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大分地方裁判所 平成9年(行ウ)15号 判決 2000年4月24日

原告

大分瓦斯株式会社

右代表者代表取締役

福島親比古

右訴訟代理人弁護士

内田健

山本洋一郎

被告

別府税務署長 小野應治

右指定代理人

高橋孝一

和多範明

曽根崎仁志

五嶋繁喜

渡邊康博

八川敏明

村上憲央

秋岡隆敏

田川博

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

一  被告が原告に対し平成四年六月二九日付でした原告の昭和六三年四月一日から平成元年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分のうち、本税額七六七五万四三〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

二  被告が原告に対し平成六年六月二九日付けでした原告の平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分のうち、本税額一八〇四万三一〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

第二事案の概要

本件は、被告が、都市ガス供給業等を営む青色申告書の提出の承認を受けた会社である原告に対し、原告の法人税確定申告が原料ガスの仕入価額の過大計上に基づくものであること等を理由として、法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことにつき、被告が仕入価額の過大計上等を理由に原告の所得を過大に認定したのは違法であり、また、被告が原告の仕入価額を同業者の仕入価額によって認定したのは法人税法一三一条(青色申告法人に対する推計課税の禁止)に違反するとして、原告が被告に対して右各処分の取り消しを求めたものである。

一  争いのない事実等(証拠を引用していない事実は、争いのない事実あるいは弁論の全趣旨により認められる事実である。)

1  原告は、都市ガス供給業等を営む青色申告書の提出の承認を受けた会社であり、その事業年度は、四月一日から翌年三月三一日までである(以下、各事業年度については、その終了の年月をもって「何年三月期」と表示する。)。

2  原告は、被告に対し、平成元年三月期ないし平成三年三月期の所得金額及び納付すべき税額を別表1の「確定申告」欄記載のとおりとする青色の法人税確定申告書を、それぞれ法定申告期限内に提出した。

3  右各確定申告に対し、被告は、平成元年三月期については平成四年六月二九日付けで、平成二年三月期及び平成三年三月期については平成六年六月二九日付けで、別表1の「更正」欄及び「賦課決定」欄記載のとおりの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った。

4  原告は、国税不服審判所長に対し、平成四年六月二九日付け処分に対しては同年八月二八日付けで、平成六年六月二九日付け処分に対しては同年八月二九日付けで審査請求をしたところ、同所長は、平成九年五月二三日付けで、平成二年三月期の更正処分に係る審査請求を却下し、その余の審査請求を棄却する旨の裁決をし、平成九年六月三日ころ、右裁決書謄本が原告に送達された。

5  そこで、原告は、右各処分のうち、確定申告額を減額する平成二年三月期の更正処分を除く、平成元年三月期及び平成三年三月期(以下「本件各事業年度」という。)の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件課税処分」という。)の取消しを求めて本訴を提起した。

6  本件課税処分の所得金額の内訳は、別表2の「平元年3月期」欄及び「平3年3月期」欄記載のとおりであって、同表の<3>ないし<5>及び<10>ないし<14>の内容は以下のとおりであるが、租税関係法令を適用すると、争点における被告の主張どおりであれば、別表2記載のとおりとなって、本件各事業年度の原告の所得金額、納付すべき税額及び過少申告加算税の額は別表1の「更正」欄及び「賦課決定」欄記載のとおりとなり、争点における原告主張のとおりであれば、本件各事業年度の原告の所得金額、納付すべき税額は、別表1の「確定申告」欄記載のとおりとなる。

(一) 仕入価額過大計上(別表2<3>)、雑収入過大計上(別表2<10>)

原告が、昭和電工株式会社(以下「昭和電工」という。)から仕入れた副生ガスの仕入価額を、昭和六三年三月期五億四一七六万四一六〇円、平成元年三月期八億五一二六万六五〇〇円、平成二年三月期四億八〇一一万七六六一円、平成三年三月期八億五五四九万〇二〇四円(以下「本件副生ガス仕入価額」という。)として損金の額に算入したところ、被告は、右価額を売上原価として未確定であると認定し、西日本地域から原告と同業種の法人五社を抽出して、右五社のブタンガスの仕入価額のうち最も高額な仕入価額を基に一定の算式(1000Kcl×ブタンガス1Kg当たりの単価(円)/ブタンガス1Kg当たりの熱量[11,800Kcl])により副生ガスの単価を算定し、これに昭和電工からの毎月の仕入数量を乗じた額をもって原告の副生ガスの仕入価額と認定した(乙三一、三二、三四、三五)上、これを超える金額(昭和六三年三月期二億五九八九万二六三五円、平成元年三月期四億三三九六万〇二〇四円、平成二年三月期二億四七三四万八七七六円、平成三年三月期三億〇一〇九万一一六一円)を仕入価額の過大計上であるとして各所得金額に加算するとともに(別表2<3>)、これに伴い、翌事業年度において原告が計上済みであった雑収入額から、前事業年度の右加算額と同額を減算した(別表2<10>)。

