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和歌山地方裁判所 昭和46年(ワ)374号 判決 1980年3月17日

原告 家原ゆかり ほか二名

被告 国 ほか三名

代理人 西川孝 坂田暁彦 嶋村源 谷口栄祐

主文

1  被告国及び同紀の川土地改良区連合は各自、原告家原ゆかりに対し、金四三五万二八一二円及び内金三九六万二八一二円につき昭和四四年九月三〇日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告家原正夫及び同家原シズコに対し、それぞれ金三三万円及び内金三〇万円につき昭和四四年九月三〇日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告らのその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、原告らに生じた費用の一〇分の一と被告国及び同紀の川土地改良区連合に生じた費用の五分の一を被告国及び同紀の川土地改良区連合の負担とし、原告ら、被告国及び同紀の川土地改良区連合に生じたその余の費用と被告紀の川左岸土地改良区及び同吉村信一に生じた費用を原告らの負担とする。

4  この判決は第1項に限り仮に執行することができる。ただし、被告国又は同紀の川土地改良区連合において金二〇〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨 <略>

二  請求の趣旨に対する答弁 <略>

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者の地位・身分等

岩出頭首工(本件頭首工という)は、紀の川土地改良事業によつて造成された施設で、和歌山県那賀郡岩出町紀の川水系に所在する。被告国は右頭首工を管理し、被告紀の川土地改良区連合、同紀の川左岸土地改良区は、国から委託をうけ同頭首工を管理している。被告吉村信一は、右両土地改良区に雇用され、右頭首工の管理の任にあたつていた。

原告家原ゆかりは亡家原武の子であり、原告家原正夫及び同家原シズコはそれぞれ右武の父母である。

2  事故の概要

昭和四四年九月三〇日、被告両土地改良区は本件頭首工を清掃し、被告吉村において頭首工ゲート開閉の任に当つていたものであるが、当日は紀の川の水量が多く、午前中の作業では流水が閉鎖したゲートの上を約三〇センチメートルの高さで越していたため、清掃作業ははかどらなかつた。

午後の作業は、被告吉村が午後一時三〇分ころ本件頭首工に到着し、直ちに第二ゲートを全開し、このとき水は鉄砲水のように流れ出し、下流の水位は約一メートル高くなつた。しかし、頭首工上流の水位が殆んど変らなかつたため、他の作業員から別のゲートも開くように促され、被告吉村は二〇分後に第一ゲートを半開し、更にその約一五分後に第三ゲートを約三分の一程度開いた。

そのため、下流の水位は場所により六〇センチメートルないし一五〇センチメートル程度急増し、那賀郡岩出町中島椋ノ木地蔵付近の紀の川中洲において折から鮎釣りをしていた家原武は急増した水流に押し流され、同日午後二時三〇分ころ溺死した。

3  被告らの責任

本件事故は、ゲート開閉操作が適切になされなかつたことから下流の水位を急増させたことに起因する。また、被告らは紀の川に本件事故当日多数の釣人がいることを知り、又は知りうべきであつたにもかかわらず、本件頭首工のゲートを操作するにあたつて、拡声器を備えた自動車等で現に河川にいる釣人に注意を促すことを怠り、また川に入ろうとする者に対して要所に見張りを立てて注意を促すこともしなかつた。これは極めて重大な過失ないし瑕疵であり、被告国は国家賠償法(以下「国賠法」という。)一条ないし三条、民法七〇九条、七一七条により、被告紀の川土地改良区連合、同紀の川左岸土地改良区は国賠法一条、二条、民法七〇九条、七一五条、七一七条により、被告吉村は民法七〇九条により、それぞれ原告らに対して損害を賠償する責任がある。

4  損害 <略>

5  よつて、原告らは被告らに対して請求の趣旨記載のとおりの損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1について

(被告ら)

認める。

(被告国)

但し、本件頭首工は、紀の川災害復旧農業水利事業により昭和二八年度県営として着工し国の委託工事として施行されたが、昭和二九年一〇月から国営土地改良事業に移管され、昭和三二年度にその工事が完了した。従つて、右頭首工は土地改良財産であるが、被告国は土地改良法九四条の六に基づいて被告紀の川土地改良区連合との間に管理協定を締結して同連合にその管理を委託しており、同連合は右協定及び土地改良法施行令等に従い、その具体的な維持管理を実施している。

