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名古屋高等裁判所金沢支部 平成元年(ネ)44号 判決 1989年10月04日

主文

一、第一審原告の本件控訴を棄却する。

二、第一審被告の控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。

1. 金沢地方裁判所が、同庁昭和六一年(リ)第一三四号、第一四〇号、第一六〇号、第一六二号、第一九四号、第二二〇号、第二四〇号、第二五九号、第二七五号、第三〇九号配当等手続事件につき、昭和六二年一月二九日作成した配当表を、別紙配当表のとおり変更する。

2. 第一審原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は、第一・二審を通じこれを五分し、その二を第一審被告の、その余を第一審原告の各負担とする。

事実

一、当事者の求めた裁判

1. 第一審原告

(一)  原判決を次のとおり変更する。

(二)  金沢地方裁判所が同庁昭和六一年(リ)第一三四号、一四〇号、第一六〇号、第一六二号、第一九四号、第二二〇号、第二四〇号、第二五九号、第二七五号、第三〇九号配当等手続事件につき、昭和六二年一月二九日作成した配当表を変更し、第一審原告に対し一五五万六三一〇円を配当し、第一審被告に対する配当を零とする。

(三)  訴訟費用は第一・二審とも第一審被告の負担とする。

2. 第一審被告

(一)  原判決中第一審被告敗訴部分を取り消す。

(二)  第一審原告の請求を棄却する。

(三)  訴訟費用は第一・二審とも第一審原告の負担とする。

二、当事者双方の主張は、次のとおり付加するほかは原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

1. 第一審原告

(一)  本件公正証書記載の貸金債権は存在せず、本件公正証書は無効であるから、第一審被告は金子ユリ子(以下訴外ユリ子という)に対する連帯保証債権(本件配当要求債権)を有しない。

(1)  原判決は、第一審被告が昭和六一年二月一三日金子嘉秀(以下訴外嘉秀という)との間で、リース料四九五万円を、第一審被告の訴外嘉秀外一名に対する消費貸借契約公正証書(以下本件公正証書という)記載の消費貸借の目的とすることに合意したと認定する。

しかし、第一審被告は原審において、昭和六三年九月一二日付準備書面で、右四九五万円の債権は昭和六一年五月頃発生したリース料相当損害金であると自白しているから、昭和六一年二月一三日の本件準消費貸借の目的とはなし得ない。

(2)  原判決は、本件公正証書に記載の準消費貸借として、当時既に発生していた原判決別表(一)の番号1、2の貸付金合計一八〇万一八六〇円(以下本件1、2の貸金という)が含まれると認定した。

しかし、右貸付は株式会社ノーベルから有限会社日本システムサービスに対してなされたものであり、第一審被告と訴外嘉秀との間の債権債務ではないので、準消費貸借の目的とはなし得ないものである。

しかも、乙第二六、二七号証によると、第一審被告と訴外嘉秀との間で、本件公正証書作成後である昭和六一年四月一一日及び同年五月六日に、原判決別表(一)の番号1ないし21の貸付金(以下本件1ないし21の貸金という)全額について消費貸借契約をしていることが認められ、本件1、2の貸金を本件公正証書の準消費貸借に含ましめたという原判決の認定は明らかに誤りである。

(3)  仮に、本件1、2の貸金が本件公正証書記載の消費貸借の目的に含められたとしても、その金額は一八〇万一八六〇円ではなく一三四万二七七五円である。即ち、

第一審被告は、本件1ないし21の貸金につき、訴外嘉秀の第一審被告に対する什器備品代金債権四五万九〇八五円と対当額で相殺したが、右各貸金債権は各々独立の債権であり、当事者間で充当指定がない以上、相殺によってどの債権が消滅したかは法定充当(民法五一二条、四八九条)の規定によるべきところ、民法四八九条三項によると、弁済期が先に到来している本件1又は2の貸金債権に充当されたことになる。すると、充当後の本件1、2の貸金残合計は一三四万二七七五円となる。

