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和歌山地方裁判所 昭和54年(行ウ)1号 判決 1980年12月22日

和歌山市黒田一二番地

原告

株式会社東洋精米機製作所

右代表者代表取締役

雑賀和男

右訴訟代理人弁護士

澤田脩

右訴訟復代理人弁護士

藤田正降

和歌山市湊通り北一丁目一番地

被告

和歌山税務署長 宮崎英夫

右指定代理人

山中忠男

嶋村源

高橋正行

竹田二郎

本田恭一

坂田暁彦

小林敬

西峰邦男

城尾宏

杉山幸雄

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、原告の昭和五一年四月一日から昭和五二年三月三一日までの事業年度の法人税確定申告について、昭和五二年五月二五日付で原告に対してなした申告期限延長申請却下の処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は昭和五二年五月一四日付で、被告に対し、昭和五一年度分(昭和五一年四月一日から昭和五二年三月三一日までの事業年度分。以下、これに準ずる。)法人税確定申告の延期申請をしたが、被告は昭和五二年五月二五日右申請を却下(以下、「本件処分」という。)した。

2  原告は、同年七月二五日、被告に対し、本件処分について異議申立をしたが、被告は同年一〇月六日右申立を棄却した。

3  原告は、同年一一月七日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、同所長は、昭和五三年一〇月一七日、右請求を棄却した。右審査請求を棄却した理由の要旨は、

(一) 和歌山地方検察庁では、原告から証拠物の閲覧申請があれば閲覧させ、また決算に必要な書類で公判上必要なものは謄写させ、公判上必要でないものは還付している情況が認められる。

(二) 本件事業年度より以前の昭和四八年度分の法人税申告について、原告は既に確定申告書を決定期限までに提出していて、右年度と本件事業年度との間に特に事情の変化は認められない、

というものである。

4  しかし、右は全く事実に反する。すなわち、

(一) 原告は、法人税法違反嫌疑により、昭和四七年八月三日大阪国税局から、昭和四八年四月一二日及び同月二五日和歌山地方検察庁から、計三回にわたって決算上必要な殆んどの書類を押収され、その後、その一部について仮還付を受けたが、なお大部分の書類は領置されたままで、その閲覧、謄写もままにならなかった。

そのうえ、本件確定申告に是非とも必要なノート(国税局領置番号押証第六二四-一、検察庁領置番号昭和四八年領第四一五号符第五八七の一号。以下「無題ノート」という。)は、和歌山地方検察庁に保管されている筈であり、原告はかねてより特に無題ノートの閲覧を求めているのに、右検察庁はその所在が明らかでないため、現在捜索中であるとの釈明をしている。

右無題ノートには、原告と財団法人雑賀技術研究所及び雑賀慶二との継続的な協力金、特許料支払等に関する取決めが記載されており(昭和四七年七月末から同年八月二日まで関係者で話し合った結果合意された。)右ノートが閲覧しえぬ状況では、昭和四七年度、同四八年度分の決算確定は不可能であり、従って、その後の年度である昭和五一年度分の決算確定、並びに法人税の確定申告もなしえなかった。

(二) 原告は昭和四八年度分の法人税申告につき確定申告書を提出したものではない。原告は昭和四七年度分の申告に関し、前記事情により決算確定ができないことを理由に、被告に対し申告期限の延長を申請中、被告職員から決して不利益な取扱いはしないので概算でもよいから申告するようにとの教示をうけ、仮の申告をなし、次いで昭和四八年度分についても、事情が異らないところから、前同様仮の申告をしたにすぎないものである。

5  以上のように、原告が押収を受けた書類のうち、未だ仮還付を受けず、また閲覧をうけていないもののうちに決算確定に必要なものがあるのに、被告は誤って、決算に必要な書類で公判上必要なものは謄写させ、公判上必要でないものは還付していると認定し、また、原告は、昭和四七・四八年度分法人税について、被告職員の教示に従ってやむなく仮りの申告をしたにすぎないところ、被告は誤ってこれらを確定申告と認定し、右誤った認定を前提にして本件処分をしたのであるから、この点で本件処分には違法がある。

よって、原告は被告に対し、本件処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3は認める。

2  同4及び5は争う。

(一) 原告は、昭和四八年一〇月一日及び昭和四九年五月三一日に、それぞれ昭和四七年度分及び昭和四八年度分の法人税確定申告書を被告に提出し、右各申告書には各事業年度に係る貸借対照表及び損益計算書を、特に昭和四八年度分については各勘定科目内訳書をも添付している。このように、昭和四七・四八年度分について有効な確定申告をしているのであるから、その後特段の事情の変化も認められない昭和五一年度について確定申告ができない理由はない。

(二) 原告に対する大阪国税局の書類押収の際も、昭和四七年度分の基本的な会計帳簿については、当初から原告に保管させる措置がとられ、その後の事業年度の各取引に係る書類は押収の対象となっていないし、また、押収された帳簿等で決算に必要なものは、原告に閲覧させるよう配慮が施されていたのであるから、昭和五一年度分の確定申告に、何ら支障はない。

(三) また本件無題ノートに記載されていたという取引に関する協定の内容は、協定の相手方も当然了知しているものであるから、原告が相手方に対し右協定の内容の確認を求めることは極めて容易なことである。