(国を除く被告ら)

但し、本件頭首工の管理を被告国から委託されているのは被告紀の川土地改良区連合であつて、同連合から更に被告紀の川左岸土地改良区及び訴外六ヶ井土地改良区にその管理が委託され、右両改良区は隔年ごとにその管理の任を交替で担当していたが、本件事故当時は被告紀の川左岸土地改良区が管理を担当する年度にあたつていた。

2  請求原因2について(被告ら)

昭和四四年九月三〇日、被告紀の川左岸土地改良区が本件頭首工を清掃したこと、被告吉村が右頭首工ゲートの開閉作業に従事していたこと、家原武が死亡したことは認めるが、その余は争う。

被告紀の川土地改良区連合は、昭和四四年九月二九日、被告紀の川左岸土地改良区からの通報に基づき、和歌山市耕地課、岩出町行政課、新六ヶ井土地改良区等に対し「翌三〇日午前八時から午後五時までの間、本件頭首工清掃と灌漑用水不用のためゲートを操作し、清掃作業完了し次第、全ゲートを開放する」旨電話により事前に連絡した。

翌三〇日午前八時ころ、被告紀の川左岸土地改良区の水利調整委員五名、被告吉村及び人夫三名等により、本件頭首工の清掃作業が開始されたが、作業に先立つてサイレンを吹鳴して下流に警告を発し、被告吉村がゲート開閉の作業に従事した。

同日午後一時三〇分ころから午後の清掃が再開され、被告吉村は午後一時ころ右清掃に先立つて警告のサイレンを鳴らした。午後一時三〇分ころ、中央の第二ゲートを半開し、次いで午後二時ころ、第一ゲートを約三分の一開いた。更に午後二時二〇分ころ、第三ゲートを開きかけたが、当日現場に来ていた被告紀の川土地改良区連合の事務局長の指示により、右第三ゲートの開扉を中止し、直ちに開扉されていた右各ゲートを全て閉扉した。

3  請求原因3について

(被告国)

争う。

本件事故当日のゲート開放の経過は右2に主張するとおりであり、ゲートは電動機によつて徐々に開かれるのであるから(高さ二メートルのゲートを全開するのに約七分を要する。)、下流の水量は徐々に増加したものであり、しかも本件頭首工から事故現場までは約二キロメートルの距離があるから、その水勢が更に弱められたことは明らかである。

また被告国は、前記1で主張したように、被告紀の川土地改良区連合との間に管理協定を締結しその協定書において本件頭首工の管理方法を具体的に指示しているのであるが、右管理方法のうち頭首工ゲートの開放に関しても、下流の増水による危害防止等のため、下流の左右両岸関係市町村役場等への事前連絡、ゲート開扉操作前の警笛吹鳴措置、ゲート開閉順序とその時間的間隔等を定め、万全を期している。

水位の上昇が十分考えられる紀の川において、危険を承知のうえ長時間河川敷にいる者にとつては、増水に際して避難することを考慮しておくべきであり、かつ家原武は胸まである長靴を使用していたのであるから、水中で転倒すれば靴の下部にたまつた空気で足が浮き上がり、上体が水中に没して溺死する虞れが十分ありうることを予め認識して行動すべきであつた。武は、現場で一緒に釣をしていた他の者が無事川岸に避難しているにもかかわらず、一人川中に残り、胸まである長靴を脱ぐこともなく川を渡つた結果事故にあつたもので、まさに自招行為であり、被告国は本件頭首工の設置管理者として責任を負うべき筋合はない。

なお、国賠法二条にいう「設置又は管理の瑕疵」は物自体の瑕疵をいうのであつて、物を扱う人の過失による損害を含まないから、原告が本件頭首工ゲートの開閉操作に当つた者の過失を問題にするのであれば本件は同条項に該当しない。

(国を除く被告ら)

