大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所金沢支部 昭和36年(行ウ)1号 決定 1961年4月07日

申請人 藤田善之栄 外五名

被申請人 福井県知事

主文

本各申請は之を却下する。

理由

申請人等の申請の趣旨及び理由の要旨は別紙記載のとおりである。

按ずるに本件行政訴訟は申請人等が先に被申請人より開拓のため売渡を受けた別紙目録(一)乃至(六)記載の各土地に対し被申請人が昭和三二年三月一五日付でなした買収処分を違法とし、その取消を求めているものなるところ申請人等の本申請は右訴訟に於て取消を求める行政処分とは異なり今後為されることを予想される行政処分の禁止を求めるものである。

ところで行政事件訴訟特例法第一〇条第二項に規定する行政処分の執行を停止すべき命令は行政庁の違法な処分の取消又は変更を求める訴の提起があつた場合に於て現実に為された当該処分について之をすることができるものであつて同条は将来なされる処分を予想し予め之が執行を停止することを許したものではない。

その他行政事件訴訟特例法第一〇条第七項の規定は民事訴訟法の仮処分の適用を排除しているから本件申請人等の執行停止申請は之を認める余地がない。

よつて本申請は之を不適法として却下すべきものとし主文のとおり決定する。

(裁判官 小山市次 広瀬友信 高沢新七)

申請の趣旨

一、被申請人は申請人等より買収したる別紙目録一乃至六記載の開拓農地を売買、譲渡その他の処分をしてはならない

との御裁判を求む

申請の理由

一、被申請人は申請人等を相手とし御庁昭和三五年(ネ)第一一・一一三号農地法第七十二条買収取消請求控訴事件係争中である。

申請人は第一審において大部分勝訴の判決を得、棄却された五筆については附帯控訴を為し係争中である。

二、最近、北陸地方開発促進法が立法され奥地の資源開発に着手せられんとし居る際、福井県の土建関係出身の県会議員等が之に便乗し開発会社を創立し、申請人等の農地を含む元練兵場一帯を工業用地及び住宅用地に造成する事業を計画している。

そこで福井県開拓課では右事業促進にからんで本件訴の取下につき県会議員に依頼したる様子でありその県会議員は数日前申請人等を同伴し当代理人方を訪ね来り右訴取下げの進言をし事業内容について説明して行つたことがあつたのである福井県開拓課長は昨年赴任し来た者であるが申請人等より買収したる農地を売却する旨常に言明し居るのである。

三、本件が現に進行中であり申請人等は判決の結果については大いなる関心を有する処、係争農地が第三者に売渡されたる場合申請人は勝訴の判決を得たとしても農地を失はねばならない。

四、本件土地は

申請人毛利の分は 一、〇六六円

〃峰田〃     一、三四八円

〃中島〃       八九九円

〃関〃      一、八〇四円

〃菊地〃       八九三円

〃藤田〃       九九五円

で買収されたのであるが申請人等は売渡を受けてより買収処分のなされた時まで約七年間開墾耕作に投下した労力或は肥料代は多額により当初売渡の価格で買収されゝば甚大な損害を受ける。

又買収された土地の現時の価格が賠償請求により回復し得られるとしても将来何年後に得られるのか多くの訴訟費用を要し又買収されず将来何十年も耕作を続けられたと仮定した場合得べかりし利益の喪失は何十万何百万円になるかを推測してみても之等の積極的、消極的損失は償うことのできないものである。

之を救済するのが憲法で保障された、裁判請求権であり将来勝訴の判決を受けた場合の権利保全のため特例法第一〇条第二項の償うことのできない損害を避けたく行政権の不法なる作用に対し救済を求め得べき必要性がある。

更に執行を停止するも現在迄申請人等は占有耕作を続けているのであつてその状態をけい続するとしても何等公共の福祉利害を侵害しない。

右の次第で現在緊急権利保全の措置を構じなければならないので本申請をするに至つたものである。

(別紙目録省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例