(二) 寄付金損金不算入額(別表2<4>)

原告が、別大興産株式会社(以下「別大興産」という。)から仕入れたブタンガスの仕入価額を昭和六三年三月期六億〇五九六万七三二〇円(以下「本件ブタンガス仕入価額」という。)として、損金の額に算入したところ、被告は、前記五社のブタンガスの仕入価額のうち最も高額な仕入価額をもって原告の仕入価額と認定し、これを超える金額(一億三八六四万六二五八円)は、仕入価額の過大計上で、別大興産に対する贈与であるとして、法人税法(以下「法」という。)三七条六項の寄付金と認定したが、そのうち平成元年三月期において支払われた六五七七万九八八〇円を同事業年度の申告にかかる寄付金の額三六三万八〇〇〇円に加算した上、寄付金の損金算入限度額を超える部分(六一七七万二八七四円)の損金算入を否認して所得金額に加算した。

(三) 売上原価(期首棚卸資産)過大計上(別表2<5>)、期末棚卸資産過大計上(別表2<12>)

被告は、前記(一)、(二)のとおり、本件副生ガス仕入価額及び本件ブタンガス仕入価額をいずれも過大計上と認定したことに伴い、当該事業年度の期末棚卸資産のうち過大計上分(昭和六三年三月期二三二万〇二〇三円、平成元年三月期九四万四四三六円、平成二年三月期六三万六六七八円、平成三年三月期六九万三八六八円)を所得金額から減算するとともに(別表2<12>)、これに対応する金額を翌事業年度の期首棚卸資産の過大計上分として所得金額に加算した(別表2<5>)。

(四) 未払寄付金認容(別表2<11>)

被告は、前記(二)のとおり、昭和六三年三月期の本件ブタンガス仕入価額の一部を寄付金と認定したことに伴い、右寄付金該当部分のうち昭和六三年三月期末までに支出されず、平成元年三月期に支出された六五七七万九八八〇円につき、昭和六三年三月期の損金算入を否認して所得金額に加算するとともに(別表2<6>)、平成元年三月期における所得金額から、これに対応する昭和六三年三月期の右加算額と同額を寄付金認容額として減算した(別表2<11>)。

(五) 寄付金損金不算入額(別表2<13>)

平成三年三月期の所得金額について、別表2記載のとおり加算、減算をし、寄付金の損金不算入額の再計算をすると、申告による損金不算入額よりも六七万一〇六四円少なくなるので、同金額を所得金額から減算した。

(六) 雑損計上もれ(別表2<14>)

前記(一)のとおり、平成三年三月期の仕入価額過大計上を認定したことに伴い、未払消費税額と納税消費税額との差額二九円を所得金額から減算した。

二  争点

1  本件副生ガス仕入価額に関する本件課説処分の適否

(一) 実体上の違法事由の存否について

(原告の主張)

本件副生ガス仕入価額は認可価格によるものであるが、これは法二二条三項一号の規定する売上原価に該当し、同条四項の規定する、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されたものであるから、本件副生ガス仕入価額に関する被告の認定は違法である。

(被告の主張)

(1) 原告は、昭和電工から、都市ガスの原材料となる副生ガスを継続的に仕入れていた。

昭和電工は、原告に対して供給している副生ガスの料金について、ガス事業法二四条所定の通商産業大臣の認可を受けていて(以下、右認可を受けた料金の額を「認可価格」という。)、原告と昭和電工との間においては、いったん認可価格で支払をする形を採るものの、翌事業年度に実際の取引価格に基づいて、同取引価格と認可価格との差額を精算する方法で代金決済することを合意していて、昭和六三年三月期ないし平成三年三月期においても、そのような形で代金決済がなされた。

そのため、昭和電工においては、原告との右取引を経理処理するに当たり、認可価格を取引価格として計上せず、毎月独自に見積もった見積価格を取引価格として計上していた。

(2) そうすると、認可価格は副生ガスの取引価格としての意味をもたず、副生ガス仕入価額は未確定なものであるから、取引のなされた当該事業年度の副生ガスの仕入価格については、昭和電工が行っているように、何らかの合理的方法で見積り、これを仕入価格として計上する必要がある。

