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大分地方裁判所 昭和36年(行)8号 判決 1962年9月21日

原告 工藤杉松 株式会社別府中央魚市場

被告 大分県知事

主文

一、被告は、

(一)  原告工藤杉松に対し、同原告が昭和三五年三月九日付をもつてなした魚市場開設許可申請につき、

(二)  原告株式会社別府中央魚市場に対し、同原告が同年同月一一日付をもつてなした魚介類せり売営業許可申請につき、

いずれも許否の処分をなすべき義務のあることを確認する。

二、原告株式会社別府中央魚市場その余の請求はこれを棄却する。

三、訴訟費用は全部被告の負担とする。

二、理由

現行行政事件訴訟特例法下においては、行政庁の作為義務確認の訴は許されないから本訴は不適法として却下すべきものである。すなわち、

(一) 行政訴訟は同法第一条に明記するとおり行政庁の違法な処分の取消又は変更にかかる訴訟その他公法上の権利関係に関する訴訟で、行政処分の存在を前提としてその効力を争うものである。従つて訴訟の目的となるべき積極的な行政処分の存在することを必要とするところ、いまだかかる行政処分のない本件にあつては訴は許されない。

(二) 更に、行政庁がある行為をなすべきことは法律上義務づけられているとして、これをしない場合に作為すべきこと或いは不作為の違法を訴訟をもつて確認することを認めるとすれば、その判決は行政庁を拘束することとなるが、これは行政処分の当否を判断する司法権の範囲を逸脱して裁判所が行政庁に対し行政処分の給付を命ずる結果となり、裁判所をして行政に関与し行政権の行使を監督する機能を営ませることになるから、かかる訴は三権分立の立前上許されない。このことは累次の判例により指摘されるところである。

(三) 仮に行政庁の作為義務確認の訴が許される場合ありとしても、行政庁が申請者の申請権ないし申請行為の存在を否認してなんら許否の決定をしないような場合がせいぜい考えられる位であるが、本件にあつては被告は原告等の本件各許可申請につき、その許可の処分をなすべき義務のあることは争わないのである。被告は原告等の申請権を認め、許否の決定をなす資料を得るため、調査に努力している。

原告の本訴請求は、争いのない権利の存否の確認を求むる訴で、即時確認の利益を有しないからこの点からみても、本訴は不適法として却下さるべきである。

以上の次第で本訴の許容性は存しないのである。

三、被告の求める本案についての裁判

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

四、答弁

請求原因(一)の事実中、原告工藤の信用、資産、株式の所有の点については後に述べる以外は否認する。その余の事実は認める。

同(二)の事実は認める。

同(三)のうち、原告工藤から主張の日付をもつて主張の許可申請があつたこと、魚市場開設予定場所が病院等に近接していないことは認めるがその余は全部争う。もつとも被告は昭和三六年一〇月五日の第一回準備手続期日に答弁書に基き右市場の位置が本条例第五条第一項第一号の要件を充していることを認めたが、右は真実に反し錯誤に出たものであるから右自白を撤回する。

同(四)のうち、原告会社から昭和三四年一二月一七日付をもつて別府魚市場所属の卸売人許可申請があつたこと、本条例第五条は、鮮魚介類の卸売人になろうとする者に対し、主張の要件を具備することを定めていることは認めその余は争う。同(五)のうち、原告会社から主張の日附をもつて主張の法条に基きせり売業の営業許可申請があり、別府保健所長から被告に対し、公衆衛生上支障ないと認められる旨の申達があつた事実は認め、その余は争う。

同(六)のうち、被告が主張の各申請に対し許否処分をしていないことは認める。

五、主張

(一) 原告会社の本件卸売人許可申請に対し

同原告は、右申請の所属魚市場を、昭和三五年三月九日原告工藤が開設しようとする前記魚市場と訂正して申請を継続したと主張するが、かかる事実はないから、右卸売人許可申請に関する本訴請求はこの点において失当である。

