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大津地方裁判所 平成7年(ワ)416号 判決 1997年7月14日

原告

岡本康嗣

外二名

右原告ら訴訟代理人弁護士

玉木昌美

野村裕

被告

学校法人聖パウロ学園

右代表者理事

山田右

右訴訟代理人弁護士

猪野愈

主文

一  原告らと被告との間において、原告らがそれぞれ雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

二  被告は、原告岡本康嗣に対し、平成七年四月一日から毎月二五日限り一か月二二万五三二〇円の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告鈴木孝敏に対し、平成七年四月一日から毎月二五日限り一か月二八万四四四〇円の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告渡辺奈穂子に対し、平成七年四月一日から毎月二五日限り一か月二四万七五六〇円の割合による金員を支払え。

五  訴訟費用は被告の負担とする。

六  この判決は、二、三及び四項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、肩書地において、昭和六三年四月に開校した光泉中学校及び光泉高等学校を経営する学校法人である。

原告岡本康嗣(以下、「原告岡本」という。)は、平成四年四月一日付で、被告の専任講師として採用され、数学の授業を担当した。

原告鈴木孝敏(以下、「原告鈴木」という。)は、平成五年四月一日付で、被告の専任講師として採用され、社会の授業を担当した。

原告渡辺奈穂子(以下「原告渡辺」という。)は、平成五年四月一日付で、被告の専任講師として採用され、国語の授業を担当した。

2  被告は、平成六年一二月二六日付け臨時雇用契約期間終了契約通知をもって、原告らと被告との雇用契約が平成七年三月三一日に終了する旨の通告書(乙四ないし六)を原告らに送付し、原告らが被告との雇用契約上の地位にあることを争っている。

3  原告岡本の平成七年一月分ないし三月分の本俸は一か月当たり二〇万〇五〇〇円であり、他に特別手当六八〇〇円、教職調整八〇二〇円、研修手当一万円を得ていたから、原告岡本の平均賃金は合計二二万五三二〇円であり、毎月二五日に支給されていた。

原告鈴木の平成七年一月分ないし三月分の本俸は一か月当たり二一万三五〇〇円であり、他に特別手当七四〇〇円、教職調整八五四〇円、研修手当一万円、住居手当二万九〇〇〇円、扶養手当一万六〇〇〇円を得ていたから、原告鈴木の平均賃金は合計二八万四四四〇円であり、毎月二五日に支給されていた。

原告渡辺の平成七年一月分ないし三月分の本俸は一か月当たり一九万四〇〇〇円であり、他に特別手当六五〇〇円、教職調整七七六〇円、研修手当一万円、住居手当二万九三〇〇円を得ていたから、原告渡辺の平均賃金は合計二四万七五六〇円であり、毎月二五日に支給されていた。

4  よって、原告らは、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と、被告に対し、平成七年四月一日以降毎月二五日限り、平均賃金である一か月当たり、原告岡本は二二万五三二〇円、原告鈴木は二八万四四四〇円、原告渡辺は二四万七五六〇円の割合による金員の支払を求める。

二  請求原因に対する認容

1  請求原因1、2の事実はいずれも認める。

2  請求原因3のうち、平均賃金額については争い、その余は認める。

三  抗弁(期間の定めのある雇用契約の終期の到来)

1  以下の事実から明らかなとおり、被告と原告ら間の労働契約は、いずれも期間を一か年とするものである。

(一) 被告は、創立以来、教職員について、教諭、専任(常勤)講師、非常勤講師の三種として運用され、専任講師については採用の都度、年度契約として労働契約期間を一年として運用されて経過してきた。

(二) 被告は、教職員採用に際しては、必ず採用面接を行っており、特に専任講師として採用しようとする者については、その労働契約期間について採用面接時に年度契約であることを明確に告知している。

