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大分地方裁判所 平成8年(ヨ)38号 決定 1997年3月19日

債権者

吉田末彦

右代理人弁護士

柴田圭一

(他二名)

債務者

大分鉱業株式会社

右代表者代表取締役

古川泰臣

右代理人弁護士

岩崎哲朗

三井嘉雄

原口祥彦

主文

一  本件申立てをいずれも却下する。

二  申立て費用は債権者の負担とする。

事実及び理由

第一申立ての趣旨

一  債権者が、債務者に対し、雇傭契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二  債務者は、債権者に対し、平成八年三月一日以降、本案判決確定に至るまで、毎月二五日限り、金五四万〇七八八円を仮に支払え。

第二事案の概要

本件は、債務者が、平成八年二月二八日にした、債権者を懲戒解雇処分にする旨の意思表示が無効であるとして、債権者が債務者に対し、雇傭契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成八年三月一日以降、本案判決確定に至るまで、毎月二五日限り、金五四万〇七八八円の仮払を求めるものである。

一  争いのない事実

1  債務者は、昭和二九年一二月一日に設立された石灰石の採掘及び販売を主たる目的とする株式会社である。

2  債権者は、昭和三八年二月一八日、債務者に雇用され、後記のとおり、懲戒解雇処分を受けるまで、債務者に勤務してきた。

3  債務者には、全国一般労働組合大分地方本部津久見支部大分鉱業分会(以下「組合」という)があり、債権者は、昭和五〇年から書記長を、昭和六三年一二月から平成八年三月一日までの間、分会長をつとめていたものである。

4  債務者は、債権者に対し、平成八年二月二八日、懲戒解雇処分とする旨の意思表示をした(以下「本件懲戒解雇」という)。

二  争点

1  本件懲戒解雇につき、解雇理由が存在するか否か。本件懲戒解雇は解雇権の濫用か否か。(争点1)

(債務者の主張)

債権者には、以下の行為が存在し、これらの行為は、就業規則の賞罰規程及び労働協約の組合員賞罰規程に定められた懲戒解雇事由に該当する。

(一) 灯籠代金二〇万円の売上未計上及び債務者に入金しなかった件

債権者が、大西一生(以下「大西」という)に対し、債務者所有の灯籠一基を金二〇万円で売却した際、その旨の平成七年二月二三日付け領収書を発行しているにもかかわらず、受領した代金を債務者に入金せずに着服した。しかも、債務者は、債権者に対し、平成七年九月上旬、右領収書控えが綴ってある領収書綴りの未使用分を返還するように求めたところ、債権者は、真実は返還していないにもかかわらず、既に返還した旨虚偽の事実を報告した。さらに、債務者は、債権者に対し、同年一一月二日、右灯籠代金の件で事実を確認したところ、債権者は、領収書を出した覚えはない旨虚偽の報告をした。債権者の右行為は、就業規則及び労働協約の各賞罰規程(以下、これらを一括して単に「賞罰規程」という)四条七号の「会社における職務上の地位を利用して不当に金品その他の利益を受領または供与し、もしくはせしめた者」に該当するとともに、同五条七号の「業務その他の事項に関し、会社に対する申告または報告につき、虚偽のあった者」に該当する。

(二) 箱庭、大型テーブルの無断社外持出しの件

債務者は、石材製品加工部門を閉鎖するに当たり、製品在庫リストを作成するように債権者に指示したが、同人が作成したリストの中には箱庭と大型テーブルの記載がされていなかった。そこで、債務者は、債権者に対し、平成七年一一月二日、事情を聞いたところ、債権者から、末広石材店こと工藤末博(以下「末広石材店」という)に預けている旨の説明を受けた。右行為は、無断搬出行為であり、搬出した事情等につき、債権者から何ら合理的な説明はない。債権者の右行為は、賞罰規程四条七号「会社における職務上の地位を利用して不当に金品その他の利益を受領または供与し、もしくはせしめた者」、同五条七号の「業務その他の事項に関し、会社に対する申告または報告につき虚偽のあった者」及び同六条一号の「不正に会社の金品を持ち出し、または私用に供しようとした者」に該当する。

(三) 長期滞留売掛金の調査及び回収の指示に対する報告の件

債務者は、石材製品加工部門の閉鎖に伴い、平成七年五月三一日開催の拡大営業会議の席上、債権者に対し、同部門の未回収売掛金を完全に回収するように指示した。これに対し、債権者は、同年七月四日開催の拡大営業会議において、未回収売掛金は全て回収が終わった旨報告した。ところが、経理課の調査の結果、同年七月中旬、未回収債権が合計五件あることが判明し、そのうち、末広石材店に対する三件の分については、いずれも同年八月九日、入金となったが、稲葉邸についての工事代金二件分合計二五万七五〇〇円(平成六年六月請求分と平成七年二月追加工事未請求分)については、入金のないままであり、債権者に説明を求めたが、同人からは説明はないままであった。債務者は、稲葉に対して、直接、事情を聴取したところ、同人は、工事施工の不良箇所を具体的に指摘し、苦情を申し立てた。このため、債務者の社長古川泰臣(以下「古川社長」という)は、稲葉と話し合い、債務者が不良部分を負担することで決着を図った。債権者からは、かかる顧客とのトラブルの発生につき、全く報告がなく、また、末広石材店に対する売掛金債権は、平成六年九月及び一〇月分であり、長期間、この債権を放置していた事実は、前記(二)及び後記(七)の件と同様、末広石材店や自己の利益を得ようとしたものであると認められる。債権者の右行為は、賞罰規程四条七号の「会社における職務上の地位を利用して不当に金品その他の利益を受領または供与し、もしくはせしめた者」、同五条七号の「業務その他の事項に関し、会社に対する申告または報告につき虚偽のあった者」及び同六条二号の「職務怠慢で勤務成績不良の者」に該当する。

(四) 機械設備解体移設費用の未請求の件

石材製品加工業務は、平成七年八月末日をもって終了したが、債権者が、末広石材店に同業務承継の話をし、その了解を取り付けていると説明したため、債務者は、右石材店に事業承継の依頼をすることになり、債権者が右石材店の引継ぎ条件についての意見を確認したことを前提として、「製品加工業務の廃止に関する確認書」(書証略、以下「確認書」という)を締結した。同確認書によれば、設備の解体移設費用は末広石材店が負担することとなっているところ、債権者は、同費用のうち、クレーン使用料二件九万一〇〇〇円につき、債務者が支払ったまま、末広石材店に負担させず、何らの許可もなく、債務者の同店に対する立替金債権を免除した。債権者の右行為は、賞罰規程四条七号の「会社における職務上の地位を利用して不当に金品その他の利益を受領または供与し、もしくはせしめた者」、及び同四条一一号の「職権を著しく乱用した者」に該当する。

(五) 時松邸塀代金未請求の件と同未請求代金を末広石材店の作業賃と相殺したと説明した件

平成七年六月末日ころ、石工事の顧客である時松に対する五九万四〇〇〇円の未請求売上げがあることが判明したため、債務者は、債権者に対し、同年七月中旬ころ、説明を求めたところ、同人は、債務者の商品(石)納入が遅れたため、時松は、自分のところで予定していた左官を使用できなくなり、末広石材店に工事をさせたが、当初の見積りより、基礎工事等の工賃が大幅に増えたため、右石材店が大幅な赤字となり、その穴埋めをするために、債務者の石代を右石材店に譲ることにして大幅な赤字を縮小させた旨説明した。すなわち、債権者が、石工事契約(請負契約)をしたが、当初の納入時期が遅れて時松からクレームがつき、相殺したというものであった。ところが、その後、債権者は、時松との契約は、石の販売だけであり、石工事の施工については契約していないとした上で、同人の都合で二度施工が延びており、施工業者として末広石材店を紹介したが、時松と右石材店との契約金額についてはあずかり知らない旨当初の説明と異なる内容の説明を行った。この説明からすれば、石の売買代金と末広石材店の債権とは、何ら関係がなく、これらを相殺する理由は全くないといわざるを得ない。債権者の右行為は、賞罰規程四条七号の「会社における職務上の地位を利用して不当に金品その他の利益を受領または供与し、もしくはせしめた者」、同四条一一号の「職権を著しく乱用した者」及び同六条二号の「職務怠慢で勤務成績不良の者」に該当する。

(六) 東急ゴルフ場池石の後始末に関する件

債権者は、大分東急ゴルフ場に販売できる見込みで生産した池石約一五〇個を販売できず、これを債務者に何ら報告することなく、吉田胃腸外科医院(以下「吉田医院」という)の敷地に置かせて貰っていた。債権者は、平成七年七月四日の拡大営業会議において、右池石を在庫リストに記載せず、報告もせず、営業部長から質問されて初めて池石が在庫としてあることを説明したため、債務者は、債権者に対し、同人において吉田医院の院長吉田正樹(以下「吉田院長」という)と会い、同人に池石を無償で進呈し、代わりにこれまでの保管料は免除して貰うように話し、その結果を同月一〇日ころまでに報告するように指示した。ところが、債権者からは、報告がなく、このため、債務者は、同月三一日に予定していた石材製品加工部門の閉鎖を延期せざるを得ず、同年八月二六日の拡大営業会議の席上、債権者に対し、何時までも放置しているのであれば、債務者が、直接吉田院長と話をする旨伝えたところ、債権者は、吉田院長とは、既に七月末までには合意してきていると答えた。七月末までに合意ができていたのならば、赤字部門である石材製品加工部門を同月末日で閉鎖することが可能であったが、結局は、同年八月三一日で閉鎖することになった。債権者の右行為は、賞罰規程五条七号の「業務その他の事項に関し、会社に対する申告または報告につき虚偽のあった者」及び同六条二号の「職務怠慢で勤務成績不良の者」に該当する。

