大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

和歌山地方裁判所新宮支部 昭和41年(ワ)50号 判決 1977年6月08日

原告 笹野益男

右訴訟代理人弁護士 木村保男

右同 的場悠紀

右同 坂和章平

破産者有限会社山吉製材所破産管財人

被告 松本孝義

被告 尾畑宇一

右訴訟代理人弁護士 野間友一

右訴訟復代理人弁護士 良原栄三

主文

一、原告、被告破産管財人間において、原告が(破産者)有限会社山吉製材所に対し、金二〇七万三、四五六円及びこれに対する昭和四一年一一月一二日から昭和四七年一二月二一日まで民法所定年五分の割合による金員の支払請求債権を有することを確認する。

二、被告らに対するその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は原告と被告尾畑との間においては全部原告の負担とし、原告と被告管財人との間においては原告に生じた費用を六分し、その一を同被告の負担とし、その余を各自の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告(請求の趣旨)

「一、被告管財人は、原告が、(破産者)有限会社山吉製材所に対し、金三、〇七五、〇〇〇円の損害賠償債権及びこれに対する遅延損害金九四四、四〇四円の各債権を有することを確認する。二、被告尾畑宇一は、原告に対し金三、〇七五、〇〇〇円並びにこれに対する訴状送達の日の翌日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。三、訴訟費用は被告及びその訴訟承継人らの負担とする。」との判決及び第二項に限り仮執行宣言。

二、被告ら(答弁の趣旨)

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二、当事者の主張

一、原告(請求原因)

(一)別紙目録記載の山林は本宮町の町有であり、同町三里財産区が管理するものであるが、原告は昭和三七年一一月二三日頃前記山林の立木全部を訴外上野虎彦から買受け、同日本宮町役場に於て右立木の所有権移転の名義書換の手続を了した。

(二)昭和三八年一一月二四日頃原告は破産前の有限会社山吉製作所(以下、訴外会社と略す)が伐採人夫古根川宗一等を雇って前記山林上の立木を伐採していることを発見した。よって直ちに訴外会社に右立木が原告の所有であることを説明して伐採の中止を申入れたが被告会社は故意又は過失により、伐採を続け、前記山林中の立木を殆んど全部伐採搬出して売却した。

(三)原告は訴外会社の不法行為によって次の損害を蒙った。

1.右不法行為当時前記山林には杉・檜の三〇年生が約一、七二〇本、松、栂、樅等いわゆる黒木が約一五〇本(他に杉、檜の四年生が五、九〇〇本余り)が植林されていた。

2.右三〇年生杉、檜は右伐採当時でも建築材として使用でき交換価値を有していたが、原告はもう一〇年育成し、四〇年生の材木となった時点で伐採して売却することを計画し、その計画に従って下刈等をしていた。訴外会社の不法行為がなく原告の計画どおりに進めば昭和四八年一一月二四日頃には最も少く見積っても一、三七六石の杉、檜の原木を伐採することができる。

ところで現在原木の搬出先の新宮市では四〇年生の杉、檜の石当りの単価は金四、〇〇〇円を下廻るものではなく、又伐採搬出に要する費用は金一、三〇〇円を上廻ることはないから今後七年間は価格の騰貴こそすれ下落は考えられないところであり、右原告の取得する得べかりし利益は石当り金二、七〇〇円、総計金三七〇万円を下らない。

3.ところで前記2の損害を現在請求するとすれば七年間年五分の中間利息を控除した金二七〇万円となる。

4.松、栂、樅等の黒木約一五〇本はおよそ二五〇石と推定されるが、早くとも昭和四一年一一月まで原告に於て伐採する予定がなかったので、現在の価格は伐採搬出費用を差引いても石当り金一、五〇〇円を下過ることはないのでその対価は金三七五、〇〇〇円相当である。

