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大阪地方裁判所 平成10年(モ)3861号 決定 1998年10月05日

当事者

別紙当事者目録記載のとおり

主文

本件をいずれも東京地方裁判所に移送する。

理由

第一申立ての趣旨

主文同旨

第二事案の概要

一件記録によれば、平成一〇年(ワ)第三八二九号損害賠償請求事件及び平成一〇年(ワ)第六〇七九号損害賠償請求事件(以下、併せて「本件訴訟」という。)における原告らの請求は、概要次のとおりである。

一  被告山一證券株式會社

被告山一證券株式會社(以下「被告会社」という。)は、いわゆる大手証券会社であったが、平成九年一一月二四日、自主廃業を決定して大蔵省に営業休止の届出をし、現在、事実上の倒産状態に陥っている会社である。

二  被告会社以外の被告ら

被告会社以外の被告ら(以下「被告取締役ら」という。)は、いずれも被告会社の取締役であった者であり、被告会社から、会長、社長又は常務の肩書を与えられていた者である。

三  原告ら

原告らは、いずれも被告会社が自主廃業する旨の新聞報道がなされた平成九年一一月二二日の直前(同月一九日から同月二一日まで)に、被告会社の証券外務員らから勧誘されて被告会社の株式を購入した者である。

四  原告らの被告らに対する請求

本件訴訟は、原告らが、被告らに対し、被告らには被告会社に簿外債務が存在する事実を直ちに証券取引所に通告するとともに、適切な方法により簿外債務の存在を一般投資者に公開すべき義務を負っていたにもかかわらず、右義務を怠り、通告及び公開をしなかった不法行為(共同不法行為)及び平成九年一一月に入ってからの被告会社の株価の暴落過程において多額の簿外債務が明らかになれば倒産状態になることを十分予想できる状態にありながら、被告らは被告会社の簿外債務の存在を秘し、被告会社の証券外務員らが原告らに対して被告会社の株式の購入を勧誘することを放置した不法行為(共同不法行為)に基づき(被告取締役らについてさらに商法二六六条の三第一項に基づき、被告会社についてはさらに民法七一五条又は商法二六一条三項、同法七八条二項及び民法四四条一項に基づき)、連帯して被告会社の株式の購入費用及び弁護士費用並びに右各金員に対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

第三申立ての理由等

一  被告Y11(以下「被告Y11」という。)以外の被告らの申立て

1  原告らの主たる主張は、被告取締役らが重要事項の適時開示義務を怠ったとする点、また、被告取締役らが被告会社の証券外務員らが被告会社の株式の購入を勧誘することを放置したとする点にあるところ、前者についてはもちろん、後者についても被告取締役らが被告会社の証券外務員らによる被告会社の株式購入の勧誘を放置した点を問題とするものであって、原告らが被告会社の株式を購入した際の個別の勧誘行為の内容が問題となるものではなく、本件訴訟においてはそもそも原告らを取り調べる必要性は乏しい。

2  他方、原告らは、簿外債務が存在していたと主張するところ、本件において、簿外債務と主張されている債務の内容は、実際は債務ではなく有価証券の含み損であり、また、右有価証券の含み損も被告会社が所有する有価証券に関するものではなく、被告会社とは直接に資本関係がない国内及び国外に存在する別会社が所有する有価証券の含み損であって、被告会社においては帳簿上記載しようのないものであった。本件において簿外債務とされている債務の内容が実際は有価証券の含み損であった以上、被告らは、簿外債務が存在したとする事実を否認し、また、被告取締役らは右有価証券の含み損の存在を知らず、隠蔽を行ったこともない事実を立証する予定であるところ、被告らは、右事実を立証するため、国内に所在する会社が所有する有価証券の含み損に関しては東京都及び千葉県に居住している者二人を、国外に所在する会社が所有する有価証券の含み損に関しては東京都及び神奈川県に居住している者二人をそれぞれ証人として申請し、さらに、平成九年一一月二〇日ころ、別会社の有する有価証券の含み損について、いつ、どのように発表すべきかについて被告会社内部で行われた議論について、東京都に居住している被告会社の監査役であった者一人を証人として申請する予定である。

3  また、原告らの主張から見て、被告取締役ら各自の社内的地位、職務内容、認識等が問題となり、被告取締役ら全員の尋問が必要不可欠であるところ、被告取締役らはいずれも東京都、神奈川県及び千葉県に居住している。

