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名古屋高等裁判所 昭和56年(く)1号 決定 1981年1月19日

少年 M・T(昭四〇・一〇・二八生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は、少年の法定代理人親権者父M・K、同母M・M子、付添人弁護士○○○○○共同作成名義の審判抗告申立書及び抗告理由補充申立書にそれぞれ記載されているとおりであるから、ここにこれらを引用する。

一  抗告理由補充申立書中審判手続の法令違反の論旨について、所論は要するに、少年の保護者は、少年の更生への努力と熱意ある協力態度を十分審判に反映させるべき心構えをして原審判期日に臨んだのであるが、保護者のかかる熱意を十分陳述させる機会を与えずに、短時間で原決定に及んだ原審判期日の処置は少年法或いは少年審判規則三五条の各趣旨に反し違法なものである、というのである。

所論にかんがみ関係各記録を調査して検討するに、本件少年保護事件について原審担当裁判官から調査命令をうけた家庭裁判所調査官○○○○は、昭和五五年一二月三日少年の親権者両名から、少年の経歴、素行、本件非行に至る経緯、今後の少年の家庭環境の整備等についてそれぞれ詳細に事情を聴取し、その結果を調査報告書に取纒めて担当裁判官に提出していること、原審担当裁判官は、昭和五五年一二月八日少年及びその保護者両名らの出席を得て審判期日を開き、同期日で少年の保護者両名から前記調査報告書を参酌しつつ少年の環境、家庭での保護能力などを十分聴取したうえ原決定を言渡したことが認められるので、原審判期日の手続に所論の違法の処置は認められない。論旨は理由がない。

二  審判抗告申立書並びに抗告理由補充申立書中処分不当の論旨について、

各所論は要するに、少年を初等少年院に送致した原決定は著しく重い不当な処分であるから、その取消しを求め、在宅保護を希望する、というのである。

よつて少年保護事件記録並びに少年調査記録を調査して検討するに、少年の性格及び行動傾向などに関し原決定書がその処遇選択の理由の項で摘示することは、当審においてもいずれも正当としてこれを肯認することができる。即ち少年は、小学校在学当時父親が転職、怠業などを繰り返して家庭を顧みず、母親も家計を助けるため小料理店に働き少年を放置し、両親の間に喧嘩が絶えなかつた不良の家庭環境に育つたことから本件非行に至る萌芽が生じ、昭和五五年六月二五日恐喝、傷害保護事件で教護院に送致されたが、同院出所後は自暴自棄となり、中学二年在学中から授業放棄、教師に対する反抗、校内暴力、シンナー吸引など勉学不適応状態を繰り返し、中学三年に進学してからはその傾向が一段と顕著になつて担当教師に暴行を加え、本件共犯者らと結びついて通称○○連合という不良団体を結成し、自らその首謀者となつて学校内で傍若無人の振舞を行い、遂に本件非行事実である学校長室、職員室等に乱入し、教職員に対し粉末消火器を噴射し、所携のスチール・パイプなどで同室窓ガラス十数枚を叩き割るなどの所行に及んだものであり、右非行事実も少年が中心となつて敢行したもので、少年の要保護性は益々増大しており、少年の保護者両名もいたずらに学校側を非難攻撃するのみで少年の問題点に関する認識が浅薄であり、その保護能力もすでに限界の域を越えているといわざるを得ないことから考えると、少年の保護者両名がなお住宅保護による少年の更生に熱意を有していることを斟酌しても、少年を初等少年院に送致しその教育指導によつて少年の性癖の矯正を計る必要があると認められるので、これと同旨に出た原決定はまことに相当であつて、その処分が不当に重いとは到底認められない。論旨は理由がない。

よつて、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小野慶二 裁判官 鈴木雄八郎 早瀬正剛)

抗告申立書<省略>

〔参照〕原審(津家四日市支 昭五五(少)一〇九一、一一七六号 昭五五・一二・九決定)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

一 非行事実

少年は、四日市市○○町所在の同市立○○中学校の三学生に在学中であるが、自己が同校の教師らから問題生徒として目を付けられ何かと差別的に扱われているものと邪推して、日頃から教師らに対し不満の念を抱いていたものであるところ、少年と同様に教師らに対して不満を抱いていた同校三年生のA、B、C及びDの四名と共同して、昭和五五年一一月一〇日午後一時一〇分ころ、同校本館一階の校長室、職員室及びその北側廊下などにおいて、こもごも、職員室内の机、椅子などに粉末消火器を噴射し、更に各自所携のスチール・パイプ(椅子脚部)、手箒の柄などを用いて校長室や職員室などの窓ガラス合計一〇数枚を叩き割り、或いは職員室前北側廊下壁に掛けてあつた黒板を上記パイプで叩いて破損するなどし、もつて数人共同して同校校長Eの管理する器物を損壊したものである。

なお、昭和五五年少第一〇九一号虞犯事件の送致事実は、上記非行に現実化されているものとして同非行の要保護性に関する事実として考慮すれば足るので、独立には処分の対象としない。