(七) 平和公園石材納入と時間外請求の件

債権者は、佐伯市の平和公園の半球型記念碑の石材を、マルコ商事株式会社(以下「マルコ商事」という)から発注を受けた。債権者は、一旦は、これを山口美石工業株式会社(以下「山口美石工業」という)に製造させるべく発注し、同社から債務者宛の請求書を受け取った後、請求先を末広石材店に変更させ、同店に受注させた。債務者は、右石材の受注により、九〇万円以上の利益を得る予定であり、赤字続きの石材製品加工部門としては、少しでも赤字減らしを図るべきところ、債権者は、第三者である末広石材店の利益を図ったものである。さらに、債権者は、右石材製造に関し、残業までして末広石材店を応援し、債務者からは残業手当を受けている。債権者の右行為は、賞罰規程四条七号の「会社における職務上の地位を利用して不当に金品その他の利益を受領または供与し、もしくはせしめた者」及び同四条一一号の「職権を著しく乱用した者」に該当する。

(債権者の主張)

本件懲戒解雇は、理由が存在しなかったり、外形的には存在したとしても、懲戒解雇に相当しないものばかりで、明らかに解決済みの問題をことさら債権者を懲戒解雇するためにこじつけているものであって、懲戒解雇権の濫用にあたり、他の点を判断するまでもなく、無効である。

(一) 灯籠代金二〇万円の売上未計上及び債務者に入金しなかった件

(1) 右灯籠一基は、昭和六二年ころ、債権者ら組合員がレイオフ期間中に始めた石材製品加工業務の一環として、苦心を重ねて作った作品の一つであり、債権者らいわゆる「開発グループ」(石材製品加工業務を行ってきた組合員)の所有であって、最後まで同グループに残った債権者、薬師寺及び山田勇治の共有であり、その後、右業務が債務者に引き継がれた昭和六三年後半時点においても、右灯籠の所有権は、債務者には引き継がれてはいない。このように、右灯籠は、もともと債務者の所有物といえるものではなく、右開発グループの所有物といえる物である。また、右灯籠一基を大西に売却したのは、平成七年一月ころ、営業課長代理の久保田裕(以下「久保田」という)からの申入れに基づくものである。右売却代金二〇万円は、初期のころ、右灯籠等の石材加工製品を作る際に、その製作指導や製作に尽力してくれた末広石材店に、その謝礼という意味で代金受領の翌日に渡している。末広石材店は、確認書により、債務者から石材の加工製品のメンテナンスを引き継ぐに際し、機械設備一式を五〇万円という安価で譲り受けることになったことに対する謝礼という意味で、古川社長に対し、灯籠代金二〇万円の中から一〇万円の商品券及びウイスキーを寄贈した他、石材製品加工業務の解散会の際にも金一封を寄付し、また、右社長に対し、鍾乳石の置物(約二八万円)も寄贈している。したがって、代金二〇万円を債務者に納めなかったことが、賞罰規程四条七号に該当することにはならない。

(2) 次に、債権者は、平成七年一一月二日、右灯籠代金の未入金の件で事情を聴かれて、大分鉱山所長兼管理部長南平忠敏(以下「南平所長」という)に対し、「領収証は出した覚えがない。一〇か月も前のことであるし、記憶がない」と答えたが、これは、債権者の当時の記憶としては正しいものであり、何ら虚偽の報告をしたものではない。また、債権者は、同年九月上旬、未使用の領収書綴りを当時の大分鉱山副所長兼事務長田中誠(以下「田中事務長」という)に、既に戻したとは言っておらず、同年九月初め、石材製品加工業務の閉鎖に伴い、引継先のない書類とともに、右領収書綴りを焼却して処分してしまったので、「処分した」と述べたものである。したがって、これらの点は、賞罰規程五条七号に該当しないし、そもそも、同規程五条は、出勤停止の規定であり、それだけでは懲戒解雇の理由とはなり得ない。

(二) 箱庭、大型テーブルの無断社外持出しの件

(1) 債権者が、右箱庭及び大型テーブルを末広石材店に預けたのは、古川社長が、債権者に対し、親会社の監査があるので、平成七年六月中に石材製品加工業務の石材製品及び設備一切を片づけて空にすると同時に、債務者施設内にこれらを置かないように指示したため、債権者が、末広石材店に無理を言って、同月中に預かって貰ったものである。箱庭も大型テーブルも重量があり、大型の一〇トンフォークリフト等がなければ移動できないことから、これらの機械を保有している末広石材店に預かってもらうことにしたものであって、箱庭には、植木が植えられており、水をやらなければならないこともあって、人手のある右石材店に水やりも頼んだ。したがって、債権者は、古川社長の指示で箱庭と大型テーブルを持ち出したものであって、無断で持ち出したものではなく、賞罰規程四条七号及び六条一号には該当しない。そもそも、同規程六条は、譴責の規定であり、それだけでは懲戒解雇の理由とはなり得ない。

(2) 次に、債務者は、債権者に対し、製品在庫リストの作成を指示した旨主張するが、かかる事実はない。古川社長が、同リストの作成を指示したのは、むしろ大鉱興産有限会社(以下「大鉱興産」という)の薬眞寺明工場長(以下「薬眞寺」という)に対してであり、同リストに本件箱庭等が記載されていなかったことにつき、債権者には何らの責任もなく、賞罰規程五条七号には該当しないし、そもそも同規程五条は、出勤停止の規定であり、それだけでは懲戒解雇の理由とはなり得ない。

(三) 長期滞留売掛金の調査及び回収の指示に対する報告の件

債務者は、平成七年五月三一日開催の拡大営業会議の席上、債権者に対し、同部門の未回収売掛金を完全に回収するように指示し、債権者は、同年七月四日開催の拡大営業会議において、未回収売掛金は全て回収が終わったと報告した旨主張するが、かかる事実は存在しない。末広石材店に対し、債務者が主張する売掛債権があったことは間違いないが、同店は、支払に関する不安は全くなかった。債権者は、同店に適宜請求書を送付し、これを受領した同店から、債権者に対して支払期日の連絡があり、この連絡に基づき、集金してきたのであって、前記売掛債権についても、これまでと同じ方法により、平成七年八月九日、回収したものである。債権者が、債務者から、回収を指示されたこともないし、右回収についても、債務者は全く関与していない。稲葉に対する売掛金は、石の売買代金(但し、浴室については、石の据付までを含む)であって、全て契約内容どおりに履行されたものであり、また、債務者の主張する平成七年二月分(追加工事)は、当初納入した笠木石をより幅の広いものに取り替えて欲しいとの稲葉の要求に応じたものであるから、そもそも請求できないものであった。債務者の主張によれば、稲葉が不良箇所を指摘したとのことであるが、これらの指摘はいずれも理由がなく、難癖をつけるに等しい。債権者は、同年九月から、技術課保安係に勤務するようになって間もなく、古川社長に対し、請求書綴りの附箋を付けた稲葉に対する請求書控を示し、この分が回収されていないことを説明し、同綴りを渡した。したがって、債権者が、同年七月四日、全部回収したなどと報告するはずはないし、ことさら虚偽の報告をしなければならない必要も全くない。むしろ、稲葉との決着に際し、同人の言い分に理由があるか否かを検討することなしに、一方的にその要求を容れ、債権を放棄した債務者の背信性こそ問題である。債権者には、賞罰規程四条七号、同五条七号及び六条二号に該当する行為はないし、そもそも、同規程五条及び六条の規定は、いずれも、それだけでは懲戒解雇の理由とはなり得ない。

(四) 機械設備解体移設費用の未請求の件

確認書が締結されたのは、平成六年一一月一七日であったが、右書面によれば、債務者が三五〇〇万円以上投資した設備を無償で末広石材店に譲渡し、解体設備費用は同店で負担するが、債務者が可能な限り協力を行うとなっていた。ところが、その後、末広石材店は、債務者に対し、せめて五〇万円を支払いたい旨申し入れ、債務者もこれを承諾し、機械設備一式をスクラップ名目で売却することとし、平成七年三月三一日、同店は、債務者に五〇万円を支払い、これにより、機械設備類の所有権は同店に移った。設備の解体作業のために、クレーン作業(代金九万一〇〇〇円)を、有限会社平山商店(以下「平山商店」という)に発注したが、同商店は解体したスクラップを五万二九〇一円で買い取り、同年六月二日ころ、これを債務者に支払い、債務者はこれを受領した。しかし、右スクラップは債務者が末広石材店に売却したものであり、債務者には所有権はなく、債務者がこれを平山商店に売却して代金を受領したことは違法である。石材製品加工業務の末広石材店への引継は、無償で譲渡するとの当初の前提が、その後、五〇万円による有償譲渡へと変更された。さらに、債務者がスクラップの一部を平山商店に売却した代金を前記クレーン作業代から差し引くと、残額は三万八〇九九円となる。無償譲渡の場合も、解体設備費用は、一応同店の負担となっているものの、これに関して債務者が可能な限り協力して行うことになっており、また、古川社長は、石材製品加工業務の廃止に関する諸々のことは債権者に任せる旨公言し、債権者は、これに従って行ってきた。かかる事情から、債権者は、末広石材店が、クレーン作業代金をはるかに上回る金を支払ったことから、クレーン作業代実質三万八〇九九円を同店に負担させることはできず、また、負担させないことは可能な限りの協力の範囲内に含まれると考えて請求しなかった。したがって、債権者の右行為は、賞罰規程四条七号及び四条一号に該当しない。