争う。

本件事故現場において、水流が急激に増加したものでないことは被告国の主張と同様である。本件事故当時釣をしていた者は全員岸に上がつたのに、武は岸に上がらず、中洲から中洲に移ろうと深みにはまつて水死したものである。当時紀の川では砂利採取のため河床に多くの深みがあることを武は十分承知していたはずであり、しかも武は胸まであるゴム長靴を着用しており、これに水が入ると身体の自由を奪われるのである。要するに、被告らのゲート操作に過失はなく、本件事故は武の待避方法の不適切と紀の川河床の不備のため発生したものである。

4  請求原因4について(被告ら)

争う。

三  抗弁(被告国)

仮に、被告国に本件事故発生について責任があるとしても、前記二の3で述べたように武には極めて重大な過失があり、従つて大幅に過失相殺されるべきである。

第三証拠 <略>

理由

一  当事者の地位・身分等

請求原因1は当事者間に争いがない。

なお、<証拠略>によると次のことが認められる。即ち、本件頭首工は紀の川災害復旧水利事業により昭和二八年度に県営として着工したが、昭和二九年から国営土地改良事業に移管され、昭和三二年度にその工事が完了した。

被告国は、土地改良法九四条の六に基づいて被告紀の川土地改良区連合(以下「連合」という。)との間に管理協定を締結して連合にその管理を委託し、連合は右協定及び土地改良法施行令等に従つて具体的な維持管理を実施しているが、その実施方法として、連合はその傘下にある被告紀の川左岸土地改良区(以下「左岸改良区」という。)及び訴外六ヶ井土地改良区に実際の管理を委託し、右両改良区は隔年ごとに管理の任を交替で担当していたが、本件事故が発生した昭和四四年九月当時は被告左岸改良区が管理を担当する年度にあたつていた。

本件頭首工は紀の川河中に造築された灌漑用の堰堤であり、その構造は鉄筋コンクリート造りで河中に一〇本の橋脚が立てられ、橋脚上部に鉄橋が縣架され、橋脚の間に第一ないし第四の流水制御ゲートが設けられている。右各ゲートは高さ二メートル、幅三〇メートルの鉄筋コンクリート製棒状のもので、その両端は橋脚に接続し、開閉操作はゲート北側橋脚の頭頂部に設置されているモーター室の電動機或いはリモートコントロールによつてなされ、開放又は閉鎖を完了するに要する時間は七分一五秒である。

二  本件事故の概要

請求原因2のうち、昭和四四年九月三〇日被告左岸改良区が本件頭首工を清掃したこと、被告吉村が右頭首工ゲートの開閉作業に従事したこと、家原武が死亡したことは当事者間に争いがない。

右争いのない事実に、<証拠略>を総合すると、次の事実が認められる。

昭和四四年九月二五日ころ、被告左岸改良区は用排水調整委員八名の決議により同月三〇日に本件頭首工を清掃することに決め、同月二九日午前一一時ころ被告連合事務局に「翌三〇日午前八時から午後五時までの間、本件頭首工清掃のためゲートを開扉し、清掃終了後はゲートを全て開放する」旨電話連絡し、右連絡を受けた連合は和歌山市耕地課、岩出町行政課、新六ヶ井改良区に右事項を通報した。なお、岩出町役場は同日午後三時ころと清掃当日の翌三〇日午前一〇時ころに各一回ずつ、有線放送を通じて町民に注意を呼びかけている。

翌三〇日午前八時ころ、被告左岸改良区の水利調整委員五名、ゲート開閉操作等を担当する被告吉村及び人夫三名が本件頭首工に到着し、被告吉村において警告のサイレンを吹鳴したうえ、午前八時三〇分から清掃作業が開始された。第二ゲートが開かれ、午前一一時三〇分ころ午前中に予定されていたゲート下流側の清掃が終了した。そのころゲート上流の水位はゲート頂上から四〇ないし五〇センチメートル下であつた。他方、家原武は同日午前六時ころから本件頭首工の下流約二キロメートルの紀の川河中において、原告家原正夫とともに鮎釣りをしていたが、右ゲート開放のため釣場付近も増水し、午前九時ころ約一時間位釣を中断して避難した後、鮎釣りを再開した。