(四) 仮りに、無題ノートに記載されていたという内容が確定しえないのであれば、当事者間で暫定的な取決めをして決算するか、再協議して改めて取決めをして決算するか、確定しえない部分を除外して決算するか、或いは相当の見積額で決算し、後日金額が確定した事業年度において修正決算するなりして決算すべきである。

(五) 更に、商法においては、会社は決算期ごとに決算をして貸借対照表及び損益計算書等の財務諸表を作成し、右財務諸表は毎年一回以上開催される定時株主総会において承認を求むべきこととされているにもかかわらず、無題ノートの内容を確認しえないことの一事をもつて、昭和四七年四月一日以降の事業年度の決算が全くできないとする原告の主張は失当というほかはない。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第八号証

2  証人滝本敏彰

3  乙号各証の成立(第三ないし第五号証については原本の存在も)を認める。

二  被告

1  乙第一ないし第八号証

2  甲号各証の成立(第一ないし第六号証については原本の存在も)を認める。

理由

一  本件処分等の概要

請求原因1ないし3は当事者間に争いがない。

二  原本の存在及び成立に争いのない甲第一号証、乙第三号証、証人滝本敏彰の証言によれば、原告は昭和四四年度ないし昭和四六年度分の法人税法違反の嫌疑で、昭和四七年八月三日より昭和四八年四月二五日までの間、三回にわたって、大阪国税局及び和歌山地方検察庁より、原告主張の無題ノートを含め、多数の帳簿類等を押収されたこと、右無題ノートは和歌山地方検察庁において保管中、所在が分らなくなり、現在なお所在不明であることが認められる。

三  原告は、右無題ノートには、原告と財団法人雑賀技術研究所及び賀雑慶二との継続的な協力金、特許料支払等に関する取決めが記載されており、右ノートを資料としない限り、昭和四七年度分、同四八年度分の決算確定は不可能であり、従ってその後続年度である昭和五一年度分の決算確定、並びに法人税の確定申告も不可能である旨主張する。

しかし、前記甲第一号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第三号証、乙第五号証、成立に争いのない乙第一、二号証によれば、原告は、その後、還付をうけた帳簿類、及び押収後新しく作成した帳簿、伝票類等を参照にして、でき得る限りの範囲内で損益計算をなし、これに基づいて、昭和四七年度分については昭和四八年一〇月一日「仮申告書」と題する書面を、昭和四八年度分については昭和四九年五月三一日「確定申告書」と題する書面を、それぞれ被告宛提出していること、右「仮申告書」及び「確定申告書」は、いずれも法人税法施行規則別表に定める書式を用い、昭和四七年度分の申告書につき、その表題部「申告書」と印刷された個所の前の空白部分に「仮」と記載されているほかは、両書面とも同規則に定める記載要領に従い、法人税の確定申告として必要な事項の全てが記載されてあり、その内容は修正申告書、或いは中間申告書とはみられないものであって、所得金額又は欠損金額、本申告により納付すべき法人税額、還付をうけようとする銀行等の記載もあり、添付された損益計算書には各項目ごとの損益金の額が記載され(昭和四八年度分については支払特許料も記載され)、同じく添付の貸借対照表には期末における資産、負債の内訳、すなわち、預貯金、受取手形、未収売掛金、仮払金、貸付金、たな卸資産、有価証券、預り保証書、借受金等個々の明細と額が記載されていること、右昭和四七年度、四八年度の各決算及び申告は、いずれも無題ノートを資料とすることなく、なされたものであること、原告は、前記差押後も営業を継続し、右営業につき伝票、帳簿、書類を作成し、保管していること、以上の事実が認められる。

四  右認定の事実からすれば、原告について、やむを得ない事由により昭和五一年度の決算が確定しえないものと認めることはできない。

すなわち、無題ノートの差押後昭和五一年度分確定申告書提出期限までには既に五年近くが経過し、この間原告においては各年度の営業につき新たに伝票、帳簿、書類等が作成されているのであるから、原告としてはこれらの資料によって昭和五一年度分の決算をなし、申告をなすことは当然の義務であり、また可能でもあるというべきである。昭和五一年度分の決算のため、従前の資産状況等を必要とするとしても、前記認定のとおり昭和四七年度分、特に昭和四八年度分については支払特許料をも含め詳細に個々の項目と額をあげて決算がなされているのであるから、これを基礎として昭和五一年度分の決算をすることができた筈であり、後日申告額が真実の所得額より過大であることが判明した場合にはその更正を請求することができ(本件のように書類の押収があった場合には更正の請求期間につき特別の定めがなされている。国税通則法二三条一項、二項三号、同法施行令六条一項三号)、また逆に申告額が実際の所得額より低かったとしても、申告に際し、事実の隠ぺい等国税通則法六八条一、二項所定の事実がない限り、過少申告加算税、或いは重加算税を課せられることはないのである。従って前記の方法により昭和五一年度分につき申告したとしても、原告にとって不利になることはないというべきである。

しかるに原告がいつまでも無題ノートにこだわり、差押後五年近くを経過した後においてなお右無題ノートの所在不明を理由に、「やむを得ない理由により決算が確定できない」とすることは、著しく納税者の義務にもとるものといわざるを得ない。

従って、本件が法人税法七五条一項に定める「やむを得ない理由により決算が確定しない場合」に該当するものと認めることはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。

五  結論

よって、被告の本件処分は適法であり、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 惣脇春雄 裁判官 高橋水枝 裁判官 宮本敦)

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