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大阪地方裁判所 平成元年(わ)2831号 判決 1990年3月14日

国籍

韓国(全羅南道康津郡郡東面龍沼里三八八)

住居

大阪市西成区花園北二丁目一〇番一六号

会社役員

呉本利雄こと 呉貞鉄

一九三六年一二月二一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官山田廸弘出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金一億円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罰となるべき事実)

被告人は、大阪市西成区花園北二丁目一〇番一六号において「サロンドグレイ」の名称で婦人靴製造業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、収入の一部を除外して架空名義預金を設定するなどの行為により所得を秘匿した上、

第一  昭和六〇年分の実際総所得金額が一億七一四三万二二七円(別紙(一)ないし(三)各修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同六一年三月一四日、大阪市西成区千本中一丁目三番四号所在の所轄西成税務署において、同税務署長に対し、所得金額が六三〇万円で、これに対する所得税額が七八万三五〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、正規の所得税額一億五九〇万五八〇〇円と右申告税額との差額一億五一二万二三〇〇円(別紙(一〇)税額計算書参照)を免れ

第二  昭和六一年分の実際総所得金額が二億五五二三万三四六六円(別紙(四)ないし(六)各修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同六二年三月一二日、前記西成税務署において、同税務署長に対し、所得金額が七二〇万円で、これに対する所得税額が九九万八五〇〇円(ただし、申告書では、計算誤りにより九九万五〇〇円と記載。)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、正規の所得税額一億六四七六万五九〇〇円と右申告税額との差額一億六三七六万七四〇〇円(別紙(一〇)税額計算書参照)を免れ

第三  昭和六二年分の実際総所得金額が二億九〇一一万九五九八円(別紙(七)ないし(九)各修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同六三年三月四日、前記西成税務署において、同税務署長に対し、所得金額が八四〇万円で、これに対する所得税額が一二一万五六〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、正規の所得税額一億六五七〇万四三〇〇円と右申告税額との差額一億六四四八万八七〇〇円(別紙(一〇)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  第一回公判調書中の被告人の供述部分

一  被告人の検察官に対する供述調書四通

一  収税官吏の被告人に対する質問てん末書二三通

一  呉本典子こと呉全子及び金松敬三こと金敬三の検察官に対する各供述調書

一  呉本幸子作成の供述書

一  呉本典子作成の確認書二通(証拠等関係カード検察官請求分番号40、41)

一  収税官吏の呉本幸子こと洪幸子(九通)、呉本典子こと呉全子(一二通)、岡田一夫、平尾喬、村井一郎、村井正昭、政木健司、山本修平、加藤嵩、渡辺敏克、西家志津雄、徳山正雄、中山粂夫、呉本時宗こと呉時宗、呉本貞子こと金貞子、西浦千恵子、前田幸次(二通)、金松敬三こと金敬三(三通)及び寺崎寧に対する各質問てん末書

一  収税官吏作成の査察官調査書二五通(前同番号7から9、11から27、29、30、32、33、35)

一  収税官吏作成の「たな卸商品等在庫高確認書」及び「機械装置等確認書」と題する各書面

一  収税官吏作成の査察官報告書

一  検察事務官作成の捜査報告書

判示第一の事実について

一  収税官吏の宮前潔志に対する質問てん末書

一  収税官吏作成の査察官調査書二通(前同番号31、34)

一  西成税務署長作成の証明書(前同番号4)

一  収税官吏作成の脱税額計算書(前同番号1)

判示第二及び第三の各事実について

一  呉本典子作成の確認書二通(前同番号42、43)

一  収税官吏作成の査察官調査書(前同番号28)

判示第二の事実について

一  収税官吏の西川望に対する質問てん末書

一  西成税務署長作成の証明書(前同番号5)

一  収税官吏作成の脱税額計算書(前同番号2)

判示第三の事実について

一  収税官吏の中井國彦及び木村慶子に対する各質問てん末書

一  収税官吏作成の査察官調査書(前同番号10)

一  西成税務署長作成の証明書(前同番号6)

一  収税官吏作成の脱税額計算書(前同番号3)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、各罪とも所定の懲役刑と罰金刑を併科し、なお、情状により罰金刑について同条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金一億円に処し、右の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

(量刑の事情)

本件は、製靴業を自営していた被告人が、三年間にわたり、合計四億三三〇〇万円余りの所得税をほ脱した事案であるが、そのほ脱額が右のとおり多額であるばかりか、ほ脱率も平均して九九・三パーセントと極めて高率に達すること、また、犯行の態様は、受取手形を仮名預金口座に振り込んで所得を隠匿し、その中から仮名定期預金を設定して非課税制度の適用を受けるなどした上、雑所得及び利子所得については全く申告せず、わずかに前年度の申告金額を参考にして事業所得のごく一部を申告するという大胆なものであること、更には、各犯行が常習的でもあることなどに照らすと、その犯情は悪質であり、この種大口脱税犯に対する最近の納税者一般の厳しい処罰感情をも併せ考えるとき、被告人の刑事責任には相当に重いものがあるといわなければならない。なお、本件犯行の動機は、事業を会社組織とし、機械設備を充実させ、従業員の雇用関係を安定させるなどの目的で資金を蓄積しようとしたというものであるが、これらは元来経営者の誰もが願うところであって、格別酌むべき事情とはなりえない。

そうすると、本件所得の大部分が被告人の長年の事業活動に伴う労苦の結果であり、脱税の手口も比較的単純なものであること、本税・附帯税は全額納付済みであり、地方税についても半ば以上が納付済みであること、被告人は、これまで見るべき前科、前歴を有しておらず、本件により国税局の査察を受けた後は素直に犯行を認めて調査に応じ、また、既に事業を法人化させた上、経理処理を明確にして再過なきを誓い、反省もしていること、被告人の納税意識の乏しさについては、少年時に来日して以降懸命に働く中で、納税義務履行の重要性と義務違反に対する制裁の厳しさに気付く機会のないまま各犯行に至ったという点で、その国籍の違いや生活歴と無縁ではなかったこと、その他家庭及び職場関係など被告人に有利な諸事情を十分考慮に入れても、本件はとうてい刑執行猶予の事案ではなく、この際被告人に対し主文掲記の懲役及び罰金の実刑をもって臨むのはやむをえないものと思料する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白井万久 裁判官 的場純男 裁判官 三好幹夫)

別紙(一) 修正損益計算書

<省略>

別紙(二) 修正損益計算書

<省略>

別紙(三) 修正損益計算書

<省略>

別紙(四) 修正損益計算書

<省略>

別紙(五) 修正損益計算書

<省略>

別紙(六) 修正損益計算書

<省略>

別紙(七) 修正損益計算書

<省略>

別紙(八) 修正損益計算書

<省略>

別紙(九) 修正損益計算書

<省略>

別紙(一〇) 税額計算書

<省略>

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