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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和55年(行コ)5号 判決 1980年12月17日

控訴人(原告) 田中甚市

被控訴人(被告) 福井県知事

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人が、昭和四九年六月一一日付をもつて、訴外東野入会林野整備組合に対してなした入会林野整備計画の認可及び公告は、無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同じであるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

(一)  このたびの紛争の根本は被控訴人が行つた本件整備計画の認可にあるのである。ところが、原判決は、控訴人の有する入会権に基いて部落の人を相手に訴訟をすればよいのであつて、被控訴人に対する本件訴訟は許されないというのである。しかしながら、被控訴人自ら不当な認可をしておきながら今更部落の人百何十名の人々を相手として訴訟をすればよいではないかという理由では何としても納得できないのである。

(二)  被控訴人のなした本件整備計画認可により、入会林野法一二条によつて入会権はすべて消滅してしまつたのである。そのため控訴人が今まで育ててきた植林(少なくとも杉の木一〇〇〇本以上)の手入れができなくなり、その後六年間維持管理もしていないのでその損害は莫大なものとなつているのである。消滅してしまつた入会権に基いて今更多くの費用と月日をかけて部落の多くの人々を相手としてすべてを元にもどす訴訟が果してできるであろうか。そんなことは実際上不可能なことである。根本の被控訴人の認可が無効であるということを裁判で決めてもらうよりほかに方法はない。

(三)  控訴人は、入会林野法三条により、入会権の整備計画をするには入会権者の全員の同意がなければ絶対にできないものだと理解していたのである。それは一般の常識から考えても当然のことである。従つて、控訴人は被控訴人が決して本件認可をしないものと信頼していたのである。ところが、被控訴人が、法律にそむいて故意に控訴人独りを除いた整備計画に援助を与えた上で本件認可が行われたということを知り、こんな違法なことが通るようでは困ると思つて、微力ながら独力でこの行政訴訟を起して何とか裁判所の力で違法なことを正してほしいと一生懸命努力しているのである。

(被控訴人の主張)

控訴人の右主張は争う。

理由

一  被控訴人が、昭和四九年六月一一日付で本件入会林野整備計画の認可及び公告をなした事実は当事者間に争いがない。

二  しかして、右認可及び公告の各無効確認を求める本件訴えは、行政事件訴訟法三条四項に定める処分の効力の有無の確認を求める訴訟にほかならないから、同法三六条後段により、当該処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができる者はその原告適格を有しないのである。

三  ところで、民法上入会権は入会団体に属し、その団体構成員は、その管理・処分権や共有持分権的な権利を有しないと解されているが、個々の構成員の入会権に基づく使用収益権そのものは法的権利として保護されるべきものであり、その個々の権利の主張、行使は、全体としての入会権を第三者に対して主張、行使する場合と異なり、単独で行われても全体としての入会権ないし他の者の使用収益権に影響を及ぼすものではないから、許されるものと解すべきである。

入会林野等に係る権利関係の近代化の助長に関する法律一一条による入会林野整備計画の認可及びその公告は、これがなされるとすべての入会権等の権利が消滅する(同法一二条)が、控訴人の主張するごとく、前記認可及び公告処分が無効であるとすれば、控訴人は入会権者として、その使用収益権を行使し得るのであり、控訴人の入会権者たる地位を争う者があれば、その者に対し、入会権の確認を求める訴え等を提起することによりその目的を達することができないわけではない。

控訴人の当審における無効確認のほかに方法はないとの主張は独自の見解であつて採用できない。

してみると、控訴人は、前記認可及び公告処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに当らないから、右処分の無効確認を求める原告適格を有しないことが明らかというべく、控訴人の本件訴えは不適法として却下を免れない。

よつて、右と同旨に出た原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却すべきものとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 黒木美朝 川端浩 清水信之)

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