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大分地方裁判所 平成10年(行ウ)14号 判決 2000年4月10日

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

第一原告らの請求

一  被告Aは大分県に対し、金九万六六八O円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告Bは大分県に対し、金四万九八四O円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告Cは大分県に対し、金九万六六八〇円及びこれに対する平成一一年一月七日付け原告ら準備書面送達の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告B(本件当時大分県総務部長。)及び被告C(本件当時大分県総務部財政課主幹兼総務係長。)が、大分県大阪事務所(以下「大阪事務所」という。)行政指導用務及び全国議員野球大会応援用務を目的とした旅行命令に基づき、平成九年八月二二日から同月二三日まで大阪市に出張し、その際、被告Cが専決権限に基づいてした旅費支出命令により同月二一日に被告Bに四万九八四〇円、被告Cに四万六八四〇円の旅費が支給されたところ、

一  前記出張は、第五二回国民体育大会協賛第四九回全国都道府県議会議員軟式野球大会(以下「本件野球大会」という。)の応援という公務以外の目的による出張であるから、かかる出張に対する旅費の支給は違法であり、

二  仮に被告Bによる大阪事務所における訓示等が必要適切なものであったとしても、短時間の訓示等であれば二日間にわたる日程で出張を行う必要はなく、前記出張に対する旅費の支給のうち、少なくとも日当・宿泊費については地方自治法二条一三項、地方財政法四条一項に違反するとして、大分県の住民である原告らが、前記出張に対する旅費の支給につき監査請求前置を経た上、大分県に代位して、被告A(大分県知事)に対し不法行為に基づく損害賠償請求(地方自治法二四二条の二第一項四号前段)として九万六六八〇円を、被告Bに対し不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求(同号後段)として四万九八四〇円を、被告Cに対し不法行為に基づく損害賠償請求(同号前段及び後段)又は不当利得返還請求(同号後段)として九万六六八〇円(ただし、不当利得返還請求としては四万六八四〇円の範囲に止まる。)を、それぞれ請求した事案である。

第三前提事実

一  当事者及び被告らの職務

1  原告らはいずれも大分県の住民である(争いのない事実)。

2(一)  被告Bは、平成九年四月一日から平成一一年五月一七日まで、大分県総務部長であった(争いのない事実、被告B)。

(二)(1)  大分県総務部は「議会及び県の行政一般に関する事項」、「県の歳入歳出予算、税その他の財務に関する事項」等を分掌しており、総務部長は、総務部の統括責任者である(乙五、弁論の全趣旨)。

(2) 大分県は、平成九年四月一日に大分県職員職務執行基準(以下「職務執行基準」という。)を定め、職務執行基準九条三項には「総括職務執行管理者は総務部長をもって充てる。」と規定されており、同基準一一条一項には「総括職務執行管理者は、この訓令の遵守の徹底を図るため、全庁における厳正な職務執行及び綱紀粛正の推進に関し、所要の措置を講ずるものとする。」と規定されている(甲九の2、3)。

(3) 大分県では、平成二〇年に国民体育大会(以下「国体」という。)の開催が予定されており、第六三回国民体育大会大分県準備委員会を設置し、国体開催の準備を進めていたが、被告Bは、平成九年八月二二日当時、同委員会の常任委員であった(乙三、四)。

3(一)  被告Cは、平成八年四月から平成一〇年三月まで、大分県総務部財政課主幹兼総務係長であり、大分県事務決裁規程に基づき知事の旅費支給権を専決して旅費支給権を行使していた(争いのない事実、乙一、一一、被告C)。

(二)  大分県総務部財政諜は「部長・次長に関すること」等を分掌しており、「部長・次長に関すること」は財政課主幹兼総務係長が総括していた(丙一一)。

4  被告Aは大分県知事であり、大分県の旅行命令に基づく出張につき旅費を支給する権限を法令上本来的に有する(争いのない事実、顕著な事実)。

二  本件旅費の支出

1  被告B及び同Cは、平成九年八月一八日、大阪事務所行政指導及び本件野球大会応援を用務として同月二二日から同月二三日まで大阪市に出張する旨の旅行命令(以下「本件出張」という。)を受けた(甲二の1、2)。

