大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大分地方裁判所 平成3年(行ク)1号 決定 1991年6月06日

申立人

大分県知事

平松守彦

右訴訟代理人弁護士

松木武

原告

河野聡

外二八名

共同訴訟参加人

江藤匡一

外八名

原告河野聡を除く原告ら及び共同訴訟参加人ら訴訟代理人弁護士

河野聡

岡村正淳

瀬戸久夫

原告河野聡訴訟代理人弁護士

佐川京子

被告(被参加人)

平松守彦

外二名

右被告ら訴訟代理人弁護士

堀家嘉郎

松木武

内田健

古城敏雄

立花旦子

主文

一  本件参加申立をいずれも却下する。

二  申立費用は申立人の負担とする。

理由

一参加申立の趣旨及び理由

参加申立の趣旨及び理由は、別紙参加申立書記載のとおりである。

二当事者の意見

原告ら及び共同訴訟参加人らの意見は別紙参加に対する意見書記載のとおりであり、被告らの意見は別紙参加申立に対する意見書記載のとおりである。

三当裁判所の判断

1  本件記録によれば、本件訴訟は、申立人が主基斎田抜穂の儀に参列した被告ら他四名に対し旅費等を支出したことが違法な公金支出であると主張して、大分県の住民である原告ら及び共同訴訟参加人らが、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、不当利得返還請求権ないし損害賠償請求権の本来の帰属主体である大分県に代位してこれを行使するために提起した住民訴訟であることが明らかである。

ところで、地方自治法二四二条の二第六項、行政事件訴訟法四三条三項及び四一条一項によって準用される同法二三条の規定は、財務会計上の行為をし、又はこれに関係した行政庁を訴訟に引き入れてその有する訴訟資料等を法廷に提出させることによって、適正な審理裁判を実現することを目的とするものであるところ、原告ら及び共同訴訟参加人らの主張によると、行政庁としての申立人の本件訴訟の基礎となるべき事実関係への関与は、支出命令及びこれに付随する行為であって、右事実は被告らにおいて認めるところである。

したがって、現段階においては、申立人の参加により審理の充実を期しうる訴訟資料の存在を認めることは困難であり、本件参加申立の必要性を認めることはできない。

2  よって、本件参加申立は、いずれも理由がないから却下することとし、申立費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官丸山昌一 裁判官楠本新 裁判官山本和人)

別紙参加申立書

申立の趣旨

平成三年(行ウ)第一号「抜穂の儀」公費支出返還等代位請求住民訴訟事件につき申立人を被告らのため参加させる、との裁判を求める。

申立の理由

一 申立人は、大分県の事務を管理し及びこれを執行する行政庁である。

二 本訴の争点は、主基斎田抜穂の儀に参列した被告らの行為が、憲法の政教分離規定に違反するか否かであるが、被告ら個人がこれに関する資料を所持していないから、申立人が訴訟に参加し、主張立証を尽くす必要がある。

三 本訴は大分県の損害填補を求める住民訴訟ではあるが、申立人の立場が原告らの立場と相反し、被告らの立場と同一であるから、申立人を被告らのために参加させるべきである。

四 なお、大分県の補助参加が認められたときは、補助参加人代表者の資格で訴訟に関与することができるから、本申立に固執しない。

別紙参加に対する意見書

一 行政事件訴訟法二三条の参加制度と本件の参加

1 行政事件訴訟法二三条の参加の制度は、行政訴訟が訴願前置の関係から、多くの場合行政処分自体に対する不服の訴えについて訴願採決庁が被告としてあらわれ、実際に処分をなした処分行政庁が必ずしも被告とならない場合があるので、この場合に、実質的な当事者である処分行政庁や関係行政庁を訴訟関係に引き入れて適正な審理裁判を実現し、訴訟資料の提出も円滑にしようとする趣旨で規定されたものである。