(三) 教育実習の経験のある原告らは、専任講師については、その契約期間が一年とされていることを知っていたか、少なくとも知り得たはずである。

(四) 被告人が原告岡本に発した採用通知にも、労働契約期間を一年とする旨明記されている。

(五) 原告岡本は、平成四年四月一日に行われた被告の説明会において、前記採用通知書を受け取っていながら、何ら抗議をしていない。

(六) 原告らは、雇用期間が明記された辞令(平成五年度、平成六年度分)を異議苦情もなく受領している。

(七) 被告は、平成五年三月二五日から二九日までの間平成五年度採用前研修を実施し、原告ら(原告岡本も含む)が参加した中で、「専任講師とは、当該年度のみ雇用する教育職員であり、雇用期間は一年間とする」と規定された就業規則案(平成五年四月一日から施行予定であったもの、甲五〇の1)を配布して、専任講師の雇用期間が一年間であることを十分説明した。

2  被告は、原告主張の雇用契約は、原告岡本について平成五年三月三一日をもって、原告鈴木及び同渡辺について平成六年三月三一日をもってそれぞれ終了し、その後(原告岡本について平成五年四月一日付及び平成六年四月一日付け、原告鈴木及び同渡辺について平成六年四月一日付け)に更新、再契約された労働契約も、請求原因2項記載の各通告によって、平成七年三月三一日をもって雇用期間が終了することを告知した。

四  抗弁に対する認否及び原告の反論

抗弁事実は否認する。被告と原告らとの間の雇用契約が期間の定めのないものであることは、次の事情から明らかである。

1  原告らは、被告が大学に提出した「求人依頼」を見て、採用試験を受験したが、右「求人依頼」には「採用身分……専任講師として採用する。ただし採用より一年以上、その職務を良好な成績で勤務した者は教諭として正式採用する。」と記載されてあった。原告らは、右の求人依頼の趣旨について、最初の一年間は教諭に正式採用されるための試用期間であり、その身分は専任講師の扱いであるが、これを経過すれば、特に問題がなければ教諭として正式採用されるものと理解した。

2  原告らは、採用試験の中で面接試験を受けたが、その際も専任講師の雇用期間が原則として一年間であることの説明はなく、かえって一年間以上、良好ないし普通に勤務すれば教諭として正式に採用されることが強調された。

3  原告岡本が受け取った平成三年九月二〇日付け採用通知の添付文書には、「過日の採用試験の結果、専任講師として一年間、生徒の教科指導、生徒指導に当たり、本学園の教員として研鑚に励んで頂けば、平成五年度より教諭として採用を予定しています。」と記載されていた。また、原告鈴木及び同渡辺が受け取った平成四年一〇月一三日付け採用内定通知には、「この度、平成五年度本学園(光泉中学校・高等学校)の教員採用試験に合格されましたので採用を内定致します。」とのみ記載されており、雇用期間については触れられていなかった。

4  原告鈴木及び同渡辺は、平成四年一〇月、採用説明を受けたが、その際、被告職員服部から、試用期間が一年間であることの説明を受けたが、雇用期間が一年間であるとの説明は受けなかった。

5  原告らは、平成五年三月二五日から二九日まで採用前研修を受けたが、その際にも、就業規則案(甲五〇の1)六条について、一年後には教諭に昇格することが強調され、それ以上の説明はなかった。

6  被告が、平成五年四月一日に施行されたと主張する就業規則(甲五〇の3)には、「専任講師とは、当該年度のみ雇用する教育職員であり、雇用期間は一年間とする。(六条)」との規定が新設されているが、これは前記就業規則案(甲五〇の1)の一部を修正したもの(甲五〇の2)として同年四月一四日の職員会議で配布の上質疑応答がなされた後、さらに一部を修正して同年六月二日の職員会議で配布され、同月八日に被告が労働基準監督署に届け出たものであり、それまで専任講師の雇用期間を一年間とする話は一切なかった。