2  平成九年八月一八日、本件出張の旅費として、被告Bは四万九八四〇円、同Cは四万六八四〇円をそれぞれ請求した。これに対し、被告Cは、被告B及び同Cに対し本件出張の旅費として合計九万六六八〇円を支給することを命令し、平成九年八月二一日、本件出張の旅費として被告Bに対し四万九八四〇円、同Cに対し四万六八四〇円がそれぞれ支給された(以下「本件旅費」という。)(甲三ないし六)。

三  本件出張の日程

1  被告B及び同Cは、平成九年八月二二日午後に大阪市に向けて出発し、同日午後五時ころ大阪事務所に到着した。被告Bは、同事務所に到着後、同事務所所長ほか同事務所職員全員に対し、職務執行基準に基づいて、服務規律の保持及び綱紀粛正について訓示し、その後、同事務所所長から同事務所の業務について報告を受けた(争いのない事実、乙四、一一、被告B、同C)。

2  被告B及び同Cは、同月二三日午前八時三〇分ころに大阪市内にある舞洲アリーナに到着し、同日午前九時から舞洲アリーナにおいて行われた本件野球大会の開会式を見学した。舞洲アリーナは、平成九年一〇月に大阪府で開催される国体で使用される予定の施設であった(争いのない事実、乙四、一一、被告B、同C)。

3  被告B及び同Cは、同日午後三時ころ、大阪府八尾市にある大阪府営久宝寺緑地野球場に到着し、同日午後三時三〇分ころから同日午後四時三〇分ころまで、同所において大分県議会野球チームの野球の試合の応援をし、同日に大分県に帰った(争いのない事実、乙四、一一、被告B、同C)。

四  監査請求

原告らは、平成一〇年八月一八日、本件旅費の支給につき大分県監査委員に対し、地方自治法二四二条に基づく大分県職員措置請求を行ったところ、大分県監査委員は、同年一〇月一五日、右措置請求には理由がないとの決定をした(争いのない事実)。

第四争点

一  本件旅費の支出行為の違法性

(原告らの主張)

出張旅費の支出行為の違法性を判断するについては、当該出張が職務行為と関連性を有するかを判断するとともに、当該職務行為にとって当該出張が必要最小限度のものであるかを判断すべき(地方自治法二条一三項、地方財政法四条一項)ところ、以下のとおり、本件出張は、被告らの職務との関連性も必要最小限度性も有していないのであるから、違法である。

1  被告Bに対する本件旅費の支給について

(一)(1) 被告Bの本件出張は本件野球大会の応援が主目的であったところ、本件野球大会の応援は議員随行業務ではなく、単に観客席で観戦・応援をしたに過ぎず、また、本件野球大会への議員の参加自体が公務性を有しないものであるから、これへの応援に公務性がないことは明らかであるから、被告Bに対する本件旅費の支給は違法である。

(2) この点、被告ら及び被告ら訴訟参加人(以下「被告ら」という。)は、大分県議会議員(以下「議員」という。)との交流を深めることにより行政運営の円滑な執行を図るため、種々の機会に議員との意見交換、情報交換を行っており、本件野球大会に参加する議員の応援を行った際にも同様の意見交換、情報交換を行った旨主張するが、現に被告Bが行った議員との意見交換、情報交換は抽象的な雑談に止まり、本件野球大会の応援の場において議員と具体的な政策にかかわるような情報交換や意見交換があったとは認められない。

(3) 被告らは、本件出張には、被告Bが大阪事務所において職務執行基準に基づき訓示を行う行政指導用務があった旨主張するが、右基準は、平成九年四月一日、被告Bが各所属長あてに通知しており、当該通知を行うことにより十分に行政指導が行われているといえるから、大分県庁から大阪事務所に出張してまで訓示を行うことが特別に不可欠であったとはいえない。現に被告Bが大分県福岡事務所や大分県東京事務所に出張した事実はない。

