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大分地方裁判所 平成元年(ワ)128号 判決 1991年6月27日

原告

上杉百合子

被告

糸永明

ほか一名

主文

一  被告らは各自、原告に対し、金二四三万九一二〇円及びこれに対する昭和六二年一一月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告糸永正太郎は、原告に対し金三万円及びこれに対する昭和六二年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

五  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告に対し、金三一一万〇四二〇円及びこれに対する昭和六二年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  主文二に同じ。

3  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故(以下本件事故という。)の発生

(一) 日時 昭和六二年一一月五日午前八時三五分ころ

(二) 場所 別府市上人南町一九組の二かどや別府店前路上

(三) 加害車 被告糸永正太郎運転の普通乗用自動車(大分五六る五九九九、以下「被告車」という。)

(四) 被害車 原告運転の原動機付自転車(別府市う九二三八、以下「原告車」という。)

(五) 態様 原告が原告車を運転して前記道路を亀川方面から別府方面に向けて進行中、その右側を同一方向に進行してきた被告車が、原告車を追越す際左側に寄り過ぎたため、被告車左前部が原告車右後部に衝突し、原告は原告車とともに転倒した。

2  責任原因

(一) 被告糸永明は、被告車の所有者であつて、これを自己のために運行の用に供していた者であるから、自賠法三条による責任がある。

(二) 被告糸永正太郎は、本件事故発生につき、左前方不注視の過失があつたので、不法行為者として民法七〇九条による責任がある。

3  傷害、治療経過

(一) 傷害

原告は、本件事故により、左肩関節・両膝関節挫傷、左手部挫創、左膝部挫創、頭部外傷(Ⅰ)、頚部挫傷、左手関節挫傷の傷害を負つた。

(二) 治療経過

原告は、事故発生当日である昭和六二年一一月五日及びその翌六日、照波園病院に通院して治療を受け、次いで同日から昭和六三年一月一八日まで七四日間ふじクリニツクに、同年一月二〇日から同月二六日まで七日間新森内科病院にそれぞれ入院したほか、同月二八日から同年二月二日までの六日間新別府病院に通院して治療を受けた。

4  損害

(一) 治療費 合計一一四万三三七〇円

照波園病院分 二万四一八〇円

ふじクリニツク分 一〇〇万四一八〇円

新森内科医院分 五万七九八〇円

新別府病院分 一万八五三〇円

原告は、新森内科医院の医師の指示のもとに昭和六三年二月五日以降漢方薬を服用し、その代金として三万八五〇〇円を要した。

(二) 診断書文書料 一万円

(三) 入院雑費 合計一〇万五三〇〇円

入院一日につき一三〇〇円として、その八一日分。

(四) 休業損失 合計三三万六七五〇円

原告は、亀山歯科病院に勤務して、月額六万八二五〇円の給与の支払を受けていたところ、本件事故により昭和六二年一一月から昭和六三年一月までの三か月間休業を余儀なくされた。

計算式 68,250×3=204,750

原告は、夜間一一人の生徒を相手に書道の個人指導をし、一人につき月額四〇〇〇円の報酬を得ていたが、前述のとおり三カ月間休業を余儀なくされた。

計算式 4,000×11×3=132,000

(五) 慰謝料 一二〇万円

(六) 弁護士費用 三一万五〇〇〇円

(七) 車両損害 三万円

本件事故により被告車が破損して使用不能となつたため、原告は中古車を買い替えた。

5  よつて、原告は被告らに対して、4(一)ないし(六)の損害合計金三一一万四二〇円、被告糸永正太郎に対し、4七の損害(物損)金三万円、及びこれに対する事故当日である昭和六二年一一月五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、原告主張の日時場所において原告及び被告糸永正太郎がそれぞれ原告主張の車両を運転して亀川方面から別府方面に向かつて同一方向に進行した事実は認めるが、その余は否認ないし不知。