(五) 時松邸塀代金未請求の件と同未請求代金を末広石材店の作業賃と相殺したと説明した件

時松から、平成六年一〇月ころ、家屋を新築するので、石灰石で塀を作って欲しい旨依頼があったが、当時、債務者は、石材製品加工業務閉鎖の議論をしている時でもあり、右依頼を断った。しかし、時松から、塀の工事は平成七年一月に行う予定であり、是非頼みたいと言われたことから、製作部門(大鉱興産)と打合わせた結果、以前、板井邸の時に塀石を切った残りの石があり、大半をそれで賄うことができるとの返答を得た。そこで、右事業閉鎖に支障はないと考え、運賃込みの石材価格五九万四〇〇〇円の見積書を作成して、平成六年一一月ころ、時松に送付し、そのころ、同人との間において、同金額にて売買契約を締結した。もっとも、時松の依頼は、塀の工事も含んでおり、債権者も工事を施工するつもりであり、工事金額は、後日見積りの上で契約することとなった。ところが、時松の都合により、塀の工事は平成七年三月以降となり、石材製品加工業務は同年三月末日をもって閉鎖することになっていたことから、塀の工事が同年四月以降にずれ込むと不可能になり、かといって、一度契約しながら、解約すれば債務者の名に汚点を残すことになりかねないと考えた債権者は、塀の設置工事を他の業者にして貰うことを考え、末広石材店に打診し、同店の承諾を得た。ところが、同店の工事の概算額は約九〇万円であり、これに前記石材代金を加算すると、時松の負担は過大となるため、準備した石材が時松邸に使用されなければ、価値がなくなり、しかも、右石材は、板井邸で使用した石材の余りが大半を占めていたことから、前記石材金額を放棄したとしても実質的損害は殆どなく、これにより、債務者の名に汚点を残さないで済めばそれに越したことはないと考え、石材代金を放棄し、その分、安い価格で工事をして貰うように末広石材店に話し、同店の了承を得たものである。なお、債務者の主張する債権者の債務者に対する説明の内容も事実に反する。したがって、債権者の右行為は、賞罰規程四条七号、四条一一号及び六条二号に該当しない。

(六) 東急ゴルフ場池石の後始末に関する件

債務者は、債権者が、在庫となった池石を吉田医院所有地に置いていたことを報告しなかった旨主張するが、これは全く事実に反する。当時、債務者の前社長及び採鉱係長は、吉田院長と知り合いであったことから、採鉱係長等が同院長に依頼して、吉田医院所有地に池石を置かせて貰ったものであり、債務者は、その謝礼の意味で、毎年盆暮れにお歳暮や御中元を同院長に贈り、夏になると、債務者の専属下請会社の社員を派遣して、池石を置かせて貰っている敷地の草刈りを行っている。平成七年七月四日の拡大営業会議において、池石の件が議題となったことは事実であるが、その際、債務者としては、吉田院長に借地料の代わりとして池石を無償で譲渡することで話し合いをすることになり、債務者を代表して今井総務課長や大村係長等が実際の交渉に当たり、債務者は、吉田院長との間で、同月三一日、池石を無償譲渡すること、借地料等は請求しないことを骨子とする覚書(書証略)を交わしている。以上のとおり、吉田院長との話し合いは、債務者側において行われてきたものであって、債権者は話し合いには何ら関与していない。したがって、債務者が主張している営業会議でのやりとりや債権著が報告を怠った事実は存在せず、賞罰規程五条七号及び六条二号に該当する事実はないし、そもそも、同規程五条及び六条の規定は、いずれも、それだけでは懲戒解雇の理由とはなり得ない。

(七) 平和公園石材納入と時間外請求の件

(1) 佐伯市からの発注は、マルコ商事を経由してのものであったが、同会社には技術者がいないため、技術的なことについては債権者が直接佐伯市と話し合って段取りをしていた。債権者が、製作部門(大鉱興産)と打ち合わせを行った結果、半球型記念碑の製作は困難ということであったため、山口美石工業に半球型記念碑表面未加工の半製品を発注し、表面の加工やその余の石材製品の製作は債務者において行うことにした。ところが、佐伯市の都合により、工期が平成七年四月にずれ込み、かつ、公園名が決まらず、公園名が決まった同月末ころには、半球型記念碑に公園名を刻字する刻字機が債務者にはなく、確認書の趣旨に基づき、末広石材店に工事を依頼した。したがって、山口美石工業の請求書についても、その送り先を債務者から末広石材店に変更し、再請求を求めた。半球型記念碑のマルコ商事への販売価格は一七〇万円で、山口美石工業への支払が六七万六〇〇〇円となるため、末広石材店に残る金額は一〇二万四〇〇〇円となる。しかし、山口美石工業から送られてきたものは半製品であり、その表面を注文どおりの仕様にするためには人手作業だけではできず、新たに仕上用機械を二〇万円で購入したと聞いている。したがって、右石材店の利益が不当に高いとするのは誤った主張であり、債権者において、右石材店に対し、不当に利益を与えたという事実はない。

(2) 次に、債権者は、石材製品加工部門が閉鎖された後、平和公園内の半球型記念碑の設置と完成検査が行われる際、これに立ち会ったが、その理由は、右記念碑の製作を受注した段階から、技術面等で佐伯市と話し合いをしてきた経過があり、また、確認書の趣旨に基づけば、少なくとも、設置と完成検査には立ち会う責任があるといえるからであり、そのために残業をしたものである。

(3) したがって、債権者には、賞罰規程四条七号及び四条一一号に該当する行為はない。

2  本件懲戒解雇手続は適正か否か。(争点2)

(一) 解雇協議条項が適用されるか否か。適用があるとした場合、同条項違反の有無及びその効果。

(債権者の主張)

債務者と組合とは、昭和五六年四月一日、「会社は、賃金、労働条件を変更するとき、とりわけ、労働者の解雇、希望退職募集、一時帰休などを行うときは、事前に組合と十分な協議を行う」旨の労働協約を締結し、さらに、債務者と組合とは、右労働協約等に関する事前協議を再確認する協定書を締結した。解雇協議条項の性格、効力を巡っては争いがあるものの、同条項は、会社の人事権に対する労働側の経営参加を認める制度であり、労働組合法一六条の「労働者の待遇に関する基準」として、直接、個別的に労使関係を強行的に規律する規範的効力を認める考えが定着している。債務者が本件において主張する協議は、これまでの労使協議とは全く異質なものであり、到底、労使協議といいうるものではない。したがって、債務者は、組合に対し、事前に何らの協議も行わずに本件懲戒解雇を行ったものであり、無効である。

(債務者の主張)

そもそも、本件懲戒解雇は、事前協議の対象となるものではない。債務者は、組合との労働協約により、従業員(組合員)の懲戒については、賞罰委員会で審議することを定めているが、これは、事前協議と同趣旨のもと、組合員の懲戒については、労使同数の賞罰委員会で審議することを定めたものであり、この限りで、当然懲戒解雇については、組合のいう事前協議事項ではないことが明確にされている。協定書(書証略)にいう「解雇」は、債務者の都合による解雇等賞罰委員会の対象外のケースであるといわざるを得ない。また、債務者は、債権者についての懲戒解雇事由が発覚した際、まず最初に、組合の副分会長薬師寺貞助(以下「薬師寺副分会長」という)と協議しているが、これは、解雇の対象者が分会長であったため、組合と協議する際の正式ルートを通じての協議が行われたことを示しており、債務者は、組合と協議を尽くしている。債務者は、組合と協議する一方、債権者に対し、弁明の機会を与えたが、これに対し、組合から、本件は、賞罰委員会の審議事項であるとして、同委員会の開催を主張してきた。したがって、本件懲戒解雇が解雇協議条項に反して行われた解雇であり、無効であるとの債権者の主張は失当である。

(二) 賞罰委員会の審議手続履践の有無及びその効果。

(債権者の主張)

債務者と組合との労働協約第二四条により組合員を懲戒解雇処分にするためには、同協約二七条の賞罰規程により処分を決定する必要があるところ、同規程によれば、賞罰委員会は、労使各三名を委員として、賞罰規程に該当するか否かについて、公平に審議を行うこととされている。債務者は、本件に関し、平成八年二月一三日付け賞罰委員会書記の名で、組合に対し、賞罰委員会の開催を求めてきた。組合は、これまでに、債務者に対し、賞罰委員会を開催するのであれば、賞罰委員の人選、招集手続につき、適正手続が行われるためのルールを互いに確認するための団体交渉を申し入れてきた。しかし、その話し合いが十分に行われないまま、債務者は、組合に対し、前同日、一方的に債務者の総務課長を賞罰委員会の書記とする旨定めた上、労使の賞罰委員の人選につき、「公平を期するため、委員には、当該事項関係者以外の選任を願います」として、組合側委員の人選についてまで一方的に指定した上で、同月二〇日午後一時に委員会を開催する旨の通知を行った。これに対して、組合は、債務者に対し、債務者が一方的に総務課長を書記に任命した上で同委員会開催手続をとることは、同委員会で書記を任命する旨定めた賞罰委員会規程四条に違反すること、さらに、組合側の賞罰委員の選任は、組合独自の判断で行われるものであるにもかかわらず、債務者が右選任についてまで指定したことは組合の自治権に対する重大な侵害行為であり、不当労働行為に当たる旨抗議した。しかし、債務者は、これに具体的に反論することを避け、同月二六日に第二回の賞罰委員会を開催する旨の通知を同月二三日に同委員会書記名で行った。組合は、債務者に対し、賞罰委員会の開催手続、運営については、同委員会規程七条に、「本委員会の運営について疑義のあるときは、債務者と組合は誠意をもって協議するもの」と定められており、労使の協議を十分に行うように申し入れたが、債務者は、何ら説明を行うことなく、また、賞罰委員会で審議することなく、同月二八日、債権者を懲戒解雇処分にした。賞罰委員会制度は、債務者による懲戒権の行使に組合の意向も反映させ、もって、懲戒権の行使の公平を確保し、組合の地位と利益を守ることを目的としたものであるから、懲戒権の行使に右制度の目的に反する重大な手続違反があったときは、右行使は、特段の事情がない限り、適正手続違反として無効である。前記のとおり、本件においては、解雇について労使協議も行われていないことからすれば、賞罰委員会の審議手続を履践していない本件懲戒解雇は、賞罰委員会の性格についてどの立場をとっても、無効である。