そうすると、被告Bが大阪事務所において職務執行基準に基づく訓示を行う行政指導用務は付随的用務に止まり、かかる用務について独自に出張する必要性があるとはいえない。

(二) 被告らは、被告Bの本件出張には国体関連施設視察・調査用務もあった旨主張する。

(1) しかし、国体関連施設視察・調査用務があったのであれば、これによって得られた情報や成果は個人的なメモではなく、長期保存文書として保存すべきであるのに、国体施設視察に関する文書は公文書として存在していない。また、被告Bの旅行命令簿(甲二の1)の用務欄には「財務用務(大阪事務所行政指導及び全国議員野球大会応援)」と記載されているのみである。さらに、舞洲アリーナに関する事情に詳しい大阪事務所職員に準備を依頼したことはない。これらの事情からすれば、そもそも、本件出張に国体関連施設視察・調査用務はなく、また、被告Bが舞洲アリーナにおいて同施設の視察・調査を行った事実もないというべきである。

(2) 被告Bは、本件出張を大分県総務部長としての立場で行っているものであり、第六三回国民体育大会大分県準備委員会の常任委員としての立場で行っているものではないから、仮に、本件出張に際し、国体関連施設視察・調査の目的があったとしても、かかる目的は、大分県総務部長としての職務と何ら無関係である。

(3) 地方自治法二条一三項、地方財政法四条一項及び職務執行基準五条によれば、出張の適法性の判断は、事前に旅行命令簿等において承認されている出張用務を基準として行われるべきであり、出張先でたまたま職務と関連する情報を収集したからといって、当初承認されていた出張用務が不適法であったものが事後的に適法なものになるということはあり得ない。

そうすると、本件出張において当初承認されていた出張用務は本件野球大会応援及び大阪事務所行政指導だけであつたから、国体関連施設視察・調査を本件出張の適法性判断の対象とすることは許されない。

(三) 仮に、本件出張当時、被告Bが大阪事務所において職務執行基準に基づく訓示を行うことが必要かつ適切であったとしても、訓示及び大阪事務所長の報告のみであれば短時間で済むのであり、出張の期間は一日で足りるから、被告Bに対する本件旅費の支給のうち、少なくとも一日分の日当(一三〇〇円)及び宿泊費(一万三一〇〇円)の支給は地方自治法二条一三項、地方財政法四条一項に反し違法である。

2  被告Cに対する本件旅費の支給について

(一) 被告らは、被告Cが被告Bの随行としての職務を遂行していた旨主張するが、前記1記載のとおり、本件出張の用務は被告Bの職務と関連性がないから、被告Cが被告Bの随行であったとしても、本件出張は被告Cの随行事務とも職務関連性がなく、また、本件出張については被告Cの随行が必要不可欠とは認められないから、被告Cに対する本件旅費の支給は違法というべきである。

(二) 被告らは、被告Cが総務部財政課総務係長として「議会に関すること」を分掌すること等から、本件野球大会応援用務及び国体関連施設視察・調査用務が被告Cの職務と関連性を有する旨主張するが、前記1の(一)及び(二)と同様の指摘ができ、本件出張は被告Cの職務と関連性がなく、被告Cに対する本件旅費の支出は違法というべきである。

(三) 仮に本件出張と被告Bの職務との関連性が認められたとしても、前記1(三)記載のとおり、被告Bに対する本件旅費の支給のうち、少なくとも一日分の日当及び宿泊費の支出が地方自治法二条一三項、地方財政法四条一項に反し違法である以上、被告Cに対する本件旅費の支給も同様に一日分の日当(一一〇〇円)及び宿泊費(一万〇九〇〇円)が地方自治法二条一三項、地方財政法四条一項に反し違法である。

(被告らの主張)

被告Bに対する本件旅費の支給について

本件出張は、大阪事務所行政指導用務、本件野球大会応援用務及び国体関連施設の視察・調査用務を目的とした適法な旅行命令に基づくものであり、これらの用務を処理するには一泊二日の旅行行程が必要であったから、被告Bに対する本件旅費の支給は違法ではない。

