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大阪地方裁判所 平成元年(わ)1861号 判決 1990年11月08日

主文

被告人甲を懲役一年二月に、被告人乙を懲役八月に処する。

未決勾留日数中、被告人甲に対しては八〇日を、被告人乙に対しては四〇日をそれぞれその刑に算入する。

この裁判確定の日から、被告人甲に対しては三年間、被告人乙に対しては二年間、それぞれその刑の執行を猶予する。

被告人甲から押収してある登録事項等証明書交付請求書六二枚(<書証番号略>)を、被告人乙から同請求書二六枚(<書証番号略>)を没収する。

訴訟費用のうち、証人杉山友信、同橋詰五郎及び同土谷彰克に支給した分は、その二分の一ずつを各被告人の負担とし、証人東本隆及び同宮辻佳久に支給した分は、被告人甲の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人甲(以下「被告人甲」という。)及び被告人乙(以下「被告人乙」という。)は、いずれも革命的共産主義者同盟(いわゆる中核派、以下「中核派」という。)に所属するか同調するものであるが、

第一  被告人甲は、いずれも中核派に所属するか同調する者ら数名の者と共謀のうえ、警察関係等の自動車を割り出して、その所有者の氏名または名称及び住所、使用者などの情報を入手するために、偽名を用いて自動車の登録事項等証明書の交付を受けようと企て、

一  昭和六三年一月二五日ころ、大阪市<番地略>所在の近畿運輸局大阪陸運支局なにわ自動車検査登録事務所等において、行使の目的をもって、ほしいままに、登録事項等証明書交付請求書用紙二四枚の各自動車登録番号欄に別表一記載のとおり「京59た2562」などと自動車登録番号を記載し、同用紙の各請求者の氏名又は名称欄に「伊藤広」、住所欄に「吹田市朝日町3―14」と冒書し、いずれもその名下に「伊藤」と刻した丸印を押捺し、もって伊藤広作成名義の前記請求書二四通(<書証番号略>)を偽造したうえ、同月二五日、同事務所において、同事務所係員に対し、これらを真正に作成したもののように装って一括して提出して行使し

二  同年五月六日ころ、右近畿運輸局大阪陸運支局なにわ自動車検査登録事務所等において、行使の目的をもって、ほしいままに、登録事項等証明書交付請求書用紙二五枚の各自動車登録番号欄に別表二記載のとおり「大阪54ぬ2052」などと自動車登録番号を記載し、同用紙の各請求者の氏名又は名称欄に「伊藤洋一」、住所欄に「吹田市朝日町2―21」と冒書し、いずれもその名下に「伊藤」と刻した丸印を押捺し、もって伊藤洋一作成名義の前記請求書二五通<書証番号略>を偽造したうえ、同月六日、同事務所において、同事務所係員に対し、これらを真正に作成したもののように装って一括して提出して行使し

三  同年九月三〇日ころ、大阪府<番地略>所在の近畿運輸局大阪陸運支局等において、行使の目的をもって、ほしいままに、登録事項等証明書交付請求書用紙一三枚の各自動車登録番号欄に別表三記載のとおり「なにわ56せ7170」などと自動車登録番号を記載し、同用紙の各請求者の氏名又は名称欄に「伊藤洋一」、住所欄に「吹田市朝日町2―21」と冒書し、いずれもその名下に「伊藤」と刻した丸印を押捺し、もって伊藤洋一作成名義の前記請求書一三通<書証番号略>を偽造したうえ、同月三〇日、同支局において、同支局係員に対し、これらを真正に作成したもののように装って一括して提出して行使し

第二  被告人乙は、中核派に所属するか同調する者ら数名の者と共謀のうえ、前同様の目的で、偽名を用いて自動車の登録事項等証明書の交付を受けようと企て、平成元年一月三〇日ころ、前記近畿運輸局大阪陸運支局なにわ自動車検査登録事務所等において、行使の目的をもって、ほしいままに、登録事項等証明書交付請求書用紙二六枚の各自動車登録番号欄に別表四記載のとおり「神戸58は8044」などと自動車登録番号を記載し、同用紙の各請求者の氏名又は名称欄に「前田武夫(但し、同表番号二四については『前田武男』)」、住所欄に「西区新町2―5」と冒書し、いずれもその名下に「前田」と刻した印を押捺し、もって前田武夫ないし前田武男作成名義の前記請求書二六通<書証番号略>を偽造したうえ、同月三〇日、同事務所において、同事務所係員に対し、これらを真正に作成したもののように装って一括して提出して行使し

たものである。

(証拠の標目)<省略>

(法令の適用)