そこで、被告は、前記一6(一)記載の合理的な方法で原告の副生ガスの仕入価額を見積もったものであるから、本件副生ガス仕入価額に関する被告の認定は適法である。

(二) 手続上の違法事由の存否について

(原告の主張)

原告は青色申告書の提出の承認を受けた法人であるところ、被告は、本件副生ガス仕入価額を否認して、原告と同業種の法人五社を抽出し、そのうち最も高額な仕入価額を基に一定の算式により算出した額をもって副生ガスの仕入価額を認定している。しかし、これはまさに推計課税であるから、青色申告法人に対して推計課税を禁止している法一三一条に違反している。

(被告の主張)

本件課税処分は、前記(一)の被告の主張のとおり、未確定な副生ガス仕入価額を合理的な方法で見積り計上(実額認定)したものにすぎないから、法一三一条に違反しない。

2  本件ブタンガス仕入価額に関する課税処分の適否

(一) 実体上の違法事由の存否について

(原告の主張)

本件ブタンガスの仕入価額は、法人間の契約において適正に取り決められた価額であって、仕入価額が過大であるとはいえず、法三七条六項に規定する寄付金を生じる余地はないから、本件ブタンガス仕入価額に関する被告の認定は違法である。

(被告の主張)

原告は、都市ガスの原料であるブタンガスを、原告の同族会社である別大興産のほか、二豊液化ガス協同組合ほか二社からも仕入れているが、別大興産から仕入れた昭和六三年三月期のブタンガスの仕入単価は一キログラム当たり四九円であり、原告が別大興産以外の仕入先から仕入れたブタンガスの仕入単価や前記一6(一)記載の同業他社がその仕入先から仕入れたブタンガスの仕入単価(三五円から三八円)と比較して著しく高単価であったため、被告は、本件ブタンガス仕入価額のうち適正価額(同業他社がその仕入先から仕入れたブタンガスの仕入単価中最も高額な仕入単価の仕入価額)を超える部分は、別大興産に対する寄付金に当たると認定したものであり、本件ブタンガス仕入価額に関する被告の認定は適法である。

(二) 手続上の違法事由の存否について

(原告の主張)

原告は青色申告書の提出の承認を受けた法人であるところ、被告は、本件ブタンガス仕入価額を否認して、原告と同業種の法人五社を抽出し、そのうち最も高額な仕入価額をもって原告の仕入価額と認定しているが、これはまさに推計課税であるから、青色申告法人に対し推計課税を禁止している法一三一条に違反している。

(被告の主張)

本件課税処分は、前記(一)の被告の主張のとおり、同業他社中最も高額な仕入価額をもって適正価額を認定したものにすぎないから、法一三一条に違反しない。

第三争点に対する判断

一  本件副生ガス仕入価額に関する本件課税処分の実体上の違法事由の存否について(争点1(一))

1  証拠(甲二ないし九、一〇ないし一二の各1、2、一三及び一四の各1ないし3、三〇の1ないし4、三一、三二及び三三の各1、2、三四の1ないし24、三五、三六、五四ないし五六の各1ないし3、五七、五八ないし六二の各1ないし4、六三、六五ないし六九、七四、八七ないし九一の各1ないし3、乙九の1ないし3、一〇の1ないし5、一七、一八、二五、二六の1ないし3、二七、二九の1ないし11、三〇ないし三三)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、甲第六八及び第六九号証の供述記載のうち、右認定に反する部分は採用できない。

(一) 原告と昭和電工(当時は昭和油化株式会社)は、昭和五三年八月二二日、副生ガスの需給に関する基本契約(覚書)を締結した。原告と昭和電工は、右覚書に基づき、同年一一月二八日、副生ガスの売買契約を締結するとともに(副生ガスの量及び仕入価額(単価、以下同じ)については、別途協定書によるものとされている。)、右売買の細目について、覚書と題する書面を作成した。そして、仕入価額については、同日付けで、一〇〇〇キロカロリー当たり三円五銭とする旨の協定書が作成された。

(二) 本件の副生ガスは、昭和電工が大型の石油化学プラントを使用してナフサを原料にエチレンやプロピレンを製造する過程で発生する副産物(一種の残滓ガス)であり、昭和電工にとっては、無価値なものである。本件の副生ガスは、水素とメタンを主成分とするものであるが、関東地区や大阪地区にある石油化学コンビナートでは、この副生ガスを都市ガスの原料として都市ガス会社に売却していた。そこで、昭和電工は、原告に対し、副生ガスを供給するためのパイプラインを昭和電工側が敷設することまで提案するなどして、副生ガスの購入を懇請した結果、前記売買契約が締結された。なお、昭和電工の副生ガスの供給先は原告に限られており、原告は独占的需要者ともいうべき立場にあった。

