大判例

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大分地方裁判所 平成4年(ワ)248号 判決 1993年4月22日

原告

高田キヌ子

被告

佐藤吉行

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して、原告に対し、一九五万五七七九円及びうち一七七万五七七九円に対する平成二年一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は二分し、その一を原告の、その一を被告らの連帯負担とする。

四  第一項は仮に執行することができる。ただし、被告らが各八〇万円の担保を供するときは、当該被告に対する仮執行を免れることができる。

事実及び理由

一  原告らの請求

被告らは、連帯して、原告に対し、三七六万七三九〇円及びうち三四六万七三九〇円に対する平成二年一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  事案の概要

本件は、平成二年一月一七日発生した後記交通事故で受傷した原告が、加害者である被告佐藤及び同被告の使用者で、かつ、加害者の保有者である被告会社に対し、原告が被つた損害の賠償を請求する事案である。

三  当事者間に争いない事実

1  交通事故の発生

日時 平成二年一月一七日午前九時二二分ころ

場所 大分市中島中央二丁目一番六号 山本勲方前路上

加害車と運転者 被告佐藤運転の普通乗用車(タクシー、以下「被告車」という。)

事故態様 右場所において、被告車が原告運転の自動車(以下「原告自転車」という。)に衝突した。

2  傷害、治療期間、後遺症

原告は、本件事故により左脛骨外顆骨折の傷害(以下「本件傷害」という。)を受け、大分県立病院に、本件事故日の平成二年一月一七日から同年四月一二日まで八六日間入院し、同月一三日から平成四年二月一四日まで通院(実日数七一日)して治療を受け、その結果、後遺症として自賠法施行令別表(第二条関係)第一二級五号の認定を受けた。

3  責任原因

被告佐藤は、被告車を運転するに際し、一時停止して右方の安全を確認すべき注意義務に違反し(民法七〇九条)、被告会社は、被告車の運行供用者であつて(自賠法三条)、被告佐藤の使用者であり、かつ、本件事故は、被告会社の事業の執行中に起きたものである(民法七一五条一項)。

4  損害のてん補 四一二万九〇四〇円

原告は、自賠責保険から仮渡金四〇万円、後遺障害金二一七万円の各支払を受け、治療費として社会保険から一〇八万一〇〇〇円、被告らから四七万八〇四〇円の各支払があつた。

四  争点

1  本件事故は、被告車と原告自転車との交差点における出会頭の衝突事故であるが、原告にも過失相殺すべき過失があるかどうか。

2  原告主張の左記損害額の有無

(一)  物損 一万円

本件事故により操作が不自由となつた原告自転車の修理代

(二)  人損

(1) 治療費 一六一万二三八〇円(差額ベツド代六万七九八〇円を含む。)

(2) 診断書料 一万八五四〇円

(3) 通院交通費 二一八〇円

原告は、歩行困難と、原告宅から病院までを結ぶバス路線が近くになかつたため、通院にタクシーを利用したが、その代金。

(4) 入院雑費 一〇万三二〇〇円

一日当たりの入院雑費一二〇〇円の入院期間八六日分

(5) 休業損害 八四万八〇〇〇円

原告は、夫の営む税理士事務所事務員として働き、本件事故当時月額一八万円の給与を得ていたが、本件事故により、平成二年一月分としては一〇万二〇〇〇円の給与しか得ることができず、同年二月から五月までは給与を得ることができず、同年六月から月額二〇万円に昇給したが、同月分は一五万円の給与しか得ることができなかつたので、右期間の八四万八〇〇〇円が原告の休業損害である。