被告人甲の判示第一の一ないし三の各所為及び被告人乙の判示第二の所為のうち、登録事項等証明書交付請求書の各偽造の点はいずれも刑法六〇条、一五九号一項に、偽造にかかる同請求書の各行使の点はいずれも同法六〇条、一六一条一項にそれぞれ該当するところ、判示第一の一ないし三及び第二の各偽造有印私文書の行使はいずれも一個の行為で数個の罪名に触れる場合であり、また、判示第一の一ないし三及び第二の各有印私文書偽造とその行使との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので、いずれも同法五四条一項前段、後段、一〇条により結局それぞれ一罪として犯情の重い偽造有印私文書行使罪の刑で処断することとし、被告人甲については、判示第一の一ないし三の各罪は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、犯情の最も重い判示第二の二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年二月に処し、被告人乙については、判示第二の罪の所定刑期の範囲内で同被告人を懲役八月に処し、同法二一条を適用して各未決勾留日数中、被告人甲に対しては八〇日を、被告人乙に対しては四〇日をそれぞれその刑に算入し、いずれも情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から、被告人甲に対し三年間、被告人乙に対し二年間、それぞれその刑の執行を猶予し、押収してある登録事項等証明書交付請求書二四枚(<書証番号略>)は判示第一の一の、同請求書二五枚(<書証番号略>)は同二の、同請求書一三枚(<書証番号略>)は同三の、同請求書二六枚(<書証番号略>)は判示第二の各偽造有印私文書行使の犯罪行為を組成した物であって、いずれも何人の所有をも許さない物であるから、同法一九条一項一号、二項本文を適用して、被告人甲から同請求書六二枚(<書証番号略>)を、被告人乙から同請求書二六枚(<書証番号略>)を没収し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により、証人杉山友信、同橋詰五郎及び同土谷彰克に支給した分は、被告人両名にその二分の一ずつを負担させ、証人東本隆及び同宮辻佳久に支給した分は、被告人甲に負担させることとする。

(弁護人の主張に対する判断)

一  被告人甲及び被告人乙の各弁護人らは、本件登録事項等証明書交付請求書は、刑法一五九条一項にいう文書に該当しない旨主張するので、この点の判断を補足して説明する。道路運送車両法及及び自動車登録令によれば、自動車の登録事項等証明書は、行政当局が道路運送車両に関しその所有権について公証を行なうこと等を目的として交付するものであり、同証明書には、車名及び型式等自動車の特徴に関する事項、所有者の氏名又は名称及び住所、使用の本拠の位置等の自動車登録事項その他の社会生活上重要な情報が記載されていることになっている。ところで、同法によれば、何人も右登録事項等証明書の交付請求ができるのであるが、このことと、その請求手続において請求者を明らかにすべきかどうかは、別個の事柄であって、所管官庁である運輸省の「自動車の登録及び検査に関する申請書等の様式等を定める省令」により定められた登録事項等証明書交付請求書の様式には請求者の氏名又は名称及び住所を記して押印することになっている。そして、本件の各登録事項等証明書交付請求書も右運輸省令の様式によるものであるが、このように請求者の住所、氏名を記載して押印した登録事項等証明書交付請求書は、その特定の請求者が当該自動車の登録事項等証明書の交付を請求したという事実を証明するものであるところ、前記のような登録事項等証明書の交付の趣旨、その記載事項の内容に加えて、その内容に照らして交付された登録事項等証明書が如何様に利用されるかわからず、場合によっては悪用されるかも知れないことを考えると、その交付請求者を明らかにしておくことは、実社会生活に大いにかかわりのある事柄であり、この意味で、請求者の氏名及び住所を記して押印した本件の登録事項等証明書交付請求書は、実社会生活に交渉を有する事項を証明するに足りる文書であって、刑法一五九条一項にいう事実証明に関する文書に該当するものと解するのが相当である。

二  また、右弁護人らは、本件起訴に係る被告人らの各行為は、たとえ私文書偽造、同行使の各構成要件に該当するとしても、可罰的違法性がないか、あるいは違法性を有さない社会的相当行為である旨主張する。しかし、関係各証拠によると、被告人らの本件行為は、中核派の活動のために、自動車の登録事項等証明書交付制度の趣旨に反して、自動車の登録番号からその自動車の所有者の氏名又は名称、住所や使用者等を割り出して警察車両や対立する組織のいわゆる革マル派の車両等を調査するなどの目的で犯した組織的犯行と認められ、しかも、被告人甲においては、自動車登録事項等証明書交付請求書合計六二通を偽造して三回にわたり一括行使し、被告人乙においては、同請求書二六通を偽造して一括行使したものであって、その犯行の動機、態様、規模等に照らして、被告人両名の本件各行為が社会的相当行為といえないことは勿論、可罰的違法性を欠くものでないことも明らかであり、弁護人の右主張は採用できない。

三  なお、右弁護人らは、本件各公訴の提起は、捜査の過程に重大な違法があるため、もはや検察官において公訴を提起することが許されなかったのに、これに反して起訴したものであり、また、他の被疑者の同様の事件が不起訴処分に付されていることからして、検察官の恣意による起訴でもあって、公訴権を濫用した違法な公訴提起であるとして、公訴棄却を求めるので、以下、弁護人らの指摘する点についての判断を示しておく。