(二) 本件魚市場開設許可申請及び卸売人許可申請に関し、被告には次に述べる理由により不作為の違法はない。

(1) 中央卸売市場法によれば、卸売業務をなす者の間で過度の競争による結果当該市場の卸売業務の適正な運営が阻害されるおそれありと認めるとき(同法第一〇条の四第三項)、純資産額が市場の業務の規模その他の事情を参酌し一定の基準を下廻るとき(同法第一〇条の四第二項)は、卸売業の許可申請に対し、農林大臣は不許可処分をなしうる旨の規定があり、また関係事業者及び一般消費者の利益を不当に害する虞があるとき(同法第一五条の二第二項第四号)、関係卸売人間において卸売業務にかかる取引条件に関する協定が行われないとき(同法第一五条の二第一項)は過度の競争防止に適切な処置をする旨の規定があり、小売商業調整特別措置法第五条第一項第一号にも競争が過度となり中小小売商の経営が著しく不安定となるおそれがあるときは知事は小売市場の許可申請に対し不許可できる旨の規定があり、また百貨店法第五条にも同趣旨の規定が存する。

これをみるに、法は、市場行為及び市場類似行為に対し、生産者、消費者、業者間の取引の公正と安定、業務の適正と健全な運営、過当競争防止等の公共福祉擁護の立場から種々の規制を加えているのであり、しかも本条例が中央卸売市場法等が帯有する右と同旨の立場に立脚して制定されたものであることは同条例第一条にその目的として、「この条例は、魚市場における売買の公正を確保し、市場の健全な運営と鮮魚介類の円滑な流通をはかり、もつて公共の福祉に資することを目的とする」と謳つていることから明らかである。従つて被告は魚市場開設及び卸売人等の各許可申請に関し、同条例第五条所定の要件具備の調査、検討に当つて右の諸点を常に顧慮する必要があるのであり、殊に一五万人に近い人口を擁し、かつ温泉都市として特殊な性格を有する別府市に新たに魚市場を開設し卸売業を開始することの許否を決するにあたり、一五万人以上の人口を有する地域に適用される中央卸売市場法の前記の立場を参酌すべきことは当然のことである。

(2) いまこれを本件についてみるに、

(イ) 別府市における魚市場の過去現在

別府市においては、昭和二三年六月別府魚類荷受株式会社及び別府魚市株式会社が、昭和二五年三月株式会社別府魚市場が設立され、生鮮水産物荷受機関として認可され運営してきたが、経営不振により各社とも倒産寸前となつたので、三社協議の上法人格のない別府水産物卸売市場として経営を軌道に乗せようとしたが失敗し、魚市場の運営は停止状態となつた。次いで右三社了解の下、仲買人組合管理のもとに新別府水産物卸売市場が経営されたがこれも業態の事情から経営続行不能となつたので、右三社は昭和二七年五月一日別府魚市有限会社を設立し営業を行つた。他方仲買人は自存上昭和三四年三月八日別府鮮魚仲買協同組合を設立し、同年五月一八日設立認可を受けた。また従来他社に仲買人登録をしていた仲買人中五七名は同月一六日株式会社別府<協>魚市場の仲買人に集団二重登録の申請をしたので、被告は関係者の集合を求め意見を聞いて、同年六月六日右申請を容れ登録した。

別府市の魚市場取引関係は、このように複雑で利害が錯そうし、原告工藤、別府魚市有限会社、株式会社別府<協>魚市場、所属仲買人間に紛争が続発し混乱を続けてきたところ、原告工藤によつて同年六月二〇日設立された原告会社は別府市長に対し、鮮魚介類の卸売をする目的をもつて同市所有の別府市魚市場の一部使用の許可申請をし、同年一二月一五日後記のとおり許可をうけるや、同月一七日被告に対し同所において鮮魚介類の卸売業をすることの本件許可を求めたので、業界はますます混乱するに至つた。