2  同2の事実のうち、被告糸永明が被告車の所有者であつて、これを自己のために運行の用に供していたことは認めるが、その余は不知ないし争う。

3  同3、4の事実は不知。

4  同5項は争う。

三  被告の主張

本件事故は、原告が、被告車の後方で自ら転倒したことにより発生したものである。原告は、本件事故の発生原因につき、原告車右側後部の方向指示器に被告車が追突したことにある旨主張しているが、原告の右主張は、原告の事実に基づく推測に過ぎず、以下の事実に照らし措信し難い。即ち、

1  仮に原告主張のとおり被告車が原告車に追突したと仮定した場合、原告車は被告車の前方に押し出される形となるから、本件道路の幅員からみて被告車は原告車の上を乗り越えない限り前方に進めなくなるはずであるが、被告車が原告車の上を乗り越えて行つた痕跡はない。

2  本件事故直後の実況検分に立会つた警察官が被告車の車体等を点検したところ、原告車と被告車の接触痕は認められず、結果として警察官は本件事故の発生原因について原告の自過失転倒と判断した。

四  被告の主張に対する反論

本件事故は、被告車が原告車に衝突して発生したものである。即ち、

1  本件事故現場に居合わせた安部正弘は「白い乗用車が単車に接触したので音がした」と証言し、原告は後部方向指示器に衝撃を感じ、後部右側の方向指示器のプラスチツクカバーが破損していた。

2  衝突直後原告の溝の中にうつ伏せになつて倒れ、鼻の中まで泥がつまつている状態であり、原告車のハンドルの軸は折れ、バツクミラーと方向指示器も損壊していたもので、原告が強い衝撃を受けたことを示している。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事実のうち、原告主張の日時場所において原告及び被告糸永正太郎がそれぞれ原告主張の車両を運転して本件事故現場を亀川方面から別府方面に向つて同一方向に進行した事実は当事者間に争いがないが、本件事故の発生、特に原告車と被告車との接触の事実の有無については争いがあるので、まず本件事故の態様について検討する。

1  前示の争いのない事実に、成立に争いのない甲第一八号証、乙第三号証の一、二、原告本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したと認められる甲第三ないし第五号証、第一五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第一七号証、第一九号証、証人安部正弘の証言、原告(第一、二回)被告糸永正太郎の各本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く)、弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  本件事故現場付近の道路状況は、概ね別紙添付図面(以下「現場見取図」という。)に記載されたとおりであり、本件事故現場の道路(以下「本件道路」という。)は、亀川方面(北)から別府方面(南)に向けて南北にのびる歩車道の区別のないアスフアルト舗装道路で、有効幅員が三、五四メートルで、右道路の東側道路外側線の外側に〇、五一メートルの路側帯が設置され、その東側は側溝となつていること、

(二)  昭和六二年一一月五日午前八時三五分ころ、原告は、原告車を運転して本件道路を本件事故現場に向つて進行中、その手前にある信号機により交通整理の行われている交差点を、赤信号で一たん停止した後、先行するバスや乗用車をやり過ごした後、時速約一〇から一五キロメートルで亀川方面から別府方面に向けて直進・通過し、被告は原告が右交差点を通過した後、時速約二〇キロメートルで同交差点を上人ケ浜方面から左折して別府方面に向けて本件道路に進入したこと。

(三)  原告は右交差点を通過した後、後方から被告車の接近するのをバツクミラーで確認し、被告車との衝突を回避するために路側帯に沿つて徐行していたところ、現場見取図の×点付近で原告車の右後部に衝撃を覚えたこと、

(四)  その直後、原告は現場見取図の○点の側溝の蓋のない部分に頭部・左肩から転落していき、体全体が半回転してヘルメツト着用のまま後頭部が側溝脇の民家の樋に激突し、その際意識不明となり、その後救急車で照波園病院に運ばれ、同病院で意識を回復するまで意識が回復しなかつたこと(原告本人尋問の結果(第一回)中原告が臀部が側溝に填まつた旨の供述部分は、証人安部正弘の証言に照らし、直ちに信用できない。)