(債務者の主張)

債務者は、一貫して組合に対し、賞罰委員会の開催を求めてきたのであって、右開催を一方的に拒絶してきたのは組合の方である。そもそも、労働協約のいわゆる協議条項や賞罰委員会での審議条項といっても絶対的なものではなく、当然、労使間の信義則に基づいて解釈されるべきものであるが、本件は、組合側が信義則に違反して組合側委員を選任しなかった事案であり、債権者自らが組合の分会長であることからすれば、組合の右行為は、正に信義則違反である。すなわち、債務者は、組合に対し、平成八年一月一〇日、賞罰委員会の組合側委員の選任を要請したが、組合は、同月一二日の団体交渉の席上、賞罰委員会規程が不備であるから選任には応じられない旨主張した。このため、債務者は、再度、同月二三日の団体交渉の席上、債務者案を提示し、組合も債務者案に対する対案を出すことになったが、その後、二〇日近くの間、何ら対案は示されなかった。このため、債務者は、やむなく、同年二月一三日、現行規程により、とりあえず書記を任命し、同人の名で賞罰委員会の招集通知を発し、債務者側も関係者以外の者を人選した旨通知した上で、同月二〇日と同月二六日の二度にわたり、賞罰委員会を開催して事実関係の審議に入り、問題の解決を図った。しかも、債務者は、組合に対し、右両期日とも、事前に書面で通知している。

3  本件懲戒解雇が組合の弱体化、壊滅を狙った不当労働行為に該当するか否か。(争点3)

(債権者の主張)

本件懲戒解雇は、以下に述べるとおり、組合の弱体化、壊滅を狙った、極めて悪質な不当労働行為であり、無効である。

(一) 債務者は、古河機械金属株式会社(以下、単に「古河」という)が五〇パーセントの株式を保有する会社であり、平成二年一〇月、古河から事務長として出向してきた古川泰臣が、平成五年六月、代表取締役社長に就任した。古川社長は、社長就任後、平成六年の夏期一時金についての組合との交渉のころから、右交渉に先立って組合が債務者に提出した要求書に、同じ年の春闘の際に要求した内容と同じ要求が出ていることに対し、「組合は会社をなめているのか。馬鹿にしているのか」と発言し、組合に対する対決姿勢を露骨に示すようになった。そして、古川社長は、同年末の一時金につき、債務者と組合とが合意した際の協定書についても、その合意では、人事考課制度に伴う考課配分率のパーセントについては、明確にならなかったにもかかわらず、同協定書案に「考一五パーセント」という文言を秘かに入れて組合に調印させようとする卑劣な行為を行い、これを組合に認めさせようとした。しかも、これに気づいた組合の分会長であった債権者が、同文言を削除させようと努めたことに対し、古川社長は、以後債権者は信用できない旨公言し出したりして、それまでの組合に対する対決姿勢を分会長であった債権者に対する対決姿勢へと拡大させていった。

(二) さらに、古川社長は、組合の弱体化及び組合内の分断につなげるべく、組合員を非組合員である課長代理等に大量に昇格させたり、組合の役員を非役員と比較して、ことさら有利に昇格させるという大幅な人事異動を目論み、平成六年一二月ころから動き出したりしている。債務者と組合との間には、組合員の昇格、降格及び配転等の人事異動については、債務者と組合とが事前に誠実に協議するという事前協議制を採用する労働協約、労使慣行が存在していることから、組合は、債務者に対し、右人事異動につき、事前協議を行うことを申し入れてきたが、古川社長は、そのような協定、慣行は存在しないとして、労働協約、労使慣行を平然と反故にするという不当労働行為を行ってきた。

(三) その上、古川社長は、平成七年九月一日、組合との事前協議を経ることなく、突然、分会長であった債権者を営業係長から保安担当係長に配転し、薬師寺副分会長を営業係長から総務課詰(係長待遇)に降格配転するという人事異動案にもないような配転をして、労働協約、労使慣行違反、差別待遇、組合分断の不当労働行為を行ってきた。そして、遂に、古川社長は、組合弱体化、壊滅を狙って、分会長であった債権者に対する本件懲戒解雇を目論み、その準備作業を債権者に妨害されずに進めるため、組合の協議要求を全く無視して、債権者を同年一〇月一〇日から同月三一日までの間、強引に沖縄に出張させるという、卑劣な不当労働行為を行ってきた。

(四) 本件懲戒解雇が不当労働行為であることは、その後の経過を見れば、一層明らかである。すなわち、古川社長は、債権者が沖縄出張中の平成七年一〇月二六日、薬師寺副分会長に対し、債権者に不正行為があり、就業規則上、懲戒解雇に値するが、退職願を書けば自己都合退職で退職金も支払われる、そうでなければ、就業規則にしたがって懲戒解雇に処せられる旨伝え、間接的ではあるが債権者に脅しをかけ、強引に退職させ、組合の弱体化、壊滅を図ろうとした。そして、同じく、同年一一月二日、出張から帰って初めて出社した債権者に対しても、南平所長が、債権者の不正が発覚したが、今退職願を提出すれば自己都合退職として公にならず、汚名を着ることなく退職できる旨告げ、半ば脅して、強引に債権者を退職させようとし、組合の弱体化、壊滅を狙っている。

(五) また、前記のとおり、労働協約に従った事前協議がされていないことや、賞罰委員会の決定が存在しないことからも、債務者の不当な意図が窺える。

(債務者の主張)

債権者の不当労働行為の主張は全く理由がない。むしろ、本件は、純粋に債権者個人にかかる懲戒解雇事由が存在することが明らかであるにもかかわらず、債権者が組合の分会長たる立場にあることを利用して、これを組合問題にすり替えようとしたに過ぎないものである。古川泰臣が社長になった平成五年六月から約一年間は、債務者と組合との関係は、非常にスムーズであった。ところが、平成六年六月に行われた夏の期末手当交渉において、公休出勤の割増率に関する要求が組合より持ち出されたが、これは、既に、同年四月の春闘の際に双方で話し合いによって決定済みの事項であり、わずか二か月後に、何ら状況に変化がないにもかかわらず、右要求を再び持ち出したことは、賃金に係わる事項は毎年一回春闘の時期に話し合うという労使間のルールを全く無視したものであった。このため、強い憤りを感じた古川社長は、「そういうことでは、組合が会社をなめているのか、社長を馬鹿にしているのかとしか思えません」と発言したのであって、これをもって、債務者(または古川社長)の組合に対する露骨な対決姿勢と評価できないことは明らかである。平成六年度の年末一時金の話し合いの際にも、組合が債務者と協議して確認した事項について、簡単にその内容を一方的に無視するという同様の態度が認められたが、古川社長が債権者に対する対決姿勢をとったことはない。また、古川社長が、協定書案に考課配分率一五パーセントという文言を秘かに挿入したという事実もない。さらに、古川社長が、組合の弱体化、分断につながる人事を行ったこともないし、これまで、組合との事前協議を誠実に行ってきている。債務者は、平成七年八月末日、石材製品加工業務が廃止されるに当たり、同業務を担当していた債権者と薬師寺副分会長の処遇に関し、当時、保安担当係長が長期療養中であったため、債権者をこのポストに配転し、薬師寺については、降格配転にならないように、係長待遇ということで総務課詰に配転することにし、右両名もこれを了解した。債権者の沖縄出張についても、債権者が保安担当係長の地位についた場合、公害防止係員の資格が必要であり、資格取得のための講習会が、丁度、沖縄で行われるということで、債務者が債権者に受講を勧め、債権者もこれを承知して出張に応じたものである。出張については、事前協議をすることの協定も慣行もない。

4  予備的懲戒解雇の効力について(争点4)

(債務者の主張)

債権者には、本件懲戒解雇処分後に、新たに懲戒解雇事由に該当する次の事実が発覚したので、債務者は、賞罰委員会の結論を受けて、債権者を予備的に懲戒解雇することを解除条件として、平成八年八月二〇日付け主張書面において、予備的懲戒解雇の意思表示をする。