本件の場合、右の場合とは全く異なり、被告ら本人が実質的にも紛争の当事者であり、自らの利害関係に基づき十分な攻撃防御をなすことが期待出来るから、行政庁たる大分県知事を参加させる必要は認められない。

2 また同条は、「他の行政庁」の参加を規定したものであることが明らかであるが、本件の被告は個人であって「行政庁」ではないから、行政庁相互の協力、統一を旨とした本条項に基づく参加を論ずる余地はないというべきである。

実質的にも、本件事案は、被告らの行為が政教分離という憲法上の原則に適合するか否かが厳しく問われている事案なのであり、私人である被告ら個人の立場と、行政庁である県知事の立場とは明確に区別されるべきであり、両者の境界を曖昧にすることは許されない。

二 大分県知事の参加は適正な審理裁判のために必要か。

1 参加申立人は、立場が原告らの立場と相反し、被告らの立場と同一であるというが、単に被告平松守彦個人と行政庁としての大分県知事が同一人物であるからといって、一般的抽象的に「立場が同一」であり、行政事件訴訟法二三条の参加を認める根拠となると認められるものではない。被告平松個人と異なる自然人が申立人の地位にあった場合、同種の行為に出るとは限らないからである。

同条の参加を認めるには、参加が適正な審理裁判のために必要であることが要件となるのである。申立人は、この必要性について何ら具体的に明らかにしていないのであるから、申立てを認めるべきではない。

2 かえって、申立人が参加に固執するのは、県費をもって被告らの訴訟費用を負担し、県職員に訴訟準備にあたらせようとするためと思われるが、そのような態度は、被告らの行為が違法と判断された場合、右各行為も違法であったことになる点で、違法行為の上塗りの結果を生じさせる虞れがあり、また自治体財政の是正のために自費で訴訟をしている住民との間に格段の訴訟遂行能力の差を生じさせ、適正な審理裁判に弊害を生じさせることになりかねない。したがって、申立人の参加は適正な審理裁判のために有害無益である。

3 さらに本件訴訟の中心的争点は、被告らが公務として、大嘗祭を構成する重要な儀式である「抜穂の儀」に参列したことが政教分離を定めた憲法に違反するか否かにあるところ、大嘗祭及び抜穂の儀は周知の通り国民主権、象徴天皇制、政教分離等の憲法の規定から種々の問題が提起され、議論が対立している状況の下で行われたのであり、被告らが公人として右抜穂の儀に参列することについても種々の議論が対立していた。それにもかかわらず被告らは、公人として抜穂の儀に参加した。これはすぐれて被告らの思想、人格に深くかかわる行動というべきである。

このような問題については、極力政治的行政的判断を排除し、純粋に信教の自由の観点から、被告らの行為の憲法適合性如何が判断されるべきであり、政教分離の原則上、行政庁である申立人の関与は極力排除されるべきである。

三 訴訟資料の点について

なお、参加申立人は、主基斎田抜穂の儀に参列した被告らの行為が憲法の政教分離規定に違反するかどうかという点に関する資料を被告ら個人が所持していないので、申立人が訴訟に参加して主張立証を尽くす必要があると主張しているが、攻撃防禦を尽くすためには、訴訟法上、文書提出命令、送付嘱託、調査嘱託を始め、多数の手段が認められているのであり、申立人主張の如き理由で法律の趣旨を逸脱して参加を認めることは許されない。

また、旅費・日当、時間当り給与額、監査結果等について当事者間に争いがなく、書証も提出されている以上、被告らが入手できず、県知事が所持している本件訴訟に必要な資料等が存在するとは考えられない。

四 以上の通り、大分県知事を訴訟に参加させることは許されないと考える。

別紙参加申立に対する意見書

右当事者間の平成三年(行ウ)第一号「抜穂の儀」公費支出返還等代位請求住民訴訟事件につき大分県知事平松守彦が参加の申立をしていますが、被告らにおいても大分県知事の参加を希望していますので、直ちに許可して戴きたく、行訴法二三条二項に基づき上申します。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例