(三) 昭和電工は、毎年、副生ガスの料金についてガス事業法二四条所定の通商産業大臣の認可を受けなければならない。右料金の認可申請において、形式的には、ナフサ等の原料費、労務費等の製造原価及び一般管理費等の原価計算資料等を基にした、いわゆる積上原価方式により算定した価格で認可申請を行っていた。しかし、そもそも副生ガスは、昭和電工にとって副産物であってその製造を目的とした製品ではないのであるから、元来、原価計算をすべきものではなく、右原価計算の実態は、原告と相談して設定した価格が昭和電工の原価計算の基準範囲に入っているかどうか(基準内であれば、それをもって認可申請価格とする。)を検証するというものであった。そして、右価格設定については、前記(二)の事情を背景として、原告がその主導権を握っていたため、原告の要求する価格が、前記検証を経て、そのまま昭和電工の認可申請価格になっており、原告は、国内の流通段階における卸価格としては最高水準にある最終卸価格の指標である日経マンスリー(日本経済新聞に掲載されている月単位の相場価格)のブタンガス(都市ガスの原材料として一般的に使用されている。)価格を参考にして、右価格を決めていた。

(四) 原告と昭和電工との間では、副生ガスの取引開始当時から、前記認可価格による取引を行い、原告は昭和電工に対し、その代金を支払ってきた。しかし、右認可価格と、都市ガスの原料ガスの実勢価格との間に価格差が生ずることが多く、このような場合、原告と昭和電工との間では、右認可価格を新たに修正した価格を取引価格とし、右認可価格との差額を現金で精算する旨の覚書をその都度取り交わす方法が、別表3記載のとおり、継続的に行われてきた。右精算に際しては、九州最大手のガス会社であり、九州地区におけるプライスリーダーであるとされる西部ガスのブタンガス仕入価格より一円低い価格を基本とするとともに、ブタンガスと副生ガスとは熱量(カロリー)が異なることから、右価格に熱量換算したものを取引価格として算定する方法を採っていた。

ところで、別表3記載のとおり、常に、精算金の支払を受けていたのは原告である上、特に、昭和六三年三月期については同年四月一九日、平成元年三月期については同年五月一二日、平成二年三月期については同年二月八日及び同年八月一七日、平成三年三月期については同年一〇月二二日にそれぞれ第一回目の精算が行われ(以下、この各第一回目の精算をそれぞれ「第一次精算」という。)、各第一次精算の精算率が、昭和六三年三月期及び平成元年三月期がいずれも五七・三一パーセント、平成二年三月期が五八・〇五パーセントから六六・八九パーセント、平成三年三月期が三六・二二パーセントから五一・四七パーセントと相当に高率であり、しかも、これまで、ほぼ原告の要求額どおりに精算が行われてきた。このため、昭和電工は原告に対し、何度か善処方を申し入れたが、その結果、平成三年一〇月以降は、西部ガスの取引価格を基準とするのでなく、大蔵省が発表する輸入通関実績を基準とした価格を最終価格とするようになった。

(五) 他方、昭和電工は、会計処理上、まず、認可価格を基に売上を計上するが、同価格は、後に原告との合意により修正を受ける仮価格であるとの認識の下に、いったん、新聞や業界誌等から収集した各種情報に基づいて、西部ガスの取引価格に近い額を見積って売上引当金を計上し、最終的には、前記(四)のとおり、西部ガスの取引価格から一円を減額した価格を取引価格とし、右引当金を取り崩して原告に支払う方法により精算処理していた。

2  前記1の認定事実によれば、本件の副生ガスは、昭和電工には無価値な副産物であることから、その価格は、通常の商品の売買価格と同様に考えることはできない上、昭和電工にとって、副生ガスの供給先は原告だけであったことから、通商産業大臣の認可を受けるべき副生ガスの料金の認可申請価格を設定する際にも原告が主導権を握り、高水準の価格を維持する一方、その後の精算においても、昭和電工は原告に対し、とりわけ昭和六三年三月期から平成三年三月期までの取引につき、前記1(四)認定のとおり、相当に高率の精算金を支払い、昭和電工自身も、右認可価格が仮価格であることを前提とした会計処理をしていたのであるから、少なくとも昭和六三年三月期から平成三年三月期までの取引価格について、ガス事業法上の認可価格をもって、法二二条三項一号の「売上原価」と評価するのは相当でない。