4  さらに、原告らの住所は徳島県から千葉県に及んでおり、原告らの立場に立ったとしても、本件訴訟を大阪地方裁判所で審理しなければならない必然性は全く認められない。

5  原告らは、民事訴訟法一七条により救済されるべきは大企業であった被告会社や大企業の役員であった被告取締役らではなく、原告ら投資者である旨の主張をする。しかし、原告らは投機目的で被告会社の株式を購入するだけの資力のあった投資者であり、経済的な困窮状態にあるものではないのに対し、被告会社は全従業員を解雇し、その上で二〇〇人程度の人員を再雇用して清算業務だけを行う中小企業にすぎず、被告取締役らも、その多くは資本家と呼ばれるような富裕層ではなく苦労して取締役の地位に達した者であり、その資産の大部分を形成していた被告会社の株式が無価値となり、原告ら以上に多くの財産上の損失を被っている。

以上のとおりであり、本件においては、取り調べるべき証人及び本人(被告取締役ら)は東京地方裁判所近辺に居住しており、本件訴訟を大阪地方裁判所で行えば、証人及び被告らの出頭確保等の面から訴訟の円滑な進行が期待できなくなるばかりか、原告らにとっても本件訴訟を大阪地方裁判所で審理する必然性は認められないにもかかわらず、被告らは大阪地方裁判所で本件訴訟を追行するために多額の費用が必要となり著しく不平等となる。よって、訴訟の著しい遅滞を避け、また、当事者間の衡平を図るために、民事訴訟法一七条に基づき、東京地方裁判所への移送を求める。

二  被告Y11の申立て

原告らの主たる主張は、被告取締役らが重要事項の適時開示義務を怠ったとする点、また、被告取締役らが被告会社の証券外務員らが被告会社の株式の購入を勧誘することを放置したとする点にある。しかし、前者については被告会社が融資及び支援等を求めて折衝した金融機関の関係者ら数名、被告会社の監督官庁であり、簿外債務の処理等について指導をし得る立場にあった大蔵省関係者ら数名及び被告取締役ら全員に対する尋問が不可避であるところ、これらの者はいずれも東京地方裁判所近辺に居住している。また、後者については前者を前提とするものであり、必要な立証及び反証のための証人等は前者の場合と同様である。

以上のとおりであり、被告らの住所及び必要となる人証等関係証拠の所在地等を考慮すると、本件訴訟は、訴訟の著しい遅滞を避け、また、当事者間の衡平を図るために、民事訴訟法一七条に基づき、東京地方裁判所へ移送されるべきである。

三  原告らの反論

1  民事訴訟法一七条において、訴訟の著しい遅滞を避けるための移送のみならず、当事者間の衡平を図るための移送も認められた趣旨は、義務履行地の裁判籍の規定並びに定型の契約書及び約款等により、一般市民の住所地からは遠隔地にある企業の本店所在地の裁判所に管轄が認められ、そのために応訴について経済的時間的に困難が生じるという一般市民の不利益を救済する点にあるところ、原告らは被告会社の証券外務員らによる不当勧誘によって被告会社の株式を購入させられた個人投資者であり、他方、被告らは、大企業及びその役員であった者である。かかる被告らの申立てにより本件を東京地方裁判所に移送することは同条の趣旨に反するものである。

2  原告は、現在のところ、甲第一号証(社内調査報告書の記事)の記載内容を中心として立証する予定であるところ、具体的な人証としては、被告会社の証券外務員らによる勧誘態様についての原告ら全員の本人尋問、甲第一号証に記載されている被告会社の社内調査報告書を作成した社内調査委員会の委員長であった被告Y5の本人尋問及び被告会社が富士銀行に協力要請を行った後、破綻に至るまでの経緯について、被告会社の代表取締役であった被告Y2の本人尋問を予定している程度である。

以上のとおり、人証予定者の大部分は大阪地方裁判所近辺に居住しているのであり、かかる点から見ても、本件は大阪地方裁判所において審理されるべきである。

第四当裁判所の判断

一  一件記録によれば、本件訴訟の土地管轄は、大阪府内に住所を有する原告について義務履行地又は不法行為地として、その他の原告について併合訴訟の裁判籍として土地管轄の認められる大阪地方裁判所のみならず、東京都内に住所を有する被告について住所地として、その他の被告について併合訴訟の裁判籍として土地管轄の認められる東京地方裁判所にも認められる。