(6) 慰謝料 五〇〇万円

(内訳)入通院慰謝料 二〇〇万円

後遺症慰謝料 三〇〇万円

(7) 弁護士費用 三〇万円

五  証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおり。

六  当栽判所の判断

1  本件事故の態様

当事者間に争いがない事実及び証拠(甲一一の1ないし3、一二の1ないし4、原告)によれば、次のとおり認められる。

(一)  本件事故現場の状況

本件事故現場の状況の概略は、別紙現場見取図(甲一一の1の実況見分調書中の交通事故現場見取図)に記載のとおりであり(以下の符号は、同図中のそれを指す。)、本件事故現場は、アスフアルト舗装の平坦な、東西に走る道路幅七・九〇メートルの道路(ただし、北側に一・九メートル幅の路側帯が設けられ、軽車両を除く車両は東から西方向への一方通行となつている。制限時速は三〇キロメートルである。以下便宜「東西線」という。)と、南北に走る道路幅六・一メートルの道路(ただし、東側に一・八メートル幅の路側帯が設けられ、軽車両を除く車両は南から北方向への一方通行となつている。以下便宜「南北線」という。)とが十字路で交差する交差点(以下「本件交差点」という。)内であり、東西線から本件交差点に進入する手前には、停止線が表示されている。

本件交差点の北東側角地は周囲に一メートル程度の高さの金網が張られた青空駐車場となつていることから、東西線から本件交差点に進入するに際しての右方の見通し、南北線から本件交差点に進入するに際しての左方の見通しは、いずれも良好である(甲一二の1ないし4)。

(二)  被告車の動き

被告佐藤は、被告車を運転して、交通量のない、制限時速三〇キロメートル東西線の車道上を時速約四〇キロメートル(秒速約一一メートル)で西進して、本件交差点の手前約一七・五メートルの<1>点に差しかかつた際、進路前方の本件交差点の手前に停止線が表示されていたためブレーキをかけて減速したが、<1>点から八・三メートル進行した<2>点(停止線の手前)で、左方角地が建物のため見通しが悪いので、左方にのみ注意しながら、八・〇メートル進行し、本件交差点に進入直後の<3>点で右方を見たと同時に、右前方約三・三メートルの地点を右から左に進行している原告自転車に気付き、危険を感じて急ブレーキをかけたが効を奏せず、一・二メートル進行した<×>点で、自車右前部を原告自転車前輪部付近に衝突させた。

(三)  原告自転車の動き

原告(昭和四年一月二六日生)は、原告自転車を運転して、交通量のない南北線の路側帯上を時速約一〇キロメートル(秒速約二・八メートル)で南進し、左方を注視することなく漫然と本件交差点に進入して、被告車が左方から直進してくるのを発見するとほとんど同時に、<×>点で、自車前輪部付近に被告車右前部が衝突した。

2  争点1(過失相殺)についての判断

右1の事実によれば、被告佐藤には、制限時速三〇キロメートルである所を時速四〇キロメートルで進行中、本件交差点手前の停止線の直前で一時停止することなく、同線手前で減速して左方を注視したのみで同交差点に進入直後、見通しの良い右方を見た重大な過失によつて、原告自転車に至近距離に至るまで気付かなかつたのであり、他方、原告にも、見通しの良い左方を注視することなく漫然と同交差点に進入した過失によつて、左方から同交差点に進入してきた被告車にほとんど気付かなかつたのであるから、本件事故は、右両過失が競合して発生したものというべきであり、以上認定の諸般の事実によれば、被告佐藤と原告の過失割合は九対一を相当と認める。

3  争点2(損害額)についての判断

(一)  物損 一万円

証拠(四、原告)によれば、原告の主張どおり認められ、甲一一の3(第9項)も右認定を覆すに足りない。

(二)  人損

(1) 治療費 一六一万二三八〇円

証拠(甲三の2、一三の1ないし25、一四、原告)によれば、原告は、本件事故による治療費として、入院治療費一四三万四八三〇円(差額ベツド代六万七九八〇円を含む。)、通院治療費一七万七五五〇円を要したこと、入院後直ちに二人部屋に入り(甲一三の2)、同月二四日、原告の右腸骨より採骨して左膝への移植手術をし(甲三の2、一三の3、原告)、同年三月九日ころまでは、排便もベツド上での便器使用を余儀無くされたこと(甲一三の16、原告)、そのころから車椅子に乗れるようになり、同月二四日九人部屋に移つたこと(甲一三の19)が認められるから、右差額ベツド代は、二人部屋にいたときの分と推認され、これも本件事故と相当因果関係ある損害と認める。