5.よって原告は訴外会社に対して3.4.の合計額金三、〇七五、〇〇〇円の損害賠償請求権を有する。

(四)訴外会社は昭和四七年一二月二二日当裁判所支部昭和四七年(フ)第一号破産事件で、破産宣告を受け、同日当裁判所支部は、被告を破産管財人に選任した。

(五)そこで、原告は右破産者に対して、昭和五〇年六月一九日当裁判所支部に対し前記請求の趣旨第二項記載(但し、遅延損害金は訴状送達の翌日たる昭和四一年一一月一一日から破産宣告日たる同四七年一二月二一日まで民法所定年五分の割合)の金員につき各破産債権の届出をした。

(六)昭和五〇年七月三一日の債権調査特別期日に右破産管財人である被告は、前記原告届出債権の全部につき異議を述べた。

(七)被告尾畑宇一は訴外会社の代表取締役であるが、原告は昭和三八年一一月二四日頃被告会社の前記不法行為を発見した際直ちに右立木が原告の所有であり、伐採を中止するよう被告尾畑に申入れた。被告尾畑は訴外会社の代表者として一時伐採を中止し、事情を調査すべきであり、そうすれば原告の所有であることが判り、当時訴外会社の伐採総数は杉、檜約二、三〇本程度で、かつ伐採した右原木は本件山林にいまだ搬出されずに置かれていたので、伐採を取止めて右原木を原告に返還すれば、原告は前記の如き損害を蒙らなかった。しかるに被告尾畑は被告会社の職務を行うにつき、悪意又は重大なる過失により前記被告会社の立木伐採を原告の制止を排除して強行したことにより原告に前記の如き損害を蒙らせた。したがって、被告尾畑は原告に対して金三、〇七五、〇〇〇円の損害を賠償すべき義務がある。

(八)よって、原告は被告らに対し次の請求をする。

1.被告尾畑に対し、金三、〇七五、〇〇〇円及びこれに対する本訴状送達の翌日から右支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払。

2.被告管財人に対し、原告が訴外破産会社に対し金三、〇七五、〇〇〇円の損害賠償債権及びこれに対する破産宣告日までの遅延損害金九四四、四〇四円の各債権を有することの確認。

二、被告ら(答弁・主張)

(一)答弁

1.原告主張の請求原因(一)の事実は認める。

2.同請求原因(二)の事実は否認する。

なお、訴外会社は、昭和三八年七月二五日頃、訴外堀内甚太郎から、和歌山県東牟婁郡三里村大字切畑字西谷垣内一、五一八番地のうち、小字細野口第九一号の一並びに第九二号(一一八、九八八・二六平方メートル)地上の立木を買受け訴外古根川繁雄に伐採搬出を請負わせたことはある。

3.同請求原因(三)の事実は全部知らない。

4.同請求原因(四)、(五)、(六)の事実はいずれも認める。

5.同請求原因(七)の事実のうち、被告尾畑が訴外会社の代表取締役であることは認めるが、その余は否認する。

(二)本案前の答弁

原告主張の請求は、昭和四一年三月二三日確定の当裁判所支部昭和三九年(ワ)第一九号損害賠償請求事件の判決によって、被告尾畑は原告に対して損害賠償の責任はないとの既判力が存在する。

(三)積極否認の主張

1.本件立木は訴外会社の所有であった。原告は、右立木を訴外上野虎彦から買受けた旨主張するが、右立木は昭和三八年七月二五日頃訴外会社が訴外堀内甚太郎からその代理人たる杉坂徳市の山林案内により、和歌山県東牟婁郡三里村大字切畑字西谷垣内一、五一八番地のうち小字細野口第九一号の一ならびに第九二号地上の立木として買受け、訴外古根川繁雄に伐採搬出を請負わせたものである。訴外会社は自己所有の立木を伐採搬出したものであって、何らの違法もない。

2.仮に、右立木が原告所有のものであったとしても、右立木伐採搬出につき、被告尾畑は、何ら悪意又は重大なる過失はない。訴外会社は、右立木を買受けるにあたり、前主堀内甚太郎の代理人たる訴外杉坂徳市の案内によって、山林の境界線ならびに立木の説明を受けたところ右立木は堀内山のものであり、この地番附近には伐り木としては堀内山以外にはない旨の指示説明があり、被告らは右杉坂の言を信じて、右立木を右堀内の所有物であることを前提として金三七〇万円で買受け、伐採搬出したものである。右買受代金三七〇万円には当然右立木代金が含まれていた。

