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名古屋高等裁判所金沢支部 平成2年(ネ)76号 判決 1991年7月10日

控訴人 朝日スチール工業株式会社

右代表者代表取締役 中山清

右訴訟代理人弁護士 入山実

同 古関敏正

同 樋口和博

被控訴人 株式会社日本パーツセンター

右代表者代表取締役 中田賢従

右訴訟代理人弁護士 中島敏

右輔佐人 宮田正道

同 飯田伸行

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴人の求めた裁判

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、原判決添付別紙第一の図面及び写真によって表示された意匠にかかるフェンス(被控訴人製品)を製造販売してはならない。

三  訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二原判決「事案の概要」の追加訂正

一  当事者間に争いのない事実等

争いのない事実並びに弁論の全趣旨及び証拠上明らかな事実は、原判決三枚目裏一〇行目から四枚目表初行を削り、同裏九行目から五枚目表三行目を「4本件では、被控訴人製品が本件登録意匠に類似するかどうかが争点である。」と改める他は、原判決第二、一1ないし4記載(原判決二枚目表初行から五枚目表三行目まで)のとおりであるから、これをここに引用する。

二  争点についての控訴人の主張

原判決六枚目表五行目末尾の次に「この丸みの印象は、意匠的美観として被控訴人製品との類似において重視すべきである。」を加え、次のとおり付加する他は、原判決第二、二記載(原判決五枚目表四行目から六枚目表九行目まで)のとおりであるから、これをここに引用する。

1  本件登録意匠と被控訴人製品との類否を判断するについては、当該意匠を実施した物品を商品として取引の対象とした場合、取引にたずさわる者に誤認混同のおそれがあるかないかによって判断されるべきである。従って、その判断は、あくまでもフェンスを全体として相互に離隔観察し、新規な部分を全体との関連で観察するのが相当である。本件登録意匠と被控訴人製品とでは、フェンスの正面形状の部分はほとんど同一であり、全体として類似していることは明らかである。よって、フェンスの一部である胴縁の側面形状のみをとって、比較の対象とすることは不当である。もっとも、胴縁の側面形状を除外することのできないことはいうまでもないが、それが意匠全体の美観に寄与する程度に応じて、これも斟酌し、その意匠の全体として、見る者の視覚に訴えて、どのような印象を与えるかに則して判断すべきである。その場合の見る者とは、普通の注意力をもって取引に従事する通常人を想定して、その者が当該意匠に接した場合に受けるであろう審美感を基準とすべきである。

控訴人は、原審において、被控訴人が製造販売している被控訴人製品の意匠は、本件登録意匠の要部である胴縁の側面形状のみをとってみても、本件登録意匠のそれと類似であるとの見解をもって、専らその点に限って類似の主張をした。しかし、原審では控訴人のこの主張が容れられなかったので、当審において、意匠の類否判断の原則である全体観察の面も併せて主張し、正面形状と合わせての全体観察をもってすれば、その類似は一層明らかであると主張するものである。従って、控訴人としては、従来の主張を実質的に変更するものではない。仮に、主張の変更に当たるとしても、右は、意匠の類否の判断基準ないしは右基準を適用してなされる判断に関する主張であって、事実関係に関する事項ではなく、法律問題であるから、自白の対象にはならない。よって、主張の変更は許される。

2  かりに、本件登録意匠の要部とされる胴縁の側面形状に限ってみても、両者が類似していることは、原審において主張したとおりである。

三  争点についての被控訴人の主張

原判決六枚目裏四行目「(乙第四号証)」の次に「、⑤三角形になるように形成されたもの(乙第一二ないし第一七号証)」、同「ものであった。」の次に「その後、さらに側面形状が⑥ドーム状になるように形成されたもの(乙第二二号証)、⑦五角形となるように形成されたもの(乙第一一号証)、⑧逆五角形となるように形成されたもの(乙第二三号証)も別個登録された。」を各加え、次のとおり付加する他は、原判決第二、三記載(原判決六枚目表一〇行目から七枚目表末行まで)のとおりであるから、これをここに引用する。

1  控訴人は、原審において、「本件登録意匠が被控訴人製品の意匠と類似するかどうかを検討するにあたっては、両者の意匠の特徴とされる部分を対比して検討しなければならないのであって、その他の特徴のない部分については対比する必要がないことになる。本件において比較の対象となる本件登録意匠ないし被控訴人製品の意匠の各要部は、胴縁部の側面形状そのものである。」と主張し、胴縁の側面形状のみが対比の対象となり、その他の部分については対比する必要がないことを一貫して主張していた。

右は自己に不利益な事実の自白であるから、当審において、この主張を撤回して、全体観察によるべきである旨主張することは、自白の撤回にあたるところ、被控訴人は右撤回に異議がある。

2  本件登録意匠と被控訴人製品の意匠の正面形状とは、ほぼ同一である。しかし、胴縁一体型メッシュフェンスは、各社製品ともその正面形状には差異がなく、右正面形状は、広く知られる慣用意匠であって、創作性、新規性は全くない。

従って、その正面形状を観察したのでは、何人の業務にかかる商品であるかを識別する手掛かりとはならず、取引者や需要者は、胴縁の側面形状を観察、比較することによってのみ各社製品を区別することができるから、本件登録意匠と被控訴人の意匠の類否を論ずるについて、正面形状の共通性を考慮に入れる必要は全くない。

結局は、本件意匠の類否は、胴縁の側面形状が決め手となる。本件登録意匠(偏平四角形)と被控訴人製品(五角形)の側面形状は、明らかに異なるから、本件登録意匠と被控訴人製品とが類似していないことは、明らかである。

