大判例

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大分地方裁判所 昭和50年(わ)29号 判決 1980年3月28日

本籍 大分県別府市上人仲町二八五番地

住居 同県同市照波園町四番四号 屋舗ビル三〇六号

無職

荒木虎美

昭和二年三月九日生

右の者に対する殺人、恐喝未遂、恐喝被告事件について、当裁判所は、検察官平田定男出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を死刑に処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は

第一  かねて交通事故を装って被保険者を殺害し巨額の保険金を騙取しようと企て、殺害対象にする者を物色するうち、昭和四八年七月末頃、大分県別府市上人仲町一二番二三号の荒木玉子(昭和八年七月一四日生)を知るや、同女の歓心を買って接近し、昭和四九年八月一日、玉子と結婚し、同女の長男太郎(昭和三五年一月二三日生)、長女祐子(昭和三七年一月二三日生)及び次女涼子(昭和三九年一月六日生)と養子縁組を結んでその旨婚姻届、養子縁組届を提出したうえ、ニッサンサニー昭和四三年型普通乗用自動車(大分五五の三〇五五)を購入する一方、昭和四九年九月二日から同年一一月五日までの間に、同市内の住友生命保険相互会社ほか五社と玉子、祐子及び涼子が右車両に同乗中交通災害により同時に死亡した場合の保険金総額が三億一〇〇〇万円にのぼる生命保険契約等を締結したのち、同年一一月一七日、関門ドライブと称して右車両に玉子、祐子及び涼子を乗せて連れ出し、同日午後一〇時過ぎ頃、かねての殺害計画を実行すべく、同車助手席に玉子、後部座席に祐子及び涼子を乗車させたまま同車を運転して別府市大字南石垣別府国際観光港第三埠頭関西汽船フェリー岸壁から水深約八メートルの海中に突入させて玉子、祐子及び涼子を同車もろとも海底に転落させ、よって、直ちに右三名を溺死させて殺害した。

第二  昭和四〇年七月七日、Aとの間で、同人所有の大分県別府市大字鉄輪字○○×××番×、同番×及び同番×の三筆の土地について、被告人が宅地に造成し販売する旨の宅地造成契約を一年を期限として締結したが、造成工事も完成しないまま右期限を徒過したため、右土地に対する権利を全て失う結果となり、しかも、その後同人の妻A子に対する強姦致傷事件等を犯したため宮崎刑務所で服役するに至ったところ、同刑務所を出所後、右三筆の土地の一部である同市大字鉄輪字○○×××番×の土地がAと内縁関係のあったC子に、同所×××番××の土地がAと同女の間の子であるD及びE子にそれぞれ所有名義が移転(昭和四四年六月一九日移転登記)していることを知るや、もともと被告人には右二筆の土地に対し何らの権利もなかったのに、これをAに欺し取られたと因縁をつけ、C子から右土地の権利証か土地そのもの、或いは土地代相当の現金を喝取しようと企て、昭和四八年一一月三日頃から翌昭和四九年二月一一日頃までの間、前後約二〇数回にわたり、大分市○○○△△の同女方に赴き、或いは同女方に電話をかけて、当時高校三年生(E子)と中学三年生(D)の二人の子供をかかえた同女(当時四九年)に対し、「私所有の鉄輪の土地が、何時の間にかあんたと子供達の名義になっている。Aに欺し取られた。土地の代金を払ってくれるか、その土地を返してくれ。権利証を返してくれ。」、「子供はどうなってもいいのか。学校に行って子供を呼び出し、硫酸をかけたり誘拐するぐらいできる。硫酸をかけられてお岩みたいになってもいいのか。」とか、さらには大分警察署水上刑事の名をかたり、「Bは、若いときに放火の前科のあるのを知っとるか、あの男、腹立てたら家に火つけるで。夜中に火をつけられて蒸し焼きでもされたら、どげえするな。Bに早速話をつけない。このままじゃ事件が起こるで。」などと申し向けて脅迫し、同女をして、若し右要求に応じなければ同女やその子供の身体、財産等にどのような危害が加えられるかも知れないと畏怖させたが、同女が右要求に応じなかったため、その目的を遂げなかった。

第三  前記第二の犯行の結果、昭和四九年二、三月頃、C子から相談を受けたAが、やむなく前記二筆の土地を手放す気になり、谷口吉之助に対し右土地を三〇〇万円で他に売却することを委ねたところ、その旨谷口から伝え聞くや、自ら右土地の売却を仲介して三〇〇万円との差額を儲けようと考え、その売却先を探し回った末、昭和四九年六月一八日、大分県東国東郡大字下成仏七〇一番地の末田哲夫方に赴き、同人(当時四五年)に対し、右土地の購入方を要求したが、同人からは色よい返事が得られなかったため、以前同人が広瀬に仲介した土地の面積が足りなかったことに因縁をつけ借用名下に金員を喝取しようと企て、同日、同所において、末田に対し、「八年ばかり宮崎の刑務所に入っており、出てきたばかりだ。あんたに世話してもらった鉄輪の土地は、面積が足りなかった。あんたにも責任がある。あの土地を買ってくれ。買えなければ金を貸してくれ。」、「自分は、満州で人を殺したことがある。死体に石をつけて湖か海に沈めたら全然わからん。」などと大声で話したうえ、さらに同月二三日、同人方に電話をし、同人に対し、「金に困っているので、五〇万円貸してくれ。子供がどうなっても俺は責任を持たんぞ。あんたが財産を全部処分しても、取り返しのつかないことになっても知らんぞ。」などと申し向けて脅迫し、同人をして、若し右要求に応じなければ同人やその家族の身体、財産等にどのような危害が加えられるかも知れないと畏怖させ、よって、同月二五日、別府市南立石一区六番地の四の麻生測量設計事務所において、谷口を介し、末田から現金二〇万円の交付を受けてこれを喝取した

