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大阪地方裁判所 平成元年(ワ)5431号 判決 1989年11月22日

大阪府交野市梅が枝四二番二一〇号

原告

向井一

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

後藤正夫

右指定代理人

下野恭裕

辻浩司

龍神仁資

芳賀貴之

大阪府高槻市桃園町四番三三号

被告

桃園興業株式会社

右代表者代表取締役

川口善弘

右訴訟代理人弁護士

坂東宏

萩原壽雄

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、連帯して金七八円を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、平成元年六月二四日、被告桃園興業株式会社(以下「被告会社」という)において、レギュラーガソリン二四・二リッター二六一四円相当の給油を受けたが、その際、同社従業員に消費税相当分として七八円の支払を求められ、これを支払った。

2  本来一般消費者は、消費税を負担すべき拘束は受けないから、右金員は同被告において不当に利得したものであり、仮にそうでないとしても同被告の不法行為によって原告が損害を被ったものといえる。

3  被告国は、行政指導の名のもとに、被告会社等の事業者に対し、前記消費税相当分の徴収を教唆した。

4  消費税法及び税制改革法(以下「改革法」といい、両法を一括して「二法」ともいう)によれば、低所得者になるに従って税負担度が重くなっていて税の公平・公正さを欠き、消費税法にはその負担者は「事業者」としか明文化されておらず、租税法律主義にも違反しているので、二法は憲法に違反している。

5  よって、原告は、被告らに対し、連帯して七八円を支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

(被告国)

請求原因1の事実は知らず、同2、4は争い、同8の事実は否認する。

被告国は、改革法及び消費税法の規定にしたがい、消費税の徴収等に関して、広報、相談、指導等のため各種の措置を行っているにすぎず、被告国の講じている各種措置は、右法律に基づくものであって、何ら違法ではない。

(被告会社)

請求原因1の事実は認め、二、4は争う。

被告会社は二法の規定及び国の行政指導に従い、同被告が納税すべき消費税を原告に転嫁したもので、その際、いわゆる外税方式を採用したものであるが、同被告が原告から受領した金員は消費税相当額も含めて全て取引の対価であると認識している。

よって、原告から支払を受けた消費税相当額七八円は法律上の原因に基づくものである。

第三証拠関係

原告は甲第一号証を提出し、被告らはその成立を認める、と述べた。

理由

一  請求原因1の事実は、原告と被告会社との間においては争いがなく、被告国との間においても、成立に争いのない甲第一号証によってこれを認めることができる。

二  平成元年四月一日税制改革法及び消費税法が実施されたことは当裁判所に顕著であり、前出甲第一号証及び弁論の全趣旨によれば、被告会社が本件ガソリン取引において原告から消費税相当分七八円を受領したのは、右法令に基づき消費税相当分を消費者に転嫁すべく、消費税相当分を含めて取引代金を定めたことによるものであり、右ガソリン取引は、曲りなりにも原告の同意のもと、換言すれば、双方の合意に基づいて行われたものと認めることができる。

よって、被告会社による右七八円の受領は、法律上の原因に基づくものであって違法性も故意過失もなく、被告会社において、不当に利得したものではなく、不法行為をなしたものでもない。

なお、原告は、二法は憲法に違反しているというところ、違憲であるかどうかはともかく、双方の合意に基づきなされた本件ガソリン取引がそのために当然無効になるものでもないので、前記判断を動かすものではない。

また、被告国に対する主張についても、被告会社による右七八円の受領が不当利得ないし不法行為にあたることを前提とするものであるから、これが不当利得ないし不法行為にあたるものでない以上、失当であるといわなければならない。

三  以上によれば、原告の本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 古川正孝)

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