(一) 大阪事務所行政指導用務について

(1) 本件出張当時は、大分県において服務規律の保持及び綱紀粛正が問題となっていた時期であり、大阪事務所についても職務執行基準に基づき服務規律と綱紀粛正につき訓示を行う必要があったのであり、被告Bはその機会を窺い、本件出張によりこれを実現したのであって、本件出張の大阪事務所行政指導用務は必要かつ適切なものであった。

(2) 被告Bは大分県東京事務所に他の用務で出張した際、同事務所職員に対し職務執行基準に基づく訓示を行っており、県外事務所の職員に対し職務執行基準に基づき直接訓示したのは大阪事務所だけではない。また、大分県福岡事務所については、同事務所の体制が三名と少人数であった上、同事務所長が帰県した際に被告Bが職務執行基準の徹底を同事務所長に申し渡していたことから、同事務所職員に対し職務執行基準に基づく訓示を行う必要がなかった。

(3) 原告らは、職務執行基準は、平成九年四月一日、各所属長あてに総務部長が通知しており、かかる通知を行うことにより十分に行政指導が行われているといえる旨主張するが、職務執行基準は公務に対する県民の信頼を確保することを目的とした重要な訓令であるから、各所属長あての通知のみならず総務部長である被告Bが大阪事務所職員に対し直接訓示することが必要であった。

(二) 本件野球大会応援用務について

県の行政運営の円滑な執行を図るため種々の機会に議員との意見交換、情報交換を行うことは、議会に関する事項を分掌する総務部の統括責任者である被告Bの職務に属するところ、本件野球大会に参加する議員を応援し、その際に意見交換、情報交換を行うことは、議員らとの交流を深め、県の行政運営の円滑な執行を図ることに資する(特に、大分県では平成二〇年に国体開催を予定しているところ、本件野球大会の開会式会場である舞洲アリーナは国体で使用される施設であったことから、議員が同施設に参集する際に議員との意見交換等を行い、大分県の国体開催準備を円滑に進める上で必要である。)から、本件野球大会応援用務は、被告Bの職務と関連性がある。

(三) 国体関連施設の視察・調査用務について

(1) 被告Bは、第六三回国民体育大会大分県準備委員会の常任委員であるところ、今後の施設整備計画の立案や国体関連予算の編成に適切に対処するには、本件野球大会の開会式会場である舞洲アリーナの状況を直接見て、調査することが大事だと考えて視察・調査を行った。

(2) 原告らは、旅行命令簿の用務欄に国体関連施設視察・調査用務の記載がないことを指摘するが、旅行命令簿の用務欄の記入スペースに限りがあることから記載されなかっただけである。

(3) 原告らは、被告Bは本件出張を大分県総務部長としての立場で行ったのであるから、国体関連施設視察・調査用務は被告Bの職務と関連性がない旨主張する。

しかし、国体競技施設の建設には予算の調製が不可欠であり、かかる予算の調製権は大分県知事にあるところ、かかる財政運営の点において、大分県としても国体関連施設視察・調査は必要であったというべきである。そして、大分県総務部長が「県の歳入歳出予算、税その他の財務に関する事項」を分掌することからすれば、被告Bの職務と国体関連施設視察・調査用務は関連性があるというべきである。

2  被告Cに対する本件旅費の支給について

(一) 被告Cが総務部財政課総務係長として「議会に関すること」を分掌する者であり、被告Bと同様、県の行政運営の円滑な執行を図るため議員との意見交換、情報交換を行う必要がある者であるから、本件野球大会応援用務は被告Cの職務と関連性があるというべきである。(二) 被告Cが予算査定の場で自己の意見を述べることができ、あるいは議会との折衝に際し先進的施設に関する情報・知識が必要とされることからすれば、国体関連施設視察・調査用務は被告Cの職務と関連性があるというべきである。

(三) 被告Cは、総務係長として「部長・次長に関すること」を分掌する者であるところ、本件出張の全日程を通じ、被告Bと大分県庁本庁との連絡や指示の伝達のため、あるいは出張先である大阪市での被告Bの時間や行程の管理のため等、被告Bの本件出張用務を円滑に遂行させるべく同人の秘書的な立場で随行したものであるから、被告Cの本件出張の用務は同人の職務と関連性がある。