3  そこで、本件課税処分において、原告の本件副生ガス仕入価額を原告の売上原価となるべき原告の仕入価額としてはこれを否認し、これに代わる仕入価額を認定した点の法的根拠について検討する。

「法人税の課税標準は、各事業年度の所得の金額とする。」(法二一条)とされ、右所得金額は、「当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。」(法二二条一項)とされていることから、損益法の企業会計の下では、的確な期間損益の把握が不可欠であり、発生したすべての費用は、収益との対応関係において同一の会計年度に計上されなければならない(費用収益対応の原則)。このことは、「当該事業年度の収益に係る売上原価」等(法二二条三項一号)は、「当該事業年度の損金の額に算入すべき金額」(同条三項本文)として規定されている。右のような期間損益計算の基本原則からすれば、「当該事業年度の収益に係る売上原価」等の額が当該事業年度終了の日までに確定していない場合には、同日の現況によりその金額を適正に見積もらなくてはならず、法人税法基本通達二―二―一(乙二四)は、右趣旨に基づくものであると解される。また、右売上原価等の額は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算される」(法二二条四項)ものであるところ、右「会計処理の基準」としては、企業会計原則、企業会計原則注解(乙二二)、原価計算基準(乙一九)をそれぞれ考慮するのが相当である。ところで、原価計算基準によれば、「原価計算は、原則として実際原価を計算する。この場合、実際原価を計算することは、必ずしも原価を取得価格をもって計算することを意味しないで、予定価格等をもって計算することもできる。」(同基準六(一)2)のであり、「実際原価は、厳密には実際の取得価格をもって計算した原価の実際発生額であるが、原価を予定価格等をもって計算しても、消費量を実際によって計算する限り、それは実際原価の計算である。ここに予定価格とは、将来の一定期間における実際の取得価格を予想することによって定めた価格をいう。」(同基準四(一)1)とされている。そして、予定価格と「原価の実際発生額との差異は、これを財務会計上適正に処理しなければならない。」(同基準六(一)3)が、「予定価格等を適用する場合には、これをその適用される期間における実際価格にできる限り近似させ、価格差異をなるべく僅少にするよう定め」(同基準一四)、予定価格と実際発生額との差異が生じた場合においても、「材料受入価格差異は、当年度の材料の払出高と期末在高に配賦」し(同基準四七(一)2)、「予定価格等が不適当なため、比較的多額の原価差異が生ずる場合」には「当年度の売上原価と期末におけるたな卸資産に科目別に配賦する。」(同基準四七(一)3)とされている。

そうすると、本件課税処分は、認可価格である本件副生ガス仕入価額が、後に精算することを予定した仮価格であることを前提に、右原価計算基準に従い、法二二条三項により、昭和六三年三月期から平成三年三月期の各収益に対応した仕入価額を見積ったものであるから、適法である。

4  そして、前記第二の一6(一)記載のとおり、被告は、西日本地域における原告と同業種の法人五社のブタンガス仕入価額のうち最も高額な仕入価額を基に一定の算式により算出した額をもって本件副生ガス仕入価額を見積もっているが、その見積方法及び後記二3認定のとおり右見積額が第一次精算額よりも高額であることに照らせば、右見積りは適正であると認められる。

5  以上によれば、本件課税処分が、本件副生ガス仕入価額を売上原価としては未確定な仮価格であると認定した上、副生ガスの前記認可価格の損金算入を否認して、これに代わる仕入価額を認定した点に実体上の違法はない。

二  本件副生ガス仕入価額に関する本件課税処分の手続上の違法事由の存否について(争点1(二))

1  税務署長は、「法人の帳簿書類を調査し、その調査により当該課税標準又は欠損金額の計算に誤りがあると認められる場合に限り」、青色申告に対する更正を行うことができるが(法一三〇条一項)、その場合でも、青色申告については、一定の帳簿書類を備え付け、それにすべての取引を記録し、かつそれを保存している者にのみ認められることから、右申告に高い信頼性を与えられているため、推計課税は認められていない(法一三一条)。

ところで、課税所得金額を決める場合、本来は実額に基づいて決定されるべきであるが、納税者が実額算定の基礎となるべき帳簿書類を備えていない等で実額計算が不可能である場合に、課税の公平上、その推計によって得られる所得金額が必ずしも真実の所得金額と一致するものではないことを承知の上で、資産負債増減法、比率適用法、所得率法等の方法を用いて、間接証拠に基づき直接所得金額を推計する方法が推計課税である(法一三一条)。