(ロ) さて、別府市長の右の許可は、「許可に当つては市有魚市場、場内の具体的使用、箇所等の決定をみないので、現に魚市場を使用中の業者及び申請人並に市が協議の上申請人の使用箇所等を決定するものとする」との条件付のものであつたが、当時別府市魚市場は、別府青果、株式会社別府<協>魚市場及び別府魚市有限会社が使用していて残余がないばかりでなく現使用者が原告会社の右市場使用に反対するので右市場の使用条件は解決の見込みなく、また原告会社が同月一七日被告に対してなした鮮魚介類の本件卸売人許可申請に対しても他の業者からの反対もあつて事態はますます面倒になり、鮮魚介類の売買の公正、市場の健全な運営、需給の円滑化及び公衆衛生等の公共の福祉、並びに大分県下の魚市場の将来に悪影響を及ぼすような事態になつてきたので、被告は原告会社の本件卸売人許可申請に対し抜本的にして円満な解決の途を見出すべく、昭和三五年二月五日大分県魚市場審議会設置条例により設置された同名の審議会に右申請に許可を与えることの当否を諮問したところ、即日妥当な方法により許否を定めるのが相当であるとの答申があつたので、同月九日斡せん委員五名を選び、所定の要件の具備の有無の調査並に既存業者との調整斡せんを行わせていたところ、同年三月九日原告工藤から本件魚市場開設許可申請がなされるに至つたので、右委員会は前同様右許可申請についての本条例第五条所定の要件具備の有無の調査(仮に卸売人許可申請につきその頃原告会社の主張の如き所属魚市場の変更があつたとしても従前の調査を引続いて行い)並びに他業者との斡せんを併せ行うようになり、爾来同年五月三日まで十数回にわたりかつ毎回数時間に及ぶ熱心な斡せんを続けてきた。(もつとも右斡せんは同日以降停止している。)

(ハ) 被告は本条例の基本精神である生産者、消費者、業者間の取引の公正と安定、業務の適正と健全な運営、過当競争防止等の公共福祉の立場から、本件申請に関し前記のとおり種々調査、斡せんをするかたわら、大分県関係職員をして原告ら及び関係者について十数度に亘つて本条例第五条第一項各号の要件の具備の調査に当らせてきた。その結果、

I 本件魚市場開設許可申請の市場開設場所は病院等に接近していないことは認められるが、その附近に別府魚市有限会社、株式会社別府<協>魚市場、別府青果市場等があるので、新市場が開設されることによつて、鮮魚介類の集荷、配給又は運搬に支障を来すことが予想され、ために同項第一号の本件に欠けるところはないかについてその結論を出すになお相当の日時を要するので引続き調査中のものである。

II 同項第二号の要件の充足の有無については、

(a) 原告工藤は前記別府魚市株式会社の社長又は取締役であり、別府魚市有限会社設立以来の取締役で、その間専務取締役として企業運営の実務に当つてきたこと、また別府鮮魚仲買協同組合の創立者にして組合長であること、原告会社の代表者であり、また同社の株式を四〇〇株所有してはいるのであるが、魚市場を開設しようとする場所で卸売業を営む者の卸売許可申請のあることが同号所定の企業能力の一要素と解すべきところ、本件にあつては申請の市場開設場所における卸売人の卸売許可申請がないから、この点において原告工藤は企業能力ありとすることはできない。

