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名古屋高等裁判所 昭和54年(行コ)10号 判決 1980年11月05日

控訴人 栄町商店街振興組合 ほか一名

被控訴人 通商産業大臣

代理人 小出正行 ほか一二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人らは、「原判決を取消す。本件を名古屋地方裁判所に差戻す。訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人らの主張)

大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律(昭和四八年法律第一〇九号)(以下「法」という。)三条に規定する表示及び公示はその内容として大規模小売店舗の周辺の中小小売業者を名宛人としてなされるものであるから、当該店舗開設者からの届出もなく、被控訴人においても職権を発動しない場合には、周辺の中小小売業者は表示及び公示についての申請権を有するものと解すべきである。従つて、控訴人らのした申請は法令に基づく申請というべきである。

(被控訴人の主張)

法三条に規定する表示及び公示は、当該建物における小売業の事業活動について将来本法による調整が行なわれることがあり得ることを関係者に周知せしめる目的でなされる事実上の行為であつて、いわゆる行政処分には当らない。のみならず、それは特定人に向けられた性質のものではなく、それによる規制の対象者という意味では、むしろ、本法により特定の義務が課せられる大規模小売店舗開設者及び本法による調整の対象とされる右店舗内の小売業者であつて、周辺の中小小売業者ではない。さようなわけで、しよせん周辺の中小小売業者に表示及び公示について申請権があると解することはできない。

(証拠) <略>

理由

一  行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)三七条によれば、不作為の違法確認の訴えは、処分又は裁決についての申請をした者に限り、提起することができるとされているところ、法三条三項に基づく表示及び公示は、まず、右にいう処分(又は裁決)に該当しない。けだし、右の各行為は、被控訴人のいうとおりの目的・性質をもつものであつて、これら行為によつて特定個人の権利義務に直接に何らかの影響を与えるものではないからである(公示に伴い当該建物における一定期間内の営業開始の制限や各種届出の義務などの効果が生ずるが、これらは法が特に付与した公示に伴う附随的な効果に過ぎない。)。

二  のみならず、前記行訴法三七条の「申請」とは、同法三条五項の「法令に基づく申請」をいうところ、法の規定の明文上もその解釈上も控訴人らに表示及び公示についての申請権を認めることができないことは、原判決理由に説示するとおりであるからその記載を引用する(もつとも、原判決一四枚目表末行目から裏初行目にかけて「同法の解釈によつても、また、条理によつても」とあるを、「同法の規定の明文上もその解釈上も」と改め、同一四枚目裏二行目から八行目にかけてのかつこ書き部分を削り、同一五枚目表四行目に「法令上も、ないし、条理解釈上も」とあるを、「法の規定の明文上もその解釈上も」と改める。)。この点に関する控訴人らの当審での主張は、叙上説示に照らしとうてい採用の限りでないことは明らかである。

そうすると、控訴人らの本件訴えはいずれにしても適法要件を欠くものとして却下を免れないものといわなければならず、これと結局同旨に出でた原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三和田大士 浅野達男 寺本栄一)

【参考】第一審判決

(名古屋地裁昭和五三年(行ウ)第二二号昭和五四年七月一六日判決)

主文

原告らの訴えをいずれも却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一申立

(原告ら)

被告が原告らの昭和五三年八月二九日付申請に対して別紙目録記載の建物につき大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律(昭和四八年法律第一〇九号)第三条第三項に基づく同条第一項第二項の例による表示及び公示をしないことは違法であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求めた。

(被告)

主文と同旨の判決を求めた。

第二主張

(原告ら)

請求原因

一、原告らは、商店街振興組合法に基づく法人であり、いずれも別紙目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の周辺の中小小売業者を組合員とし、いずれも組合員の取扱品の販売、購買、保管、運送に関する共同事業、組合員の事業に関する経営及び技術の改善向上等に関する事業、組合員の事業の発展に資するためにする組合の地区内の土地の合理的利用に関する計画の設定及びその実施について組合員に対する助言、その他右各事業に附帯する事業を目的とするものである。そして、原告各組合の地区範囲は、原告栄町商店街振興組合は主として本件建物の南西側地域であり名古屋市中区栄二丁目、栄三丁目、錦二丁目、錦三丁目の各一部を地域とし、原告東新商店街振興組合は主として本件建物の東南地域であり、名古屋市中区新栄町一丁目、新栄二丁目、新栄三丁目、中区岩井通、中区武平町の各一部を地域とするものである。