(四) (一)ないし(三)記載の事情からすれば、被告Cに対する本件旅費の支給に違法性はない。

二  被告らの注意義務違反の有無

(原告らの主張)

1  被告Bについて

被告Bは、本件出張が職務との関連性も必要最小限度性も有しないことを知り又は知り得たにもかかわらず、本件旅費の支給を受け、大分県に対して四万九八四〇円の損害を与えた。

2  被告Cについて

(一) 被告Cは、被告B及び同Cに対する本件旅費支給につき左記(二)のような重大な過失によって違法な支出命令をし、よって、大分県に対して九万六六八〇円の損害を与えた。

(二) 被告Cは、本件出張が職務との関連性も必要最小限度性も有しないことを知り又は知り得たにもかかわらず、本件旅費の支給を受け、大分県に対して四万六八四〇円の損害を与えた。

3  被告平松について

被告平松は、被告B及び同Cに対する本件旅費支給につき重大な過失により違法な支出命令をなし、よって、大分県に対して九万六六八〇円の損害を与えた。

(被告らの主張)

原告らの主張はいずれも争う。

第五争点に対する判断

一  争点一(本件旅費の支出行為の違法性)について

1  被告Bに対する本件旅費の支給について

(一)  前記第三認定事実、証拠(甲九の2、3、乙二、四、一一、丙一ないし八、一〇、一二ないし一六、被告B、同C)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 平成九年四月一日、職務執行基準の総括職務執行管理者であった被告Bは、同基準一一条一項に基づき、各所属長あてに「大分県職員職務執行基準に関する訓令について(通知)」と題する書面を発出し、職務執行基準の趣旨を更に徹底するため、関係部長会議で各部長に対し同基準の徹底を図るよう通達するとともに、所属長会議等にも出席して同様の通達を行った。また、同被告は、同年五月八日から九日にかけて、予算に関する自治省との連絡調整のため東京に出張した際、大分県東京事務所に立ち寄り、同事務所の職員に対し、職務執行基準の趣旨の徹底を図るべく訓示をした。

(2) 平成九年七月一日、大分県職員による女児に対する脅迫・傷害事件が発生し、同月一九日には、同県職員による業務上過失致死・道路交通法違反(ひき逃げ)事件が発生した。いずれの事件も地方機関の職員が起こした事件であったことから、被告Bは、改めて地方機関に対する職務執行基準の趣旨の徹底を図る必要があると考え、地方機関を統括している地方振興局に出向き、職員を集めて訓示を行うなどした。

(3) 大分県には、県外の機関として、東京事務所、大阪事務所、福岡事務所があるところ、被告Bは、福岡事務所の職員数が三名と少ないこと、福岡事務所の所長が大分県に帰ってきた際に、同所長に職務執行基準の趣旨の徹底を図るよう強く促していたこと、東京事務所については、前記(1)記載のとおり既に訓示を行っていることから、これらの事務所に対し改めて訓示を行う必要はないと考え、残る大阪事務所について訓示を行う機会を窺っていた。

被告Bは、平成九年八月二三日に本件野球大会が大阪市において開催されることになっていたことから、同大会において出場する議員を応援するなどして、議員との交流や意見交換を行うことにより、行政執行の円滑な運営に資するものと考え、これを用務として行うと共に、大阪事務所において訓示を行うことにした。

また、大分県では平成二〇年に国体開催を予定し、体育館を建設する構想を持っていたところ、大分県総務部長であるとともに第六三回国民体育大会大分県準備委員会の常任委員である被告Bは、本件野球大会の開会式を行う会場である舞洲アリーナが、大阪府において開催される国体のために使用される予定の施設(体育館)であることから、同施設を視察しその施設規模を把握するとともにその建設費用やその財源等を調査する必要性があると考えた。

