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大津地方裁判所 昭和61年(ヨ)90号 決定 1986年8月06日

第一事件債権者・第二事件債務者

国鉄労働組合大阪地方本部

自動車支部水口自動車営業所分会

右代表者執行委員長

服部勝

右訴訟代理人弁護士

小林勤武

梅田章二

石川元也

斉藤真行

吉原稔

野村裕

第一事件債務者・第二事件債権者

日本国有鉄道

右代表者総裁

杉浦喬也

右訴訟代理人弁護士

天野実

右代理人

山口満彦

北村輝雄

高田隆

土井量弘

三国多喜男

淡路正博

主文

一  第一事件債権者の申請を却下する。

二  第二事件債務者は、別紙物件目録(三)(略)記載の建物部分に、組合用務に使用する机、ロッカー等を持ち込んではならない。

三  第二事件債務者は、別紙物件目録(四)記載の物品を、本決定送達後三日以内に引取らなければならない。

四  第二事件債務者が、前項の引取りを行わない時は、大津地方裁判所執行官は、第二事件債権者の申請にもとづき、これを保管しなければならない。

五  第二事件債権者のその余の申請を却下する。

六  申請費用は、第一事件、第二事件を通じて第一事件債権者の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  第一事件

1  主位的申請の趣旨

(一) 第一事件債務者(以下「債務者」という。)の別紙物件目録(一)についての占有を解いてこれを大津地方裁判所執行官に保管させる。

(二) 執行官は、第一事件債権者(以下「債権者」という。)の申出あるときは、別紙物件目録(二)記載の物品を搬入し、債権者所属組合員が組合用務のため立入り使用することを認めたうえで、同目録(一)の物件を保管することができる。

(三) 執行官は、前二項の趣旨を適当な方法で公示しなければならない。

2  予備的申請の趣旨

債務者は、別紙目録(一)の建物部分につき、同所に債権者が、同目録(二)の各物品を設置して債権者の組合用務のため使用することを妨害してはならない。

3  主位的申請の趣旨に対する答弁

本件仮処分申請を却下する。

二  第二事件

1  申請の趣旨

(一) 債権者は、別紙物件目録(三)記載の建物部分に、債権者の組合員をして組合用務のために立入り、机、ロッカー等を持込む等してこれを使用させてはならない。

(二) 債権者は、債務者が保管している別紙物件目録(四)記載の各物品を本決定送達後三日以内に引取らなければならない。

(三) 債権者が前項の引取りを行わないときは、大津地方裁判所執行官は債務者の申請にもとづきこれを保管しなければならない。

2  申請の趣旨に対する答弁

本件仮処分申請を却下する。

第二当事者の主張

一  第一事件

1  申請の理由

(一) 当事者

(1) 債権者は、国鉄職員を中心として組織する国鉄労働組合の大阪地方本部傘下の一支部で、近畿地方自動車局の職員らにより組織されている国鉄労働組合大阪地方本部自動車支部傘下の分会で、水口自動車営業所に勤務する職員により組織されている。

(2) 債務者は、日本国有鉄道法により設立され、鉄道事業及びこれに関連する自動車運送事業等の経営を目的とする公法人であり、その地方機関として近畿地方自動車局を設け、その現業機関として水口自動車営業所(以下「水口営業所」という。)他五か所の自動車営業所を設けて自動車運送事業を営んでいる。

(二) 債権者は、昭和六一年五月八日まで別紙物件目録(一)記載の建物部分(以下「組合使用部分」という。)に同目録(二)の各物品(以下「組合物品」という。)を設置して組合活動のために使用していた。このように、乗務員休憩室(以下「乗休室」という。)の一隅を組合活動のために使用することは、昭和二〇年代の債権者結成時以来のことであり、昭和五〇年四月、現在の建物が竣工、移転してからも、当時の営業所長から承認され、爾後、歴代営業所長に引きつがれてきたもので、労使慣行としても確立してきた。

(三) 債務者は、昭和六一年五月九日早朝に管理職数名の手により、実力で組合物品を撤去し、本庁舎の女子寮の一室に保管している。

(四) 右撤去により、債権者の組合物品及び組合使用部分に対する占有権が奪われ、また、その日常用務の遂行のため、いちいち管理職に告げて女子寮の鍵を開けさせ、書類の取出し等の用件がすむまで管理職がその場に立会うという、労働組合活動の最も普遍的かつ基本的な日常用務処理に対する重大な制限を受けるに至っており、債権者の組合活動は著しく阻害され、その団結権が侵害されている。