二、本件建物は、訴外株式会社セントラルパークが建築し、竣工も間近いものである。

同訴外会社は、本件建物への各種物品販売業等の出店者を募り本件建物を小売業を営むための店舗の用に供しようとしているものである。

三、ところで、大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律(昭和四八年法律第一〇九号)(以下「法」という。)によれば、一つの建物であつてその建物内の店舗面積の合計が一、五〇〇平方メートル(都の特別区及び地方自治法第二五二条の一九第一項の指定都市の区域内においては三、〇〇〇平方メートル。以下「基準面積」という。)以上であるものの新設をする者は、その建物の見やすい場所に通商産業省令で定めるところにより表示を掲げるとともに、通商産業省令で定める事項を被告に届け出なければならない(法第三条第一項)。名古屋市における基準面積は、三、〇〇〇平方メートルである。被告は、右の規定による届け出があつたときは、通商産業省令で定めるところにより、その届け出に係る建物における小売業の事業活動について調整が行われることがある旨の公示をしなければならないのである(法第三条第二項)。

四、本件建物が法第三条第一項(なお第八項)所定の建物に該当することは明らかであるので、訴外株式会社セントラルパークは、法第三条第一項の表示を掲げるとともに被告に対し所定の届け出をする義務がある。しかるに、右訴外会社は、右表示を掲げずまた所定の届け出もしていない。したがつて、被告も、法第三条第二項による公示をしていない。

五、しかして、被告は、法第三条第一項に規定する建物について同項の規定による届け出がない場合において、必要があると認めるときは、その建物につき前二項の規定の例により表示及び公示をすることができる(法第三条第三項)。

六、法は、消費者の利益の保護に配慮しつつ、大規模小売店舗における小売業の事業活動を調整することにより、その周辺の中小小売業の事業活動の機会を適正に確保し、小売業の正常な発達を図ることを目的とするものである。

即ち、大規模小売店舗に入居する小売業者が周辺の中小小売業者に対して競争条件が優位に立つこととなり、これを放置すると周辺中小小売業者が経営難に追い込まれ、それが小売業者全般の秩序を混乱に陥し入れるおそれがあるので法はこれら大規模小売店舗の周辺の中小小売業の事業活動の機会を適正に確保し、小売業の正常な発達を図ることを直接的な目的として大規模小売店舗における小売業の事業活動を調整することとし、併せて、一般消費者利益の保護にも資せんとするものである。

七、果してそうだとすると、本件建物によつて原告らの組合員たる周辺の中小小売業者が甚大な影響を受けることは自明の事実、公知の事実というべきであり、かかる場合、株式会社セントラルパークが、法第三条第一項所定の表示及び届け出をしないのであれば、被告はむしろ法第三条第三項によつて、表示及び公示をしなければならないものというべきである。

八、そこで、原告らは、やむなく、昭和五三年八月二九日被告に対し「大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律第三条第三項に基づく表示及び公示を求める件」と題する書面を提出し、被告に職権で右表示及び公示をなすよう申請した。

しかるに、被告は相当期間を経過するも、右表示及び公示をしない。

九、法第三条第三項に基づく表示及び公示は、行政事件訴訟法第三条第一項の「行政庁の公権力の行使」に該当し、同条第五項、第三七条の「処分」に該当する。即ち、法第三条第三項の表示及び公示は、行為規範としての要件法規に基づいてなされるものであり、建物の新設者が同条第一項に違反して届出をしないときは、被告において必ず職権で表示及び公示をしなければならないものと解すべきである。

