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名古屋高等裁判所 昭和60年(ネ)588号 判決 1986年8月28日

主文

一1  原判決主文第八、第九項を取り消す。

2  被控訴人の控訴人楊萬東及び同楊京旭に対する右各取消にかかる部分の請求を棄却する。

3  控訴人楊萬東、同楊京旭の本件各控訴中その余の部分を棄却する。

二  控訴人金英圭の本件控訴を棄却する。

三1  原判決主文第二項が確定することを条件として、控訴人楊萬東は控訴人金英圭に対し原判決別紙物件目録(一)記載の土地並びに同目録(二)及び(三)記載の各建物を明渡せ。

2  原判決主文第三項が確定することを条件として、控訴人楊京旭は控訴人金英圭に対し原判決別紙物件目録(一)記載の土地並びに同目録(二)及び(三)記載の各建物を明渡せ。

四  被控訴人と控訴人楊萬東、同楊京旭との関係では訴訟費用は第一、二審とも右控訴人両名の負担とし、被控訴人と控訴人金英圭との関係では控訴費用は同控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人金英圭を除く各当事者の申立

(控訴人楊萬東及び同楊京旭)

1  原判決中控訴人楊萬東及び同楊京旭関係部分を取り消す。

2  被控訴人の右控訴人両名に対する請求(当審で追加された予備的請求を含む。)をすべて棄却する。

3  控訴費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(被控訴人)

1(一)  本件各控訴を棄却する。

(二)  控訴費用は控訴人らの負担とする。

2  控訴人楊萬東、同楊京旭に対する土地、建物明渡についての予備的請求の趣旨

主文三項1、2と同旨。

二  控訴人金英圭を除く各当事者の主張及び証拠関係は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決事実摘示及び当審訴訟記録中の証拠に関する目録記載のとおりであるから、これを引用する。

(訂正)

1  原判決八枚目表一行目の「昭和五七年」から七行目の「また、」までを削除し、九行目の「同目録」を「原判決別紙登記目録」に、同枚目裏八行目の「第一乃至第五」を「右各」にそれぞれ改める。

2  同九枚目表二行目の「第一乃至第五登記の」を「右」に改め、五行目の「金相七、同」及び九行目冒頭から一一行目末尾までを削除する。

3  同九枚目裏一行目冒頭の「(2)」を「(1)」に、四行目冒頭の「(3)」を「(2)」にそれぞれ改め、八行目冒頭から同一〇枚目表一行目末尾までを削除する。

4  同一〇枚目表二行目冒頭の「(5)」を「(3)」に、その次の「(2)」を「(1)」に、七行目冒頭の「(6)」を「(4)」に、その次の「(3)」を「(2)」にそれぞれ改め、五行目の「並びに」の次に「右各根抵当権に基づき、控訴人金英圭の控訴人楊萬東に対する返還請求権を代位行使して、」を一〇行目の「並びに」の次に「右各根抵当権に基づき、控訴人金英圭の控訴人楊京旭に対する返還請求権を代位行使して、」をそれぞれ加える。

5  同一〇枚目裏二行目及び同一一枚目表七行目の各「金相七、同」を削除し、同一〇枚目裏六行目の「事実中、」から七行目末尾までを「事実は認める。」に改める。

6  同一六枚目裏一一行目のあとに行を改めて次のとおり加える。「二階 四七・五二平方メートル」

(控訴人楊萬東、同楊京旭の付加した主張)

1  従前主張したとおり、被控訴人は控訴人金英圭に対し担保価値を無視した過剰貸付をしているから、このような被控訴人が短期賃貸借の解除請求をすることは、権利の濫用である。

2  後記予備的請求原因事実に対する認否及び反論

本件土地、建物に昭和五六年八月一一日付けで被控訴人主張の賃借権設定請求権仮登記が経由されていることは認める。しかしながら、右各仮登記は、抵当権設定登記と併用されたいわゆる担保型のもので、抵当権以上の法的効力を持つものではない。そして、このような仮登記が本登記されたからといつて、本件土地、建物を被控訴人が占有した事実もなければ、賃料が支払われた事実もなく、賃借権としての実体を備えていないことに変わりはない。したがつて、その主張の賃借権は何ら法的効力を有しないものである。

(被控訴人の付加した主張)

