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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)10号 判決 1998年12月14日

原告

福田孝行

被告

小倉英三郎

主文

一  被告は、原告に対し、金五八〇万九〇三一円及びこれに対する平成八年一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その四を原告の負担とし、その六を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金八二一万二九九四円及びこれに対する平成八年一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、原告が、被告に対し、交通事故により損害を受けたと主張し、損害賠償を請求した事案である。

二  争いのない事実及び証拠(乙二の一五と一六、三の一、弁論の全趣旨)上明らかに認められる事実

1  交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

(一) 日時 平成八年一月八日午後一〇時二八分ころ(天候くもり)

(二) 場所 大阪府箕面市船場西三丁目一三番先路上

(三) 加害車両 普通貨物自動車(大阪四一は八八三一)

運転者 被告

(四) 被害者 原告

(五) 事故態様 原告がバスから下車し、道路を横断していたところ、右から進行してきた加害車両と衝突した。

2  責任

被告は、前方をよく見ないで、また、ハンドルやブレーキを適切に操作しないで、本件事故を起こした。

したがって、被告は、原告に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償義務を負う。

3  原告が負った傷害と治療

(一) 原告は、本件事故により、顎関節症、右上歯牙破折、頭部外傷1型、右頭頂部打撲挫傷などの傷害を負った。

(二) 原告は、治療のため、次のとおり通院した。

(1) 箕面市立病院に、平成八年一月八日から同月一六日まで通院(実日数六日)

(2) 正井歯科医院に、平成八年一月八日から平成八年三月四日まで通院(実日数五日)

(3) 大阪小杉整形外科に、平成八年一月一八日から平成八年七月三一日まで通院(実日数七八日)

(4) 財団法人千里保健医療センター新千里病院に、平成八年三月一一日から平成九年二月四日まで通院(実日数九日)

4  後遺障害

原告(昭和四四年一〇月一八日生まれ、本件事故当時二六歳)は、平成九年二月四日、症状固定した(当時二七歳)が、下顎打撲に起因する顎関節症状(雑音、疼痛、開閉口運動障害)の後遺障害が残り、雑音、開閉口運動障害は今後も消失しない。

自動車保険料率算定会は、自賠法施行令第二条別表後遺障害別等級表一二級一二号に該当する旨の認定をした。

三  中心的な争点

1  過失相殺

2  後遺障害逸失利益(労働能力喪失率)

第三判断

一  過失相殺

1  被告

(一) 主張 原告対被告は七〇対三〇。

(二) 理由 本件事故現場付近には横断歩道がある。原告は横断していた道路の車両用の対面信号は赤信号であったというが、時差信号であり、青信号であった。本件事故発生当時、夜間であり、雪が降り始めていたから、歩行者の発見は難しかった。

2  原告

(一) 主張 原告対被告は〇対一〇〇。

(二) 理由 本件事故現場は、横断歩道から三〇メートルも離れていたし、明るく、見通しもよかった。被告は飲酒運転である。

3  裁判所

(一) 認定 原告対被告は一〇対九〇。

(二) 理由 4(事実)と5(評価)に記載のとおり。

4  証拠(乙二の四と九と一〇と一二と一三、原告の供述)によれば、次の事実を認めることができる。(別紙図面参照)

(一) 本件事故現場の道路の状況は、市街地であり、歩車道の区分があり、暗く、前方の見通しはよい。アスファルト舗装され、平たんで、湿潤し、最高速度が時速四〇キロメートルに規制されている。

(二) 加害車両が進行し、原告が横断した東西道路は、片側一車線であり、一車線の幅員は、約四・五メートルであるが、交差点付近では狭くなっている。

原告と加害車両が衝突した地点から東側約三〇メートルの地点に、信号機が設置され、横断歩道がある。

この信号機は、東行き信号が赤信号に変わってから四秒後に、西行き信号が赤信号に変わる時差信号である。

(三) 被告は、時速約四五キロメートルで、前照灯を下向きにし、東西道路の西行き車線を進行していた。

被告は、対面信号が青信号であることを確認し、交差点の東側の横断歩道にさしかかるあたりで、前方約九〇メートルの地点にいるバスが発進していくのを見つけ、交差点を通過した。

さらに、交差点の西側の横断歩道をすぎた地点で、前方約二〇メートルの地点、西行き車線内の左側にいる原告を発見し、急ブレーキをかけたが、約一八メートル進み、西行き車線のほぼ中央付近で、原告と衝突した。

原告は約五メートル先に転倒し、加害車両は約一メートル進み停止した。

また、被告は、本件事故の二時間半ほど前から、居酒屋で、ビールを中ジョッキで三杯、日本酒を二合徳利で二本くらい飲み、本件事故当時、呼気一リットルにつき、約〇・三ミリグラムのアルコールを保有する状態で加害車両を運転していた(いわゆる酒気帯び運転)。