午後一時ころ清掃を再開するサイレンが吹鳴され、ゲート上流側を清掃するため午後一時三〇分ころ被告吉村の操作により第二ゲートが半開(約一メートル開)された。しかし、右ゲート開放のみでは清掃し易い水位にならなかつたため、午後二時ころ更に第一ゲートが三分の一開(約七〇センチメートル開)され、午後二時二〇分ころひき続いて第三ゲートも開放しようとしたが、たまたま右清掃とは別の作業を実施するため本件頭首工に来ていた連合事務局長小栗正祐からこれ以上ゲートを開放すると右の別作業が実施できなくなるため清掃を中止して欲しい旨要請があり、被告吉村は直ちに第三、第二、第一の順に各ゲートを閉鎖し、午後三時ころ清掃が中止された。なお、第三ゲートは殆んど開けられないまま閉扉されている。他方、前記釣場付近においては午後二時三〇分ころから増水し始め、その周囲にいた釣人数名は全て岸に避難したが、ひとり武のみは河中の中洲に上がつて一時避難し、そのころ増水はほぼ止つていたのであるが、やがて胸まであるゴム長靴を着用したまま釣竿を杖にして川を渡り始めたものの、流れに足をとられて水流に押流され溺死した。武は胸まであるゴム長靴を着用していたため強い水流に抵抗することができず、水中で体が不安定になつて足をとられたものと推測される。

なお、<証拠略>を総合すれば武が立つていた中洲は結局水中に没しなかつたものと認められる。この点につき、証人上田進弘及び原告家原正夫は右中洲が水流に没した旨供述するのであるが、採用できない。また、証人得津隆雄の「午後からもゲート頂上を越す位の水位があつた」旨の証言、被告吉村の「午後の作業開始時ゲート頂上に達する位の水位があつた」旨の供述及び原告家原正夫の「武が中洲に避難して後、右中洲の上を動いたり、流れを渡ろうとしたことはない」旨の供述は、前記認定事実に照らし採用できない。

三  被告らの責任

1  国及び連合

<証拠略>及び前記認定事実によると、被告国と同連合との間に締結された前記協定書、紀の川筋頭首工維持管理方法書、岩出頭首工管理規程、岩出頭首工操作要領において、本件頭首工の管理方法を規定し、右管理方法のうち頭首工ゲートの開閉操作に関していえば、ゲートの開放前一二時間以前に紀の川筋小田頭首工下流の左右両岸関係市町村役場並びに本件頭首工下流に位置する各頭首工の操作責任改良区理事長に放水開始時刻、開放門数、開放高を電話連絡し、実際にゲートを開放する三〇分前に警笛を吹鳴すること、ゲート開閉の始動は一門ごとに行い、先のゲートが始動してから三分間以上経過しなければ次のゲートを始動してはならないこと、各ゲートの開放は河川の中央部から操作し、順次両岸側に及び、閉鎖はこの逆とすること等、かなり具体的かつ詳細な指示が取り決められている事実及び本件事故に係るゲート開放に際して右諸規定はほぼ遵守されていることが認められ、その限りにおいては規定違背による責任は存しない。

しかし、前記規定のみによつてはゲート開放が招来すべき危険の防止は期し難いところであつて、<証拠略>によると現に本件ゲート開放に先立つて吹鳴されたサイレンはせいぜい五〇〇メートルないし一キロメートル四方にしか届かず、ゲートから約二キロメートルを隔てた本件釣場付近にいた者の耳には達していないし、また関係市町村や土地改良区への連絡も、有線放送等によつて注意を呼びかけた地域住民はなるほどゲート開放を事前に知ることができるであろうが、紀の川で釣や砂利採取等をする者全てが右地域の住民であるとは限らないし、実際本件釣場付近にいた者は事前に本件ゲートの開放を知らなかつたのである。

