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和歌山家庭裁判所 昭和58年(家)1685号 審判 1984年5月18日

申立人 吉川美香

相手方 吉川敬司

主文

相手方は申立人に対し四三万六九四七円を即時に、昭和五九年四月以降毎月末日限り六万二四二一円を支払わねばならない。

理由

一(一)  本件申立の趣旨は、「相手方は、申立人に対し、婚姻費用として毎月二〇万円を支払え。」というのである。

(二)  そして、事件の実情として申述するところは、次のとおりである。

(1)  申立人と相手方は、昭和三六年一二月二一日婚姻し、同三七年七月八日長女真理を、同四三年一〇月二日長男誠亮を、同四五年一一月五日次男信をもうけ、申立人と相手方は申立人肩書住居で同居していた。

(2)  相手方は、申立人に対し、一方的に離婚を求め、昭和五八年四月一日上記住居を出て、相手方肩書地に居住している。

(3)  申立人は、長男及び次男(長女は独立し、自活している)と共に生活し、月々の生活費は二〇万円を下らない。

生活費内訳は次のとおりである。

地代     二二、〇〇〇円

食費    一五〇、〇〇〇円

水道光熱費等 四〇、〇〇〇円

火災保険    六、五〇〇円

(4)  相手方は、申立人の再三の申入れにかかわらず上記家出後全く生活費を入れないので、婚姻費用の分担として月額二〇万円の支払を求める。

二  よつて、本件記録中の当庁家庭裁判所調査官の調査結果、各当事者の審問の結果その他本件記録に現われた各資料を総合し、次のとおり各事実を認定し、判断する。

(一)(1)  申立人と相手方は、申立人申述のとおり、婚姻し二男一女をもうけ申立人肩書住居で同居していた。

(2)  婚姻当時相手方は、和歌浦でクリーニング店を経営していたが、昭和四〇年頃から水道工事店の工事見習をし、昭和四三年四月に市内○○町×丁目××番地の借家に移住し、その頃から相手方は水道工事業を独立して営むようになり、昭和四六年頃申立人肩書地に移転した。

右住居は木造瓦葺二階建事務所兼居宅建坪約二三坪位であるが、右はもと平家建であつたものを約一二〇万円で昭和四六年に買取り、昭和四八年に二階建に改造したもので、敷地は借地である。地代は月額二二、〇〇〇円である。

(3)  相手方は、上記住居の道路を隔てた筋向いに位置して宅地四一坪を昭和四七年頃総額約八〇〇万円(時価坪当たり七〇万円位)で買収した。同地上には、倉庫兼ガレージ(建坪約一五坪)がある。

(4)  相手方が、水道工事を経営するようになつて、相手方は申立人に対して昼間住居を留守にすることが多いと苦情を言い、また申立人は、相手方が工事費の請求書の作成等を兎角遅らせがちであるとして、相手方に不平を言うことなどが重なり、又、申立人が日本舞踊を昭和五一年頃から習い始め、そのためより多く昼間留守がちとなつたことや、昭和五二年頃から相手方も日本舞踊を申立人と異なる師匠について習うようになつたが、昭和五五年頃から相弟子の有夫の女性と関係をもつに至つたと申立人が相手方に対して疑念を持ち、互いに夫婦の非難や不平が高じるようになつた。相手方は、昭和五六年頃踊の稽古をやめた。

(5)  申立人は、昭和五六年に師範の免状を得て、日本舞踊の稽古をやめたが、相手方に対して、なお相手方が上記女性と関係を持続しているものと考えていたところ、昭和五七年八月二〇日相手方と上記女性が一緒に車に乗つているのを目撃し、相手方を難詰したところ、相手方は、申立人と別れると言い、申立人は別れるのであれば、現に居住の建物、上記宅地及び同地上の倉庫兼ガレージを貰いたいと言い、相手方はこれに応じた。

(6)  相手方は、申立人に離婚を求め、申立人は、これに対し、上記各不動産の所有権移転を受けることを条件に離婚届に署名押印し、同月二八日頃申立人が信頼していた静岡県○○○○○○○研究所山田健三に預けた。

相手方は、右山田の連絡により、昭和五七年一〇月一九日頃右離婚届書を受取つた。

(7)  相手方は、昭和五八年二月に離婚の際の財産分与としてその所有不動産全部を申立人に譲渡することとし、上記住居建物を申立人所有名義に、上記宅地及び同地上建物の所有権持分四分の一を申立人名義に移転登記し、自余の持分は一年毎に四分の一宛申立人に移転登記する旨約定し、各登記手続をなした。