なお、被告は、交差点の東側の横断歩道の手前(衝突地点から約六四メートル手前)の地点から、原告を発見することが可能であった。

(四) 原告は、バスから下車し、東西道路を横断しようと思い、交差点の信号を見たところ、東行き車線の対面信号は赤信号であった。そこで、南側歩道から横断を開始したが、西行き車線の道路中央付近で、加害車両と衝突した。

5  これらの事実によれば、確かに、原告は、西行き車線の対面信号が赤信号であると誤信しているし、さらには、右方をきちんと見て、進行車両がないかどうかを確認してから横断すべきであった。しかし、被告は、前方をよく見ていれば、早期に原告を発見できたはずであり、しかも、バスが発進したのを見ていたのであるから、歩行者の存在を予想することができたはずである。また、原告の発見が遅れた原因は、飲酒をして運転し、注意力が欠けていたからであるといわざるを得ない。そして、飲酒の量も多い。そうすると、進行車両と横断中の歩行者の通常の過失割合よりも、被告の過失がきわめて大きいというべきである。

したがって、被告に本件事故の大きな責任があるというべきであり、原告と被告の過失割合は、一〇対九〇とすべきである。

二  損害

1  治療費

(一) 原告の主張 三二万三八〇八円

(二) 被告の主張 四六万六九〇八円

(三) 裁判所の認定 四六万六九〇八円

証拠(弁論の全趣旨)によれば、原告は、治療費として、四六万六九〇八円の損害を被ったと認めることができる。

2  通院交通費

(一) 原告の主張 九万四七二〇円

(二) 被告の主張 認める。

(三) 裁判所の認定 九万四七二〇円

争いがない。

3  休業損害

(一) 原告の主張 一六万一一五四円

(二) 被告の主張 認める。

(三) 裁判所の認定 一六万一一五四円

争いがない。

4  後遺障害逸失利益

(一) 原告の主張 三〇一万二九九四円

(二) 被告の主張 〇円

原告には労働能力の喪失はない。原告は、通常の会話が十分に可能である。実際に、原告の収入は減少しておらず、増加している。

(三) 裁判所の認定 二三九万八七八三円

(1) 証拠(甲四、原告の供述、弁論の全趣旨。争いのない事実を含む。)によれば、原告は、広告代理業を営む会社で、営業の仕事をしていること、平成七年には、六〇三万八五五〇円の収入を得ていたこと、下顎打撲に起因する顎関節症状(雑音、疼痛、開閉口運動障害)が残り、今後も消失しないこと、具体的には、口を開けて、話をするときに、雑音があったり、時々痛みがあったりすること、ただし、疼痛は次第によくなってきていることなどが認められる。

そうすると、営業の仕事上、会話は不可欠であるし、口を開閉するときに雑音があったり、時々でも痛みがあれば、会話に支障が生じるが、支障の程度は小さく、将来的には支障はきわめて小さくなると認めることができる。

したがって、原告は、労働能力を五パーセント喪失し、その期間は一〇年間であると認めることが相当である。

(2) したがって、また、逸失利益は、六〇三万八五五〇円に、五パーセントを乗じ、中間利息を控除して一〇年(七・九四四九)を乗じた二三九万八七八三円と認められる。

(3) これに対し、被告は、労働能力を喪失しないと主張し、乙四号証(医師の意見書)を提出する。これによると、自発性の疼痛は認められず、疼痛を伴わずに約五センチメートルの開口が可能であるから、会話、食事にも支障がなく、労働に支障をきたす可能性はないとされている。しかし、これだけでは、将来的にはともかく、まったく仕事に支障がないとは認めがたいし、口を開閉したときに雑音があったり、時々でも痛みがあったりすると、程度はともかく、会話がしにくくなり、仕事上支障が生じるといわざるを得ない。

なお、原告の収入が増加していたとしても、原告の努力でカバーしているということができる。

したがって、いずれにしても、被告の主張は採用しない。

5  通院慰謝料

(一) 原告の主張 一二〇万円

(二) 被告の主張 特にない。

(三) 裁判所の認定 一二〇万円

6  後遺障害慰謝料

(一) 原告の主張 二四〇万円

(二) 被告の主張 特にない。

(三) 裁判所の認定 二四〇万円

7  義歯の将来の治療費

(一) 原告の主張 八〇万円

(二) 被告の主張 〇円

(三) 裁判所の認定 〇円

これを認めるに足りる証拠がない。

三  損害の合計 六七二万一五六五円

四  過失相殺後の損害額 六〇四万九四〇八円

五  損害のてん補

1  てん補 七四万〇三七七円(乙一)

2  てん補後の残金 五三〇万九〇三一円

六  弁護士費用 五〇万円

七  結論

1  損害金残金 五八〇万九〇三一円

2  遅延損害金 本件事故の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員

(裁判官 齋藤清文)

別紙図面

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