管理契約の当事者たる被告らとしては紀の川の河中に釣人などの人が存在することを知りうべきは当然のことであるから、増水による危険を防止するためには、ゲート開放に先立つて紀の川両岸に敷設された道路に車を走らせ、マイク等によつて河中にいる者に注意を呼びかけるか、頭首工の下流に適宜サイレンを設置して吹鳴するか等して、実際に河中にいる者にゲート開放を周知徹底せしめることが必要であり、しかも、このような方法は比較的容易になしうるところである。この点、被告国、同連合は右のような方法を規定する等して、傘下改良区に管理方法を指示していないことは明白であるから、その点において本件頭首工の管理に瑕疵が存在する。従つて、被告国、同連合は国賠法二条によつて本件事故に基づく原告らの損害を賠償すべきである。

なお、右は本件頭首工に係る管理方法の瑕疵を指摘するものであつて、公の営造物を扱う者の過失を云々するものではないから、国賠法二条に関する被告国の主張は該当しないこと勿論である。

2  左岸改良区及び吉村

<証拠略>によると、被告左岸改良区は本件ゲートの開放に際しては、慣行として、連合にその旨連絡して当日清掃するのみで、関係機関等への連絡は連合において全てを引き受けていたこと、本件頭首工の管理方法については国と連合の間で枢要部分についてかなり具体的かつ詳細な取り決めをして傘下改良区にその方法を履践させているのであつて、各傘下改良区のみの裁量でなしうるのは実際の管理に当つての瑣末な手続にすぎないことが認められる。

従つて、被告左岸改良区は国や連合のいわば手足として本件頭首工の管理を代行したにすぎず、ましてや被告吉村は被告左岸改良区の一雇人であるから、被告左岸改良区及び同吉村は本件事故の責任を負うべき主体ではないと解するのが相当である。

四  原告らの損害 <略>

五  過失相殺

本件事故当日、午後の増水に際して本件釣場付近にいた数名の釣人は全員岸に避難したにもかかわらず、武のみは河中にある中洲に避難し、また右中洲から岸に移動しようとしたときにも胸まであるゴム長靴を脱ぎ捨てる等の措置を講じていないことは、前記認定のとおりである。

以上のように、外の釣人が全て岸に避難しえたのであるから武にも岸に避難しうる時間的余裕があつたにもかかわらず、難を免れるに最も安全な岸に上がらず、現に増水しつつある河川に浮んだ中洲に向うことは危険に身を投ずるにも似た所為であり、また身体の自由が極めてききにくい長靴を着用したまま流れの強い河中を移動することが危険なことは自明の理でもある。午前中の増水の際には一時岸に避難したものの大した増水もなく、約一時間後に釣を再開しうる状態に復したため、武の避難方法に安易さがあつたものと推測される。

武は事理の弁別をなしうる大人であるにもかかわらず、自己の生命や身体の安全を確保する配慮に乏しく、河川の増水が招来する危険を安易に考えて行動したとしか思われない節があつてその過失は大きく、右事実に基づいて過失割合を按分すると、原告側の過失七割に対し被告側の過失三割と認めるのが相当である。

従つて、右過失割合に応じて原告らの損害額を算定すると、原告ゆかりは金三九六万二八一二円、原告正夫、同シズコは各三〇万円である。

(家原ゆかり)

(10,209,375円+1,000,000円+2,000,000円)×(1-0.7)=3,962,812円

(家原正夫、同シズコ)

1,000,000円×(1-0.7)=300,000円

六  弁護士費用

原告らが本件訴訟を追行するに必要な弁護士費用は、原告ゆかり金三九万円、原告正夫、同シズコ各金三万円と認めるのが相当である。

七  結論

よつて、本訴請求は、被告国及び同紀の川土地改良区連合に対し、原告家原ゆかりにつき損害金四三五万二八一二円及び右損害金から弁護士費用を除いた金三九六万二八一二円に対する本件事故発生の日である昭和四四年九月三〇日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告家原正夫、同シズコにつきそれぞれ損害金三三万円及び右損害金から弁護士費用を除いた金三〇万円に対する前同様の遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言及び仮執行免脱の宣言につきそれぞれ同法一九六条一項及び同条三項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 惣脇春雄 高橋水枝 竹中良治)

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