(五) よって、債権者は占有権(主位的)及び団結権(予備的)にもとづき、主位的申請の趣旨のとおりの裁判を求める。

また、仮に右が認められなくとも、現在、組合使用部分は何も置かれていない空間となっているので、債務者に対し、当該部分に対する債務者の使用の妨害を禁止することによっても債権者の権利の回復は可能であるので、予備的に、予備的申請の趣旨のとおりの裁判を求める。

2  申請の理由に対する答弁

申請の理由(一)の事実は認める。同(二)の事実のうち、債権者が昭和五〇年代のある時期から、乗休室の一部にロッカー等を置いて組合活動に使用していたことは認めるが、債務者がそれを承認したこと及び債権者主張の労使慣行の存在は否認し、その余の事実は不知。同(三)の事実は認める。同(四)の主張は争う。後記のとおり、組合使用部分は債務者の管理する業務用施設の一部にあり、債務者の内部規定による許可もなく、また障壁等で明確に区画されてもおらずその場所が不明確である等、法律的にも物理的にも占有権の成立は認められない。

3  債務者の主張

(一) 組合使用部分は、水口営業所の乗休室内にあるところ、同室は同営業所のバスの乗務員が勤務と勤務の間の時間にそこで休息をとる目的のために設置された業務用の施設であって、その目的に添う備品(ソファー、テレビ等)が置かれ、乗務員が次の勤務に備えてくつろぎ、食事をとったり精神的な落着きをきたす場として利用されているものであり、また、その場所は、一階に事務室、所長室等のある建物の二階であって、その開錠、施錠は債務者の管理職である点呼担当助役によりされる等、債務者がその施設管理権にもとづいてその全体を支配管理している。

(二) しかるに、債権者は、昭和五〇年代前半ごろから、右乗休室内の一部に机、ロッカー等を持ち込んで組合事務を執り始め、昭和六〇年七月当時には、掲示物、ビラ等により、およそ乗休室にふさわしくない状況が作出されるに至った。

債権者の右行為は、債務者の定める内部規定等にもとづく債務者の許可を得ずになされたものであり、また、債務者が安全にその業務を遂行するにつき要請される良好な職場環境の保持や規律ある業務の運営体制の確保を阻害していること明らかであって、違法である。

(三) ところで、債務者における職場規律の乱れ、悪慣行の横行等の問題が昭和五七年ごろから関係各方面や世論から厳しく指弾されるようになり、債務者は、これを受けて、右の問題点を明らかにしてその是正に努めるべく、各職場に対していわゆる総点検を実施したが、その結果、水口営業所においては右のような事実が判明したものである。そこで債務者は債権者に対して、乗休室の所有権及び施設管理権にもとづき、昭和六〇年七月二〇日、乗休室にある組合掲示物の撤去を申入れるとともに、机、ロッカー等については、昭和六一年三月三一日までの期間に限って暫定的にそれを残すことを認めるものの、右期日以降はその使用を許さない旨を文書で通告した。さらに、その後、昭和六一年三月三一日及び四月二五日の二回にわたり右物品の撤去について文書で再度の申入れをなしたが、債権者は五月に入ってもこれを撤去しなかったので、債務者は昭和六一年五月九日未明、右物品を撤去して、元女子寮として使用していた建物に移した。

(四) 以上のとおり、債権者が乗休室の一部を組合事務所として使用していることは違法であり、債権者は何らの被保全権利も有しない。仮に債権者主張の承認あるいは労使慣行があったとしても、それらは右七月二〇日の通告により破棄されたから、それにもとづく債権者の権利も消滅した。

(五) さらに、仮に、債権者が占有権を有するとしても、右のように違法な占有については保全の必要性はない。また、債権者が組合事務を執る必要があるとしても、組合資料は、役員の個人用ロッカー等により保管可能であって、机、ロッカー等の設置は不要であり、その点からも保全の必要性はない。

4  債務者の主張に対する反論

(一) 債権者が、乗休室において組合用務の処理をしていたのは、分会結成以来のことであり、本件の組合使用部分に限っても、昭和五〇年以来のことであるところ、その間、それが債務者の業務に支障を生ぜしめたこともないし、乗務員の休憩の妨げになったこともなく、債務者の企業秩序を何ら乱していない。水口営業所の職員は昭和五〇年当時から半減しており、乗休室も十分なゆとりがある。債務者の主張は、まったくの形式論であり、これまでの使用実態とそれを債務者側で認めてきた事実からすると、何の説得力もない。