次に、原告工藤が代表者である原告会社の営業目的は、水産物の販売並びに一切の附帯業務であるから、魚市場における卸売業務を含むものと解すべきところ、これは、原告工藤が、さきに創立した大分県鮮魚仲買協同組合認可の過程において被告側とした「同組合は将来卸売業務を行わない」との了解事項があつて卸売業務をすることができないため、その対策として原告会社を設立したものと思われるし、これを別としてもかかる事業目的を有する会社を設立すること自体、原告工藤が役員をしている別府魚市有限会社に対する背信行為とさえ考えられる。しかも原告会社の発行株式総数二〇〇〇株のうち原告工藤とその長男利男は各四〇〇株、次男富夫、三男武男、四男全典、高原満、佐藤政久は各二〇〇株、福田政雄、野々下栄は各一〇〇株を所有し、原告の一族をもつて資本金の全部を占め、仲買人やその他一般人の参画を許さない。原告工藤及びその一族は常に生産者、消費者の立場を考え公正な取引きができるようにすると表明しているが、これらの諸点を併せ考えると直ちに首肯することはできない。

これら諸事情を参酌し原告工藤が同号所定の適切な資産、企業能力を有するとすることに疑問が多いのでなお調査を続行中である。

(b) 原告会社は資本金わずか一〇〇万円であつて、この程度では周辺魚市場売掛金の状況からみて、決済期間が確実に履行されるところは少なく、資金の回転率は通常八・三日から一〇・三日であるため、業務規定に記載された売掛代金の即日決済は殆んど不可能と思われるのであつて、資金的に原告会社が健全に運営されるか疑問の多いこと。

また先にのべた原告会社成立の経緯、人的構成、資本構成会社運営の態度に加え、原告会社が昭和三五年二月一八日別府市大字別府五二三五番の一及び同番の二の宅地とその地上物件を買入れ、当初は右五二三五番の一地上に魚市場建設の目的で建築許可申請をしながら、その用途では許可の見込みがないとみるや、用途を雑貨倉庫と変更して建築確認の申請を行い別府土木事務所から確認をえているのであつて、この点からみても卸売業経営に不純を感じさせること。

これらの諸点を併せ考え、果して原告会社が本条例第五条第一項第二号所定の要件を具備しているかについて疑点が多いのでなお調査続行中である。

III 右の調査と併行して、原告等の右の如き実態から、生産者、出荷者の原告等に対する依存の程度、原告等と他社との競争激化の可能性の有無、なかんずく物品金銭の贈与等利益誘導による過度の競争が起りうる危険性はないが、価格の形成が公正を保ちうるか、消費者価格の上昇を来すおそれがないかなど、本条例第五条第一項第三号所定の要件の具備の有無を調査中である。

IV 以上あわせ同条同項第四号の要件の具備の有無を調査中である。

(3) 被告は以上のように種々調査斡せんを続けて来たにも拘らず原告会社の代表者たる原告工藤は不法にも昭和三五年四月一五日無許可のまま原告会社の業務として鮮魚介類の卸売業務を開始し、また個人として鮮魚介類の市場行為を開始したので、大分県水産課長は止むなく原告等を同年五月三一日本条例違反として告発し、その後依然として違法行為があつたので昭和三六年七月四日再告発しその結果大分地方検察庁検察官は原告工藤を同年一二月七日本条例第一七条第一項、第四項、第三条第一項に違反するものとして大分地方裁判所に起訴した。このように条例違反の行為を犯すが如き原告等の本件申請に対し、被告が許否を決するにつき慎重検討することは条理上当然のことである。

以上のとおり、被告には本件魚市場開設及び卸売人許可申請に対し不作為の違法はない。

(三) 本件せり売業許可申請に関し、被告は次に述べる理由により不作為の違法はない。

せり売業の営業場所は、食品衛生法施行令第五条第一二号によれば魚介類市場でなければならない。ところで右申請にかかるせり売営業の場所は、原告工藤が別府市大字別府五、二三五番において開設しようとする魚介類市場であり、同原告が被告に対してなした本件魚市場開設許可申請については所定要件具備の調査を続行中でいまだその許否処分がなされていないこと前述のとおりである。右せり売業許可申請は全て以上の申請と関連性がありこれらが解決しない限りその許否を定めえない事情にある。かかる事情があるのであるから右せり売業許可申請に対し被告が許否をしないことにつき何ら責むべき点はない。