したがって、実額計算を行う場合は帳簿書類等に基づいてなされるのが原則であるが、実際上は、所得金額を形成する個々の取引に係る勘定科目の真実の数量・金額が必ずしも帳簿書類等に完全に反映されているとは限らないのであって、このような場合に、基本的には帳簿書類等に基づいて全体の所得金額を計算しつつ、帳簿書類等の記載が真実と異なる部分に限り、帳簿書類等の記載によるのではなく、他の資料によって個々の取引に係る勘定科目の数量・金額を見積り・推定することは、実額計算に他ならないのであって、このような場合まで、法一三一条で禁じている青色申告法人に対する推計課税に当たるということはできない。

2  そこで、本件課税処分において、西日本地域における原告と同業種の法人五社のブタンガス仕入価額を調査し、その最高価額を基に一定の算式により算出した額をもって仕入価額を認定した点が、推計課税として法一三一条に違反するか否かにつき検討するに、被告は、原告の帳簿書類等に基づく原告の申告額中、副生ガスの仕入価額についてその帳簿書類の記載(認可価額)が真実と異なることから、同仕入価額を見積もったものであるから、これは前記1で判示したように、実額計算に他ならないといえる。

なお、被告は、その仕入価額の見積方法として、原告の帳簿書類等の直接資料だけに基づいて見積りをしているのでなく、同業他社の仕入価額を調査し、その調査結果に基づいて見積りをしているが、このように青色申告法人の帳簿書類の記載が真実と異なる部分につき、真実の金額を見積り・推定する場合には、前記1で判示したように、必ずしも当該青色申告法人の帳簿書類等の直接資料だけに基づいて見積りをしなければ推計課税に当たるということはできない。

3  以上のとおり、被告が副生ガスの仕入価額を認定した点は法一三一条にいう推計課税に当たらないと解するが、仮に、同業他社の仕入価額を調査し、その調査結果に基づいて見積りをした方法が、原告の帳簿書類等の直接資料に基づかない見積りであるとする点から、右結論に疑義があるとしても、本件においては、法人税の課税標準の要素である損金の額を構成する副生ガスの仕入価額(売上原価)については、前判示のとおり、原告がその備付帳簿に基づき申告した額(認可価格)によることができないものである以上、「課税標準又は欠損金額の計算に誤りがあると認められる場合」に当たり、その青色申告に対する更正を行うことができることはいうまでもない。

そして、本件副生ガスの仕入代金額は、その単価である仕入価格とその数量によって定まるところ、本件課税処分も、右数量については、原告の備付帳簿記載の数値に依拠しながら、その単価(仕入価格)についてのみ、原告主張の認可価格によることができないとして、これを否認したものにとどまる(弁論の全趣旨)。

ところで、原告は、本件副生ガスの取引につき、当初、昭和電工に対し、認可価格によりその代金をいったん支払いながら、その後改めて仕入価格(精算価額)を定めて、その差額の精算を行っているが、精算価額は常に認可価額よりも低額であり(したがって、常に昭和電工から原告に対して精算金が支払われることになる。)、その額の決定は、双方当事者の任意の合意によって定まる一般の取引の場合とは異なり、専ら原告の判断にゆだねられており、実際上も、原告が、九州地区のプライスリーダーとして最も低額でブタンガスを仕入れている西部ガスの仕入価額よりも一円だけ低い額を基本とした上、これを熱量換算したものを第一次精算価額として定めているのである。加えて、前判示のとおり、昭和電工が後日の精算に備えて売上引当金を計上していることをも考慮すると、昭和六三年三月期から平成三年三月期の仕入価額については、遅くとも各当該事業年度末において、各第一次精算の価額を算出、確定することが可能であったものと推認することができる。現に、証拠(乙五ないし七、三一、三二、三四、三五)に弁論の全趣旨を総合すると、原告の税務調査を担当した別府税務署所属職員も、原告の備付帳簿等の調査を行った結果、これと同様の認識、理解をした上、右第一次精算価額をもって副生ガスの仕入価額とすべきものと判断したが、原告の反対にあったことから、慎重を期する意味で第一次精算価額を前提としながら、原告による仕入価額決定のメカニズムを踏襲した上、原告にとって不利にならないようにするため、熊本国税局、福岡国税局、高松国税局及び広島国税局の各管内から、原告と同業種で、かつ、同規模の法人五社を抽出し、そのブタンガスの仕入価額(ただし、精算後価額)のうち最も高額なものについて熱量換算した価額(同価額は右第一次精算価額よりも高額である。)を算出し、結果として、被告が、これを原告の仕入価額として本件課税処分をしたものであることが認められる。