(二) 債務者はまた、労使慣行の破棄を主張するが、慣行はその性質上、一方的に破棄することはありえないもので、依然として有効に存続している。

(三) 債務者は、自力救済の正当性を主張するが、本件は債務者において自力救済が認められるような緊急性が存在しない事案であり、本来然るべき法的手続を経るべきであったにもかかわらず、債権者の仮処分申請の審理が開始されようとしていた矢先の深夜、備品の撤去に及んだものであり、公共企業体としてあるまじき違法行為であって、債務者の権利の濫用である。

二  第二事件

1  申請の理由

(一) 当事者関係は、第一事件申請の理由(一)のとおりである。

(二) 第一事件債務者の主張(一)ないし(三)のとおり、債権者は、債務者の業務用の施設である乗休室の一部に何らの権限なく机、ロッカー等を持込み、組合事務所のようにこれを使用するようになったので、債務者は、債権者に対し、その撤去を申入れたが、債権者がこれに応じないため、これを相当な方法で撤去し、債務者において保管している。

(三) 債権者は、債務者の撤去の申入れに対して抗議を繰り返し、撤去後も抗議活動のほか、ビラ等により債務者の行為を非難している状況にあるので、申請の趣旨第一項の裁判を求めるとともに、債権者は、組合物件を引取らないため、債務者は、その建物の一部にこれを保管せざるを得ず、当該施設の十分な利用ができないばかりか、その保管、出し入れのため煩雑さを避けえない状況にあるので、申請の趣旨第二、第三項の裁判を求める。

2  申請の理由に対する答弁及び債権者の主張

(一) 申請の理由(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実についての答弁は、第一事件の申請の理由及び債権者の主張のとおりである。債権者は債務者の承諾のうえで机、ロッカー等を搬入したものであるし、乗休室の一部を債権者が使用することは、何ら債務者の業務を阻害していないし、債務者の規程等による許可を得ていないことについても、十年以上の長期にわたり、それを咎められたことはない。債務者による撤去行為は、債権者の占有権、団結権を侵害するものであり、かつ、何ら自力救済の要件を満たさない違法なものである。

(三) 同(三)の主張は争う。債権者の占有は適法であり、かつ、債務者の撤去行為は違法であるから、債務者には被保全権利がないし、組合物件の保管についても、債務者において原状を回復すれば、債務者の保管の必要はなくなるから、債務者の申請は失当である。

第三疎明

疎明関係は、本件各記録のとおりである。

理由

一  第一事件について

1  申請の理由(一)の各事実、及び同(二)の事実のうち債権者が昭和六一年五月八日まで組合使用部分を債権者の組合事務所として使用してきた事実はいずれも当事者間に争いがないから、これに添う事実を一応認めることができる。

2  そこで、債権者が組合使用部分を組合事務所として使用してきたことの法的意味について検討する。

(一)  当事者双方提出の疎明資料及び審尋の全趣旨(以下「疎明資料等」という。)によれば、

(1) 債権者は、昭和二六年頃に結成され、水口営業所が昭和二九年に現在地に移転してから昭和五〇年に同営業所の庁舎が改築されるまでは、旧乗休室(現在倉庫となっている建物の一部)の和室部分の押入れに組合の関係書類等を保管するロッカーを置き、同室の机等を利用して組合用務等を処理していたこと

(2) 昭和五〇年本庁舎改築に伴って乗休室も本庁舎二階に移されたが、その後のある時点(これを正確に認めうる疎明はないが、移転後数年内のことと思料される)から、債権者が机、ロッカー等をその一部に設置して組合用務の処理をするようになったこと

(3) 昭和六〇年頃から、昭和六一年五月八日までの期間には、組合使用部分は、乗休室の北西隅の二・三メートル×三・九メートルの範囲にあって、乗休室面積の約五分の一を占め、その中に机二脚、書類ロッカー類五本、木製整理棚等が置かれていたこと

(4) 昭和二六年当初から昭和六〇年七月までの期間において、債権者から債務者に対して、乗休室内に組合物品を置くことの承認を求めること、あるいは組合事務所の貸与の申入れをしたことはなく、債務者が右のような乗休室の使用について、その内部規程にもとづく承認等をしたこともないが、他方、債権者が組合使用部分を組合事務所として、明示的に使用するようになり、債務者の管理者らが乗休室に立入り、債権者による右使用の事実を知った後にあっても、そのことについて注意、撤去申入れ、排除措置等は何らなされていないこと

の各事実が一応認められるところ、右のような債権者による使用の明白性、その期間の長さ及びこれに対する債務者側の対応等からすれば、少なくとも、昭和六〇年七月に水口営業所長から債権者に対して撤去申入れがなされる以前には、債権者の右の使用を債務者において黙認する旨の現場における労働慣行が存在していたというべきである。