第三、証拠関係<省略>

理由

一、被告は、本訴は三権分立の立前に反し許されないと主張する。いわゆる公法上の義務確認訴訟が許されるか否かの問題が、種々論議されてきたことは周知のとおりである。わが憲法及びこれを受けた裁判所法第三条の規定に照らせば、裁判所は憲法に特別の定めある場合を除き一切の法律上の争訟を裁判する権限を有することが明らかである。しかして行政権の行使が法律の枠内においてのみ認められるものである以上、その行使の適否は司法審査に服するものといわねばならない。もつとも三権分立の沿革、三権の均衡、司法行政両権の機能に照らし、被告主張の如く、行政権の行使に対する司法審査の及ぶ範囲に自ら限界の存することを否定することができないが、そこに絶対不変の基準があるわけではない。この限界は公法上受くべき国民の権利の擁護と行政権の機能との均衡を考慮し探究すべきことがらである。

さて本件各申請の目的が本来個人の自由に委ぬべきものであるが行政上の目的のため一般に禁止された行為の解除を求めることにあること及び本件各申請の根拠条文たる本条例第三条、第五条、第六条等並に食品衛生法第二〇条、第二一条等の本条の体裁からみて、本件各申請に対して被告のなす許否の処分はいわゆるき束裁量行為に属すものであること明らかである。ところでかかるき束裁量行為について考えるに、行政庁は一定の行政行為をなすべきこと或いはなすべからざることが法に適合すると判断する以上いずれかの行政行為をなすべき法律上の拘束をうけるばかりでなく、相当の期間内に一定の行政行為をなすべき法律上の義務を負うものと解するのが相当である。従つて行政庁が一定の行政行為をなすにつき法適合性の判断を誤つた場合は勿論のこと、当該行政行為をなしうる相当の期間を経過したに拘わらず正当な事由なくなおこれをなさず、ために禁止の解除を求める国民の側に権利侵害の事態が発生し若しくは発生の危険ある場合には、行政庁の右の措置は違法として評価をうけ、国民は司法的救済を求める利益を有するものといわなければならない。

ただ行政庁が一定の行政行為をなさないことの違法に対する司法的救済がいかなる形で許されるかは先に述べた司法行政両権の機能の点から別途考慮されなければならないのであつて、行政上の結果について政治的責任を負わない裁判所が、行政庁に対し積極的に作為、不作為を命じうるとするには躇躊せざるを得ないが、行政庁に申請に対する許否の決定をなすべき義務あることを宣言する程度においては、何ら行政庁の第一次的判断権を奪うことはなく、またいかなる点からみても三権分立の立前を侵すことはないから(このことは、施行を目前に控えている行政事件訴訟法第三条に照らし容易に理解しうるところである。けだし同条の不作為違法宣言の訴は右許否決定義務存在宣言の訴とほぼその実質を同じくすると解されるところ、法は右不作為違法宣言の訴を三権分立の立前に反しないものとして認めているからである)、この形態の訴を認むべきことは当然のことである。よつて被告の主張は採用しがたい。

二、そこで本案について判断する。

(一)  被告に対し、原告工藤が本条例第八条に基き昭和三五年三月九日付をもつて別府市大字別府五二三五番地に魚市場を開設することの許可申請を、原告会社が昭和三四年一二月一七日付をもつて同条に基き所属魚市場を同市大字別府五二四六番の五の別府市有市場として魚介類の卸売人許可申請及び昭和三五年三月一一日付をもつて食品衛生法第二〇条、第二一条、同法施行令第五条第一二号に基き、営業場所を原告工藤が開設しようとする前記魚市場とし魚介類のせり売業の営業許可申請をしたことは当事者間に争いがない。

(二)  原告会社は右卸売人許可申請については、昭和三五年三月被告に対し、口頭をもつて所属魚市場を原告工藤の開設する前記魚市場と訂正する旨の申請をして右申請を継続したと主張するのに対し被告はこれを争うので以下判断する。