1  控訴人楊萬東、同楊京旭の権利濫用の主張は争う。

2  控訴人楊萬東、同楊京旭に対する本件土地、建物明渡についての予備的請求原因

(一) 被控訴人は、昭和五四年一一月一九日、控訴人金英圭との間で、同控訴人が被控訴人に対し現在及び将来において負担すべき信用組合取引による一切の債務及び手形、小切手上の債務につき債務不履行があつたときは本件土地、建物につき左の内容の賃借権を設定できる旨の賃借権設定予約契約を締結し、その予約を保全するため、同五六年八月一一日、賃借権設定請求権仮登記を経由した。

(1) 本件土地につき、借賃は一平方メートル当り月額一〇円、支払期日は毎月末日、存続期間は三年、特約として譲渡、転貸ができる。

(2) 本件各建物につき、それぞれ借賃を一平方メートル当り月額三〇円とするほかは、(1)に同じ。

(二) 被控訴人は控訴人金英圭に対し、昭和五九年三月、前記各賃借権設定予約契約に基づいて予約完結の意思表示をしたうえ、前記各仮登記の本登記手続を求める訴を提起し、認容判決を得て、同六一年五月二六日、右各仮登記の本登記手続を了した。

(三) よつて、被控訴人は控訴人楊萬東、同楊京旭に対し、(二)の各賃借権に基づき、本件土地、建物の所有者である控訴人金英圭の控訴人楊萬東、同楊京旭に対する明渡請求権を代位行使して、それぞれ請求の趣旨(主文三項1、2に同じ。)記載のとおり請求する。

三  控訴人金英圭は、公示送達による呼出を受けたが、原審及び当審における本件口頭弁論期日に出頭しない。

理由

一  当裁判所も、被控訴人の控訴人らに対する各賃貸借契約の解除請求及び右各解除の判決が確定することを条件とする各登記の抹消登記請求は、認容すべきものと判断する。その理由は、次に訂正するほか、原判決理由説示(原判決一一枚目裏三行目から同一五枚目裏五行目まで)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一二枚目裏一一行目の「成立に争いのない」から同一三枚目表三行目の「有利に」までを「被控訴人と控訴人楊萬東、同楊京旭の間では、成立に争いがなく、原審証人金敏男の証言により原本の存在が認められ、被控訴人と控訴人金英圭の間では、右金敏男の証言により原本の存在と成立を認める甲第一二号証、右金敏男、原審証人野崎優の各証言によると、昭和五八年六月時点で本件土地、建物を」に、同一三枚目表五行目の「第一ないし第五登記にかかる賃借権」を「第三ないし第五登記にかかる賃借権(以下「本件各賃借権」という。)」にそれぞれ改め、九行目の「金相七、同」を削除する。

2  同一三枚目裏一行目の「土地、建物」から「第五登記の」までを削除し、四行目の「被告」から「これにより」までを「原審及び当審における控訴人楊萬東本人尋問の結果並びに原審における同控訴人本人尋問の結果により」に、九行目の「三月二〇日」を「三月三〇日」にそれぞれ改める。

3  同一四枚目表五行目の「前記第一登記」を「原判決別紙登記目録(一)記載の賃借権設定仮登記」に、七行目の「被告」を「第一審被告」に、七行目から八行目の「前記第二登記」を「同目録(二)記載の賃借権仮登記移転登記」に改める。

4  同一四枚目表一〇行目の「被告らの」から一一行目の「一六一七万円余の」までを「前記認定事実に基づけば、現在においても本件各賃借権の存在により少くとも一〇〇〇万円を下らない」に、同枚目裏二行目の「なるのであるから、抵当権者」を「なつているものと認めることができるから、本件各賃借権が抵当権者である被控訴人」にそれぞれ改める。

5  同一五枚目表四行目の「あるとか、その他解除請求権の濫用にあたる」を「あるなどの」に、五行目の「本件の場合には」から六行目の「各賃貸借における」までを「本件各賃借権は、各登記内容から明らかなとおり、その」にそれぞれ改める。

6  同一五枚目表一〇行目の「したがつて」から同枚目裏一行目までを次のとおり改める。

「なお、控訴人楊萬東、同楊京旭は、被控訴人の本件各賃貸借の解除請求が権利の濫用に当る旨主張するが、実質的な担保価値を上回る融資がされたことは、それだけでは民法三九五条但書に基づく解除請求を不当とする事由に当らない。そして、当審における控訴人楊萬東本人尋問中被控訴人の控訴人金英圭に対する融資が不正貸付であるとの供述部分は、これを裏付ける資料がなく採用できないし、他に被控訴人の控訴人らに対する本件各賃貸借の解除請求を権利の濫用と目すべき特段の事由を見出すこともできない。」