以上のとおりの被告による仕入価額認定の経緯、とりわけ、原告による精算価額決定のメカニズム及び被告においてその手法を踏襲したものであること等を考慮すると、被告による本件仕入価額の認定は、原告の備付帳簿に基づく実額である第一次精算価額を前提にしながら、その範囲内(第一次精算価額を下回らない範囲内)において原告の適正な仕入価額を算出したものであって、実額についての推認の域を出るものではなく、法一三一条が禁止する推計には当たらないものというべきである。ただし、確かに、被告の認定に係る仕入価額は、原告の備付資料の数値に直接依拠するものではない点で一種の擬制によるものといわざるを得ないが、もともと本件精算価額それ自体が、当事者双方の自由な交渉に基づき又はその相互の意思の反映として個別具体的に決定される性質のものではなく、実質上、原告の判断による一種の擬制に基づくものである一方で、被告の認定に係る仕入価額算出の方法も、これを算出するために採用したブタンガスの取引業者自体は異なるものの、原告の価額決定のそれに準拠したものである上、このようにして算出された価額を先験的に原告の仕入価額とするものでなく、これが原告の備付帳簿に基づく実額である第一次精算価額を下回ることがないように右業者中最高額の仕入価額の者を選定しており、少なくとも片面的には右実額に基づいているのであって、結局、全体として、実額から離れることはないからである。

4  よって、いずれにしても、本件副生ガス仕入価額に関する本件課税処分の認定に原告主張の手続上の違法事由があるということはできない。

三  本件ブタンガス仕入価額に関する課税処分の実体上の違法事由の存否について(争点2(一))

1  証拠(甲一六ないし一八、一九ないし二三の各1、2、二四、二五、二六の1、2、二七ないし二九、四二、四三、七一、乙一二ないし一六、二〇、二一、二三、二八、三一、三二)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 別大興産の役員は、原告の代表取締役である福島親比古を初めとする原告の役員で構成されており、別大興産の売上先は原告一社のみである。また、別大興産には、事務処理を行う専従の社員はおらず、専用の事務室もなく、原告の取締役である福島博明が別大興産の経営費任者を兼ねている。

(二) 原告は、別大興産のほか、二豊液化ガス協同組合、新光商事株式会社、丸紅エネルギー株式会社(以下、後三者を総称して「二豊液化ガス外二社」という。)からもブタンガスを継続的に仕入れ、これを都市ガスの原材料として使用しているが、その仕入数量の約九割は別大興産からのものである。また、別大興産のブタンガスの主な仕入先である東洋瓦斯株式会社(以下「東洋瓦斯」という。)については、その株式の五〇パーセントを原告が保有し、その代表取締役(社長)は原告の代表取締役(社長)福島親比古で、他の役員にも原告の役員である福島博明らが含まれている。

(三) 原告が、別大興産及び二豊液化ガス外二社から、ブタンガスを仕入れるに当たっては、まず、当事者間で適宜設定(改定)した仕入単価に基づき、毎月、供給量に応じた代金を支払うが、右支払後、適宜過去に遡って精算の合意を行い、精算金の決済を行っていた(以下、精算後の単価を「精算後価額」という。)。

(四) 原告と二豊液化ガス外二社の間においては、昭和六二年四月分から昭和六三年三月分までの仕入につき同年七月五日付けでそれぞれ精算の合意を行っている。また、別大興産とその仕入先である東洋瓦斯との間においても、昭和六二年四月分から昭和六三年三月分までの仕入につき同年六月三〇日付けで精算の合意を行っている。これに対して、原告と別大興産の間においては、昭和六三年一月分から昭和六三年八月分までの仕入につき昭和六三年九月三〇日付けで精算の合意を行っているに過ぎない。

(五) 昭和六三年三月期における原告のブタンガス一キログラム当たりの仕入価額は、別表4のとおりであり、精算後価額では、二豊液化ガス外二社からの仕入価額相互間の価格差が一円以内であるのに対し、別大興産からの仕入価額と二豊液化ガス外二社からの仕入価額との間には八円五〇銭ないし二二円の価格差がある。