(二)  そこで、右労働慣行により、債権者に組合使用部分についての占有権が生じるか否かについて検討するに、

(1) 疎明資料等によると、

(イ) 組合使用部分にはもっぱら組合に関係する物品のみが置かれ、ロッカー、机等により物理的に他の部分と比較的に明瞭に区別されていること

(ロ) 同部分は一見して事務室ようの配置となっていて、通常は組合役員が勤務時間外に組合事務を処理するために立入っており、休憩用の設備となっている他の部分とは視覚的にも機能的にも区別されていること

の各事実を一応認めることができる。

(2) しかしながら、企業は、その存立を維持し目的たる事業の円滑な運営を図るため、その構成員及びその所有し管理する物的施設の両者を統合し、合理的、合目的的に配備組織して企業秩序を定立し、この企業秩序のもとにその活動を行うものであるから、企業は、その物的施設全般について占有権及び管理権を有し、これにもとづいてその構成員及び企業内にある第三者に対し、企業の物的施設の利用の許諾、拒否、妨害排除等の権限を有するというべきであり、かつ、ある者に対し、企業の物的施設の利用を許容したとしても、その利用の機能は、特段の合意のない限り、企業の有する管理権に服し、定められた企業秩序の範囲内でのみ成り立つものであるといわなければならない。

(3) これを本件についてみるに、疎明資料によれば、

(イ) 乗休室は、水口営業所のバス運転手等の乗務員が、乗務と乗務の間にそこで休憩したり食事をとったりする目的で設けられた施設で、債務者が業務の遂行のために設置し、かつ、その業務の用に現に供している施設であること

(ロ) 乗休室は、その一階には事務所と所長室がある水口営業所現業事務所の二階にあり、その出入りは一階事務所の出入口を通じてなされるところ、その施錠、開錠は、債務者の管理者である点呼担当助役によってなされていること

(ハ) 債権者の組合員は、すべて水口営業所の職員でもあり、債務者の企業の構成員であること

の各事実も一応認められるところであり、これらの事実に、債権者債務者間には、水口営業所の施設利用について、前記の慣行を超える積極的な合意があったとは認められないことをあわせ考えると、物的施設としての組合使用部分についても、人的要素としての債権者の組合員についても、債務者の管理権が及んでいるというべきであり、したがって、債権者の権限権能も、債務者の管理権の範囲内でのみ成り立つものというべきであるから、債権者が、右管理権を排除するものであれ、これと併存するものであれ、権利としての占有権を有するとまでは到底いうことができない。

(三)  さらに、債務者は、右慣行の破棄を主張し、債権者はこれを争うので検討するに、

(1) 一般に労働慣行は、それが合理的なものである限り、使用者、労働者双方においてこれを尊重すべきであり、それを破棄する場合には、合理的理由を必要とすると解すべきである。

(2) これを本件についてみるに、疎明資料等によると、債務者は昭和六〇年七月二〇日、債権者に対し、水口営業所長名の文書で組合物品等の撤去を申入れた事実が一応認められ、これによって、債務者は右慣行を一方的に破棄したというべきであるから、さらに右破棄に至る事情等について検討するに、疎明資料等によれば、

(イ) 前示のとおり、組合使用部分は、債務者の業務用施設である乗休室の一画をロッカー等で部分的に仕切った場所であること

(ロ) 昭和六〇年当時、乗休室内には、組合使用部分を中心として各種の組合関係の掲示物があり、中には、「スト権奪還」と大書したベニヤ板、「202億損賠対策委員会」と書かれた掲示板、レーニンの肖像画等、債務者と対立する主張や労使関係に直接関係のない政治思想に関するものが含まれていたこと

(ハ) 昭和四〇年代に債務者が実施した生産性向上運動が失敗に終わった後、債務者の労使関係は組合側優位に推移し、労働時間、賃金等について大幅に労働者側に有利な内容の慣行が形成されてきたが、昭和五〇年代に入り、債務者の経営が破産状態となってその再建が論議される過程で、債務者の労使関係が新聞、国会における質問等により厳しく批判されたことを受けて、右のような慣行を調査、是正し、それによって職場規律の確立を図ることが経営再建のための重要な柱とされ、その実現のため、昭和五七年以降、数次にわたり全社的に、いわゆる「総点検」が実施される等したこと