(一) 下南スポーツ少年団父母の会に売った記念品の代金一部着服の件

(二) 臼杵市足立氏宅庭テーブルセット他の代金を着服した件

(三) 大分市不動氏宅庭のテーブルセット他の代金を着服したか、同セットを横領した件

(四) 薬眞寺明に石材製品を無償で与えた件

(五) 高野邸の石材製品代金を不当に安くした件

(六) 向井邸の門札を無償で与えた件

(七) 領収書綴り及び石材製品加工場の製造依頼書納品先リスト等製造関係の書類を債務者に無断で焼却した件

(八) (書証略)の明細を故意に債務者に出さず、利益を隠して債務者の赤字補填金額を増大させ、また、(書証略)中の販売した製品の金額も故意に低く記入して、その差額分も債務者に損失補填させた件

(九) 大分組に販売した石材製品の代金五〇万円を着服した件

(債権者の主張)

予備的懲戒解雇の事由は本件仮処分の審理の対象となり得ないし、賞罰規程に該当する具体的事実の主張がなく、かつ、立証もされておらず、無効である。さらに、右懲戒解雇については、賞罰委員会の審議手続を履践しておらず、重大な手続違反として、無効である。

5  保全の必要性の有無について(争点5)

(債権者の主張)

債権者は、毎月二五日に賃金の支払を受けており、平成七年度分の給与所得は六四八万九四五八円(月平均五四万〇七八八円)である。債権者は、本件懲戒解雇の無効確認と賃金支払の訴えを提起すべく準備中であるが、債務者から支払われる賃金のみで生活しており、右本案判決の確定を待っていては著しい損害を被るおそれがある。

(債務者の主張)

本件懲戒解雇を無効とする事由は見あたらず、さらに、債権者の家庭状況や資産状況から見て、保全の必要性はない。なお、債権者の平成七年度の給与及び賞与の所得は、五七三万五九〇八円である。

第三争点に対する判断

一  本件懲戒解雇における解雇理由の存否及び解雇権濫用の該当の有無について(争点1)

1  債務者の主張する懲戒解雇事由は、いずれも、石材製品加工業務に関するものであり、そのうち、第二の二1(六)(東急ゴルフ場池石の後始末に関する件)を除くその余の各事由については、末広石材店との関係において問題となっているところ、証拠(略)によれば、個々の懲戒解雇事由の存否を判断する前提として、石材製品加工業務の内容と債権者の職務の内容と権限、末広石材店との関係等に関し、以下の事実が疎明される。

(一) 債務者の属する石灰石採掘業界は、いわゆるオイルショックの影響を受け、セメントの原材料である石灰石の需要が激減し、深刻な経営難に陥り、昭和六一年、石灰石関連業種の集中する大分県津久見市は、特定不況地域に指定された。債務者も、石灰石販売実績が毎月一七、八万トンであったものが、昭和六〇年以降、月一四万トンまで落ち込み、四期連続の赤字を計上するなど不振が続いたため、昭和六二年、組合と協議し、従来の九〇名体制を七〇名体制とし、減員される二〇名については、企画課に開発係を新設して同課所属とし、これらの者につき、一時帰休(レイオフ)制度を導入し、国から雇傭調整助成金を受給することになった。当時、組合の書記長であった債権者及び薬師寺副分会長は、レイオフの対象者には入らなかったものの、右両名の要望もあって、右二〇名のまとめ役に選ばれた。そして、右二〇名のうち一四名の者は、昭和六二年夏ころから、債務者が採掘している石灰石を加工して製品化することを始め、フラワーポット、表札、橋梁の基礎柱、沓脱石、テーブル、椅子、案内用看板、塀石、灯籠等の製品を生産した。債務者は、国から前記助成金の支給を受けていたこと等から、石灰石の加工製品化に対し、積極的な対応をとることができず、これを黙認する状態であった。

(二) 昭和六三年に入り、景気にも回復の兆しが見え、債務者の石灰石販売実績も月一九万トン程度まで回復した。そして、債務者は、昭和六三年九月、債権者らとの間において、石材製品加工業務に関し、債権者ら組合役員が機械購入のために金融機関から借り入れた債務を債務者が負担すること、債務者が、新たにユニック車・ワイヤーソー(大型切断鋸)を購入すること、売上げ金は債務者に納入することを骨子とする合意をし、債務者は、右業務から生じた赤字分を全額補填した。ところで、債務者は、石材製品加工業務が赤字続きであったことから、これを廃止する方針を有していた。しかし、債権者らからは存続の要請があったことから、債務者は、同年一二月一九日、同業務の規模を縮小して引き継いだが、その際、債務者は、組合との間で、向こう三年間、事業の推移を見守り、赤字体質が変わらなければ、同業務を閉鎖することを合意した。

(三) 昭和六三年一二月一九日当時、企画課は、債務者の大分鉱山業務の一部門であり、大分鉱山所長代理を兼ねる薬眞寺が課長をつとめていた。また、同課には企画係と業務係があるが、両係の係長も薬眞寺が兼務し、両係の係長補佐については、薬師寺が兼務し、企画係には債権者一人が主任として、所属しているだけで、他に係員はおらず、業務係には主任以下四名が所属していた。債権者の企画係主任としての業務内容は、薬眞寺課長の指示の下、石材製品の受注、販売(営業)を担当するものであったが、債務者の営業等に関する方針は、課長代理以上の管理職が出席して月二回開かれる定例課長会議において決定され、これを受けて、適宜、必要に応じて開催される営業会議の席上、石材製品加工部門の営業についても、債権者が、提案、報告し、質疑応答の上、承認を得るシステムになっていた。

(四) 債務者が引き継いだ後も、石材製品加工部門の赤字が続いたため、債務者は、平成三年一二月、同部門を閉鎖せざるを得ないと判断したが、設備投資により黒字に転換できるとする債権者ら組合側の意見を容れて、設備投資により、再び、その推移を見守ることにした。しかし、その後も、赤字体質は変わらず、債務者は、平成六年六月、石材製品加工部門のうち、製造部門を、債務者の一〇〇パーセント子会社である大鉱興産に移管するなどしたものの、相変わらず業績不振が続き、赤字が累積し続けたため、債務者は、同年一一月、同部門の閉鎖を決めた。これに対し、組合も理解を示すとともに、分会長であった債権者は、末広石材店に石材製品加工業務を承継することで了解を取り付けているので、同店に同業務を承継させて欲しい旨申し入れた。債務者は、これを了承し、債権者を通して、引継ぎ条件についての同石材店の意見を確認した上で、組合との間で、平成六年一一月一七日付けで、確認書を締結した。確認書によれば、第一項において、石材製品加工業務が果たした一定の役割は評価しながらも、業務を続行する上での累積赤字が本業である石灰石採掘販売上の利益を減少させている実態にあることを認識し、平成七年三月末日をもってこれを閉鎖することが定められており、また、第五項において、これまでの債務者納品のメンテナンス、アフターケアを含む業務の承継を前提とし、設備一式(家屋は除く)を無償で末広石材店に譲渡すること、設備の解体移設費用は末広石材店が負担するが、債務者が可能な限り協力を行うことが定められている。

(五) 引継先の末広石材店は、工藤末博(以下「工藤」という)が経営する主に墓石の製作、販売を営業目的とする個人企業であるところ、債権者と工藤とは、中学時代の同級生であり、昭和六二年夏ころ、債権者らが石材製品加工業務を始めるに際し、機械の購入、石材加工の指導、販売ルートの紹介等の面で、債権者らに協力するようになった。

(六) 石材製品加工部門は、当初、予定していた閉鎖の時期を過ぎた平成七年八月三一日に完全閉鎖された。なお、債務者は、右閉鎖に際し、債権者に対し、顧客先との未解決の問題、未請求、未回収分の回収、閉鎖に当たっての通知、挨拶、後処理のための契約書締結や確認等につき、企画係主任として職務上行うべき業務を指示した。

2  各懲戒解雇事由の存否

証拠(略)によれば、債務者の就業規則及び労働協約書の両方には、同一内容の賞罰規程が定められているところ、同規程によれば、第二条において、懲戒の方法を、けん責、出勤停止、論旨解雇及懲戒解雇の四種とし、第四条において論旨解雇または懲戒解雇の具体的事由を列挙し、そのうち、本件と関連する事由として、七項で「会社における職務上の地位を利用して不当に金品その他の利益を受領または供与し、もしくはせしめた者」、一一項で「職権を著しく乱用した者」と規定し、第五条において出勤停止の具体的事由を列挙し、そのうち、本件と関連する事由として、七項で「業務その他の事項に関し、会社に対する申告または報告につき虚偽のあった者」と規定し、第六条においてけん責の具体的事由を列挙し、そのうち、本件と関連する事由として、一項で「不正に会社の金品を持出し、または私用に供しようとした者」、二項で「職務怠慢で勤務成績不良の者」と規定していること、第七条において、「懲戒行為が併合しまたは回を重ねるときは処分を加重する」と規定していることが疎明されるところ、債務者は、本件懲戒解雇事由として、第四条の懲戒解雇該当事由の他に、出勤停止及びけん責の事由も併せて主張しているので、第七条に照らし、これらの事由の存否についても、以下、併せて検討する。

(一) 灯籠代金二〇万円の売上未計上及び会社に入金しなかった件

証拠(略)を総合すれば、以下の事実が疎明される。

(1) 大西は、平成七年二月中旬ころ、久保田を通して、債権者に対し、昭和六二年に製作された石材加工製品の灯籠二基のうちの一基の購入を申し入れ、二〇万円でこれを買い受けることになり、平成七年二月二三日、久保田を通して、債権者に対し、右代金を支払った。その際、債権者は、債務者名義で発行した同日付け領収書を久保田に手渡した。ところが、債権者は、右二〇万円を債務者に入金しないまま、翌二四日ころ、末広石材店に渡した。