五  再抗弁

仮に雇用期間の定めがあったとしても、原告らは、期間の定めのない教諭と同じ方法で採用され、同じ職務を担当し、契約の更新がされてきた等の事情の下では、解雇に関する法理が類推適用され本件雇い止めは社会通念上妥当とはいえず、信義則上許されないので無効である。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁の事実は否認し、無効との主張は争う。

第三  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1、2の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  抗弁(雇用期間の終期の到来)について

1  いずれも成立に争いがない甲三、四の1、2、五の1の1、2、五の2の1、2、五の3の1、2、六の1ないし3、七の1、2、三二ないし三四、三六、三八ないし四一、四二の1、2、五〇の1ないし3(但し、書込部分を除く)、五八、六〇の1、2、乙一の1ないし3、二の1、2、三の1、2、六〇、原告岡本の本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲二二、原告鈴木の本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲二三、原告渡辺の本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲二四、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲三五、四六ないし四九、証人松井君夫の証言、原告らの各本人尋問の結果及び被告代表者尋問の結果によれば、以下の事実が認められる。

(一)  被告就業規則改訂の経緯

(1) 平成五年一月一日より前の被告の就業規則(甲三二)では、職員について、「第五条および第六条の手続きを経て採用された学園の業務に従事する者とし、教職員およびその他の職員をいう。なお、臨時の契約により雇用した者は、契約の定めのある場合を除きこの規則を準用し、非常勤講師については別に定める。」としていた(第二条)。また、試用期間として、「新たに採用された職員に対しては、理事長が特に例外とした場合を除き一か年の試用期間をおく。試用期間を良好な成績で勤務したと認められた場合に正式採用する。」とも定めていた(第七条)。

右就業規則はその後改訂され(平成五年一月一日施行分、甲七の1)、教職員の定義について、「第五条および第六条の手続きを経て採用された学園の業務に従事する者とし、常時勤務する専任の教育職員、事務職員、業務職員をいう。」と改められ(第二条)、第八条において従前と同様の試用期間が定められたが、それまでのいずれの就業規則においても、採用等の人事面の処遇や勤務内容等において、専任(常勤)の教育職員の中で教諭と専任講師とを区別する定めはなかった。

(2) 被告は、その後も就業規則の改訂作業を行い、第六条において専任講師の雇用期間が一年間であり、所属長の推薦と管理職会議及び人事委員会の審議により教諭に任用される場合があることを規定した同年四月一日施行予定の就業規則案(甲五〇の1)を作成して、平成五年三月二五日から行われた同年度の新任教職員に対する採用前研修において交付し、また、同条の教諭任用の条件のうち管理職会議の審議の部分を削除した改訂案(甲五〇の2)を同年四月一四日に行われた職員会議において教職員に提示、説明し、さらに、同条の表現を若干修正したもの(甲六〇の2)を同年六月二日の職員会議において教職員に提示、説明したうえで、同月八日に、労働基準監督署に提出した。この就業規則(甲六〇の2)では、専任講師の身分について、①当該年度のみ雇用する教育職員で、雇用期間が一年間であること、②人事委員会の審議によって五年まで雇用期間を更新でき、③所属長の推薦と同委員会の審議により教諭に任用されることもある旨定められた(第六条)。

(二)  原告岡本の採用の経緯

(1) 原告岡本は、平成三年当時、京都産業大学理学部数学科四回生であったところ、同年八月、同大学内に設置された教職過程講座センターの掲示板で、被告の求人票を見つけて応募した(甲二二)。その当時の求人票の記載内容は、後に被告が付近の大学に送付した求人依頼についてと題する書面(甲三)に類似するもので、雇用期間は明示されていなかった。

(2) 原告岡本は同年九月上旬に専門教科である数学の筆記試験と面接試験を受けた結果、被告から、同月二〇付で採用通知と題する文書等(甲四の1)、当時の就業規則(甲三四)、就職承諾書用紙の送付を受けた。