(4) 被告Bは、前記(3)記載の事情を踏まえ、大阪事務所行政指導用務、本件野球大会の応援用務及び国体関連施設視察・調査用務で平成九年八月二二日及び同月二三日に大阪市に出張する旅行計画を立てた。その際、同被告は、大阪事務所が企業誘致、県の物産販路開拓、大分県の観光のピーアール、就職斡旋等の業務を担当し、日中は職員が出払っていることが多いことを踏まえ、大阪事務所における訓示は、職務執行基準の趣旨の徹底を図るべく、事務所内にできるだけ多くの職員がいる勤務終了時間である同月二二日午後五時ころに行うこととした。

被告Bは、右計画に基づき、前記第三の二記載のとおり、本件出張の旅行命令を受け、本件旅費の支給を受けた。

(5) そして、被告Bは、前記第三の三記載のとおり、大阪事務所行政指導用務及び本件野球大会応援用務を行った。また、平成九年八月二三日午前八時三〇分ころに舞洲アリーナに到着後、同施設を視察し、同施設職員から同施設の概要の説明を受けることにより、国体関連施設視察・調査用務を行うとともに、県議らと意見交換を行い、同日午後三時ころに大阪府営久宝寺緑地野球場に到着した後も県議らと懇談した。

(二)  これに対し、原告らは、本件出張に際し、国体関連施設視察・調査用務はなかった旨主張し、かかる主張を裏付ける事実として、国体関連施設視察・調査用務により得られた情報や成果が公文書として存在しないこと、被告Bの旅行命令簿の用務欄には「財務用務(大阪事務所行政指導及び全国議員野球大会応援)」と記載されているのみであること、舞洲アリーナについての事情に詳しい大阪事務所職員に準備を依頼したことはないことを挙げる。

しかし、証拠(被告B)によれば、国体関連施設視察・調査の方法、それにより得られた情報や成果についての保存方法などは特に決まっているものではないことが認められ、この点について原告らが主張する事実があったとしても、それが直ちに本件出張に国体関連施設視察・調査用務がなかったことの裏付けとなるものではない。また、証拠(甲二の1、被告B)によれば、被告Bの旅行命令簿の用務欄に国体関連施設視察・調査用務が記載されていないことが認められるが、証拠(丙一ないし八、被告B、同C)によれば、旅行命令簿の用務欄の記入スペースに限りがあって、従前からすべての用務が記載されていたものではなかった上、舞洲アリーナが本件野球大会の開会式の会場であったことから本件野球大会応援用務の中に国体関連施設視察・調査用務を含めればよいと考えた結果、前記用務欄に前記のとおりに記載したことが認められるのであるから、右記載は本件出張に国体関連施設視察・調査用務が無かったとする根拠とはなり得ないというべきである。そして、証拠(乙四、被告B)によれば、被告Bは大阪事務所職員に舞洲アリーナ視察の準備を依頼していないが、それは、当日が週休日の土曜日であったためと同施設職員から直接説明を受けることで視察の目的が達成できるし、視察の時間を予め設定することが困難と予想されたためであることが認められるから、大阪事務所職員に視察の準備を依頼しなかったことは本件出張に国体関連施設視察・調査用務が無かったとする根拠とはなり得ないというべきである。

そうすると、原告らの右主張は失当である。

(三)  前記第三記載の事実及び(一)記載の事実を前提に被告Bに対する本件旅費の支給の違法性の有無を検討する。

(1) まず、本件出張の用務が、いずれも被告Bの職務と関連性がないものであれば、裁量の余地がなく本件旅費支給は違法なものであるから、大阪事務所行政指導用務、全国議員野球大会応援用務及び国体関連施設視察・調査用務につき、それぞれ被告Bの職務との関連性を検討する。

① 大阪事務所行政指導用務について

前記(一)の(1)及び(2)記載のとおり、職務執行基準が制定された際、被告Bが、各所属長にその旨通知し、その後も、関係部長会議で各部長に対し同基準の徹底を図るよう通達するとともに、所属長会議等にも出席して同様の通達を行うなどしたにもかかわらず、同基準制定後わずか三か月しか経過していない時期に立て続けに大分県職員、それも地方機関の職員により二件の不祥事があったことからすれば、前記不祥事後、同基準の趣旨を更に徹底するために、同基準の総括職務管理責任者である被告Bが地方機関の職員に対し直接訓示を行う必要性があり、同様に県外事務所である大阪事務所の職員に対しても同被告が直接訓示を行う必要性があったというべきであり(そうすると、原告らの大阪事務所行政指導用務独自で本件出張を行う必要性がなかった旨の主張が失当であることは明らかである。)、大阪事務所行政指導用務が同被告の職務と関連性があることは明らかである。