表示及び公示がなされた場合には、法的効果として、被告の法第三条一項該当の大規模小売店舗であるとの認定(法第二条第二項)、公示後六月内の小売営業の禁止(法第四条第一項)、小売営業開始の届出義務(法第五条第一、二項)、開店日繰上げの届出義務(法第六条第一、三項)、その他、閉店時刻及び休業日数(法第九条)、氏名等の変更(法第一二条)、承継(法第一三条)の各届出義務を発生せしめる。

一方、被告側においても、法第七条によりその周辺の中小小売業の事業活動に対し影響を及ぼすおそれがあるかどうかを審査し、そのおそれがあると認めるときは、大規模小売店舗審議会の意見をきいて、届出にかかる開店日の繰り下げ、又は店舗面積を減少すべきことを勧告をすることができ、法第五条第一項等の届出があつたときは商工会議所等にその内容を通知しなければならない(法第一五条)。また、公示があつた場合、所定の届出等を怠つたり違反したときは、刑罰が科せられる(法第一九、二一条)。これらはいずれも表示及び公示に伴う法的効果である。

表示及び公示は、法における調整に関する一連の手続の一環をなすものではあるが、一連の手続の前提要件として手続を次の段階に進めるという法律上の効果を有しているのであるから、行政処分性が否定されるものではない。そして、表示及び公示は、直接特定の個人に向けられると同時に、周辺の中小小売業者及び一般消費者に向けられた処分である。なお、表示及び公示は、事実行為としては二つになるが、法的には「表示及び公示」という「公示」処分と見るべきである。

以上のように、表示及び公示は行政処分である。

一〇、原告らが昭和五三年八月二九日被告に対してなした前記申請は、行政事件訴訟法第三条第五項にいう「法令に基づく申請」に該当する。即ち、法令上に申請制度が明記されていない場合であつても、現行法制の条理解釈として、国民が処分決定を求めうる申請制度が存すると認められる場合がある。大規模小売店舗となるべき建物の新設者が故意に表示及び届出をせず、他方、被告は当該建物が大規模小売店舗であることを熟知しながら或いはこれを認識すべきであるのに認識せず、怠慢によつて、適宜の行政指導をせず、更に故意に公権力の適正な行使をせず、表示及び公示をしない場合において、大規模小売店舗の出現によつて甚大な影響を蒙る周辺の中小小売業者たる原告らは、これを拱手傍観、坐視すべきものであろうか。法第三条第三項の規定文言は、「必要があると認めるときは、………表示及び公示をすることができる。」となつているが、いやしくも行政庁の公権力の発動はいかなる場合にも被告の完全な自由裁量ないし恣意に委ねられているものではない。被告又はその職員は、法第一六条によつて、報告させる権限や立入検査権を行使することができる。そして、当該建物が法第三条第一項の大規模小売店舗に該当し、かつ、あらゆる行政指導によつても当事者がその表示及び届出をしない場合には、被告は必ず表示及び公示をしなければならないものと解すべきである(これに反すれば、裁量権の逸脱ないし濫用として違法となる。)。

そうであるのに、被告がなお恣意によつて表示及び公示をしない場合には、ここに、周辺の中小小売業者たる原告らに、表示及び公示を被告に求める申請権が、条理上、解釈上認められるべきである。これは「法令に基づく申請」であるから、被告には応答義務がある。

一一、しかるに、被告は原告らの右申請に対して相当期間経過するも法第三条第三項に基づく表示及び公示をしないのであるから、被告の右不作為は違法である。

よつて、原告らは、被告に対し、行政事件訴訟法第三条第五項の「不作為の違法確認の訴え」として、被告の右不作為が違法であることの確認を求める。

(被告)

本案前の抗弁

一 法第三条第三項所定の表示及び公示は、抗告訴訟の対象となる行政処分に該当せず、行政事件訴訟法第三条第五項の不作為の違法確認の訴えの対象となるものではない。即ち、右の各行為は、法に基づく大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する一連の手続の一環をなすものであるが、それ自体は、単に当該建物における小売業の事業活動について将来調整が行われることがあり得ることを、当該建物において小売業を営もうとする者や、周辺の中小小売業者をはじめ広く一般に周知せしめる目的でなされる行為であり、このうち「表示」は、法施行規則第三条の定める様式に従い当該建物に大規模小売店舗である旨の表示を掲げることによつて、公示の公知力が現実には不十分であることにかんがみ、これを補うという事実上の効果を持つものに過ぎない。