以上の事情であるから、訴外会社の右立木伐採に際しては、被告尾畑は当然訴外会社所有物として取扱い、原告所有物であったことには思いが及ばず、原告に損害を加える意思もなければ、重大なる過失もなかった。

右立木伐採中、原告の方から一時伐採中止の申入れがあったが、その時には既にほとんどの立木が伐採搬出の終った後であった。

被告尾畑は全く自己買受け立木であると確信していたものであって、第三者たる原告が何らの証拠も呈示することなく、ただ自己所有物である旨のみ主張し、右立木の伐採中止の申入れをなしたからといって、被告尾畑が中止しなければならない義務はない。

したがって、被告尾畑に重大なる過失に基づく右立木伐採があったという原告の主張は失当である。

第三、証拠<省略>

理由

第一、当事者間に争いのない事実

原告主張の請求原因(一)、(四)、(五)、(六)の全事実及び同請求原因(七)のうち、被告尾畑が訴外会社の代表取締役である事実はいずれも当事者間に争いがない。

第二、伐採立木の帰属等

原告主張の請求原因(二)、即ち、本件伐採立木が原告の所有に属するものか、被告所有のものか、及びその伐採状況、過失、損害等につき検討する。

<証拠>を総合すると、

(一)昭和三七年八月頃、原告は上野虎彦を通じ奈良県吉野郡十津川村七色在住の某から別紙目録記載の山林(以下、かつら峪の山林と略す)の立木を買受け、立木に「三光」なる文字を墨書して明認方法を施したうえ、時折下刈をするなどの管理をしていた。

(二)同年一一月二三日原告は本宮町役場において右立木の売買登記を了した。

(三)昭和三八年二月頃原告は山の下刈をするため現地に赴き、上野虎彦及び八木尾部落長で財産区の管理人某等の案内を受けて境界を確認したが、同人らの説明によると、別紙図面の上方(南側)は横道、下方(北側)は谷、左側(東側)は岡、右側(西側)は尾根までの範囲であるとのことであった。

(四)同年七月二五日訴外会社はその代表取締役である被告尾畑が同会社を代表して堀内甚太郎から代金三七〇万円で前記被告の(一)答弁2記載の山林(以下、細野口の山林と略す)の立木を買受けた。

(五)同年八月頃被告尾畑は右売主堀内の立木管理人杉坂徳市、竹内繁松らの案内で現地を見分にいった。その際、別紙現場見取図の果無街道の峠から小径を通って北西に向い峪(サコ)に至るまでを歩き、右杉坂から境界の指示を受けたが、同人は同小径から下方(八木尾谷側、北側)については実際に案内せず、その下方の部分は荒れ込みになっており、下の方の境界ははっきりしないがその中にある類木檜は堀内山のものだと思うと被告尾畑に説明した。なお、右杉坂以外のものは現地不案内であったうえ、杉坂自身も以前上野虎彦から教えて貰ったところを被告尾畑に説明したに過ぎない。

(六)結局、被告ら主張の細野口の山林の範囲は別紙現場見取図のイ、ロ、ハ、ニ、ト、チ、イの各点を順次結んだ線で囲まれた土地(以下、尾畑山と略す)であり、原告主張のかつら峪の山林は一番下方の谷傍に桂の木がある上方で別紙現場見取図のニ、ホ、ヘ、ト、ニの各点を順次結んで囲まれた土地(以下、笹野山と略す)であると認められる。

(七)同年八月一五日訴外会社を被告尾畑が代表して古根川繁夫との間に細野口の山林につき伐採搬出、訴外会社工場着渡石当り一、三〇〇円で立木伐採搬出契約を締結し、同人に立木の伐採搬出を依頼した。

(八)同年一一月頃古根川繁雄は古根川宗一らを人夫として雇い立木の伐採にかかったが、その際細野口の山林の範囲を前記尾畑山の地域を越えて前記笹野山にまで及ぶものとして笹野山に生育していた立木、三〇年生位の杉、檜二〇~三〇本位を伐採した。