(4)  本件公正証書記載の消費貸借の目的となるべき債務が原判決認定の六七五万円余り存在するとしても、本件公正証書記載の二〇〇〇万円を大幅に下回る金額である。しかも、右消費貸借は二〇〇〇万円と多額であるのに、その返済期限は僅か一か月後であり、訴外嘉秀の当時の資産状況を勘案すると異常に短い。

これは、第一審被告と訴外嘉秀が、真実消費貸借契約を行う意思なく、単にそれを仮装する目的で本件公正証書を作成したものであり、右消費貸借契約は通謀虚偽表示により無効である。

(二)  第一審被告の当審での新たな主張は、時機に遅れた攻撃防御方法に該当するから、却下を求める。

2. 第一審被告

(一)  第一審原告の前記主張(一)に対する認否・反論

(1)  同(1)について

第一審被告は訴外嘉秀に対し資金援助することとし、作成当時存在しまた将来発生する債権の確保を図る目的で、本件極度額二〇〇〇万円の消費貸借契約公正証書を作成した。そして第一審被告は訴外嘉秀に対し、本件公正証書が作成された昭和六一年三月二二日当時四九五万円のリース料債権を有し、更に昭和六一年五月に至り、同人がリース物件を無断で売却したことによるリース料相当損害金債権四九五万円を取得したから、右はいずれも本件公正証書の貸借の目的となり得るものである。

第一審被告は、当初リース料相当損害金を本件公正証書記載の消費貸借の目的とした旨主張したが、後日これを撤回し、リース料債権を右消費貸借の目的とした旨訂正したのであり、右主張の変更は自白の撤回に当たらない。仮に自白の撤回に当たるとしても、右自白は真実に反し錯誤に基づくものであるから、撤回は許される。

(2)  同(2)ないし(4)は争う。

(二)  当審での新たな主張

第一審原告こそ訴外ユリ子に対する配当要求債権を有しないので、第一審被告に対する本件配当異議の訴えは失当である。即ち、第一審原告と訴外ユリ子間の消費貸借契約公正証書記載の消費貸借契約は通謀虚偽表示により無効であり、仮に無効でないとしても、訴外ユリ子は第一審原告に対して消費貸借契約上の債務を負っていない。

第一審被告は、第一審原告の訴外ユリ子に対する債権の存否についての判断資料を有しないので、原告訴外ユリ子外一名、被告多賀勝一(本件第一審原告)間の金沢地方裁判所昭和六一年(ワ)第二〇七号請求異議事件での訴訟資料を利用せざるを得ないところ、本訴が原審係属中は、右請求異議事件の訴訟手続があまり進行していなかったため、原審では主張できなかったのであり、時機に遅れたものとはいえない。

三、証拠関係<略>

理由

一、当裁判所は、第一審原告の本訴請求は、金沢地方裁判所が本件配当等手続事件につき作成した昭和六二年一月二九日付配当表を、本判決別紙配当表のとおり変更する限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却するのが相当と判断するところ、その理由は、次のとおり付加・訂正するほかは、原判決理由一項ないし三項(五枚目裏一〇行目から八枚目裏初行まで)説示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

二、訂正

1. 原判決六枚目裏八行目の「ため、」の次に「昭和六一年三月二二日」を加え、同九行目の「本件公正証書に記載の」の次に「昭和六一年二月一三日付」を加え、同一〇行目の「当時」を「昭和六一年二月一三日時点で」と、同末行の「一〇八万一八六〇円」を「一八〇万一八六〇円」と改め、同七行目表四行目の「しかし、」以下六行目の「なかったこと、」までを「もっとも、第一審被告は前記1、2の債権のほか、昭和六一年三月七日以降公正証書作成直前の三月一九日までの間に、別表(一)記載の番号3ないし6(合計一〇三万五二三一円)を訴外嘉秀に貸付けており、これらの債権も前記1、2の債権と合わせ公正証書記載の消費貸借の目的とする旨、同証書作成の際同人との間で合意し、後は公正証書作成後二〇〇〇万円を限度に逐次貸付けていくと約したこと、」と同末行を「に、別表(一)記載の番号7以下」と改める。