(2) 診断書料 五一五〇円

証拠(甲五、六の1ないし3、11、七)によれば、原告は、大分県立病院に診断書料三〇九〇円と明細書料二〇六〇円(甲五)のほか、平成二年五月一一日、同年六月一日、同年七月一八日(甲六の1ないし3)、同年八月一〇日、同年九月二七日(甲七)に各三〇九〇円の文書料、平成四年二月一四日に三〇〇〇円の文書料(甲六の11)を支払つたことが認められるが、右全文書が必要であつたかどうかを認めるに足りる証拠はないから、被告の認める二通分の文書料五一五〇円(甲五)の限度で、本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

(3) 通院交通費 二一八〇円

証拠(甲八の1ないし4、原告)によれば、原告は、杖なしでは歩行が困難であり、その主張どおりの理由で、通院のためタクシーを利用し、代金として二一八〇円を支払つたことが認められるから、本件事故と相当因果関係ある損害と認める。

(4) 入院雑費 一〇万三二〇〇円

原告が八六日間の入院をしたことは当事者間に争いがないが、一日当たりの雑費は一二〇〇円が相当であるから、合計一〇万三二〇〇円を損害と認める。

(5) 休業損害 八二万八〇〇〇円

証拠(甲九の1、2、原告)によれば、原告は、税理士の夫の事務所で働き、月額一八万円の給与を得ていたが、本件事故のため事故日の平成二年一月一七日から同年六月一〇日まで休み、その間給与の支給を受けられず、同年一月分としては一〇万二〇〇〇円、同年六月分は一五万円の給与を得たにすぎなかつたので、右一月分の差額七万八〇〇〇円、二ないし五月分の七二万円、六月分の差額三万円、以上合計八二万八〇〇〇円を原告の休業損害と認める。

原告は、同年六月から月額二〇万円に昇給したと主張、供述するが、他に的確な証拠がないから、採用できない。

被告らは、原告の受けていた右給与は家族労働による専従者給与であるから原告に休業損害は発生しないと主張するが、証拠(甲九の1、2、原告)によれば、原告の場合、青色申告者である税理士の夫と生計を一にするいわゆる青色事業専従者(所得税法五七条一項)であると認められるから、同主張は採用できない。

(6) 慰謝料 四〇〇万円

当事者間に争いがない事実と証拠(甲三の2、一〇、一五の1・2、原告)によれば、原告は、本件受傷による左膝の治療のため、原告の右腸骨から採骨した骨の移植手術を受けて左膝に二本の金具をはめ込まれた結果、原告には、後遺症(症状固定日は平成四年二月一四日)として、左膝に一四センチメートル(甲一五の2)と右腹部に七センチメートルの各醜状痕(甲一五の1)及び骨盤骨に著しい奇形が残り(甲三の2)、自賠法施行令別表(第二条関係)第一二級五号の認定を受けたこと、右症状固定日現在、自覚症状として右大腿外側にしびれ感がある。歩行、階段の昇降の際、左膝関節がスムーズに動かない、歩行後、左膝が重たい、安静時、不定期にズキズキとする痛みが左膝にある等を訴えていたこと(甲三の2)、将来、右金具のため歩行が困難となつたときは、再手術の危惧もないわけではないとの説明を受けていることが認められ、その他、過失相殺の点を除く、本件受傷の部位、程度、入通院期間、手術の内容その他前記認定の諸般の事実をも合わせ考慮すれば、本件事故による原告の慰謝料としては、四〇〇万円が相当である。

4  過失相殺及びてん補後の損害額

右3の損害額を合計すると、物損関係が一万円、人損関係が六五五万〇九一〇円となるところ、右2のとおりの理由で、過失相殺として、各一割を減ずると、物損が九〇〇〇円、人損が五八九万五八一九円となるところ、人損関係として当事者間に争いがないてん補額四一二万九〇四〇円を差し引くと一七六万六七七九円となるから、弁護士費用を除く未てん補損害額合計は、一七七万五七七九円となる。

5  弁護士費用 一八万円

以上認定の事実及び本件訴訟の推移を概観すれば、被告らに支払を命ずべき弁護士費用としては、一八万円を相当と認める。

6  結論

よつて、原告の本訴請求は、被告らに対し、連帯して一九五万五七七九円及びこれから弁護士費用を差し引いた一七七万五七七九円に対する本件事故日である平成二年一月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅廷損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 簑田孝行)

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