二  本件訴訟の主たる争点

1  一件記録によれば、現在のところ、本件訴訟の主たる争点としては、①いかなるものを簿外債務というのかも含めて、被告会社に何らかの公表すべき債務あるいは損失が存在していたのか否か、②右①が肯定されるとした場合、被告らに右債務あるいは損失を公表すべき義務があったのか否か、あったとすれば、どの段階において公表すべき義務があったのか、③被告らには、右公表に先立ち、被告会社の証券外務員らが原告らに対して被告会社の株式の購入を勧誘することを阻止すべき義務があったのか否か、が予想されるところである。

2  そこで、まず、争点①について検討するのに、この点に関する立証としては、書証による立証が考えられるほか、被告会社の会計担当者の証人尋問等が考えられるが、被告Y11を除く被告ら主張にかかる有価証券の含み損の内容及びこれを被告会社の帳簿に記載しなかった理由に関する証人は、東京都に居住する者が二人、千葉県及び神奈川県に居住する者がそれぞれ一人であり、いずれも東京地方裁判所近辺に居住しているところであり、仮に右被告ら主張にかかる者以外の者を証人とする場合においても、被告会社の会計に関する中心的部署があったと考えられる被告会社の本店の所在地が東京都に存する点に鑑みれば、証人尋問をする場合、証人となるべき者は東京地方裁判所近辺に居住していることが予想されるところである。

これに対し、被告会社に何らかの公表すべき債務あるいは損失が存在していたのか否かは被告会社の内部的な問題であったのであるから、この点に関して原告ら本人尋問の必要性が乏しいことは明らかである。

3  次に、争点②について検討するのに、被告らに債務あるいは損失を公表すべき義務があったのか否かは、関連法令の解釈のみならず、被告取締役ら各自の右債務あるいは損失の存在を認知した時点も問題となり、この点において被告取締役らの陳述書を含む書証及び一部の被告取締役らについての本人尋問が予想し得るところであるが、いずれにせよ、原告ら本人尋問の必要性は乏しいと考えられるところである。

4  さらに、争点③について検討するのに、被告らの責任に関する原告らの主張は、多額の簿外債務が明らかになれば倒産状態になることを十分予想できる状態の認識が存在することを前提として、被告らは被告会社の証券外務員らによる勧誘行為を阻止すべきであったとするものであり、被告取締役らの認識内容についての取調べが重要となるのであって、被告会社の証券外務員らがいかなる勧誘の態様を採ったのかは第一義的に問題となるものではなく、この点においても原告ら本人尋問の必要性は絶対的なものではないと考えられる。

5  なお、右掲記の現在において予想される争点のほかに、原告らの損害も立証の対象となるが、原告らの主張する損害は、被告会社の株式の購入費用(売買代金に加え、手数料等を含む。)及び弁護士費用であり、契約書等の書証による立証が考えられ、この点についても原告ら本人尋問の必要性は低いと考えられる。

三  以上のとおり、現在予想される人証については、その大部分が東京地方裁判所近辺に居住しているものと予想され、また、一部の被告取締役らの本人尋問も予想されるところであるが、被告取締役らはいずれも東京地方裁判所近辺である東京都、千葉県又は神奈川県に居住しているのに対して、現在のところ、原告ら本人尋問の必要性は乏しいと考えられる。また、民事訴訟法一七条の「当事者間の衡平を図るため必要がある」かどうかを判断するについては、当事者双方の経済的な優劣のみならず、訴訟経済上の必要をも総合考慮すべきものである上、原告らは、その主張によれば、被告会社の破綻直前に被告会社の証券外務員らの勧誘により被告会社の株式を購入させられた者であるところ、少額の者で約一〇〇万円、多額の者は一〇〇〇万円を超える金員を出資して被告会社の株式を購入した者であって、一件記録によっても特に経済的に困窮している者であるということはできないし、さらに、原告らの住所地は千葉県から徳島県に及んでいること及び本件訴訟において明らかとされるべき行為が行われた中心的舞台が東京であることをも加味すると、右で検討した現在において予想し得る人証等に関する事情を考慮してもなおかつ本件訴訟を大阪地方裁判所で審理すべき事情を見いだすことはできず、結局、本件訴訟は、訴訟の著しい遅滞を避け、また、当事者間の衡平を図るために、東京地方裁判所へ移送するのが相当である。

