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和歌山地方裁判所 昭和32年(行)3号 判決 1958年6月30日

原告 株式会社大石呉服店

被告 新宮税務署長

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

当事者の申立

原告代表者は、「被告署長が原告に対し、原告の昭和二十九年九月一日より昭和三十年八月三十一日までの一年間事業年度、法人税について、その更正決定所得額を金十三万九千二百円、その税額を金万五千六百八十円とした昭和三十年十二月二十七日付更正決定を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決をもとめ、被告指定訴訟代理人らは主文同旨の判決をもとめた。

事実上の主張

原告代表者の陳述

一、原告会社は所在地において呉服小売商を営むものであるが、昭和二十九年九月一日より同三十年八月三十一日までの一年間事業年度法人税の申告につき、「確定申告所得金額 1、当期赤字欠損金三十一万七千四百八十二円、2、繰越欠損金六十二万四千三百三十四円、3、合計次期繰越欠損金九十四万千八百十六円」なるむねの申告書を昭和三十年十月三十一日被告署長に提出したところ、被告署長は同年十二月二十七日原告の右事業年度の所得額は金十三万九千二百円、法人税額は金五万五千六百八十円であるむねの更正決定をなし原告に通知があつた。

二、右更正決定は十分な調査もなくなされた著しく事実に反した不当な決定であるので、原告は翌三十一年一月上旬早々被告に対し、取敢えず電話による異議の申立をなし、同年二月十四日、再調査申請書を提出して再調査の請求を行つた。

三、しかるに右再調査の請求については被告において何等の決定もなく、ために同年五月十四日、所轄大阪国税局長に対する審査請求に移行し、大阪国税局長原三郎は昭和三十二年二月五日、再調査の請求が一箇月の法定期間を経過した不適法なものとして右審査請求を却下するむねの決定をなし、同月六日右決定通知書が原告に到達したので、不当な本件更正決定の取消をもとめて本訴におよんだものである。

四、被告の、本件訴が適法な訴願の手続を経ていない、との主張を争う。原告が本件更正決定に対する再調査請求を法定期間経過後になしたことは認めるが、原告が期間を遵守することができなかつたことについては止むを得ない正当な事由があつた。

すなわち、本件更正決定について原告は再調査請求の法定期間内である昭和三十一年一月上旬早々に被告に対し取敢えず電話により異議を申立てたところ、数日後の同月十四日頃被告の係官二名が原告方にのぞみ、本件更正決定書につき、法人税額五万五千六百八十円のうち赤字充当が三万六千三百二十円であるから、差引正味納付金額一万九千三百六十円だけ納付すればたりると指示したので、その言を過信しその程度であるならば、不服ではあるけれども正式の争訟手続にかけた場合の費用などを考慮した上納付すべく同年二月十四日被告方に右指示金額の納付に赴いたところ、本更正決定の事業は右係官の指示に反し額面通りであることがわかり、直ちにその場で再調査請求を行つたものである。若し右係官の指示がなく当初から原告の法人税額が本更正決定額通りであることが明らかであれば法定期間内に再調査請求をなす所存であつたのであるから、本件のごときはまさに期間徒過につき止むを得ない事由があつたものというべきである。かかる場合は法定期間経過後と雖も再調査請求を受理すべきもので、法定期間徒過の理由で却下した本件審査決定は理由がなく不当なものであり、従つて本件訴は適法な前審手続を経たものである。

被告指定訴訟代理人らの陳述

一、原告主張のうち第一、第三項の事実、および第二項のうち昭和三十一年二月十四日原告から被告に対し本件更正決定に対する再調査請求があつた事実は認めるがその余の事実を争う。

二、原告が被告に対し本件更正決定に対する再調査請求をしたのは原告がのべるように本件更正決定が原告に到達した昭和三十年十二月十八日より法定期間の一箇月を経過した後の翌三十一年二月十四日であるから明らかに要件を欠いた不適法な再調査請求である。従つて、本件再調査請求について被告が何等の決定をなさないまま、みなす審査に移行したのち、所轄大阪国税局長が、本件再調査請求が期間経過後になされたことを理由に不適法なものとして審査請求を却下する決定をしたのは正当である。ちなみに審査請求が不適法で却下された場合は、通常の審査と、みなす審査の別にかかわらず、原再調査請求をもあわせ却下した効力を持つものであり、また前審手続が要件を欠く不適法なものとして却下された場合は適法な前審手続を経たものということはできない。よつて本件訴は行政処分の取消をもとめる訴に必要な前審手続を経ていないから不適法である。

三、原告主張第四項の正当事由の有無にかかわらず、本件の場合、法人税法上訴願法の規定は適用を排除されて期間宥恕の余地がなく、また所得税法、相続税法上等における訴願期間延長の規定が特に設けられていないから、期間延長の余地もない。

また仮に所得税法相続税法上のような訴願期間延長の規定が法人税法上にも類推適用されるものとしてもも、原告は所定の期間延長申請をしたことがなく、たとえ、その申請があつたものとしても原告主張のような期間徒過についての止むを得ない事由は存在しない。

いずれにするも本件訴は訴訟要件としての前審手続を経ていない不適法なものである。

立証方法<省略>

理由

被告署長が原告に対し、昭和三十年十二月二十七日、原告の昭和二十九年九月一日より昭和三十年八月三十一日までの一年間事業年度法人税について、その更正決定所得額を金十三万九千二百円、その税額を金五万五千六百八十円とした更正決定をなし、同日その決定書が原告に到達したこと、原告は右決定を不服として昭和三十一年二月十四日被告に対し再調査の請求をなしたこと、その後右再調査請求については被告署長の何等の決定がなく、三ケ月を経過した同年五月十四日右請求は所轄大阪国税局長に対する審査請求に移行し右国税局長は昭和三十二年二月五日、本件更正決定に対する再調査請求が一箇月の法定期間を経過した不適法なものとして、右審査請求を却下する決定をなし、同月六日同決定通知書が原告に到達したことについては当事者間に争いがない。

そうすると、本件更正決定に対する原告の再調査請求は明らかに法定期間の経過後なされたものである。原告は、右再調査請求は、期間を遵守できなかつたことについて止むを得ない事由があつて適法なものであると主張するが、法人税法上、訴願法の諸規定は明らかに排除されており、従つて期間宥恕の規定の適用はなく、また所得税法第二十五条の三、第四十八条第二項、同施行規則第二十一条、もしくは相続税法第二十七条第三項、第四十五条第二項、同施行規則第六条第二項のような、納税者の申請による訴願期間延長の規定が特に設けられていないから期間延長の余地もない。従つて爾余の判断をまつまでもなく原告の本件更正決定に対する再調査請求が法定期間経過後の不適法なものであることを理由に、本件更正決定についての審査請求を却下した所轄大阪国税局長の却下決定は相当である。また再調査請求に対する決定がないまま法人税法第三十五条第三項第二号によりみなす審査に移行した場合、当該審査請求が不適法として却下されたときは原決定に対する再調査請求自体も不適法として却下されたものとみなすべく、再調査請求についての決定がないまま放置されているものとみなすことはできない。

そうして、再調査請求ならびに審査請求が法定の訴願期間経過等その要件を欠く不適法なものとして却下された場合は、その却下決定が違法でない以上出訴の前提要件としての前審手続を経たものと認めることはできない。

ひるがえつて原告の本件請求についてみると、請求自体よりして行政庁の行政処分の取消をもとめる訴であることが明らかである。

従つて原告の本件訴は出訴要件としての前審手続を経ていない不適法なものと認められるから却下することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 坪井三郎 尾鼻輝次 舟本信光)

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