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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和26年(ナ)8号 判決 1952年5月24日

原告 加藤正二

訴訟代理人 乾健多朗

被告 福井県選挙管理委員会 代表者 委員長 斎藤実

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は昭和二十六年四月二十三日行われた福井県丹生郡吉川村村議会議員選挙につき吉川村選挙会の為した原告の当選決定を取消す旨の同年八月二十一日附被告の裁決はこれを取消すとの判決を求めその請求原因として昭和二十六年四月二十三日福井県丹生郡吉川村村議会議員の選挙が行われ原告も右選挙に立候補したところ吉川村選挙会は原告の得票を六十六票としてその当選を決定した。然るに次点六十五票の訴外仲橋儀三郎は吉川村選挙管理委員会に異議を申立て同委員会は同年五月七日異議を棄却したが右訴外人は同月二十一日被告に訴願し被告は同年八月二十一日吉川村選挙会のなした原告の当選決定を取消す旨の裁決をした。右裁決の要旨は原告の投票六十六票中<トメ>と記載された投票十票○トミと記載された投票一票あり(この事実は原告も争はない)これらはいづれも文字をもつて記載されていないから無効であり従つて原告の得票は五十五票に減るに反し前記訴外人の有効得票は六十四票であるから原告を当選人とする吉川選挙会の決定は取消を免れないというにある。

然しながら原告は吉川村一般に「マルトメ」と呼称せられ右通称はトメ又は○トメと表示せられており原告はその立候補の届書や選挙用のポスターにもこれを併記した。されば吉川村選挙会に於てもこれを原告の通称なりとして前記十一票を有効投票に計上したのである。被告は前記の投票は文字をもつて記載したものでないというが「○」と「トメ」なる文字が一体をなして原告の通称を表示しこれによつてその投票を為した選挙人の意思が明白に看取し得られるのであつて右投票を有効と解するのがもつとも公職選挙法第六十七条の精神に適合し氏名の自書を被告の如く厳格な意味の文字による記載に限定すべきものでないと信ずる。よつて右裁決の取消を求める為その裁決の日より一ケ月以内である昭和二十六年九月二十日本訴を提起する次第であると述べ証拠として甲第一、二号証第三号証の一、二第四号証の一乃至十四第五号証第六号証の一、二、三を提出し証人友永元、松宮定吉、加藤孫左衛門、棚池伊助、木村亀之助、市村国治の訊問を申出で乙号各証の成立を認めた。

被告代表者は主文同旨の判決を求め答弁として吉川村選挙会が原告の得票として計上した中に<トメ>と記載したのが十票○トミとしたのが一票あるがこれらはいずれも文字にあらざる記号をもつて記載された投票であるから無効である。「マルトメ」が原告の通称であることは認めないがその余の原告主張事実は争はないと述べ証拠として乙第一、第二号証の各一、二第三号証第四号証の一乃至第五号証の一乃至十一を提出し四号各証の成立を認めた。

理由

吉川村選挙会が吉川村村議会議員に立候補した原告の得票を六十六票として当選人に決定したことその六十六票中に<トメ>と記載された投票が十票○トミと記載されたのが一票あること次点仲橋儀三郎の得票は六十四票を下らないことは当事者間に争いのないところである。原告は「マルトメ」というのは原告の通称であり右<トメ>又は○トミは原告の通称を記載したものであると主張するから先づこの点に付案ずるに成立に争いのない甲第二号証、第四号証の一乃至十四第五号証第六号証の一乃至三に証人友永元、松宮定吉、加藤孫左衛開、棚池伊助、木村亀之助、市村国治の各証言を綜合すれば原告はその選挙区である吉川村一般に「マルトメ」と呼称周知せられており右呼称は普通<トメ>又は○トメと表示せられていることを認め得べく原告の外にこれと同一又は類似の呼称を有する立候補者のないことは成立に争いのない乙第四号及び前記各証言により明らかであるから前記<トメ>の十票及び○トミの一票(○トメの誤記と認む)はいずれも原告の通称を記載した投票であると認めるのを相当とする。

そこで進んでかゝる投票が有効であるかどうかを審究するに投票用紙に記載すべき候補者の氏名は必ずしも戸籍上の氏名と同一であることを要せず所謂通称にても足るものと解すべきであるが、その氏名を記載するには必ず文字のみを以て為すを要することは公職選挙法第四十七条の規定よりみても明らかである。<トメ>の十票は勿論○トミの一票も原告の通称「マルトメ」を文字のみをもつて記載したものとは云ひ難く従つて右十一票は同法第六十八条第六号の候補者の氏名を自書しないものに該当し無効であると解するの外はない。勿論選挙人の意思が明白であればその投票を有効としなければならないがそれは公職選挙法第六十八条の規定に反しない限りに於てであつて前示の如く右十一票が同条の規定に反し無効である以上原告の主張はこれを採用するわけにはいかない。然らば原告の有効得票は五十五票となり次点者より減点となるから被告がその裁決に於て原告の当選決定を取消したのは相当であり本訴請求は理由がない。よつて訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判長判事 観田七郎 判事 松島政一 判事 小沢三朗)

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