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大分地方裁判所 昭和36年(行)11号 判決 1962年8月10日

原告 大塚孝志

被告 大分県

主文

被告は原告に対し金二万円を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は四分し、その三を原告の、その一を被告の各負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し金一五万円を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、請求原因として、

被告の職員である大分県竹田県税事務所長は、原告が昭和三五年度不動産取得税二、四〇〇円の滞納ありとして部下職員の訴外麻生端に滞納処分の執行を命じ、右訴外人は同年一一月二二日原告住所において原告の妻に命じ、原告所有のナシヨナル電蓄一台に封印を施させてこれを差押えた。しかし原告は同年度に不動産取得の事実はないのであつて、右滞納処分の執行は右竹田県税事務所長ならびに麻生端等の故意又は重大な過失に基く違法な違分である。

原告は時価約四五〇万円相当の不動産を有し、家族は妻と小、中学生の子供三人、昭和三一年頃より肩書住所で貸金業を営み相当程度の生活をし、納税組合長、土地改良水利組合長、小、中学校PTA役員等の公職を兼ね、いまだかつて税金を滞納したことはない。原告は右滞納処分の執行によつていたく名誉を毀損され精神上甚大な苦痛を蒙つたのであるから、被告に対し国家賠償法に基き慰藉料として金一五万円の支払いを求めると述べ、被告の答弁に対し

麻生端より前記差押を取消す旨の記載ある葉書を受領したことはあるが、これは右訴外人の個人的詫状にすぎず、公文書による取消通知書とは認められないから本件滞納処分は今尚存続している。また被告主張のとおり竹田県税事務所長、各課長、係長等が相次いで原告方に来り陳謝の意を表したことは相違ないが、そのため、かえつて寒村の原告住所地一帯に好ましからぬ話題を振りまき原告に対する名誉毀損の度合を深刻化せしめたと述べた。

立証<省略>

被告訴訟代理人は、

一、本案前の抗弁として、「本件訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、その理由として

本訴は違法な滞納処分があつたことを理由に損害賠償の請求をなすものであるが、不動産取得税の賦課並徴収の権限は地方県税事務所長に委任されているから、本件訴は処分庁たる竹田県税務所長を被告とすべく、大分県には被告適格がない。被告適格を欠く大分県を相手方として提起された本件訴は不適法であるから却下さるべきである。

二、本案について、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、

(一)  原告に主張年度の不動産取得税滞納の事実がないことは認める。

(二)  滞納の事実がない者に対する滞納処分としての差押えが無効であることは云う迄もないが、竹田県税事務所長等が原告主張の物件について滞納処分をなしたとの点は争う。すなわち、有体動産に対する滞納処分は徴税吏員が目的動産に封印その他差押を明白にする方法を施して目的動産を占有することによつてその効力を生ずるもので、差押調書の作成は単にその証拠となるに過ぎない。しかして右徴税吏員麻生端は、原告主張の税金について、その主張の日時場所で、原告主張の物件を差押える旨を記載した差押調書を作成し、その謄本と封印用紙一枚を原告の妻に交付したのみで現実に封印を施したわけでもなく他に差押えを明白にすべき何等の方法も講じていないから適法な滞納処分は存しない。

(三)  仮りに然らずとするも本件滞納処分は係員の故意過失によるものでないから被告がその責任を問われる理由はない。

(四)  仮りに然らずとするも封印は人目に触れるところに貼られたわけではなく、しかも差押え並びに差押解除の権限を有する麻生端は帰庁後直に原告に対し書面を以て差押解除の通知を発し、該通知は翌二三日原告に到達しているのみならず、同日同県税事務所麻生忠男が原告方を訪れ原告に対し前記差押えが無効であることを通告し陳謝の意を表しているから本件滞納処分は直に適法に解除されているので原告に損害を生ずる謂われはない。

(五)  仮りに多少の損害を生じたとしても前記のように竹田県税事務所吏員麻生忠男はその翌日直ちに、その後麻生端、竹田県税事務所長、課長等が相次いで原告方に出向いて陳謝しているので原告の精神上の苦痛は十分償われて余りあるから被告に賠償の義務はない。

その余は不知と答えた。

立証<省略>

理由

一、被告訴訟代理人の本案前の抗弁につき按ずるに、本訴は国家賠償法に基く通常の民事訴訟たる損害賠償請求訴訟で、本訴請求原因事実からすれば被告大分県は被告適格を有すること明らかである。よつて右抗弁は採用することができない。

二、原告が昭和三五年度中不動産取得税課税の対象となる不動産取得事実のないことは被告において明らかに争はないところ、成立に争いのない甲第四号証、第一〇ないし第一二号証、証人大塚ミツコ、同麻生端、同麻生忠男の各証言及び原告本人尋問の結果を綜合すると、大分県竹田県税事務所長は昭和三五年九月中原告に対し、同年度分不動産取得税として金二、四七〇円を賦課し、直ちに原告よりその誤りである旨の抗議をうけ同年一〇月三一日付をもつて右課税を取消したに拘らず、同事務所勤務の大分県職員麻生忠男は不注意にも徴収簿の当該部分の抹消をせず、ために同事務所勤務の大分県徴税吏員麻生端は原告に右不動産取得税の滞納ありと軽信した過失により、同年一一月二二日原告の不在中原告宅において、原告の妻ミツコが滞納の事実を否認したのに拘わらず原告所有のナシヨナル電蓄一台を差押え同女に命じてその裏側に封印させたことを認めることができ、右認定に一部副はない証人麻生端の証言部分は措信しない。

ところで成立に争いのない甲第五、第九号証、原告本人尋問の結果により成立を認めうる同第六号証、証人大塚ミツコの証言及び原告本人尋問の結果によれば、右差押当時原告は竹田市所在の納税組合の組合長、土地改良区の理事あるいは学校PTA役員等の職にあり、土地建物のほか乗用車その他相当の資産を有し、妻及び子供三人を擁して貸金業兼農業を営むものであつたことが認められるところ、かかる社会的地位、資産を有する原告にしてみれば、右の滞納処分によりいたくその名誉感情を害されたと認めることができる、従つて被告は原告に対し、国家賠償法第一条第一項に則り慰藉料を支払うべき義務がある。

しかしながら、前記認定のとおり前記封印は人目に触れない電蓄の裏側になされたもので、しかも公衆の面前でなされたと認めるに足りる証拠はないうえ、前顕甲第一二号証、証人麻生端、同麻生忠男の各証言及び原告本人尋問の結果を綜合すれば、麻生端は右差押後帰庁してその処分が誤りであつたことを発見し、即日、右差押を解除し併せて右処分に及んだことを陳謝する趣旨の書面を原告宛発送し同書面は遅くも同月二四日には原告に到達していること、また麻生忠男も翌二三、二四日の両日原告方を訪れ、原告に右差押が無効であることを通告すると共に繰り返し陳謝したことが認められ、更にその後も竹田県税事務所長、課長等が相次いで原告方に出向き前記失態につき陳謝の意を表したことは当事者間に争いがないところである。

以上の諸点を種々勘案すれば、原告は金二万円をもつて慰藉さるべきが相当である。

よつて原告の本訴請求は金二万円の支払を求める限度において認容しその余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条を適用しこれを四分し、その三を原告の、その一を被告の負担とすることとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 島信行 藤原昇治 杉山伸顕)

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