所属魚市場の如何は卸売人許可申請の枢要な部分をなすものであるから、これが訂正は申請書の単なる訂正に止まらず、従前の許可申請の撤回と新たな許可申請の両者の機能を果すものと解するのが相当である。即ち、原告会社の主張のとおりとすれば、別府市有市場を所属市場とする卸売人許可申請の撤回と、原告工藤の開設する魚市場を所属市場とする新たな卸売人許可申請が同時に行われたことになるのであり、しかして弁論の全旨に照らせば原告会社が本訴で請求するものは、まさに右新申請に対する被告の許否処分義務確認の請求にあること明らかである。

さて証人工藤富夫、同工藤利夫は、昭和三五年三月二〇日頃本件卸売人許可申請の担当当局である大分県農水産部水産課(以下県水産課という)の課長補佐三浦透に対し口頭にて右の所属市場の変更を申出、さきに提出してあつた卸売人許可申請書の当該部分訂正のため寺田課員に印鑑を交付した旨供述し、成立に争いのない甲第一一ないし第一四号証、乙第二、第三号証も原告会社の右主張に副うが如くであるけれども、この事実は証人三浦透の否定するところであるばかりでなく、後記認定の如く、別府市有の市場に拠つて魚介類の卸売業を営み、原告会社に対し卸売人の許可を与えることに反対していた<協>魚市株式会社別府魚市有限会社と原告会社との間を調整し、この三者を一本化することによつて別府市有市場における卸売業者を単一にしようとして、昭和三五年二月九日以降あつせん委員会を開いて一本化のあつせんを続けていた被告及び担当当局たる県水産課にとつて、原告会社から所属市場の変更を申出られることはこれまでの一本化あつせんを根底から揺ぶられる程の重大事であることに加え、本件証拠によつて認められるとおり被告及び県水産課では昭和三四年一二月一七日付卸売人許可申請ばかりでなく原告等その余の申請に対しても慎重な態度をとつていた事実に徴すれば真実右主張の如き申出があるとすれば農水産課の一員たる課長補佐三浦透、課員寺田において上司、同僚にこの事実を告げ何らかの協議をしたであろうと思われるのに、同人等の上司同僚である水産課長田中弌及び課長補佐石田孝志の各証言によれば、同人等はかかる事実を聞知したことのないことが明らかであり、また本件卸売人許可申請書たる乙第一号証によればかかる変更記載がないこと明白であるところ、所属市場の変更に当つては、大分県魚市場条例施行規則第二条第一号によつて定められる第二号様式申請書の添付書類として当然原告工藤と原告会社との市場使用に関する契約書写の添付が要求されるのにかかる書類は存在しないし、これを原告会社が提出し、若しくは被告において提出を求めたと認めるに足りる何等の証拠もない。

このことは後記認定のとおり、昭和三四年一二月一七日付卸売人許可申請にあたり、別府市有市場使用契約書の基本となるべき別府市長の市場使用許可書の獲得に苦しみ右契約書の必要性を強く認識したと認めうる同原告及び右許可書の提出を強く求める等、右許可申請の取扱いに慎重であつた被告及び県水産課の態度に照らせば真実右主張の如き申出があつたとするにはたやすく理解し難いところであり更に証人工藤富夫、同工藤利夫の各供述並びに成立に争いのない甲第五、第一四ないし第一六号証によれば、原告会社としても、無許可で卸売業務を開始した同年四月一五日現在においても別府市有魚市場を基盤とする卸売業者一本化のあつせんに応ずる態度を維持していたことが認められるのであつて、これら諸点並びに弁論の全趣旨を綜合すれば、原告会社において主張の如く所属市場の変更を申立てたとの事実はたやすく認定し難い。他に原告会社の主張事実を認めるに足る証拠はない。