第五結論

よって、被告らの申立てにより本件訴訟を東京地方裁判所に移送することとし、民事訴訟法一七条に基づき、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 白石研二 裁判官 増田隆久 裁判官 谷村武則)

当事者目録

東京都中央区<以下省略>

申立人(甲・乙事件被告、以下「被告」という。) 山一證券株式會社

右代表者代表取締役 Y2

東京都武蔵野市<以下省略>

申立人(甲・乙事件被告、以下「被告」という。) Y1

千葉県野田市<以下省略>

申立人(甲・乙事件被告、以下「被告」という。) Y2

千葉県浦安市<以下省略>

申立人(甲・乙事件被告、以下「被告」という。) Y3

東京都品川区<以下省略>

申立人(甲・乙事件被告、以下「被告」という。) Y4

千葉県八千代市<以下省略>

申立人(甲・乙事件被告、以下「被告」という。) Y5

神奈川県横浜市<以下省略>

申立人(甲・乙事件被告、以下「被告」という。) Y6

東京都武蔵野市<以下省略>

申立人(甲・乙事件被告、以下「被告」という。) Y7

東京都立川市<以下省略>

申立人(甲・乙事件被告、以下「被告」という。) Y8

千葉県船橋市<以下省略>

申立人(甲・乙事件被告、以下「被告」という。) Y9

東京都中央区<以下省略>

申立人(甲・乙事件被告、以下「被告」という。) Y10

右被告一一名訴訟代理人弁護士 田中慎介

同 久野盈雄

同 今井壮太

同 安部隆

同 市村英彦

東京都足立区<以下省略>

申立人(甲・乙事件被告、以下「被告」という。) Y11

右被告Y11訴訟代理人弁護士 石井吉一

同 浜二昭男

同 三木祥史

同 佐藤誠治

同 中所克博

同 佐藤浩秋

大阪府<以下省略>

被申立人(甲事件原告、以下「原告」という。) X1

徳島市<以下省略>

被申立人(甲事件原告、以下「原告」という。) X2

大阪府<以下省略>

被申立人(甲事件原告、以下「原告」という。) X3

京都市<以下省略>

被申立人(甲事件原告、以下「原告」という。) X4

京都市<以下省略>

被申立人(甲事件原告、以下「原告」という。) X5

和歌山県<以下省略>

被申立人(甲事件原告、以下「原告」という。) X6

京都府<以下省略>

被申立人(甲事件原告、以下「原告」という。) X7

大阪府<以下省略>

被申立人(甲事件原告、以下「原告」という。) X8

徳島県<以下省略>

被申立人(甲事件原告、以下「原告」という。) X9

大阪府<以下省略>

被申立人(甲事件原告、以下「原告」という。) X10

大津市<以下省略>

被申立人(甲事件原告、以下「原告」という。) X11

京都市<以下省略>

被申立人(甲事件原告、以下「原告」という。) X12

大阪府<以下省略>

被申立人(甲事件原告、以下「原告」という。) X13

千葉県<以下省略>

被申立人(甲事件原告、以下「原告」という。) X14

右原告一四名訴訟代理人弁護士 佐井孝和

同 山﨑敏彦

同 田端聡

同 斎藤英樹

同 片岡利雄

同 澤登

同 片山文雄

同 市瀬義文

同 河野豊

同 向来俊彦

同 室永佳宏

神戸市<以下省略>

被申立人(乙事件原告、以下「原告」という。) X15

和歌山県<以下省略>

被申立人(乙事件原告、以下「原告」という。) X16

大阪府<以下省略>

被申立人(乙事件原告、以下「原告」という。) X17

大阪府<以下省略>

被申立人(乙事件原告、以下「原告」という。) X18

大阪府<以下省略>

被申立人(乙事件原告、以下「原告」という。) X19

右原告五名訴訟代理人弁護士 岩崎利晴

同 佐井孝和

同 山﨑敏彦

同 田端聡

同 斎藤英樹

同 片岡利雄

同 澤登

同 片山文雄

同 市瀬義文

同 河野豊

同 向来俊彦

同 室永佳宏

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