(2) 右灯籠と同じ時期に製作されたもう一基の灯籠は、平成二年三月一〇日、野々下新二郎に対し、五万円で売却され、その代金は、同日、債務者に入金されており、前記のとおり、石材製品加工業務が債務者に引き継がれる前に製作されたその他の製品についても、その販売代金は債務者に入金されている。

(3) 債権者が、開発グループの最終的な構成員として債権者とともに右灯籠を共有していたと主張する薬師寺及び山田勇治のうち、山田勇治は、右共有の事実を否定しており、薬師寺は、債務者から、平成七年一〇月二六日、債権者による灯籠売却の事実を告げられるまで、これを知らなかった。

(4) 南平所長は、債権者に対し、平成七年九月初め頃、石材製品加工業務を全面的に廃止した際、大西に対して発行した前記灯籠代金二〇万円の領収書用紙が綴られていた領収書綴りの未使用分を返還するように求めたところ、債権者は、既に田中事務長に対して返還した旨報告した。しかし、田中事務長は、債権者から、領収書綴りの返還を受けたことはなかった。さらに、債務者は、債権者に対し、同年一一月二日、右灯籠代金の件で事実を確認した際、債権者は、領収書を出した覚えはない旨の報告をした。

右疎明の各事実に、前記1の疎明事実を併せ考慮すれば、昭和六三年一二月一九日、石材製品加工業務が債務者に正式に引き継がれた時点で、前記灯籠を含む石材加工製品の一切が、債務者に承継されてその所有となり、債権者自身も、右灯籠が債務者の所有に属することを認識していたものであって、職務上、債権者には、債務者の所有する石材加工製品の販売代金を無断で第三者に交付する権限はなかったといわざるを得ない。

もっとも、証拠(略)によれば、債権者は、末広石材店に対し、同店がこれまで石材製品加工業務に協力してくれた謝礼の趣旨で右代金二〇万円を渡したが、その際、同店が債務者から石材加工の設備を無償で承継することに対する謝礼を右金員の中から古川社長にして欲しい旨の発言を同店に対してしたこと、この発言を受けて、同店は、古川社長に対し、平成七年三月一一日、二〇万円のうちから一〇万円相当の商品券とウィスキー一本を渡したことが疎明される。しかし、他方、証拠(略)によれば、古川社長は、前記灯籠代金と関連するものであることを知らないままで右商品券を受け取っていたことが疎明されるので、古川社長が右商品券等を受領したことによって、右灯籠代金が、債務者に納入され、あるいは、債務者が、債権者の行為を追認したものとは評価できない。

したがって、債権者の行為は、賞罰規程四条七号の「会社における職務上の地位を利用して不当に金品その他の利益を受領または供与し、もしくはせしめた者」に該当し、債権者が、領収書綴りの返還及び領収書発行について、事実と異なる報告をした点については、賞罰規程五条七号の「業務その他の事項に関し、会社に対する申告または報告につき虚偽のあった者」に該当する。

(二) 箱庭、大型テーブルの無断社外持ち出しの件

証拠(略)を総合すれば、以下の事実が疎明される。

(1) 債務者は、平成七年五月末日をもって、石材製品加工工場の稼働が終わり、石材製品加工業務は営業部門のみの残務整理に入ったため、債権者に対し、在庫品を処分するために、残っている製品のリストを作るように指示した。これに対し、債権者は、リスト(書証略)を作成して、債務者に提出し、債務者は、右リストに基づき、在庫品を社員等に売却したが、その際、箱庭と大型テーブルがリストに記載されていないことが判明した。そこで、債務者は、同年一一月、債権者から事情を聞いたところ、末広石材店に預けているとのことであった。

(2) 末広石材店は、平成七年五月、債権者が、古川社長から製品を片付けておくように言われたので、右箱庭一台及び大型テーブル三セットを預かって欲しいと要請してきたことから、以後、これらの製品を預かっている(現在箱庭一台及び大型テーブル一セットが末広石材店に置かれている)。しかし、古川社長が、債権者に対して、右のような指示をしたことはなく、債権者から債務者に対し、末広石材店に右箱庭及び大型テーブルを預けたことについての報告は全く行われていなかった。

右疎明の各事実に、前記1で疎明された債権者の職務権限を併せ考慮すれば、平成七年五月当時、債権者には、自己の判断で、債務者の所有する石材加工製品を債務者の施設の外に持ち出す権限はなく、債権者の右行為は、債務者の所有する製品を無断で持ち出したものと評価せざるを得ない。もっとも、証拠(略)によれば、大型テーブル三セットのうち、二セットについては、本件が発覚するまでの間に、債務者が、津久見市長に無償で贈与するなどして、末広石材店から運び出されていることが疎明され、この事実に照らせば、債権者には、箱庭一台及び大型テーブル一セットを自己ないし末広石材店に帰属させる意図があったとまでは認められず、したがって、賞罰規程四条七号の「会社における職務上の地位を利用して不当に金品その他の利益を受領または供与し、もしくはせしめた者」に該当するとはいえないが、債権者の右行為は、同規程六条一号の「不当に会社の金品を持ち出し、または私用に供しようとした者」に該当するとともに、同規程五条七号の「業務その他の事項に関し、会社に対する申告または報告につき虚偽のあった者」に該当する。

(三) 長期滞留売掛金の調査及び回収の指示に対する報告の件

証拠(略)を総合すれば、以下の事実が疎明される。

(1) 債務者は、石材製品加工部門の閉鎖に伴い、平成七年五月三一日に開かれた拡大営業会議の席上、債権者に対し、同部門の未回収売掛金を完全に回収するように指示した。これに対し、債権者は、同年七月四日に開かれた拡大営業会議において、未回収売掛金は全て回収が終わった旨報告した。ところが、債務者の経理課が調査した結果、同年七月中旬、未回収債権が合計五件あることが判明した。

(2) そのうち、末広石材店に対する分が三件あったが、うち二件は平成六年九月請求分(二五万〇二二八円)、うち一件は同年一〇月請求分(六万五〇七五円)であり、いずれも、平成七年八月九日、入金となった。他の二件は、稲葉邸の工事代金合計二五万七五〇〇円(平成六年六月請求分と平成七年二月追加工事末請求分)であり、これについては、入金のないままであったことから、債権者に説明を求めたが、同人からの説明はなかった。そこで、債務者は、稲葉から、直接、支払わない理由を聴取したところ、同人は、要求どおりの工事をせず、請求書だけを送り届けてくる債権者への苦情を申し立てるとともに、不良箇所を具体的に指摘した。このため、債務者は、古川社長が、自ら稲葉と話し合ったものの、債権者が、稲葉と契約書を取り交わしていなかったため、同人の主張を認めて債権を放棄することとした。債権者は、このような顧客とのトラブルの発生につき、債務者に対して全く報告していなかった。

右疎明の各事実及び前記1で疎明された債権者の職務内容によれば、債権者の一連の行為は、賞罰規程五条七号の「業務その他の事項に関し、会社に対する申告または報告につき虚偽のあった者」及び同六条二号の「職務怠慢で勤務成績不良の者」に該当する。なお、債務者は、債権者の右行為のうち、末広石材店に対する売掛金債権は、平成六年九月及び一〇月分であり、長期間、この債権を放置していた事実からすれば、末広石材店や自己の利益を得ようとしたものであると主張するが、右行為のみで、直ちに賞罰規程四条七号の「会社における職務上の地位を利用して不当に金品その他の利益を受領または供与し、もしくはせしめた者」に該当するとは解されない。

(四) 機械設備解体移設費用の未請求の件

証拠(略)を総合すれば、以下の事実が疎明される。

(1) 確認書に従い、債務者から末広石材店に対する石材加工設備の解体移設作業が行われたが、その際、債権者は、右解体移設費用のうち、機械解体作業とトラック積み込み作業について二〇トンクレーン車の使用を平山商店に発注し、同使用料九万一〇〇〇円につき、債務者宛に請求書を発行させた。債務者は、右金員を支払った後、末広石材店に対し、その支払を求めたが、同店は、債権者から支払をしなくてもよいと言われているとの理由で支払を拒否しており、現在まで入金がない。また、債権者は、右解体作業の際、解体した設備の一部をスクラップとして平山商店に五万二九〇一円で売却している。

(2) 確認書によれば、解体移設費用については、末広石材店の負担とし、債務者が可能な限り協力を行うこととなっているところ、これは、債務者が、事業承継に必要な設備一式を無償で末広石材店に譲渡することになったが、これらの設備は、三五〇〇万円を超える投資をした設備であったため、少なくとも、解体移設費用は末広石材店の負担とすることにしたものであり、また、債務者は、下請会社二社に対して解体作業を依頼し、その費用を負担することにより、右協力を行っている。

(3) 確認書が作成された後の平成七年三月ころ、末広石材店から、債権者を通して、債務者に対し、設備一式の譲渡に対し、五〇万円を支払いたいとの申出があり、債務者もこれを承諾し、同月三一日、右金員の支払が行われた。

右疎明の各事実によれば、債権者は、末広石材店が負担すべき解体移設費用の一部につき、自己の判断で同店の支払義務を免除しているが、前記1で疎明された債権者の職務権限の範囲に照らせば、同人には右免除を行う権限はない。もっとも、債権者は、右行為をもって、確認書中の「可能な限りの協力」に該当すると主張し、その根拠として、五〇万円の支払によって、無償譲渡から有償譲渡へと、確認書の前提が変更されたこと及び平山商店に対するスクラップの売却代金を債務者が取得したことをあげている。しかし、右五〇万円の支払をもって、確認書のその他の内容に変更を生じることにつき、債権者、債務者らの間で、明示あるいは黙示の合意があったことを認めるに足りる疎明はなく、しかも、スクラップの売却代金の取得自体が、債権者に対し、末広石材店の解体移設費用の負担を免除する権限を付与するものであると評価することもできない。