ものである。

(証拠の標目)《省略》

(累犯前科と確定裁判)

被告人は、(1)昭和四〇年五月二七日大分地方裁判所で私文書偽造、同行使、公正証書原本不実記載、同行使罪により懲役一年六月(五年間執行猶予、昭和四三年七月三〇日右猶予取消)に処せられ、後記(2)の刑の執行を受け終った後引き続いて右刑の執行を受け、昭和四七年一一月三日その執行を受け終り、(2)昭和四二年一〇月三日大分地方裁判所で強姦致傷、傷害、脅迫罪により懲役三年六月に処せられ、昭和四六年五月三日右刑の執行を受け終り、(3)昭和四八年六月二〇日大分地方裁判所中津支部で恐喝未遂罪により懲役六月に処せられ、右裁判は昭和五〇年二月二八日確定したものであって、右各事実は、検察事務官作成の前科調書(検第四三四号、第四〇冊)によってこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示第一の玉子ら三名に対する各所為はいずれも刑法一九九条に、判示第二の所為は同法二四九条一項、二五〇条に、判示第三の所為は同法二四九条一項に各該当するところ、判示第一の玉子ら三名に対する各殺人罪は一個の行為で三個の罪名に触れる場合であるから、同法五四条一項前段、一〇条により一罪として犯情の最も重い玉子に対する殺人罪の刑で処断することとし、所定刑中死刑を選択し、判示第二及び第三の各罪については前記(1)、(2)の各前科があるので同法五六条一項、五七条によりいずれも結局再犯の加重をするが、以上の各罪と前記(3)の確定裁判のあった罪とは同法四五条後段により併合罪の関係にあるから、同法五〇条によりまだ裁判を経ていない判示各罪について更に処断することとし、なお判示各罪もまた同法四五条前段により併合罪の関係にあるから、同法四六条一項本文により判示第一の罪について被告人を死刑に処し、他の罪については刑を科さないこととし、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して被告人に負担させないこととする。

(情状)

本件は、恐喝、放火、詐欺、私文書偽造、同行使、強姦致傷などの前科を有し、最終刑を昭和四七年一一月三日(満期)まで服役してきた被告人が、出所後、さらに土地の紛争に絡んで金員を喝取しようとした恐喝未遂の罪により昭和四八年六月二〇日大分地方裁判所中津支部において懲役六月に処せられたものの、上訴して保釈されるや、その保釈中であるにも拘らず、判示第二の恐喝未遂事件を起こし、別府警察署で同事件につき被疑者として取調を受けながら、判示第三の恐喝事件を繰り返し、そして遂には判示第一の殺人事件を敢行するに至ったもので、被告人の危険な犯罪的性格は、益々増長され顕著になっているものといわねばならない。

ことに、判示第一の殺人事件の犯行態様は、かねて企図していた保険金詐取目的の犯行計画の準備として、その意図を秘して玉子母子の歓心を買い接近したうえ結婚、養子縁組をして戸籍上夫婦親子の形を整え、同女らに多額の保険を掛けるなどして計画決行の機を窺ううち、遂に本件当日関門ドライブに連れ出した帰途同女らを乗せた車ごと海中へ突入して計画を決行し、同女らを苦悶のうちに溺死させたもので、稀にみる計画的且つ大胆な犯行であり、社会的にも大きな衝撃を与えた重大兇悪事件である。また、その犯行動機も、玉子らを殺害することによって一攫千金を目論もうとしたものであって、自己の欲望を遂げるためには人命をも顧みない被告人の態度は、余りにも非道であるというほかない。

他方、被害者である玉子母子には何の落度のあろうはずもなく、夫であり父である静夫を病気で失った後、経済的には豊かとはいえないにせよ、玉子は子供達の成長を楽しみに、子供達も母親の玉子を助け、将来に希望を託し協力し合って家庭生活を営んでいたのであったが、犯行計画の殺害対象として母子家庭を物色していた被告人の目にとまり、不運にも非業の死を余儀なくされたのである。殺害された玉子らの悲痛、無念の情の程は筆舌に尽し難いであろうし、また、その遺族の受けた衝撃と深い悲しみの心情は察するに余りあるものがある。

しかるに、被告人は、本件(判示第一の殺人事件)は玉子が運転中の事故であると主張して徹頭徹尾否認し続け、反省悔悟の情は全く認められない。

当裁判所は、判示第一の殺人事件の犯行態様、その動機、結果、犯行後の状況、被害者や遺族の心情、社会的影響、被告人の前科等を併せ考えると、被告人に対しては極刑をもって贖罪させるほかないとの結論に到達せざるを得なかったのである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 永松昭次郎 裁判官 柄多貞介 裁判官 平井慶一)

<以下省略>

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