この点、原告らは、被告Bが、東京事務所及び福岡事務所において訓示を行っていないことから、大阪事務所において訓示を行う必要性がなかった旨を主張するが、東京事務所では平成九年五月に訓示を行ったばかりであり、また、福岡事務所については、同事務所の職員数が三名と少ないこと、被告Bが、同事務所所長が大分県に帰ってきた際に、同所長に職務執行基準の趣旨の徹底を図るよう強く促していたことから、平成九年八月当時、東京及び福岡の両事務所において直ちに訓示を行うべき必要性に乏しかったものであるから、平成九年七月における大分県職員の不祥事以降、被告Bが東京事務所及び福岡事務所に対し訓示を行っていないことを理由として、同被告が大阪事務所において訓示を行う必要性がなかったとする原告らの主張は理由がない。

② 本件野球大会応援用務について

前記第三の一2(二)(1)記載のとおり、大分県総務部長は「議会及び県の行政一般に関する事項」を分掌するものであり、「議会及び県の行政一般に関する事項」には、議員との交流や意見交換を行うことにより議会と執行部との交流を深め、両者の関係を良好に保つことにより行政執行の円滑を図ることも職務の内容として含まれると解されるところ、本件野球大会の応援も、当該大会に出場する議員を応援し又は当該大会において観戦する議員と意見交換、情報交換などをすることを通じて県議会と執行部の交流を深めるものであるから、本件野球大会応援用務は被告Bの職務と関連性があるといえる。

この点、原告らは、被告Bが実際に行った意見交換は雑談程度のものに過ぎなかったから、本件野球大会応援用務に公務性はない旨主張する。

しかし、前記のとおり、県議会と執行部との交流を深めることにより、両者の関係を良好に保つことそのものが大分県総務部長の職務内容であるから、県政に関する意見交換に止まらずあらゆる形での議員との交流が大分県総務部長の職務に関連するものというべきである(もっとも、あらゆる形での議員との交流が大分県総務部長の職務に関連するとしても、かかる目的の用務のみの出張に対して、旅費を支給することが社会通念上必要とされるか否かは別問題である。)。

そうすると、原告らの右主張は理由がない。

③ 国体関連施設視察・調査用務について

前記第三の一2(二)(1)記載のとおり、大分県総務部長は「県の歳入歳出予算、税その他の財務に関する事項」を分掌するものであるところ、本件出張当時、大分県では、平成二〇年に開催が予定されている国体において使用する体育館を建設する構想があり、かかる体育館の建設費用、財源などの参考とするため、大阪府において国体が開催される際に使用される予定の舞洲アリーナを視察し、その施設規模を把握するとともに、その施設概要の説明を受けるなどして建設財源を調査することは、県の予算に関する事項に関連するものであり、国体関連施設視察・調査用務は被告Bの職務と関連性があるといえる。

(2) 次に、地方自治法二条一三項、地方財政法四条一項の規定に照らせば、被告Bに対する本件旅費の支給は、本件出張の用務を行うことによる行政目的を達成するため、社会通念上必要とされる範囲のものでなくてはならず、被告Bに対する本件旅費の支給が右範囲を超える場合には、裁量権を逸脱、濫用した支出がなされたと認められ、右範囲を超えた部分の本件旅費の支給は違法であると解されるから、被告Bに対する本件旅費の支給が、被告Bが本件出張の用務を行うことによる行政目的を達成するため社会通念上必要とされる範囲のものか否かを検討することとする。