2. 同七枚目裏五行目の「四九五万円」の次に「、更に公正証書作成日までに貸付けられた前記3ないし6の債権一〇三万五二三一円」を加え、同「合計六七五万一八六〇円」を「合計七七八万七〇九一円」に改め、同七・八行目の「・損害金」を削り、同八行目の「認められる。」の次に「なお、前認定によると本件公正証書記載の貸付条件中、弁済期日の定めは通謀虚偽表示であって無効と認められる。」を加え、同八枚目表二行目の「作成後において、」の次に「一〇日以上も経過した同年四月二日に別表(一)の7の貸付が行われ、しかもその後の分も」を、同五行目の次に行を改め、「更に、第一審被告は、訴外嘉秀に対し二〇〇〇万円の限度で融資することとし、その弁済を確保するため本件公正証書を作成したと主張するが、かかる与信契約に基づき定められた金額は、当事者間において将来融資せられるべき金額の最高限度額を示すものに過ぎず、債務者が具体的に負担した債務の数字的金額ではなく、このような公正証書の記載内容は、『金銭の一定の額の支払』(民事執行法二二条五号)に関するものとはいえないので、原判決別表(一)の7以下の債権は、本件公正証書記載の債権との同一性がなく、有効な債務名義とはなりえないものと解する。」を加える。

3. 同八枚目表八行目の「七二七万〇七三五円」を「八一二万五七三四円」と改め、同八・九行目の「・損害金」を削り、同九行目の「とおり」の次に「。なお、成立に争いのない甲第二号証によると、第一審被告は昭和六一年五月三一日分までの利息・損害金について配当要求していることが認められるので、第一審被告の債権については同日分までの利息金を計上する。」を加え、同一〇行目の「一一二万一〇八三円」を「一〇八万五三八九円」と、同末行の「四三万五二二七円」を「四七万〇九二一円」と改め、同一〇枚目の別表(二)を本判決別表(二)に改める。

三、第一審原告の主張(一)について

1. 同(1)について

原本の存在・成立に争いのない乙第一号証、原審における第一審被告本人尋問の結果、及びこれにより成立が認められる乙第二四、二五号証、及び弁論の全趣旨によると、第一審被告は昭和六一年二月終わり頃か三月初め頃訴外嘉秀との間で、当時既に発生していたリース料債権四九五万円を、本件公正証書記載の同年二月一三日付の消費貸借の目的とすることに合意したことが認められるので、第一審被告が昭和六三年九月一二日付準備書面で行った自白は真実に反し且つ錯誤に基づくものであり、第一審被告の自白の撤回は許されるので、第一審原告の主張(一)の(1)は理由がない。

2. 同(2)について

前記乙第一号証、原審における第一審被告本人尋問の結果、及びこれにより成立が認められる乙第三ないし二三号証、第二六ないし二九号証、及び弁論の全趣旨によると、第一審被告は訴外嘉秀との間で、昭和六一年二月終わり頃か三月初め頃、第一審被告が訴外嘉秀に対し貸付けていた本件1、2の貸金を本件公正証書記載の同年二月一三日付の消費貸借の目的とすることに合意し、同年三月二二日本件公正証書を作成したこと、第一審被告は、同年三月七日以降も訴外嘉秀に対し、原判決別表(一)の番号3ないし21記載のとおり貸付け、その貸金総額は一一一六万九〇八五円に達したこと、訴外嘉秀は、昭和六一年四月一一日第一審被告から六七一万円を借受けるに際して、乙第二六号証の六七一万円の借用書を第一審被告に差し入れ、更に同年一二月二九日、第一審被告との間で什器備品代金債権と相殺後の貸金残金は一〇七一万円であることを確認して、乙第二七号証の四〇〇万円の借用書(日付を同年五月六日付で遡らせて記載)を第一審被告に差し入れたこと、有限会社システムサービス代表者であった訴外嘉秀が、同会社経営に伴う旧債務の支払のため、株式会社ノーベル代表者の第一審被告から融資を受けた関係上、手元にあったシステムサービス名義の乙第三ないし一七号証の領収書をノーベル宛に差し入れたが、本件1ないし21の貸金はあくまでも訴外嘉秀・第一審被告間の個人的な貸借であり、訴外嘉秀も第一審被告に対し前記乙第二六、二七号証の借用書を差し入れ、このことを確認していること、以上の事実が認められるので、第一審原告の主張(一)の(2)も理由がない。