(8)  上記登記終了後相手方が離婚届書を提出に行つたところ、申立人から離婚届不受理の申立がなされてあり、離婚届は受付けてもらえなかつた。

相手方は、昭和五八年四月上記住居を出て、現住居の土地を借受けて木造スレート葺平家建約二〇坪の倉庫兼事務所を建て水道工事業を引続き経営している。住居は和歌山市○○×丁目×の×○○アパートの一室を借りて一人で暮している。

(9)  申立人は、昭和五八年四月相手方がアパートに居ない間に同室を探して、前記離婚届を見つけて、これを破り捨ててしまつた。

(10)  相手方は、家を出るまでは申立人に月額約三〇万円の生活費を渡していたが、昭和五八年四月に申立人と別居以来生活費を渡していない。

申立人は、生活費を得るためインスタント味噌汁の販売やクリーニングの取次、年末歳暮品の配達をしたり、又事務所と倉庫の賃貸をした。

クリーニング取次の収入は月七、〇〇〇円位、貸家は一回一〇万円貰つただけで借主が事業に失敗して出て行つてしまつた。部屋をピアノ教室に貸そうとしたりクリーニング取次店をするため造作費を借りたがなお残額二四万円位あり、又長女の成人式用の着物を買つたローンの残額三〇万円、地代滞納分一六万円、インスタント味噌汁の買掛金六〇万円、他人からの借金八〇万円(二口)、米代の借金一四万円等総計二二四万円の債務を負つている。

申立人は、昭和五九年一月一日から○○生命保険和歌山支社の外務員として働き、見習期間三ヶ月中は固定給八万二〇〇〇円である。四月以降歩合制となる。今後も継続するかどうかは決めていない。昭和五八年四月から同年一二月までの平均月収は約五万円であつた。

(二)  以上の諸事情からすると、すでに協議離婚届書に署名押印して、これを相手方に交付し、相手方が、離婚のための財産分与として所有不動産の可能な範囲の所有権移転登記を行つた後に、申立人は離婚届不受理申立をし現在もなお離婚の意思はない旨を表明しているのであつて、このような状態のもとで相手方に婚姻費用分担として申立人の生活費を含めた婚姻費用の負担を強いることは相当でなく、婚姻費用として分担を命じうるのは、衡平の見地から申立人と同居している未成年者長男誠亮、次男信の養育費の範囲に限られるべきであると解するのが相当である。そして、申立人には上記の債務があり、生命保険会社外務員見習として固定給は八万二〇〇〇円を三ヶ月支給されるに過ぎないこと、申立人の最低生活費は生活保護基準(昭和五八年度)にてらし、

一般費   2類費  (地代) 住宅維持費

25,940円+24,700円+22,000円+7,083円 = 79,723円

と算定せられること、職業費も要することを考慮すると申立人に未成年者等の扶養余力はないものと認められる。

(三)  次に、相手方の扶養余力を見るに、次のとおりである。

57年度総収入           2,355,000円

所得税(年)    46,600円

県民税(年)    17,400円

市民税(年)    29,250円

社会保険料(年) 370,960円  合計 464,210円

可処分所得月額(2,355,000円-464,210円)÷12 = 157,565円

貯蓄率

貯蓄相当額(月) 157,565円×0.231 = 36,397円

(和歌山県統計年鑑 昭和58年刊行による)

(家賃) (貯蓄額)

配分基礎額157,565円-13,000円-36,397円 = 108,168円

配分比

1類費 2類費夏冬平均

相手方  28,100円+24,700円 = 52,800円

長男誠亮 34,520円+ 3,296円 = 37,816円

次男信  31,140円+ 3,092円 = 34,232円 計 124,848円

配分額

長男 誠亮 108,168円×37,816円/124,848円 = 32,763円

次男 信  108,168円×34,232円/124,848円 = 29,658円

三  そうすると、相手方は、少なくとも婚姻費用の分担として、申立人自身の生活費を含める必要はないが、未成年者両名の養育料相当額に当たる一ヶ月六万二四二一円宛を本件婚姻費用分担の調停の申立のあつた昭和五八年九月以降毎月末限り支払義務があると認めるのが相当である。

したがつて、相手方は、すでに支払期の経過している昭和五八年九月以降昭和五九年三月迄の七ヶ月分合計四三万六九四七円については即時に、昭和五九年四月以降は毎月末限り一ヶ月六万二四二一円宛を申立人に支払わねばならない。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 長谷川俊作)

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