したがって、債権者の前記行為は、賞罰規程四条七号の「会社における職務上の地位を利用して不当に金品その他の利益を受領または供与し、もしくはせしめた者」及び同四条一一号の「職権を著しく乱用した者」に該当する。

(五) 時松邸塀代金未請求の件と同未請求代金を末広石材店の作業賃と相殺したと説明した件

証拠(略)を総合すれば、以下の事実が疎明される。

(1) 平成七年六月末日ころ、時松に対する五九万四〇〇〇円の未請求売上げがあることが判明したため、債務者は、債権者に対し、同年七月中旬ころ、説明を求めた。数日後、債権者は、債務者の時松に対する商品(石)納入が遅れたため、時松は、自分のところで予定していた左官を使用できなくなり、末広石材店に工事をさせたが、当初の見積りより、基礎工事等の工賃が大幅に増えたため、末広石材店が大幅な赤字となり、その穴埋めをするために、債務者の石代(売上代金債権)を末広石材店に譲渡して大幅な赤字を縮小させた旨説明した。

(2) ところが、その後、債権者は、時松との契約は、石の販売だけであり、石工事の施工については契約していないとした上で、同人の都合で二度施工が延びており、施工業者として末広石材店を紹介したが、時松と末広石材店との契約金額については、自分は知らない旨の当初の説明と異なる内容の説明を行った。

(3) 末広石材店は、債務者が納入した石材を使用して、時松邸の塀工事を完成させ、時松から代金八二万四〇〇〇円の支払を受けた。

右疎明の各事実によれば、債権者は、債務者の時松に対する石代金に相当する金額を末広石材店に利得させたことになるが、前記1で疎明された債権者の職務権限の範囲に照らせば、同人には右利得をさせる権限はない。

したがって、債権者の右行為は、賞罰規程四条七号の「会社における職務上の地位を利用して不当に金品その他の利益を受領または供与し、もしくはせしめた者」及び同四条一一号の「職権を著しく乱用した者」に該当する。

(六) 東急ゴルフ場池石の後始末に関する件

証拠(略)を総合すれば、以下の事実が疎明される。

(1) 債権者は、大分東急ゴルフ場に販売できる見込みで生産した池石約一五〇個を販売できなくなったため、債務者に報告することなく、在庫として吉田医院の敷地に置かせて貰っていた。債権者は、右池石を在庫リストに記載せず、平成七年七月四日に開かれた拡大営業会議において報告もせず、営業部長から質問されて初めて池石が在庫としてあることを説明した。そこで、債務者は、債権者に対し、債権者が吉田院長と会い、同人に池石を無償で進呈する代わりにこれまでの保管料を免除して貰う方向で交渉し、その結果を同月一〇日ころまでには報告するよう指示した。ところが、債権者からは、全く報告がなかったことから、同年八月二六日の拡大営業会議の席上、債権者に対し、何時までも放置しているのであれば、債務者が、直接、吉田院長と交渉する旨伝えたところ、債権者は、吉田院長とは、既に同年七月末までには合意してきていると答えた。

(2) そこで、債務者は、同年九月二日、吉田院長との間において、同人に池石を無償で譲渡し、これにより、同人は債務者に対する保管料を免除する旨の覚書を締結した。

右疎明の各事実によれば、債務者は、右池石の件について債権者に報告を求める前に、右池石の所在をあらかじめ把握していたことが窺えるのであるから、債権者の右行為が、賞罰規程五条七号の「業務その他の事項に関し、会社に対する申告または報告につき虚偽のあった者」に該当するとまでは解されないが、同年七月一〇日ころ以降の債権者の右行為については、前記1で疎明された債権者の職務内容に照らせば、同規程六条二号の「職務怠慢で勤務成績不良の者」に該当する。

(七) 平和公園石材納入と時間外請求の件

証拠(略)を総合すれば、以下の事実が疎明される。

(1) 債権者は、マルコ商事から、佐伯市の平和公園に設置する半球型記念碑の石材を受注した。平成六年一一月一一日、債権者が債務者に提出した製品加工部門の受注予定分にも、佐伯市平和公園(半球型)二五九万三〇〇〇円及び佐伯市平和公園六八万円と記載されていた。債権者は、債務者を発注者として山口美石工業に発注し、注文品が納入された後、同社から債務者宛の請求書(六七万六五二〇円)を受け取った。その後、債権者は、同社に指示して請求先を末広石材店に変更の上で再請求させた(最終の請求額は六四万四五二〇円)。このように、山口美石工業が製作した半球型石の平面部に、末広石材店が文字を刻む作業を行い、同店はこれをマルコ商事に一七五万一〇〇〇円(消費税を含む)で売却した。

(2) 半球型記念碑の原石を半球型に加工する機械や技術は、石材製品加工業務の製造部門である大鉱興産にはなかったが、半球型に加工済みの石材に仕上げ加工を施すことは、大鉱興産においても、何ら問題なく行うことができた。

(3) さらに、債権者は、右石材製品の平和公園への設置と完成検査に立ち会った際に残業をしたとして、債務者から残業手当を受けている。

右疎明の各事実によれば、債権者の右行為は、債務者が受注することによって得る利益を失わせ、第三者である末広石材店の利益を図ったものであり、かつ、残業手当を不当に受給しており、賞罰規程四条七号の「会社における職務上の地位を利用して不当に金品その他の利益を受領または供与し、もしくはせしめた者」に該当するとともに、同規程四条一一号の「職権を著しく乱用した者」に該当する。

3  以上、検討したところによれば、前記2(一)、(四)、(五)及び(七)の点において、債権者には、賞罰規程に定められた懲戒解雇事由に該当する行為が認められ、これらの事由からすると、本件懲戒解雇は、解雇権の濫用に該当しない。

二  本件懲戒解雇手続の適否について(争点2)

1  解雇協議条項が適用されるか否か。適用があるとした場合、同条項違反の有無及びその効果。

証拠(略)によれば、債務者と組合は、昭和五六年四月一日、「会社は、賃金、労働条件を変更するとき、とりわけ労働者の解雇、希望退職募集、一時帰休などを行うときは、事前に組合と充分な協議を行う」との労働協約を締結し、さらに、債務者と組合は、平成三年七月一日、右労働協約等に関する事前協議を再確認する旨の協定書を締結していることが疎明される。そこで、右解雇協議条項が懲戒解雇にも適用されるか否かにつき検討するに、債務者と組合との昭和三九年一〇月八日付け労働協約書(書証略)によれば、第二七条において、組合員の賞罰に関する事項は、別に定める賞罰規程及び賞罰委員会規程(同日施行)によるとし、賞罰委員会規程第二条では、本委員会は、労働協約二七条に基づき、会社と組合が組合員の賞罰事項を迅速、公平に審議し、もって信賞必罰を期するを目的とすると規定し、第三条では、本委員会の委員は、会社、組合双方各三名とすると規定しているところ、右規程の存在及び内容等に照らせば、同規程は、懲戒解雇を始めとする債務者の懲戒権の行使に組合の意思を反映させ、これによって、債務者の懲戒権行使の公平を期するものであって、前記解雇協議条項の成立に先立ち、懲戒権行使につき、実質的かつ具体的な協議(審議)の方法、手続を規定したものであると解することができる。そうすると、前記解雇協議条項は、懲戒解雇につき、賞罰委員会の審議とは別に、さらに債務者に組合との事前の協議を要求しているものとは解されず、したがって、本件においては、解雇協議条項は懲戒解雇には適用されないと解するのが相当である。

2  そこで、賞罰委員会の審議手続履践の有無及びその効果について検討する。

(一) 証拠(略)を総合すれば、本件懲戒解雇に至る経緯及びその手続につき、以下の事実が疎明される。

(1) 債務者は、石材製品加工部門の閉鎖に当たり、同部門の資産、負債を監査することが必要となり、これを調査する過程で、前記一のとおり、債権者の賞罰規程違反行為が表面化した。特に、平成七年一〇月二〇日ころ、債権者が、灯籠代金二〇万円を入金していない事実が発覚し、同人がこれを着服したのではないかとの疑いが生じたが、債権者が出張中であったため、とりあえず、古川社長が組合の薬師寺副分会長に話した後、債権者が出張から帰社した後の同年一一月二日、南平所長が、債権者を会議室に呼び、前記一の2(一)の灯籠代金二〇万円の未入金の件を始めとして、同一の2(二)、(三)及び(五)の件につき、順次、説明を求めた。その際、同所長は、債権者に対し、これらの行為は就業規則の賞罰規程に該当すると思うが、このままでは賞罰委員会にかけざるを得ないし、そうなると全て公になるがどうするかと尋ねるとともに、自己都合退職の要望があれば早く言って欲しいと述べた。これに対し、債権者が、即答はできないとしたことから、南平所長は、古川社長と相談し、判明している事実を伝えて説明を得るため、質問状を作成することにし、そのためのメモ(書証略)を作成した。南平所長は、同月七日、薬師寺副分会長から、債権者と話した内容を詳しく知りたいとの申し入れを受けたため、右メモを同人に渡すとともに、その内容(前記一の2(一)ないし(五)及び(七))と説明を求める事項につき、口頭で詳細に説明した上で、薬師寺副分会長に対し、債権者にメモを渡して、回答を貰うように依頼した。