そうすると、大阪事務所行政指導用務は職務執行基準の趣旨の徹底を目的としたものであるから、その目的達成のためにはできる限り多くの職員が同事務所内にいる時間帯に訓示を行うことが必要であるところ、大阪事務所が、企業誘致、県の物産販路開拓、大分県の観光のピーアール、就職斡旋等の業務を担当しており、日中は同事務所の職員が出払っていることから、被告Bが、職員の多くが同事務所にいる午後五時ころに訓示を行ったことには合理性があるといえる。

そして、大分県庁から大阪市までの距離、交通手段等を勘案した所要時間を考慮すると、被告Bが午後五時ころから大阪事務所において訓示を行うためには、たとえ右訓示が短時間のものであったとしても(証拠(被告B、同C)によれば、実際に被告Bが大阪事務所で訓示を行った時間は一〇分以内であったことが認められる。)、二日間にわたる旅行命令を決定することはやむを得ないものというべきであり、大阪事務所行政指導用務のため、右旅行命令に基づき被告Bに対し本件旅費を支給することは社会通念上必要とされる範囲であるから、被告Bに対する本件旅費の支給に違法性はない(なお、前記(一)(3)記載のとおり、被告Bは、大阪事務所において訓示を行う時期を本件野球大会が開催される時期に合わせて決定しているが、前記のとおり、本件出張が大阪事務所行政指導用務のみであったとしても本件旅費の支給に違法性がない以上、右の事情は結論に影響を及ぼすものではない。)。

2  被告Cに対する本件旅費の支給について

(一)  証拠(乙四、一一、被告B及び同C各本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(1) 大分県総務部長は大分県においては要職であり、その職務上、出張をするに際しても、常に大分県庁本庁との間において連絡が取れる状況になければならない地位であり、通常、出張の行き先が県事務所など連絡を取ることが比較的可能な場所である場合以外は随行が付いていた。

(2) 被告Bの本件出張の行程には本件野球大会応援用務があり、本件野球大会の大分県議会議員チームの試合は、大阪市八尾市にある大阪府営久宝寺緑地野球場で行われるため、被告Bと大分県庁本庁との間は非常に連絡を取りづらい状況となることが予測された。

(3) そこで、被告Cは、被告Bの本件出張の全行程に随行し、被告Bと大分県庁との間の連絡を取る役割や現地での時間や行程の管理、交通機関の切符の購入等の雑事処理などの秘書的用務を担うため、前記第三の二記載のとおり、本件出張の旅行命令を受け、本件旅費の支給を受けた。

(4) そして、被告Cは、実際に被告Bの本件出張の全行程に随行し、秘書的用務を行った。

(二)(1)  前記第三の一3(二)記載のとおり、被告Cは大分県総務部財務課主幹兼総務係長として「部長・次長に関すること」を総括して分掌するものであることからすれば、本件出張中被告Cが被告Bに随行する用務は被告Cの職務と関連性があるといえる。

(2) 次に、被告Cに対する本件旅費の支給が本件出張の用務を行うことによる行政目的を達成するため、社会通念上必要とされる範囲のものであるか否かを検討するに、被告Bが大分県総務部長という要職にあることからすれば、被告Bの本件出張の全行程において、被告Bと大分県庁との連絡や指示の伝達のため、あるいは出張先である大阪市での被告Bの時間や行程の管理のため等、被告Bの本件出張用務を円滑に遂行させるべく同被告の秘書的用務を行う者を一名随行させること自体社会通念上許されるというべきである。特に、本件出張において被告Bが予定していた本件野球大会応援用務は野外で行うものであるから、被告Bと大分県庁本庁との間の連絡が取りづらい状況が予測され、被告Bと大分県庁本庁との間の連絡を取る役割を担う者が必要不可欠であったといえる。

そうすると、被告Cが被告Bの秘書的用務を行うため、前記旅行命令に基づき被告Cに対し本件旅費を支給することは社会通念上必要とされる範囲であるから、被告Cに対する本件旅費の支給に違法性はない。

二  以上によれば、被告B及び同Cに対する本件旅費の支給に違法性がない以上、その余の争点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 一志泰滋 裁判官 脇博人 裁判官 小松本卓)

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