してみれば原告会社が求める昭和三五年三月になした所属市場を原告工藤の開設する魚市場とする卸売人許可申請に対する被告の許否処分義務確認請求はその申請の存在が認め難いのであるから、既にこの点において失当であり、棄却を免れない。

(三)  次に本件魚市場開設許可申請及びせり売営業許可申請に関する本訴請求の当否について判断する。

別府市にはもと生鮮水産物荷受機関として別府魚類荷受株式会社、別府魚市株式会社、株式会社別府魚市場の三社があつたが経営不振に陥つたので仲買人において一時市場の経営をしたのち、昭和二七年中右の三社が別府魚市有限会社を設立し、以後同社が魚介類の卸売等の生鮮水産物の荷受業務をするに至つたことは当事者間に争いがなく、本件証拠によれば、右別府魚市有限会社とは別個にかまぼこ協同組合があつて昭和二五年頃から魚介類の卸売等をしていたが間もなく<協>魚市株式会社に改組され、右二社(以下既存二社という)はともに別府市大字別府五二四六番地の五所在の別府市有市場において魚介類の荷受業務を継けてきたこと、ところで別府魚市有限会社の設立については原告工藤を含む仲買人の多大の協力があつたに拘わらず同社はこれに報いる措置に出なかつたので、これら仲買人は自衛上、仲買人の福利厚生と魚介類の共同購入を事業目的とし、大分県商務観光課の行政指導をうけつつ、原告工藤等が中心となつて共同組合の設立を企図したところ、魚介類の新荷受機関の出現を喜ばない前記既存二社の反対と、鮮魚の共同購入を共同組合の事業目的とすることは法に牴触すると主張する県水産課の意見があつたので、魚介類の購入は別途営利会社を設立してすることとし同目的を協同組合事業の目的から除外し、同年五月一八日原告工藤を組合長とする別府鮮魚仲買協同組合の設立をみたこと(この点は当事者間に争いがない)、次いで右の方針に従い、同年六月二〇日原告工藤及びその一族が中心となつて資本金一〇〇万円を投じ魚介類の卸売等を営業目的とする原告会社を設立し、前記別府市有の市場において鮮魚介類の卸売業をする計画のもとに、別府市長に対しては市場使用の可能性を、被告及び県水産課に対しては魚介類卸売人許可の可能性に関し種々打診したところ、別府市魚市場条例によれば卸売人でない者に対しては市場使用許可を与えることができず、大分県魚市場条例によれば卸売人許可申請に当つては、申請書に所属市場との市場使用に関する契約書写を添付すること従つて別府市長の市場使用許可をえることが申請の前提要件であつて、県当局としては右許可なくしては卸売人許可申請は問題にならないとの堅い態度であつたので、原告会社は窮地に立たされたのであるが、有力者を介するなどして種々奔走の末同年一二月一五日ようやく別府市長から別府市有市場の使用許可をうることができ、同月一七日被告に対し右使用許可書を添付して本件卸売人許可申請をすることができたこと、この申請をうけた被告及び県水産課では、別府市長の右市場使用の許可が「原告会社の使用場所については既存業者等と協議の上定める」との趣旨になつていることに着目し有効な許可と解しうるかにつき疑義ありとし、また前記既存二社が原告会社に卸売人の許可を与えることに強く反対していた状況下にあつたところから協議の上、右卸売人許可申請については「慎重に検討する」との方針をたて、原告会社に卸売人として必要な本条例第五条第一項第二号ないし第四号所定の諸要件が具備するかについては右申請に先立つて原告会社から種々下交渉をうけていた関係上既に相当の資料を得ていたけれどもなお補充的にその調査を進めると共に、前記既存二社と原告会社を一本化し別府市有市場における魚介類の荷受機関を単一にする構想のもとに、昭和三五年二月五日に開催された大分県魚市場審議会条例に基く同名の審議会にも本件卸売人許可申請の可否を諮問することなく、被告の選任したあつ旋委員に委嘱して同月九日から既存二社と原告会社の一本化のあつ旋に乗出したこと、しかし既存二社は原告会社が卸売業者として