(2) これに対し、債権者(代理人弁護士)は、平成七年一一月一七日付けで債務者に対し、南平所長が、債権者に対し、「あなたの不正が発覚した。数項目ある。今退職願を提出すれば自己都合退職として公にならず汚名も着らず退職できる」と告げたとして、不正行為の内容如何では、債権者の人権を侵害し、名誉を毀損することにもなるとして、不正行為の内容を具体的に特定すること、右行為が強度の違法性を有する根拠を具体的に明らかにすること、本人に説明さえ求めないうちから不正行為と断定した根拠を明らかにすることの釈明を求める要望書を交付した。これに対し、債務者は、債権者に対し、同年一二月二六日、前記一の2(一)ないし(五)及び(七)の事項につき、その内容を記載するとともに、右各事項につき、平成八年一月八日までに文書で回答するように要求した文書を作成して交付した。しかし、債権者(代理人弁護士)は、右回答を行うことなく、債務者に対し、同日付けで、再度、前同様の釈明を求めるとともに、賞罰委員会にかけることなく債権者に説明を求める権限と根拠についても釈明を求める旨の求釈明書を交付した。

(3) 債務者は、平成八年一月一〇日、組合に対し、債権者の行為につき、賞罰規程に抵触するものが認められるので、労働協約二七条に基づき、賞罰委員会を開催の上、迅速、公平な審議を行うため、委員三名を選任し、同月一一日までに連絡することを求める文書を交付したが、同日、組合は、これを受け取れないとして、返還してきた。このため、債務者は、再度、右文書を交付したが、組合は、同月一二日の団体交渉の席で、賞罰委員会規程が不備であるから選任には応じられないとして、右文書の受け取りを拒否した。なお、債務者の平成八年一月一〇日付け賞罰委員会開催通知には「尚公平を期すため委員には、当該営業部門及び、前加工工場勤務のものは除きます」と記載されており、組合は、この点を不当な介入であるとしていた。そこで、債務者と組合とは、同月二三日、賞罰委員会規程に関する団体交渉を開いたが、その際、債務者から同規程の解釈を明確にするための同規程の改訂案を提示した。これに対し、組合は、同案を持ち帰り、組合独自に検討して返事すると回答した。しかし、その後、組合からの返答はなかった。

(4) そのため、債務者は、組合に対し、同年二月一三日付けで、現行の賞罰委員会規程に基づき、総務課長を書記に任命し、同月二〇日に賞罰委員会を開催する旨の通知と、同委員会における組合側委員三名の選任を要請することを内容とする文書を交付した。しかし、組合からは、同日までに、委員選任の連絡がなかったため、債務者側委員のみで債権者の賞罰規程違反行為につき審議した。その後、賞罰委員会の書記名により、同月二三日付けで、第二回賞罰委員会が同月二六日に開催される旨の通知書を組合に交付したが、組合からは、委員選任の連絡はなく、同日、債務者側委員のみで審議を行い、債務者が本件で主張するとおりの賞罰規程に抵触する行為の存在を認める旨の結論を出した。なお、組合は、債務者に対し、同日付けで、賞罰委員会開催に抗議し、賞罰規程七条に基づき、問題整理のために団体交渉を申し入れる旨の抗議文を交付した。

(5) 債務者は、債権者に対し、平成八年二月二八日付けで、同人を懲戒解雇処分にする旨の意思表示を書面により行ったが、同書面には、債務者が、本件において、懲戒解雇事由として主張している事項と、賞罰規程の該当条項が簡略に記載されていた。

(二) 前記1で検討した賞罰委員会規程を定めた趣旨、解雇協議条項との関係等からすれば、同委員会の審議を経ていない懲戒解雇は、特段の事情のない限り、その手続に重大な瑕疵があるものとして無効であると解すべきところ、前記(一)で疎明されたとおり、本件においては、債務者側委員のみで賞罰委員会の審議を行い、債権者が、債務者の主張するとおりの賞罰規程に抵触する行為をしたことを認める旨の結論を出しているのであるが、右(一)の疎明事実を総合すれば、組合は、組合側委員を選任することなく、賞罰委員会の審議に参加することを拒否したものであり、しかも、組合は、賞罰委員会規程の不備を主張し、同規程に関する団体交渉の際、債務者が提示した同規程の改訂案に返答するとしながら、そのまま放置しており、右拒否の理由について合理性が認められない(平成八年一月一〇日付け賞罰委員会開催通知中の委員選任に関する前記記載についても、不合理な記載とはいえない)ことからすると、債権者は、実質的な弁明の機会が付与されていたのに、自ら、それを放棄したものと解され、結局、本件懲戒解雇については、実質上、賞罰委員会の審議手続は履践されたものと解するのが相当である。

3  以上、検討したところによれば、本件懲戒解雇手続につき、債権者の主張する瑕疵はない。

三  本件懲戒解雇の不当労働行為該当性の有無について(争点3)

債権者は、本件懲戒解雇が組合の弱体化、壊滅を狙った不当労働行為に該当するとし、その理由として、前記第二の二3「債権者の主張」記載の各事実に基づく主張をしているので、以下、この点につき検討する。

1  証拠(略)を総合すれば、以下の事実が疎明される。

(一) 古川社長は、債務者の全株式の五〇パーセントを保有する古河から、平成二年一〇月、出向の形で債務者の副所長兼営業部長兼事務長として、勤務するようになり、債務者の管理部門全般(組合との交渉を含む)を担当した後、平成五年六月、債務者の代表取締役社長に就任した。古川社長の就任後、約一年間は、債務者と組合との関係は円滑に推移していた。しかし、平成六年六月、夏の期末手当交渉の際、組合が、賃金に係わる事項は、毎年一回、春闘の時期に話し合うという労使間のルールを無視して、同年四月の春闘の際に双方間で合意した公休出勤の割増率に関する要求を再び持ち出したことから、これに憤慨した古川社長が、「夏の一時金交渉の際に、今春闘で決まった事項について、同じ要求が二ヶ月足らずで提出されるのは心外としか言いようがない。そういうことでは、組合は会社をなめているのか、社長を馬鹿にしているのかとしか思えません」との発言を行った。

(二) 平成六年の年末一時金の交渉の際、組合から、六〇才無条件定年延長の要求が出され、これに対して、債務者からは、人事考課制度の導入の要求が出された。そして、組合と債務者との間で、平成六年一一月二八日付け協定書において、「六〇才無条件定年延長について」と題する項目において、「平成七年四月一日実施を目途に前提条件となる人事考課制度の確立、考課配分率一五パーセントの確保、考課者の訓練等について双方が了解点に達する様、精力的かつ友好的に交渉を重ねることに合意した。又、双方が了解点に達しない内に見切り適用は行わない」との合意をした。

(三) 組合の分会長であった債権者を営業係長から保安担当係長に配転し、薬師寺副分会長を営業係長から総務課詰(係長待遇)に配転した人事は、石材製品加工部門の閉鎖によって右両名の職場がなくなることに伴うものであり、事前に、古川社長が債権者及び薬師寺副分会長の意見を聴取した上で行っており、右両名から右異動についての反対の意見は出なかった。

(四) 債権者が、平成七年一〇月一〇日から同月三一日まで沖縄に出張したのは、債権者が保安担当係長の地位についた場合、公害防止係員の資格が必要であり、右資格取得のための講習会が、丁度、沖縄で行われることから、債務者が債権者に受講を勧め、同人もこれを承知した結果、実施されたものであった。

2  そこで、前記第二の二3「債権者の主張」(一)記載の主張につき検討するに、右疎明における古川社長の発言内容と経緯に照らせば、これをもって、組合の弱体化、壊滅を狙った不当労働行為意思を推測させるものであるとはいえず、また、古川社長が右協定書案に「考一五パーセント」という文言を秘かに挿入して、組合に調印させようとしたことを認めるに足りる疎明はないから、債権者の右主張は採用できない。次に、右「債権者の主張」(二)記載の主張については、債務者(古川社長)の行った人事異動が、組合の弱体化及び組合内の分断につながるものであること及び同社長が人事異動についての債務者と組合との間における誠実な事前協議という労働協約、労使慣行の存在を無視したことを認めるに足りる疎明はないから、債権者の右主張は採用できない。さらに、右「債権者の主張」(三)記載の主張については、右疎明における債権者及び薬師寺副分会長の各配転の理由と事前の手続、債権者の沖縄出張の理由と事前の手続によれば、債権者の右主張は理由がない。さらに、右「債権者の主張」(四)記載の主張については、古川社長及び南平所長が、半ば脅して、強引に債権者を依願退職させようとしたことを認めるに足りる疎明はない上、前記一(争点1)で検討したとおり、債権者には、賞罰規程の懲戒解雇事由に該当する行為が複数存在しているのであるから、債権者が組合の分会長であったことを前提としても、依願退職を示唆したことが、組合の弱体化、壊滅を狙ったものであると解することはできないので、債権者の右主張は採用できない。また、右「債権者の主張」(五)記載の主張については、前記二(争点2)で検討したところによれば、債権者の右主張は採用できない。

四  よって、その余の点について判断するまでもなく、債権者の本件申立てはいずれも理由がないから却下することとし、申立て費用の負担につき民事保全法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 安原清藏 裁判官 高橋亮介 裁判官 後藤慶一郎)

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