした。

丸栄住宅は、平成七年三月二九日に解散し、また、同月二五日には、原告会社の営業目的は不動産売買、賃貸等もなしえるように変更され、代表取締役は石関清から石関清和に変更された。

ⅱ 石関清は、平成二年ころから、妻子とは事実上別居し、知人の女性と同居していた。平成八年からは、二ケ月に一度の割合で三〇万円弱の年金の支給を受けるようになった。

ⅲ 石関清は、事故前日、昼ころ原告会社事務所に来たが、仕事もなく、原告代表者とともにテレビを見て雑談するなどし、夕方帰宅した。石関清は、帰宅時に、原告代表者に対し、翌日、和歌山市の病院に入院している知人の見舞いに行く旨を話した。

原告代表者が事故当日の午後一二時三〇分ころ石関清の携帯電話に連絡を入れたところ、同人は、高速道路を御坊市まで乗り過ごしたので、和歌山市内の友人の見舞いは翌日にして、このまま白浜に行く旨を話していた。

石関清は、同日午後五時ころ、白浜町にある喫茶店「マザーグース」で食事をし、午後六時ころJR白浜駅前にある飲食店「真珠」において、友人の尾崎新治と雑談を交わした。

<2> 上記認定の事実は、前記認定の石関清の死亡原因が自殺であることと矛盾するものではなく、他に前記認定事実を覆すに足りる事実は認められない。

(三)  よって、石関清の死亡は、石関清の故意によるものと認められるから、災害保険給付特約分の死亡保険金の支払については免責事由が存することになる。

以下、平準定期保険分の死亡保険金の支払につき、本件自殺が責任開始の日から一年以内であり、免責事由が存するか否かについて、項を改めて検討する。

二  保険契約の失効の有無

(一)  証拠(甲一、乙一、一一)によれば、以下の事実が認められる。

本件保険契約締結に際し、保険料は金融機関の口座振替の方法により毎月払い込むものとされた。

また、本件保険約款によれば、月払契約の保険料が支払われない場合でも、支払期月の翌月の初日から末日までの間に滞納保険料の支払がなされれば、保険契約は失効しないものとされ、猶予期間内に滞納保険料が支払われない場合には、保険契約は猶予期間満了の翌日から失効するものとされている。

保険契約者及び死亡保険金受取人が平成七年三月二日に丸栄住宅から原告に変更された際も、保険料の払込方法に関する特約は従前のままであった。

平成八年一〇月分の保険料につき、同月末日までに口座からの振替がなされなかった。そのため、被告は、平成八年一一月中旬ころ、平成八年一〇月分の滞納保険料と翌一一月分の保険料の支払いを原告に書面で請求したが、平成八年一〇月分の保険料は、平成八年一一月末日までに支払われなかった。

(二)  以上認定の事実によれば、本件保険契約は平成八年一二月一日に失効したものといえる。したがって、本件保険契約の復活の手続は有効になされ、平成九年一月一〇日復活したものであり、石関清の自殺は復活の日から一年以内になされたものといえるから、平準定期保険分の死亡保険金の支払について免責事由が存することになる。

四  以上により、平準定期保険分及び災害死亡給付特約分の各死亡保険金の支払について、それぞれ免責事由が存するから、原告の請求は理由がない。

第五  よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 中路義彦 山口浩司 下馬場直志)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例