また、「公示」は、右規則第五条の定めるところに従つて、官報に公示して行うものであり、公示に係る建物が法にいう大規模小売店舗となる(法第二条第二項)ことから、法による調整を行うための前提となる行為ではあるが、それにとどまるものであつて、具体的に調整が行われるか否か、またそれがどのような内容となるかは、法第七条等の定める手続を待つほかはない。もつとも、公示に伴い、一定期間内の営業開始の制限、各種届出の義務など一定の効果が生ずるが、これらの制限や義務は、いずれも、法に基づく調整を円滑に遂行する等の必要に基づいて法が特に付与した公示に伴う附随的な効果にとどまるものであつて、公示そのものの効果として特定個人の具体的権利に直接変動を生ぜしめるものではない。また、「表示」は、何ら法的効果を伴うものではない。

要するに、表示及び公示は抗告訴訟の対象となる行政処分ではないから、本件訴えは不適法である。

二 法第三条第三項に基づく表示及び公示は、行政庁が法令に基づく申請に対してなすべき行為に該当せず、従つて、行政事件訴訟法第三条第五項の不作為の違法確認の訴えの対象となるものではない。即ち、不作為の違法確認の訴えにおいては、申請者の法令に基づく申請がなされたことを要するところ、法第三条の規定は、表示及び公示が、第一次的には、建物新設者の届出に基づいてなされるものである(第一、二項)が、第二次的に、届出がない場合は被告の職権でなされる(第三項)旨を定めたものであつて、原告らのような周辺中小小売業者について、表示及び公示に関する申請権を認める明文の規定はないうえ、これを解釈上認めるに足りる条文上の手がかりもなく、従つて、原告ら主張のような申請権を認める余地は全くない(原告らがその主張の日時にその主張のような内容を有する書面を被告に提出したことは認めるが、右書面は、法令に基づく申請ではなく単に職権発動を促す行為に過ぎないから、被告はこれに対し応答義務を負わない。)。

要するに、原告らに法第三条第三項の表示及び公示をなすことを申請することは、法令上認められておらず、表示及び公示は法令に基づく申請に対してなすべき行為に該当しないのであるから、本件訴えはこの点においても不適法である。

第三証拠 <略>

理由

一 原告らの本件訴えは行政事件訴訟法第三条第五項に定める不作為の違法確認の訴えとして提起されているところ、同条項に定める不作為の違法確認の訴えの対象となる行政庁の不作為は、法令に基づく申請に対する行政庁の不作為のみであり、法令に基づかない申請に対する行政庁の不作為は、右の訴えの対象とはならない。即ち、不作為の違法確認の訴えにおいては、申請者に法令上の申請権があり、従つて当該行政庁にこれに対する法令上の応答義務がある場合にのみ、その不作為について違法性の有無が審判の対象とされ得るのであつて、そもそも、申請が法令に基づくものでない場合には、当該行政庁に応答義務がないのであるから、裁判所において当該行政庁の不作為について違法性の有無を審判すべき余地はないのである。

二 そこで、大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律第三条第三項に基づく表示及び公示について、原告ら(<証拠略>によれば、原告らは、周辺小売業者を構成員として原告ら主張のような事業を営む商店街振興組合法に基づく法人であることが認められる。)がその申請権を有するか否かについて検討する。