(九)同月二四日頃原告は右笹野山付近へ従業員古谷亀、内野平史を連れて山の下草の状況を調査に行った際、前記伐採を知った。そこで、下山して前記伐採責任者古根川繁雄に連絡しようとしたが同人は不在であった。

(一〇)翌二五日原告は上野虎彦を通じて被告尾畑に伐採中止を申入れたが、同人は「堀内に話してくれ」といってこれを受けつけず、またその後右上野が古根川繁雄に抗議を申入れたところ、右古根川は「聞く耳は持たん、筋違いだ文句があるなら所有者(被告尾畑)の所へ行け」と突ばねた。

(一一)その二、三日後中伝次が古根川繁雄に対し「境界がはっきりするまで伐採を中止してくれ」といったので同人は一時伐採を中止した。

(一二)翌昭和三九年一月頃原告は新宮市内で被告尾畑に面談して不法な伐採を咎めたところ、同被告は「堀内から買ったのだから文句があるなら堀内に言ってくれ」といってこれにとり会わなかった。

(一三)その頃、財産区の役員をしている本宮町八木尾の中伝次が「伐り残されたら困る、全部伐ってくれ」と言ったこともあって、被告尾畑は前記笹野山全域の立木の伐採続行を命じ、これにより古根川繁雄らは前記笹野山の全立木を伐採搬出した。

(一四)この伐採立木は、三〇年生の杉、檜が一、七二〇本位と黒木若干で、石数にして、杉、檜が四〇〇石位、黒木二〇〇石であって、原告は当時、なお一〇年育成して伐採売却する意思であった。そして約一〇年後の新宮市内における原木市場での価格は杉四〇年生品質中石当り五、三〇〇円、檜四〇年生品質中石当り八、〇〇〇円、黒木は本件伐採による不法行為時においては少くとも品質中石当り一、五〇〇円であり、結局原告は前記伐採により、杉、檜二六六万円()から、不法行為時までの一〇年間の中間利息をホフマン式計算法により差引いた金額一七七万三、一五六円(2,660,000円×0.6666=1,773,156)、黒木三〇万円(1,500×200=300,000)計二〇七万三、一五六円の損害を蒙った。

以上の各事実を認定でき、これらの事実を併せ考えると、(1)被告尾畑は訴外会社の業務執行として本件立木を伐採したが、これはかつら峪の山林内にある原告所有の立木であって、被告尾畑が原告からの伐採中止の申入れがあったにもかかわらず十分な調査もせず、案内人杉坂徳市の指示説明を自己に有利に身勝手な解釈をし、伐採請負人古根川宗一らの言を軽信して本件立木の伐採の続行をなしたのは同被告に軽過失があり、この過失による行為として原告主張の請求原因(二)の事実、(2)原告主張の請求原因(三)の事実中、原告は被告尾畑が訴外会社の業務執行としてなした本件立木伐採の前記不法行為により原告は前認定(一四)のとおり金二〇七万三、一五六円の損害を蒙った事実を推認することができ、この認定に反する証人古根川繁雄、同堀内秀夫、同杉坂徳市の各証言部分及び被告兼受継前の被告会社代表尾畑宇一、被告尾畑宇一各本人尋問の結果部分はいずれも前記各証拠に照らすと遽かに措信できないし、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

また、原告主張の請求原因(三)の事実中、前認定の損害を超える部分の損害が生じたとの主張(不法行為の一〇年後の杉、檜育成による石数増加の主張を含む)は本件全証拠によるもこれを具体的に認めるに足る証拠はない。なお、不法行為時から一〇年後に杉、檜が多少とも育成し石数が増加することは経験則上明らかであるが、その具体的数値については前記のとおりこれを認定するに足る証拠はないし、一〇年間の育成に要する下刈その他の育成費用についても何ら主張立証がない。

第三、被告尾畑に対する請求の検討

一、成立に争いのない甲第一号証によれば、さきに原告から被告尾畑に対し本件立木の伐採による損害賠償請求の訴を当裁判所支部に提起したが、同裁判所支部は昭和四一年三月二三日、「原告の請求を棄却する。」旨の判決をなし、同判決は同年四月二一日確定したことが認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