右採用通知と題する文書には、被告理事長名で「平成四年四月一日より平成五年三月三一日まで学校法人・聖パウロ学園光泉中学・高等学校専任講師に採用します。」と記載されてあり、その添付文書には、同理事長名で「過日の採用試験の結果、専任講師として一年間、生徒の教科指導、生活指導に当たり、本学園の教員としての研鑚に励んで頂けば、平成五年度より教諭として採用を予定しています。なお、専任講師の勤務(校務分掌も含め)、待遇(給与、保険、年金等)はすべて教諭と同じです。」と記載されてあった。原告岡本は、右就職承諾書に記名、押印して被告に返送した。

(3) 原告岡本は、平成四年四月一日、被告から辞令書を受け取ったところ、その辞令書(乙一の1)には、同日付で専任講師を命ずること、教育職1級として7号級を給することが記載されていたが、雇用期間については何ら記載されていなかった。

(4) その後、原告岡本は、被告から平成五年度も教諭でなく専任講師として勤務してもらいたい旨告げられ、同年度の新任教職員と一緒に同年三月二五日からの採用前研修に参加するよう命ぜられて、これを承諾して同研修に参加した。同研修において、専任講師の雇用期間を明定した前記就業規則案(甲五〇の1)が配布され、それについての被告からの説明がなされたが、その際にも、専任講師の雇用期間が一年限りであることの明確な説明はなく、専ら一年間以上良好に勤務した場合には教諭として正式採用されること及び従前の就業規則と実質的に変わらないことが強調された。

(5) 原告岡本は、平成五年四月一日、被告から同年度の辞令書を受けとったが、この辞令書には、同日付で専任講師を命ずること、雇用期間・平成五年四月一日から平成六年三月三一日まで、その他条件として就業規則第六条(専任講師の任用)に定める旨記載されていた。さらに、その後、原告岡本は、平成六年度も専任講師として勤務してもらう旨告げられ、同年四月一日にその辞令書を受けとったが、この辞令書にも同様の記載がなされていた。

(三)  原告鈴木及び同渡辺の経緯

(1) 原告鈴木は、平成四年当時、学校法人宇治学園宇治高等学校の雇用期間の限定された非常勤講師であったところ、同学園では、将来的に雇用期間の限定のない教諭等としての採用予定が無いので、安定した職場を求めて他校の教員採用試験を受験していたが、同年八月、母校の立命館大学の就職課掲示板に被告の求人依頼を見つけ、採用試験に応募した(甲二三)。右求人依頼には、求人依頼についてとの題の下に、平成五年度教員採用試験を実施すること、国語、数学、社会、理科、英語の五教科について、各一名ないし三名を予定していること、採用身分については、専任講師とするが、ただし、採用より一年以上、その職務を良好な成績で勤務した者は教諭として正式採用することなどが記載されてあったが、雇用期間は明示されていなかった(甲三)。

(2) 原告渡辺は、平成四年当時、同志社大学文学部文学科の四回生であり、卒業を控え教師の職を探していたところ、同大学の就職課で、右求人依頼書(甲三)と同様のものを見て採用試験に応募した(甲二四)。

(3) 原告鈴木及び渡辺は、ともに平成五年度被告教員採用試験を受験し、第一、第二次試験合格後、第三次試験として被告理事長から面接試験を受けた後、被告から採用内定通知を受けた。同通知(原告鈴木について甲四の2、原告渡辺について甲四〇)には、平成五年度の教員採用試験に合格したことが記載されてあったが、雇用期間については明記されていなかった。

原告鈴木及び同渡辺は、同年一〇月一七日、被告の主催する採用内定式に参加し、被告の当時の就業規則(甲四一)を配布され、その説明を受けた。その就業規則は、平成四年度現在と記された平成三年四月一日からの改正施行分のものであり、記載上、教諭と専任講師の区別はなく、かつ、試用期間の定めのあるものであった。