(一)  被告人甲の弁護人らは、被告人甲に対する判示第一の二の事実と同一及び三の各事実とについての二度にわたる逮捕・勾留は、何らの合理的理由がなく、もっぱら捜査機関が同被告人の政治活動を妨害しようとする不法な意図のもとに長期の身柄拘束を図ったものである旨主張する。しかし、本件記録によれば、二度にわたる右各逮捕・勾留は、手続においても適法で、実質的にもそれぞれその理由及び必要性があったことは明らかであって、捜査機関が不法な意図のもとに被告人甲をむし返し逮捕・勾留して不当に長期の身柄拘束をしたものとは認められない。

(二)  被告人乙の弁護人らは、被告人乙は、先ず「昭和六三年一〇月四日、自動車運転免許の申請にあたり、住所欄に虚偽の住所を記載した申請書を大阪府警察本部交通部係員に提出し、よって、同係員らをしてその旨誤信させて自動車運転免許証に不実の記載をさせ、平成元年二月二五日、大阪府旭警察署員に対し右運転免許証を行使した。」旨の免状不実記載・同行使の被疑事実により、平成元年六月二七日に逮捕されて同月三〇日から同年七月八日まで勾留され(以下「第一次逮捕、勾留」という。)、同日釈放と同時に判示第二の事実及び他の同様有印私文書偽造、同行使の被疑事実について逮捕され、続いて同月一〇日から勾留されて、同月二九日に判示第二の事実についてのみ起訴されたのであるが、第一次逮捕、勾留は、何らその必要性・相当性がないにもかかわらず、本件に関し証拠を収集する目的で行われ、かつ、その目的に利用された違法な別件逮捕・勾留に該当し、従って、第一次逮捕、勾留中の捜査を利用してこれに引き続いてなされた本件の逮捕、勾留も違法である旨主張する。しかし、被告人乙の当公判廷における供述のほか本件記録によると、同被告人についての本件起訴に至るまでの身柄拘束の経過は、前記弁護人主張のとおりであったことが認められるものの、本件記録、就中そのうちの第一次勾留に対する準抗告審の決定書の写によれば、被告人乙は、前記自動車運転免許証申請当時から第一次逮捕、勾留の時点においても、同運転免許証の申請書に記載した住所にも、また、これと同一文化住宅内の母親方にも居住しておらず、捜査機関の捜査によっても、その住居が明らかでなかったものと窺われるのであって、第一次逮捕、勾留の免状不実記載、同行使の被疑事実は、必ずしも軽微な事案とは言えず、これについて逮捕、勾留の理由も必要性もあったと認められるし、また、捜査機関が、もっぱら本件に関し証拠を収集するために第一次逮捕、勾留を執行し、利用したとも認められない。

(三)  被告人甲及び被告人乙の各弁護人らは、本件捜査の過程で司法警察員によって被告人甲の判示第一の二の事実を被疑事実とする捜索差押許可状に基づき平成元年五月一八日に実施された○○社関西支社における本件各公訴事実の証拠とされたものを含む多数のフロッピーディスクの差押えは、一般的捜索的差押えであって憲法二九条、三一条、三五条に違反する旨主張する。ところで、関係証拠によれば、確かに、右差押えについて、捜査機関は、フロッピーディスクの記録内容が当該被疑事実に関係するか否かを確認することなく、○○社関西支社内に存した全てのフロッピーディスクを差し押さえたことが認められる。しかしながら、関係各証拠によれば、右差押え当時、○○社関西支社内にあった各フロッピーディスクには、右被疑事実に関係する事項が記録されていると疑うに足りる合理的な事由が存したところ、その場で改めてこれらフロッピーディスクの記録内容を確認するには、○○社関西支社関係者の協力によらねばならず、さりとて、中核派の活動拠点である○○社の関係者にその協力を求めれば、これらフロッピーディスクの記録内容を改変される危険があったことなどから、右捜索差押現場で各フロッピーディスクの記録内容を確認してこれを選別することは、実際上極めて困難であったと認められ、以上の事情からすれば、右各フロッピーディスクの差押えは、違法であるとまではいえない。

更に、右弁護人らは、フロッピーディスクの記録内容が極めて壊れやすく、また容易にその内容を偽造変更でき、しかも偽造変更された事実が判明し難いことを指摘して、前記差押えにつき、これを防ぐ特段の措置がとられていない点からも、前記差押えは違憲違法である旨主張するが、右弁護人らも、前記差押えにかかる各フロッピーディスクの記録内容が現実に偽造変更されたとまでは主張しておらず、本件全証拠によっても、右各フロッピーディスクの記録内容が偽造変更された事実は認められない以上、右各フロッピーディスクの押収に違法があるとはいえない。

(四)  右弁護人らは、本件各起訴後に本件各公訴事実と同様の被疑事実で逮捕、勾留された者が起訴されなかった事実を指摘して、被告人両名に対する本件各公訴提起は、元来嫌疑なき起訴であり、検察官によるきわめて恣意的な起訴である旨主張するが、本件各公訴事実が起訴状記載の各罰条の構成要件に該当し、可罰的違法性も帯有することは前述のとおりであって、弁護人の右主張は当たらない。

以上のとおり、弁護人ら主張の公訴棄却を求める事由は、いずれも認容できない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 米田俊昭 裁判官 白石史子 裁判官 井上一成)

別紙 別表一ないし三<省略>

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