3. 同(3)について

前記乙第二三号証、原審における第一審被告本人尋問の結果、及び弁論の全趣旨によると、第一審被告は昭和六一年一二月二九日訴外嘉秀との間で、本件1ないし21の貸金債権一一一六万九〇八五円につき、訴外嘉秀の第一審被告に対する什器備品代金債権四五万九〇八五円と対当額で相殺し、残金一〇七一万円とすることで合意したが、その際、相殺により消滅する貸金債権については、本件公正証書記載の消費貸借の目的となっていない貸金に充当する旨合意したことが認められるので、原判決別表(一)の番号7以下の貸金債権が相殺の対象になったというべく、第一審原告の主張(一)の(3)も理由がない。

4. 同(4)について

前記認定(原判決引用)によると、第一審被告は、昭和六一年二月終わり頃か三月初め頃、二〇〇〇万円を限度として訴外嘉秀に対して資金援助することを約し、その弁済を確保するため、本件公正証書を作成することとしたのであるが、その際訴外嘉秀との間で、本件1、2の貸金合計一八〇万一八六〇円、リース料四九五万円を本件公正証書に記載の消費貸借の目的とすることに合意したのであるから、本件公正証書記載の消費貸借が、右一八〇万一八六〇円、四九五万円の分について通謀虚偽表示により無効であるとは認められず、第一審原告の主張(一)の(4)も理由がない。

四、第一審被告の当審での新たな主張について

第一審被告は、原審では第一審原告の債権の存在を争わなかったのに、当審に至り右債権の存在を否定するに至ったのであるが、第一審原告は、第一審被告が当審に至り右債権の存在を否定したことは時機に遅れた攻撃防御方法であると主張するので、以下判断する。

思うに、債権者たる原告が、配当期日に配当表に記載された被告の債権の存在について配当異議の申し出をした上、配当異議訴訟を提起した場合には、原告が請求原因として、自己の債権の存在を主張・立証する必要はなく、被告が抗弁として、原告の配当受領権を否定する意味で原告の債権の存在を争う場合に限り、原告は再抗弁として、原告の債権の存在を主張・立証すれば足るものと解するのが相当であり、原裁判所も右見解に立って、第一審被告が第一審原告の債権の存在を争わなかったので、第一審原告が自己の債権の存在を主張・立証する必要はないものと判断して、その主張・立証のないままに原判決を言い渡したものである。

しかるに、第一審被告が当審で初めて第一審原告の債権の存在を争うに至ったのであるから、もし第一審被告の右主張が許されるとすると、第一審原告は自己の債権の存在を主張・立証しなければならず、これがため訴訟の完結が遅延することは明らかである。しかも、第一審被告は、本訴が原審係属当時から既に第一審原告の債権の存否については問題があり、第一審原告は訴外ユリ子からその債権の存在を否定され、第一審原告の訴外ユリ子に対する公正証書は無効であるとして、金沢地方裁判所に請求異議の訴えを提起されて争われていることを承知していたことば、第一審被告自身が認めるところである。そうすると、第一審被告が当審に至り初めて第一審原告の債権の存在を否定したことは、故意又は少なくとも重大な過失により時機に遅れて提出した防御方法といわざるを得ない。

よって、第一審被告の当審での新主張は民事訴訟法一三九条により却下を免れない。

五、よって、第一審原告の本件控訴を棄却し、第一審被告の控訴に基づき原判決を本判決主文二項のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

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