第三争点に対する判断

一  当裁判所も控訴人の本件請求は、理由がないから、これを棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加・訂正する他は、原判決第三争点に対する判断記載(原判決七枚目裏初行から一一枚目裏末行まで)のとおりであるから、これをここに引用する。甲第一〇号証は採用できない。

1  原判決七枚目裏五行目「必要不可欠であり、また、それをもって足りると考えられる。」を「先決であるので、まずその点から判断する。」に改める。

同七枚目裏八行目「甲第一号証」の次に「第一一号証の一及び第一二号証の1ないし14」を、同「乙第六号証」の次に「及び第六三号証」を、九枚目表五行目「四号証」の次に「、第一一ないし第一七号証、第二二、二三号証」を、同九行目「形成されたもの」の次に「、⑤三角形になるように形成されたもの」を、同一〇行目「掲載され」の次に「、右出願後も①ドーム状に形成されたもの、②五角形になるように形成されたもの、③逆五角形になるように形成されたものが同様に掲載され」を各加え、同末行「以前に」を「前後に」と改め、一一枚目表末行「類似意匠」の次に「、特に類似五」を加える。

2  控訴人は、原審において、本件登録意匠が被控訴人製品の意匠と類似するかどうかを検討するにあたっては、両者の意匠の特徴とされる部分即ち本件における意匠の各要部である胴縁の側面形状を対比して検討すべく、その他の特徴のない部分については対比する必要がないと主張しながら、当審に至って、右主張を撤回したのは自白の撤回にあたると主張する。

しかしながら、右は、意匠の類否の判断基準ないしは右基準を適用してなされる判断に関する主張であって、事実関係に関する事項ではなく、法律問題であるから、自白の対象にはならない。よって、主張の変更は許される。

3  そこで、意匠の類否の判断基準はいかなるものかについて判断するに、意匠権者は類似意匠の実施に関しても保護されているところ、第三者が登録意匠に類似する意匠を実施し、取引者がこれを意匠権者の物品と誤認して購入すれば、意匠権者はその利益を侵害されることになるから、意匠権者の権利保護を考えれば、意匠の類否は、取引者が物品の誤認・混同を来すおそれがあるほど似ているかどうかを基準に判断すべきであるといえる。そして、取引者は、一般には、全体的なデザインのほか、物品の形態、用途からみて特に目につきやすい部分ないしは見る者の注意を強く引く部分の意匠を観察して、他の物品の意匠との異同を認識し、取引するものと解されるから、右類否の判断は、意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様に基づいて見る者に特に目につきやすい部分ないし見る者の注意を強く引く部分がどこであるかを、意匠の要部のみならず、全体を観察して認定したうえで行われるべきものである。

もっとも、全体観察といっても、物品の全体をいわば均一に観察したり、或いは全体観察の印象を常に部分観察としての要部観察の印象に優越させたりするわけではなく、結局は、取引上、物品の形態、用途からみてさほど目につかない部分ないしは見る者の注意を引かない部分の意匠についてはあまり重点を置かず、特に目につきやすい部分ないしは見る者の注意を強く引く部分の意匠には特に重点を置き、もって取引環境に応じ、類似するかどうかの総合判断をすべきものである。

このように、意匠の類比は、意匠の要部のほか全体を観察対比して、判断すべきであるといえるから、原審が、本件登録意匠が被控訴人製品の意匠と類似するかどうかを検討するにあたっては、両者の意匠の特徴とされる部分即ち本件における意匠の各要部である胴縁部の側面形状のみを対比して検討すべく、また、それをもって足りるとまで断定したのは、控訴人の限定した主張に立脚したためであろうが、表現としては適切ではない。

3  そこで、本件につき全体観察をするに、本件フェンスの意匠としては、意匠の要部である胴縁の側面形状のほかに正面形状があげられる。

そして、本件登録意匠の正面形状と被控訴人製品のそれとが、ほぼ同一であることは当事者間に争いがない。

しかし、《証拠省略》によれば、本件正面形状である横長四角形のネットとその上下部の胴縁よりなるフェンスの基本形状は周知慣用のものであり、そのネットの鉄線を縦横に直角に組合わせ、縦長の長方形の格子孔を形成した点も同様広く知られる慣用意匠であって、創作性、新規性はなく、ありふれた部分と認められる。このように、胴縁一体型メッシュフェンスは、各社製品ともその正面形状にはあまり差異がないことが認められ、その正面形状を観察したのでは、何人の業務にかかる商品であるかを識別するのは困難であると認められる。特に、控訴人の本件登録意匠において、正面形状に、ありふれた格子孔ではない、特殊な工夫がこらされ、特徴的な意匠部分となっていること、そして、その特徴が被控訴人製品にも現れていることを認めるに足りる証拠はない。

従って、右正面形状は、取引上はさほど問題にしない部分で、取引者や需要者は、胴縁の側面形状を観察、比較することによって各社製品を区別することができるといえるから、本件登録意匠と被控訴人の意匠の類否を論ずるについて、正面形状の共通性を考慮に入れる必要の程度は低いといわねばならない。

結局は、本件意匠は、取引上は、胴縁の側面形状が物品の形態、用途からみて特に目につきやすい部分ないしは見る者の注意を強く引く部分というべく、その点について、本件登録意匠(偏平四角形)と被控訴人製品(五角形)の側面形状は、明らかに異なるから、本件登録意匠と被控訴人製品とが類似しているとはいえないと結論される。

控訴人の主張及び提出証拠は結局は採用できない。

4  控訴人は、本件登録意匠の側面形状が丸みの印象を持ち、それが意匠的美観として被控訴人製品との類似において重視されるべきである旨主張する。しかしながら、右主張が採用できないことは前判示(原判決引用)のとおりである。

二  よって、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上孝一 裁判官 横田勝年 田中敦)

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