2  まず、本件ブタンガス仕入価額が適正価額であったか否かにつき検討するに、前記1で認定したところによれば、役員構成等からみて別大興産が原告の関連会社であることは明らかであるところ、原告の別大興産以外のブタンガス仕入先である二豊ガス外二社と原告との間では、ブタンガスの仕入に伴う前記精算の合意の程度及び精算後価額の点で極めて大きな差異が存在し、その結果、別大興産が二豊ガス外二社と比較して極めて有利な取引条件でブタンガスを原告に納入していることになる(逆にいえば、原告が二豊ガス外二社から仕入れるよりも相当割高な原料ガスをわざわざ関連会社である別大興産から仕入れていることになる。)が、これが経済的合理性に反することは明らかであり、原告が別大興産との間で、このように不自然な取引をしたのは、原料ガスの仕入価額を高めに設定することにより、原告の利益を関連会社である別大興産との間で分散させ、これによって原告の課税所得額を減少させる手段の一環であったと解される。したがって、本件ブタンガス仕入価額が適正であったとは解されない。

3  そして、前記第二の一6(二)記載のとおり、被告は、西日本地域における原告と同業種の法人五社のブタンガス仕入価額のうち最も高額な仕入価額をもって適正価額と認定しているが、その認定方法に照らせば、被告の右認定額は相当であると認められる。

4  そこで、原告の別大興産からのブタンガス仕入価額のうち適正価額を超える部分を寄付金と認定した点の法的根拠について検討する。

法三七条の寄付金には、その最も典型的な形態である金銭の無償の給付の他にも様々な形態があり得ることから、まず、同条六項において、「いずれの名義をもってするかを問わず」、対価性のない「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」を寄付金として扱う旨規定している。また、同条七項において、対価性のある「資産の譲渡又は経済的利益の供与」についても、その「対価」と「譲渡の時における価額」又は「供与の時における価額」との間に差がある場合には、その「差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額」が寄付金の額に含まれると定め、寄付金に該当する利益供与の形態と損金に算入されない寄付金の範囲を明らかにしており、同条七項は同条六項の内容を補完し、実質的には同項の一部を構成しているものと解される。したがって、形式的にみる限り、法三七条七項はいわゆる資産の低額譲渡について定めているものの、一般的に寄付がその前提としている贈与は、自己の損失において他者に利益を与える法律行為であるから、低額譲渡といわゆる高額譲受とではその利益の内容について前者は財産権であり、後者は金銭であるという違いはあるものの、経済的利益である点で両者は共通のものであって、これを区別する理由は存しないので、同条六項により、右部分は寄付金と認定するのが相当である。ところで、同条七項によれば、資産の低額譲渡の場合であっても、時価との差額が当然に同条六項の寄付金の額に含まれるものとされるのではなく、右差額のうち「実質的に贈与したと認められる金額」に限られているのであり、このことは資産の高額譲受けの場合も同様と解されるところ、「実質的に贈与したと認められる」ためには、当該取引に伴う経済的な効果が贈与と同視できるものであれば足りるのであって、必ずしも譲渡者が贈与の意思を有していたことを必要とせず、また、時価との差額を認識していたことも必要としないと解すべきである。この点につき、原告は、前記2で判示したとおり、本件ブタンガス仕入価額を高めに設定することにより、原告の利益を同族会社である別大興産との間で分散させ、これによって原告の課税所得額を減少させていたのであるから、本件ブタンガス仕入価額のうち、適正価額を超える部分については、原告の別大興産に対する贈与と同視できるものであったというべきである。

したがって、本件ブタンガス仕入価額のうち適正価額を超える部分を別大興産に対する寄付金であると認定した上、寄付金の損金算入限度額を超える部分の損金算入を否認して所得金額に加算した本件課税処分に、実体上の違法はない。

四  本件ブタンガス仕入価額に関する課税処分の手続上の違法事由の存否について(争点2(二))

本件課税処分は、別大興産からのブタンガスの仕入価額のうち、適正価額を超える部分を同社に対する実質的な贈与と認定しているところ、右適正価額の認定に当たっては、昭和電工からの副生ガスの仕入価額の見積りの際と同様に、原告の帳簿書類等に基づく原告の申告額中、別大興産からのブタンガスの仕入価額についての帳簿書類の記載が適正価額ではないことから、西日本地域における原告と同業種の法人五社のブタンガス仕入価額を調査し、その最高価額によって適正価額を認定したものである。したがって、本件課税処分は、前記二で判示したのと同様に、法一三一条の推計課税に該当するとは解されない。

第四結論

よって、原告の本訴請求は理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成一二年一月二四日)

(裁判長裁判官 一志泰滋 裁判官 脇博人 裁判官 小松本卓)

別表1

法人税

<省略>

別表2

更正処分内訳表

<省略>

別表3

副生ガスの精算

<省略>

別表4

<省略>

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