(一) 同法は、消費者の利益の保護に配慮しつつ、大規模小売店舗における小売業の事業活動を調整することにより、その周辺の中小小売業の事業活動の機会を適正に確保し、小売業の正常な発達を図り、もつて国民経済の健全な進展に資することを目的とするものであり(同法第一条)、同法第三条第一二項によれば、基準面積以上の建物(ただし、昭和五三年法律第一〇五号大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律及び小売商業調整特別措置法の一部を改正する法律の施行期日である昭和五四年五月一四日以降においては店舗面積の合計が五〇〇平方メートルを超える建物。以下同じ。)の新設をする者は、所定の表示を掲げるとともに所定事項を通商産業大臣(ただし、昭和五三年法律第一〇五号前記法律の施行期日である昭和五四年五月一四日以降においては通商産業大臣又は都道府県知事。以下同じ。)に届け出なければならず、通商産業大臣は、右の届出があつたときは、その届出に係る建物における小売業の事業活動について調整が行われることがある旨の公示をしなければならない旨を規定し、同条第三項によれば、通商産業大臣は、基準面積以上の建物について右の届出がない場合において、必要があると認めるときは、その建物につき前二項の規定の例により表示及び公示をすることができる旨を規定している。

即ち、同法は、その目的を達成するため、大規模小売店舗における小売業の事業活動に関する調整手続を設定し、その一環として表示及び公示に関する手続を規定するところ、同法第三条第一、二項は、基準面積以上の建物を新設する者からの届出に基づいて公示をすることをもつて本則とするものであるが、同条項が存在するのみでは、建物を新設する者が届出義務に違反した場合に、公示をする方策がなく、大規模小売店舗における小売業について調整が行えなくなるという不都合が生ずるので、これを補うため、通商産業大臣の職権による公示の制度を規定する同条第三項が設けられており、同大臣は、法第一六条の規定により立入検査を実施する等により当該建物における店舗面積が基準面積を超えているか否かを検査する権限を有している。

ところが、同法には、第三条第三項による表示及び公示につき第三者に申請権を認める規定ないしはこれを窺わせるに足りる規定は全く存在しない。

(二) このような同法の構成からみれば、同法第三条第三項の場合には、もつぱら表示及び公示を通商産業大臣の職権発動に委ねることによつて同法の目的を十分達成できるものとし、申請制度までは置かない法意であると理解すべきである。(なお、昭和四九年二月二八日付四九産局第一二四号通商産業省産業政策局長発各通商産業局長及び沖繩総合事務局長宛通達によれば、同法第三条第三項の表示及び公示につき、同法第三条第一項に規定する建物であつて大規模小売店舗の表示及び届出がなされていないものを発見したときは、直ちに同法第三条第一項に基づく表示及び届出を行うよう指示すること、上記指示がなされた日から七日以内にその指示に従う旨の回答がない場合は、直ちに職権により表示を行うとともに、本省に対し、様式第一の公示案により官報掲載手続を依頼することを命じている。)

そうすれば、同法の解釈によつても、また、条理によつても、右のような申請権ないし申請制度を認めることはできない。(もつとも、あまた存する行政手続の中には、申請に関する明文の規定が存在しなくても解釈上申請権を認めるべき場合のあり得ることは事実であるが、このような解釈が許されるのは、当該手続の構成の全体からみて申請行為を不可欠当然の前提として予定している場合に限られるべきである。しかるに、本件における表示及び公示の手続が右のような場合に該当しないことはその手続の構成上明らかである。)

もとより、同法第三条第三項に規定する通商産業大臣の職権発動は同法第一条の立法趣旨にかんがみ厳正に行われることが要請されることは多言を要しないけれども、法が右通商産業大臣による職権発動という形態による後見的機能を果たさせることを以つて十分と考え、申請制度を設けなかつた以上は、立法論としてはとにかく、現行法上は第三者である原告らに、法令上も、ないし、条理解釈上も、申請権を認めることは到底できない。

これに反する原告らの主張は採用できない。

三 従つて、原告らが昭和五三年八月二九日被告に対してなした原告ら主張のとおりの内容を有する書面提出行為(この事実は当事者間に争いがない。)は、単に職権発動を促す行為と評する外なく、法令に基づく申請ということはできないから、これに対する被告の不作為は、不作為の違法確認の訴えの対象としての資格を欠くもので、これを対象とする本件訴えは不適法である。

四 よつて、原告らの本件訴えは不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本武 浜崎浩一 山川悦男)

目録 <略>

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