(ニ) 昭和六〇年七月に水口営業所で実施された債務者本社による職場管理監査において、本件の乗休室の一部が組合事務所として使用されていることが指摘され、その是正を指示されたことから、債務者は、同月二〇日、水口営業所長名で債権者に対し、組合物品等の一部については昭和六一年三月三一日まで期限をおき、その他の物品については即時撤去を申入れたが、債権者がこれに応じなかったため、水口営業所の管理職が、即時撤去を申入れた物品については昭和六〇年八月一日に、残余の組合物品等については、さらに数度の申入れをした後、昭和六一年五月九日に撤去したこと

(ホ) 撤去した組合物品等は債務者の元女子寮建物の一室に保管され、債務者の管理下にあるが、債権者の申出により、債務者の管理者がその都度開錠して組合用務に利用させていること

の各事実を一応認めることができ、これらの事実からすれば、組合使用部分は、企業の施設管理権が常時及んでいるべき債務者の業務用施設内にあって、債務者の管理権の行使が妨げられ、あるいは、その行使が排除された部分であったというべきであるから、右慣行自体が合理的なものとはいえないばかりでなく、債務者は、その経営再建のために全社的に職場規律を回復確立することを緊急の課題として要請されていた状況下にあって、右慣行の是正を図るべく、八か月余の猶予期間をおき、かつ数度の申入れを経たうえで、組合物品の撤去に至ったものであるから、右慣行の破棄には、十分な合理的理由があり、また、その破棄の態様も債務者の管理権の行使として相当であったというべきである。

3  よって、債権者は組合使用部分を使用することにつき、何らの権利も権限も有しないというべきであるから、債権者の第一事件申請は、被保全権利の疎明を欠いているといわざるをえず、また、前記の諸事情に鑑みれば、保証をもってその疎明に代えることも相当でないというべきである。

4  債権者は、予備的に団結権をも被保全権利として主張するが、団結権から直ちに、債権者が債務者の物的施設を使用することを債務者に受忍させ、あるいは、債権者がそれを使用するため債務者に対して何らかの作為を命ずる権利があるとはいえないし、本件において特にそれがあるとするに足る主張も疎明もないから、団結権を被保全権利とする債権者の主張は失当である。

二  第二事件について

1  疎明資料によれば、第一事件において説示した各事実の他、

(一)  債権者は、債務者による組合物品等の撤去申入れ及び撤去に対して、文書及び口頭で抗議し、原状回復を求める仮処分申請(第一事件)をなしていること

(二)  債権者は、債務者が保管している組合物品等について、その引取りを拒絶していること

の各事実をも一応認めることができる。

2  右各事実によれば、債務者は、その管理権の行使として、職場規律の確立のため、乗休室に債権者所有の机、ロッカー等が持込まれて以前のような状態が作出されることを未然に防止する権利及び、組合物品について、債権者に対しその引取りを要求する権利を有し、かつ、仮にそれらの権利を実現する必要性もあるというべきである。

3  ところで、債務者は、債権者に対し、債権者組合員を組合用務のために乗休室内に立入ることの禁止をも求めているところ、疎明資料等によれば

(一)  水口営業所の乗務員の勤務は、乗務とその前後各二〇分が拘束時間で、それ以外の時間は勤務時間外とされており、乗休室の利用も主にその時間帯になされていること

(二)  その勤務時間が、早朝から深夜にわたり、各人の勤務時間帯も区々であるため、組合用務は勤務時間外の時間帯を利用して処理されていること

(三)  債務者の他の営業所等においては、組合の資料等は組合役員の個人用ロッカーに保管され、必要に応じて取出し、乗休室等の施設内で組合用務の処理がなされており、債務者もこれに対しては格別異議を唱えていないこと

の各事実が一応認められるところであり、これらの事実によれば、仮に、債務者が、その管理権にもとづいて、乗休室内での組合用務の処理を、勤務時間内外を問わず全面的に禁止しうるとしても、規則制定や職務命令等の債務者の通常の業務執行の方法によることなく、あえて仮処分の方法によってその実現を図る必要性があるとまでは到底認め難い。

三  以上により、債権者の第一事件申請は、その余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを却下し、債務者の第二事件申請は主文の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを却下することとし、申請費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条を各適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 西池季彦 裁判官 新井慶有 裁判官 松本清隆)

物件目録(一)

滋賀県甲賀郡水口町新町 一丁目一番一三号

日本国有鉄道水口自動車営業所内

現業事務所二階

乗務員休憩室の北西隅、衝立等で仕切られた部分 一三・一一平方メートル

但し、別紙図面(一)の赤斜線で囲まれた範囲

物件目録(二)

<省略>

物件目録(四)

<省略>

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