二、そして、原告は被告尾畑に対し本訴において本件立木伐採という同一理由によって損害賠償請求をなし、本訴は有限会社法三〇条ノ三第一項前段に基づく請求であって前訴の民法七〇九条に基づく不法行為責任とは訴訟物を異にするので既判力に触れるものでないとしているようである。なるほど、一般的には同条項ないしこれと同文同旨の商法二六六条ノ三第一項前段(以下、本条項のみを略記する)の賠償責任と民法七〇九条等の不法行為責任とは請求権競合の関係にあって、訴訟物を異にするといえるが、それは商法二六六条ノ三第一項前段の責任が認められるもののうち、その責任要件が民法七〇九条等の不法行為の要件と異なった間接損害的な構成を要する場合にいえるのであって、無差別的にいわゆる直接損害をも広く含めて商法二六六条ノ三第一項前段の責任要件を認める判例の立場からは(最判(大法廷)昭四四・一一・二六民集二三巻一一号二一五〇頁参照)、自ら請求権競合ないし既判力の範囲にも制約を受ける部分が生ずるものと考える。即ち、特段の事情のない限り、商法二六六条ノ三第一項前段の責任を否定する既判力が存在しても、さらに民法七〇九条の不法行為責任を追及することは許されてよいが、これとは逆に不件ののように同じく同一立木の伐採という直接損害による損害賠償を求め、一たん、より責任要件の緩やかな軽過失を含む民法七〇九条の責任が否定されその旨の既判力が生じているのに、これに比し責任要件のより厳格な悪意、重過失を必要とする商法二六六条ノ三第一項前段の責任の追及が単に法名が異なるとの理由だけで是認されるべきいわれはないのである。けだし、軽過失による損害賠償の請求さえ既判力により許されない者が重過失があるとしてそれによる賠償請求を許容されるのは軽過失のないところに重過失が存在する筈はないのだから、そのこと自体が背理であって、これを許容すべき根拠は見出し難いし、これを許容すれば徒らに紛争の蒸し返しが行なわれ、法的安定性を害するので、いわゆる争点効の趣旨からも許されないからである。もっとも、商法二六六条ノ三第一項前段の要件は民法七〇九条と異なり、悪意、重過失などの主観的容態は、直接加害行為に関する故意過失ではなく、会社の「任務懈怠につき取締役の悪意または重過失」があるとか(前掲最高裁大法廷判決参照)任務懈怠により会社に損害を与えたとかいう事実を主張、立証する場合には、民法七〇九条との競合を認めて商法二六六条ノ三第一項前段に基づく再訴を許容してよいであろう。

しかしながら、原告は当裁判所の再三の釈明にもかかわらず有限会社法三〇条ノ三第一項前段に要求される会社の任務懈怠につき悪意、重過失があることはもとより、任務懈怠により会社に損害を与えたとの主張、立証をせず、ひたすら会社職務の執行にあたり、本件立木伐採による直接の加害行為につき悪意、重過失あることを主張するのみであるばかりか、前認定のとおり、被告尾畑には軽過失があると認められるが、前記一で認定した各事実に照らしても被告尾畑が訴外会社の任務懈怠につき悪意、重過失があったものとは認められないし、本件全証拠によるもこれを認めるに足る証拠はない。

したがって、原告の被告尾畑に対する本訴請求は既判力ないし争点効に触れ不適法であるか、少なくとも有限会社法三〇条ノ三第一項前段の要件である会社の任務懈怠につき同被告に「悪意又ハ重大ナル過失」あることの主張、立証がないので、その理由がないものといわねばならない。

第四、結論

以上のとおりであるから、訴外会社は原告に対し不法行為による損害賠償及びこれに対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四一年一一月一二日から訴外会社の破産宣告日までの民法所定年五分の割合による遅延損害金として主文第一項記載の金員の支払義務があり、被告管財人は原告の右債権を確認する義務があることが明らかである。よって、被告管財人に対しその確認を求める原告の本訴請求部分は右の限度でこれを認容することとし、同被告に対するその余の請求及び被告尾畑に対する原告の本訴請求はいずれもその理由がないことが明らかであるからこれを失当として棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉川義春)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例