7  同一五枚目裏二行目の「右各賃貸借」を「本件各賃貸借」に改め、三行目の「、本件土地、建物の明渡請求」を削除する。

二  被控訴人の控訴人楊萬東、同楊京旭に対する本件土地、建物の明渡請求について判断する。

1  抵当権は、目的物の交換価値を優先的に把握することを本質とするものであつて、抵当権者は、目的物をみずから占有したり、目的物の使用、収益に干渉する権能を有しないから、目的物が毀損されて交換価値が減少するような特段の事情がある場合は格別、通常の用法に従い占有する第三者に対して、単に占有権原を有しないこと及びその占有により目的物の評価が低下することを理由に、その占有を排除するため、抵当権に基づく物権的請求権として直接その引渡しを求めることも、所有者の有する目的物返還請求権を代位行使して所有者に引渡しを求めることも、できないと解される(なお、民法三九五条但書は、短期賃貸借が抵当権者に損害を及ぼすことを要件にその解除請求を認めた規定であつて、解除後になお目的物を占有する従前の賃借人を排除する簡易な方法としては、別途競売手続における引渡命令が設けられている。)。そうすると、前記特段の事情の認められない本件においては、本件各賃貸借契約の解除を命じる判決が確定することを条件として、抵当権に基づき、所有者である控訴人金英圭に代位して、控訴人楊萬東、同楊京旭に対し本件土地、建物を控訴人金英圭に明渡すことを求める主位的請求は、理由がない。

2  次に、当審における予備的請求原因のうち、本件土地、建物に昭和五六年八月一一日付けで被控訴人主張の賃借権設定請求権仮登記が経由されている事実は、被控訴人と控訴人楊萬東、同楊京旭との間で争いがなく、その余の事実は、成立に争いのない甲第一九ないし第二二号証を総合してこれを認めることができる。

ところで、右に認定したように、抵当不動産につき、抵当権設定と相前後して、抵当債務の不履行があつたときは抵当権者が賃借権を取得することができるとの賃借権設定予約契約が締結され、これを登記原因とする賃借権設定請求権仮登記が経由されたときは、右賃借権設定予約契約及び賃借権設定請求権仮登記の目的は、特段の事情がない限り、抵当権設定登記以後競売申立に基づく差押の効力が生じるまでに対抗要件を具備することによつて抵当権者に対抗することができる第三者の短期賃借権を排除し、それにより抵当不動産の担保価値の確保をはかることにあると解される(最高裁判所昭和五二年二月一七日第一小法廷判決・民集三一巻一号六七頁参照)。控訴人楊萬東及び同楊京旭は、こうした賃借権設定予約契約と仮登記ひいてその予約完結権が行使された場合の賃借権とその本登記はいずれも賃借権としての実体を伴わないものであつて、何らの法的効力を有しない旨主張するけれども、抵当権と併用されるこのような賃借権は、世上いわゆる詐害的短期賃借権が横行している現状に対処するため、前記目的のもとに設定されるものであるから、その限度においてその効力を認めるべきものである。そうすると、本件各賃貸借契約の解除を命じる判決が確定することを条件として、前段認定の賃借権に基づき、本件土地、建物の所有者である控訴人金英圭の控訴人楊萬東、同楊京旭に対する明渡請求権を代位行使して、各その明渡しを求める被控訴人の予備的請求は、右賃借権の目的の範囲内においてその権利を行使するものといえるから、理由がある。

三  よつて、原判決中、控訴人楊萬東、同楊京旭に対し本件土地、建物の明渡しを求める各主位的請求を認容した部分は相当でないから、これを取り消して各その請求を棄却し、右控訴人両名のその余の本件各控訴及び控訴人金英圭の本件控訴はいずれも理由がないから棄却し、被控訴人の控訴人楊萬東、同楊京旭に対する本件土地、建物明渡しについての当審における予備的請求を認容し、訴訟費用(控訴費用を含む)の負担につき民訴法九六条、九五条、八九条、九二条但書を各適用して、主文のとおり判決する。

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