原告鈴木及び同渡辺は、被告から、正式内定の通知を受け(甲四二の1と同様のもの)、これに対して誓約及び保証書(甲四二の2と同様のもの)に署名押印して被告に送付した。

(4) その後、原告鈴木及び同渡辺は、原告岡本とともに、平成五年三月二五日から二九日までの間、前記採用前研修を受け、改訂予定の就業規則案(甲五〇の1)の説明を受けた。

原告鈴木及び同渡辺は、平成五年四月一日、被告から辞令書を受け取ったが、その辞令書(原告鈴木について乙二の1、原告渡辺について乙三の1)には、同日付で専任講師を命ずること、雇用期間・平成五年四月一日から平成六年三月三一日まで、その他条件として就業規則第六条(専任講師の任用)に定めると記載されていた。その後、原告鈴木らは、平成六年度も専任講師として勤務してもらう旨告げられ、同年四月一日にその辞令書を受けとったが、この辞令書にも同様の記載がなされていた。

(四)  原告らは、専任講師としての勤務期間中、ホームルーム担任、クラブ活動、校務分掌について教諭と同じ立場で分担し、授業の持ち時間も教諭と同格に勤務していた。

(五)  原告岡本と同じ平成四年四月一日付けで、専任講師の辞令を受けた訴外暮石一浩と被告間の地位確認等請求事件については、被告の一年の期限付雇用契約の主張が排斥された確定判決(甲三三、三六、五八)があるところ、同判決において、平成四年度の教職員採用当時、被告が、専任講師の採用にあたっては、臨時の契約により雇用した非常勤講師等と区別して、一定の試用期間をおいてその適格性を判断したうえ、教諭として採用することを予定していた旨の認定がなされている。

(六)  なお、以上の認定事実のうち専任講師の雇用期間の告知について、被告は、各原告らの面接試験及び平成五年三月二五日からの採用前研修等において、専任講師の採用が一年の期限付雇用契約である旨明確に説明したと主張し、被告代表者は、原告らに対する面接試験の席上で、講師は一年の期限である旨明確に申し渡したと述べ、被告の総務課に勤める有田吉彦は、平成四年四月一日に同年度の新任教職員に対する説明会を行い、学校事務室の松井室長において、原告岡本に対して専任講師は一年契約の期限付講師であると説明した旨記載した報告書(乙八)を作成しており、被告職員の松井君夫は、平成五年三月二五日の採用前研修において、当時の服部教頭が、就業規則の説明をした上、専任講師の任用期間は一年であるという説明を行った旨供述している(乙四四の1、証人松井の証言)ほか、右採用前研修に参加した同年度の新任教職員である三村亮一及び北川有子も、専任講師任用期間は一年間であるとの説明があった旨の書面(乙三七、四三)を作成している。

しかしながら、①右供述ないし書面の記載は、いずれも専任講師の雇用期間についての説明の有無に関する結論のみが記載されているだけで、具体性に乏しいものである一方、②原告岡本と同時に採用された土田るみ子は平成四年四月一日の新任教職員に対する説明会において、通勤手当や給与振込等についての説明は受けたものの、契約期間等についての言及はなかった旨記載した書面(甲三五)を作成しており、③原告鈴木らと同時に専任講師として採用された池尻周二ら作成の書面(甲四六ないし四九)には、面接や採用に当たって、雇用契約が一年に限られるという明確な説明はなく、かえって、当時の服部教頭は、採用内定者の質問等に対して、就業規則案(甲五〇の1)六条の一年間の記載は試用期間であり、一年間以上普通に勤務すれば教諭として採用されるとの趣旨の説明や採用内定式において配布された就業規則(甲四一)と実質的な内容は異ならないとの説明を強調していた旨、具体的に記載されていること、④被告には、試用期間を定めて新任教職員の適格性を判断すること以上に原告らの採用を短期に限定する理由はなかったものと窺われるのに対し、原告らは、当該就職先が期限付かどうかについては極めて重大な関心があったと考えられること、並びに、⑤前記(一)ないし(四)に認定した、原告らに対する求人票の記載内容、原告らの採用内定に至る経緯、原告岡本に対する採用通知添付文書及び当初の辞令書の記載内容、原告鈴木及び渡辺に対する採用内定通知の記載内容、平成五年四月一日前の就業規則の内容、原告らの現実に行った仕事内容等に照らせば、原告らに対する平成五年度及び平成六年度の辞令書の記載や原告岡本に対する採用内定通知の記載、平成五年四月以降施行予定だった就業規則六条の記載を考慮しても、雇用期限の告知に関する前記被告代表者らの供述等は信用することができず、他に、被告が原告らに対して専任講師の雇用期間が一年間に限られることを明確に告知した事実を認めるに足りる証拠はない。