(五)  本件事故の結果、原告は左肩関節・両膝関節打撲挫傷、左手部挫創、左膝部挫創、頭部外傷(Ⅰ)、頚部挫傷、左手関節挫傷の傷害を負い、原告車は、ハンドルの軸が折れ、右側のバツクミラーと後部右側の方向指示機が破損したこと、

(六)  訴外安部正弘は、前記事故現場付近の交差点で信号待ちをしていた者であるが、同人は白い乗用車が単車と衝突したような「ガチヤ」という音を聞き、白い乗用車がそのまま通り過ぎようとしたので後続のバスに向かつて「あの白い車だ。」と指を指した後、溝にうつ伏せになつて倒れている原告を救助したこと、

(七)  被告は、本件道路に進入した後、前方を進行する原告に全く気づかず、「ひき逃げだ。お前だ。お前だ。」という声を聞き、左後方を振り返えると、後部窓越しに単車が転倒し、人が側溝に頭から突つ込んでいるのが見えたこと、被告は被告車を本件事故現場近くの叔母の家の駐車場に停め、事故現場に引き返したこと、被告は、前同日、事故現場における警察の実況見分に立会し、原告車との接触には全く気がつかなかつたと説明したが、原告の運ばれた病院に赴き、自分が事故を起こしたのであれば、病院代は保険で支払う旨原告に述べたこと、

(八)  本件事故処理を担当した別府警察署の係官は、本件事故は原告が蓋で覆われていない側溝部分に足を着こうとしたために溝に転落して発生した自損事故と判断したこと、

(九)  本件事故当時、本件道路には被告車の他に原告車と衝突する可能性のある車両は存在しなかつたこと

以上の事実が認められる。

以上の事実を総合すると、被告糸永正太朗は前方注視を怠つたため、前方を進行する原告車に気づかないまま被告車前部を原告車右後部に接触させ、本件事故を惹起させたと推認するのが相当である。

2  被告らは、本件事故は、原告が被告車の後方で自ら転倒したことにより発生したものである旨主張し、その根拠として<1>被告車が原告車の上を乗り越えて行つた痕跡が無いこと<2>警察が本件事故原因を自過失転倒と判断したことを挙げている。

しかし、<1>の点についていえば、原被告車両間の接触が原告車の後部正面からの追突ではなく後部右側からの追突であり、原告は事故当時の記憶を失つているので、被告車に追突された原告車の移動の経緯は必ずしも明らかでないが、原告車は、左前方に押し出されることになるから、押し出された原告車が道路脇の側溝の蓋等に衝突した後道路中央部に戻る間に被告車が原告車の右横を通り過ぎることも十分考えられ(むしろ、右のような状態が通常であると考えられる。)る以上、<1>の点から原告主張の追突は生じないものと推断するのは論拠が薄弱である。また、<2>の警察の判断についていえば、別府警察署では本件事故の発生の経緯を前記(八)のように判断しているが、右判断は、原告の受傷部位(左肩関節挫傷、頭部外傷等を負つていながら、腰部・臀部には傷害はなく、右警察の判断のような転倒であれば原告車は原告に倒れかかることになるのに、原告の胸部、腹部、大腿部にも傷害のないこと)、原告の溝への転倒姿勢(うつ伏せ)、原告車の損傷が右側に集中していることに照らせば、明らかに不合理であり、成立に争いのない乙第三号証の二、原告と被告糸永正太朗の各本人尋問の結果によれば、警察は本件事故発生後二カ月以上もの間、実況検分調書はもとより関係者の供述調書も作成せずに事件を放置し、原被告からの事件処理の要求にもかかわらず、本件事故の発生原因を決めかねていたことが窺われるのであつて、右警察の判断自体全く措信することはできないのであり、被告らの主張はいずれも根拠が薄弱であり、前記推認を覆えすに足りない。また、被告糸永正太朗本人尋問の結果中、本件事故直後に行われた警察官の実況検分の際、被告車に接触の痕跡が残つていなかつた旨の供述部分も、これを裏付ける証拠資料を欠き、また、被告車の速度は時速約二〇キロメートル程度と遅く、同方向に進行する原告車に対する衝突(接触)であるから、その衝撃もさほど大きなものとは思われないから、衝突の部位によつては被告車に大きな痕跡を残さず、これを見落とす可能性も否定しえないところであり、右被告糸永正太朗本人尋問の結果によつても、被告車が原告車に衝突(接触)したとの前記推認を左右することはなく、他に右推認を左右するに足りる証拠はない。