進出することを極度に警戒し別府市有市場には原告会社を受入れるに足る場所的余裕がないとの名目をもつて原告会社を排斥しようとし、原告会社においても一本化によつて不利益を蒙ることをおそれたことから三社一本化のあつ旋は容易に進展しなかつたこと、しかし原告会社としては前示認定の如く会社設立のための資金を投じていることと相当数の所属予定の仲買人を抱えなければならなかつた関係上被告に対し速かに卸売人の許可処分をされたい旨陳情を重ねたが、被告においてたやすく応じようとしなかつたので、原告会社代表者たる原告工藤は既存二社の前記反対論を封じ併せて状況打開のため別府市大字別府五二三五番に新市場を開設することを企図し、既存の旅館を買取つたうえ新しく市場用建物を建築し、同年三月九日本条例第八条に基き本件魚市場開設許可申請をするに至つたこと、又原告会社は同月一一日別府保健所長を経由して被告に対し、営業場所を原告工藤の開設する前記市場として本件鮮魚介類せり売営業の許可申請をしたところ同保健所長は法定の諸要件の具備を調査したのち、同月二二日被告に対し「申請書記載に相違なく、公衆衛生上支障ないと認められる」旨を申達したこと、被告及び県水産課においては、原告工藤の開設予定の魚市場が別府市有市場の附近にあることとその他の地理的状況を知つていたし(本条例第五条第一項第一号関係)、同原告に魚市場開設者として要求される爾余の同条同項第二号ないし第四号の諸要件については原告会社の本件卸売人許可申請の諸要件調査にあたり既に調査ずみであり、また本件鮮魚介類せり売業許可申請に関する別府保健所長の申達が前記のとおりであつたからいずれも法定の諸要件の具備を更に調査するまでもなかつたので精力の殆んどを三社一本化に注入し続けたこと、一方原告会社所属予定の仲買人は原告会社と対立関係にある<協>魚市株式会社の所属仲買人でもあつてその立場が不安定であつたため、被告に対し本件卸売人許可申請について速かに処置するよう陳情を重ねてきたところ、その一部の者が同年四月一二日突然同社から取引停止処分をうけたので、原告等としてはこれらの者の生活の擁護と所属予定仲買人の動揺を防ぐこと及び原告等が多大の出費をしている関係からその損失を防止する必要上同月一五日原告工藤はさきに申請した魚市場を開設し、原告会社は右市場に拠つて魚介類の卸売業務をいずれも無許可にて開始し今日に至つていること、前記あつせん委員会はかかる状況下において同年九月まであつせんを継続したが結局失敗に終り以後全くあつせんを行つていないのであるが、被告はこの事実を認識しているにも拘わらず、大分県魚市場審議会に対し本件魚市場開設許可申請に関する何等の諮問をすることなく、また本件魚介類せり売営業許可申請に対しても何らの処置をすることもなく今日まで実に二年有余の間慢然放置しているものと認めることができる。

以上の諸点を綜合すれば、被告において本件魚市場開設及び魚介類せり売営業の各申請に対し許否を決定するに要する相当な期間は既に経過したに拘わらず正当な理由なくこれをなさないものと認めざるをえない。されば被告の右不作為の態度は違法であり、原告等において右許否の決定をまつのでははかり難い損害を蒙るおそれありと認めることができる。してみれば原告等には被告が本件右各申請に対する許否決定前に司法救済を求めうる利益及び必要性がある。しかして本訴のごとき行政行為の許否処分義務確認の訴が許容されるものであることは既に認定したところであるから、原告等の右各申請に関する本訴請求は正当として認容することができる。

(四)  よつて、訴訟費用については被告に全部負担させることを相当とするから、民事訴訟法第八九条第九二条但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 島信行 藤原昇治 杉山伸顕)

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