二 適条

上記認定に係る非行事実は暴力行為等処罰ニ関スル法律一条に該当する。

三 処遇選択の理由

少年は昭和五五年六月二五日恐喝、傷害等保護事件により教護院に送致され、同日○○学園に収容されたが、同年七月四日には同園を脱走し、同月七日一旦帰園したものの、翌八日両親らが県会議員を伴なつて同園を訪れ、学園側の反対を押し切つて強引に少年を連れ帰つた。その後、親族らが少年を引取つて八月中旬まで監護するなどそれなりの指導を試みたものの、少年の逸脱行動を阻止することはできなかつたばかりか、少年自身自認するように、以上のような両親及び親族らの動きには少年の行動及び精神の安定を著しく阻害するなど、少年にとつて有害な面があつたことは否定できない。なお、○○学園退園後の少年の生活状況については、調査官の昭和五五年一二月八日付各調査報告書に詳しいが、少年は連日のように怠学、校則違反、校内暴力、家出、シンナー遊びなどを繰り返すなど著しい学校不適応状態を示しており、二学期に入つてからはこのような少年の状態は更に悪化し、これが同様に学校に適応できないでいる他の共犯者達と結びついて、遂に本件に至つたものであると思われる。

以上の事実によつても少年の非行性は前処分時よりも明らかに深刻化しているものというべく、このことに、少年自身の我まま、自己中心性、自己顕示性、気分易変性などの著しい性格の偏り(更に最近では疎外感や自分自身への嫌悪感などが深まつている。)、両親等に保護能力が乏しくむしろ上記のとおり有害な行動すら見られること、学校教育の枠から既に大きく逸脱してしまつており学校当局もその指導に自信を失つていること等の事情を併せ考えると、調査官が適切に指摘するとおり、もはや「通常の環境では、少年に内面の真の自分に直面させ健全な成育をとげさせることは困難であつて、外部の騒音に攪乱されない内省に適した環境を一時用意し、人格の再構築を図る」必要があるというべく、この際上記処遇をもつて相当と思料する。

よつて少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項を適用して主文のとおり決定する。

昭五五(少)一〇九一号ぐ犯事件の送致事実

少年M・T、A、B、C、Dの五名は昭和五五年一一月一一日午前一〇時ごろ学校の授業を放棄し家出中のもので過去に窃盗、恐喝、傷害等の非行歴を有するほか校内においても校舎に落書したり先生に反抗する等他の生徒に悪影響を及ぼしているもので性格、行状等に問題が強く保護者の正当な監護に服さず将来罪を犯すおそれがあると認められる。

少年調査票

昭和55年(少)第1091号ぐ犯保護事件調査票<省略>

(別紙)

(ぐ犯事実)

一 少年は前件、決定理由記載の如き、要保護性を示していたため、教護院に送致されたが、すぐ逃走し、直後に強い肉身的愛着をもつ親族と、その援助者らの尽力により退園し再登校した。

二 しかし、その直後からの少年の言動はむしろ、不安定さの増大を示し、服装など規則違反、授業放棄、教師の指導に対する露骨な拒否、又反撥などをくりかえし、又、問題行動ある生徒らと仲間となるなど、重い「学校不適応」の症候を示してきた。

三 夏休みの八月一一日にはかねての男、女の仲間と共に、その一人の家でシンナーを吸引、これに陶酔し、その後、その叱嘖を嫌って、小数の仲間と共に、四~五日家出し、暴力団組員の寮に滞在するなどした。

四 二学期になって「学校不適応」は、いよいよ悪化し、教師の指導に対する逃避、又逆に道具を武器にして殴りかかる、物を損壊するなどの状況を示すようになり、又、校外生との交友なども問題視された。

五 その様な周囲の注視を嫌つて、九月九日の晩、所在不明となり、翌日どこかへ行こうとして駅に立寄つた所を父親に保護された。

六 九月一九日の体育祭当日には出場せず運動場の片隅で独りシンナー吸引に逃避した。

七 一一月八日たまたま、教師の注意に反撥した仲間のAの興奮に端を発し、同日及び翌一一月九日少年方に於て、少年及びAほか三名の生徒が共に、一一月一〇日月曜日に職員室であばれること、その後家出することを、少年が主導的に示唆して、計画準備し、同日、少年は職員室に消火器を噴射し、又ガラスを割り、その後、大阪の知人方へ家出し、一旦、全員保護者に保護され、四日市に戻つたものの、補導をきらつて、再び家出放浪中保護された。

八 その間、保護者及び監督を期待された親族は稍力及ばぬ点はあつたものの、少年の逸脱行動を強くいましめ、時には懲戒を加えるなど相応の指導を心がけていたが、少年の仲間への親和性が強く、又、逸脱行動への感染が、深かつたものである。

(所見)

一 以上の行状は、少年法第三条第一項三号イ、ロ、ハの各事由に該当し、少年の資質、環境に照らして将来罪を犯し、又、刑罰法令に触れる行為をする虞があるものと考えられる。

二 少年の「学校不適応」は単なる、反射的な行動の域よりずつと深く本人の内面に根ざすものとなつており、一寸した刺激にすぐ反撥し、又、追いこまれ容易に家出放浪や、シンナー吸引などの自棄的行為や武器を手にして、物(又は人)を損傷する様な破壊的な欲求不満解消行動に走り易い身構えとなつており、通常の環境では(例えば転校など仮にあつたとしても)内面の真の自分に直面し、心優しい人間的な一面を成長させ、健全な成育をとげることは困難であつて、外部の騒音に攪乱されない内省に適した環境を一時用意し、人格の再構築をはかることが望ましい。

以上

鑑別結果通知書<省略>

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