2(一) 以上の認定事実を総合考慮すれば、被告は、原告らの専任講師としての採用に当たっては、臨時の契約により雇用した非常勤講師等と区別して、一年間の試用期間をおいてその適格性を判断した上、教諭として採用することを予定していたものと考えざるを得ない。したがって、原告らが、被告との雇用契約について、一年間の期限の定めのあるものであると了解していなかったことは勿論、被告においても、期限付の雇用を前提としていたと認めるのは困難である。

(二) この点、被告は、①原告岡本について、被告が原告岡本に送付した採用通知書には、平成四年四月一日より平成五年三月三一日までとの期間の記載があること、②原告らが、平成五年四月一日付け辞令書(乙一の2、乙二の1、乙三の1)及び同六年四月一日付け辞令書(乙一の3、乙二の2、乙三の2)を受け取る際に、期限の記載があるにもかかわらず何ら異議を述べなかったこと、③公立学校において、講師は臨時的任用教育職員であること、④原告らが、教員免許取得の際に、教育実習を受けた経験があったことなどを指摘する。

しかしながら、⑤原告岡本に対する採用内定通知に同封された前記添付文書(甲四の1の1枚目)及び当時の就業規則とを併せ考えれば、同原告に対する採用通知に記載された期間は試用期間の意味であるとも理解できること、⑥平成五年度及び平成六年度の原告らの辞令書に記載された期間についても、右辞令の交付までの経緯や、就業規則及び雇用期間についての被告の説明や就業規則における試用期間の規定などに照らせば、右期間について原告らが試用期間であると受け止めたり、教諭採用が延期されたものと考えたりして、敢えて異議を述べなかったとしても不合理とはいえないこと、⑦公立学校の講師が臨時的な雇用契約に基づくものであることや原告らに教育実習の経験があることから、直ちに原告らが本件の専任講師としての雇用契約が一年間限りのものであると認識していたはずだと推論することはできないことに照らせば、被告の前記①ないし④の指摘は、(一)の認定を左右するものではないというべきである。

三  原告らの賃金額について

1  毎月の平均賃金額は、原告岡本が二二万五三二〇円(うち本俸は二〇万〇五〇〇円)、原告鈴木が二八万四四四〇円(うち本俸は二一万三五〇〇円)及び原告渡辺が二四万七五六〇円(うち本俸は一九万四〇〇〇円)であったことは当事者間に争いがない。ところで、原告らの賃金請求は本件勝訴判決確定後における将来の給付請求を含むが、証人松井君夫の証言並びに弁論の全趣旨によれば、暮石一浩の別件勝訴判決が確定した後も紛争が収束していないことが認められ、右の事情にかんがみると、原告らにおいてあらかじめ右将来の給付を求める必要があると認められる。

2  右によれば、被告は、原告岡本に対し二二万五三二〇円、原告鈴木に対し二八万四四四〇円、原告渡辺に対し二四万七五六〇円をそれぞれ平成七年四月一日から毎月二五日限り支払う義務がある。

四  まとめ

よって、原告らの請求はすべて理由があるからこれを認容することにし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官鏑木重明 裁判官末永雅之 裁判官小西洋)

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