3  前記認定事実によれば、本件事故は原告主張どおりの態様で原告車と被告車が接触した結果発生したものと推認するのが相当である。

二  責任

1  被告糸永明が加害車の所有者として自己の運行の用に供していたことについては当事者間に争いがなく、これに右認定事実を合わせて考えれば、被告糸永明が本件事故につき自賠法三条による賠償責任を負うことは明らかである。

2  被告糸永正太朗本人尋問の結果によれば、被告糸永正太朗は原告主張の日時において本件道路に進入した後も本件事故発生に至るまで被告車の左斜め前方を走行する原告車の存在に気付いていなかつたことが窺われ、前示認定の本件事故態様を合わせ考えると、本件事故発生について同被告には前方不注視の過失があつたものと認められる。したがつて、被告糸永正太朗には、本件事故につき民法七〇九条による賠償責任があるものというべぎである。

三  傷害・治療経過

原告は、本件事故により前記一1(五)のとおりの傷害を負い、原告本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第三号証、第四号証、第五号証、第六号証の一ないし三、第九号証、第一一号証及び原告本人尋問の結果(第一回)によれば、請求原因3(二)の(治療経過)記載の事実が認められ、他の右認定を左右するに足りる証拠はない。

四  損害

1  治療費 合計一一四万三三七〇円

前掲甲第四号証、第九号証、原告本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第七号証、第一二号証、第一四号証及び原告本人尋問の結果(第一回)によれば、原告は前示治療のため請求原因4(一)記載のとおりの治療費を要したことが認められる。

2  診断書等文書料 一万円

前掲甲第四号証、第七号証、原告本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第一〇号証、第一三号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故により診断書料として金一万円を要したことが認められる。

3  入院雑費 合計八万一〇〇〇円

原告が合計八一日間入院したことは前記のとおりであり、右入院期間中一日あたり一〇〇〇円の雑費を要することは当裁判所に顕著な事実であるから、入院雑費は合計八万一〇〇〇円と認めるのが相当である。

4  休業損失 二〇万四七五〇円

原告本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第一六号証の一ないし七、原告本人尋問の結果(第一回)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、亀山歯科病院に勤務して、少なくとも月額六万八二五〇円の給与の支払いを受けていたところ、本件事故発生以後、三カ月間前記傷害及びその治療のため稼働することができなかつたものと認められる。したがつて、休業損害を二〇万四七五〇円と認めるのを相当とする。

計算式 68,250×3=204,750

なお、原告本人尋問の結果中には、原告は亀川歯科病院からの右給与の他、書道の個人指導による収入があつた旨の主張があるが、これを認めるに足りる的確な証拠はない。

5  慰謝料 八〇万円

本件事故の態様、前記傷害の内容程度、治療経過等諸般の事情を総合すると、原告が本件事故により受けた苦痛に対する慰謝料は八〇万円が相当である。

6  弁護士費用 二〇万円

本件訴訟の内容、請求額、認容額等諸般の事情に照らし、弁護士費用のうち被告らに負担せしむべき額は二〇万円が相当である。

7  右1乃至6の合計 二四三万九一二〇円

8  車両損害 三万円

原告本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第一五号証及び原告本人尋問(第一回)の結果によれば、本件事故によつて原告車は全損となり、代替車の買替費用として原告は三万円の費用を要したところ、右金額は原告車の車両損害として相当なものと認められる。

四  よつて、被告らは各自、原告に対し右7の二四三万九一二〇円及びこれに対する本件事故の日である昭和六二年一一月五日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、被告糸永正太朗は、原告に対し前記金額の外金三万円及びこれに対する昭和六二年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で理由があるからこれを右の限度で認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 林醇)

別紙 <省略>

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